説明

葦パルプを含有する情報記録用紙

【課題】異物や夾雑物が目立たず、好適に情報を記録できる、葦パルプを用いて抄紙した情報記録用紙を提供する。
【解決手段】葦パルプを含有する情報記録用紙は、木材パルプと葦パルプとを混合して抄紙された情報記録用紙である。木材パルプと葦パルプとに加え、他の原料が用いられていてもよい。前述した葦パルプは、白色度が50%以上に漂白された葦パルプである。この葦パルプは、全パルプ100重量部あたり0重量部を超えて10重量部以下の割合で配合されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、葦パルプを含有する情報記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全の観点から葦の育成・保全が注目されている。葦は「蘆」や「葭」とも書かれ、主に湿地帯に分布するイネ科ヨシ属の多年生草木である。学名はPhragmites australisである。春から夏にかけて高さ4mにも生長する。その際、二酸化炭素を光合成のために吸収し、また、窒素やリンも自身の栄養分として多量に吸収する。よって地球温暖化防止、河川や湖の水質浄化に役立つ植物として期待されている。日本国内においても自然の環境下で河川や湖の周辺に葦原・葦群落と呼ばれる広大な茂みを作り、特別な栽培を必要としないことから、その水質浄化作用に着目し、各地の河川や湖、池などで植栽が検討されている。
【0003】
このような葦は、冬期に気温が低くなると立ち枯れし、そのまま放置すると最終的には腐敗するので、水辺の環境を維持する為にも、枯れた後腐る前に刈り取り、葦原から持ち出す必要がある。葦は刈り取られても根が湿土に残っているため、春には新芽を出し、夏には急激に生長する。このように1年が生長のサイクルとなっているため、毎年刈り取られることが理想の状態であり、そして、地球資源の有効利用の観点から、刈り取られた葦を製紙資源として利用することが望まれている。
【0004】
葦をパルプ化し、製紙資源とすることは従前から行われてきており、例えば特許文献1には、葦パルプなど多年草植物を主原料とする原料パルプにデンプンを添加して製紙した吸収性紙製品が提案されている。特許文献2には葦パルプを金型に流し込み、包装用容器とすることが提案されている。また、特許文献3には、本願でいうイネ科の葦とは異なるものと考えられるが、古代エジプトにおいて古くから紙の代用品として使用されてきたカヤツリグサ科のパピルス葦を利用した模様紙が提案されている。
【特許文献1】特開2000−262431号(請求項1参照)
【特許文献2】特開平10−29661号(請求項1参照)
【特許文献3】特開平10−183489号(請求項1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従前の技術においては、葦パルプを製紙資源として利用することは開示されているものの、情報記録用紙への適用については言及されていない。即ち、葦パルプを用いて情報記録用紙を抄紙すると、有色の微細繊維などに起因する異物や夾雑物が目立ち、通常の情報記録用紙としては実用に供しえないものとなるが、この問題について解決されていない。葦パルプは木材パルプなど他のパルプに比べて黒色や茶色の着色繊維が多く混入する傾向にあり、特に葦の穂(葉や花の部分)をパルプ化した際は、着色繊維の混入が顕著となる。そのため葦パルプを用いて抄紙した紙は、異物や夾雑物が目立ち、情報記録用紙としては実用に耐えないものとなる。
【0006】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、葦パルプを用いて抄紙した情報記録用紙であって、異物や夾雑物が目立たず、好適に情報を記録できる情報記録用紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の葦パルプを含有する情報記録用紙は、少なくとも木材パルプと葦パルプとを混合して抄紙した情報記録用紙であって、前記葦パルプは、白色度が50%以上に漂白された葦パルプであり、全パルプ100重量部あたり0重量部を超えて10重量部以下の割合で配合される、ことを特徴とする情報記録用紙とするものである。
【0008】
