葉酸高含有酵母の製造方法、葉酸高含有酵母、葉酸高含有酵母破砕物、及び食品
【課題】葉酸高含有酵母を効率良く簡単に低コストで製造可能な葉酸高含有酵母の製造方法の提供、及び葉酸を高含有する葉酸高含有酵母、及び葉酸高含有酵母破砕物、並びに、葉酸を効率良く生体内に摂取及び吸収することができ、安全性の高い各種食品の提供。
【解決手段】メチオニンを0.2質量%〜0.6質量%含み、かつ、パラアミノ安息香酸(pABA)を0.0002質量%〜0.0004質量%含む培養液中で酵母を培養する葉酸高含有酵母の製造方法、葉酸高含有酵母及び葉酸高含有酵母破砕物、並びに食品である。
【解決手段】メチオニンを0.2質量%〜0.6質量%含み、かつ、パラアミノ安息香酸(pABA)を0.0002質量%〜0.0004質量%含む培養液中で酵母を培養する葉酸高含有酵母の製造方法、葉酸高含有酵母及び葉酸高含有酵母破砕物、並びに食品である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、葉酸高含有酵母の製造方法、葉酸高含有酵母、葉酸高含有酵母破砕物、並びに該葉酸高含有酵母及び該葉酸高含有酵母破砕物の少なくともいずれかを含有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
葉酸は、ビタミンM、ビタミンB9、プテロイルグルタミン酸とも呼ばれ、水溶性ビタミンに分類される生理活性物質である。
【0003】
葉酸の生理的作用としては、二分脊椎症、心筋梗塞、脳卒中、認知症、うつ病等の予防などが報告されている(非特許文献1参照)。葉酸の欠乏による症状としては、口腔の炎症、肌荒れ、疲労感などがあり、葉酸欠乏症としては、巨赤芽球性貧血(悪性貧血)が知られている。また、特に妊娠期に葉酸が欠乏すると、神経管閉鎖障害が起こり、臨床的には無脳症、二分脊椎症、髄膜瘤などのリスクが高まることが知られている(非特許文献2参照)。
【0004】
このように、葉酸は、生体において種々の重要な役割を果たしていることから、米国、オーストラリアなど世界52ヶ国では必須栄養素とされ、1日の必要量が400μgと定められている。ヒトをはじめとする哺乳類は、葉酸を産生することができないため、葉酸の主要な供給源は、葉酸を含有する食品である。前記食品としては、レバー、うなぎ、緑黄色野菜、海苔、茶葉などが知られている。これらの中でもレバー、海苔、茶葉に特に多く含まれている。ただし、調理や長期間保存による酸化によって葉酸は壊れるため、日常食において前記摂取基準値を達成することは容易ではない。
【0005】
一方、酵母は、古くから人類が食品素材として利用しており、例えば、ビール酵母が食物繊維、ビタミンあるいはミネラル分の供給源としても用いられてきた。特に菌体内に葉酸を取り込ませた酵母又はその破砕物は、葉酸を補強した食品素材として、かつ葉酸の吸収効率に優れた安全な食品素材として利用可能であると考えられる。
【0006】
しかしながら、従来の酵母における葉酸含有量は、一般的に乾燥菌体重量(g)当たり30μg〜60μg程度と低かった。そのため、サプリメント、飲料等の食品素材として用いるためには、より多く葉酸を含有させた酵母の提供が望まれているのが現状である。
【0007】
これまでに、生物に利用可能な葉酸を生産する方法として、モノグルタミル葉酸の量を増大させるように遺伝的に改変された食品グレードの微生物、及びこれを培養して葉酸を産生する方法が提案されている(特許文献1参照)。
しかしながら、前記提案には、遺伝子改変のためのコスト、及び遺伝子改変による生体への悪影響のリスクの点で問題があった。
また、葉酸活性を有する物質を効率よく製造する方法として、パラアミノ安息香酸を培地中に添加し、酵母を培養して葉酸を産生させる方法が提案されている(特許文献2参照)。
しかしながら、前記提案には、パラアミノ安息香酸を通常の培地に使用する量よりも過剰量使用するため、製造コストが高く、また、この方法によって産生された葉酸は、代謝により菌体外へ排出されるため、葉酸高含有酵母の製造には不向きである点で問題があった。
【0008】
このため、低コストで、葉酸を高濃度に含有する酵母を製造する方法、及び葉酸を効率良く生体内に摂取及び吸収することができ、安全性が高く、二分脊椎症、動脈硬化症、認知症などの予防乃至改善に用いられるサプリメント、飲料などの食品素材として好適な葉酸高含有酵母及び葉酸高含有酵母破砕物、並びに該葉酸高含有酵母及び葉酸高含有酵母破砕物の少なくともいずれかを含有するサプリメント、飲料等の食品の提供が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2004−527262号公報
【特許文献2】特開平9−121881号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】香川靖雄 「葉酸の病態栄養」 日本病態栄養会誌 12(4):311−335(2009)
【非特許文献2】「日本人の食事摂取基準 2010年版」 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討報告書、第一出版株式会社、p.162−p.164(2009年9月20日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、葉酸高含有酵母を効率良く簡単に低コストで製造可能な葉酸高含有酵母の製造方法を提供すること、葉酸を高含有する葉酸高含有酵母、及び葉酸高含有酵母破砕物、並びに、葉酸を効率良く生体内に摂取及び吸収することができ、安全性の高い各種の食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> メチオニンを0.2質量%〜0.6質量%含み、かつ、パラアミノ安息香酸(pABA)を0.0002質量%〜0.0004質量%含む培養液中で酵母を培養することを特徴とする葉酸高含有酵母の製造方法である。
<2> 酵母が食用酵母である前記<1>に記載の葉酸高含有酵母の製造方法である。
<3> 酵母が清酒酵母である前記<1>に記載の葉酸高含有酵母の製造方法である。
<4> 清酒酵母がきょうかい酵母6号、601号、7号、701号、8号、9号、901号、11号、12号、13号、14号、15号、及び1701号の少なくともいずれかである前記<3>に記載の葉酸高含有酵母の製造方法である。
<5> 培養が通気培養である前記<1>から<4>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母の製造方法である。
<6> 培養が流加培養である前記<1>から<5>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母の製造方法である。
【0013】
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする葉酸高含有酵母である。
<8> 菌体における葉酸含有量が乾燥菌体1g当たり少なくとも160μgであることを特徴とする葉酸高含有酵母である。
<9> 菌体における葉酸含有量が乾燥菌体1g当たり少なくとも180μgであることを特徴とする葉酸高含有酵母である。
<10> 酵母が食用酵母である前記<7>から<9>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母である。
<11> 酵母が清酒酵母である前記<7>から<9>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母である。
<12> 清酒酵母がきょうかい酵母6号、601号、7号、701号、8号、9号、901号、11号、12号、13号、14号、15号、及び1701号の少なくともいずれかである前記<11>に記載の葉酸高含有酵母である。
<13> 食品に添加されて用いられる前記<7>から<12>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母である。
【0014】
<14> 前記<7>から<13>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母の破砕物を少なくとも含むことを特徴とする葉酸高含有酵母破砕物である。
<15> 葉酸高含有酵母の破砕物が乾燥物である前記<14>に記載の葉酸高含有酵母破砕物である。
<16> 葉酸高含有酵母の破砕物が液状物である前記<14>に記載の葉酸高含有酵母破砕物である。
<17> 食品に添加されて用いられる前記<14>から<16>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母破砕物である。
【0015】
<18> 前記<7>から<13>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母を少なくとも含むことを特徴とする食品である。
<19> 前記<14>から<17>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母破砕物を少なくとも含むことを特徴とする食品である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、葉酸高含有酵母を効率良く簡単に低コストで製造可能な葉酸高含有酵母の製造方法を提供すること、葉酸を高含有する葉酸高含有酵母、及び葉酸高含有酵母破砕物、並びに、葉酸を効率良く生体内に摂取及び吸収することができ、安全性の高い各種の食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】図1Aは、試験例1における菌株毎の乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図1B】図1Bは、試験例1における菌株毎の乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図2】図2は、実施例1における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図3】図3は、実施例2における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図4】図4は、比較例1における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図5】図5は、比較例2における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図6】図6は、比較例3における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図7】図7は、比較例4における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図8】図8は、比較例5における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図9】図9は、比較例6における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図10】図10は、比較例7における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図11】図11は、比較例8における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図12】図12は、比較例9における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図13】図13は、比較例10における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図14】図14は、比較例11における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図15】図15は、比較例12における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図16】図16は、比較例13における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図17】図17は、実施例3における培養12時間後の乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(葉酸高含有酵母の製造方法)
