説明

蒸気タービンシステム及びその暖機方法

【課題】ボイラ負荷に応じて変化するボイラからの蒸気エネルギーにかかわらず、タービン車室温度を安定的に保持することが可能な蒸気タービンシステム及びその暖機方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る蒸気タービンシステム1は、高圧タービン2Hに設けられ、主蒸気管L1−1から分岐された暖機用蒸気管L2から高中圧タービン車室3内へ主ボイラ4Hから排出された蒸気を供給する供給口9と、高中圧タービン車室3の車室内外温度を測定する温度測定部12,13と、暖機用蒸気管L2に設けられ、測定された車室内外温度に基づいて高中圧タービン車室3内へ供給される蒸気の圧力を調整する圧力制御弁7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラからタービンへ蒸気が供給される蒸気タービンシステム及びその暖機方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
舶用主機として蒸気タービンを使用する船舶では、ターミナル停泊時に地震又は津波警報が発令されたときなどに対応して船舶を即座に離岸できるように、停泊中でもタービンを暖機しておく必要がある。タービンを暖機しておくことで、段階的な運転による暖機過程を経ることなく港湾全速航行が可能となる。
【0003】
特許文献1には、蒸気タービン船における停泊中の暖機運転から出港時の通常運転へと移行するときの課題を解決する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4184849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タービンを暖機するための蒸気は、ボイラから船舶前進運転時に使用される高圧タービンへ接続される主蒸気管と、主蒸気管から分岐された枝管(以下、暖機用蒸気管ともいう。)、及びタービンに設けられた供給口を介してタービン車室内部に供給される。暖機用蒸気管には、制御部によって制御されながら、蒸気圧力を調整する圧力調整弁が設けられる。なお、以下では、高圧タービン、中圧タービン及び低圧タービン等、複数のタービンからなる蒸気タービンシステムの場合の全てのタービンを総称して、単に「タービン」ともいう。
【0006】
関連技術では、タービンへ流入する暖機蒸気量は、一意的に定められた蒸気圧力となるように調整されていた。すなわち、予め設定された一つの蒸気圧力以外の値には設定されることがなく、適切な暖機蒸気を供給するか否かであった。
【0007】
ボイラから供給される蒸気は、ボイラ負荷に応じて、蒸気温度、すなわち蒸気が有するエネルギーが変化する。そのため、一意的に定められた蒸気圧力となるように暖機蒸気量を制御する場合、タービンを常に期待し得る状態で暖機できなかった。すなわち、暖機用蒸気管における蒸気圧力と、タービン車室温度の関係を、事前試験によって確認することもできるが、実運転では、ボイラ負荷に応じて蒸気温度が変化するため、蒸気圧力を一意的に定められた値となるように調整する方法では、タービンを常に適切に暖機することができない。
【0008】
また、タービンに一意的に定められた圧力の蒸気が供給されるように調整する場合、ボイラから供給される蒸気の温度が低下して、暖機蒸気の温度が低くなると、比容積の関係からタービンに流入する蒸気流量が増加する。