説明

菌糸体培養抽出物の製造方法及び菌糸体培養装置

【課題】より短期間で菌糸体培養抽出物を得ることができ、且つ、種々の植物繊維質原料に適用可能な菌糸体培養抽出物の製造のための技術を提供する。
【解決手段】植物繊維質原料を含む固体培地に担子菌の菌糸体を接種し、前記菌糸体を接種した固体培地を、落下及び上昇の繰り返し運動を該固体培地に付与することにより攪拌した後、又は攪拌しつつ、前記菌糸体が生育する培養環境下に保持し、得られた培養物から培養抽出物を得る。前記菌糸体培養抽出物の製造は、固体培地及び担子菌の菌糸体を投入するための投入口と、該投入口を密閉するための蓋と、空気を流通させる通気孔とを有する培養容器と、前記培養容器を水平又は傾斜した回転軸により回転させる回転手段とを備えている菌糸体培養装置により、好適に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌糸体培養抽出物の製造方法及び菌糸体培養装置に関し、より詳しくは、固体培地を用いて椎茸、マンネン茸等の担子菌の菌糸体を培養し、その培養抽出物を得る方法及び培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
担子菌の菌糸体の培養には、大別して液体培養法と固体培養法とがあるが、液体培養法には、培養期間が短いこと、純粋培養条件が保たれやすく管理が容易であること等の利点がある。これに対し、固体培養法は、バガス、小麦ふすま、米糠等の植物繊維質原料を含有する固体培地に菌糸体を接種して、子実体の形成前に培養を止めてその菌糸体を得るというものであり、培養管理に手間がかかり培養期間も長くなるが、この固体培養法によれば、より自然条件に近い生育を経た菌糸体が培養できることや、用いられた固体培地にも植物繊維質原料に由来する成分が含まれ、これを共に抽出することができるという点などに特有の利点がある。
【0003】
固体培地を用いた担子菌菌糸体培養抽出物の製造は、一般に次の工程からなる。すなわち、(i)元になる菌糸体(いわゆる種菌)の培養、(ii)種菌の、固体培地への接種、(iii)固体培地上での培養、および培地の熟成、(iv)熟成した培地から抽出する工程である。
【0004】
このうち、固体培地上での培養および培地の熟成には、通常4ヶ月程度の長期間を要し、全工程の大部分の日数を占める。これは、固体培地上での菌糸の生育が、(i)固体培地表面での菌糸の伸長、(ii)同培地内部への菌糸の浸潤、(iii)培地全体への蔓延、(iv)菌糸体の被膜形成および成熟(子実体、キノコの発生直前の状態)といった多くの段階を経る必要があり、かつ各段階も緩やかに進むためである。また、培地の熟成についても、(v)伸長、浸潤先での、菌糸体による培地成分の分解と消費、(vi)これらの適度な平衡化という段階を踏む必要がある。これらを経て、培地のpHが低下していくと同時に、水溶性成分が増加していき、培養培地の熟成が達成される。このことは製造期間の長期化を招き、コストが高くなる原因の一つとなっていた。また、これらの熟成は、菌糸が接種された限られた部位から順次行われていくため、培養培地全体では部位による熟成度の差が生じ易く、製造および品質管理上も問題となっていた。更に、培養日数の長期化は、その間の雑菌汚染のリスクを高くする等、産業上は極めて不利な要因となっていた。
【0005】
固体培地上での培養期間を短縮する方法としては、下記特許文献1に、特定の材質のプラスチックフィルムよりなる培養袋を用いて椎茸菌を培養し、従来よりも短期間で熟成させる方法が記載されている。また、下記特許文献2には、液体培養と固体培養を順次行って種菌を培養し、従来よりも短期間で椎茸を熟成、収穫する方法が記載されている。更に、下記特許文献3には、霊芝菌糸体を固体培養するにあたり、バガスを基材とする培地全体にかえて籾殻を原料とする固体培地を用いることにより、培地全体に霊芝菌糸体を繁殖させるのに30日〜45日間の短い期間で繁殖させることができることが記載されている。
【特許文献1】特開平08−172906号公報
【特許文献2】特開平08−228593号公報
