説明

菓子類用小麦粉の製造方法

【課題】キメが細かく、しっとりとして口溶けが極めて良好で、しかも崩れるような脆さがある、これまでにはない独特な食感を有する菓子類が得られる菓子類用小麦粉の製造方法を提供すること。
【解決手段】軟質系小麦を主体とする原料小麦を、加熱水蒸気により、原料小麦の品温が85〜100℃で1〜5分間湿熱処理するか、あるいは原料小麦の品温が60〜80℃で30分間〜3時間湿熱処理し、次いで、この湿熱処理小麦を常法に従って製粉し、得られた小麦粉を分級して粒径60μm以上の粗粉部分を除去して、その粒度分布を調整し、(1)粗蛋白質含量が6.0〜9.5質量%、(2)グルテンバイタリティが35〜55%、(3)α化度が0〜5%、(4)平均粒径が15〜50μm、(5)粒径60μm以上の粗粉画分の含有割合が5〜30質量%、(6)粒径30μm以下の微粉画分の含有割合が50〜80質量%である、菓子類用小麦粉を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菓子類用小麦粉の製造方法に関する。詳細には、キメが細かく、しっとりとして口溶けが極めて良好で、しかも崩れるような脆さがある、これまでにはない独特な食感を有するスポンジケーキやカステラ等の菓子類が得られる菓子類用小麦粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、菓子類の口溶け、食感、食味や、形状、外観などを向上させるために、様々な方法が提案されており、原料小麦粉への添加物の添加や、小麦粉の粒度分布の調整などはよく行われている。また、小麦粉を熱処理する技術も知られている。
例えば、特許文献1には、小麦粉を湿熱処理などの熱処理を施してグルテンバイタリティを70〜95(未処理のときのグルテンバイタリティを100とする)とした、平均粒径が45μm以下の中力粉および/または薄力粉からなる熱処理小麦粉が提案されており、該熱処理小麦粉を用いれば、体積、形状、食感に優れたケーキ類が得られることが記載されている。しかし、この熱処理小麦粉を用いて得られるカステラやスポンジケーキ等は、ある程度口溶け、食感、食味や、形状、外観などを改善する効果を有するが、まだまだ十分とはいえず、さらにいままでにはない新たな食感を有するものが求められていた。しかも、特許文献1記載の技術は小麦粉を熱処理したものであり、製粉する前の原料小麦を熱処理することについては記載されていない。
【0003】
特許文献2および3には、小麦粉の製造法において、製粉する前に原料小麦を湿熱処理することが記載されている。しかし、これらの特許文献に記載されている小麦粉の製造法において、原料小麦の湿熱処理は、テンパリング工程の省略または殺菌が目的であり、そのため処理温度は100℃以上である。また、特許文献2および3には、小麦粉の粒度分布については記載されていない。
【0004】
特許文献4には、小麦粉中粒径30μm以下の小麦粉粒子が80質量%以上であるスポンジケーキ用小麦粉が記載されている。この特許文献4の小麦粉は、粒径30μm以下の微粉しか殆ど使用しないので、残余の粒径30μm以上の小麦粉の用途が問題となる。また、特許文献4には、上記スポンジケーキ用小麦粉を用いれば、内相が白く、細かく、ボリュームの向上した、軽い、口溶けのよいスポンジケーキが得られることが記載されているが、その効果は十分とは言い難く、さらなる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−332454号公報
【特許文献2】特開昭59−209660号公報
【特許文献3】特開昭59−209661号公報
【特許文献4】特開平6−237682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、キメが細かく、しっとりとして口溶けが極めて良好で、しかも崩れるような脆さがある、これまでにはない独特な食感を有するスポンジケーキやカステラ等の菓子類が得られる菓子類用小麦粉の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく種々検討した結果、原料小麦を特定条件下で湿熱処理した後、製粉し、これを分級することにより得られる、特定の物性および特定の粒度分布を有する小麦粉が、これまでには無い食感を有する菓子類が得られる菓子類用小麦粉として、特にケーキ用小麦粉およびカステラ用小麦粉として著しく優れていることを見出した。すなわち、原料小麦を湿熱処理する特定条件とは、小麦中の蛋白質をある程度変性させるが、小麦中の澱粉はほとんどα化させないような条件であり、また、この湿熱処理した原料小麦を常法に従って製粉した後、さらに分級して特定の粒度以上の部分を除去して、特定の範囲に調節することにより、本発明の目的物である菓子類用小麦粉が得られることを見出したのである。
