説明

蒸気タービンシステム及び蒸気タービンシステムの保安装置の運転状態切換方法

【課題】蒸気タービンの安定的な運転を確保することができる蒸気タービンシステム及び蒸気タービンシステムの保安装置の運転状態切換方法を提供する。
【解決手段】蒸気タービン100の復水器真空トリップ装置102a、復水器真空トリップ装置102aを蒸気タービン100の稼働状態を監視する第1運転状態と作動点検を受ける第2運転状態との間で選択的に切り換える保安装置作動状態切換部30、復水器130の真空度を常時感知する圧力感知部20、蒸気タービン100の運転を制御する補機100a、補機100a及び保安装置作動状態切換部30の作動をそれぞれ独立して制御する制御部を備える。制御部は、第1基準値に低下するまで保安装置102を第2運転状態に保持し、第2基準値に上昇したことを感知した際に補機100aの作動を停止させる。これにより、第1基準値を第2基準値から独立して単独で設定でき、効率的な作動点検及び安定的な蒸気タービン100の運転を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンシステム及び蒸気タービンシステムの保安装置の運転状態切換方法、特に、火力または原子力発電所の発電機の蒸気タービンシステム及び蒸気タービンの保安装置の運転状態切換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、火力発電所の蒸気タービンシステムには、蒸気タービンの主蒸気止め弁及び蒸気加減弁に連結されるとともに、蒸気タービンに異常が発生した際にこれらの弁を閉塞して蒸気タービンの運転を非常停止させる保安装置が装備されている。このような保安装置を有する蒸気タービンシステムを、図4に基づいて説明する。
【0003】
図示のように、蒸気タービンシステム110に装備される保安装置102は、例えば、復水器真空トリップ装置102a、非常調速機102b及びスラストトリップ装置102c等の複数の機器によって構成される。この保安装置102は、遮断弁112が設けられた保安装置油圧系統108によって蒸気タービン100に連結されている。更に、蒸気タービン100を介して保安装置油圧系統108と連通する蒸気タービン停止油圧系統106が設けられており、蒸気タービン停止油圧系統106には、主蒸気止め弁104a及び蒸気加減弁104bが設けられている。すなわち、遮断弁112の開放状態で、蒸気タービン停止油圧系統106と保安装置油圧系統108との間が連通され、保安装置102の油圧が、保安装置油圧系統108を介して蒸気タービン停止油圧系統106と同期化されている。
【0004】
保安装置102は、その通常運転状態では、蒸気タービン100の稼働状態を常時監視しており、保安装置102が蒸気タービン100の異常を検知して作動すると、この保安装置102の作動油がドレンされて保安装置停止油圧系統108の油圧が低下し、保安装置停止油圧系統108と同期する蒸気タービン停止油圧系統106の油圧も低下して、主蒸気止め弁104a等が閉塞される。
【0005】
この保安装置102は、蒸気タービン100の稼働状態を常時監視する第1運転状態、及び蒸気タービン100の通常運転時であっても蒸気タービン100の異常事態をシミュレートした作動点検を受ける第2運転状態を備える。保安装置102の作動点検は、保安装置102の運転状態を第1運転状態と第2運転状態との間で選択的に切り換えるテストレバー101を操作することによって実行される。テストレバー101の操作によって保安装置の運転状態が第2運転状態に切り換えられると、蒸気タービン停止油圧系統106と保安装置油圧系統108との間の連通が遮断弁112によって遮断されるとともに保安装置102の作動油がドレンされて、保安装置停止油圧系統108の油圧が低下する。
【0006】
これら保安装置102の作動点検中に、テストレバー101が誤って操作されて、保安装置102の運転状態が第1運転状態に切り換えられると、保安装置油圧系統108と蒸気タービン停止油圧系統106との間が連通して、保安装置102の油圧の低下に同期して蒸気タービン停止油圧系統106の油圧も低下し、主蒸気止め弁104a及び蒸気加減弁104bが閉塞されて蒸気タービン100への蒸気の供給が遮断される。その結果、蒸気タービン100が停止する、いわゆるタービントリップを招来するおそれがあり、ひいては火力発電所の発電機の停止、いわゆるユニットトリップを招来するおそれがある。ユニットトリップが発生すると、送電系統が乱れて立ち上がりに時間を要することから、発電効率が低下することとなる。
【0007】
