説明

蒸気タービン制御装置及びそれを用いた蒸気タービン設備

【課題】RCICの蒸気タービンの蒸気加減弁の全開保持用ばねのばね力を強化することなく、タービン停止過程において、確実に蒸気加減弁を全開保持させることのできる蒸気タービン制御装置を提供する。
【解決手段】蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10によって蒸気加減弁6を駆動制御する蒸気タービン制御装置において、前記蒸気タービン2の回転状態量を検知する回転状態量検知手段12,13と、前記回転状態量検知手段12,13で検知した前記蒸気タービン2の回転状態量を取込み、前記蒸気タービン2の停止過程において、前記蒸気タービン2の回転状態量が予め設定した規定値以下を検知したときに、前記蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10が全開状態となる指令を前記電油変換器9へ出力する制御手段20とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービン制御装置及びそれを用いた蒸気タービン設備に係り、更に詳しくは、原子炉隔離時における冷却ポンプ駆動用の蒸気タービン制御装置及びそれを用いた蒸気タービン設備に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉隔離時の冷却系(以下、RCICという)の蒸気タービンは、原子炉への給水が停止するなどの原子炉の緊急時に、原子炉へ冷却水を供給する給水ポンプを駆動する。このため、このような給水ポンプ駆動用蒸気タービンは、起動信号が入力された後、規定時間(例えば、30秒)以内に駆動する給水ポンプを要求給水流量の供給可能な回転数まで昇速させることが要求されている。
【0003】
このような急速起動を可能とするために、RCICの蒸気タービンは、回転軸に直結された給水ポンプ及び油圧ポンプと、蒸気タービンの蒸気入口の上流側に設けられ、原子炉の通常時に閉止し、緊急時に開動作する蒸気入口弁と、蒸気入口弁の下流側に設けられ、弁棒に設けられた全開保持用ばねの伸長力で原子炉の通常時に全開し、緊急時に全開から閉止方向に制御される蒸気加減弁と、リンク機構により蒸気加減弁の弁棒に接続されたピストンを駆動して蒸気加減弁の開度を制御可能とする蒸気加減弁駆動用アクチュエータと、油圧ポンプから吐出され前記アクチュエータへ供給される圧油の供給量を制御する電油変換器と、蒸気タービンの回転数を目標回転数とするために電油変換器に制御指令を出力するタービン制御装置とを備えている。
【0004】
蒸気タービンが回転すると、その軸を動力として駆動される油圧ポンプに生起された圧油が、電油変換器を介して蒸気加減弁駆動用アクチュエータに供給され、全開保持用ばねを縮小させて蒸気加減弁の開度を制御する。このような蒸気加減弁を駆動制御する油圧系統内に空気が入ることを防ぎ、万一空気が入ってしまった場合でも、給水ポンプ駆動用蒸気タービンの起動特性を悪化させることのない蒸気加減弁制御装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−108965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したRCICの蒸気タービンを起動した後に、停止させる手順は、まず、蒸気入口弁と蒸気加減弁の間にある蒸気止め弁および蒸気入口弁を閉止させ、当該タービンへの蒸気流入を遮断する。その後、次回起動に備えて、蒸気加減弁を全開保持状態とする。
【0007】
タービン停止過程においては、油圧ポンプの回転数が漸減することから、油圧ポンプにより生起される圧油の圧力も漸減する。この間、蒸気加減弁はタービン回転数制御信号により、蒸気加減弁駆動用アクチュエータのピストン駆動トルクで開度制御され続けるが、圧油の圧力が減少することにより、ピストン駆動トルクが減少する。このことにより、蒸気加減弁の弁棒に設けた全開保持用ばねの伸長力が上述したピストン駆動トルクを上回れば、該全開保持用ばねが、蒸気加減弁駆動用アクチュエータのピストンと蒸気加減弁を全開位置に移動させる。このとき、蒸気加減弁駆動用アクチュエータ内に残留した圧油は、ピストンの移動により、蒸気加減弁駆動用アクチュエータ外へ排出される。
【0008】
蒸気加減弁駆動用アクチュエータ内の圧油の排出は、電油変換器を介してなされるが、電油変換器の型式によっては圧油排出のための抵抗が大きくなる。このため、蒸気加減弁および蒸気加減弁駆動用アクチュエータを全開とするために必要な全開保持用ばねのばね力を強くする必要がある。全開保持用ばねのばね力を強くすることはタービン停止過程の蒸気加減弁開操作には有利となる。一方、タービン起動過程においては、蒸気加減弁を閉方向に制御するための圧油の圧力の上昇を招くので、油圧ポンプや蒸気加減弁駆動用アクチュエータなどの油圧装置を大型化させる必要が生じてしまう。また、蒸気加減弁の動作速度の遅延を招き、操作性を損なう虞が生じる。