【特許文献3】特開平07−79738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1や特許文献2の方法は、いずれの場合も担子菌類の子実体を得ることを目的にしており、菌糸体の培養期間の短縮に寄与する技術ではなかった。また、上記特許文献3の方法によれば、籾殻を原料とする固体培地に限定されるため、菌糸体成分とともに用いられた固体培地の植物繊維質原料に由来する成分をも含む菌糸体培養抽出物を得るにあたり、バガス等の他の植物繊維質原料に応用することができないという問題があった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、菌糸体培養抽出物製造のための技術であって、より短期間で菌糸体培養抽出物を得ることができ、且つ、種々の植物繊維質原料に適用可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、担子菌の菌糸体を固体培地に接種した後にタンク等の培養容器の中で攪拌する簡便な処理により、意外にもその後の培養期間を顕著に短縮できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の菌糸体培養抽出物の製造方法は、植物繊維質原料を含む固体培地に担子菌の菌糸体を接種し、前記菌糸体を接種した固体培地を、落下及び上昇の繰り返し運動を該固体培地に付与することにより攪拌した後、又は攪拌しつつ、前記菌糸体が生育する培養環境下に保持し、得られた培養物から培養抽出物を得ることを特徴とする。
【0010】
本発明の菌糸体培養抽出物の製造方法によれば、接種した担子菌の付着箇所を固体培地の全体にいきわたらせることができるので、前述した菌糸の生育に要する各段階のうち、(i)固体培地表面での菌糸の伸長について、一方向ではなく多方向から行わせることができ、(ii)培地内部への菌糸の浸潤について、同時に行わせることができ、(iii)培地全体への菌糸の蔓延を、速やかに達成させることができる。そして、その結果、培地pHの低下および水溶性成分(抽出物中の固形分)の増加を効率よく行わせて、培養期間を従来の半分程度まで短縮させることができる。更に、培地の熟成が全体に均一に進行するので、培養状況の把握、あるいは最終製品の品質予測の容易さなどの点で、製造管理上および品質管理上非常に都合がよい。
【0011】
本発明の菌糸体培養抽出物の製造方法においては、前記菌糸体を接種した固体培地を培養容器に入れ、該培養容器を回転させることにより、落下及び上昇の繰り返し運動を該固体培地に付与することが好ましい。これによれば、効率よく落下及び上昇の繰り返し運動を固体培地に付与することができ、固体培地の全体に担子菌の付着箇所をいきわたらせることができる。
【0012】
本発明の菌糸体培養抽出物の製造方法においては、前記植物繊維質原料が、禾本科植物から調製されたものであることが好ましい。
【0013】
また、前記植物繊維質原料が、バガス、トウモロコシの茎葉、小麦ふすま、米糠、稲藁、籾殻、茅、熊笹、及び竹から選ばれた1種又は2種以上から調製されたものであることが好ましい。
【0014】
更に、前記担子菌が、マンネン茸、ブクリョウ、コフキサルノコシカケ、カワラ茸、椎茸、ヒラ茸、マイ茸、エノキ茸、シメジ茸、ヤマブシ茸、及びアガリクスから選ばれたものであることが好ましい。
【0015】
一方、本発明の菌糸体培養装置は、固体培地及び担子菌の菌糸体を投入するための投入口と、該投入口を密閉するための蓋と、空気を流通させる通気孔とを有する培養容器と、前記培養容器を水平又は傾斜した回転軸により回転させる回転手段とを備えていることを特徴とする。
【0016】
本発明の菌糸体培養装置によれば、固体培地及び担子菌の菌糸体を投入して培養する培養容器と、これを回転させる回転手段とを備えているので、前記の菌糸体培養抽出物の製造方法に好適に用いることができ、そのスケールアップも容易である。
【0017】