そこで、保安装置の油圧低下によって作動する圧力スイッチが電磁弁を開放してエアシリンダに圧力空気を圧入し、この圧力空気が圧入されたエアシリンダによって、テストレバーが保安装置を第2運転状態すなわち作動点検状態とする位置に保持され、保安装置の作動点検中に、テストレバーの操作によって保安装置の運転状態が第2運転状態から第1運転状態に切り換えられることを防止する蒸気タービン保安装置が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0008】
一方、例えば、復水器真空トリップ装置において、復水器の真空度を常時感知し、この真空度が所定の基準値に到達するまでは復水器真空トリップ装置の運転状態を第2運転状態に保持し、基準値に到達した後は、復水器真空トリップ装置の運転状態を第2運転状態から第1運転状態に切り換えることが行われている。このような蒸気タービンシステムを、図5に基づいて説明する。なお、図5において、図4と同様の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0009】
図示のように、蒸気タービンシステム120は、バキュームアンローダ100a及び復水器真空トリップ装置102aを備える。バキュームアンローダ100aは、復水器130の真空度が低下した際に蒸気タービン100の出力をそれに合わせて低下させるものであって、蒸気タービン100の補機として機能する。
【0010】
一方、復水器真空トリップ装置102aは、蒸気タービン100からの蒸気を凝縮して復水する復水器130の真空度を常時感知する圧力第1スイッチ122、圧力第2スイッチ124を備えるとともに、テストレバー101の操作によって、復水器真空トリップ装置102aの運転状態が第1運転状態から第2運転状態に切り換えられた状態を保持する保安装置作動状態切換部126を備える。
【0011】
圧力第1スイッチ122には、所定の真空度が予め第1基準値として設定され、テストレバー101の操作によって復水器真空トリップ装置102aの運転状態が第2運転状態に切り換えられている場合に、圧力第1スイッチ122で感知する復水器130の真空度が第1基準値まで低下すると、復水器真空トリップ装置102aの運転状態が第2運転状態から第1運転状態に切り換えられる。この圧力第1スイッチ122に設定された第1基準値は、バキュームアンローダ100aの運転を停止させることにも用いられている。従って、圧力第1スイッチ122で感知する復水器130の真空度が第1基準値に低下すると、復水器真空トリップ装置102aの運転状態が第2運転状態から第1運転状態に切り換えられる。
【0012】
一方、圧力第2スイッチ124には、所定の真空度が予め第2基準値として設定され、圧力第2スイッチ124で感知する復水器130の真空度が第2基準値に低下すると、バキュームアンローダ100aの運転が開始される。
【0013】
この蒸気タービンシステム120において、圧力第1スイッチ122で感知される所定の真空度が例えば86.6Kpaのときに第1基準値が設定され、圧力第2スイッチ124で感知される所定の真空度が例えば81.5Kpaのときに第2基準値が設定されているとする。この場合に、復水器の真空度の状態遷移を説明する図6(a)で示すように、復水器真空トリップ装置102aの運転状態が第1運転状態に切り換えられており、復水器130の真空度が、真空度曲線V3で示すように正常値の範囲である91.5〜98.3Kpaから第2基準値である81.5Kpaまで低下すると、バキュームアンローダ100aの運転が開始される。その後、真空度が上昇して第1基準値である86.6Kpaに到達すると、バキュームアンローダ100aの運転が停止される。
【0014】
一方、復水器真空トリップ装置102aの運転状態が第2運転状態に切り換えられており、復水器130の真空度が、真空度曲線V4で示すように91.5〜98.3Kpaから第1基準値である86.6Kpaまで低下すると、復水器真空トリップ装置102aの運転状態が第2運転状態から第1運転状態に切り換えられる。そうすると、上記のように、遮断弁112が作動して蒸気タービン停止油圧系統106と保安装置油圧系統108との間が連通して、復水器真空トリップ装置102aの油圧の低下によって蒸気タービン停止油圧系統106の油圧が低下する。これにより、蒸気タービン100への蒸気の供給が停止されてタービントリップ、ユニットトリップを生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平5−340206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
蒸気タービンシステム120によると、上記のように、復水器真空トリップ装置102aの運転状態が第2運転状態に切り換えられている際に、復水器130の真空度が第1基準値(86.6Kpa)に低下すると、復水器真空トリップ装置102aの作動点検が終了する前に蒸気タービン100がタービントリップしてしまう可能性がある。そこで、復水器真空トリップ装置102aの運転状態が、第2運転状態から第1運転状態に切り換えられて蒸気タービン100がタービントリップすることを回避しつつ、復水器真空トリップ装置102aの作動点検を完了させる必要がある。