【0008】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、下記の菓子類用小麦粉の製造方法を提供するものである。
下記(1)〜(3)の物性および下記(4)〜(6)の粒度分布を有する菓子類用小麦粉の製造方法であって、
軟質系小麦を主体とする原料小麦を、加熱水蒸気により、原料小麦の品温が85〜100℃で1〜5分間湿熱処理するか、あるいは原料小麦の品温が60〜80℃で30分間〜3時間湿熱処理し、次いで、この湿熱処理小麦を常法に従って製粉し、得られた小麦粉を分級して粒径60μm以上の粗粉部分を除去して、その粒度分布を下記(4)〜(6)の範囲に調整することを特徴とする菓子類用小麦粉の製造方法。
(1)粗蛋白質含量が6.0〜9.5質量%
(2)グルテンバイタリティが35〜55%
(3)α化度が0〜5%
(4)平均粒径が15〜50μm
(5)粒径60μm以上の粗粉画分の含有割合が5〜30質量%
(6)粒径30μm以下の微粉画分の含有割合が50〜80質量%
【発明の効果】
【0009】
本発明の菓子類用小麦粉の製造方法によれば、従来の菓子用小麦粉にはない、キメが細かく、しっとりとして口溶けが極めて良好で、しかも崩れるような脆さがある、これまでにはない独特な食感を有する菓子類が得られる菓子類用小麦粉を、容易に、かつ生産性よく製造することができる。本発明に係る菓子類用小麦粉は、しっとり感と良好な口溶けと、崩れるような脆さのバランスが極めて好適な製品が得られることから、菓子類の中でも特にスポンジケーキなどのケーキやカステラの製造に用いて好適なものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の菓子類用小麦粉が有する前記(1)〜(3)の物性および前記(4)〜(6)の粒度分布について以下に詳しく説明する。
【0011】
(1)粗蛋白質含量
本発明の菓子類用小麦粉は、粗蛋白質含量が6.0〜9.5質量%、好ましくは6.5〜8.8質量%である。
粗蛋白質含量が6.0質量%未満であると、菓子類の食感において独特の崩れるような脆さが出ず、また粗蛋白質含量が9.5質量%超であると、蛋白質含有量が多く菓子類の食感において口溶けが劣るようになる。
なお、小麦粉の粗蛋白質含量は、原料小麦に由来するものであるので、本発明の菓子類用小麦粉の原料小麦は、小麦粉の粗蛋白質含量が上記範囲内となる小麦である。具体的には、アメリカ産ウエスタンホワイト、日本産普通小麦、オーストラリア産の麺用小麦などの軟質系小麦を主体とする小麦である。
【0012】
(2)グルテンバイタリティ
本発明の菓子類用小麦粉は、グルテンバイタリティが35〜55%、好ましくは40〜50%である。菓子類用小麦粉のグルテンバイタリティをこの範囲に調節することで、得られる菓子類が、しっとり感と良好な口溶けと、崩れるような脆さのバランスが極めて好適なものとなる。
グルテンバイタリティが35%未満であると、湿熱処理が過度であることを意味し、得られる菓子類はある程度の脆さはあるものの、しっとり感が十分とはいえず、口溶けも劣るようになる。また、グルテンバイタリティが55%超であると、湿熱処理が不足であることを意味し、得られる菓子類の食感は、独特の崩れるような脆さが得られない。
本発明の菓子類用小麦粉のグルテンバイタリティは、後述する本発明の菓子類用小麦粉の製造方法において、湿熱処理の条件により調整することができる。
なお、上記グルテンバイタリティは、下記の〔グルテンバイタリティの測定方法〕により測定したものである。
【0013】
〔グルテンバイタリティの測定方法〕
(I)小麦粉の可溶性粗蛋白質含量の測定
(a)100ml容のビーカーに試料(小麦粉)を2g精秤して入れる。
(b)上記のビーカーに0.05規定酢酸40mlを加えて、室温で60分間攪拌して懸濁液を調製する。
