説明

落下防止用命綱フック

【課題】部品点数を抑えることにより軽量化を図り、且つ、支持部の前後で常に何れかのフックが親綱に係留した状態を保持することができる簡易な構成の落下防止用命綱フックを提供する。
【解決手段】落下防止用命綱フック1は、板状のベース部2の上方に2組のフック部4を設け、下方に命綱22が連結される。各フック部4は基端部8cを中心に遥動可能な鉤状体8と、この鉤状体8の一方向への遥動を抑止するストッパ部6とからなる。鉤状体8はストッパ部6の圧接部6aに圧接されるように付勢されている。命綱22が作業者により矢印Bの方向へ引っ張られ、親綱20に沿って矢印Aの方向へ摺動し、鉤状体8の鉤腕部8aに中間支持体21が当接した際、摺動方向前方側のフック部4から順次開閉することにより中間支持体21を通過させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高所作業において、複数の支持部により支持された親綱に命綱を係留するための落下防止用命綱フックに関する。
【背景技術】
【0002】
高所作業では、足場を設け、横方向に張設した親綱(ロープ、ワイヤ、トロリー線など)に命綱を繋いで作業するのが一般的である。そして、このような親綱は一般的に、所定間隔で中間支持体によりT字状に支持されている。このため、フックなどを利用して命綱を親綱に係留し、このフックを親綱に沿って摺動させることにより作業者の横方向への移動を可能にしている場合、所定間隔に設けられた中間支持体が障害となる。摺動によりフックが中間支持体の設けられている位置に達したとき、そのままではその中間支持体を通過することはできず、一旦フックを親綱から離脱させなければならない。
【0003】
このように、中間支持体を通過する毎に、命綱を親綱から離さなければならないため、作業者は危険な状態となる。そのため、作業時に係留される主フックと併せて副フックを用い、中間支持体に主フックが到達したときに、この主フックを親綱から離脱させる前に、副フックを係留して作業者と親綱との係留状態を保持したまま、主フックを付け替えるという、いわゆる「二丁掛け」による安全対策が採られることが多い。
【0004】
上述のように、親綱は所定間隔毎に中間支持体により支持されているが、作業者が落下した際に地面に接触しないように十分な安全を確保することのできる間隔に設置する必要がある。この間隔は、親綱の材質に応じて異なるが、短い間隔で支持されている場合などは、フックの付け替えが煩わしく、作業効率が低下する。このため、副フックを使用せず、主フックの付け替えを行うといった危険な状態で作業が行われる虞がある。
【0005】
そこで、従来から、中間支持体を通過する度に作業者がフックの付け替えに煩わされることなく、親綱への係留状態を保持しながら、中間支持体の支持部を通過することのできる連結具が考えられている。
【0006】
図7は、従来の安全帯掛止装置101を示した図である。この図で(a)は親綱110と直交する方向から安全帯掛止装置101の係留状態を見た図であり、また、(b)は親綱110の延びる方向から見た図である。
【0007】
この安全帯掛止装置101の本体部102は、2枚の円板105と、これら2枚の円板105同士を繋ぐ筒軸104とにより、糸巻き型に構成されている。また、安全帯掛止装置101の下方には、命綱を締結するための締結部108が設けられており、この締結部108は、上述の2枚の円板105を外側から覆うように配置された可動連結部103と一体になっている。
【0008】
そして、この可動連結部103は、本体部102に対して相対回転可能となるように軸支されている。ただし、下方の締結部108が摺動方向の前方側へ引っ張られたときに可動連結部103と本体部102とが一体となって前方側へ傾き、後方側へ締結部108が引っ張られる場合には、本体部102に対する可動連結部103の相対回転が許容されるように、一方向への回動が規制されている。
【0009】
また、本体部102を構成する2枚の円板105の間には4本のフック106が設けられている。これらフック106は、筒軸104から半径方向へ十字状に延びるように配置
されており、それぞれの先端は、筒軸104と平行になるようにL字型に折り曲げられて係止部107が形成されいる。そして、これら係止部107は、いずれも、筒軸104に繋がる軸を中心として揺動可能に配置され、親綱110と直交する状態となるように付勢されている。さらに、各係止部107は、親綱110への係留状態にある位置関係において、安全帯掛止装置101の摺動方向後方側へ開く向きの回動を規制されている。