【0017】
かかる事態を回避すべく、図6(b)で示すように、復水器真空トリップ装置102aの運転状態が第2運転状態に切り換えられた状態を保持するために用いられる第1基準値を、例えば、低下することがほぼ想定しえないトリップ値に設定変更することが考えられる。このような設定変更を行えば、蒸気タービン100のタービントリップを回避しながら復水器真空トリップ装置102aの作動点検時間を十分に確保することができる。
【0018】
しかし、この第1基準値は、復水器真空トリップ装置102aの運転状態が第2運転状態に切り換えられた状態を保持するためのみならず、バキュームアンローダ100aの運転停止を行うことにも用いられている。従って、第1基準値に設定されている真空度を変更すると、第2運転状態の保持及びバキュームアンローダ100aの運転制御の条件を同時に変えてしまうこととなる。すなわち、本来、設定変更する必要のないバキュームアンローダ100aの運転制御条件まで変えることとなってしまう。例えば、復水器真空トリップ装置102aの運転状態が第2運転状態に切り換えられており、図6(b)の真空度曲線V5で示すように、復水器130の真空度が、91.5〜98.3Kpaの範囲から第2基準値である81.5Kpaに低下すると、バキュームアンローダ100aの運転が開始するが、その後に真空度が上昇して第1基準値である86.6Kpaに到達しても、バキュームアンローダ100aの運転は停止されず、復水器真空トリップ装置102aの正確な作動点検を実現することができなくなる。
【0019】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、蒸気タービンの安定的な運転を確保することができる蒸気タービンシステム及び蒸気タービンシステムの保安装置の運転状態の切換方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明による蒸気タービンシステムは、蒸気タービンと、該蒸気タービンからの蒸気を凝縮して復水する復水器の真空度に基づいて前記蒸気タービンの稼働状態を監視する保安装置と、該保安装置に設けられて前記復水器の真空度を常時感知する圧力感知部と、前記保安装置の運転状態を、前記圧力感知部で感知される前記真空度が正常値の範囲から予め設定されたトリップ値に低下した際に前記蒸気タービンをトリップさせる第1運転状態と前記真空度を感知しつつ作動点検を受ける第2運転状態との間で選択的に切り換える保安装置作動状態切換部と、前記蒸気タービンの稼働状態を前記圧力感知部が感知する前記真空度の変動に応じて制御する補機と、該補機の作動のオン・オフ及び前記保安装置作動状態切換部による前記切換をそれぞれ独立して制御する制御部と、を備え、該制御部は、前記保安装置作動状態切換部によって前記保安装置の運転状態が前記第2運転状態に切り換えられている状態で前記真空度が予め設定された第1基準値に低下するまで前記保安装置を前記第2運転状態に保持し、前記保安装置作動状態切換部によって前記保安装置の運転状態が前記第2運転状態に切り換えられている状態で前記真空度が前記第1基準値よりも高い値に予め設定された第2基準値に上昇した際に前記補機の作動を停止させる、ことを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、制御部が、第1基準値を基に保安装置作動状態切換部の切換を制御するとともに、第1基準値とは別個の第2基準値を基に補機の作動停止を制御することから、第1基準値を第2基準値から独立して、復水器の真空度の比較的広い範囲内で設定することができる。従って、保安装置の運転状態が第2運転状態から第1運転状態に切り換えられることを防止するように第1基準値を設定することができることから、保安装置の作動点検を中断させることなく効率的に完遂させることができ、その結果、安定的な蒸気タービンの運転を実現することができる。
【0022】
請求項2に記載の発明による蒸気タービンシステムは、請求項1に記載の蒸気タービンシステムにおいて、前記第1基準値は、前記トリップ値と同じ値に設定されたことを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、第1基準値が、低下することがほぼ想定しえないトリップ値に設定されていることから、保安装置の作動点検に要する時間を比較的長時間に亘って確保することができる。これにより、保安装置の作動点検が中断されることなく実行され、安定的な蒸気タービンの運転が実現されるという請求項1の作用を効果的に実現することができる。