(c)上記(b)で得た懸濁液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(d)上記で用いたビーカーを0.05規定酢酸40mlで洗って洗液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(e)上記(c)および(d)で回収した濾液を一緒にして100mlにメスアップする。
(f)ティケーター社(スウェーデン)のケルテックオートシステムのケルダールチューブに上記(e)で得られた液体の25mlをホールピペットで入れて、分解促進剤(日本ゼネラル株式会社製「ケルタブC」;硫酸カリウム:硫酸銅=9:1(質量比))1錠および濃硫酸15mlを加える。
(g)上記したケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック分解炉(DIGESTION SYSTEM 20 1015型)を用いて、ダイヤル4で1時間分解処理を行い、さらにダイヤル9または10で1時間分解処理を自動的に行った後、この分解処理に続いて連続的に且つ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック蒸留滴定システム(KJELTEC AUTO 1030型)を用いて、その分解処理を行った液体を蒸留および滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記の数式により、試料(小麦粉)の可溶性粗蛋白質含量を求める。
【0014】
可溶性粗蛋白質含量(%)=0.14×(T−B)×F×N×(100/S)×(1/25)
式中、T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
B=ブランクの滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用時に測定するかまたは力価の表示の
ある市販品を用いる)
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
【0015】
(II)小麦粉の全粗蛋白質含量の測定
(a)上記(I)で用いたのと同じティケーター社のケルテックオートシステムのケルダールチューブに、試料(小麦粉)を0.5g精秤して入れ、これに上記(I)の(f)で用いたのと同じ分解促進剤1錠および濃硫酸5mlを加える。
(b)上記(I)で用いたのと同じケルテックオートシステムのケルテック分解炉を用いて、ダイヤル9または10で1時間分解処理を行った後、この分解処理に続いて連続的に且つ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれている上記(I)で用いたのと同じケルテック蒸留滴定システムを用いて、前記で分解処理を行った液体を蒸留および滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記の数式により、試料(小麦粉)の全粗蛋白質含量を求める。
【0016】
全粗蛋白質含量(%)=(0.14×T×F×N)/S
式中、T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用時に測定)
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
【0017】
(III)グルテンバイタリティの算出
上記(I)で求めた試料(小麦粉)の可溶性粗蛋白質含量および上記(II)で求めた試料(小麦粉)の全粗蛋白質含量から、下記の数式により、試料(小麦粉)のグルテンバイタリティを求める。
グルテンバイタリティ(%)=(可溶性粗蛋白質含量/全粗蛋白質含量)×100
【0018】
(3)α化度
本発明の菓子類用小麦粉は、α化度が0〜5%である。α化度が5%超であると、小麦粉中の澱粉のα化が進んでいることを意味し、生地に粘性が出て、得られるケーキ類やカステラ等の菓子類の二次加工性が劣ったものとなり、得られる菓子類の口溶けが悪くなり、また、独特の崩れるような脆さも得られない。
本発明の菓子類用小麦粉のα化度は、後述する本発明の菓子類用小麦粉の製造方法において、湿熱処理の条件により調整することができる。
α化度は、β−アミラーゼ・プルラナーゼ法により測定したものである。以下に、その測定法の内容について説明する。
【0019】
〔α化度の測定法〕
(A)試薬
使用する試薬は、以下の通りである。
1.0.8M酢酸−酢酸Na緩衝液
2.10N水酸化ナトリウム溶液
