説明

菓子の製造方法およびその装置

【課題】 従来のものと同等な高品質の菓子を作ることができると同時に、従来
のものに比べて製造効率に優れた、含気泡性食材に浸透性食材を染み込ませた菓
子の製造方法とその装置を提供する。
【解決手段】 米菓食材2に浸透性食材を染み込ませた菓子の製造方法と装置において、先ず最初に米菓食材2のみを圧力P1(0.05Mpa<P1≦0.1013Mpa)の減圧下で脱気しながら、該脱気状態の米菓食材を液状の浸透性食材中に浸漬し、次いで真空浸透装置5内にエアー、N 又はCO或いはこれらいずれかの混合ガスを注入して圧力P2(0.1Mpa<P2≦0.5Mpa)の状態にすることにより、浸透性食材を米菓食材に含浸させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米菓食材に浸透性食材を染み込ませた菓子の製造方法とその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、米菓食材等の含気泡性食材に浸透性食材を染み込ませた菓子の製造方法が種々提案されている。例えば、特許文献1には、液状に溶けたチョコレートと、チョコレートと同温に調整したクルトンとを減圧装置に入れて撹拌混合し、減圧装置内を所定圧力まで減圧してクルトンとチョコレート中の気泡を排出させた後、減圧装置内を常圧に戻すことにより、クルトンにチョコレートを浸透させるようにしたチョコレート浸透クルトンの製造方法が、また、特許文献2には、液状に溶かしたチョコレートなどの浸透性食材中に焼き菓子などの含気泡性食材を埋没させ、この状態で減圧して含気泡性食材を脱気し、しかる後に常圧に戻すことにより、含気泡性食材に浸透性食材を含浸させるようにした菓子の製造方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−308431号公報
【特許文献2】国際公開WO79/47207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した製造方法は、含気泡性食材中に浸透性食材を効果的に浸透させることができ、優れた食感、味覚、連食性、外観を有する含浸菓子を作ることができる。しかしながら、これらの製造方法は、いずれも、含気泡性食材を浸透性食材中に埋没させた状態で減圧・脱気処理を行っているため、含気泡性食材中の気泡が完全に抜け切るのに時間がかかり過ぎ、製造効率の点で改良の余地があった。ちなみに、特許文献1に記載されているように、これらの製造方法の場合、減圧・脱気処理に10〜15分程度の時間を要していた。
【0005】
また、含気泡性食材中から遊離した気泡は液状の浸透性食材中を膨張しながら浮かび上がっていき、浸透性食材の表面ではじけて潰れるため、液状の浸透性食材が泡立ってしまう。このため、脱気処理が完全に終わって泡立ちのない静置状態になるまでは次の処理に移行することができず、これも製造効率を落とす要因のひとつとなっていた。
【0006】
本発明は、上記従来方法の欠点を改良したもので、従来のものと同等な高品質の菓子を作ることができると同時に、従来のものに比べて製造効率に優れた、米菓食材に浸透性食材を染み込ませた菓子の製造方法とその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の製造方法は、先ず最初に米菓食材のみを圧力P1(0.05Mpa<P1≦0.1013Mpa)の減圧下で脱気しながら、該脱気状態の米菓食材を液状の浸透性食材中に浸漬し、次いでガスを注入して圧力P2(0.1Mpa<P2≦0.5Mpa)の状態にすることにより、浸透性食材を米菓食材に含浸させるようにしたものである。
なお、前記ガスは、エアー、N又はCO或いはこれらいずれかの混合ガスとすることが好ましい。
【0008】