【0009】
本発明は、上述の事柄に基づいてなされたもので、その目的は、RCICの蒸気タービンの蒸気加減弁の全開保持用ばねのばね力を強化することなく、タービン停止過程において、蒸気加減弁を確実に全開保持させることのできる蒸気タービン制御装置及びそれを用いた蒸気タービン設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、原子炉へ緊急に冷却水を供給する給水ポンプを駆動する蒸気タービンと、前記蒸気タービンの蒸気入口の上流側に設けられ、前記原子炉の通常時に閉止し、緊急時に開動作する蒸気入口弁と、前記蒸気入口弁の下流側に設けられ、弁棒に設けられた全開保持用ばねの伸長力で前記原子炉の通常時に全開し、緊急時に全開から閉止方向に制御される蒸気加減弁と、前記蒸気加減弁の弁棒と機械的に接続されたピストンを駆動して前記蒸気加減弁の開度を制御可能とする蒸気加減弁駆動用アクチュエータと、前記蒸気タービンの回転軸に機械的に接続した油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出され前記蒸気加減弁駆動用アクチュエータへ供給される圧油の供給量を制御する電油変換器とを備え、前記蒸気加減弁駆動用アクチュエータによって前記蒸気加減弁を駆動制御する蒸気タービン制御装置において、前記蒸気タービンの回転状態量を検知する回転状態量検知手段と、前記回転状態量検知手段で検知した前記蒸気タービンの回転状態量を取込み、前記蒸気タービンの停止過程において、前記蒸気タービンの回転状態量が予め設定した規定値以下を検知したときに、前記蒸気加減弁駆動用アクチュエータが全開状態となる指令を前記電油変換器へ出力する制御手段とを備えたものとする。
【0011】
また、第2の発明は、原子炉へ緊急に冷却水を供給する給水ポンプを駆動する蒸気タービンと、前記蒸気タービンの蒸気入口の上流側に設けられ、前記原子炉の通常時に閉止し、緊急時に開動作する蒸気入口弁と、前記蒸気入口弁の下流側に設けられ、弁棒に設けられた全開保持用ばねの伸長力で前記原子炉の通常時に全開し、緊急時に全開から閉止方向に制御される蒸気加減弁と、前記蒸気加減弁の弁棒と機械的に接続されたピストンを駆動して前記蒸気加減弁の開度を制御可能とする蒸気加減弁駆動用アクチュエータと、前記蒸気タービンの回転軸に機械的に接続した油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出され前記蒸気加減弁駆動用アクチュエータへ供給される圧油の供給量を制御する電油変換器とを備え、前記蒸気加減弁駆動用アクチュエータによって前記蒸気加減弁を駆動制御する蒸気タービン制御装置において、前記蒸気タービンの回転状態量を検知する回転状態量検知手段と、前記回転状態量検知手段で検知した前記蒸気タービンの回転状態量を取込み、前記蒸気タービンの停止過程において、前記蒸気タービンの回転状態量が予め設定した規定値以下か否かを判定するトリガ演算部と、前記蒸気タービンの目標回転速度と前記蒸気タービンの回転状態量とを基に前記蒸気加減弁開度指令を算出し、前記トリガ演算部からの判定信号が否のときは前記蒸気加減弁開度指令を前記電油変換器へ出力し、前記トリガ演算部からの判定信号が正のときは前記蒸気加減弁の全開指令を前記電油変換器へ出力する蒸気加減弁開度指令演算部とを有する制御手段とを備えたものとする。
【0012】
更に、第3の発明は、第2の発明において、前記蒸気加減弁開度指令演算部は、前記トリガ演算部からの判定信号を切換え信号とし、前記切換え信号が否のときは前記蒸気加減弁開度指令を前記電油変換器へ出力し、前記切換え信号が正のときは前記蒸気加減弁の全開指令を前記電油変換器へ出力する切換演算器を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明のいずれかにおいて、前記制御手段に予め設定した前記規定値は、前記油圧ポンプからの圧油が前記蒸気加減弁駆動用アクチュエータを駆動する為に必要な油圧に設定されていることを特徴とする。
【0014】
更に、第5の発明は、第1乃至第4の発明のいずれかにおいて、前記回転状態量検知手段は、前記蒸気タービンの回転軸に設けられた回転速度検出器であることを特徴とする。
【0015】
また、第6の発明は、第1の発明において、前記回転状態量検知手段は、前記油圧ポンプの吐出圧力を検出する圧力センサであることを特徴とする。