3.2N酢酸溶液
4.酵素溶液:β−アミラーゼ(ナガセ生化学工業(株)#1500)0.017gおよびプルラナーゼ(林原生物化学研究所、・31001)0.17gを上記0.8M酢酸−酢酸Na緩衝液に溶かして100mlとしたもの。
5.失活酵素溶液:上記酵素溶液を10分間煮沸させて調製。
6.ソモギー試薬およびネルソン試薬(還元糖量の測定用試薬)
【0020】
(B)測定方法
1.小麦粉をホモジナイザーで粉砕し、100メッシュ以下とする。この粉砕した小麦粉0.08〜0.10gをガラスホモジナイザーにとる。
2.これに脱塩水8.0mlを加え、ガラスホモジナイザーを10〜20回上下させて分散を行う。
3.2本の25ml容目盛り付き試験管に上記2,の分散液を2mlずつとり、1本は0.8M酢酸−酢酸Na緩衝液で定容し、試験区とする。
4.他の1本には、10N水酸化ナトリウム溶液0.2mlを添加し、50℃で3〜5分間反応させ、完全に糊化させる。その後、2N酢酸溶液1.0mlを添加し、pHを6.0付近に調整した後、0.8M酢酸−酢酸Na緩衝液で定容し、糊化区とする。
5.上記3.および4.で調製した試験区および糊化区の試験液をそれぞれ0.4mlとり、それぞれに酵素溶液0.1mlを加えて、40℃で30分間酵素反応させる。同時に、ブランクとして、酵素溶液の代わりに失活酵素溶液0.1mlを加えたものも調製する。酵素反応は途中で反応液を時々攪拌させながら行う。
6.上記反応済液0.5mlにソモギー試薬0.5mlを添加し、沸騰浴中で15分間煮沸する。煮沸後、流水中で5分間冷却した後、ネルソン試薬1.0mlを添加・攪拌し、15分間放置する。
7.その後、脱塩水8.00mlを加えた後、攪拌し、500nmの吸光度を測定する。
【0021】
(C)α化度の算出
下式によりα化度を算出する。
α化度(%)=(試験溶液の分解率)/(完全糊化試験溶液の分解率)×100
=(A−a)/(A’−a’)×100
式中、A、A’、aおよびa’は下記の通りである。
A=試験区の吸光度
A’=糊化区の吸光度
a=試験区のブランクの吸光度
a’=糊化区のブランクの吸光度
【0022】
(4)平均粒径
本発明の菓子類用小麦粉は、平均粒径が15〜50μm、好ましくは15〜40μm、さらに好ましくは20〜35μmである。菓子類用小麦粉の平均粒径をこの範囲に調節することで、得られる菓子類が、しっとり感と良好な口溶けと、崩れるような脆さのバランスが極めて好適なものとなる。
平均粒径が15μm未満であると、粉砕が過度なものであることを意味し、得られる菓子類はある程度の脆さはあるものの、しっとり感が十分とはいえず、口溶けも劣るようになり、さらに菓子用小麦粉の生産性にも劣るようになる。
また平均粒径が50μm超であると、粉砕が十分ではないことを意味し、得られる菓子類はしっとり感と口溶けはある程度は良いものの、独特の崩れるような脆さが得られない。
なお、本発明において、小麦粉の平均粒径および後述の各画分の含有割合を求めるには、各小麦粉の粒径分布を測定すればよい。この粒径分布は、例えば日機装株式会社製「マイクロトラック粒径分布測定装置9200FRA」を用いて乾式で測定することができる。なお粒径の頻度とは、粒径分布を解析し、計算した「検出頻度割合」である(日機装株式会社製の上記装置9200FRAに添付された資料「マイクロトラック粒度分析計測定結果の見方」参照)。
【0023】
(5)粒径60μm以上の粗粉画分の含有割合
本発明の菓子類用小麦粉は、粒径60μm以上の粗粉画分を5〜30質量%、好ましくは5〜20質量%含有する。
上記粗粉画分の含有割合が5質量%未満であると、得られる菓子類は崩れるような脆さはあるものの、しっとり感が十分とはいえず、口溶けもやや劣るようになり、また上記粗粉画分の含有割合が30質量%超であると、得られる菓子類はしっとり感と口溶けはやや良いものの、独特の崩れるような脆さが得られない。
【0024】
(6)粒径30μm以下の微粉画分の含有割合
本発明の菓子類用小麦粉は、粒径30μm以下の微粉画分を50〜80質量%、好ましくは55〜75質量%含有する。粒径30μm以下の微粉画分の含有割合をこの範囲に調節することで、得られる菓子類が、しっとり感と良好な口溶けと、崩れるような脆さのバランスが極めて好適なものとなる。