【0010】
ここで、摺動する安全帯掛止装置101が中間支持体111による支持位置に到達すると、親綱110に係留している係止部107は、後方側への回動が規制されているので開くことはできず、中間支持体111に圧接状態となり、下方の締結部108側のみが摺動方向前方側へ引っ張られる。これにより、上述のように、本体部102が一体となって前方側へ傾き、親綱110に係留状態となっているフック106、すなわち、中間支持体111に圧接状態となっているフック106に隣接する(前方側の)フック106が、下方側から親綱110に近付く。
【0011】
このとき、この下方側から親綱110に近付くフック106の係止部107は、親綱110に下方側から当接状態となるが、上述のように、この場合の係止部107は、親綱110と反対側へ開く向きの回動は許容されているので、付勢に抗して回動し、下側から上側へ抜けて親綱110に係留状態となることが可能である。このようにして中間支持体111よりも摺動方向前方側でフック106が親綱110に係留した後、元の中間支持体111の後方側で当接状態となっていたフック106の係止部107は上方に向かって開くように回動するので、親綱110から下方側へ外れることができる。
【0012】
以上のように、作業者の移動に伴い、命綱を介して安全帯掛止装置101の締結部108が引っ張られるだけで、中間支持体111を挟んで2本の隣り合ったフック106が自動的に入れ替わることができる。したがって、作業者はフック106の付け替えに煩わされることなくスムーズに中間支持体111を通過することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−98046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記安全帯掛止装置101では、中間支持体111を越える際に、入れ替えに関わるフック106は4本備えられているうちの隣り合った2本のみであり、少なくとも、この入れ替え時においては、その他の2本のフック106は余分である。
【0015】
上記の安全帯掛止装置101の構成では、中間支持体111の位置で締結部108が作業者に引っ張られて傾くとき、それぞれの入れ替えに関わる2つのフック106の係止部107には、両者とも、付勢されている方向とは逆の開放される向きに親綱110が当接する。
【0016】
すなわち、元から親綱110に係留状態となっている側の係止部107は、本体部102の下方側が摺動方向前方側へ傾くことにより、開放可能な揺動方向が上に向くように一体となって傾く。このため、上側へ開いて親綱110の下側へ外れ易い状態となる。
【0017】
一方、本体部102の下方側が摺動方向前方側へ傾くことにより、下方側から親綱110に当接状態となる係止部107は、下側に開いて親綱110の上側へ係留し易い状態となる。
【0018】
したがって、極端な例を挙げると、入れ替わる2本の隣り合ったフック106同士が、略180°の間隔を空けて配置されている場合、それぞれ押圧状態となる親綱110からの力により同時に係止部107が回動を始めてしまい、フック106の入れ替えがうまく機能しない。
【0019】
つまり、親綱110に対して係止部107の揺動方向が平行にならないようにフック106を配置する必要がある。言い換えれば、周方向に180°よりも小さい角度を空けて配置する必要があるため、周上に少なくとも3〜4個のフック106を設ける必要がある。
【0020】
このため、構成部品が増えてコストが増大するとともに、部品の増加した分だけ重量が増すので、高所での扱いが困難となる。
【0021】
そこで、本発明では、上記課題を解決するために、部品点数を抑えることにより軽量化を図り、且つ、中間支持体の前後で常に何れかのフックが親綱に係留した状態を保持することができる簡易な構成の落下防止用命綱フックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため、本発明の落下防止用命綱フックは、中間支持体により所定間隔で支持され、横方向に張設された親綱に沿って摺動可能に係留されると共に、命綱が連結された落下防止用命綱フックであって、ベース部と、ベース部の上方に突設される第1及び第2の線状体からなり、第1の線状体は折り曲げられた先端部がベース部から上方に延びる基端部を軸心として揺動可能となると共に、第2の線状体の側面のうち摺動方向後方側から先端部に圧接するように付勢され、この圧接状態で第1及び第2の線状体とベース部とにより親綱が貫通可能な環形状が形成された、少なくとも2組のフック部と、ベース部に設けられ、命綱が連結される連結部とを備えたことを特徴とする。
