説明

菓子の製造方法および菓子

【課題】しっとり感のあるバウムクーヘンの製造方法を提供する。また、デコレーションがし易く、外観のよいバウムクーヘンの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の菓子の製造方法は、(a)第1生地を丸棒に塗布し、焼成する工程を繰り返すことにより、円筒状の年輪型焼き生地塊を形成する工程と、(b)前記年輪型焼き生地塊を輪切りにすることにより年輪型焼き生地の土台(バウムクーヘン土台17)を形成する工程と、(c)前記土台の年輪面を上面として第2生地(B)等を塗布し、蒸すことを特徴とする。かかる工程によれば、デコレーションを兼ねる第2生地で土台の上面を覆いつつ、加湿することで、保湿性の高いバウムクーヘンを製造することができる。また、第2生地によるデコレーションにより、外観の良好なバウムクーヘンを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菓子の製造方法および菓子に関し、特に、バウムクーヘン生地を有する菓子に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、穀類の粉を練った後、焼く又は蒸すなどの熱処理を加えて固化した菓子類が広く嗜好品として提供されている。
【0003】
中でも、バウムクーヘン(Baumkuchen)は、中心にドーナツ状の穴があり断面に樹木の年輪のような同心円状の模様が浮き出た菓子(ケーキ類)であり、古くから人気の菓子である。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、家庭用の小型バウムクーヘン焼成機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−207122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記バウムクーヘンのような菓子の開発に従事している。後述するように生地を何度も焼いて製造するバウムクーヘンにおいては、食感がぱさつきやすい傾向にある。
【0007】
しかしながら、市場においては、しっとりタイプのバウムクーヘンが販売され、人気を博している。このしっとりタイプのバウムクーヘンは、焼成温度を低く保つことにより、しっとりとした食感を保持しているため、バウムクーヘン特有の年輪層がはっきりでていないといった問題がある。
【0008】
また、バウムクーヘンに、カラメリゼ、チョコがけ、蜜がけなどのデコレーションを施すと、べとつきなど、再溶解による外観の不良や食べ難さなどの問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、本発明の目的は、良好な菓子の製造方法、特に、しっとり感のあるバウムクーヘンの製造方法を提供することにある。また、デコレーションがし易く、外観のよいバウムクーヘンの製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、良好な菓子、特に、しっとり感のあるバウムクーヘンを提供することにある。また、外観のよいバウムクーヘンを提供することにある。
【0010】
本発明の上記目的およびその他の目的と新規な特徴は、本願明細書の記載および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的な実施の形態に示される菓子の製造方法は、(a)第1生地を丸棒に塗布し、焼成する工程を繰り返すことにより、円筒状の年輪型焼き生地塊を形成する工程と、(b)前記年輪型焼き生地塊を輪切りにすることにより年輪型焼き生地の土台を形成する工程と、(c)前記土台の年輪面を上面として第2生地を塗布し、蒸すことを特徴とする。
【0013】
本願において開示される発明のうち、代表的な実施の形態に示される菓子の製造方法は、年輪型焼き生地の土台の年輪面を上面として蒸し生地を塗布し、蒸すことを特徴とする。
【0014】
本願において開示される発明のうち、代表的な実施の形態に示される菓子は、(a)年輪型焼き生地の土台と、(b)前記土台の年輪面上に形成された蒸し生地と、を有する。