本発明の葉酸高含有酵母の製造方法は、メチオニンを0.2質量%〜0.6質量%含み、かつ、パラアミノ安息香酸(pABA)を0.0002質量%〜0.0004質量%含む培養液中で酵母を培養する工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
なお、本発明において「葉酸」とは、プテロイルモノグルタミン酸のみではなく、補酵素型、つまり還元型、一炭素単位置換型及びこれらのポリグルタミン酸型をも含む。
【0019】
<培養液>
本発明の葉酸高含有酵母の製造方法に用いる培養液としては、メチオニンを0.2質量%〜0.6質量%含み、かつ、パラアミノ安息香酸(pABA)を0.0002質量%〜0.0004質量%含む限り特に制限はなく、目的に応じて公知のものの中から適宜選択することができ、アミノ酸、ビタミン等の他、糖、pH調整試薬、水などを含んでいてもよい。
前記培養液中におけるメチオニンの含有量としては、0.2質量%〜0.6質量%であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2質量%超0.6質量%未満が好ましい。
前記培養液中におけるパラアミノ安息香酸の含有量としては、0.0002質量%〜0.0004質量%であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.0002質量%超0.0004質量%未満が好ましい。
【0020】
−アミノ酸、ビタミン等−
本発明における前記アミノ酸、ビタミン等としては、メチオニン及びパラアミノ安息香酸が必須であり、これら以外のアミノ酸、ビタミン等を含んでいてもよい。メチオニン以外のアミノ酸としては、例えば、ヒスチジン、グルタミン酸塩酸塩、グルタミン酸、グリシン、セリン、プロリン、トリプトファンなどが挙げられる。また、パラアミノ安息香酸以外のビタミンとしては、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記培養液における前記メチオニン以外のアミノ酸の含有量としては、培養液の総液量に対し、0.01質量%〜1.20質量%とすることができるが、0.08質量%〜0.90質量%が好ましく、0.20質量%〜0.60質量%がより好ましい。前記含有量が0.01質量%未満であると、葉酸高含有酵母を製造することができないことがある。前記アミノ酸の含有量が1.20質量%を超えると、葉酸含有量が減少することがある。
前記パラアミノ安息香酸以外のビタミンの含有量としては、培養液の総液量に対し、0.0001質量%〜0.0015質量%とすることができるが、0.00015質量%〜0.00080質量%が好ましく、0.00020質量%〜0.00040質量%がより好ましい。前記含有量が0.0001質量%未満、又は0.0015質量%を超えると、菌体内の葉酸含有量が減少することがある。
前記アミノ酸、ビタミン等は、培地に初期添加させておいてもよく、流加液中に添加させておき、これを前記培養液中に流加することにより、培養液中の葉酸化合物濃度を制御してもよいが、初期添加することが乾燥菌体当たりの葉酸含有量を増加させることができる点で好ましい。
なお、前記培養液に添加するアミノ酸、ビタミン等の量は、公知の方法で測定することができ、例えば、全自動アミノ酸分析機(JLC−500/V、日本電子株式会社製)、HPLCによりそれぞれ測定することができる。
【0022】
上述した培養液に添加するアミノ酸、ビタミン等の量は、該培養液の総液量に対する量であり、前記アミノ酸、ビタミン等を初期添加する場合は、初期の培地中の濃度を意味する。流加する場合は、培地(初期培養液)と、流加液(流加した量)との合計量に対する添加量(質量%)を意味する。
なお、流加液中のアミノ酸、ビタミン等の添加量としては、培養液の総液量に対するアミノ酸、ビタミン等の添加量が上述の範囲内となる限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0023】
前記流加培養の方法としては、例えば、流加連続培養、流加回分(バッチ)培養などが挙げられる。
【0024】
前記流加培養に用いる流加液としては、特に制限はなく、目的に応じて公知のものの中から適宜選択することができるが、例えば、廃糖蜜などが好適に挙げられる。なお、流加液は、適宜、前記培養液の成分を含んでいてもよい。
【0025】
<酵母>
前記培養を行う酵母としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、食品素材などとして用いる場合には、食用酵母であることが特に好ましい。前記酵母は、1種単独で培養してもよいし、2種以上を培養してもよい。
【0026】
前記食用酵母としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができるが、パン酵母、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、及び味噌醤油酵母から選択されることが好ましく、葉酸を高含有させることができる点で、清酒酵母が特に好ましい。
【0027】
前記清酒酵母としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、きょうかい酵母1号〜15号、601号、701号、901号、1001号、1601号、1701号などが挙げられる。これらの中でも、他の清酒酵母に比べて培養後の葉酸含有量が多い点で、きょうかい酵母6号、601号、7号、701号、8号、9号、901号、11号、12号、13号、14号、15号、1701号などが好ましい。
【0028】
前記食用酵母の菌株としては、サッカロミセス(Saccharomyces)属、トルロプシス(Torulopsis)属、ミコトルラ(Mycotorula)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、キャンディダ(Candida)属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、ピキア(Pichia)属などが挙げられる。
【0029】
前記食用酵母の菌株の具体例としては、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces carlsbergensis、Saccharomyces uvarum、Saccharomyces rouxii、Torulopsis utilis、Torulopsis candida、Mycotorula japonica、Mycotorula lipolytica、Torulaspora delbrueckii、Torulaspora fermentati、Candida sake、Candida tropicalis、Candida utilis、Hansenula anomala、Hansenula suaveolens、Saccharomycopsis fibligera、Saccharomyces lipolytica、Rhodotorula rubra、Pichia farinosaなどが挙げられる。
これらの中でも、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces carlsbergensisが好ましく、Saccharomyces cerevisiaeが特に好ましい。
【0030】
前記酵母の前記培養液への接種量としては、特に制限はなく適宜決定することができるが、通常5質量%程度である。
【0031】
<培養方法>
前記酵母の培養方法としては、葉酸を取り込むことができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、回分培養法、半回分培養法、連続培養法などが挙げられる。これらの中でも、前記糖及び前記pH調整試薬を流加して培養することが、乾燥菌体当たりの葉酸含有量を増加させることができる点で好ましい。
なお、流加培養を行う場合は、培養0時間(培養開始時)から培養終了時までの間、連続的に流加することが好ましく、定値流加することがより好ましい。
前記培養は、ジャーファーメンターを用いて好適に行うことができる。
【0032】
−培養温度−
前記培養の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、28℃〜33℃が好ましく、葉酸を高含有させる観点から30℃がより好ましい。
【0033】
−培養時間−
前記培養時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、6時間〜24時間が好ましく、8時間〜16時間がより好ましい。前記培養時間が、6時間未満であると、所望の乾燥菌体当たりの葉酸含有量を得ることができないことがあり、24時間を超えると、製造上効率が悪い。
【0034】
−通気−
前記培養時は、通気しても、通気しなくてもよいが、通気することが、葉酸を高含有させることができる点で好ましい。
前記通気量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5vvm〜4vvmが好ましく、1vvm〜2vvmがより好ましい。前記通気量が、0.5vvm未満であると、葉酸の取り込みが不安定になることがあり、4vvmを超えると、培養時に激しい発泡を生じ、工業生産に支障をきたすことがある。
【0035】
−攪拌速度−
前記培養時の攪拌速度としては、菌体が沈まない程度であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100rpm〜600rpmが好ましく、400rpm〜500rpmがより好ましい。
【0036】
(葉酸高含有酵母、葉酸高含有酵母破砕物)
本発明の葉酸高含有酵母は、本発明の葉酸高含有酵母の製造方法により好適に製造することができる。
【0037】
<葉酸含有量>
前記葉酸高含有酵母における葉酸の含有量としては、乾燥菌体1g当たり少なくとも160μgであるが、該葉酸高含有酵母を葉酸強化食品素材などとして用いる場合には多いほど好ましく、170μg以上がより好ましく、180μg以上が特に好ましい。前記葉酸含有量の上限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記菌体における葉酸含有量は、前記菌体が25℃のイオン交換水で洗浄した菌体であっても、乾燥菌体1g当たり少なくとも160μgであり、洗浄後においても葉酸含有量が高く維持される。
【0038】