【0023】
このように構成すると、作業者に繋がった命綱が引っ張られ、2組のフック部のうち、摺動方向の前方側のフック部の第1の線状体の先端部に、親綱の中間支持体が当接状態となると、付勢力に抗しながら第1の線状体が揺動して第2の線状体から摺動方向後方側へ離れ、環形状が開放状態となる。そして、中間支持体を通過後、付勢力により戻った第1の線状体と第2の線状体とは元の圧接状態となり、再び環形状が形成される。さらに、摺動方向の後方側のフック部が同様に、第1の線状体の揺動開閉により中間支持体を通過させる。
【0024】
このように、摺動方向の前方側のフック部が開閉動作を伴って中間支持体を通過させ、元の環形状が形成された後に、次の摺動方向後方側のフック部が開閉動作を開始するので、常に、親綱に対して少なくとも一つのフック部が係留状態を保持する。これにより、中間支持体を通過する場合においても、親綱から命綱が離脱状態となることを防止でき、作業者の安全を確保すると共にスムーズな移動を可能とする。
【0025】
また、本発明の落下防止用命綱フックは、上記構成に加え、第1の線状体が、基端部と先端部との間に折曲げ部が形成され、折曲げ部は、その折曲げの内径を親綱の外径よりも小さくなるように形成されると共に、第2の線状体に対する第1の線状体の圧接部よりも高い位置に形成されていることを特徴とする。
【0026】
このように構成すると、係留状態における親綱は、フック部の形成する環形状の中で、圧接部よりも高い位置に形成されている折曲げ部側に偏る。
【0027】
このように、折曲げ部と圧接部との間に高低差が設けられているので、摺動状態におい
て、フック部内における親綱の位置が安定することにより、落下防止用命綱フックの姿勢が安定し、スムーズな摺動が可能となる。
【0028】
また、本発明の落下防止用命綱フックは、上記構成に加え、先端部が、折曲げ部から圧接部に向かって下方へ45°以下の角度で傾斜していることを特徴とする。
【0029】
このように構成すると、第1の線状体と第2の線状体とが圧接状態にあるとき、先端部の下端側は、親綱の上端に対して45°以下の角度で当接する。
【0030】
このように、先端部の下端側が親綱に対して45°以下の角度で当接するので、揺動状態であっても、先端部は親綱の上端側の一部としか接しない。したがって、揺動時の親綱に対する第1の線状体との摩擦が低減され、スムーズな揺動が可能となる。
【0031】
また、本発明の落下防止用命綱フックは、先端部が、折曲げ部と前記圧接部との間で下方に凸になるよう湾曲形成されていることを特徴とする。
【0032】
このように構成すると、親綱の上端に対して、先端部の下端側は点接触となる。
【0033】
これにより、揺動の際の、親綱と第1の線状体の先端部との間の摩擦が更に低減される。
【発明の効果】
【0034】
以上のように、本発明では、中間支持体を通過するときに、親綱への係留が解除されるフック部と、係留が維持されるフック部の必要最小限の2つのフック部のみから落下防止用命綱フックは構成されているので、不要なフック部が含まれない分だけ部品コストを低減することが可能となる。また、少ない部品により簡易に構成することにより軽量化を図ることができるので、安定性に欠ける高所作業などにおいては、取扱いが容易であり作業の安全性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る落下防止用命綱フックの係留状態を示した斜視図である。
【図2】図1の落下防止用命綱フックの係留状態の底面側の斜視図である。
【図3】図1の落下防止用命綱フックの、中間支持体通過時の状態を示した図であり、(a)は摺動方向前方側のフック部が中間支持体を通過する時を示し、(b)は摺動方向後方側のフック部が中間支持体を通過する時を示した図である。
【図4】図1の落下防止用命綱フックのフック部周辺を、摺動方向の前方側から見た側面図である。
【図5】図1の落下防止用命綱フックのフック部の折曲げ部周辺の拡大図である。
【図6】図1の落下防止用命綱フックの鉤状体の回動状態を上方から見た図である。