本発明の菌糸体培養装置においては、前記回転手段は、前記培養容器を取り外し可能且つ回転可能に支持する支持台と、前記支持台に設けられ、前記培養容器の側面に転接し該培養容器を支持する複数の回転ローラと、前記培養容器の側面に転接する少なくとも一の前記回転ローラを回転させる駆動装置とで構成されていることが好ましい。
【0018】
これによれば、固体培地及び担子菌の菌糸体を投入した培養容器を複数の回転ローラが支持する構造であるので、該培養容器を簡易に回転手段から取り外すことができ、滅菌、培養、抽出のために設けられた場所に移すのに都合がよい。
【0019】
本発明の菌糸体培養装置においては、前記培養容器が、略円筒形の培養容器であることが好ましい。これによれば、回転ローラを介した回転力の伝達に適している。
【0020】
また、前記培養容器の前記通気孔の外気側には、脱着ノズルが備えられており、該脱着ノズルに更に管状の通気管が取り付けられていることが好ましい。これによれば、適宜に、担子菌の生育のための通気を行うことができる。
【0021】
更に、前記培養容器は、加圧滅菌の処理が可能とされた培養容器であることが好ましい。これによれば、固体培地を培養容器へ投入した後、まとめて滅菌できるので、雑菌のコンタミを防ぐことができ、培養容器への投入の操作を無菌的に行う必要がないので、作業性の面でも都合がよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の菌糸体培養抽出物の製造方法によれば、従来の製造方法と比較して、より短期間で担子菌菌糸体培養抽出物を得ることができる。また、培地の熟成が全体に均一に進行するので、培養状況の把握や最終製品の品質予測が容易となる。
【0023】
一方、本発明の菌糸体培養装置によれば、本発明の菌糸体培養抽出物の製造方法に好適に用いることができ、そのスケールアップも容易である。また、培養容器としてタンク様、かつ加圧滅菌可能なものを用いる場合には、作業性よく培地の充填や種菌の接種を行うことができるので、雑菌汚染のリスクについてもその低率化が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の菌糸体培養抽出物の製造方法は、植物繊維質原料を含む固体培地に担子菌の菌糸体を接種し、前記菌糸体を接種した固体培地を、落下及び上昇の繰り返し運動を該固体培地に付与することにより攪拌した後、又は攪拌しつつ、前記菌糸体が生育する培養環境下に保持し、得られた培養物から培養抽出物を得るものである。
【0025】
本発明に用いられる担子菌に特に制限はなく、例えば、マンネン茸、ブクリョウ、コフキサルノコシカケ、カワラ茸などの薬用茸や、椎茸、ヒラ茸、マイ茸、エノキ茸、シメジ茸、ヤマブシ茸、アガリクスなどの食用茸など各種のものが挙げられる。これらの担子菌を液体培養、または固体培養等の適当な方法であらかじめ培養しておき、菌糸体(接種用の種菌)として使用することができる。
【0026】
本発明に用いられる植物繊維質原料としては、リグニンを含有する植物から調製されたものが好ましく用いられる。リグニンを含有する植物として、禾本科植物、例えばバガス(さとうきびの搾り粕)、トウモロコシの茎葉、小麦ふすま、米糠、稲藁、茅などが好ましく用いられる。この他に、熊笹、竹、籾殻なども使用できる。特に好ましくは、バガス、熊笹の茎葉、とうもろこしの茎から選ばれた少なくとも1種と、米糠とを含む培地が用いられる。また、必要に応じて他の栄養成分として、酵母エキス、乾燥酵母、クロレラ、スピルリナ、コーンミール、おからなどを添加混合してもよい。
【0027】
本発明に用いられる固体培地としては、上記植物繊維質原料80〜90%と、他の栄養成分20〜10%を配合し、水分が60〜80%となるように調製したものを用いることが好ましい。また、固体培地への雑菌のコンタミを防ぐために、常法に従い高圧蒸気滅菌を施されたものであることが好ましい。滅菌は、固体培地を培養容器に充填した後、培養容器ごと高圧蒸気滅菌を行ってもよく、又は、滅菌済みの固体培地を、あらかじめ滅菌処理を施した培養容器に、クリーンルームなどの中で無菌的に充填してもよい。
【0028】