また、本発明の菓子の製造装置は、米菓食材の供給手段と、浸透性食材の供給手段と、圧力P1(0.05Mpa<P1≦0.1013Mpa)に減圧する減圧室を有する真空浸透装置と、該真空浸透装置に連結されエアー、N又はCO或いはこれらいずれかの混合ガスが充填されたガスタンクとを備え、前記真空浸透装置は、前記米菓食材供給手段から減圧室内に導入された米菓食材を圧力P1(0.05Mpa<P1≦0.1013Mpa)に減圧・脱気しながら、真空浸透装置内に浸透性食材を供給して脱気状態にある米菓食材を浸透性食材中に浸漬した後、減圧室内に前記ガスを注入して圧力P2(0.1Mpa<P2≦0.5Mpa)の状態にして米菓食材に浸透性食材を染み込ませて菓子を製造することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
上記の構成とした場合、先ず最初に米菓食材のみを減圧下で脱気処理するため、米菓食材中に含まれる空気などの余分な気体を極めて速やかに脱気することができる。特に、圧力を極端に下げないので、減圧・脱気の処理時間を短縮することができ、その分だけ製造効率を上げることができる。ちなみに、従来の製造方法の場合、前述したように減圧・脱気処理に10〜15分程度の時間を要していたが、本発明によれば同じ処理を約3〜4分程度で完了することができる。また、減圧・脱気の程度を軽くしたので、減圧装置、例えば真空ポンプを小型化することも可能である。
【0010】
なお、米菓としてはせんべい、おかき、あられなどがあるが、米菓以外にも含気泡性食材としては、例えば、ラスク、クルトン、焼き菓子(ビスケット、クッキーなど)、FD(冷凍乾燥)フルーツなどにも適用することができる。なお、これら以外にも、浸透性食材を染み込ませることが可能な食材であれば適用することができる。また、浸透性食材としては、例えば、チョコレート、練乳、フルーツジュース、液体味付け品(醤油、ソース、砂糖水など)を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、米菓食材に染み込ませることが可能な食材であればよい。
【0011】
上記のように、従来のものと同等な高品質の菓子を作ることができると同時に、従来のものに比べて製造効率に優れた、米菓食材に浸透性食材を染み込ませた菓子の製造方法とその装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明方法を適用して構成した本発明に係る菓子製造装置の一実施の形態を示すシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1に、本発明方法を適用して構成した本発明に係る菓子製造装置の一実施の形態を示す。この実施の形態は、含気泡性食材としての米菓を、浸透性食材としてチョコレートを用い、米菓にチョコレートを染み込ませた菓子の製造例を示すものである。なお、米菓としては、せんべい、おかき、あられなどが挙げられる。
【0014】
図において、1は米菓2を供給する米菓食材供給機、3はチョコレートタンク、4はチョコレートサブタンク、5は減圧室6を備えた真空浸透装置である。チョコレートタンク3とチョコレートサブタンク4は、温水や蒸気などを利用した加熱装置(図示せず)を備えており、この加熱装置でチョコレートを溶かし、融液状態で収容しているとともに、チョコレートタンク3に付設した送給ポンプ7によって融液状態のチョコレートをチョコレートサブタンク4へ自在に送給できるように構成されている。
【0015】
真空浸透装置5は、図示を略した負圧ポンプなどによって減圧室6内の圧力を自在に制御可能とされているとともに、減圧室下部側に設けたチョコレート供給口9から融液状のチョコレートが減圧室6内の負圧に伴いチョコレートサブタンク4から供給される。また、真空浸透装置5の下底部には回収ポンプ10が付設されており、米菓へのチョコレートの浸透処理後に残った余分なチョコレートを回収し、サブタンク4に戻すことができるように構成されている。また、真空浸透装置5には、ガスタンク20が連結されており、減圧室6内にガスを供給することができる。ガスタンク20内に充填されるガスは、加圧されたエアーでも良いし、窒素ガス(N)又は二酸化炭素(CO)でも良く、或いはこれらのいずれかの混合ガスでも良い。
【0016】