前記葉酸高含有酵母における葉酸含有量を測定する方法としては、特に制限はなく、公知の測定方法から適宜選択することができ、例えば、前記葉酸高含有酵母より葉酸を抽出後、吸光度を測定する方法、液体クロマトグラフィーで分析する方法、質量分析する方法などが挙げられる。
前記葉酸を抽出する方法としては、特に制限はなく、公知の測定方法から適宜選択することができ、例えば、熱抽出法などが挙げられる。また、測定機器としては、HPLC(株式会社島津製作所製)などが挙げられ、例えば、テトラヒドロ葉酸(THF)と5−メチル−THFとの合計を葉酸含有量として測定する。
【0039】
本発明の葉酸高含有酵母は、前記葉酸を菌体内部において保持しており、洗浄を行っても該葉酸は除去されず菌体内部に保持されたままであるので、食品素材などとして用いた場合、添加した食品の風味などを損なうことながなく、食品素材などとして好適である。
【0040】
前記葉酸高含有酵母は、生菌乃至未乾燥の状態であってもよいし、乾燥された状態であってもよく、また、菌体が破砕された破砕物の状態であってもよい。
なお、前記葉酸高含有酵母破砕物とは、顕微鏡観察下で未破砕菌体がなくなった状態をいう。
【0041】
前記葉酸高含有酵母を乾燥する方法としては、特に制限はなく、公知の方法から適宜選択することができ、例えば、噴霧乾燥、流動層乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。
【0042】
前記葉酸高含有酵母を破砕する方法としては、顕微鏡観察下で未破砕菌体がなくなる方法であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、物理的破砕処理法、化学的破砕処理法などが挙げられる。
【0043】
前記物理的破砕処理法の具体例としては、0.5mm径ビーズをシリンダーに50容量%充填したダイノミルを用いる方法などが好適に挙げられる。
前記ダイノミルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、WAB社製のDynomill Model Type KDLなどが挙げられる。
【0044】
前記シリンダーの容量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、実験的には、0.6L程度である。前記葉酸高含有酵母の懸濁液(30質量%)の前記ダイノミルにおける前記シリンダー内への流速としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2.16L/時間程度が好ましい。
また、前記葉酸高含有酵母の前記ダイノミルにおける前記シリンダー内での滞在時間としては、10分間程度が好ましい。
なお、前記破砕の前に、イオン交換水で前記ダイノミルにおける前記シリンダー内を予め洗浄しておくことが好ましい。また、前記顕微鏡観察下での未破砕菌体の有無は、適宜サンプリングをして顕微鏡観察を行うことにより確認することができる。
【0045】
前記葉酸高含有酵母破砕物における乾燥菌体当たりの葉酸含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、破砕菌体を食品素材などとして利用する観点からは、破砕を行う前の菌体における乾燥菌体当たりの葉酸含有量に対し、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0046】
前記葉酸高含有酵母破砕物の態様としては、用途などに応じて適宜選択することができ、例えば、乾燥物のみの態様(破砕物から液状物を除去し、スプレードライ等により乾燥したものなど)であってもよいし、固形物のみの態様(破砕物から液状物を除去したものなど)であってもよいし、液状物のみの態様(破砕物から固形分を除去したものなど)であってもよく、あるいはこれらを含む態様(破砕しただけのものなど)であってもよい。なお、前記葉酸高含有破砕物の調製は、特に制限はなく、公知の装置などを用い、公知の方法に従って行うことができる。
【0047】
<酵母の種類>
本発明の葉酸高含有酵母の種類としては、前記食用酵母が好適に挙げられ、該食用酵母の菌株の属及び具体例としては、上述の通りのものが挙げられる。
【0048】
<用途>
本発明の葉酸高含有酵母の用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、食品に添加されて用いられる食品素材、飼料、餌料などとしての用途が好ましく、これらの中でも、前記食品素材としての用途が特に好ましい。本発明の葉酸高含有酵母を用いることにより、葉酸高含有食品、葉酸高含有飼料、葉酸高含有餌料などが得られる。
【0049】
(食品)
本発明の食品は、前記葉酸高含有酵母及び葉酸高含有酵母破砕物の少なくともいずれかを含み、必要に応じて、更にその他の成分を含む。
ここで、前記食品とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品などの区分に制限されるものではなく、例えば、経口的に摂取される一般食品、健康食品、保健機能食品、医薬部外品、医薬品などを幅広く含むものを意味する。
【0050】
前記食品中の前記葉酸高含有酵母及び葉酸高含有酵母破砕物の少なくともいずれかの含有量としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、対象となる食品の種類に応じて適宜配合することができる。
【0051】
<食品の種類>
前記食品の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子類;カニ、サケ、アサリ、マグロ、イワシ、エビ、カツオ、サバ、クジラ、カキ、サンマ、イカ、アカガイ、ホタテ、アワビ、ウニ、イクラ、トコブシ等の水産物;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;カレー、シチュー、親子丼、お粥、雑炊、中華丼、かつ丼、天丼、うな丼、ハヤシライス、おでん、マーボドーフ、牛丼、ミートソース、玉子スープ、オムライス、餃子、シューマイ、ハンバーグ、ミートボール等のレトルトパウチ食品;流動食等の種々の形態の栄養補助食品、健康食品、医薬品、医薬部外品などが挙げられる。
【0052】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、食品を製造するにあたって通常用いられる、補助的原料又は添加物などが挙げられる。
前記補助的原料又は添加物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤などが挙げられる。
前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0053】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
(試験例1:菌株の検討)
以下に示す方法を用い、下記表1に示す菌株における酵母菌体内の葉酸含有量について測定を行った。
【0055】
【表1】
* X2180は、例えば、NBRC(NITE Biological Resource Center)、ATCC(American Type Culture Collection)などから入手可能である。また、X2180以外の菌株は、独立行政法人酒類総合研究所から入手可能である。
【0056】
<培養液の作製>
水1Lに10gの酵母エキス、20gのペプトン、及び20gのグルコース(Difco製)を加え、120℃で20分間オートクレーブすることにより、YPD培地を作製した。
【0057】
<酵母の培養>
表1に示す清酒酵母の菌株それぞれについて、前記培養液5mL中に湿菌体50mg(1質量%/総液量)を接種して30℃、24時間振とう培養を行い前培養とした。その後、前培養菌液を前記培養液100mL中に2×105cells/mLとなるように500mL容のバッフル付フラスコ内に収容させ、前記酵母を振とう培養し、本培養とした。
本培養の条件としては、培養温度を30℃、培養時間を96時間、振とう速度を120rpm(中型振とう機 ダブルシェーカーNR−30、タイテック社製)とし、通気は行わなかった。
【0058】
その後、培養開始から12時間後、24時間後、48時間後、72時間後、及び96時間後において前記培養液適量を4,000rpmにて2分間遠心分離し、上清を廃棄した。菌体(沈殿)に25℃の滅菌水15mLを添加し懸濁後、4,000rpmにて2分間遠心分離し、上清を廃棄して洗浄した。この洗浄を2回行った後、菌体を凍結乾燥して乾燥させた。
各時間における乾燥菌体重量(DCW)1g当たりの葉酸含有量(質量%)を、下記方法にて測定した結果を表1に示す。また、図1A及び図1Bに乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量(μg)の経時変化を示す。
【0059】
<葉酸含有量の測定方法>
−葉酸の抽出−
前記酵母約20mg(乾燥重量)を、0.1Mリン酸buffer(pH6.1)と2質量%アスコルビン酸ナトリウムと0.1質量%2-メルカプトエタノール溶液の混合溶液10mLに溶解して熱抽出し、遠心上清をラット血清を用いてconjugase処理を行うことにより、測定に供する試料溶液とした。
【0060】
−HPLCによる葉酸含有量の測定−
まず、テトラヒドロ葉酸(THF)と5−メチル−THFの標品を用いて検量線を得た。前記葉酸試料溶液を用い、下記HPLC測定条件により葉酸量を測定し、前記検量線から、酵母に含まれる葉酸含有量を定量し、乾燥菌体重量(DCW)1g当たりの葉酸含有量(μg)を算出した。なお、テトラヒドロ葉酸(THF)と5−メチル−THFの合計を葉酸量(μg)とした。
【0061】
−−HPLC測定条件−−
カラム:Aquasil C18カラム(150mmID×4.6mm)
溶媒:アセトニトリルと30mM(或いはmg/L)リン酸buffer(pH2.3)の混合液
勾配溶離メソッド:
【表2】
流速:0.4mL/分間
検出器:蛍光検出器
カラム温度:30℃
【0062】
図1A及び図1Bの結果から、上記の様々な菌株の中でも、清酒酵母が葉酸高含有酵母の製造に好適に用いることができ、清酒酵母の中でも、きょうかい酵母601号(K601)、7号(K7)、701号(K701)、9号(K9)、及び15号(K15)が葉酸高含有酵母の製造に好適に用いることができることがわかった。
【0063】
(実施例1:メチオニン及びパラアミノ安息香酸添加培地で培養)
<培養液の作製>
まず、水1Lに17gのアミノ酸を含まないYNB(yeast nitrogen base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate、Difco社製)、50gの硫酸アンモニウム及び100gのグルコース(和光純薬工業株式会社製)を加え、120℃で20分間オートクレーブすることにより、10倍濃度のYNB培地を作成した。その後、滅菌水を用いて10倍希釈を行い、下記に示す組成及び濃度の基本培地(アミノ酸を含まないYNB培地)を作製した。
−基本培地−
グルコース 10g/L
硫酸アンモニウム 5g/L
リン酸一カリウム 1.0g/L
硫酸マグネシウム 0.5g/L
硫酸亜鉛 400μg/L
硫酸マンガン 400μg/L
硫酸銅 40μg/L
塩化カルシウム 0.1g/L
塩化鉄 200μg/L
モリブデン酸ナトリウム 200μg/L
ホウ酸 500μg/L
ヨウ化カリウム 100μg/L
ビオチン 2μg/L
パントテン酸カルシウム 400μg/L
イノシトール 2,000μg/L
チアミン塩酸塩 400μg/L