上記微粉画分の含有割合が50質量%未満であると、得られる菓子類はしっとり感と口溶けはある程度は良いものの、独特の崩れるような脆さが得られない。また上記微粉画分の含有割合が80質量%超であると、得られる菓子類はある程度の脆さはあるものの、しっとり感が十分とはいえず、口溶けも劣るようになり、さらに菓子用小麦粉の生産性にも劣るようになる。
【0025】
本発明の菓子類用小麦粉は、スポンジケーキ、ロールケーキ、シフォンケーキ、パンケーキなどのケーキ類、カステラ、ワッフル、ソフトワッフル、クッキー、クレープ、どら焼き、鯛焼きなどの菓子類、特に、スポンジケーキ、ロールケーキなどのケーキ類やカステラ、ソフトワッフルなどの製造に用いて好適なものである。
本発明の菓子類用小麦粉は、従来の菓子類用小麦粉と同様にして菓子類の製造に用いられる。すなわち、本発明の菓子類用小麦粉および目的とする菓子類に応じて他の原料を適宜混合し、常法に従って菓子類を製造することができる。
【0026】
次に、本発明の菓子類用小麦粉の製造方法について工程順に説明する。
まず、原料小麦を湿熱処理する。
上記湿熱処理は、加熱水蒸気により、原料小麦の品温が85〜100℃、好ましくは90℃〜97℃で、1〜5分間行う。
上記湿熱処理において、原料小麦の品温が85℃未満であると、湿熱処理が不足となり、得られる菓子類はしっとり感と口溶けはある程度は良いものの、独特の崩れるような脆さが得られない。また原料小麦の品温が100℃超であると、湿熱処理が過度となり、得られる菓子類はある程度の脆さはあるものの、しっとり感が十分とはいえず、口溶けも劣るようになる。また、湿熱処理時間が1分未満であると、湿熱処理が不足となり、得られる菓子類はしっとり感と口溶けはある程度は良いものの、独特の崩れるような脆さが得られない。また、5分超であると、湿熱処理が過度となり、得られる菓子類はある程度の脆さはあるものの、しっとり感が十分とはいえず、口溶けも劣るようになる。
【0027】
あるいは、原料小麦の湿熱処理を加熱水蒸気により、原料小麦の品温が60〜80℃で30分間〜3時間、好ましくは1〜2時間行う。
この湿熱処理において、原料小麦の品温が60℃未満であると、得られる菓子類はしっとり感と口溶けはある程度は良いものの、独特の崩れるような脆さが得られない。また原料小麦の品温が80℃超であると、得られる菓子類はやや脆さはあるものの、しっとり感が十分とはいえず、口溶けも劣るようになる。また、湿熱処理時間が30分未満であると、得られる菓子類はしっとり感と口溶けはやや良いものの、独特の崩れるような脆さが得らず、また、3時間を超えると、湿熱処理が長時間にわたるため菓子用小麦粉の生産性が劣るようになるだけでなく、湿熱処理が過度となり、得られる菓子類の口溶けが悪くなり、また、独特の崩れるような脆さも得られない。
【0028】
この湿熱処理を施した原料小麦(湿熱処理小麦)を常法に従って製粉することにより、グルテンバイタリティが35〜55%およびα化度が0〜5%である小麦粉が得られる。得られる小麦粉のグルテンバイタリティとα化度の調整は、湿熱処理の条件を、上記の範囲で調整・設定することにより行うことができる。
【0029】
原料小麦としては、本発明の菓子類用小麦粉の粗蛋白質含量が6.0〜9.5質量%となる小麦を用いる。具体的には、前述したように、アメリカ産ウエスタンホワイト、日本産普通小麦、オーストラリア産麺用小麦などの軟質系小麦を主体とする小麦を用いる。
原料小麦は、上記湿熱処理に先立ち、加水し、テンパリング(調質)を施すことが好ましい。加水・テンパリングは常法に従って行えばよく、例えば原料小麦100質量部に対し、水を3〜10質量部、好ましくは4〜7質量部を加えて、約4〜24時間、好ましくは約8〜16時間、例えば約12時間行う。
【0030】
湿熱処理した小麦の製粉は、常法により行えばよい。例えば、軟質系小麦を主体とする原料小麦に対して、常法に従って、ロールによる粉砕と、篩による篩分けを繰り返し行い、通常の小麦粉を製造する。その際の製粉歩留まりは、通常の菓子用小麦粉の範囲であるが、例えば、得られる小麦粉の灰分が0.30%〜0.55%、好ましくは0.35%〜0.43%の範囲になるように調整すればよい。
【0031】
上記のように製造した小麦粉をさらに分級して、粒径60μm以上の粗粉部分を除去して、前述した(4)〜(6)の粒度分布を有する本発明の菓子類用小麦粉を製造する。その分級手段としては、特に制限されるものではないが、篩により分級することが好ましい。分級する場合には、母体となる小麦粉の粒度等により異なるが、通常は目開き約60〜130μmの篩、好ましくは約80〜120μmの篩を用いればよい。なお、粒径60μm以上の粗粉部分の除去量は、分級前の母体小麦粉の粒度により異なるが、該母体小麦に対して、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。
