説明

蒸気タービンロータ、それを用いた蒸気タービン

【課題】信頼性の高い蒸気タービンロータおよび蒸気タービンを提供する。
【解決手段】Ni基超合金鍛造品Aに中空構造の鍛造品Bを溶接接合し、内面の溶接裏並みを削除し内面を平滑化し鍛造材Cと鍛造材Bをボルトで締結することを特徴とする蒸気タービンロータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンロータ、それを用いた蒸気タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン発電プラントの発電効率を向上させるためには、主蒸気温度の向上が有効である。主蒸気温度の向上に伴い、高温部品の温度が高くなるため、より耐用温度の高い耐熱材料が必要となる。蒸気タービンでは、これまで、12Cr鋼等の鉄鋼材料が用いられてきたが、タービンやボイラの高温部に、Ni基超合金を用いることで、主蒸気温度を大幅に向上させた高効率蒸気タービンの研究開発が行われている。Ni基超合金は、高温強度に優れ、鍛造材でも700℃以上の蒸気に耐えるが、大型鍛造品の製造性が悪いという問題点がある。蒸気タービンロータは、通常10tonを超える場合が多いが、Ni基超合金は、製造性に優れた鋼種でも、設備上の制約から10ton程度の重量が限界となる。蒸気タービンの高圧ロータは、入口側の温度は、主蒸気温度に近く、700℃級の蒸気タービンでは、700℃となる。出口側に近づくと温度は低下し、出口部の温度は400℃以下となる。そこで、温度が600℃以下の部分を従来のフェライト鋼、600℃以上の部分をNi基超合金とし、これらを溶接接合することで10tonを大幅に超える重量のロータを製作する試みがなされている。しかし、溶接後、内部に残留する裏並みが削除できず、内部に欠陥が残った状態となるという問題がある。また、Ni基合金は超音波透過性が悪く、粗粒となる溶接金属では、さらに超音波透過性が悪化する。Ni基合金とフェライト鋼の接合には、Ni基合金の溶接金属を用いることが一般的であることから、上記の溶接型ロータでは、内部の欠陥検出限界が下がり、裏並みの在留とともに信頼性低下の原因となる。溶接接合の他に、ボルトによる締結構造のロータも公知であるが、ボルト部には強い引張が作用するためボルト部の温度が高温になると、ボルトがクリープ変形を起こし、緩みが生じるため、ボルト締結部の温度に限界があり、500℃以上での信頼性確保は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−121023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、信頼性の高い蒸気タービンロータおよび蒸気タービンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
解決する手段は以下の通りである。耐用温度が700度以上のNi基超合金鍛造品Aに中空構造の鍛造品Bを溶接接合した後、内面の溶接裏並みを機械加工で削除し内面を平滑化し鍛造材Cと鍛造材Bをボルトで締結する。鍛造材Cと鍛造材Bをボルトで締結する前に、裏並みを除去した内面から、超音波検査を行うことで、外側からは検知できない微小な欠陥も検知し、裏並削除の効果と合わせ信頼性を向上させることが可能となる。鍛造品Aは、700℃以上のNi基超合金であるがFeを含むNiFe基超合金でも良い。鍛造品Bはコストの観点から溶接部の温度が600℃以下の場合、フェライト鋼であることが好ましいが、鍛造品BをNi基超合金とすることで、溶接部の温度を高い場合でも信頼性を確保できる。鍛造材Cは、500℃まで使用できる安価なフェライト鋼で良いが、軸受けとの磨耗に強いCrMoV鋼にすることが有功である。鍛造材に12Cr鋼を用いた場合、軸受けと接する軸部に、CrMoV鋼を肉盛する必要がある。本発明では、内面の溶接裏並みが全くなく、製造時の検査で信頼性を高められるが、定期検査等の際にボルトを外すことで、溶接部内面の再検査が可能であり、定期点検時の検査を行うことで、さらに長期的信頼性を確保することが可能である。
【発明の効果】
【0006】
き裂基点となる内面の裏波を機械加工で平滑化でき、溶接部について内面からのX線検査,超音波検査が可能となる。ボルト締結部は、鍛造材Bの長さを調整することで500℃以下とすることが可能となる。これにより、信頼性の高いロータが提供できる。また、定期点検等で分解し、溶接部内面の検査補修が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】蒸気タービンプラントの構成例。
【図2−1】ロータ構成例。
【図2−2】ロータ構成例。
【図2−3】ロータ構成例。
【図2−4】ロータ構成例。
【図3】ロータが曝される蒸気温度。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施例を説明する。
【実施例】
【0009】
表1に、本実施例で用いる鍛造材料の化学成分を示す。
【0010】
【表1】

【0011】
図1は、本発明を適用する蒸気タービンプラントの構成例を示す。主蒸気温度が700℃であり、主蒸気は高圧タービン(HP)で仕事をした後、約400℃まで温度が低下するが、この蒸気は、再びボイラに戻され、720℃まで再加熱され、再熱蒸気となる。再熱蒸気の圧力は、主蒸気よりも低下しているため、蒸気タービンの耐圧部材にかかる負担は、温度が20℃低い主蒸気側と同程度である。再熱蒸気は中圧タービンに入り、仕事をした後、400℃程度まで温度が下がり、低圧タービンで仕事をした後、室温まで温度が下がり復水器に入る。本発明が適用されるロータは、蒸気を受けて仕事をする翼が固定され、発電機を駆動する軸であり、タービンでは最も過酷な環境にさらされる部材である。図1に示す蒸気タービンプラントでは、高圧タービンと中圧タービンのロータに本発明は適用できるが、以下、高圧タービンロータに適用した場合の検討例を示す。
【0012】
比較検討を行ったロータの構成例を表2に示す。
【0013】
【表2】