ピリドキシン塩酸塩 400μg/L
p−アミノ安息香酸 200μg/L
塩化ナトリウム 0.1g/L
リボフラビン 200μg/L
ナイアシン 400μg/L
葉酸 2μg/L
【0064】
−メチオニン及びパラアミノ安息香酸添加培地−
前記基本培地中にメチオニンを濃度が4mg/mL、パラアミノ安息香酸を濃度が3μg/mLとなるように添加してメチオニン及びパラアミノ安息香酸添加培地を作製した。
【0065】
<酵母の培養>
清酒酵母菌株きょうかい酵母9号(K9)を前記基本培地5mLを用いて30℃で24時間前培養を行った。前記前培養後の酵母菌体をメチオニン及びパラアミノ安息香酸添加培地100mL中に、細胞濃度が2×105cells/mLとなるように接種して500mL容のバッフル付フラスコ内に収容させ、前記酵母を振とう培養した。
培養条件は、培養温度を30℃、培養時間を72時間、振とう速度を120rpm(中型振とう機 ダブルシェーカーNR−30、タイテック社製)とし、通気は行わなかった。
【0066】
前記条件で培養した酵母菌体を経時的(培養開始から0時間後、12時間後、24時間後、適宜36時間後、48時間後、適宜72時間後)に回収した。
その後、前記培養液100mLを4,000rpmにて2分間遠心分離し、上清を廃棄した。菌体(沈殿)に25℃の滅菌水15mLを添加し懸濁後、4,000rpmにて2分間遠心分離し、上清を廃棄して洗浄した。この洗浄を2回行った後、菌体を凍結乾燥して乾燥させた。
各時間における乾燥菌体(DCW)1g当たりの葉酸含有量(μg)を前記試験例1に記載の方法と同様の方法にて測定した結果を、図2中、棒グラフで示す。酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を図2中、黒丸で示す。
【0067】
(実施例2)
実施例1において、基本培地中にメチオニンを濃度が4mg/mL、パラアミノ安息香酸を濃度が3μg/mLとなるように添加してした点を、メチオニンの濃度が6mg/mL、パラアミノ安息香酸を濃度が4μg/mLとなるように添加した以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図3に示す。
【0068】
(比較例1)
実施例1において、基本培地に添加したアミノ酸、ビタミン等(メチオニン及びパラアミノ安息香酸)を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図4に示す。
【0069】
(比較例2)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からヒスチジンに変更し、その濃度を0.1mg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図5に示す。
【0070】
(比較例3)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からグルタミン酸に変更し、その濃度を2mg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図6に示す。
【0071】
(比較例4)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からセリンに変更し、その濃度を0.6mg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図7に示す。
【0072】
(比較例5)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からプロリンに変更し、その濃度を0.2mg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図8に示す。
【0073】
(比較例6)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からトリプトファンに変更し、その濃度を0.2mg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図9に示す。
【0074】
(比較例7)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からパラアミノ安息香酸に変更し、その濃度を3μg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図10に示す。
【0075】
(比較例8)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からビタミンB2に変更し、その濃度を2μg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図11に示す。
【0076】
(比較例9)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からビタミンB6に変更し、その濃度を8μg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図12に示す。
【0077】
(比較例10)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からビタミンB12に変更し、その濃度を8μg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図13に示す。
【0078】
(比較例11)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からグリシンに変更し、その濃度を3.1mg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図14に示す。
【0079】
(比較例12)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からグルタミン酸塩酸塩に変更し、その濃度を1mg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図15に示す。
【0080】
(比較例13)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からメチオニン及びビタミンB2に変更し、その濃度をメチオニンが4mg/mL、ビタミンB2が2μg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図16に示す。
【0081】
(実施例3)
実施例1において、培養する菌株をきょうかい酵母9号から下記表3に示すそれぞれの菌株に変更し、培養時間を12時間とした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図17に示す。
【0082】
【表3】
* 表3に記載の菌株は、独立行政法人酒類総合研究所から入手可能である。
【0083】
比較例1〜6の結果から、アミノ酸を添加しない培地及びヒスチジン、グルタミン酸、セリン、プロリン又はトリプトファンなどのアミノ酸を添加した培地で酵母を培養した場合には、酵母菌体内における葉酸含有量には顕著な変化が見られなかった。
比較例7〜10の結果から、葉酸の前駆体であるパラアミノ安息香酸、葉酸代謝経路に重要な役割を果たしているビタミン等であるビタミンB2、B6、B12を添加した培地で酵母を培養しても、酵母菌体内における葉酸含有量には顕著な変化が見られなかった。
比較例11〜12の結果から、グリシン、及びグルタミン酸塩酸塩のいずれかを添加した培地で酵母を培養することにより、葉酸の含有量が増加したり、減少せず維持したりする酵母が得られることが分かったが、葉酸の含有量は、本発明の葉酸高含有酵母に比べて低かった。
比較例13の結果から、メチオニン及びビタミンB2の両方を添加した培地で酵母を培養した場合、細胞増殖が顕著に抑制され、葉酸含有量の減少が見られた。
【0084】
一方、実施例1の結果から、メチオニン及びパラアミノ安息香酸の両方を添加した培地で酵母を培養することにより、葉酸をより高含有する酵母が得られることが分かった。特に、酵母を12時間培養した場合には、乾燥菌体1gあたり180μg以上の葉酸を含有した酵母が得られた。
また、実施例2の結果から、メチオニン及びパラアモノ安息香酸の添加量を変えた場合であっても、本発明の方法の範囲内では、乾燥菌体1g当たり160μg以上という、葉酸を高含有する酵母が得られることが分かった。
また、実施例3の結果から、葉酸をより高含有させるためには、清酒酵母の中でも、きょうかい酵母6号、601号、7号、701号、8号、9号、901号、11号、12号、13号、14号、15号、及び1701号がより好ましいことが分かった。更に、きょうかい酵母6号、601号、7号、701号、8号、9号、901号、12号、13号、14号、15号、及び1701号では、乾燥菌体1gあたり180μg以上の葉酸を含有させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の葉酸高含有酵母の製造方法によれば、培養液中に安価なアミノ酸、ビタミン等を添加するだけで、簡単に葉酸を高含有した酵母を製造することができる。
本発明の葉酸高含有酵母及び葉酸高含有酵母破砕物は、葉酸を高濃度に含有するため、葉酸を効率良く生体内に摂取及び吸収することができ、食品素材として好適に利用可能である。
また、本発明の前記葉酸高含有酵母及び前記葉酸高含有酵母破砕物を含有する食品は、酵母を使用しているため安全性が高く、添加した食品の風味などを損なうことがなく、日常食として好適に利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、葉酸高含有酵母の製造方法、葉酸高含有酵母、葉酸高含有酵母破砕物、並びに該葉酸高含有酵母及び該葉酸高含有酵母破砕物の少なくともいずれかを含有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
葉酸は、ビタミンM、ビタミンB9、プテロイルグルタミン酸とも呼ばれ、水溶性ビタミンに分類される生理活性物質である。
【0003】
葉酸の生理的作用としては、二分脊椎症、心筋梗塞、脳卒中、認知症、うつ病等の予防などが報告されている(非特許文献1参照)。葉酸の欠乏による症状としては、口腔の炎症、肌荒れ、疲労感などがあり、葉酸欠乏症としては、巨赤芽球性貧血(悪性貧血)が知られている。また、特に妊娠期に葉酸が欠乏すると、神経管閉鎖障害が起こり、臨床的には無脳症、二分脊椎症、髄膜瘤などのリスクが高まることが知られている(非特許文献2参照)。
【0004】
このように、葉酸は、生体において種々の重要な役割を果たしていることから、米国、オーストラリアなど世界52ヶ国では必須栄養素とされ、1日の必要量が400μgと定められている。ヒトをはじめとする哺乳類は、葉酸を産生することができないため、葉酸の主要な供給源は、葉酸を含有する食品である。前記食品としては、レバー、うなぎ、緑黄色野菜、海苔、茶葉などが知られている。これらの中でもレバー、海苔、茶葉に特に多く含まれている。ただし、調理や長期間保存による酸化によって葉酸は壊れるため、日常食において前記摂取基準値を達成することは容易ではない。
【0005】
一方、酵母は、古くから人類が食品素材として利用しており、例えば、ビール酵母が食物繊維、ビタミンあるいはミネラル分の供給源としても用いられてきた。特に菌体内に葉酸を取り込ませた酵母又はその破砕物は、葉酸を補強した食品素材として、かつ葉酸の吸収効率に優れた安全な食品素材として利用可能であると考えられる。