【0024】
請求項3に記載の発明による蒸気タービンシステムは、請求項1または2に記載の蒸気タービンシステムにおいて、前記圧力感知部は、圧力第1スイッチ及び圧力第2スイッチを備え、前記圧力第1スイッチに前記第1基準値を設定し、前記圧力第2スイッチに前記第2基準値をそれぞれ設定することを特徴とする。
【0025】
この構成は、請求項1または2の圧力感知部の構成を具体的に明確にしたものであり、圧力スイッチを2基用いるという簡易な構成によって、第1基準値が制御値として用いられる保安装置作動状態切換部と、第2基準値が制御値として用いられる補機の作動停止をそれぞれ独立して制御するように、制御値としての第1基準値及び第2基準値を容易に設定することができる。
【0026】
請求項4に記載の蒸気タービンシステムは、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蒸気タービンシステムにおいて、前記圧力感知部は、前記第1基準値よりも高くかつ前記第2基準値よりも低い値に予め設定された第3基準値が設定された圧力第3スイッチを更に備え、前記制御部は、前記圧力第3スイッチで前記真空度が前記第3基準値に低下したことを感知した際に前記補機の作動を開始させる、ことを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、圧力第3スイッチに制御値としての第3基準値を設定するという簡易な構成によって、保安装置の運転状態の切換及び補機の作動停止から独立して、補機の作動を開始させるように制御値としての第3基準値を単独で設定することができる。
【0028】
請求項5に記載の発明による蒸気タービンシステムの保安装置の運転切換方法は、蒸気タービンからの蒸気を凝縮して復水する復水器の真空度に基づいて前記蒸気タービンの稼働状態を監視する保安装置の運転状態を、該保安装置に設けられて前記復水器の真空度を常時感知する圧力感知部で感知される前記真空度が正常値の範囲から予め設定されたトリップ値に低下した際に前記蒸気タービンをトリップさせる第1運転状態と前記真空度を感知しつつ作動点検を受ける第2運転状態との間で選択的に切り換え、前記保安装置の運転状態が前記第2運転状態に切り換えられている状態で前記真空度が予め設定された第1基準値に低下するまで前記保安装置を前記第2運転状態に保持し、前記保安装置の運転状態が前記第2運転状態に切り換えられている状態で前記真空度が前記第1基準値よりも高い値に予め設定された第2基準値に上昇した際に前記補機の作動を停止させ、前記正常値の範囲と前記トリップ値との範囲において、前記第1基準値を前記第2基準値から独立して単独で設定することを特徴とする。
【0029】
この方法によれば、第1基準値を保安装置の運転状態の切換制御のみに単独で用いたうえで、第1基準値を正常値の範囲とトリップ値との範囲で設定できることから、保安装置の個別具体的な構成に応じて、作動点検の最適な時間を確保することができるように第1基準値を容易に変更することができる。
【発明の効果】
【0030】
この発明によれば、第1基準値を第2基準値から独立して単独で設定できることから、保安装置の作動点検中に、保安装置の運転状態が第2運転状態から第1運転状態に切り換えられることを防止するように第1基準値を設定することができる。これによって、保安装置の作動点検が途中で中断されることなく効率的に実行することができる。その結果、例えば、本発明に係る蒸気タービンシステムが発電機に適用される場合は、蒸気タービンがタービントリップし、更には発電機がユニットトリップすることを防止することができ、蒸気タービン及び発電機のユニットトリップの要因を減少させることが可能となり、発電機の安定的な運転が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態に係る蒸気タービンシステムの概略を説明する図である。
【図2】本実施の形態に係る蒸気タービンシステムの作動状態を説明するフローチャートである。
【図3】同じく、本実施の形態に係る蒸気タービンシステムの作動状態を説明する図である。
【図4】従来の蒸気タービンの保安装置の作動点検の概略を説明する図である。
【図5】同じく、従来の蒸気タービンシステムの概略を説明する図である。
【図6】同じく、従来の蒸気タービンシステムの作動状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の実施の形態について、図1〜図3に基づいて説明する。なお、本実施の形態では、蒸気タービンシステムが、火力発電所の発電機に設けられた場合を例として説明する。また、図1〜図3において、図5及び図6と同様の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0033】