前記葦パルプが、白色度50%以上に漂白された葦パルプであり、かつ、全パルプ100重量部あたり0重量部を超えて10重量部以下の割合で配合されることにより、異物や夾雑物が目立たず、更には、カール調整や強度等の物性面のコントロールに問題のない情報記録用紙とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、異物や夾雑物が目立たず、好適に情報を記録できる情報記録用紙を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用する葦は、河川、湖、池などの水辺に生息する葦を用いればよい。葦を刈り入れる際は、得られる葦パルプの収率を考慮すると、パルプ化しやすい茎の部分を長く刈り取る方が望ましい。また、葦は水辺に生息する植物でもあることから、枯れる前に刈り取ると含水率が高く、そのままパルプ化を行うと、後の蒸解行程において蒸解効率が悪くなる。この蒸解効率を向上させる為には、刈り取った葦を乾燥させることで対応可能であるが、葦は所謂立ち枯れをするので、立ち枯れから腐敗するまでの間に刈り取れば比較的含水率の低い葦を得ることができ、意図的に乾燥させるなどせずとも効率よく蒸解が可能となる。
【0011】
本発明においては、まず刈り取った葦を1cm乃至5cm程度の長さに断裁する。葦の形態は大きく分けて茎と穂の部分に分類できるが、穂の部分より得られるパルプには異物や夾雑物の原因となる着色繊維が多く混入するため、ここで除去する方が好ましい。但し、大量の葦を断裁する際に茎と穂を分けて断裁する作業は非常に労力を要するので、後の除塵行程で穂の部分をある程度除去することや、後の漂白行程で異物や夾雑物の原因となる着色繊維をある程度漂白することが可能であれば、茎と穂を分けて断裁する必要はない。
【0012】
次に、断裁した葦を除塵工程にかけ、塵や異物を除去する。除塵の方法としては特に限定するものではなく、サイクロン方式や篩い分け方式などを用いることができる。特に前述の茎と穂の部分を分別するには篩い分け方式が好適である。
【0013】
次に、除塵した葦を蒸解して葦パルプを得る。葦の蒸解方法としては、特に限定するものではなく、クラフト蒸解や、アルカリ蒸解など通常の木材チップを蒸解する方法を用いることが可能であり、蒸解条件も木材チップを蒸解する条件と同じく、各種蒸解法に適した条件を適宜用いることが可能である。また、蒸解助剤としてアントラキノン誘導体などを用いることも可能であり、蒸解釜としては連続蒸解釜や地球釜を用いることが可能である。尚、ここで蒸解する葦の含水率が高い場合は蒸解液を多く要したり、蒸解する時間を長くする必要があるなど効率が悪くなるため、用いる葦としてはなるべく乾燥したものが好ましい。具体的には10乃至30重量%の含水率の葦を用いることで効率よく蒸解することが可能である。
【0014】
こうして得られた葦パルプには黒色や茶色の着色繊維が多く混入しており、この着色繊維が異物や夾雑物の原因となる為、このままでは情報記録用紙の製紙原料としては用いることが難しい。そこで本発明においては、黒色や茶色の着色繊維を減少させる為、蒸解して得られた葦パルプを漂白する。
【0015】
まず、通常の木材パルプで実施されるのと同じく、蒸解後のパルプに付着する薬品などを除去し、清浄な未晒しの葦パルプを得るため、洗浄を行う。この洗浄行程は漂白行程での負担を減らすためにも重要な行程であるが、葦由来の異物を除去する効果もあることから充分に洗浄することが好ましい。
【0016】
次に洗浄した未晒しの葦パルプを漂白する。漂白の方法としては特に限定するものではなく、通常の木材パルプを漂白する方法を用いることが可能である。具体的には、次亜塩素酸塩や塩素漂白剤での一段漂白を用いることができる。また、塩素−アルカリ処理−次亜塩素酸塩−二酸化塩素のような多段漂白も用いることができる。尚、多段漂白においては、アルカリ処理段において酸素や過酸化水素を添加し、パルプの白色度をより高めた方が、黒色や茶色の着色繊維を減少させるのに効果的である。
【0017】
ここで、本発明においては、葦パルプの白色度が50%以上となるよう漂白し、好ましくは60%以上に漂白する。未晒しの葦パルプは黒色や茶色の着色繊維が多く混入していることもあり、その白色度は通常40%程度である。しかし、漂白を行うことで黒色や茶色の着色繊維が減少し、パルプの白色度を50%以上に漂白することで情報記録用紙の製紙原料として用いることが可能な葦パルプとすることができる。また、より黒色や茶色の着色繊維の混入が少ない葦パルプを得るにはパルプの白色度を60%以上とすることが好ましい。葦パルプの白色度をコントロールする方法としては、漂白剤の添加量や漂白時間を変更するなど、通常の木材パルプを漂白する際の方法と同様の方法を用いればよい。尚、ここでの白色度とはキセノンフラッシュランプを光源に使用してISO2470に規定される測定法により測定された白色度をいう。