【0006】
しかしながら、従来の酵母における葉酸含有量は、一般的に乾燥菌体重量(g)当たり30μg〜60μg程度と低かった。そのため、サプリメント、飲料等の食品素材として用いるためには、より多く葉酸を含有させた酵母の提供が望まれているのが現状である。
【0007】
これまでに、生物に利用可能な葉酸を生産する方法として、モノグルタミル葉酸の量を増大させるように遺伝的に改変された食品グレードの微生物、及びこれを培養して葉酸を産生する方法が提案されている(特許文献1参照)。
しかしながら、前記提案には、遺伝子改変のためのコスト、及び遺伝子改変による生体への悪影響のリスクの点で問題があった。
また、葉酸活性を有する物質を効率よく製造する方法として、パラアミノ安息香酸を培地中に添加し、酵母を培養して葉酸を産生させる方法が提案されている(特許文献2参照)。
しかしながら、前記提案には、パラアミノ安息香酸を通常の培地に使用する量よりも過剰量使用するため、製造コストが高く、また、この方法によって産生された葉酸は、代謝により菌体外へ排出されるため、葉酸高含有酵母の製造には不向きである点で問題があった。
【0008】
このため、低コストで、葉酸を高濃度に含有する酵母を製造する方法、及び葉酸を効率良く生体内に摂取及び吸収することができ、安全性が高く、二分脊椎症、動脈硬化症、認知症などの予防乃至改善に用いられるサプリメント、飲料などの食品素材として好適な葉酸高含有酵母及び葉酸高含有酵母破砕物、並びに該葉酸高含有酵母及び葉酸高含有酵母破砕物の少なくともいずれかを含有するサプリメント、飲料等の食品の提供が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2004−527262号公報
【特許文献2】特開平9−121881号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】香川靖雄 「葉酸の病態栄養」 日本病態栄養会誌 12(4):311−335(2009)
【非特許文献2】「日本人の食事摂取基準 2010年版」 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討報告書、第一出版株式会社、p.162−p.164(2009年9月20日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、葉酸高含有酵母を効率良く簡単に低コストで製造可能な葉酸高含有酵母の製造方法を提供すること、葉酸を高含有する葉酸高含有酵母、及び葉酸高含有酵母破砕物、並びに、葉酸を効率良く生体内に摂取及び吸収することができ、安全性の高い各種の食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> メチオニンを0.2質量%〜0.6質量%含み、かつ、パラアミノ安息香酸(pABA)を0.0002質量%〜0.0004質量%含む培養液中で酵母を培養することを特徴とする葉酸高含有酵母の製造方法である。
<2> 酵母が食用酵母である前記<1>に記載の葉酸高含有酵母の製造方法である。
<3> 酵母が清酒酵母である前記<1>に記載の葉酸高含有酵母の製造方法である。
<4> 清酒酵母がきょうかい酵母6号、601号、7号、701号、8号、9号、901号、11号、12号、13号、14号、15号、及び1701号の少なくともいずれかである前記<3>に記載の葉酸高含有酵母の製造方法である。
<5> 培養が通気培養である前記<1>から<4>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母の製造方法である。
<6> 培養が流加培養である前記<1>から<5>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母の製造方法である。
【0013】
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする葉酸高含有酵母である。
<8> 菌体における葉酸含有量が乾燥菌体1g当たり少なくとも160μgであることを特徴とする葉酸高含有酵母である。
<9> 菌体における葉酸含有量が乾燥菌体1g当たり少なくとも180μgであることを特徴とする葉酸高含有酵母である。
<10> 酵母が食用酵母である前記<7>から<9>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母である。
<11> 酵母が清酒酵母である前記<7>から<9>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母である。
<12> 清酒酵母がきょうかい酵母6号、601号、7号、701号、8号、9号、901号、11号、12号、13号、14号、15号、及び1701号の少なくともいずれかである前記<11>に記載の葉酸高含有酵母である。
<13> 食品に添加されて用いられる前記<7>から<12>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母である。
【0014】
<14> 前記<7>から<13>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母の破砕物を少なくとも含むことを特徴とする葉酸高含有酵母破砕物である。
<15> 葉酸高含有酵母の破砕物が乾燥物である前記<14>に記載の葉酸高含有酵母破砕物である。
<16> 葉酸高含有酵母の破砕物が液状物である前記<14>に記載の葉酸高含有酵母破砕物である。
<17> 食品に添加されて用いられる前記<14>から<16>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母破砕物である。
【0015】
<18> 前記<7>から<13>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母を少なくとも含むことを特徴とする食品である。
<19> 前記<14>から<17>のいずれかに記載の葉酸高含有酵母破砕物を少なくとも含むことを特徴とする食品である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、葉酸高含有酵母を効率良く簡単に低コストで製造可能な葉酸高含有酵母の製造方法を提供すること、葉酸を高含有する葉酸高含有酵母、及び葉酸高含有酵母破砕物、並びに、葉酸を効率良く生体内に摂取及び吸収することができ、安全性の高い各種の食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】図1Aは、試験例1における菌株毎の乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図1B】図1Bは、試験例1における菌株毎の乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図2】図2は、実施例1における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図3】図3は、実施例2における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図4】図4は、比較例1における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図5】図5は、比較例2における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図6】図6は、比較例3における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図7】図7は、比較例4における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図8】図8は、比較例5における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図9】図9は、比較例6における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図10】図10は、比較例7における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図11】図11は、比較例8における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図12】図12は、比較例9における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図13】図13は、比較例10における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図14】図14は、比較例11における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図15】図15は、比較例12における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図16】図16は、比較例13における乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量の経時変化、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を示す図である。
【図17】図17は、実施例3における培養12時間後の乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量、及び酵母菌体の培地中における細胞濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(葉酸高含有酵母の製造方法)
本発明の葉酸高含有酵母の製造方法は、メチオニンを0.2質量%〜0.6質量%含み、かつ、パラアミノ安息香酸(pABA)を0.0002質量%〜0.0004質量%含む培養液中で酵母を培養する工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
なお、本発明において「葉酸」とは、プテロイルモノグルタミン酸のみではなく、補酵素型、つまり還元型、一炭素単位置換型及びこれらのポリグルタミン酸型をも含む。
【0019】
<培養液>
本発明の葉酸高含有酵母の製造方法に用いる培養液としては、メチオニンを0.2質量%〜0.6質量%含み、かつ、パラアミノ安息香酸(pABA)を0.0002質量%〜0.0004質量%含む限り特に制限はなく、目的に応じて公知のものの中から適宜選択することができ、アミノ酸、ビタミン等の他、糖、pH調整試薬、水などを含んでいてもよい。
前記培養液中におけるメチオニンの含有量としては、0.2質量%〜0.6質量%であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2質量%超0.6質量%未満が好ましい。
前記培養液中におけるパラアミノ安息香酸の含有量としては、0.0002質量%〜0.0004質量%であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.0002質量%超0.0004質量%未満が好ましい。
【0020】
−アミノ酸、ビタミン等−