図1は、本発明の実施の形態に係る蒸気タービンシステムの概略を説明する図である。図示のように、蒸気タービンシステム(以下、単に「システム10」という)は、火力発電所の発電機を稼働させる蒸気タービン100、及び蒸気タービン100からの蒸気を凝縮して復水する復水器130の真空度が正常値の範囲からトリップ値に低下した際に蒸気タービン100をトリップさせる保安装置を備える。保安装置は、本実施の形態では、復水器真空トリップ装置12として構成されている。更に、システム10は、蒸気タービン100の稼働状態を復水器130の真空度の変動に応じて制御する補機、本実施の形態では復水器130の真空度が低下した際に蒸気タービン100の出力をそれに合わせて低下させるバキュームアンローダ100aを備える。
【0034】
復水器真空トリップ装置12は、復水器130の真空度を常時感知する圧力感知部20及び保安装置作動状態切換部30を備える。この復水器真空トリップ装置12の運転状態は、圧力感知部20で感知される復水器130の真空度を基準として蒸気タービン100の稼働状態を監視する通常の運転状態である第1運転状態と、復水器130の真空度を感知しつつ復水器真空トリップ装置12自体が作動の点検を受ける第2運転状態との間で、保安装置作動状態切換部30によって選択的に切り換えられる。保安装置作動状態切換部30は、テストレバー101の操作によって復水器真空トリップ装置12の運転状態が第2運転状態に切り換えられている状態で、圧力感知部20が、復水器130の真空度が正常値の範囲から後述する第1基準値、本実施の形態ではトリップ値に低下したことを感知すると、復水器真空トリップ装置12の運転状態を第2運転状態から第1運転状態に切り換える。
【0035】
そして、これら保安装置作動状態切換部30及びバキュームアンローダ100aの作動は、圧力感知部20及びバキュームアンローダ制御部40によって構成される制御部によって制御されている。バキュームアンローダ制御部40は、圧力感知部20が、復水器130の真空度が後述する第2基準値に上昇したことを感知すると、バキュームアンローダ100aの運転を停止させるように構成されている。
【0036】
次に、本実施の形態におけるシステム10の具体的構成について説明する。
【0037】
圧力感知部20は、本実施の形態では圧力第1スイッチ22及び圧力第2スイッチ24、圧力第3スイッチ26によって構成される。この圧力第1スイッチ22は、圧力弁22aを介して復水器130に連結されて復水器130の真空度を常時感知するとともに、感知した復水器130の真空度が正常値の範囲よりも低い所定の値に第1基準値が予め設定されている。この圧力第1スイッチ22は、保安装置作動状態切換部30に電気的に接続している。保安装置作動状態切換部30は、圧力第1スイッチ22と電気的に接続される第1リレースイッチ32a、第1リレースイッチ32aと電気的に接続される電磁弁34、電磁弁34と接続されて電磁弁34の開閉で図示しないエアポンプユニットによって加圧及び減圧されるエアシリンダ36を備える。エアシリンダ36は、エアシリンダ36内を第1シリンダ室36a及び第2シリンダ室36bに区分するピストン36cを備え、このピストン36cはリンク機構36dを介してテストレバー101に連結している。
【0038】
保安装置作動状態切換部30には、更に、第1リレースイッチ32aと並列に配置されてテストレバー101と電気的に接続される第2リレースイッチ32bが設けられている。この第2リレースイッチ32bは、テストレバー101に設けられた図示しないリミットスイッチと接続されており、テストレバー101が第2運転状態側に切り換えられるとリミットスイッチが作動して第2リレースイッチ32bが励磁されて、電磁弁34に電気信号が入力される。
【0039】
圧力第2スイッチ24は、圧力弁24aを介して復水器130に連結されて復水器130の真空度を常時感知するとともに、感知した復水器130の真空度が正常値の範囲よりも低く、かつ第1基準値よりも高い所定の値に第2基準値が予め設定されている。この圧力第2スイッチ24は、感知した復水器130の真空度をアナログの伝送用信号に変換して発信する圧力発信機能を具備するとともに、蒸気タービン100の稼働状態を制御するタービンシーケンサ制御部100bに電気的に接続しており、圧力第2スイッチ24で感知する復水器130の真空度に基づいて、タービンシーケンサ制御部100bのシーケンス制御が実行される。一方、圧力第2スイッチ24は、タービンシーケンサ制御部100bとは別にバキュームアンローダ制御部40にも電気的に接続している。
【0040】