本発明の菌糸体培養抽出物の製造方法においては、上記植物繊維質原料を含む固体培地に上記担子菌の菌糸体を接種する。具体的には、例えばタンク様の培養容器で培養を行う場合、固体培地の充填および滅菌が完了した後に、無菌性を保つために適した方法によりタンク内に菌糸体を添加する。その際、種菌として液体培養した菌糸体を用いる場合であれば、培養液に分散させた状態で、タンクに設けられた通気孔等を利用して無菌的にタンク内に添加することにより行うことができる。また、種菌として固体培養した菌糸体を用いる場合にはクリーンルーム内で、適量を直接タンク内に投入することにより行うことができる。
【0029】
本発明の菌糸体培養抽出物の製造方法においては、上記菌糸体を接種した固体培地を、落下及び上昇の繰り返し運動を該固体培地に付与することにより攪拌する。
【0030】
攪拌は、例えば、上述のようにして担子菌の菌糸体で植菌された固体培地をタンク様の培養容器に入れてこれを回転させて、固体培地にその回転力を伝えることにより行うことができる。この場合、担子菌の付着箇所を効率良く固体培地の全体にいきわたらせるためには、培養容器容量に対する固体培地の比率は5〜80%であることが好ましく、10〜50%であることがより好ましい。また、培養容器への固体培地の充填量については、上記攪拌に要するスペースが確保できればよいので、培養容器の容量を変更するだけで、培養のスケールアップを容易に行うことが可能である。
【0031】
上記培養容器としては、好ましくはステンレス材質のものを用いるが、培養期間中に密閉状態を保つことができ、かつ適当な通気を行うことができるように通排気管などが具備されているものが好ましい。逆に、これらの条件さえ満たすものであれば、ドラム缶などの安価な機材を用いることもできる。
【0032】
落下及び上昇の繰り返し運動を固体培地に付与することにより攪拌する方法に特に制限はなく、タンク様の培養容器を回転させる場合には、専用の回転台等を用いて、およそ5〜30 rpmの回転数で回転させればよい。また、回転による方法以外にも、例えばドラム缶様の培養容器にドラムクリッパーを装着したフォークリフトなどにより上下動させる方法などで行うこともできる。更に、無菌的に攪拌棒を挿入して、内部から攪拌することも可能である。攪拌に際しては、タンク様の培養容器の内壁に、バッフルプレート(いわゆるじゃま板)を取り付けて、攪拌効率を高めることもできる。
【0033】
担子菌の付着箇所を固体培地の全体にいきわたらせるための攪拌の完了後、担子菌の菌糸体が生育する培養環境下に保持し培養する。例えば温度が18〜25℃に管理された培養室で50日前後培養する。培養期間中は、培養容器を静置し、または適宜回転を与えて培養を行う。また、適宜、通気しながら培養してもよい。こうして菌糸体が蔓延した菌糸体培養物を得ることができる。
【0034】
培養終了後、得られた培養物から培養抽出物を得る。その際、好ましくは、菌糸体に内在する酵素を利用して菌糸体を自己消化させると共に抽出を行う。その方法の好ましい一例としては、培養が終了した菌糸体培養物を破砕し、必要に応じて少量の水を加え、30〜60℃で3〜6時間処理し、菌糸体の酵素反応を進め、自己消化させる。次いで、この破砕物を50℃以上の温水又は熱水に浸潤させ、有効成分を抽出する。抽出は、例えば1.2Kg/cmの蒸気圧下で120℃というような加圧高温下で行うこともできる。
【0035】
なお、培養が終了した培養物の破砕は、培地を培養容器から取り出さずに、培養容器内で破砕し、そのまま抽出工程に移行してもよい。
【0036】
こうして得られた抽出懸濁液を、好ましくは濾過または遠心分離して濾液又は上清を採取することにより、培地の分解物、菌糸体の代謝産物及び菌糸体細胞の分解物などを含む菌糸体培養抽出物を得ることができる。本発明の製造方法により得られた菌糸体培養抽出物は、以下の実施例で示すように、従来の製造方法で得られていたものと同等の成分を含有する。
【0037】
一方、本発明の菌糸体培養装置は、固体培地及び担子菌の菌糸体を投入するための投入口と、該投入口を密閉するための蓋と、空気を流通させる通気孔とを有する培養容器と、前記培養容器を水平又は傾斜した回転軸により回転させる回転手段とを備えている。