【0016】
更に、第7の発明は、蒸気タービン設備であって、第1乃至第6の発明のいずれかを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、タービン停止過程の所定の時期に蒸気タービン制御装置より電油変換器へ蒸気加減弁駆動用アクチュエータを開状態待機とする指令を出力するので、電油変換器の抵抗が小さい状態で、蒸気加減弁を確実に全開させることができる。このことにより、全開保持用ばねは、蒸気タービンが停止し駆動油圧が喪失されたときに、蒸気加減弁および蒸気加減弁駆動用アクチュエータの開状態を維持するのに必要なだけのばね力を有していればよいので、ばね力の強化が不要となる。この結果、油圧装置等の機器の小型化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の蒸気タービン制御装置及びそれを用いた蒸気タービン設備の一実施の形態を備えたRCICの蒸気タービン設備の構成を示すシステム系統図である。
【図2】本発明の蒸気タービン制御装置及びそれを用いた蒸気タービン設備の一実施の形態の処理内容を示す制御ブロック図である。
【図3】本発明の蒸気タービン制御装置及びそれを用いた蒸気タービン設備の一実施の形態を備えたRCICの蒸気タービンの起動動作を示す特性図である。
【図4】本発明の蒸気タービン制御装置及びそれを用いた蒸気タービン設備の一実施の形態を備えたRCICの蒸気タービンの停止動作を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の蒸気タービン制御装置及びそれを用いた蒸気タービン設備の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は本発明の蒸気タービン制御装置及びそれを用いた蒸気タービン設備の一実施の形態を備えたRCICの蒸気タービン設備の構成を示すシステム系統図である。
【0020】
図1において、RCICシステムにおける蒸気タービン設備は、蒸気発生源である原子炉1からの蒸気で駆動するRCICの蒸気タービン2と、RCICの蒸気タービン2と回転軸を機械的に接続した給水ポンプ3並びに油圧ポンプ4とを備えている。
【0021】
原子炉1の緊急冷却時には、例えば、冷却水タンクの水を給水ポンプ3で吸い上げ、原子炉1へ注水する。給水ポンプ3を駆動するRCICの蒸気タービン2は、原子炉1で発生した蒸気を通常時に閉止し、緊急時に開動作する蒸気入口弁5と、蒸気入口弁5の下流側に設けられ、弁棒6aに設けられた全開保持用ばね7の伸長力で通常時に全開し、緊急時に全開から閉止方向に制御される蒸気加減弁6とを介して取込み、これを動力源として回転する。
【0022】
RCICの蒸気タービン2が回転すると、その軸を動力として駆動される油圧ポンプ4が作動して油タンク8から油を吸込み、油圧系統を構成する電油変換器9へ管路4aを介して圧油を供給する。電油変換器9は、後述する制御装置20からの指令信号に基づいて蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10への圧油の供給流量を調整すると共に、蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10からの排油を油タンク8へ排出する。このことにより、蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10のピストンロッド10aを駆動する。電油変換器9と蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10とは管路9aにより接続され、電油変換器9と油タンク8とは管路9bにより接続されている。
【0023】
蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10のピストンロッド10aの先端は、リンク機構11を介して蒸気加減弁6の弁棒6aに連結されている。このため、蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10のピストンロッド10aの駆動量を制御することで、全開保持用ばね7の伸長力に抗して蒸気加減弁6の弁棒6aの駆動量が閉方向に制御され、蒸気加減弁6の開度が制御できる。
【0024】
圧力センサ(回転状態量検知手段)12は油圧ポンプ4と電油変換器9とを接続する管路4aの圧力を検出する。また、回転速度検出器(回転状態量検知手段)13はRCICの蒸気タービン2の回転速度を検出するために、RCICの蒸気タービン2の回転軸の近傍に設けられている。圧力センサ12からの油圧ポンプ4の吐出圧力検出信号と、回転速度検出器13からのRCICの蒸気タービン2の回転速度検出信号とは制御装置20に入力されている。