本発明における前記アミノ酸、ビタミン等としては、メチオニン及びパラアミノ安息香酸が必須であり、これら以外のアミノ酸、ビタミン等を含んでいてもよい。メチオニン以外のアミノ酸としては、例えば、ヒスチジン、グルタミン酸塩酸塩、グルタミン酸、グリシン、セリン、プロリン、トリプトファンなどが挙げられる。また、パラアミノ安息香酸以外のビタミンとしては、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記培養液における前記メチオニン以外のアミノ酸の含有量としては、培養液の総液量に対し、0.01質量%〜1.20質量%とすることができるが、0.08質量%〜0.90質量%が好ましく、0.20質量%〜0.60質量%がより好ましい。前記含有量が0.01質量%未満であると、葉酸高含有酵母を製造することができないことがある。前記アミノ酸の含有量が1.20質量%を超えると、葉酸含有量が減少することがある。
前記パラアミノ安息香酸以外のビタミンの含有量としては、培養液の総液量に対し、0.0001質量%〜0.0015質量%とすることができるが、0.00015質量%〜0.00080質量%が好ましく、0.00020質量%〜0.00040質量%がより好ましい。前記含有量が0.0001質量%未満、又は0.0015質量%を超えると、菌体内の葉酸含有量が減少することがある。
前記アミノ酸、ビタミン等は、培地に初期添加させておいてもよく、流加液中に添加させておき、これを前記培養液中に流加することにより、培養液中の葉酸化合物濃度を制御してもよいが、初期添加することが乾燥菌体当たりの葉酸含有量を増加させることができる点で好ましい。
なお、前記培養液に添加するアミノ酸、ビタミン等の量は、公知の方法で測定することができ、例えば、全自動アミノ酸分析機(JLC−500/V、日本電子株式会社製)、HPLCによりそれぞれ測定することができる。
【0022】
上述した培養液に添加するアミノ酸、ビタミン等の量は、該培養液の総液量に対する量であり、前記アミノ酸、ビタミン等を初期添加する場合は、初期の培地中の濃度を意味する。流加する場合は、培地(初期培養液)と、流加液(流加した量)との合計量に対する添加量(質量%)を意味する。
なお、流加液中のアミノ酸、ビタミン等の添加量としては、培養液の総液量に対するアミノ酸、ビタミン等の添加量が上述の範囲内となる限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0023】
前記流加培養の方法としては、例えば、流加連続培養、流加回分(バッチ)培養などが挙げられる。
【0024】
前記流加培養に用いる流加液としては、特に制限はなく、目的に応じて公知のものの中から適宜選択することができるが、例えば、廃糖蜜などが好適に挙げられる。なお、流加液は、適宜、前記培養液の成分を含んでいてもよい。
【0025】
<酵母>
前記培養を行う酵母としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、食品素材などとして用いる場合には、食用酵母であることが特に好ましい。前記酵母は、1種単独で培養してもよいし、2種以上を培養してもよい。
【0026】
前記食用酵母としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができるが、パン酵母、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、及び味噌醤油酵母から選択されることが好ましく、葉酸を高含有させることができる点で、清酒酵母が特に好ましい。
【0027】
前記清酒酵母としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、きょうかい酵母1号〜15号、601号、701号、901号、1001号、1601号、1701号などが挙げられる。これらの中でも、他の清酒酵母に比べて培養後の葉酸含有量が多い点で、きょうかい酵母6号、601号、7号、701号、8号、9号、901号、11号、12号、13号、14号、15号、1701号などが好ましい。
【0028】
前記食用酵母の菌株としては、サッカロミセス(Saccharomyces)属、トルロプシス(Torulopsis)属、ミコトルラ(Mycotorula)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、キャンディダ(Candida)属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、ピキア(Pichia)属などが挙げられる。
【0029】
前記食用酵母の菌株の具体例としては、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces carlsbergensis、Saccharomyces uvarum、Saccharomyces rouxii、Torulopsis utilis、Torulopsis candida、Mycotorula japonica、Mycotorula lipolytica、Torulaspora delbrueckii、Torulaspora fermentati、Candida sake、Candida tropicalis、Candida utilis、Hansenula anomala、Hansenula suaveolens、Saccharomycopsis fibligera、Saccharomyces lipolytica、Rhodotorula rubra、Pichia farinosaなどが挙げられる。
これらの中でも、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces carlsbergensisが好ましく、Saccharomyces cerevisiaeが特に好ましい。
【0030】
前記酵母の前記培養液への接種量としては、特に制限はなく適宜決定することができるが、通常5質量%程度である。
【0031】
<培養方法>
前記酵母の培養方法としては、葉酸を取り込むことができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、回分培養法、半回分培養法、連続培養法などが挙げられる。これらの中でも、前記糖及び前記pH調整試薬を流加して培養することが、乾燥菌体当たりの葉酸含有量を増加させることができる点で好ましい。
なお、流加培養を行う場合は、培養0時間(培養開始時)から培養終了時までの間、連続的に流加することが好ましく、定値流加することがより好ましい。
前記培養は、ジャーファーメンターを用いて好適に行うことができる。
【0032】
−培養温度−
前記培養の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、28℃〜33℃が好ましく、葉酸を高含有させる観点から30℃がより好ましい。
【0033】
−培養時間−
前記培養時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、6時間〜24時間が好ましく、8時間〜16時間がより好ましい。前記培養時間が、6時間未満であると、所望の乾燥菌体当たりの葉酸含有量を得ることができないことがあり、24時間を超えると、製造上効率が悪い。
【0034】
−通気−
前記培養時は、通気しても、通気しなくてもよいが、通気することが、葉酸を高含有させることができる点で好ましい。
前記通気量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5vvm〜4vvmが好ましく、1vvm〜2vvmがより好ましい。前記通気量が、0.5vvm未満であると、葉酸の取り込みが不安定になることがあり、4vvmを超えると、培養時に激しい発泡を生じ、工業生産に支障をきたすことがある。
【0035】
−攪拌速度−
前記培養時の攪拌速度としては、菌体が沈まない程度であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100rpm〜600rpmが好ましく、400rpm〜500rpmがより好ましい。
【0036】
(葉酸高含有酵母、葉酸高含有酵母破砕物)
本発明の葉酸高含有酵母は、本発明の葉酸高含有酵母の製造方法により好適に製造することができる。
【0037】
<葉酸含有量>
前記葉酸高含有酵母における葉酸の含有量としては、乾燥菌体1g当たり少なくとも160μgであるが、該葉酸高含有酵母を葉酸強化食品素材などとして用いる場合には多いほど好ましく、170μg以上がより好ましく、180μg以上が特に好ましい。前記葉酸含有量の上限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記菌体における葉酸含有量は、前記菌体が25℃のイオン交換水で洗浄した菌体であっても、乾燥菌体1g当たり少なくとも160μgであり、洗浄後においても葉酸含有量が高く維持される。
【0038】
前記葉酸高含有酵母における葉酸含有量を測定する方法としては、特に制限はなく、公知の測定方法から適宜選択することができ、例えば、前記葉酸高含有酵母より葉酸を抽出後、吸光度を測定する方法、液体クロマトグラフィーで分析する方法、質量分析する方法などが挙げられる。
前記葉酸を抽出する方法としては、特に制限はなく、公知の測定方法から適宜選択することができ、例えば、熱抽出法などが挙げられる。また、測定機器としては、HPLC(株式会社島津製作所製)などが挙げられ、例えば、テトラヒドロ葉酸(THF)と5−メチル−THFとの合計を葉酸含有量として測定する。
【0039】
本発明の葉酸高含有酵母は、前記葉酸を菌体内部において保持しており、洗浄を行っても該葉酸は除去されず菌体内部に保持されたままであるので、食品素材などとして用いた場合、添加した食品の風味などを損なうことながなく、食品素材などとして好適である。
【0040】
前記葉酸高含有酵母は、生菌乃至未乾燥の状態であってもよいし、乾燥された状態であってもよく、また、菌体が破砕された破砕物の状態であってもよい。
なお、前記葉酸高含有酵母破砕物とは、顕微鏡観察下で未破砕菌体がなくなった状態をいう。
【0041】
前記葉酸高含有酵母を乾燥する方法としては、特に制限はなく、公知の方法から適宜選択することができ、例えば、噴霧乾燥、流動層乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。
【0042】
前記葉酸高含有酵母を破砕する方法としては、顕微鏡観察下で未破砕菌体がなくなる方法であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、物理的破砕処理法、化学的破砕処理法などが挙げられる。
【0043】
前記物理的破砕処理法の具体例としては、0.5mm径ビーズをシリンダーに50容量%充填したダイノミルを用いる方法などが好適に挙げられる。
前記ダイノミルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、WAB社製のDynomill Model Type KDLなどが挙げられる。
【0044】
前記シリンダーの容量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、実験的には、0.6L程度である。前記葉酸高含有酵母の懸濁液(30質量%)の前記ダイノミルにおける前記シリンダー内への流速としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2.16L/時間程度が好ましい。
