説明

蒸気の自己分解伝播性の評価装置および評価方法

【課題】 蒸気の自己分解伝播性を直接観察でき、自然発火性を有する蒸気でも安全に評価でき、自己分解伝播速度を精度良く求めることができる評価装置および評価方法を提供する。
【解決手段】 本発明の方法は、試料の導入口とその栓および試料の導入と内部ガスの排気を行う配管とそれを開閉するバルブ、および分解エネルギー供給手段を有する試料容器内に、試料の導入口または試料の導入および内部ガスの排気を行う配管から試料を導入し、試料容器を覗き窓を有する恒温槽内の覗き窓から見える位置に配置し、分解エネルギー供給手段からエネルギーを付与し、該覗き窓から自己分解伝播の発生の有無を観察することを特徴とし、更に、試料容器として透明ガラス容器を使用し、恒温槽の覗き窓の外部にビデオカメラを配置して、自己分解伝播する分解火炎を撮影し、その撮像における分解火炎の移動距離とその時間から自己分解伝播速度を求めることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気の自己分解伝播性の評価装置および評価方法に関する。詳しくは、自然発火性を有する蒸気の自己分解伝播性の評価にも好適な評価装置および評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化エチレンガスは、アセチレンやエチレンと同じように、空気等の支燃性ガスが存在しなくてもそれ自体単独でエネルギーが与えられると分解伝播性を示すが、酸化エチレンの分解爆発実験を行い、分解反応のメカニズムを検討した事例が知られている(非特許文献1参照。)。
この実験においては、上部にガス導入用および排出用の金属管、圧力計が設けられたステンレス製の耐圧容器の胴部上方に温度測定のための熱電対を挿入した保護管、下部には2本の電極間にろう付けした白金線を、直流電流で溶断することによって着火エネルギーを付与する手段を設け、容器に酸化エチレンを充填し、白金線の溶断によって着火エネルギーを付与し、分解伝播による温度上昇の測定と、測定後のガス分析による酸化エチレンの残量から分解伝播の確認および解析を行っている。
しかしながら、この方法では、蒸気の自己分解伝播性を直接観察することができない。また、自己分解伝播速度は着火から熱電対で温度上昇を検出するまでの時間から求めることができるが、分解火炎が熱電対に到達するまでに消滅する部分伝播の場合には、自己分解伝播速度を求めることはできない。
【0003】
一方、有機金属等は空気中で自然発火性を有しており、しかも、その蒸気は空気が存在しなくても外部からのエネルギーによって自己分解を起こす可能性を有する物質であるが、実験の際に、自己分解による圧力上昇によって測定容器の外部に蒸気が漏洩した場合には、空気中の酸素によって発火する危険性を有するためからか、これまで実際に蒸気の自己分解伝播性を評価した例は見られない。
【非特許文献1】「安全工学」、1962年、第1巻、第2号、p.89〜91
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、蒸気の自己分解伝播性を直接観察でき、自然発火性を有する蒸気でも安全に評価でき、更には、自己分解伝播速度を精度良く求めることができる蒸気の自己分解伝播性の評価装置および評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、蒸気の自己分解伝播性、特に自然発火性を有する蒸気の自己分解伝播性の評価装置および評価方法について鋭意検討した結果、温度制御手段、内部を不活性ガスで置換する手段および覗き窓を有する恒温槽の覗き窓から見える位置に、試料の導入口とその栓および試料の導入と内部ガスの排気を行う配管とそれを開閉するバルブ、および分解エネルギー供給手段を有する試料容器を配置し、その容器に試料を導入し、分解エネルギー供給手段からエネルギーを付与し、覗き窓から自己分解伝播の発生の有無を観察することによって、直接、安全に、蒸気の自己分解伝播性を評価でき、また分解火炎を覗き窓から高速度ビデオカメラで撮影し、撮像から自己分解伝播速度を精度良く求めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、温度制御手段、内部を不活性ガスで置換する手段および覗き窓を有する恒温槽と、覗き窓から見える恒温槽内の位置に配置される試料容器とからなり、試料容器には試料の導入口とその栓および試料の導入と内部ガスの排気を行う配管とそれを開閉するバルブ、および分解エネルギー供給手段を備えていることを特徴とする蒸気の自己分解伝播性の評価装置である。
また、試料容器が透明ガラス容器であり、恒温槽の覗き窓の外部にビデオカメラが配置されていることを特徴とする前記の評価装置である。
また、試料の導入口とその栓および試料の導入と内部ガスの排気を行う配管とそれを開閉するバルブ、および分解エネルギー供給手段を有する試料容器内に、試料の導入口または試料の導入および内部ガスの排気を行う配管から試料を導入し、試料を導入した試料容器を覗き窓を有する恒温槽内の覗き窓から見える位置に配置し、分解エネルギー供給手段からエネルギーを付与し、該覗き窓から自己分解伝播の発生の有無を観察することを特徴とする蒸気の自己分解伝播性の評価方法である。