バキュームアンローダ制御部40は、圧力第2スイッチ24と電気的に接続される高低スイッチ42及び高低スイッチ42から電気的に接続されるセット・リセット判定部44を備える。高低スイッチ42にはロジック回路が組み込まれており、圧力第2スイッチ24の圧力発信機能によって発信された電気信号が高低スイッチ42に入力され、高低スイッチ42のロジック回路でアナログ信号がデジタル信号に変換されて、セット・リセット判定部44に入力される。このセット・リセット判定部44は、バキュームアンローダ100aに電気的に接続し、バキュームアンローダ100aは、蒸気タービン100に接続している。
【0041】
圧力第3スイッチ26は、圧力弁22aを介して復水器130に連結されて復水器130の真空度を常時感知するとともに、感知した復水器130の真空度が第1基準値よりも高く、かつ第2基準値よりも低い所定の値に第3基準値が予め設定されている。この圧力第3スイッチ26は、バキュームアンローダ制御部40のセット・リセット判定部44に電気的に接続している。
【0042】
バキュームアンローダ制御部40は、圧力第3スイッチ26が、復水器130の真空度が第3基準値に低下したことを感知すると、バキュームアンローダ100aの運転を開始させるように構成されている。すなわち、バキュームアンローダ制御部40は、バキュームアンローダ100aの運転開始及び停止を制御するように構成されている。
【0043】
次に、復水器真空トリップ装置12の運転状態が第2運転状態にされた場合における、本実施の形態に係るシステム10の運用及び作動状況について説明する。なお、本実施の形態において、第1基準値であるトリップ値が70.6Kpa、第2基準値が86.6Kpa、第3基準値が81.5Kpaに設定されている場合を例として説明する。
【0044】
ここで、復水器130の真空度の正常値の範囲は、通常91.5Kpa〜98.3Kpaであるが、例えば夏場などの真空度が低下しやすい時期であれば、通常時の真空度から数Kpa程度、低下する。
【0045】
図2は、システム10の作動状態を説明するフローチャートであり、図3は、復水器130の真空度に応じたシステム10の作動状態を説明する図である。図示のように、まず、テストレバー101を操作して、復水器真空トリップ装置12の運転状態を第1運転状態から第2運転状態に切り換える(ステップS1:テストレバー操作工程)。これにより、復水器真空トリップ装置12の作動油がドレンされて保安装置油圧系統108の油圧が低下するとともに、テストレバー101に設けられた図示しないリミットスイッチが作動して遮断弁112によって保安装置油圧系統108と蒸気タービン停止油圧系統106との間の連通状態が遮断される。一方、蒸気タービン100の稼働状態は維持されたままである。
【0046】
テストレバー101の操作によって復水器真空トリップ装置12の運転状態が第2運転状態に切り換えられると、エアシリンダ36のピストン36aが第2シリンダ室36bの減圧方向に移動するとともに、テストレバー101に設けられたリミットスイッチ(図示しない)が作動して、保安装置作動状態切換部30の第2リレースイッチ32bが励磁されて電磁弁34が作動する。そうすると、図示しないエアポンプユニットから電磁弁34を介して第1シリンダ室36aに圧入空気が供給されて、第1シリンダ室36aが加圧される。一方、電磁弁34の作動によって、この電磁弁34を介して第2シリンダ室36bから圧入空気が排出されて、第2シリンダ室36bが減圧される。これにより、復水器真空トリップ装置12の運転状態が第2運転状態に切り換えられた状態でテストレバー101が保持されて、復水器真空トリップ装置12の作動点検が開始される(ステップS2:作動点検開始工程)。
【0047】
圧力第1スイッチ22によって、作動点検の開始直後の復水器130の真空度が正常値の範囲内である91.5Kpa〜98.3Kpa内にあると感知された場合(ステップS3:真空度感知第1工程)において、圧力第1スイッチ22によって、作動点検開始から所定時間が経過しても真空度が正常値の範囲内から低下していないと感知された(ステップS4:真空度感知第2工程)状態で作動点検が終了した場合は、作業員がテストレバー101を操作して復水器真空トリップ装置12の運転状態を第2運転状態から第1運転状態に切り換える(ステップS5:作動点検終了工程)。
【0048】
テストレバー101の操作は、以下の手順によって行なわれる。まず、作業員が図示しないリセットスイッチを操作すると、第2リレースイッチ32bの励磁が解除されて電磁弁34が作動する。そうすると、電磁弁34を介して第1シリンダ室36aから圧入空気が排出される。これにより、テストレバー101の操作が可能となることから、テストレバー101を操作して、復水器真空トリップ装置12の運転状態を第2運転状態から第1運転状態に切り換える。テストレバー101を操作すると、テストレバー101に設けられたリミットスイッチ(図示しない)が作動して、保安装置作動状態切換部30の第1リレースイッチ32aが励磁されて電磁弁34が作動する。そうすると、図示しないエアポンプユニットから電磁弁34を介して第2シリンダ室36bに圧入空気が供給されて、第2シリンダ室36bが加圧される。