【0038】
以下、本発明の菌糸体培養装置を、図を用いて具体的に説明する。
【0039】
図1及び図2には、本発明の菌糸体培養装置の一例を示す。
【0040】
この菌糸体培養装置10は、固体培地及び担子菌の菌糸体を投入するための投入口21と、その投入口21を密栓するための蓋22と、空気を流通させるための通気孔23とを有する略円筒形の培養容器20を備えている。また、その培養容器20を取り外し可能且つ回転可能に支持する支持台30と、支持台30に設けられ、培養容器20の側面に転接し該培養容器20を支持する複数の回転ローラ40と、前記培養容器の側面に転接する少なくとも一の前記回転ローラを回転させる駆動装置50とを備えている。そして、それらの支持台30、複数の回転ローラ40、及び駆動装置50とが全体として培養容器20を回転させる回転手段60を構成している。
【0041】
具体的には、上記支持台30は、下面板31と、下面板31上に支持脚32を介して支持され、水平面に対して傾斜している上面板33とを有し、その上面板33にはローラ軸受け40aが配設され、これに回転ローラ40の付されたローラ軸40bが回転可能に支持されている。また、ローラ軸40bの少なくとも一端には第1プーリ45が設けられており、上記駆動装置50側に設けられた第2プーリ46との間にベルト70を介して回転駆動力の伝達がされるように構成されている。そして、駆動装置50による回転駆動力をローラ軸40bに与えると、その回転駆動力が、回転ローラ40に接した略円筒形の形状の培養容器20の側面に伝えられて、回転中心Aを軸にして、培養容器20がローラ軸40bに対してほぼ平行に沿う状態で回転するようになっている。
【0042】
また、上面板33の培養容器20の底面側(通気孔23、及び脱着ノズル24の側)にはローラ軸受け41aが配設され、このローラ軸受け41aに立設されたローラ軸41bに、回転ローラ41が回転可能に支持されている。この回転ローラ41は、培養容器20の底面に当接し、培養容器20が傾斜した上面板33に沿って位置ずれしないように、培養容器20の底面を回転可能に支持している。
【0043】
また、上記培養容器20には、その通気孔23の外気側に脱着ノズル24が備えられており、該脱着ノズルに更に管状の通気管25が取り付けられている。
【0044】
このように構成された菌糸体培養装置の培養容器に、固体培地と担子菌の菌糸体とを入れて回転を与えることで、遠心力と培養容器内に充填された培地の自重が相互に作用しあって落下及び上昇の繰り返し運動が生じ、攪拌がなされる。こうして攪拌した後、培養容器20を支持台30から取り外して培養に適した環境下にある培養室に置いて培養を行う。培養の際には、必要に応じて上記通気孔に装着した通気管からフィルター除菌した空気等を送り込むことができる。なお、培養容器20を支持台30に載せたまま、定期的に攪拌しつつ培養を行ってもよい。
【0045】
本発明の菌糸体培養装置において、上記培養容器の材質に特に制限はないが、ステンレス材質等、繰り返しの加圧滅菌の処理に対して耐久性のある材質であることが好ましい。
【0046】
本発明の菌糸体培養装置は、上述した本発明の菌糸体培養抽出物の製造方法に好適に用いることができ、そのスケールアップも培養容器の容量を換えるだけで可能である。
【実施例】
【0047】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0048】
<実施例1>
バガス90%、脱脂米糠10%を配合し、水分を70%となるように調整して固形培地を作り、200リットル容量のステンレス製タンクに、その48kgを充填した後、常法に従い高圧蒸気滅菌した。これに、マンネン茸の菌糸を接種した。そして、上記図1で示した菌糸体培養装置の回転手段と同様の構成を有する回転装置を用いて、30 rpm、30分間の回転を行い、タンク内の培地と菌糸とを攪拌した。タンクを25℃に温度調節した培養室に移し、培養室内で51日間静置培養した後、菌糸体が蔓延した培地を破砕機で親指程度の大きさに破砕した。破砕した培地を40℃で6時間処理し、自己消化を促進させた後、抽出タンクに詰め、60℃の温水を循環させながら16時間抽出した。