更に、該試料容器として透明ガラス容器を使用し、恒温槽の覗き窓の外部にビデオカメラを配置して、自己分解伝播する分解火炎を撮影し、その撮像における分解火炎の移動距離とその時間から自己分解伝播速度を求めることを特徴とする前記の評価方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、蒸気の自己分解伝播性を直接観察でき、自然発火性を有する蒸気でも安全に評価でき、更には、自己分解伝播速度を精度良く求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態である評価装置の断面模式図である。
【0009】
評価装置1は、試料容器2と恒温槽3から構成されている。恒温槽3には覗き窓9、内部を不活性ガスで置換する手段である不活性ガスの供給管14および排気管15、恒温槽の温度を加熱制御するための手段13(端子だけ図示している)が設けられ、更に分解エネルギー供給手段である放電電極4に通電するための通電手段12(端子だけ図示している)が配置されている。
内部を不活性ガスで置換する手段で恒温槽内の雰囲気を不活性ガスで置換しておくことにより、試料が自然発火性であって、試料容器から仮に漏洩したとしても、発火することなく、安全に評価を行うことができる。
【0010】
試料容器(以下、単に容器と言うことがある。)2の上部には、試料の導入口5およびその栓6、試料の導入と内部ガスの排気を行う配管7およびバルブ8、および分解エネルギー供給手段4が取り付けられている。
試料容器2としては、ステンレスなどの金属製、ガラス製のものが用いられる。分解火炎を眼またはビデオカメラで観察するには、透明ガラス容器が用いられる。
試料の導入口5およびその栓6、試料の導入と内部ガスの排気を行う配管7およびバルブ8、分解エネルギー供給手段4の取り付け位置は特に限定されるものではないが、通常、試料の導入口5およびその栓6、試料の導入と内部ガスの排気を行う配管7およびバルブ8は容器の上部に、分解エネルギー供給手段4は下方に取り付けられる。
【0011】
図1において、分解エネルギー供給手段として、電気火花を発生させる放電電極が取り付けられ、放電電極は通電手段12(端子だけ図示している)に接続されている。
分解エネルギー供給手段としては、イグナイターの着火や金属線の溶断など、他の手段でも良い。
【0012】
固体試料を評価する場合には、通常、試料は導入口5から容器内に入れ、内部ガスの排気を配管7およびバルブ8で行う。なお、液体試料も導入口5から容器内に入れることは可能である。液体またはガス試料を評価する場合には、通常、配管7およびバルブ8を介して試料の導入、内部ガスの排気が行われる。配管7の先端にはバルブ8を開けても容器内のガスと容器外のガスが接触しないようにシリコン栓が取り付けられている。
【0013】
自己分解伝播の評価は、自己分解伝播が発生した場合には、容器2内に分解火炎が発生し、導入口5に挿入してある栓6が飛び出すので、覗き窓から栓6の飛び出しを目視によって観察する。試料容器として透明ガラス容器を使用し、発生する分解火炎を目視によって観察してもよいし、また、透明ガラス容器を使用し、ビデオカメラを覗き窓の外部に配置し、分解火炎を撮影し、その撮像から確認してもよい。
撮像における分解火炎の移動距離とその時間から自己分解伝播速度を精度良く求めることができる。その際、ビデオカメラとしたは、高速度ビデオカメラを使用するのが好ましい。
【0014】
次にこの評価装置1を使用して蒸気の自己分解伝播性を評価する方法について説明する。
グローブボックス内に試料容器2を設置し、グローブボックス内を不活性ガスで置換する。室温で試料10が固体の場合は、配管7およびバルブ8を介して容器2内も不活性ガスで置換する。試料導入口5の栓6を取り外して試料10を容器2内に所定量入れた後、栓6を取り付け、配管7から真空ポンプによって容器2内の不活性ガスを排気する。
【0015】
室温で試料10が液体の場合は、まず、シリンジに液体試料を入れておく。次に、配管7およびバルブ8を介して真空ポンプにより容器2内を真空にした後、バルブ8を閉じ、配管7の先端にシリコン栓を取り付ける。再びバルブ8を開け、液体試料を入れたシリンジの針を、シリコン栓を通して配管7から容器2内に挿入し、容器2内に液体試料を所定量入れた後、シリンジの針を引き抜く。シリコン栓によって、容器2内へグローブボックス内の不活性ガスが侵入することを防止する。
【0016】
グローブボックスから試料10を入れた容器2を取り出し、恒温槽3内に容器2を設置する。恒温槽2内の雰囲気を不活性ガスで置換した後、恒温槽3を設定温度まで加熱し、試料10の設定温度における飽和蒸気11を容器2内に形成させる。次に、分解エネルギー供給手段4である放電電極に電圧をかけて放電電極の間に電気火花を発生させ、分解エネルギーを試料蒸気に与える。
【0017】
自己分解が伝播して試料蒸気全体が自己分解を起こすと、容器2の内部圧力の上昇により栓6が容器2の導入口5から飛び出す。この栓6の飛び出しの有無を覗き窓9から確認し、試料蒸気11の自己分解伝播性の有無を判定する。また、容器2として透明ガラス容器を使用し、発生する分解火炎を目視によって観察し、また、透明ガラス容器を使用し、ビデオカメラを覗き窓の外部に配置し、分解火炎を撮影し、その撮像から自己分解伝播性の有無を確認してもよい。