【0014】
図2−1〜図2−4は、これらのロータの特徴を示す。比較1は、従来の溶接型ロータであり、その特徴を図2−1に示す。この場合、溶接後、内部が閉じられるため、裏波の除去、内部からの超音波検査が不可能である。超合金の溶接部は超音波透過性が悪いため、外部からでは、内面の溶接欠陥の検出が困難である。また、裏波が残留するため、この部分がき裂の基点となる可能性があり、高い信頼性を得ることが困難である。比較2は、図2−2に示す特徴を有するロータである。この場合、鍛造材Bに中心孔が空けられているため、中心孔から、溶接部内面を観察することができ、著しい欠陥があれば、検知できるが、超音波を用いた検査、裏波の削除は困難である。比較3は、図2−3に示す特徴を有するロータである。Ni基合金からなる鍛造材Aに鍛造材Bと同材質のフェライト鋼製リングをNi基合金の溶接金属で溶接し、その後、フェライト鋼製のリングとフェライト鋼である鍛造材Bをフェライト鋼の溶接金属で溶接する。フェライト鋼製のリングとフェライト鋼を溶接する前に鍛造材Aとフェライト鋼性のリング材の溶接部について、裏波の除去、内面からの検査が可能である。しかし、フェライト鋼リングと鍛造材Bの溶接部については、裏波が残留し、内面からの検査が不可能である。フェライト鋼の溶接金属は、超合金の溶接金属と比較して、超音波透過性が良いため、比較1,比較2と比べると、比較3は信頼性に優れるが、裏波が残留し内面からの検査ができないフェライト鋼溶接部の信頼性が十分確保できない。また、鍛造材Bを溶接した後は、内面の検査が不可能であり、定期検査の際に内面を検査できず、長期的な信頼性確保に問題がある。比較4は、図2−4に示すロータの構造で、鍛造材Aに鍛造材Cが直接ボルト締結された構造である。図3は、ロータの出口から入口までの蒸気温度の変化および入口から出口までの積算重量を示す。比較4では、ロータ径が700mmΦのため、入口から出口までの積算重量が約10tonである。FX700では、10ton級の鍛造材が製造できることから、入口から出口までをモノブロックで製造できる。入口出口の両端は、温度が低いため、シャフトをボルト締結できる。しかし、ロータ径が800mmΦになると、蒸気出口からの距離/ガスパス長さの比が0.4以下になると、累積重量が10tonを超えるため、この部分よりも入口側で、他の鍛造材と接合する必要がある。また、0.4以上の部位では、蒸気温度が500℃を超えるため、ボルト接合の信頼性は低く、溶接により接合する必要がある。発明1は、本発明の一例であり、図2−4に示す特徴を持つ。ロータ径は800mmであり、鍛造材AはA263である。A263はFX700より高強度でありフェライトとの溶接に向いているが7ton程度までの鍛造品が製造限界のため、蒸気温度が550℃となる部分で、鍛造材Bと溶接接合している。鍛造材Bは、12Cr鋼(FE02)である。550℃となる部分から出口部までを鍛造材Bで構成し、400℃以下の部位で、鍛造材C(FE01)とボルト締結している。鍛造材Aと鍛造材BをNi基超合金の溶接材で接合した後、裏波を削除し、内面と外面の双方から超音波検査を実施した。その後、鍛造材Bに鍛造材Cをボルト締結するが、実機使用後の定期点検でも、ボルトを外すことにより、内面の検査や補修が可能である。発明2は、ロータ径が1000mmの場合で、より大型品の製造が可能なFX700を用いることで、発明1と同様にロータが構成できる。ロータ径が1200mmの発明3では、鍛造材Aの鍛造重量の制限(10ton)から溶接部の温度が600℃以上になる。このため、鍛造材Bをフェライト鋼にすると溶接部の信頼性が得られないため、鍛造材BをNi基超合金であるA141としている。A141は、FX700よりも線膨張係数がフェライト鋼に近いため、フェライト鋼とのボルト接合に適している。鍛造材Bに鍛造材Cをボルト締結するが、A141も10ton級の鍛造材の製造が可能であり、ボルト締結部の温度は、500℃まで落とすことが可能である。発明4はロータ径が700mmの場合であり、比較4のように、ボルト締結のみでロータを構成できるが、鍛造材Aで600℃以下となる部分をフェライト鋼である鍛造材Bとすることで、Ni基超合金の量が削減でき、低コスト化が図れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni基超合金鍛造品Aに中空構造の鍛造品Bを溶接接合し、内面の溶接裏並みを削除し内面を平滑化し鍛造材Cと鍛造材Bをボルトで締結することを特徴とする蒸気タービンロータ。
【請求項2】
請求項1において、使用中に溶接部が曝される温度は500℃以上、ボルト締め部は500℃以下であることを特徴とする蒸気タービンロータ。
【請求項3】
請求項2において、鍛造材BはNi基超合金、鍛造材Cは、CrMoV鋼であることを特徴とする蒸気タービンロータ。
【請求項4】
請求項2において、鍛造材Bはフェライト鋼、鍛造材Cは、CrMoV鋼であることを特徴とする蒸気タービンロータ。
【請求項5】
請求項3または4において、軸部に耐磨耗溶接肉盛あるいは耐磨耗溶射を施さないことを特徴とする蒸気タービンロータ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載された蒸気タービンロータを用いた蒸気タービン。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−69307(P2011−69307A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221814(P2009−221814)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】