そのため、低圧タービンに必要以上の蒸気が流れて、低圧タービンを暖めすぎてしまい、低圧タービンが過暖機状態になるという問題があった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ボイラ負荷に応じて変化するボイラからの蒸気エネルギーにかかわらず、タービン車室温度を安定的に保持することが可能な蒸気タービンシステム及びその暖機方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の蒸気タービンシステム及びその暖機方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係る蒸気タービンシステムは、第1タービンに設けられ、主蒸気管から分岐された分岐蒸気管から第1タービン車室内へボイラから排出された蒸気を供給する供給口と、第1タービン車室の車室内外温度を測定する第1温度測定部と、分岐蒸気管に設けられ、測定された車室内外温度に基づいて第1タービン車室内へ供給される蒸気の圧力を調整する圧力制御部とを備える。
【0011】
この発明によれば、蒸気がボイラから排出されて主蒸気管を通過した後、その蒸気は、主蒸気管から分岐された分岐蒸気管を通過して、第1タービン車室内へ供給される。また、第1タービン車室の車室内外温度が測定され、測定された車室内外温度に基づいて、第1タービン車室内へ供給される蒸気の圧力が調整される。よって、第1タービン車室内へ供給される蒸気の圧力は一定ではなく、第1タービン車室の車室内外温度に応じて変化する。
【0012】
一方、関連技術として、第1タービン車室へ供給される蒸気の圧力が一意的に定められている場合、ボイラから排出された蒸気の温度条件によって、第1タービン車室へ供給される蒸気流量が変化する。そのため、ボイラから排出される蒸気の温度条件に影響を受けて、第1タービンを適切に暖機できない。本発明では、測定された車室内外温度に応じて、第1タービン車室へ供給される蒸気流量が制御されるため、ボイラから排出される蒸気の温度条件にかかわらず、第1タービンを適切に暖機できる。
【0013】
例えば、第1タービン車室の車室内外温度が所定の温度下限よりも低いときは、第1タービン車室内へ供給される蒸気の圧力を上昇させて、第1タービンに流入するエネルギーを増加させ、暖機不足を解消する。反対に、第1タービン車室の車室内外温度が所定の温度上限よりも高いときは、第1タービン車室内へ供給される蒸気の圧力を低下させて、第1タービンに流入するエネルギーを減少させ、過暖機を防止する。
【0014】
本発明において、第1タービン車室から第2タービン車室へ供給された後、第2タービン車室から排出される蒸気の排気温度を測定する第2温度測定部をさらに備え、圧力制御部は、測定された車室内外温度及び排気温度に基づいて、第1タービン車室内へ供給される蒸気の圧力を調整してもよい。
【0015】
この発明によれば、ボイラから排出された蒸気は、第1タービン車室を通過して、第1タービン車室から第2タービン車室へ供給された後、第2タービン車室を通過して、第2タービン車室から排気される。そして、第2タービン車室から排出される蒸気の排気温度が測定され、測定された車室内外温度及び排気温度に基づいて、第1タービン車室内へ供給される蒸気の圧力が調整される。したがって、第1タービン車室の車室内外温度だけでなく、第2タービン車室から排出される蒸気の排気温度に応じて、第1タービン車室へ供給される蒸気の圧力が変化する。そのため、第2タービン車室から排出される蒸気の排気温度が指標となって、第1タービンだけでなく、第2タービンも適切に暖機できる。
【0016】
例えば、第2タービン車室から排出される蒸気の排気温度が所定の温度上限よりも高いときは、第1タービン車室内へ供給される蒸気の圧力を低下させて、第1タービンに流入するエネルギーを減少させ、過暖機を防止する。
【0017】
本発明において、第1タービン車室から再熱器へ蒸気を供給する再熱蒸気管と、分岐蒸気管から再熱蒸気管内へ蒸気を供給する暖管用蒸気管とをさらに備え、圧力制御部は、測定された車室内外温度又は排気温度に基づいて暖管用蒸気管内へ供給される蒸気の圧力を調整してもよい。
【0018】