【0025】
制御装置(制御手段)20は、圧力センサ12、回転速度検出器13からの検出信号と上位の制御装置である主制御装置200からの信号を取込む入力部と、これらの検出信号を基に後述する演算処理を実行する演算部と、演算部で使用する各設定値を予め記憶する記憶部と、演算部で算出した制御指令を電油変換器9へ出力する出力部とを備えている。
【0026】
制御装置20は、緊急冷却時に、主制御装置200からのRCICの蒸気タービン2の目標回転速度と回転速度検出器13からのRCICの蒸気タービン2の実回転速度との偏差を減少させるように、電油変換器9へ蒸気加減弁6の開度指令を演算して出力し、RCICの蒸気タービン2へ流入する蒸気量を制御する。電油変換器9は、制御装置20からの開度指令信号に従って、タービン回転軸により駆動される油圧ポンプ4から吐出され、蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10へ供給される圧油の流量を制御し、蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10のピストンロッド10aの駆動量を制御する。蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10のピストンロッド10aは、リンク機構11を介して蒸気加減弁6の弁棒6aと接続されているので、ピストンロッド10aの駆動量を制御することで、蒸気加減弁6の開度を制御する。
【0027】
次に、制御装置20の概要について図2を用いて説明する。図2は本発明の蒸気タービン制御装置及びそれを用いた蒸気タービン設備の一実施の形態の処理内容を示す制御ブロック図である。図2において、図1に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0028】
図2に示す制御装置20は、RCICの蒸気タービン2の蒸気加減弁6の開度制御を実行するコントローラ部を示していて、出力信号の指令値を切換えるトリガ信号を入力信号に基づいて生成するトリガ信号演算部20Aと、電油変換器9へ出力する蒸気加減弁開度指令を算出する蒸気加減弁開度指令演算部20Bとを備えている。
【0029】
制御装置20には、図2に示すように、例えば、上位の制御装置である主制御装置200からのタービン起動信号、タービン停止過程信号、給水ポンプ速度指令が入力されている。また、圧力センサ12、回転速度検出器13からの各検出信号が入力されている。これらの信号はトリガ信号演算部20Aにおいて、タービン起動信号はディジタル入力信号200Di1に、タービン停止過程信号はディジタル入力信号200Di2に、タービン回転速度信号はアナログ入力信号13Aiに、油圧ポンプ吐出圧力信号はアナログ入力信号12Aiに、それぞれ変換される。また、蒸気加減弁開度指令演算部20Bには、上位の制御装置である主制御装置200からの給水ポンプ速度指令200Aiが入力されている。
【0030】
トリガ信号演算部20Aは、信号発生器21,23と、比較演算器22,24と、論理和演算器25と、論理積演算器26,29と、瞬時動作限時復帰型の限時演算器27と、否定演算器28とを備えている。
【0031】
信号発生器21は、RCICの蒸気タービン2の通常制御範囲の下限値以下の信号が設定されていて、この回転速度において駆動される油圧ポンプ4の吐出圧力は、蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10を駆動可能であることが要求される。本実施の形態においては、例えば、通常制御範囲の下限値が1000rpmの場合500rpmが設定されている。比較演算器22は、回転速度検出器13からのRCICの蒸気タービン2の回転速度検出信号13Aiを第1入力、信号発生器21の出力信号を第2入力として入力し、第1入力<第2入力のときにディジタル出力信号22Doとして1を出力する。
【0032】
信号発生器23は、蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10を駆動するために必要な油圧ポンプ4の吐出圧力の下限値に余裕値を加えた値の信号が設定されている。本実施の形態においては、例えば、上述した油圧ポンプ4の吐出圧力の下限値が0.5MPaの場合1MPaが設定されている。なお、この設定値は、信号発生器21で設定したRCICの蒸気タービン2の回転速度で駆動される油圧ポンプ4の吐出圧力と略等しい値に設定されることが望ましい。比較演算器24は、圧力センサ12からの油圧ポンプ4の吐出圧力検出信号12Aiを第1入力、信号発生器23の出力信号を第2入力として入力し、第1入力<第2入力のときにディジタル出力信号24Doとして1を出力する。