【0049】
復水器真空トリップ装置12の運転状態が、第2運転状態から第1運転状態に切り換えられると、復水器真空トリップ装置12に作動油が供給されて保安装置油圧系統108の油圧が上昇するとともに、テストレバー101に設けられた図示しないリミットスイッチが作動して遮断弁112によって保安装置油圧系統108と蒸気タービン停止油圧系統106との間が連通される。これにより、復水器真空トリップ装置12が第1運転状態に復帰する。
【0050】
一方、作動点検の開始後に、復水器130の真空度が正常値の範囲から低下したことが感知されて(ステップS3:真空度感知第1工程)、例えば、圧力第3スイッチ26が、この圧力第3スイッチ26に設定されている第3基準値である81.5Kpaを感知する(ステップS6:第3基準値感知工程)と、圧力第3スイッチ26からセット・リセット判定部44に電気信号が入力されて、セット・リセット判定部44によって、バキュームアンローダ100aの運転を開始すると判定される(ステップS7:バキュームアンローダ運転開始工程)。これにより、バキュームアンローダ100aの運転が開始すると、復水器130の真空度の低下に合わせて蒸気タービン100への蒸気の供給が抑制され、低下した復水器130の真空度に応じた効率的な蒸気タービン100の運転が実現される。
【0051】
バキュームアンローダ100aの運転開始後、図3の真空度曲線V1で示すように復水器130の真空度が上昇して、例えば、圧力第2スイッチ24が、この圧力第2スイッチ24に設定されている第2基準値である86.6Kpaを感知する(ステップS8:第2基準値感知工程)と、圧力第2スイッチ24からアナログ信号が高低スイッチ42に入力される。このアナログ信号が高低スイッチ42でロジック処理されてデジタル信号に変換されたうえで、デジタル信号がセット・リセット判定部44に入力される。セット・リセット判定部44では、入力されたデジタル信号によってバキュームアンローダ100aの運転を停止すると判定して、バキュームアンローダ100aの運転が停止される(ステップS9:バキュームアンローダ運転停止工程)。
【0052】
従って、圧力第1スイッチ22には、テストレバー101を第2運転状態側に保持しておく最下限値としての第1基準値のみが設定されていることから、他の基準値に用いられる真空度との相互干渉の発生を考慮することなく、比較的広い真空度の範囲内で第1基準値を設定することができる。特に、本実施の形態では、第1基準値が、低下することが想定しえないトリップ値である70.6Kpaに設定されていることから、復水器真空トリップ装置12の運転状態が第2運転状態から第1運転状態に切り換えられることを防止して、復水器真空トリップ装置12の作動点検を中断させることなく完遂させることができ、安定的かつ効率的な作動点検を実現することができる。その結果、圧力第1スイッチ22に、第1基準値のみを設定するという簡易な構成によって、蒸気タービン100がタービントリップし、更には発電機がユニットトリップすることを防止することができ、発電機のユニットトリップの要因を減少させることが可能となり、発電機の効率的かつ安定的な運転が実現される。
【0053】
一方で、例えば夏場などの真空度が低下しやすい時期に、作動点検の開始後に復水器130の真空度が低下して、作動点検開始後の真空度が正常値の範囲内にないと感知した場合(ステップS4:真空度感知第2工程)において、図3の真空度曲線V2で示すように真空度が更に低下して、圧力第1スイッチ20が、仮に、圧力第1スイッチ20に設定されている第1基準値であるトリップ値の70.6Kpaを感知すると(ステップS10:第1基準値感知工程)、第1リレースイッチ32aが励磁されて電磁弁34が作動して、第1シリンダ室36aから圧入空気が排出されるとともに、第2シリンダ室36bに圧入空気が供給される。これにより、復水器真空トリップ装置12の運転状態が第2運転状態から第1運転状態に切り換えられる。そして、テストレバー101に設けられたリミットスイッチが作動して、遮断弁112が作動して保安装置油圧系統108とタービン停止油圧系統106との間が連通状態にされて、復水器真空トリップ装置12が通常の運転状態である第1運転状態に復帰する(ステップS11:保安装置作状態切換工程)。
【0054】