この発明によれば、再熱器が設けられて、第1タービン車室から再熱器へ蒸気が供給される再熱サイクルの蒸気タービンシステムにおいて、分岐蒸気管から再熱蒸気管内へ蒸気が供給される。そして、測定された車室内外温度又は排気温度に基づいて、第1タービン車室及び再熱蒸気管内へ供給される蒸気の圧力が調整される。したがって、第1タービン車室へ供給される蒸気の圧力だけでなく、再熱蒸気管へ供給される蒸気の圧力が変化する。そのため、第1タービンや第2タービンだけでなく、再熱蒸気管も適切に暖管できる。
【0019】
また、本発明に係る蒸気タービンシステムの暖機方法は、主蒸気管から分岐された分岐蒸気管から第1タービン車室内へボイラから排出された蒸気を供給するステップと、第1タービン車室の車室内外温度を測定するステップと、分岐蒸気管にて、測定された車室内外温度に基づいて第1タービン車室内へ供給される蒸気の圧力を調整するステップとを備える。
【0020】
この発明によれば、測定された車室内外温度に応じて、第1タービン車室へ供給される蒸気流量が調整されるため、ボイラから排出される蒸気の温度条件にかかわらず、第1タービンを適切に暖機できる。
【発明の効果】
【0021】
ボイラ負荷に応じて変化するボイラからの蒸気エネルギーにかかわらず、タービン車室温度を安定的に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る蒸気タービンシステムを示す構成図である。
【図2】高中圧タービン車室の下半車室を示す端面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る蒸気タービンシステムの動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態の変形例に係る蒸気タービンシステムを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る蒸気タービンシステム1の構成について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る蒸気タービンシステム1を示す構成図である。
【0024】
蒸気タービンシステム1は、高圧タービン2H、中圧タービン2M及び低圧タービン2Lと、主ボイラ4Hと、再熱器4Rなどからなる。高圧タービン2Hと中圧タービン2Mは、高中圧タービン車室3内部に収納され、低圧タービン2Lは、低圧タービン車室5内部に収納される。なお、以下では、高圧タービン2H、中圧タービン2M及び低圧タービン2Lを総称して、単に「タービン」ともいう。
【0025】
蒸気タービンシステム1は、高圧タービン2Hから排出された蒸気を再熱器4Rで再加熱し、再加熱された蒸気を中圧タービン2Mに供給し膨張させる再熱サイクルを適用している。
【0026】
船舶前進運転時に主ボイラ4Hから高圧タービン2Hへ供給される主蒸気は、図1に示す主蒸気管L1−1,L1−2を通過して、高圧タービン2Hへ供給される。
【0027】
蒸気タービンシステム1は、タービン暖機システムを有する。タービン暖機システムは、主ボイラ4Hから供給される蒸気によって高圧タービン2H、中圧タービン2M及び高中圧タービン車室3を暖めることで、蒸気タービンシステム1を暖機状態にて保持する。
【0028】
高圧タービン2Hや中圧タービン2M及び高中圧タービン車室3を暖機するための蒸気は、主ボイラ4Hから高圧タービン2Hへ接続される主蒸気管L1−1と、主蒸気管L1−1から分岐された枝管である暖機用蒸気管L2、圧力制御弁7、遮断弁8及び供給口9などからなるタービン暖機システムを介して高中圧タービン車室3に供給される。このように、タービン暖機システムは、高圧タービン2Hの手前に設けられ、高中圧タービン車室3内へボイラ4Hから排出された蒸気を供給する。暖機用蒸気管L2に設けられる圧力制御弁7は、タービン暖機状態に適したエネルギーを高中圧タービン車室3内に流入し得るように制御部6によって調整され、蒸気圧力を制御する。
【0029】