【0049】
<試験例1>
実施例1で得られた抽出液の性状を、従来法により得られた抽出液の性状と比較した。なお、本実施例において比較の対象とされる「従来法」では、以下の実施例を含む各実施例の「培地充填・滅菌」、及び「種菌の接種」の工程として、下記の方法を用いた。
[従来法]
・「培地充填・滅菌」の工程:ポリプロピレン製の袋に、固体培地を一袋あたり800gずつ袋詰めにし、加圧下で高温滅菌する。
・「種菌の接種」の工程:菌糸体を、上記充填・滅菌後の固体培地の上部に設けた接種口より、注入する。
【0050】
【表1】

【0051】
従来法では、pHが低く、固形分%が高い抽出液(熟成度の高い抽出液)を得るために、3ヶ月程度(表1では97日)の培養期間を必要としたが、本実施例1の方法によれば、約半分の培養期間(51日)で同等の性状をもつ抽出液を得ることができた。また、従来法では、本実施例1の方法と同程度の培養期間(55日)で得られる抽出液のpHは高く、固形分%は低いものであることが確認された。これらの結果から、本発明によれば、従来の半分程度の培養期間で熟成度の高い菌糸体培養抽出物が得られることが明らかとなった。
【0052】
<実施例2>
マンネン茸菌糸体を実施例1と同様にして固体培養を行い、同様な処理を行って抽出液を得た。得られた抽出液をカートリッジフィルターで濾過し、更にメンブレンフィルターで濾過除菌後、濃縮し、凍結乾燥により褐色の粉末を得た。この粉末の成分を分析して、従来法で培養したものから得られた粉末と比較した結果は以下の通りであった。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に明らかなように、本実施例2の方法(培養期間50日)で得られた粉末について、従来法(培養期間3ヶ月)によって得られたものと同等の化学組成を有するものであると判断された。したがって、血糖値上昇抑制(特許公開2005−213211号公報)、および抗高血圧作用(特許公開2006−265179号公報)が見いだされている、従来法によって得られた培養抽出物(粉末)と同様の作用効果を有することが示唆された。
【0055】
<実施例3>
バガス90%、脱脂米糠10%を配合し、水分を80%となるように調整して固形培地を作り、60リットル容量のステンレス製タンクに、その7.2kgを充填した後、常法通り高圧蒸気滅菌した。これにマンネン茸の菌糸を接種し、上記図1で示した菌糸体培養装置の回転手段と同様の構成を有する回転装置を用いて30 rpm、30分間の回転を行い、タンク内の培地と菌糸を攪拌した。タンクを25℃に温度調節した培養室に移し、培養室内で48日静置培養し、菌糸体が蔓延した培地の上部、中心部、および下部から適当量を採取し、実施例1と同様にして抽出液および粉末を調製し、各々について性状および成分を比較した。
【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
表3及び表4より、熟成度および得られる培養抽出物(粉末)成分について、培養培地の部位による差は認められなかった。これは、本発明法では従来法と異なり、菌糸と培地をあらかじめ攪拌することにより、接種した担子菌の付着箇所が、固体培地の全体に均一にいきわたり、菌糸の生育と培地成分の分解・平衡化が部位に関係なく同時に進行するためであると考えられた。
【0059】
<実施例4>
バガス90%、脱脂米糠10%を配合し、水分を80%となるように調整して固形培地を作り、60リットル容量のステンレス製タンクに、その7.2kgを充填した後、常法通り高圧蒸気滅菌した。これに椎茸の菌糸を接種し、上記図1で示した菌糸体培養装置の回転手段と同様の構成を有する回転装置を用いて30 rpm、30分間の回転を行い、タンク内の培地と菌糸を攪拌した。タンクを21℃に温度調節した培養室内に移し、培養室内で51日静置培養し、培地中に菌糸体が蔓延した後、実施例1及び実施例2と同様にして培養抽出物を得た。得られた抽出液の性状(熟成度)は、従来法で4ヶ月培養して得られたものと同程度であった。また、培養抽出物(粉末)の成分組成も、従来法で得られたものと同一であった。