【発明の効果】
【0015】
本願において開示される発明のうち、以下に示す代表的な実施の形態に示される菓子の製造方法によれば、良好な菓子を製造することができる。特に、しっとり感のあるバウムクーヘンを製造することができる。また、外観のよいバウムクーヘンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態のバウムクーヘンの製造工程を示す断面図である。
【図2】本実施の形態のバウムクーヘンの製造工程を示す斜視図である。
【図3】本実施の形態のバウムクーヘンの製造工程を示す斜視図である。
【図4】本実施の形態のバウムクーヘンの一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本実施の形態のバウムクーヘン(菓子)の製造方法について詳細に説明する。図1〜図3は、本実施の形態のバウムクーヘンの製造工程を示す断面図または斜視図である。
【0018】
1)生地の配合
生地とは、少なくとも穀物の粉と糖分、卵、水分等(牛乳などを含む)を含有し、熱により固化するものをいう。必要に応じて、油類、膨張剤、食用色素などが添加される。
【0019】
ここでは、バウムクーヘン用の第1生地Aと、デコレーション用の黄色の第2生地Bおよび白色の第3生地Cを準備する。
【0020】
2)バウムクーヘンの焼成
図1(A)および(B)に示すように、自転する丸棒13を生地皿14の中に生地に浸漬し第1生地Aを丸棒13の外周に塗布する。丸棒13は、金属支持部13aにより自転可能に両側から支持されている。丸棒13の直径は例えば6cm程度である。丸棒13は、例えば、木製であり、紙が巻きつけられ、その外周に第1生地Aが塗布される。
【0021】
次いで、図1(C)に示すように、丸棒13を上昇させる。次いで、第1生地Aが塗布された丸棒13を、例えば、図中の紙面の奥に配置されたガスバーナーGBの近傍まで移動させ、ガスバーナーGBと近接させることにより、第1生地Aを焼成し(焼き固め)、第1層を形成する。この後、第1層上に、再度、第1生地Aを塗布し、焼成することにより第2層を形成する。上記第1生地Aの丸棒13へ塗布および焼成(焼き)工程を繰り返すことにより、薄く焼かれた生地(焼成生地)を同芯状に形成させた筒状のバウムクーヘン塊15を形成する(図1(D))。
【0022】
焼成温度は、350℃〜400℃である。例えば、生地の糖分(砂糖やハチミツなどの重量)を生地の重量の12%〜35%程度とした場合、360℃以上であれば、層の表面に適度な焦げ目が生じ、外観の良いバウムクーヘン土台を形成することができる。各層の焼成後の厚みは、例えば、1mm〜3mm程度である。
【0023】
なお、図1(E)に示すように、第1生地Aの塗布と焼成を自動化した装置(オーブン)内で行っても良い。図示するように、装置内には、複数の丸棒13が公転円周(図中の破線)に沿って配置されている。丸棒13は、それ自身が自転しながら、公転円周上を公転する。この公転において、公転円周上の下部に移動した時点で、前述したように(図1(A)(B)参照)、丸棒13に第1生地Aが塗布される。その後、第1生地Aが塗布された丸棒13は、公転円周上を公転し、生地皿14の奥(図1(E)においては図中右側)に配置されたガスバーナーGBに近接し、焼成される。ガスバーナーGBは、例えば、縦型の円筒状のガス供給管を有し、この管に設けられた孔から炎Fが放射される。この炎Fにより、生地が焼かれる。このように、生地の塗布と焼き工程を自動化した装置(オーブン)内で行ってもよい。なお、上記ガスバーナーGBは、加熱手段の一例にすぎず、例えば、電気ヒーターなどの他の加熱手段を用いてもよい。
【0024】
また、図2(A)に示すように、第1生地Aを、ノズル11から自転する丸棒(心棒)13の上部に滴下させることにより第1層を形成し、図1(B)に示すようにヒータHにより焼き固めてもよい。この場合も、第1生地Aの丸棒13への滴下および焼き工程を繰り返すことにより、薄く焼かれた生地(焼成生地)を同芯状に形成させた筒状のバウムクーヘン塊15を形成することができる(図1(C))。
【0025】
3)切断(バウムクーヘン土台の形成)