制御部6は、温度測定部12,13,14にて測定された温度に基づいて、圧力制御弁7を可変調整する。圧力制御弁7によって、暖機用蒸気管L2を流れる蒸気は様々な圧力に変更される。温度測定部12,13は、第1温度測定部の一例であり、温度測定部12は、高圧タービン2Hにおける高中圧タービン車室3の車室内外温度を測定し、温度測定部13は、中圧タービン2Mにおける高中圧タービン車室3の車室内外温度を測定する。温度測定部14は、第2温度測定部の一例であり、低圧タービン2Lから排出された蒸気の排気温度を測定する。
【0030】
また、暖機用蒸気管L2には、暖機中以外に蒸気が供給口9から高中圧タービン車室3へ流入しないように蒸気を遮断する遮断弁8が設けられる。
【0031】
タービン暖機システムは、ターミナル停泊時に地震又は津波警報が発令されたときなどに対応して船舶を即座に離岸できるように、停泊中においてタービンを暖機する。タービン暖機は、船舶運転時などの状態でタービンが駆動している間は行われず、ターミナルで荷役作業中などの状態でタービンが停止している場合やスタンバイモードにある場合に行われる。
【0032】
タービン暖機中は、高中圧タービン車室3や低圧タービン車室5へ流入する蒸気のエネルギーによって、タービンが遊転してはならない。そのため、タービン静止状態からタービンを駆動可能とする起動トルク相当の蒸気流量や蒸気エネルギーが、高中圧タービン車室3や低圧タービン車室5へ流入しないように、暖機用蒸気の蒸気圧力が制御される。本実施形態では、暖機用蒸気管L2を流れる蒸気の圧力に上限を設けることや、低圧タービン2Lから排出される蒸気の排気温度に上限を設けることで、暖機用蒸気の蒸気圧力を調整する。
【0033】
なお、高中圧タービン車室3の車室内外温度は、図1に示すように、特に主蒸気の入口側にて、高圧タービン2Hや中圧タービン2Mごとに1箇所ずつ測定するとしてもよいが、図2に示すように、タービン軸方向やタービンのラジアル方向に複数箇所で測定してもよい。図2は、高中圧タービン車室3の下半車室を示す端面図である。
【0034】
高中圧タービン車室3は、図2に示すように、高圧タービン2H及び中圧タービン2Mを内部に収納する空間Sを有する。図2中の高中圧タービン車室3の左端が高圧タービン2Hの排気側であり、図2中の高中圧タービン車室3の右端が中圧タービン2Mの排気側である。そして、図2中の高中圧タービン車室3の中間部が高圧タービン2H、中圧タービン2Mともに蒸気入口側となる。
【0035】
高中圧タービン車室3には、高圧側入口の車室内温度センサ31Hと、高圧側入口の車室外温度センサ32Hと、中圧側入口の車室内温度センサ31Mと、中圧側入口の車室外温度センサ32Mが設けられる。制御部6における制御は、主に高圧側入口の車室内温度センサ31H、高圧側入口の車室外温度センサ32H、中圧側入口の車室内温度センサ31M及び中圧側入口の車室外温度センサ32Mの測定信号に基づいて行われる。
【0036】
高圧側入口の車室内温度センサ31H及び高圧側入口の車室外温度センサ32Hは、主蒸気が高圧タービン2Hに流入する領域であって、高中圧タービン車室3の内壁面とボルト孔41との間の距離が最も離れている点を含む仮想断面における車室3の内壁面(空間に隣接した領域の温度)及び外壁面の温度を測定するものである。同様に、中圧側入口の車室内温度センサ31M及び中圧側入口の車室外温度センサ32Mは、再熱蒸気が中圧タービン2Mに流入する領域であって、車室3の内壁面とボルト孔41との間の距離が最も離れている点を含む仮想断面における車室3の内壁面及び外壁面の温度を測定するものである。
【0037】
なお、高中圧タービン車室3に、高圧側出口の車室内温度センサ33Hと、高圧側出口の車室外温度センサ34Hと、中圧側出口の車室内温度センサ33Mと、中圧側出口の車室外温度センサ34Mを設けて、高中圧タービン車室3の温度を測定して、制御部6における制御に用いてもよい。高圧側出口の車室内温度センサ33H、高圧側出口の車室外温度センサ34H、中圧側出口の車室内温度センサ33M及び中圧側出口の車室外温度センサ34Mの測定信号は参考情報として用いられる。