以上の工程により、前述した(1)〜(3)の物性および(4)〜(6)の粒度分布を有する本発明の菓子類用小麦粉を製造することができる。
【実施例】
【0032】
本発明を具体的に説明するために実施例および比較例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0033】
〔実施例1〕
アメリカ産軟質小麦「ウエスタンホワイト」100質量部(水分含量約9質量%)に、1次加水として6質量部の加水を行い、よく攪拌した後、室温で約12時間のテンパリング(調質)を行った。この原料小麦をテクノベータに投入して、攪拌しながら、約100℃の水蒸気を吹き込んで1分間の湿熱処理(原料小麦の品温94℃)を行った。湿熱処理後、冷却用コンディショナーに投入し、約50分間滞留させて、出口品温約30℃に冷却した。得られた湿熱処理小麦に、2次加水として1質量部の加水を行い、室温で約6時間のテンパリング(調質)を行った。
次いで、湿熱処理小麦を通常の製粉工程にかけて挽砕し、灰分含量0.40質量%および粗蛋白質含量8.2質量%の小麦粉を得た。この小麦粉の粒度は、平均粒径が54μm、粒径60μm以上の粗粉画分が36質量%、粒径30μm以下の微粉画分が41質量%であった。この小麦粉を目開き95μmの篩で篩ってオーバー部分を除去(粒径60μm以上の粗粉部分を約30質量%除去)し、本発明の菓子類用小麦粉を得た。
得られた本発明の菓子類用小麦粉は、灰分含量0.41質量%、粗蛋白質含量8.2質量%、グルテンバイタリティ45%、α化度3%であった。また、測定の結果、平均粒径は32μm、粒径60μm以上の粗粉画分は20質量%、粒径30μm以下の微粉画分は58質量%であった。
【0034】
〔比較例1〕
原料小麦を湿熱処理せずに、原料小麦を常法に従って製粉後、得られた小麦粉を湿熱処理した以外は、実施例1と同様にして、菓子類用小麦粉を得た。
【0035】
〔比較例2〕
小麦粉を分級しなかった(すなわち目開き95μmの篩で篩ってオーバー部分を除去しなかった)以外は、実施例1と同様にして、菓子類用小麦粉を得た。
【0036】
〔比較例3〕
原料小麦を湿熱処理しなかった以外は、実施例1と同様にして、菓子類用小麦粉を得た。
【0037】
〔比較例4〕
原料小麦の湿熱処理時間を10分間とした以外は、実施例1と同様にして、菓子類用小麦粉を得た。
【0038】
〔比較例5〕
原料小麦の湿熱処理時間を30秒間とした以外は、実施例1と同様にして、菓子類用小麦粉を得た。
【0039】
〔試験例1〕
実施例1および比較例1〜5で得られた各菓子類用小麦粉の二次加工性を確認するために、以下の配合および工程でスポンジケーキを製造し、得られたスポンジケーキの質量および容積を測定するとともに、外観および食感を、表2に示す評価基準に基づいて、パネラー10名に評点させた。その測定結果および評点結果(平均点)を表1に示す。なお、表1には、菓子類用小麦粉を製造する際の湿熱処理条件、菓子類用小麦粉の物性や粒度分布なども併記した。
【0040】
〔スポンジケーキの配合〕
菓子類用小麦粉100質量部、砂糖135質量部、全卵180質量部、牛乳18質量部、バター18質量部。
〔スポンジケーキの製造工程〕
(1)軽くほぐした全卵および砂糖をミキサーボールに入れて、温度を23〜25℃に保ちながらホイッパーで混合し、比重0.26±0.01まで泡立てた。
(2)あらかじめ篩で一度篩っておいた菓子類用小麦粉を上記(1) に加え、かたまりが生じないように均一に混ぜ合わせて、比重0.38±0.01とした。
(3)牛乳とバターを一緒に湯煎で溶かしたものを上記(2) に加え、さらに混ぜ合わせて、均一で滑らかな状態の比重0.43±0.01のスポンジケーキ生地を調製した。
(4)上記(3)のスポンジケーキ生地を5号型に350g分注し、180℃のオーブンで30分間焼成し、スポンジケーキを得た。
(5)得られたスポンジケーキは、90分間の放冷を行い、所定の製品ボックスに入れ蓋をして一晩保管した後、評価試験に供した。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