【0033】
論理和演算器25は、比較演算器22の出力信号22Doを第1入力、比較演算器24の出力信号24Doを第2入力として入力し、入力信号のいずれかが1であるときに、ディジタル出力信号25Doを1として出力する。
【0034】
論理積演算器26は、上位の制御装置である主制御装置200からのタービン停止過程信号200Di2を第1入力、論理和演算器25の出力信号25Doを第2入力として入力し、入力信号がいずれも1であるときに、ディジタル出力信号26Doを1として出力する。ここで、タービン停止過程信号とは、原子炉1の緊急冷却時に起動したRCICの蒸気タービン2を、停止操作することにより、停止させている過程をいう。
【0035】
限時演算器27は、論理積演算器の出力信号26Doを入力し、入力信号に応じて瞬時動作限時復帰動作でディジタル出力信号26Doを1として出力する。換言すると、入力信号が1のときには、瞬時にディジタル出力信号26Doを1として出力し、入力信号が0に変化したときには、予め設定した時間(限時特性)が経過した後にディジタル出力信号26Doを0として出力する。本実施の形態においては、限時特性を例えば600秒に設定する。
【0036】
否定演算器28は、上位の制御装置である主制御装置200からのタービン起動信号200Di1を入力し、入力信号の否定信号をディジタル出力信号28Doとして出力する。
【0037】
論理積演算器29は、否定演算器28の出力信号28Doを第1入力、限時演算器27の出力信号27Doを第2入力として入力し、入力信号がいずれも1であるときに、ディジタル出力信号29Doを1として出力する。ここで、タービン起動信号200Di1は、原子炉1の緊急冷却時にRCICの蒸気タービン2の起動を指令する信号である。
【0038】
蒸気加減弁開度指令演算部20Bは、減算演算器30と、制御演算器31と、信号発生器32と、切換演算器33とを備えている。
【0039】
減算演算器30は、上位の制御装置である主制御装置200からの給水ポンプ速度指令200Aiを第1入力、回転速度検出器13からのRCICの蒸気タービン2の回転速度検出信号13Aiを第2入力として入力し、第1入力信号から第2入力信号を減算する演算を行い、その偏差信号を出力信号30Aoとして制御演算器31へ出力する。ここで、給水ポンプ速度指令200Aiとは、原子炉1の緊急冷却時に原子炉1の水位を保持するために必要とする給水流量を供給可能な給水ポンプの回転速度指令である。
【0040】
制御演算器31は、減算演算器30の出力信号30Aoを入力し、入力信号である速度偏差を解消するように蒸気加減弁6の開度指令信号を算出する。算出した出力信号31Aoは、切換演算器33の第1入力へ出力する。
【0041】
信号発生器32は、蒸気加減弁6を全開させることのできる開度指令信号が設定されていて、切換演算器33の第2入力へ出力する。本実施の形態においては、例えば、120%開度指令信号が設定されている。
【0042】
切換演算器33は、制御演算器31の出力信号31Aoを第1入力、信号発生器32の出力信号を第2入力として入力し、切換信号として論理積演算器29からのディジタル出力信号29Doを入力している。切換演算器33は、切換信号であるディジタル出力信号29Doが1のときには、出力信号33Aoとして第2入力である信号発生器32の出力値を出力する。また、入力している切換信号の29Doが0のときには、出力信号33Aoとして第1入力である制御演算器31の出力値31Aoを出力する。切換演算器33の出力信号33Aoは、出力部において、例えば電流信号に変換されて電油変換器9へ蒸気加減弁6の開度指令として出力されている。
【0043】
次に、上記構成による本発明の蒸気タービン制御装置の一実施の形態を適用したRCICの蒸気タービンの動作について図3及び図4を用いて説明する。図3は本発明の蒸気タービン制御装置及びそれを用いた蒸気タービン設備の一実施の形態を備えたRCICの蒸気タービンの起動動作を示す特性図、図4は本発明の蒸気タービン制御装置及びそれを用いた蒸気タービン設備の一実施の形態を備えたRCICの蒸気タービンの停止動作を示す特性図である。図3及び図4において、図1及び図2に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0044】
まず、RCICの蒸気タービン2の起動動作について説明する。