【0038】
高圧側出口の車室内温度センサ33H及び高圧側出口の車室外温度センサ34Hは、主蒸気が高圧タービン2Hから流出する領域の仮想断面における車室3の内壁面及び外壁面の温度を測定するものである。同様に、中圧側出口の車室内温度センサ33Mと、中圧側出口の車室外温度センサ34Mは、再熱蒸気が中圧タービン2Mから流出する領域の仮想断面における車室3の内壁面及び外壁面の温度を測定するものである。
【0039】
その他にも、高中圧タービン車室3に、高圧側入口ボルト温度センサ35Hと、中圧側入口ボルト温度センサ35Mと、高圧側出口ボルト温度センサ36Hと、中圧側出口ボルト温度センサ36Mを設けて、ボルト穴41中のボルトの温度を測定して、制御部6における制御の参照温度として用いてもよい。高圧側入口ボルト温度センサ35H、中圧側入口ボルト温度センサ35M、高圧側出口ボルト温度センサ36H及び中圧側出口ボルト温度センサ36Mの測定信号は、対応するボルトの温度が、隣接する高中圧タービン車室3の車室内外温度と連動して変化しているか否かを確認するため等に用いられる。
【0040】
次に、本実施形態に係る蒸気タービンシステム1の動作について、図3を用いて説明する。図3は、本実施形態に係る蒸気タービンシステム1の動作を示すフローチャートである。
【0041】
タービンの暖機保持は、タービン内への入熱や、タービンからの放熱・排熱、タービンの保熱等の熱量バランスで達成されることから、本実施形態では、タービンが暖機を保持できているか否かの判断は、温度を用いて定量的に行う。
【0042】
具体的には、一旦定常状態に到達した高中圧タービン車室3の車室内外温度が、タービンの暖機保持状態として適切か否かを制御部6が判断する。暖機保持状態が不足している場合は、暖機用蒸気管L2を流れる蒸気流量を増加して、高中圧タービン車室3内部への供給熱量を増やしたり、暖機保持状態が過剰な場合は暖機用蒸気管L2を流れる蒸気流量を絞って、高中圧タービン車室3内部への供給熱量を制限したりする。
【0043】
すなわち、高中圧タービン車室3の車室内外温度によってタービン暖機システムの効果を定量評価し、タービンにとって適当な暖機状態となるように、高中圧タービン車室3に流入する蒸気流量を制御する。
【0044】
関連技術では、暖機用蒸気管を流れる蒸気は、予め設定された圧力P1で固定されていた。そのため、タービン車室温度は、計測されたとしても、タービン車室へ流入する蒸気の状態に応じて変化する結果として計測されるのみであった。
【0045】
本実施形態では、まず、蒸気が暖機用蒸気管L2へ流入するように蒸気元弁が開放され、同時に暖機用蒸気管L2内に溜まった水がドレン弁の開放によって排出される(ステップS1)。次に、暖機用蒸気が高中圧タービン車室3へ流入するように遮断弁8が開放される(ステップS2)。このとき、圧力制御弁7後の暖機用蒸気の実圧力P0が、暖機蒸気設定圧力P1としてまず調整される(ステップS3)。そして、熱的飽和状態に至るまでその状態が保持される(ステップS4)。ここで、飽和状態とは、例えば温度変化率が1℃/hrよりも小さいときである。
【0046】
暖機用蒸気を供給しているとき、タービン排気温度TEが、過暖機状態の目安となるタービン排気温度上限TEmax(例えば75℃)に対して、TE<TEmaxとなり、かつタービン車室壁実温度T0がターゲット車室温度下限TL(例えば200℃)やターゲット車室温度上限TH(例えば250℃)に対して、TL<T0<THとなるように暖機蒸気設定圧力P1が制御される。これにより、暖機状態は、TE<TEmax、かつTL<T0<THとなる圧力P1で保持される。
【0047】
ここで、タービン排気温度TEは、低圧タービン2Lから排気された蒸気の温度、すなわち温度測定部14で測定された温度である。タービン車室壁実温度T0は、例えば図2で示した高圧側入口の車室内温度センサ31H、高圧側入口の車室外温度センサ32H、中圧側入口の車室内温度センサ31M及び中圧側入口の車室外温度センサ32Mに基づく測定温度であり、これらのセンサから得られる平均温度又はいずれか一点の温度などである。