【図7】従来の安全掛止装置の使用状態を示した図であり、(a)は摺動方向に垂直な方向から見た図、(b)は摺動方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明の実施の形態について、図を用いて説明する。
【0037】
(第1の実施の形態)
本実施の形態では、高所作業として架線工事を例に挙げ、吊架線に接続されたトロリー線を親綱とした場合において、このトロリー線へ命綱を係留するための落下防止用命綱フックの構成を示す。
【0038】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る落下防止用命綱フック1の使用状態を示している。また、図2は、図1の落下防止用命綱フック1を底面側から見た図である。
【0039】
図1及び図2中、二点鎖線で示した部分は、親綱としてのトロリー線20の一部と、このトロリー線20を吊架線に接続するための中間支持体21である。
【0040】
落下防止用命綱フック1は、板状のベース部2の下方に命綱22を締結するための締結部(連結部)10(図2にのみ表される。)が設けられている。そして、上方には、2組のフック部4がトロリー線20の張設される方向に並んで配置されている。
【0041】
2組のフック部4は、中間位置で鉤状に折り曲げられた鉤状体8(第1の線状体)と、ベース部2に対して略垂直上方に向かって突設されるストッパ部6(第2の線状体)とから構成されている。この鉤状体8は、ベース部2から上方に向かってストッパ部6と略平行に突設される基端部8cと、折曲げ部8bと、ストッパ部6の先端側へ向かって延びる鉤腕部8a(第1の線状体の先端部)とから形成されている。
【0042】
鉤状体8の鉤腕部8aは、ベース部2に対して、基端部8cの軸心回りに揺動可能となる。そして、鉤腕部8aの先端がストッパ部6の上方の圧接部6aに圧接されるように付勢されている。このように、ストッパ部6は、鉤腕部8aがトロリー線20と略直交する方向で回動を抑制する位置に設けられている。これにより、ストッパ部6、鉤状体8及びベース部2により環形状が形成される。
【0043】
使用状態においては、この環形状の内側をトロリー線20が貫通するように、2組のフック部4がトロリー線20に対して係留される。また、落下防止用命綱フック1は、トロリー線20に対して、ストッパ部6へ鉤腕部8aが押圧される向きを摺動の前方側へ向けるように設置される。この前方側は、図1及び図2中では矢印Aで示されている。
【0044】
なお、鉤状体8に付勢力を与える構成については、図2の底面側の構造に示されている。図2にて判るように、鉤状体8の基端部8cの下端側は、ベース部2の下面側へ貫通しており、ナット13で締結されている。そして、このナット13とベース部2との間にスプリング12が設けられている。このスプリング12の弾性力により、鉤状体8はベース部2に対して付勢された状態となる。
【0045】
次に、この落下防止用命綱フック1が中間支持体21を通過する際の、フック部4の動きについて、図3を用いて説明する。
【0046】
図3(a)は、摺動方向前方側のフック部4が中間支持体21に当接した状態を示し、(b)は、摺動方向後方側のフック部4が中間支持体21に当接した状態を示している。図3(a)に示すように、作業員の移動に伴って命綱22が矢印Bの方向へ引き寄せられ、落下防止用命綱フック1が矢印Aの方向へ摺動したとき、先ず、摺動方向前方側のフック部4が中間支持体21に当接する。このとき、鉤状体8の鉤腕部8aが中間支持体21からの反力を受けて圧接部6aから離れ、摺動方向後方側へ揺動する。これにより、鉤状体8、ストッパ部6及びベース部2で形成されていた環形状が開状態となる。
【0047】
そして、摺動方向前方側に配置されたフック部4が中間支持体21を通過した後は、その前方側の鉤状体8は付勢により元の位置へ向かって回動し、鉤腕部8aが圧接部6aに圧接された状態に戻る。
【0048】
続いて、図3(b)に示すように、摺動方向後方側のフック部4の鉤腕部8aが、中間
支持体21に当接状態となる。そして、前方側の鉤腕部8aと同様に、中間支持体21に押圧されることにより、後方側の鉤腕部8aも開放状態となり、中間支持体21を後方側へ通過させることができる。
【0049】