【0018】
漂白された葦パルプはフラットスクリーンやセントリクリーナーなどで精選を行うことが好ましい。また、上述の蒸解から精選までの行程においては、通常の木材パルプを製造する場合に用いられる助剤などを用いてもよい。
【0019】
本発明においては、白色度を50%以上に漂白された葦パルプと木材パルプとを混合して情報記録用紙を抄紙する。この際の葦パルプの配合割合は、全パルプ100重量部あたり0重量部を超えて10重量部以下とする。木材パルプの代替として葦パルプを使用するという資源有効利用の側面からは、葦パルプの含有量はより多い方が好ましいが、10重量部を超えて配合すると、満足な情報記録用紙を得ることができない虞がある。前述の通り、葦パルプが含有する黒色や茶色の着色繊維は漂白の行程を経ることによって確実に減少するが、たとえ白色度を50%以上に漂白した葦パルプであっても、黒色や茶色の着色繊維の殆どをなくすことは困難であり、ある程度は残存してしまう。そのため、葦パルプを10重量部を超えて配合すると、得られた情報記録用紙には異物や夾雑物が目立つこととなり、実用に供すことができない虞がある。更には、葦パルプは比較的短く柔軟な繊維を多く含むため、配合量が多くなりすぎると得ようとする情報記録用紙のカール調整や強度等の物性面のコントロールが難しくなる虞がある。
【0020】
葦パルプと混合して用いる木材パルプとしては特に限定するものではなく、公知の木材パルプを1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。例えば、木材原料を主に化学的に処理して製造した化学パルプのNBKP、LBKP、SCP等、木材原料を主に機械的に処理して製造した機械パルプのGP、CGP、RGP、TMP等、脱墨パルプ、再生パルプなどであり、工程で発生する損紙を離解したパルプ等を用いても良い。
【0021】
また、葦パルプと木材パルプとを混合したパルプの濾水度は、特に限定するものではないが、情報記録用紙への適応を考慮すれば、200乃至600ml・CSFとすることが好ましく、300乃至450ml・CSFとすることがより好ましい。尚、葦パルプ自体は比較的短い繊維を多く含むことから100ml・CSF程度の低い濾水度を示すので、これを考慮して木材パルプ自体の濾水度を設定すると、葦パルプと木材パルプとを混合したパルプの濾水度をコントロールし易い。
【0022】
このようにして得られた葦パルプと木材パルプとを混合したパルプを製紙原料とし、
長網式、丸網式など公知の湿式抄紙機を用いて情報記録用紙を抄紙する。抄紙条件は特に限定するものではなく、目的とする情報記録用紙の用途に合わせて公知の手段を適宜選択して用いることができる。また、パルプに添加する製紙副原料についても特に限定するものではなく、目的とする情報記録用紙の用途に合わせて公知のものを適宜選択して用いることができる。例えば、填料、歩留まり向上剤、紙力増強剤、サイズ剤、インク定着剤、染料、顔料、導電剤、消泡剤、pH調整剤、スライムコントロール剤、などが挙げられる。
【0023】
本発明の情報記録用紙の用途としては、特に限定するものではなく、一般的なPPC用紙やインクジェット記録用紙の他、印刷用紙やノート用紙、手帳用紙、メモ用紙、ルーズリーフ用紙、レポート用紙、便箋用紙、伝票用紙などに適用することが可能であり、それぞれの用途に応じて抄紙条件や副原料の配合など公知の方法を用いて情報記録用紙を設計すればよい。また、本発明の情報記録用紙は、包装用紙や封筒用紙、加工原紙などとして用いても問題はない。
【実施例】
【0024】
以下に本発明に係わる情報記録用紙の実施例及び比較例について具体的に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。尚、実施例中の部及び%は、断らない限り乾燥重量部及び重量%を示す。
【0025】
(実施例1)
長さ約2cmに断裁した葦1800kg(含水率約18%)を容量10mの地球釜に投入し、次いで苛性ソーダを、葦の絶乾重量に対するNaOHの重量の百分率が25%となるよう添加し、葦試料絶乾重量に対する蒸解水溶液重量の比率(蒸解水溶液の重量/葦の絶乾重量)を6、最高温度150℃、最高温度保持時間150分の蒸解条件で蒸解を行った。その後、得られたパルプを洗浄して未晒しの葦パルプを得た。ここで得られた未晒しの葦パルプの白色度は40%であった。