【0048】
ステップS5にて、タービン排気温度TEについて、TE<Tmaxであるか否かが判断され、TE≧TEmaxの場合、過暖機と判断され、現状の暖機蒸気設定圧力P1に対して設定圧力P1を下げるための圧力幅βを減少させて、P1=P1−βとする(ステップS11)。これにより、高中圧タービン車室3へ流入するエネルギーを減少させ、過暖機を防止する。
【0049】
また、ステップS6にて、タービン車室壁実温度T0について、T0>TLであるか否かが判断され、T0≦TLの場合、暖機不足と判断され、現状の暖機蒸気設定圧力P1に対して設定圧力P1を上げるための圧力幅αを上昇させて、P1=P1+αとする(ステップS8)。これにより、高中圧タービン車室3へ流入するエネルギーを上昇させ、暖機不足を解消する。このとき、設定圧力P1は、暖機蒸気圧力上限Pmaxに対してP1<Pmaxを満たすか否かが判断される(ステップS9)。設定圧力P1はP1<Pmaxの範囲で制御されるが、設定圧力P1がP1=Pmaxとなって暖機蒸気圧力上限Pmaxに到達しても、タービン車室壁実温度T0がターゲット車室温度下限TLに到達せずT0>TLとならない場合は、現状の蒸気温度(蒸気エネルギー)ではターゲット車室温度を達成できない。そのため、オペレータに蒸気状態の改善、例えばボイラ負荷を上げて蒸気温度を上昇させるなどの注意を促す。
【0050】
さらに、ステップS7にて、タービン車室壁実温度T0について、T0<THであるか否かが判断され、T0≧THの場合も過暖機と判断され、現状の暖機蒸気設定圧力P1をP1=P1−βとする(ステップS11)。これにより、高中圧タービン車室3へ流入するエネルギーを減少させ、過暖機を防止する。
【0051】
次に、図4を参照して、本発明の一実施形態の変形例について説明する。図4は、本発明の一実施形態の変形例に係る蒸気タービンシステム11を示す構成図である。
【0052】
本変形例の蒸気タービンシステム11では、タービン暖機システムにおける制御対象を高中圧タービン車室3だけでなく、再熱蒸気管も対象とする。再熱蒸気管は、高圧タービン2Hから再熱器4Rを通過して中圧タービン2Mに至るまでの配管である。本変形例は、図1の蒸気タービンシステムと比べて、暖管用蒸気管L3が設けられる点が異なる。
【0053】
再熱蒸気管を暖管するための蒸気は、主ボイラ4Hから高圧タービン2Hへ接続される主蒸気管L1−1と、主蒸気管L1−1から分岐された枝管である暖機用蒸気管L2と、暖機用蒸気管L2から分岐された暖管用蒸気管L3を通過して、再熱蒸気管に供給される。暖管用蒸気管L3には、暖機中以外に蒸気が再熱蒸気管に流入しないように蒸気を遮断する遮断弁15が設けられる。
【0054】
本変形例によれば、測定されたタービン車室壁実温度T0又は排気温度に基づいて、再熱蒸気管内へ供給される蒸気の圧力が調整される。したがって、高中圧タービン車室3へ供給される蒸気の圧力だけでなく、再熱蒸気管へ供給される蒸気の圧力が変化する。そのため、高圧タービン2Hや中圧タービン2Mだけでなく、再熱蒸気管も適切に暖管できる。したがって、蒸気タービンシステムを急に駆動する場合でも、再熱蒸気管が急速に加熱されることがなく、再熱蒸気管に係る熱応力を低減できる。
【0055】
なお、再熱蒸気管を暖管する場合、高中圧タービン車室3へ与えられる熱量は暖管に利用される分減少するため、調整される暖機蒸気設定圧力P1は上述した実施形態の設定圧力P1よりも大きくなる。
【0056】