〔実施例2〕
日本産普通小麦「チクゴイズミ」100質量部(水分含量約12質量%)に、1次加水として3質量部の加水を行い、よく攪拌した後、室温で約12時間のテンパリング(調質)を行った。この原料小麦をテクノベータに投入して、攪拌しながら、約100℃の水蒸気を吹き込んで1.5分間の湿熱処理(原料小麦の品温90℃)を行った。湿熱処理後、冷却用コンディショナーに投入し、約50分間滞留させて、出口品温約30℃に冷却した。次いで、2次加水として1質量部の加水を行い、室温で約6時間のテンパリング(調質)を行った。
次いで、この湿熱処理小麦を通常の製粉工程にかけて挽砕し、灰分含量0.38質量%および粗蛋白質含量7.2質量%の小麦粉を得た。この小麦粉を目開き約90μmの篩で篩ってオーバー部分を除去(粒径60μm以上の粗粉部分を32質量%除去)し、本発明の菓子類用小麦粉を得た。
得られた本発明の菓子類用小麦粉は、灰分含量0.36質量%、粗蛋白質含量6.7質量%、グルテンバイタリティ48%、α化度4%であった。この小麦粉の平均粒径は25μm、粒径60μm以上の粗粉画分は8質量%、粒径30μm以下の微粉画分は72質量%であった。
【0044】
〔実施例3〕
日本産普通小麦「チクゴイズミ」100質量部(水分含量約12質量%)に、1次加水として3質量部の加水を行い、よく攪拌した後、室温で約12時間のテンパリング(調質)を行った。この原料小麦を、68℃で2時間の湿熱処理(原料小麦の品温65℃)を行った。湿熱処理後、冷却用コンディショナーに投入し、約50分間滞留させて、出口品温約30℃に冷却した。得られた湿熱処理小麦に、2次加水として1質量部の加水を行い、室温で約6時間のテンパリング(調質)を行った。
次いで、実施例2と同様に製粉して小麦粉を得た。この小麦粉を目開き約100μmの篩で篩ってオーバー部分を除去(粒径60μm以上の粗粉部分を30質量%除去)し、本発明の菓子類用小麦粉を得た。
得られた本発明の菓子類用小麦粉は、灰分含量0.38質量%、粗蛋白質含量7.0質量%、グルテンバイタリティ53%、α化度4%であった。また、平均粒径は26μm、粒径60μm以上の粗粉画分は9質量%、粒径30μm以下の微粉画分は70質量%であった。
【0045】
〔実施例4〕
原料小麦の湿熱処理温度を77℃(原料小麦の品温75℃)で、湿熱処理時間を1時間とした以外は、実施例3と同様にして、菓子類用小麦粉を得た。
【0046】
〔比較例6〕
原料小麦の湿熱処理時間を3.5時間とした以外は、実施例4と同様にして、菓子類用小麦粉を得た。
【0047】
〔試験例2〕
実施例2〜4および比較例6で得られた各菓子類用小麦粉の二次加工性を確認するために、実施例1と同様にして、スポンジケーキを製造し、得られたスポンジケーキの質量および容積を測定するとともに、外観および食感を評点させた。その測定結果および評点結果(平均点)を表3に示す。なお、表3には、菓子類用小麦粉を製造する際の湿熱処理条件、菓子類用小麦粉の物性や粒度分布なども併記した。
【0048】
【表3】

【0049】
〔実施例5〜7および比較例7〜10〕
原料小麦の湿熱処理時間を下記の表4に示す条件で行い、次いで、湿熱処理小麦を通常の製粉工程にかけて挽砕して小麦粉を得た。得られた小麦粉を下記の表4に示す篩を用いてあるいは空気分級機を用いて分級して粒径60μm以上の粗粉部分を除去し、実施例5〜7および比較例7〜10の各菓子用小麦粉を得た。
【0050】
〔試験例3〕
実施例5〜7および比較例7〜10の各菓子用小麦粉を用いて、実施例1と同様にして、スポンジケーキを製造し、得られたスポンジケーキの質量および容積を測定するとともに、外観、内相および食感を評点させた。その測定結果および評点結果(平均点)を表4に示す。なお、表4には、菓子類用小麦粉を製造する際の湿熱処理条件、菓子類用小麦粉の物性や粒度分布なども併記した。
【0051】
【表4】

【0052】
〔試験例4〕
実施例1および比較例1〜5で得られた各菓子類用小麦粉の二次加工性をさらに確認するために、以下の配合および工程で長崎カステラを製造し、得られた長崎カステラの外観および食感を、表2に示す評価基準に基づいて、パネラー10名に評点させた。その測定結果および評点結果(平均点)を表5に示す。
【0053】
〔長崎カステラの配合〕
菓子用小麦粉100質量部、砂糖180質量部、全卵200質量部、水飴30質量部、蜂蜜20質量部、水20質量部。