次に、得られた未晒しの葦パルプに次亜塩素酸ナトリウムをパルプの絶乾重量に対するNaClOの重量の百分率が15%となるように添加し、パルプ濃度5%、温度40℃、時間120分の漂白条件で漂白し、その後、パルプを充分に水で洗い、フラットスクリーンでの精選を経て、目的とする漂白された葦パルプを得た。得られた葦パルプの白色度は55%、濾水度は100ml・CSFであった。
次に、上記の方法で得られた葦パルプを10重量部、LBKP70重量部、NBKP20重量部を混合し、濾水度を350ml・CSFとした後、水中に分散したパルプ100重量部に対し、炭酸カルシウムを10重量部、硫酸バンドを0.5重量部、カチオン化デンプンを0.6重量部、ロジン系サイズ剤(CC1401/星光PMC社製)を0.2重量部、を加えてよく攪拌した後、苛性ソーダにてpH7.5に調整し、製紙用原料を得た。得られた原料を用い、坪量が64g/mとなるよう長網式抄紙機にて抄紙し、情報記録用紙を得た。尚、抄紙の際には、サイズプレス装置にて、酸化澱粉3重量部、表面サイズ剤(ケイコートSS−207/近代化学工業社製)0.3重量部、塩化ナトリウム0.3重量部を水に分散したサイズプレス液を、塗布量が固形分換算で1g/mとなるよう塗布した。
【0026】
(実施例2)
実施例1において、製紙用原料として混合するパルプの配合量を、葦パルプを1重量部、LBKPを79重量部、NBKPを20重量部とした以外は実施例1と同様にして情報記録用紙を得た。
【0027】
(実施例3)
実施例1において、未晒しの葦パルプに添加する次亜塩素酸ソーダをパルプの絶乾重量当たり2.5%となるようにし、パルプ濃度4%、温度40℃、時間150分の漂白条件に変更した以外は実施例1と同様にして情報記録用紙を得た。尚、漂白された葦パルプの白色度は62%であった。
【0028】
(実施例4)
実施例1において、サイズプレス液を、酸化澱粉3重量部、カチオン系インク耐水化剤6重量部、塩化カルシウム1重量部を水に分散したサイズプレス液に変更した以外は実施例1と同様にして情報記録用紙を得た。
【0029】
(比較例1)
実施例1において、未晒しの葦パルプを漂白せず、そのまま製紙用原料として用いた以外は実施例1と同様にして情報記録用紙を得た。
【0030】
(比較例2)
実施例1において、製紙用原料として混合するパルプの配合量を、葦パルプを15重量部、LBKPを65重量部、NBKPを20重量部とした以外は実施例1と同様にして情報記録用紙を得た。
【0031】
実施例1乃至4で得られた情報記録用紙は、何れも異物や夾雑物が目立たず、情報記録用紙として文字や画像を記録するのに好適なものであった。実施例2では、実施例1に比べて葦パルプの配合量を少なくしたため、より異物や夾雑物の少ない情報記録用紙を得ることができた。実施例3では実施例1より葦パルプの漂白を進めたため、より異物や夾雑物の少ない情報記録用紙を得ることができた。これに対し比較例1では未晒しの葦パルプを用いたため、得られた情報記録用紙には異物や夾雑物が目立ち、情報記録用紙としては実用に供しえないものであった。比較例2では葦パルプの配合量を多くしすぎたため、得られた情報記録用紙には異物や夾雑物が目立ち、情報記録用紙としては実用に供しえないものであった。
【0032】
また、実施例1及び2で得た情報記録用紙は、塩化ナトリウムを含むサイズプレス液を塗布したことなどから、電子写真転写方式のプリンタ用紙として好適に用いることが可能であり、また、ペン書きサイズにも優れることからノート用紙やメモ用紙にも好適に用いることが可能であった。また、実施例3で得た情報記録用紙は、カチオン系インク耐水化剤と塩化カルシウムを含むサイズプレス液を塗布したことなどから、インクジェット方式のプリンタ用紙として好適に用いることが可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも木材パルプと葦パルプとを混合して抄紙した情報記録用紙であって、前記葦パルプは、白色度が50%以上に漂白された葦パルプであり、全パルプ100重量部あたり0重量部を超えて10重量部以下の割合で配合される、ことを特徴とする情報記録用紙。

【公開番号】特開2010−65346(P2010−65346A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232850(P2008−232850)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(301005681)株式会社コクヨ工業滋賀 (4)
【出願人】(592175416)紀州製紙株式会社 (23)
【Fターム(参考)】