説明

落雪被害防止架空送電線及びそれに用いる融雪リング

【課題】架空送電線に付着した雪を全体的に融かすのではなく、架空送電線に付着した雪を分断して、落雪の大きさを小さくすることで、落雪被害を防止する落雪被害防止架空送電線を提供する。
【解決手段】架空送電線5に、その長手方向に間隔をあけて、融雪リング1を取り付ける。融雪リング1は、強磁性体リング2の内周面に断熱層を設けたものからなる。強磁性体リング2と架空送電線5の間に断熱層が介在するため、強磁性体リングで発生した熱が架空送電線に吸収され難くなる。強磁性体リングの温度が効率よく上昇し、降雪時に、リングを取り付けた部分だけは確実に雪が融け、架空送電線の着雪が長手方向に分断される。融雪リング取付け間隔Dを、落雪があっても線下の構造物に被害を及ぼさない程度(例えば50cm以下)に小さくしておくことにより、落雪による被害を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空送電線に付着した雪による落雪被害を防止する架空送電線と、それに用いる融雪リングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
架空送電線に着雪が発生すると、それが落下したときに、線下の瓦屋根やビニールハウス、温室などに被害を及ぼすことがあり、その対策が求められている。
【0003】
落雪被害防止対策としては従来から、架空送電線に融雪スパイラルロッドを巻き付けることが行われていた。融雪スパイラルロッドは、低キュリー点の磁性線材にアルミめっきやアルミ被覆を施したもので、これを架空送電線に巻き付けておくと、電線に流れる電流により発生する交番磁界で磁性線材が発熱し、着雪を融かす、というものである(特許文献1参照)。
【0004】
また、架空送電線に強磁性体からなるリングを取り付け、融雪スパイラルロッドと同様の原理でリングを発熱させて、着雪を融かす、というアイデアも提案されている(特許文献2参照)
【0005】
【特許文献1】特開2000−184567号公報
【特許文献2】特開平5−292639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記融雪スパイラルロッドは、電線に十分に電流が流れている場合は、発熱量が大きく、電線の温度を十分上昇させて、効果的に融雪することが可能である。しかし、冬季は潮流が小さい送電線が多く、融雪スパイラルロッドを巻き付けても電流不足で十分に発熱せず、融雪できない場合があった。
【0007】
また、前記強磁性体リングを取り付けて、電線に付着した雪を全て融かすためには、強磁性体リングを隙間なく取り付ける必要があり、そうすると、電線の重量が非常に大きなものとなり、鉄塔の強度不足が問題となるため、現実的ではない。
【0008】
本発明の目的は、架空送電線に付着した雪を全体的に融かすのではなく、架空送電線に付着した雪を分断して、落雪の大きさを小さくすることで、落雪被害を防止する落雪被害防止架空送電線と、それに用いる融雪リングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る落雪被害防止架空送電線は、架空送電線に、その長手方向に間隔をあけて、断熱層を介して強磁性体リングを取り付けたことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係る融雪リングは、架空送電線に取り付けられる強磁性体リングの内周面に断熱層を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
架空送電線に断熱層を介して強磁性体リングを取り付けると、強磁性体リングと架空送電線の間に断熱層が介在するため、強磁性体リングで発生した熱が架空送電線に吸収され難くなる。その結果、強磁性体リングの温度が効率よく上昇し、潮流が小さいときでも、降雪時に、強磁性体リングを取り付けた部分だけは確実に雪が融け、架空送電線の着雪は長手方向に分断される。降雪が止み、気温の上昇と共に電線に付着した雪は落下するが、融雪リング取付け部分には着雪がないため、落雪の大きさは最大でも融雪リング取付け間隔以下になる。したがって、融雪リング取付け間隔を、落雪があっても線下の構造物に被害を及ぼさない程度に小さくしておくことにより、落雪による被害を防止できる。
【0012】