〔長崎カステラの製造工程〕
(1)かるくほぐした全卵と砂糖をミキサーボールに入れて、温度を25〜28℃に保ちながらホイッパーで混合し、比重0.45±0.01まで泡立てた。
(2)水飴、蜂蜜、水を一緒に湯煎にかけて30℃のシロップ状にしたものを、上記(1)に徐々に加えながら均一に混合し、比重0.48±0.01に調整した。
(3)あらかじめ篩で一度ふるっておいた菓子用小麦粉を上記(2)に加え、かたまりが生じないように均一に混ぜ合わせ、比重0.52±0.01として長崎カステラ生地を得た。
(4)得られた長崎カステラ生地を、そのまま20分間室温に静置した。
(5)上記(4)の長崎カステラ生地を専用木枠1斤あたり600g分注し、上面を均一にならして上火210℃、下火150℃に余熱したオーブンに入れた。
(6)オーブンに入れて10分経過後に、専用木枠ごと静かにオーブンから引き出し、表面に霧吹きを行ってから生地を木箆で均一に撹拌して、元に戻して焼成を継続した。
(7)さらに10分経過してから同様の操作を再度行った後に、専用木枠の上面に鉄板を載せてからオーブンに戻し、合計50分間の焼成を行い、長崎カステラを得た。
(8)得られた長崎カステラは、120分間の放冷を行った後に、所定の製品ボックスに入れて蓋をして一晩保管し、翌日に外観および食感の評価を行った。
【0054】
【表5】

【0055】
〔試験例5〕
実施例1および比較例1〜5で得られた各菓子類用小麦粉を用いて、以下の配合および工程でクッキーを製造し、得られたクッキーの直径および厚さを測定するとともに、食感を下記の表6に示す評価基準に基づいて、パネラー10名に評点させた。その評点結果(平均点)を表7に示す。
【0056】
〔クッキーの配合〕
菓子用小麦粉100質量部、ベーキングパウダー0.5質量部、バター60質量部、砂糖45質量部、食塩0.5質量部、全卵18質量部。
〔クッキーの製造工程〕
(1)バターと砂糖と食塩をミキサーボールに入れて、均一なクリーム状になるようにビーターで混合した。
(2)ほぐした全卵を上記(1)に徐々に加えながら均一に混合し、比重0.82±0.02に調整した。
(3)菓子用小麦粉とベーキングパウダーをあらかじめ篩で一度ふるい、かたまりが生じないように上記(2)に均一に混ぜ合わせてクッキー生地を得た。
(4)ミキサーボールからクッキー生地を取り出し、乾燥しないように所定のボックスに入れて、5℃の冷蔵庫で一晩冷却保管した。
(5)冷却したクッキー生地を冷蔵庫から取り出し、麺棒で3mmの厚さに均一に延ばし、直径7cmのステンレス製円形型を用いて抜き、天板に等間隔に並べた。
(6)180℃に余熱したオーブンで上記(5)を15分間焼成し、クッキーを得た。
(7)得られたクッキーは、60分間の放冷を行った後に、所定の製品ボックスに入れて蓋をして一晩保管し、翌日に直径および厚さの測定と食感の評価を行った。
【0057】
【表6】

【0058】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(3)の物性および下記(4)〜(6)の粒度分布を有する菓子類用小麦粉の製造方法であって、
軟質系小麦を主体とする原料小麦を、加熱水蒸気により、原料小麦の品温が85〜100℃で1〜5分間湿熱処理するか、あるいは原料小麦の品温が60〜80℃で30分間〜3時間湿熱処理し、次いで、この湿熱処理小麦を常法に従って製粉し、得られた小麦粉を分級して粒径60μm以上の粗粉部分を除去して、その粒度分布を下記(4)〜(6)の範囲に調整することを特徴とする菓子類用小麦粉の製造方法。
(1)粗蛋白質含量が6.0〜9.5質量%
(2)グルテンバイタリティが35〜55%
(3)α化度が0〜5%
(4)平均粒径が15〜50μm
(5)粒径60μm以上の粗粉画分の含有割合が5〜30質量%
(6)粒径30μm以下の微粉画分の含有割合が50〜80質量%
【請求項2】
分級手段が篩によるものである、請求項1記載の菓子類用小麦粉の製造方法。

【公開番号】特開2012−254052(P2012−254052A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130048(P2011−130048)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(301049777)日清製粉株式会社 (128)
【Fターム(参考)】