以上、本発明の一実施形態及び変形例によれば、期待されるタービン暖機状態が保持されるように蒸気圧力が制御され、蒸気の温度条件にかかわらず流入する蒸気エネルギーを能動的に調整でき、暖機状態が適切に保持される。その結果、ターミナル停泊時に津波警報が発令されたときなどに対応して船舶を即座に離岸できる。また、ボイラ負荷にかかわらず、タービン車室内外温度やタービン排気温度のターゲット値に近づくように、蒸気による流入エネルギーを制御できるため、タービンの過暖機や暖機不足を防止できる。
【0057】
また、ボイラから供給される蒸気の温度が低下して、暖機蒸気の温度が低くなった場合、関連技術ではタービンに一意的に定められた圧力の蒸気が供給されるように調整するため、比容積の関係からタービンに流入する蒸気流量が増加する。そのため、低圧タービンに必要以上の蒸気が流れて、低圧タービンを暖めすぎてしまい、低圧タービンが過暖機状態になるという問題があった。一方、本実施形態及び変形例では、低圧タービン2Lから排気された蒸気の温度であるタービン排気温度TEを指標として、蒸気圧力が制御されるため、過暖機状態では暖機蒸気の流量が絞られ、低圧タービン2Lの過暖機を防止できる。
【0058】
なお、上記説明では、蒸気タービンシステム1が再熱サイクルを適用する場合について説明したが、本発明はこの例に限定されない。たとえば、再熱器4Rや再熱蒸気管を設けないランキンサイクルを適用した蒸気タービンシステムでも、本発明のタービン暖機システムを設置でき、タービンを適切に暖機できる。
【符号の説明】
【0059】
1,11 蒸気タービンシステム
2H 高圧タービン
2M 中圧タービン
2L 低圧タービン
3 高中圧タービン車室(第1タービン車室)
4H 主ボイラ(ボイラ)
4R 再熱器
5 低圧タービン車室(第2タービン車室)
6 制御部
7 圧力制御弁(圧力制御部)
8,15 遮断弁
9 供給口
12,13 温度測定部(第1温度測定部)
14 温度測定部(第2温度測定部)
L1 主蒸気管
L2 暖機用蒸気管(分岐蒸気管)
L3 暖管用蒸気管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1タービンに設けられ、主蒸気管から分岐された分岐蒸気管から前記第1タービン車室内へボイラから排出された蒸気を供給する供給口と、
前記第1タービン車室の車室内外温度を測定する第1温度測定部と、
前記分岐蒸気管に設けられ、測定された前記車室内外温度に基づいて前記第1タービン車室内へ供給される前記蒸気の圧力を調整する圧力制御部と、
を備える蒸気タービンシステム。
【請求項2】
前記第1タービン車室から第2タービン車室へ供給された後、前記第2タービン車室から排出される前記蒸気の排気温度を測定する第2温度測定部をさらに備え、
前記圧力制御部は、測定された前記車室内外温度及び前記排気温度に基づいて、前記第1タービン車室内へ供給される前記蒸気の圧力を調整する請求項1に記載の蒸気タービンシステム。
【請求項3】
前記第1タービン車室から再熱器へ蒸気を供給する再熱蒸気管と、
前記分岐蒸気管から前記再熱蒸気管内へ蒸気を供給する暖管用蒸気管と、
をさらに備え、
前記圧力制御部は、測定された前記車室内外温度又は前記排気温度に基づいて前記暖管用蒸気管内へ供給される前記蒸気の圧力を調整する請求項2に記載の蒸気タービンシステム。
【請求項4】
主蒸気管から分岐された分岐蒸気管から第1タービン車室内へボイラから排出された蒸気を供給するステップと、
前記第1タービン車室の車室内外温度を測定するステップと、
前記分岐蒸気管にて、測定された前記車室内外温度に基づいて前記第1タービン車室内へ供給される前記蒸気の圧力を調整するステップと、
を備える蒸気タービンシステムの暖機方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−180775(P2012−180775A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43298(P2011−43298)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】