前記真空浸透装置5内には、遠心分離機が設置されており、米菓に付着した余分なチョコレートを払い落とす。真空浸透装置5の後段側には、米菓に付着している余分なチョコレートをさらに払い落とすためのシェーキング装置11が、またさらに、このシェーキング装置11の後段側には、チョコレートを浸透させた米菓を冷ますための冷却装置12が配置されている。
【0017】
シェーキング装置11は、例えば、振動式コンベア13、エアブロア14などから構成されており、振動式コンベア13によって米菓に振動を与えるとともに、エアブロア14から所定温度の高圧エアを吹き付けることにより、米菓に付着している余分なチョコレートを振り落とし、下部に設置した回収タンク15によって回収するように構成されている。回収されたチョコレートは、回収ポンプ16によってチョコレートサブタンク4に送られ、再利用に供される。
【0018】
冷却装置12は、米菓に浸透・付着しているチョコレートを冷却固化するためのクーリング機構であって、冷却室17と、この中を通るベルトコンベア18などで構成されている。冷却室17内には、公知の水冷あるいは空冷式の冷却機構(図示せず)が備えられ、冷却室17内を通過する間に冷却処理を完了するように構成されている。
【0019】
上記装置を用いてチョコレートを染み込ませた米菓を作るには次のようにして行う。先ず、金網などで作られた米菓収納用のバスケット19を用意し、このバスケット19に米菓食材供給機1から米菓2を所定個数投入し、所定間隔で並べて載置する。
【0020】
そして、この米菓2を入れられたバスケット19を真空浸透装置5まで運び、減圧室6の蓋を開けて減圧室6内にセットする。なお、以上の処理は、コンベアやピックアップ機構を用いて自動操作で行ってもよいし、人手で行ってもよい。
【0021】
米菓2の入ったバスケット19を減圧室6内にセットした後、減圧室6の蓋を閉め、図示しない負圧ポンプを作動して減圧室6内の空気を抜いていき、減圧室6内の圧力P1を0.05Mpa<P1≦0.1013Mpaの範囲に減圧する。圧力P1は米菓の種類や水分含有量、気泡の占める割合によって設定する。
【0022】
減圧室6内の圧力が小さくなっていくと、バスケット19に入れられた米菓2の内部空隙に入り込んでいる空気が吸い出されていく。このとき、本発明では、米菓だけが減圧室6に入れられており、従来のように粘稠なチョコレート中に埋没されていないので、米菓2の内部空隙に入り込んでいる空気は極めて速やかに脱気される。このため、減圧室6内が所定の負圧状態まで減圧される間に米菓の脱気もほぼ終了し、減圧・脱気処理に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0023】
上記のようにして減圧室6の減圧と米菓2の脱気が完了したら、負圧ポンプを止め、減圧室6内を該減圧状態に保つ。そして、この状態でチョコレートサブタンク4から融液状のチョコレートを真空浸透装置5のチョコレート供給口9から減圧室6内に送給し、脱気状態にある米菓2を融液状のチョコレートで埋め尽くし、米菓2をチョコレート中に浸漬させる。
【0024】
脱気状態にある米菓2を融液状のチョコレート中に浸漬し、減圧室6内にガス(エアー、N 又はCO 或いはこれらいずれかの混合ガス)を注入して加圧すると、融液状のチョコレートは米菓2の内部空隙に速やかに浸透していき、米菓2内にチョコレートを均等かつ効果的に染み込ませることができる。この際、米菓は既に脱気されているので、従来のように脱気された空気が気泡となって膨張しながらチョコレート中を浮かび上がっていき、チョコレート表面ではじけて泡立ってしまう、というようなこともなくなる。
【0025】
米菓へのチョコレートの浸透が終わったら、真空ポンプを止め、減圧室6の中にガスタンク20から、例えば窒素ガスNを供給して減圧室6内の圧力P2を0.1Mpa<P2≦0.5Mpaの状態にしてチョコレートの浸透を促進させる。そして、減圧室6内に溜まっている余分なチョコレートは回収ポンプ10によって排出し、チョコレートサブタンク4に戻して再利用に供する。
【0026】
次いで、減圧室6の蓋を開けてバスケット19を取り出し、バスケット19中からチョコレートの染み込んだ米菓2を取り出してシェーキング装置11の上に載せる。なお、このバスケット19の取り出しと米菓2の載置は人手で行ってもよいし、ロボット装置などによる自動処理で行ってもよい。