また、前記葉酸高含有酵母の前記ダイノミルにおける前記シリンダー内での滞在時間としては、10分間程度が好ましい。
なお、前記破砕の前に、イオン交換水で前記ダイノミルにおける前記シリンダー内を予め洗浄しておくことが好ましい。また、前記顕微鏡観察下での未破砕菌体の有無は、適宜サンプリングをして顕微鏡観察を行うことにより確認することができる。
【0045】
前記葉酸高含有酵母破砕物における乾燥菌体当たりの葉酸含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、破砕菌体を食品素材などとして利用する観点からは、破砕を行う前の菌体における乾燥菌体当たりの葉酸含有量に対し、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0046】
前記葉酸高含有酵母破砕物の態様としては、用途などに応じて適宜選択することができ、例えば、乾燥物のみの態様(破砕物から液状物を除去し、スプレードライ等により乾燥したものなど)であってもよいし、固形物のみの態様(破砕物から液状物を除去したものなど)であってもよいし、液状物のみの態様(破砕物から固形分を除去したものなど)であってもよく、あるいはこれらを含む態様(破砕しただけのものなど)であってもよい。なお、前記葉酸高含有破砕物の調製は、特に制限はなく、公知の装置などを用い、公知の方法に従って行うことができる。
【0047】
<酵母の種類>
本発明の葉酸高含有酵母の種類としては、前記食用酵母が好適に挙げられ、該食用酵母の菌株の属及び具体例としては、上述の通りのものが挙げられる。
【0048】
<用途>
本発明の葉酸高含有酵母の用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、食品に添加されて用いられる食品素材、飼料、餌料などとしての用途が好ましく、これらの中でも、前記食品素材としての用途が特に好ましい。本発明の葉酸高含有酵母を用いることにより、葉酸高含有食品、葉酸高含有飼料、葉酸高含有餌料などが得られる。
【0049】
(食品)
本発明の食品は、前記葉酸高含有酵母及び葉酸高含有酵母破砕物の少なくともいずれかを含み、必要に応じて、更にその他の成分を含む。
ここで、前記食品とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品などの区分に制限されるものではなく、例えば、経口的に摂取される一般食品、健康食品、保健機能食品、医薬部外品、医薬品などを幅広く含むものを意味する。
【0050】
前記食品中の前記葉酸高含有酵母及び葉酸高含有酵母破砕物の少なくともいずれかの含有量としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、対象となる食品の種類に応じて適宜配合することができる。
【0051】
<食品の種類>
前記食品の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子類;カニ、サケ、アサリ、マグロ、イワシ、エビ、カツオ、サバ、クジラ、カキ、サンマ、イカ、アカガイ、ホタテ、アワビ、ウニ、イクラ、トコブシ等の水産物;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;カレー、シチュー、親子丼、お粥、雑炊、中華丼、かつ丼、天丼、うな丼、ハヤシライス、おでん、マーボドーフ、牛丼、ミートソース、玉子スープ、オムライス、餃子、シューマイ、ハンバーグ、ミートボール等のレトルトパウチ食品;流動食等の種々の形態の栄養補助食品、健康食品、医薬品、医薬部外品などが挙げられる。
【0052】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、食品を製造するにあたって通常用いられる、補助的原料又は添加物などが挙げられる。
前記補助的原料又は添加物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤などが挙げられる。
前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0053】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
(試験例1:菌株の検討)
以下に示す方法を用い、下記表1に示す菌株における酵母菌体内の葉酸含有量について測定を行った。
【0055】
【表1】
* X2180は、例えば、NBRC(NITE Biological Resource Center)、ATCC(American Type Culture Collection)などから入手可能である。また、X2180以外の菌株は、独立行政法人酒類総合研究所から入手可能である。
【0056】
<培養液の作製>
水1Lに10gの酵母エキス、20gのペプトン、及び20gのグルコース(Difco製)を加え、120℃で20分間オートクレーブすることにより、YPD培地を作製した。
【0057】
<酵母の培養>
表1に示す清酒酵母の菌株それぞれについて、前記培養液5mL中に湿菌体50mg(1質量%/総液量)を接種して30℃、24時間振とう培養を行い前培養とした。その後、前培養菌液を前記培養液100mL中に2×105cells/mLとなるように500mL容のバッフル付フラスコ内に収容させ、前記酵母を振とう培養し、本培養とした。
本培養の条件としては、培養温度を30℃、培養時間を96時間、振とう速度を120rpm(中型振とう機 ダブルシェーカーNR−30、タイテック社製)とし、通気は行わなかった。
【0058】
その後、培養開始から12時間後、24時間後、48時間後、72時間後、及び96時間後において前記培養液適量を4,000rpmにて2分間遠心分離し、上清を廃棄した。菌体(沈殿)に25℃の滅菌水15mLを添加し懸濁後、4,000rpmにて2分間遠心分離し、上清を廃棄して洗浄した。この洗浄を2回行った後、菌体を凍結乾燥して乾燥させた。
各時間における乾燥菌体重量(DCW)1g当たりの葉酸含有量(質量%)を、下記方法にて測定した結果を表1に示す。また、図1A及び図1Bに乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量(μg)の経時変化を示す。
【0059】
<葉酸含有量の測定方法>
−葉酸の抽出−
前記酵母約20mg(乾燥重量)を、0.1Mリン酸buffer(pH6.1)と2質量%アスコルビン酸ナトリウムと0.1質量%2-メルカプトエタノール溶液の混合溶液10mLに溶解して熱抽出し、遠心上清をラット血清を用いてconjugase処理を行うことにより、測定に供する試料溶液とした。
【0060】
−HPLCによる葉酸含有量の測定−
まず、テトラヒドロ葉酸(THF)と5−メチル−THFの標品を用いて検量線を得た。前記葉酸試料溶液を用い、下記HPLC測定条件により葉酸量を測定し、前記検量線から、酵母に含まれる葉酸含有量を定量し、乾燥菌体重量(DCW)1g当たりの葉酸含有量(μg)を算出した。なお、テトラヒドロ葉酸(THF)と5−メチル−THFの合計を葉酸量(μg)とした。
【0061】
−−HPLC測定条件−−
カラム:Aquasil C18カラム(150mmID×4.6mm)
溶媒:アセトニトリルと30mM(或いはmg/L)リン酸buffer(pH2.3)の混合液
勾配溶離メソッド:
【表2】
流速:0.4mL/分間
検出器:蛍光検出器
カラム温度:30℃
【0062】
図1A及び図1Bの結果から、上記の様々な菌株の中でも、清酒酵母が葉酸高含有酵母の製造に好適に用いることができ、清酒酵母の中でも、きょうかい酵母601号(K601)、7号(K7)、701号(K701)、9号(K9)、及び15号(K15)が葉酸高含有酵母の製造に好適に用いることができることがわかった。
【0063】
(実施例1:メチオニン及びパラアミノ安息香酸添加培地で培養)
<培養液の作製>
まず、水1Lに17gのアミノ酸を含まないYNB(yeast nitrogen base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate、Difco社製)、50gの硫酸アンモニウム及び100gのグルコース(和光純薬工業株式会社製)を加え、120℃で20分間オートクレーブすることにより、10倍濃度のYNB培地を作成した。その後、滅菌水を用いて10倍希釈を行い、下記に示す組成及び濃度の基本培地(アミノ酸を含まないYNB培地)を作製した。
−基本培地−
グルコース 10g/L
硫酸アンモニウム 5g/L
リン酸一カリウム 1.0g/L
硫酸マグネシウム 0.5g/L
硫酸亜鉛 400μg/L
硫酸マンガン 400μg/L
硫酸銅 40μg/L
塩化カルシウム 0.1g/L
塩化鉄 200μg/L
モリブデン酸ナトリウム 200μg/L
ホウ酸 500μg/L
ヨウ化カリウム 100μg/L
ビオチン 2μg/L
パントテン酸カルシウム 400μg/L
イノシトール 2,000μg/L
チアミン塩酸塩 400μg/L
ピリドキシン塩酸塩 400μg/L
p−アミノ安息香酸 200μg/L
塩化ナトリウム 0.1g/L
リボフラビン 200μg/L
ナイアシン 400μg/L
葉酸 2μg/L
【0064】
−メチオニン及びパラアミノ安息香酸添加培地−
前記基本培地中にメチオニンを濃度が4mg/mL、パラアミノ安息香酸を濃度が3μg/mLとなるように添加してメチオニン及びパラアミノ安息香酸添加培地を作製した。
【0065】
<酵母の培養>
清酒酵母菌株きょうかい酵母9号(K9)を前記基本培地5mLを用いて30℃で24時間前培養を行った。前記前培養後の酵母菌体をメチオニン及びパラアミノ安息香酸添加培地100mL中に、細胞濃度が2×105cells/mLとなるように接種して500mL容のバッフル付フラスコ内に収容させ、前記酵母を振とう培養した。
培養条件は、培養温度を30℃、培養時間を72時間、振とう速度を120rpm(中型振とう機 ダブルシェーカーNR−30、タイテック社製)とし、通気は行わなかった。
【0066】
前記条件で培養した酵母菌体を経時的(培養開始から0時間後、12時間後、24時間後、適宜36時間後、48時間後、適宜72時間後)に回収した。
その後、前記培養液100mLを4,000rpmにて2分間遠心分離し、上清を廃棄した。菌体(沈殿)に25℃の滅菌水15mLを添加し懸濁後、4,000rpmにて2分間遠心分離し、上清を廃棄して洗浄した。この洗浄を2回行った後、菌体を凍結乾燥して乾燥させた。
各時間における乾燥菌体(DCW)1g当たりの葉酸含有量(μg)を前記試験例1に記載の方法と同様の方法にて測定した結果を、図2中、棒グラフで示す。酵母菌体の培地中における細胞濃度の経時変化を図2中、黒丸で示す。
【0067】
(実施例2)
実施例1において、基本培地中にメチオニンを濃度が4mg/mL、パラアミノ安息香酸を濃度が3μg/mLとなるように添加してした点を、メチオニンの濃度が6mg/mL、パラアミノ安息香酸を濃度が4μg/mLとなるように添加した以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図3に示す。
【0068】
(比較例1)
実施例1において、基本培地に添加したアミノ酸、ビタミン等(メチオニン及びパラアミノ安息香酸)を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図4に示す。
【0069】