このように、本実施の形態における落下防止用命綱フック1によれば、摺動方向前方側のフック部4が開放されるときは、後方側のフック部4はトロリー線20に係留状態であり、また、摺動方向後方側のフック部4が開放されるときは、前方側のフック部4がトロリー線20に対して係留されているため、常に良好な状態が保持されている。このような落下防止用命綱フック1の働きにより、作業者は、中間支持体21に到達する度に、フックの付け替えを行う必要はなく、単に命綱22を引き寄せるだけで、中間支持体21をスムーズに通過することが可能となる。
【0050】
このため、本来行うべき作業の妨げとなることはなく、作業効率が飛躍的に向上すると共に、手持ち工具の持ち替えを行う必要もないので、バランスを崩しやすい高所作業において、安全性が高まる。
【0051】
続いて、鉤状体8の鉤腕部8aの形状について図4を用いて説明する。図4は、落下防止用命綱フック1のフック部4の周辺について摺動方向前方側から後方側を見た拡大図である。この図4にて明らかなように、本実施の形態の落下防止用命綱フック1は、鉤状体8の折曲げ部8bの折曲げ内径40が、トロリー線20の外径41よりも小さくなるように折曲げ形成されている。また、この折曲げ位置30は、鉤腕部8aのストッパ部6の圧接部6a(図示せず)に対する当接位置31よりも高い位置に形成されている。
【0052】
これにより、トロリー線20の上端側と折曲げ部8bとの間には隙間が生じる。すなわち、折曲げ部8bに対するトロリー線20の接触面積を小さくすることができるため、鉤状体8がトロリー線20に摺接しながら回動するときの摩擦が低減され、スムーズに中間支持体21を通過することができる。
【0053】
図5は、この折曲げ部8bの周辺を更に拡大した図である。この図5から判るように、本実施の形態では、鉤腕部8aは、折曲げ部8bから圧接部6a(図示せず)に向かって45°よりも小さい角度で下方へ傾斜している。これにより、鉤腕部8aのトロリー線20に対する当接領域20aは、鉛直方向から45°の範囲内に収まり、揺動の際の抵抗を小さくすることができる。この鉤腕部8aとトロリー線20の上端側との間に働く力について、さらに図6を併用して説明する。
【0054】
図6は、図5の鉤状体8の折曲げ部8bの周辺を上方から見た図である。この図6に示すように、鉤腕部8aが中間支持体21により摺動方向後方側へ押されて回動するとき、中間支持体21を後方側へ通過させるためには、一旦、その鉤腕部8aがトロリー線20の上端を乗り越える位置にまで鉤状体8を回動させなくてはならない。このとき、図6中の矢印Cの向きに、鉤腕部8aからトロリー線20側へ向かって力が加わり、これに対して矢印Dの向きに、トロリー線20から鉤腕部8aへの抗力が生じる。この様子を図5の側面図で見ると、矢印C及矢印Dの方向に生じる力に対して、水平方向の成分は、分力fc及び分力fdで表される。
【0055】
つまり、下方に傾斜した鉤腕部8aが基端部8cを中心に回動するとき、鉤腕部8aとトロリー線20との間には互いに垂直抗力が生じ、このうち、水平方向の分力が回動時の抵抗力となって、その動作に大きく影響を与える。したがって、この水平方向の分力が小さい程、回動は容易になるが、このためには、鉤腕部8aとトロリー線20との間に生じる垂直抗力の方向が、できるだけ鉛直方向に近い方が好ましい。言い換えれば、トロリー線20のできるだけ上方で鉤腕部8aが当接状態となるのが好ましい。
【0056】
本実施の形態における落下防止用命綱フック1では、上述のように鉤腕部8aの傾斜が45°以下となるように形成されているので、回動の際に生じる水平方向成分の分力fc及びfdは小さくなり、鉤状体8の開閉動作がスムーズになる。
【0057】
また、本実施の形態における落下防止用命綱フック1では、トロリー線20に対して2つのフック部4を係留させるので、命綱22に引っ張られる方向が変化しても、鉤状体8の基端部8cの軸方向は、トロリー線20の延びる方向に対して略直交する方向を維持することができる。これにより、中間支持体21に当接して回動する鉤腕部8aの軌跡が描く面は、常にトロリー線20に対して一定の方向を向くので、回動に伴うトロリー線20との摩擦による抵抗を一定に保持することができ、動作を安定させることが可能となる。
【0058】
尚、上記の実施の形態において示した落下防止用命綱フックの構成では、鉤腕部8aが折曲げ部8bから下方に向けて略直線状に延び、中間位置を越える位置から先端に向かって略水平方向に向きを変えるように湾曲した鉤形状を例として示した。
【0059】