バウムクーヘン塊15から丸棒を抜き出し(図1(D)、図2(C))、その両端を切断した後、所定の厚さに切断する。この工程により、焼き目が年輪状に付いた良好なバウムクーヘン土台17が完成する(図1(D))。
【0026】
4)加湿および装飾
次いで、バウムクーヘン土台17の上面(年輪面)に装飾を施すとともに、バウムクーヘン土台内部を加湿する。
【0027】
バウムクーヘン土台17の上面(年輪面)に第2生地Bを塗布する。この際、上面を被覆し、その側面からある程度流れ落ちる程度の量を塗布する。塗布の方法に制限はないが、例えば、図3(A)に示すように、バウムクーヘン土台17の上面(年輪面)を下側にして、第2生地Bの入った生地皿(プール)に浸漬することにより、第2生地Bを上面および側面に塗布する。なお、バウムクーヘン土台17の上面へ、第2生地Bを搾り出し、クレープ用のトンボなどで生地層を均一とするとともに、側面から適量の第2生地Bを垂らしてもよい。
【0028】
次いで、第2生地B上に、さらに、第3生地Cを部分的に塗布する。例えば、図3(B)に示すように、第3生地Cを絞りがねから波線を描くように第2生地B上に吐出する。ここで、前述したように、第2生地Bと第3生地Cとは色が異なり、色のコントラストによるデコレーションが施される。このように、色相の異なる生地を混合して塗布することで装飾性が向上し、外観がより良くなる(図4参照)。
【0029】
次いで、図3(C)に示すように、第2生地Bおよび第3生地Cが塗布されたバウムクーヘン土台17を蒸し器を用いて蒸す、即ち、水蒸気雰囲気下で熱を加えることにより、第2生地Bおよび第3生地Cを固化し、デコレーションを完成させるとともに、バウムクーヘン土台17の内部に水分を補給する。第2生地B及び第3生地Cの厚さは固化後において5〜10mm程度である。
【0030】
このように、本実施の形態によれば、デコレーションを兼ねる第2生地B等でバウムクーヘン土台17の上面を覆いつつ、下部から加湿することで、保湿性の高いバウムクーヘンを製造することができる。また、第2生地B等によるデコレーションにより、外観の良好なバウムクーヘンを製造することができる。また、第2生地B等により、その味付けや風味を変化させることができる。例えば、第2生地Bにチョコレートやジャム(果汁)などを混ぜることにより、その味付けや風味を変化させることができる。また、ホールのバウムクーヘンをカットした場合、そのカット面においては、高温焼成による年輪面が良好に現れるにもかかわらず、しっとりとした食感をもたらすことができる。図4に、本実施の形態のバウムクーヘンの一例(写真)を示す。このように、バウムクーヘン土台(年輪型焼き生地の土台)17上に、第2および第3生地(B,C)よりなる蒸し生地(蒸された生地)よりなるデコレーションが施されたバウムクーヘンを製造することができる。
【0031】
デコレーションについては、前述したとおり、カラメリゼ、チョコレートがけ、蜜がけなどのデコレーション法があるが、これらのデコレーションは、再融解によるべとつきが生じ得る。これに対し、本実施の形態によれば、第2および第3生地(B,C)は、蒸し工程により固化しているため、再融解がなく、べとつきが少ない。
【0032】
なお、上記実施の形態によれば、第2および第3生地(B,C)でデコレーションを施したが、第2生地Bのみのデコレーションとしてもよい。また、第2生地Bの表面へのデコレーションとして、第3生地Cを用いずに、ドライフルーツなどの固形物、ジャムなどの粘性物などの装飾物(トッピング)を施してもよい。この場合、固形物や粘性物などの装飾物が第2生地Bの硬化により固定され、装飾効果が高まるとともに、これらの装飾物による風味が増す。また、ジャムなどによるべとつきも部分的となり、外観を損ねず、また、食べやすい形態となる。なお、ドライフルーツなどの固形物、ジャムなどの粘性物などの装飾物(トッピング)を、バウムクーヘン土台17の上面(年輪面)に直接行い、この後、第2生地Bの塗布を行っても良い。
【0033】
(実施例1)
第1生地をバウムクーヘン焼成機(ソーキナカタ製)にて焼き上げ、バウムクーヘン塊を形成した。第1生地の配合比は、表1のとおりである。また、焼成温度(装置設定温度)は、400℃である。なお、表1に示す配合比の単位はグラム(g)である。