(比較例2)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からヒスチジンに変更し、その濃度を0.1mg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図5に示す。
【0070】
(比較例3)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からグルタミン酸に変更し、その濃度を2mg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図6に示す。
【0071】
(比較例4)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からセリンに変更し、その濃度を0.6mg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図7に示す。
【0072】
(比較例5)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からプロリンに変更し、その濃度を0.2mg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図8に示す。
【0073】
(比較例6)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からトリプトファンに変更し、その濃度を0.2mg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図9に示す。
【0074】
(比較例7)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からパラアミノ安息香酸に変更し、その濃度を3μg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図10に示す。
【0075】
(比較例8)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からビタミンB2に変更し、その濃度を2μg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図11に示す。
【0076】
(比較例9)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からビタミンB6に変更し、その濃度を8μg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図12に示す。
【0077】
(比較例10)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からビタミンB12に変更し、その濃度を8μg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図13に示す。
【0078】
(比較例11)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からグリシンに変更し、その濃度を3.1mg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図14に示す。
【0079】
(比較例12)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からグルタミン酸塩酸塩に変更し、その濃度を1mg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図15に示す。
【0080】
(比較例13)
実施例1において、基本培地に添加するアミノ酸、ビタミン等をメチオニン及びパラアミノ安息香酸からメチオニン及びビタミンB2に変更し、その濃度をメチオニンが4mg/mL、ビタミンB2が2μg/mLとした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図16に示す。
【0081】
(実施例3)
実施例1において、培養する菌株をきょうかい酵母9号から下記表3に示すそれぞれの菌株に変更し、培養時間を12時間とした以外は、実施例1と同様にして、乾燥菌体を調製し、得られた乾燥菌体1g当たりの葉酸含有量を測定した。結果を図17に示す。
【0082】
【表3】
* 表3に記載の菌株は、独立行政法人酒類総合研究所から入手可能である。
【0083】
比較例1〜6の結果から、アミノ酸を添加しない培地及びヒスチジン、グルタミン酸、セリン、プロリン又はトリプトファンなどのアミノ酸を添加した培地で酵母を培養した場合には、酵母菌体内における葉酸含有量には顕著な変化が見られなかった。
比較例7〜10の結果から、葉酸の前駆体であるパラアミノ安息香酸、葉酸代謝経路に重要な役割を果たしているビタミン等であるビタミンB2、B6、B12を添加した培地で酵母を培養しても、酵母菌体内における葉酸含有量には顕著な変化が見られなかった。
比較例11〜12の結果から、グリシン、及びグルタミン酸塩酸塩のいずれかを添加した培地で酵母を培養することにより、葉酸の含有量が増加したり、減少せず維持したりする酵母が得られることが分かったが、葉酸の含有量は、本発明の葉酸高含有酵母に比べて低かった。
比較例13の結果から、メチオニン及びビタミンB2の両方を添加した培地で酵母を培養した場合、細胞増殖が顕著に抑制され、葉酸含有量の減少が見られた。
【0084】
一方、実施例1の結果から、メチオニン及びパラアミノ安息香酸の両方を添加した培地で酵母を培養することにより、葉酸をより高含有する酵母が得られることが分かった。特に、酵母を12時間培養した場合には、乾燥菌体1gあたり180μg以上の葉酸を含有した酵母が得られた。
また、実施例2の結果から、メチオニン及びパラアモノ安息香酸の添加量を変えた場合であっても、本発明の方法の範囲内では、乾燥菌体1g当たり160μg以上という、葉酸を高含有する酵母が得られることが分かった。
また、実施例3の結果から、葉酸をより高含有させるためには、清酒酵母の中でも、きょうかい酵母6号、601号、7号、701号、8号、9号、901号、11号、12号、13号、14号、15号、及び1701号がより好ましいことが分かった。更に、きょうかい酵母6号、601号、7号、701号、8号、9号、901号、12号、13号、14号、15号、及び1701号では、乾燥菌体1gあたり180μg以上の葉酸を含有させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の葉酸高含有酵母の製造方法によれば、培養液中に安価なアミノ酸、ビタミン等を添加するだけで、簡単に葉酸を高含有した酵母を製造することができる。
本発明の葉酸高含有酵母及び葉酸高含有酵母破砕物は、葉酸を高濃度に含有するため、葉酸を効率良く生体内に摂取及び吸収することができ、食品素材として好適に利用可能である。
また、本発明の前記葉酸高含有酵母及び前記葉酸高含有酵母破砕物を含有する食品は、酵母を使用しているため安全性が高く、添加した食品の風味などを損なうことがなく、日常食として好適に利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチオニンを0.2質量%〜0.6質量%含み、かつ、パラアミノ安息香酸(pABA)を0.0002質量%〜0.0004質量%含む培養液中で酵母を培養することを特徴とする葉酸高含有酵母の製造方法。
【請求項2】
酵母が清酒酵母である請求項1に記載の葉酸高含有酵母の製造方法。
【請求項3】
清酒酵母がきょうかい酵母6号、601号、7号、701号、8号、9号、901号、11号、12号、13号、14号、15号、及び1701号の少なくともいずれかである請求項2に記載の葉酸高含有酵母の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする葉酸高含有酵母。
【請求項5】
菌体における葉酸含有量が乾燥菌体1g当たり少なくとも160μgであることを特徴とする葉酸高含有酵母。
【請求項6】
酵母が清酒酵母である請求項4から5のいずれかに記載の葉酸高含有酵母。
【請求項7】
清酒酵母がきょうかい酵母6号、601号、7号、701号、8号、9号、901号、11号、12号、13号、14号、15号、及び1701号の少なくともいずれかである請求項6に記載の葉酸高含有酵母。
【請求項8】
請求項4から7のいずれかに記載の葉酸高含有酵母の破砕物を少なくとも含むことを特徴とする葉酸高含有酵母破砕物。
【請求項9】
請求項4から7のいずれかに記載の葉酸高含有酵母を少なくとも含むことを特徴とする食品。
【請求項10】
請求項8に記載の葉酸高含有酵母破砕物を少なくとも含むことを特徴とする食品。
【請求項1】
メチオニンを0.2質量%〜0.6質量%含み、かつ、パラアミノ安息香酸(pABA)を0.0002質量%〜0.0004質量%含む培養液中で酵母を培養することを特徴とする葉酸高含有酵母の製造方法。
【請求項2】
酵母が清酒酵母である請求項1に記載の葉酸高含有酵母の製造方法。
【請求項3】
清酒酵母がきょうかい酵母6号、601号、7号、701号、8号、9号、901号、11号、12号、13号、14号、15号、及び1701号の少なくともいずれかである請求項2に記載の葉酸高含有酵母の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする葉酸高含有酵母。
【請求項5】
菌体における葉酸含有量が乾燥菌体1g当たり少なくとも160μgであることを特徴とする葉酸高含有酵母。
【請求項6】
酵母が清酒酵母である請求項4から5のいずれかに記載の葉酸高含有酵母。
【請求項7】
清酒酵母がきょうかい酵母6号、601号、7号、701号、8号、9号、901号、11号、12号、13号、14号、15号、及び1701号の少なくともいずれかである請求項6に記載の葉酸高含有酵母。
【請求項8】
請求項4から7のいずれかに記載の葉酸高含有酵母の破砕物を少なくとも含むことを特徴とする葉酸高含有酵母破砕物。
【請求項9】
請求項4から7のいずれかに記載の葉酸高含有酵母を少なくとも含むことを特徴とする食品。
【請求項10】
請求項8に記載の葉酸高含有酵母破砕物を少なくとも含むことを特徴とする食品。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−63065(P2013−63065A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−192145(P2012−192145)
【出願日】平成24年8月31日(2012.8.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本農芸化学会、「日本農芸化学会2011年度大会講演要旨集」、第85ページ、平成23年3月5日
【出願人】(301025634)独立行政法人酒類総合研究所 (55)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年8月31日(2012.8.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本農芸化学会、「日本農芸化学会2011年度大会講演要旨集」、第85ページ、平成23年3月5日
【出願人】(301025634)独立行政法人酒類総合研究所 (55)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】
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