また、本発明に係る融雪リングは、強磁性体リングと断熱層が一体化されているため、これを架空送電線に所要の間隔で取り付けるだけで、簡単に落雪被害防止架空送電線を構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明の落雪被害防止架空送電線に用いる融雪リングの一実施形態を示す。この融雪リング1は、架空送電線の外周に取り付けられる強磁性体リング2の内周面に断熱層3を一体に設けたものである。強磁性体リング2は、強磁性体であればどのような材料で形成してもよいが、キュリー点の低いFe−Ni合金で形成することが好ましい。断熱層3は、発泡スチロールやコルク、紙など、強磁性体より熱伝導率の低い材質で形成された層である。断熱層3は非金属材料で形成されることが望ましく、耐久性やコストの面からプラスチック又はゴムで形成することがより好ましく、特にポリカーボネート等が好適である。断熱層3の好ましい厚さは、1〜2mm程度である。
【0014】
融雪リング1は、架空送電線に取り付けられるようにするため、二つ割りにして、周方向の両端部を互いに連結できるようにするか、外周をバンドで締め付けるようにすることが好ましい。
【0015】
図2は本発明に係る落雪被害防止架空送電線の一実施形態を示す。この落雪被害防止架空送電線4は、架空送電線5に、その長手方向に所要の間隔Dをあけて、図1に示した融雪リング1を取り付けたものである。
【0016】
融雪リング1の強磁性体リング2は、架空送電線5を流れる電流による交番磁界で発熱するが、強磁性体リング2の内周面には断熱層3が設けられているため、強磁性体リング2で発生した熱は架空送電線5に伝わり難くなっている。このため、強磁性体リング2で発生した熱は強磁性体リング2自体の温度を上昇させ、降雪時に強磁性体リング2に付着する雪を効率よく融かす。一方、架空送電線5には断熱層3の存在によりほとんど熱が伝わらないため、架空送電線5の温度は上昇しない。このため架空送電線5には雪が付着する。つまり、降雪時には、架空送電線5には雪が付着するが、融雪リング1を取り付けた部分は融雪されて雪が付着しないため、架空送電線5に付着する雪は長手方向に分断されたものとなる。
【0017】
降雪が止み、気温の上昇によって架空送電線に付着した雪は落下するが、融雪リング取付け部分には雪が付着していないため、落雪の大きさは最大でも融雪リング1の取付け間隔D以下にすることができる。したがって融雪リングの取付け間隔Dを、落雪があっても線下の構造物に被害を及ぼさない程度に小さくしておくことにより、落雪による被害を防止できる。融雪リングの取付け間隔Dは、その地方に降る雪の比重等を勘案して設定されるが、小さいほど落雪を細分化できることから、50cm以下にすることが好ましく、10cm以下にすることがさらに好ましい。
【実施例】
【0018】
強磁性体リングの内周面に、断熱層を設けない場合と設けた場合で、強磁性体リングの温度上昇にどの位の差があるかを調べるため、次のような実験を行った。ACSR810mmの電線(外径38.4mm)に、厚さ5mm、幅10mmの強磁性体リング(Fe−Ni合金製)を、直接取り付けた場合(強磁性体リングの内面が電線表面に密接)と、厚さ1mmの断熱層(ポリカーボネート)を介して取り付けた場合(断熱層の内面が電線表面に密接)について、電線に流れる電流を変化させて、強磁性体リングの温度上昇を測定した。その結果を図3に示す。この結果から明らかなように、断熱層なしの場合は、熱が電線に吸収されてしまい、強磁性体リングの温度がほとんど上昇しないが、断熱層ありの場合は、強磁性体リングの大きな温度上昇が認められた。したがって、断熱層を設けることにより、リング取付け部分の融雪効果が格段に向上するので、架空送電線の着雪を長手方向に分断して、落雪による被害を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る落雪被害防止架空送電線に用いる融雪リングの一実施形態を示す、(A)は正面図、(B)は一部切開側面図。
【図2】図1の融雪リングを用いた落雪被害防止架空送電線の一実施形態を示す側面図。
【図3】架空送電線に強磁性体リングを直接取り付けた場合と断熱層を介して取り付けた場合の、強磁性体リングの温度上昇の違いを示すグラフ。
【符号の説明】
【0020】
1:融雪リング
2:強磁性体リング
3:断熱層
4:落雪被害防止架空送電線
5:架空送電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架空送電線に、その長手方向に間隔をあけて、断熱層を介して強磁性体リングを取り付けたことを特徴とする落雪被害防止架空送電線。
【請求項2】
架空送電線に取り付けられる強磁性体リングの内周面に断熱層を設けたことを特徴とする融雪リング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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