【0018】
更に、ビデオカメラの撮像における分解火炎の移動距離とその時間から自己分解伝播速度を求める。この時、高速度ビデオカメラを用いて行うのが好ましい。この方法によって精度良く自己分解伝播速度を求めることができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0020】
自然発火性を有する有機金属であるトリメチルインジウム(TMI、沸点:136℃、融点:88℃)、トリメチルアルミニウム(TMA、沸点:127℃、融点:15℃)およびトリメチルガリウム(TMG、沸点56℃、融点:−16℃)の3種類について、その自己分解伝播性を評価した。
TMIは室温では固体の物質であり、TMAおよびTMGは室温では液体の物質である。
【0021】
図1に示す評価装置を用いて行った。試料容器として透明ガラス容器(内容積:約300cm)を用いた。試料量は、固体の場合は1〜1.5g、液体の場合は約2cmとした。これらの量は、容器内を試料蒸気で充満させるために十分な量である。また、放電電極の間隔は2mmとし、15kVの電圧を与えて電気火花を発生させた。電気火花の発生時間は、最大で10秒程度とした。設定温度はTMIでは40〜130℃、TMAは50〜125℃、TMGは50〜53℃とした。
栓6の飛び出しの有無を覗き窓9から確認し、試料蒸気の自己分解伝播性の有無を判定した。
また、高速度ビデオカメラ(MEMRECAMci、(株)ナック社製)を覗き窓の外部に配置し、分解火炎を撮影し、その撮像から自己分解伝播速度を求めた。
【0022】
TMIは、40〜80℃では蒸気の自己分解伝播性は見られなかった、90℃および130℃では蒸気の自己分解伝播性が見られた。TMAは、設定温度範囲である50〜125℃では蒸気の自己分解伝播性は見られなかった。また、TMGも、設定温度範囲である50〜53℃では蒸気の自己分解伝播性は見られなかった。
結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態である評価装置の断面模式図である。
【符号の説明】
【0025】
1 評価装置
2 試料容器
3 恒温槽
4 分解エネルギー供給手段
5 導入口
6 栓
7 配管
8 バルブ
9 覗き窓
10 試料
11 試料蒸気
12 通電手段
13 加熱制御するための手段
14 不活性ガスの供給管
15 不活性ガスの排気管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度制御手段、内部を不活性ガスで置換する手段および覗き窓を有する恒温槽と、該覗き窓から見える恒温槽内の位置に配置される試料容器とからなり、該試料容器には試料の導入口とその栓および試料の導入と内部ガスの排気を行う配管とそれを開閉するバルブ、および分解エネルギー供給手段を備えていることを特徴とする蒸気の自己分解伝播性の評価装置。
【請求項2】
該試料容器が透明ガラス容器であることを特徴とする請求項1記載の評価装置。
【請求項3】
該試料容器が透明ガラス容器であり、該恒温槽の覗き窓の外部にビデオカメラが配置されていることを特徴とする請求項1記載の評価装置。
【請求項4】
試料の導入口とその栓および試料の導入と内部ガスの排気を行う配管とそれを開閉するバルブ、および分解エネルギー供給手段を有する試料容器内に、試料の導入口または試料の導入および内部ガスの排気を行う配管から試料を導入し、試料を導入した該試料容器を覗き窓を有する恒温槽内の覗き窓から見える位置に配置し、分解エネルギー供給手段からエネルギーを付与し、該覗き窓から自己分解伝播の発生の有無を観察することを特徴とする蒸気の自己分解伝播性の評価方法。
【請求項5】
該試料容器として透明ガラス容器を使用することを特徴とする請求項4記載の評価方法。
【請求項6】
該試料容器の試料の導入口から栓が飛び出した場合に、自己分解伝播が発生したと判定することを特徴とする請求項4または5記載の評価方法。
【請求項7】
該試料容器として透明ガラス容器を使用し、該恒温槽の覗き窓の外部にビデオカメラを配置して、自己分解伝播する分解火炎を撮影し、その撮像から自己分解伝播の発生の有無を判定することを特徴とする請求項4記載の評価方法。
【請求項8】
ビデオカメラの撮像における分解火炎の移動距離とその時間から自己分解伝播速度を求めることを特徴とする請求項7記載の評価方法。
【請求項9】
試料が自然発火性物質であることを特徴とする請求項4〜8記載の評価方法。




【図1】
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【公開番号】特開2007−10604(P2007−10604A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194687(P2005−194687)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】