従って、仮に、復水器真空トリップ装置12の作動点検中に、真空度が低下してトリップ値に到達することによって、蒸気タービン100がトリップしたとしても、タービントリップと同時に復水器真空トリップ装置12の運転状態が第2運転状態から第1運転状態に切り換えられることから、蒸気タービン100の復旧作業を行う際に、作業員がテストレバー101の操作を失念して復水器真空トリップ装置12の運転状態が第2運転状態のままで蒸気タービン100を復旧させるといった誤操作を防止することができ、再度、発電機のユニットトリップを招来することを適切に防止することができる。
【0055】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記実施の形態では、火力発電所の発電機における復水器真空トリップ装置12を用いてシステム10が構成されている場合を例として説明したが、原子力発電所の発電機における復水器真空トリップ装置を用いて構成される蒸気タービンシステムであってもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 蒸気タービンシステム
12、102a 復水器真空トリップ装置
20 圧力感知部
22 圧力第1スイッチ
24 圧力第2スイッチ
26 圧力第3スイッチ
30 保安装置作動状態切換部
40 バキュームアンローダ制御部
44 高低スイッチ
100 蒸気タービン
101 テストレバー
100a バキュームアンローダ
102 保安装置
112 遮断弁
130 復水器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気タービンと、
該蒸気タービンからの蒸気を凝縮して復水する復水器の真空度に基づいて前記蒸気タービンの稼働状態を監視する保安装置と、
該保安装置に設けられて前記復水器の真空度を常時感知する圧力感知部と、
前記保安装置の運転状態を、前記圧力感知部で感知される前記真空度が正常値の範囲から予め設定されたトリップ値に低下した際に前記蒸気タービンをトリップさせる第1運転状態と前記真空度を感知しつつ作動点検を受ける第2運転状態との間で選択的に切り換える保安装置作動状態切換部と、
前記蒸気タービンの稼働状態を前記圧力感知部が感知する前記真空度の変動に応じて制御する補機と、
該補機の作動のオン・オフ及び前記保安装置作動状態切換部による前記切換をそれぞれ独立して制御する制御部と、を備え、
該制御部は、
前記保安装置作動状態切換部によって前記保安装置の運転状態が前記第2運転状態に切り換えられている状態で前記真空度が予め設定された第1基準値に低下するまで前記保安装置を前記第2運転状態に保持し、
前記保安装置作動状態切換部によって前記保安装置の運転状態が前記第2運転状態に切り換えられている状態で前記真空度が前記第1基準値よりも高い値に予め設定された第2基準値に上昇した際に前記補機の作動を停止させる、
ことを特徴とする蒸気タービンシステム。
【請求項2】
前記第1基準値は、前記トリップ値と同じ値に設定されることを特徴とする請求項1に記載の蒸気タービンシステム。
【請求項3】
前記圧力感知部は、
圧力第1スイッチ及び圧力第2スイッチを備え、
前記圧力第1スイッチに前記第1基準値を設定し、前記圧力第2スイッチに前記第2基準値をそれぞれ設定することを特徴とする請求項1または2に記載の蒸気タービンシステム。
【請求項4】
前記圧力感知部は、
前記第1基準値よりも高くかつ前記第2基準値よりも低い値に予め設定された第3基準値が設定された圧力第3スイッチを更に備え、
前記制御部は、
前記圧力第3スイッチで前記真空度が前記第3基準値に低下したことを感知した際に前記補機の作動を開始させる、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蒸気タービンシステム。
【請求項5】
蒸気タービンからの蒸気を凝縮して復水する復水器の真空度に基づいて前記蒸気タービンの稼働状態を監視する保安装置の運転状態を、該保安装置に設けられて前記復水器の真空度を常時感知する圧力感知部で感知される前記真空度が正常値の範囲から予め設定されたトリップ値に低下した際に前記蒸気タービンをトリップさせる第1運転状態と前記真空度を感知しつつ作動点検を受ける第2運転状態との間で選択的に切り換え、
前記保安装置の運転状態が前記第2運転状態に切り換えられている状態で前記真空度が予め設定された第1基準値に低下するまで前記保安装置を前記第2運転状態に保持し、
前記保安装置の運転状態が前記第2運転状態に切り換えられている状態で前記真空度が前記第1基準値よりも高い値に予め設定された第2基準値に上昇した際に前記補機の作動を停止させ、
前記正常値の範囲と前記トリップ値との範囲において、前記第1基準値を前記第2基準値から独立して単独で設定することを特徴とする蒸気タービンシステムの保安装置の運転状態切換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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