【表1】

【0034】
上記バウムクーヘン塊を40mm幅(長さ、高さ)にカットし、バウムクーヘン土台とした。このバウムクーヘン土台の上面(年輪面)に、第2生地を塗布し、蒸し器により蒸し上げた。第2生地(蒸し生地)の配合比は、表2のとおりである。なお、表2に示す配合比の単位はグラム(g)である。
【表2】

【0035】
この処理により、バウムクーヘン土台の上面に装飾が施され、かつ、バウムクーヘン土台の焼成生地に水分を付与することができる。これにより、外観がよく、しっとりとした食感のバウムクーヘンを製造することができる。
【0036】
上記実施例1により製造されたバウムクーヘン土台部(生地部)と、第1生地をバウムクーヘン焼成機にて焼き上げたバウムクーヘン(比較例)とを比較する確認試験を行った。
【0037】
(確認試験1)
各バウムクーヘンの生地部を2gとり赤外水分計にて水分量(%)を測定した。各バウムクーヘンの生地部について、それぞれ2点の測定を行い、測定値の平均値を算出した。測定の結果、比較例においては、水分量が20.5%であったのに対し、実施例1においては、25.4%と、保湿性の向上が確認できた。
【0038】
(確認試験2)
確認試験2として、バウムクーヘンの生地部の“しっとりさ”についての官能検査を行った。なお、見た目の先入観による判断ミスを防ぐため、この試験においては、実施例1のバウムクーヘンの第2生地(蒸し生地)がかかった部分は除いて、試験を行った。この結果、8人すべてのパネラーが、実施例1のバウムクーヘンの方がしっとりしていると判断した。
【0039】
(実施例2)
実施例1においては、表1に示す第1生地を用いてバウムクーヘン土台を形成したが、生地中に練り餡を混合させても良い。練り餡を例えば、練り餡以外の材料、例えば、表1に示す生地の重量(400g)の10%程度(40g程度)添加する。練り餡の添加量としては、生地の重量(練り餡以外の材料、歩留まり重量)の5%〜30%程度とすることが好ましい。このように、生地に練り餡を含ませることにより、さらに、保湿性が高まり、時間経過に伴う乾燥速度を低減することができる。
【0040】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、菓子の製造方法および菓子に関し、特に、バウムクーヘン生地を有する菓子に適用して有効である。
【符号の説明】
【0042】
11 ノズル
13 丸棒
13a 金属支持部
14 生地皿
15 バウムクーヘン塊
17 バウムクーヘン土台
A 第1生地
B 第2生地
C 第3生地
F 炎
GB ガスバーナー
H ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1生地を丸棒に塗布し、焼成する工程を繰り返すことにより、円筒状の年輪型焼き生地塊を形成する工程と、
(b)前記年輪型焼き生地塊を輪切りにすることにより年輪型焼き生地の土台を形成する工程と、
(c)前記土台の年輪面を上面として第2生地を塗布し、蒸すことを特徴とする菓子の製造方法。
【請求項2】
前記第2生地として、色相の異なる生地を混合して塗布することを特徴とする請求項1記載の菓子の製造方法。
【請求項3】
前記(c)工程の第2生地の塗布前または塗布後に、前記土台の年輪面に、装飾物を施すことを特徴とする請求項1記載の菓子の製造方法。
【請求項4】
年輪型焼き生地の土台の年輪面を上面として蒸し生地を塗布し、蒸すことを特徴とする菓子の製造方法。
【請求項5】
(a)年輪型焼き生地の土台と、
(b)前記土台の年輪面上に形成された蒸し生地と、
を有することを特徴とする菓子。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−4(P2013−4A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130941(P2011−130941)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(593006836)寿製菓株式会社 (5)
【Fターム(参考)】