【0060】
したがって、本発明によれば、マンネン茸と同様に、椎茸の菌糸体培養抽出物を製造する場合にも、培養・成熟期間の短縮の効果が得られることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態の菌糸体培養装置を表す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態の菌糸体培養装置を図1とは異なる方向から表す斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
10 菌糸体培養装置
20 培養容器
21 投入口
22 蓋
23 通気孔
24 脱着ノズル
25 通気管
30 支持台
31 下面板
32 支持脚
33 上面板
40、41 回転ローラ
40a、41a ローラ軸受け
40b、41b ローラ軸
45 第1プーリ
46 第2プーリ
50 駆動装置
60 回転手段
70 ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物繊維質原料を含む固体培地に担子菌の菌糸体を接種し、前記菌糸体を接種した固体培地を、落下及び上昇の繰り返し運動を該固体培地に付与することにより攪拌した後、又は攪拌しつつ、前記菌糸体が生育する培養環境下に保持し、得られた培養物から培養抽出物を得ることを特徴とする菌糸体培養抽出物の製造方法。
【請求項2】
前記菌糸体を接種した固体培地を培養容器に入れ、該培養容器を回転させることにより、落下及び上昇の繰り返し運動を該固体培地に付与する請求項1記載の菌糸体培養抽出物の製造方法。
【請求項3】
前記植物繊維質原料が、禾本科植物から調製されたものである請求項1又は2記載の菌糸体培養抽出物の製造方法。
【請求項4】
前記植物繊維質原料が、バガス、トウモロコシの茎葉、小麦ふすま、米糠、稲藁、籾殻、茅、熊笹、及び竹から選ばれた1種又は2種以上から調製されたものである請求項1〜3のいずれか1つに記載の菌糸体培養抽出物の製造方法。
【請求項5】
前記担子菌が、マンネン茸、ブクリョウ、コフキサルノコシカケ、カワラ茸、椎茸、ヒラ茸、マイ茸、エノキ茸、シメジ茸、ヤマブシ茸、及びアガリクスから選ばれたものである請求項1〜4のいずれか1つに記載の菌糸体培養抽出物の製造方法。
【請求項6】
固体培地及び担子菌の菌糸体を投入するための投入口と、該投入口を密閉するための蓋と、空気を流通させる通気孔とを有する培養容器と、前記培養容器を水平又は傾斜した回転軸により回転させる回転手段とを備えていることを特徴とする菌糸体培養装置。
【請求項7】
前記回転手段は、前記培養容器を取り外し可能且つ回転可能に支持する支持台と、前記支持台に設けられ、前記培養容器の側面に転接し該培養容器を支持する複数の回転ローラと、前記培養容器の側面に転接する少なくとも一の前記回転ローラを回転させる駆動装置とで構成されている請求項6記載の菌糸体培養装置。
【請求項8】
前記培養容器が、略円筒形の培養容器である請求項6又は7に記載の菌糸体培養装置。
【請求項9】
前記培養容器の前記通気孔の外気側には、脱着ノズルが備えられており、該脱着ノズルに更に管状の通気管が取り付けられている請求項6〜8のいずれか一つに記載の菌糸体培養装置。
【請求項10】
前記培養容器は、加圧滅菌の処理が可能とされた培養容器である請求項6〜9のいずれか一つに記載の菌糸体培養装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−102256(P2009−102256A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275228(P2007−275228)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000245690)野田食菌工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】