【0027】
シェーキング装置11では、振動式コンベア13によって米菓2に振動を与えながら後方に向かって搬送するとともに、エアブロア14から所定温度の高圧エアーを吹き付けることにより、米菓2に付着している余分なチョコレートを払い落とす。なお、払い落とされたチョコレートは下部側に配置したチョコレート回収タンク15で回収され、回収ポンプ16によってチョコレートサブタンク4に送り返され、再利用に供される。
【0028】
余分なチョコレートを振り落とされた米菓2は、冷却装置12へ送られる。冷却装置12は、米菓2に向けて冷風を吹き付け、米菓2の内部空隙に浸透したチョコレートや米菓表面に付着しているチョコレートを冷却固化し、後段の商品包装工程へと送り出す。以上のようにして、チョコレートが染み込んだ米菓を製造することができる。
【0029】
なお、上記実施の形態では、浸透性食材として、常温では固形状のチョコレートを用いているため、チョコレートタンク3やチョコレートサブタンク4にはチョコレートを溶かして液状に維持するための加熱装置が必要であるが、常温において液状をした浸透性食材、例えば、フルーツジュースや液体味付け品(醤油、ソース、砂糖水など)などを用いる場合には、前記加熱装置は省略することができる。また、この場合には、チョコレートを冷却固化するための冷却装置12に替えて、乾燥装置を用いればよい。
【符号の説明】
【0030】
1 米菓食材供給機
2 米菓
3 チョコレートタンク
4 チョコレートサブタンク
5 真空浸透装置
6 減圧室
7 送給ポンプ
9 チョコレート供給口
10 回収ポンプ
11 シェーキング装置
12 冷却装置
13 振動式コンベア
14 エアブロア
15 チョコレート回収タンク
16 回収ポンプ
17 冷却室
18 ベルトコンベア
19 バスケット
20 ガスタンク(エアー、窒素ガス又は二酸化炭素ガス或いはこれらいずれかの混合ガス充填)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米菓食材に浸透性食材を染み込ませる菓子の製造方法であって、先ず最初に米菓食材のみを真空浸透装置内に入れて圧力P1(0.05Mpa<P1≦0.1013Mpa)の減圧下で脱気しながら、該脱気状態の米菓食材を液状の浸透性食材中に浸漬し、次いで真空浸透装置内にガスを注入して圧力P2(0.1Mpa<P2≦0.5Mpa)の状態にすることにより、浸透性食材を米菓食材に含浸させることを特徴とする菓子の製造方法。
【請求項2】
前記ガスは、エアー、N又はCO或いはこれらいずれかの混合ガスであることを特徴とする請求項1記載の菓子の製造方法。
【請求項3】
米菓食材に浸透性食材を染み込ませる菓子の製造装置であって、米菓食材の供給手段と、浸透性食材の供給手段と、圧力P1(0.05Mpa<P1≦0.1013Mpa)に減圧する減圧室を有する真空浸透装置と、該真空浸透装置に連結されエアー、N 又はCO或いはこれらいずれかの混合ガスが充填されたガスタンクとを備え、前記真空浸透装置は、前記米菓食材供給手段から減圧室内に導入された米菓食材を圧力P1(0.05Mpa<P1≦0.1013Mpa)に減圧・脱気しながら、真空浸透装置内に浸透性食材を供給して脱気状態にある米菓食材を浸透性食材中に浸漬した後、減圧室内に前記エアー、N 又はCO或いはこれらいずれかの混合ガスを注入して圧力P2(0.1Mpa<P2≦0.5Mpa)の状態にして米菓食材に浸透性食材を染み込ませて菓子を製造することを特徴とする菓子の製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−154840(P2010−154840A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2009−48889(P2009−48889)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(591070266)谷沢菓機工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】