しかし、これに限らず、折曲げ部から圧接部まで直線状に形成されていても良い。また、折曲げ部から圧接部に向かって全体が下方に凸となるように湾曲形成されていても良い。このように下方側に凸となるように湾曲形成されていると、トロリー線に対する鉤腕部の接触面積を更に小さくすることができ、よりスムーズに鉤状体を回動させることが可能となる。
【0060】
また、上記の実施の形態では、フック部が形成する環形状は、摺動方向に対して略直交する平面内に形成される構成を例として示したが、これに限らず、摺動方向に対して傾いていても構わない。さらに、2組のフック部の環形状が形成される平面が平行である必要もない。
【0061】
さらに、上記の実施の形態では、2組のフック部が同一形状である構成を例として示したが、大きさに差を設けても良く、また、両者の形状が異なっていても構わない。
【0062】
また、上記の実施の形態では、架線工事等においてトロリー線に係留される落下防止用命綱フックの構成を例として示したが、これがロープやワイヤなどであっても同様の効果を得ることができる。
【0063】
また、上記の実施の形態では、フック部を2組備えた構成例を示したが、少なくとも2組備えていれば、これ以上の数のフック部を備える構成であっても構わない。このように、2組以上フック部を備えると、鉤腕部の回動軌跡の描く面の向く方向が更に安定する。
【0064】
さらに、上記の実施の形態では、ベース部の底面側に命綱を締結する締結部を設けた例を示したが、この位置は、少なくとも、命綱が引き寄せられたときに、フック部の形成する環形状の中でトロリー線が折曲げ部側に寄った状態を保持できる位置であれば良く、底面側以外の位置に締結部が設けられた構成であっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、所定間隔に設けた支持部材により支持される親綱に対して係留されるフック等の係留具を、作業者が着脱作業を行うことなく引き寄せるだけで支持部材を通過することができるので、橋梁等の構造物や、鉄塔、架空電線などの高所作業において親綱に命綱を係留させる場合に有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 落下防止用命綱フック
2 ベース部
4 フック部(第1及び第2の線状体)
6 ストッパ部(第2の線状体)
6a 圧接部
8a 鉤腕部(先端部)
8 鉤状体(第1の線状体)
8c 基端部
10 締結部
12 スプリング
20 トロリー線(親綱)
21 中間支持体
22 命綱
30 折曲げ位置
31 当接位置
40 内径
41 外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間支持体により所定間隔で支持され、横方向に張設された親綱に沿って摺動可能に係留されると共に、命綱が連結された落下防止用命綱フックであって、
ベース部と、
前記ベース部の上方に突設される第1及び第2の線状体からなり、第1の線状体は折り曲げられた先端部が前記ベース部から上方に延びる基端部を軸心として揺動可能となると共に、前記第2の線状体の側面のうち摺動方向後方側から前記先端部に圧接するように付勢され、この圧接状態で前記第1及び第2の線状体と前記ベース部とにより前記親綱が貫通可能な環形状が形成された、少なくとも2組のフック部と、
前記ベース部の下側に設けられ、前記命綱が連結される連結部と、
を備えたことを特徴とする落下防止用命綱フック。
【請求項2】
前記第1の線状体は、前記基端部と前記先端部との間に折曲げ部が形成され、
前記折曲げ部は、その折曲げの内径を前記親綱の外径よりも小さくなるように形成されると共に、前記第2の線状体に対する前記第1の線状体の圧接部よりも高い位置に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の落下防止用命綱フック。
【請求項3】
前記先端部は、前記折曲げ部から前記圧接部に向かって下方へ45°以下の角度で傾斜している
ことを特徴とする請求項2に記載の落下防止用命綱フック。
【請求項4】
前記先端部は、前記折曲げ部と前記圧接部との間で下方に凸になるよう湾曲形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の落下防止用命綱フック。

【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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