図3において、横軸は時間を示していて、縦軸の(a)〜(e)は上から順にRCICの蒸気タービン2の起動信号200Di1、蒸気入口弁5の開度Ivs、蒸気加減弁6の開度Cvs、RCICの蒸気タービン2の回転速度13Ai、油圧ポンプ4の吐出圧力12Aiを示している。
【0045】
原子炉1の緊急冷却時である時刻t1には、上位の制御装置である主制御装置200からRCICの蒸気タービン2の起動信号200Di1が出力され、蒸気入口弁5が開操作される。蒸気入口弁5が開操作されると、蒸気加減弁6は全開保持されていることから、RCICの蒸気タービン2へ原子炉1から蒸気が流入することで、RCICの蒸気タービン2の回転速度13Aiは急速に上昇する。
【0046】
RCICの蒸気タービン2の回転速度上昇に伴い、油圧ポンプ4により供給される油圧が確立し、蒸気加減弁6を駆動することができるようになる。制御装置20の指令に従い電油変換器9によって蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10へ供給する油量を制御することにより、上位の制御装置である主制御装置200からの給水ポンプ速度指令200Ai相当のタービン回転速度となるように蒸気加減弁6の開度が制御される。RCICの蒸気タービン2の起動後、時刻t2において、所定回転速度に到達している。
【0047】
図2に戻り、制御装置20の動作を説明する。
図2のトリガ信号演算部20Aにおいて、否定演算器28の入力信号であるRCICの蒸気タービン2の起動信号200Di1は1であるため、否定演算器28のディジタル出力信号28Doは0を出力する。また、論理積演算器26の第1入力信号であるタービン停止過程信号200Di2は0であるため、論理積演算器26のディジタル出力信号26Doは0を出力し、限時演算器27のディジタル出力信号27Doは0を出力する。このことから、論理積演算器29のディジタル出力信号29Doは0を出力する。
【0048】
この結果、蒸気加減弁開度指令演算部20Bの切換演算器33は第1入力である制御演算器31の出力信号31Aoを出力する。このことにより、電油変換器9には、上位の制御装置である主制御装置200からの給水ポンプ速度指令200Aiと回転速度検出器13からのRCICの蒸気タービン2の回転速度検出信号13Aiとの偏差を解消するように蒸気加減弁6の開度指令信号が出力されている。ここで、給水ポンプ速度指令200Aiは、起動時(図3の時刻t1〜t2)はランプ状に定格回転速度まで上昇するものであって、所定の回転速度到達後(図3の時刻t2以降)は、原子炉1の水位を保持することを目的に上位の制御装置である主制御装置200において算出されるものである。
【0049】
次に、RCICの蒸気タービン2の停止動作について説明する。
図4において、横軸は時間を示していて、縦軸の(a)〜(e)は上から順にRCICの蒸気タービン2の停止信号S、蒸気入口弁5の開度Ivs、蒸気加減弁6の開度Cvs、RCICの蒸気タービン2の回転速度13Ai、油圧ポンプ4の吐出圧力12Aiを示している。
【0050】
RCICの蒸気タービン2の停止操作時である時刻t1には、上位の制御装置である主制御装置200からRCICの蒸気タービン2の停止信号Sが出力され、蒸気入口弁5が閉操作されると共に、蒸気加減弁6と蒸気入口弁5との間の蒸気配管に設けた図示しない蒸気止め弁が閉止する。蒸気止め弁または蒸気入口弁5が閉止されると、原子炉1からRCICの蒸気タービン2への蒸気の流入が遮断されるため、RCICの蒸気タービン2の回転速度13Aiは下降していく。このときに、上位の制御装置である主制御装置200から制御装置20には、タービン停止過程信号200Di2が出力されている。
【0051】
RCICの蒸気タービン2の回転速度13Aiの下降に伴い、油圧ポンプ4の吐出圧力12Aiも下降する。蒸気加減弁開度Cvsは、RCICの蒸気タービン2を所定回転速度に保持しようとして、開方向に制御される。このようにして、タービン停止過程が進行する。RCICの蒸気タービン2の停止操作後時刻t2において、RCICタービン2の回転速度13Aiが規定値以下となったことを回転速度検出器13または圧力センサ12からの検出信号により検知すると、制御装置20は、蒸気加減弁6が全開となるように電油変換器9へ指令を出力し、タービン停止過程において蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10を開状態とする。
【0052】
図2に戻り、制御装置20の動作を説明する。
図2のトリガ信号演算部20Aにおいて、否定演算器28の入力信号であるRCICの蒸気タービン2の起動信号200Di1は0であるため、否定演算器28のディジタル出力信号28Doは1を出力する。また、比較演算器22の第1入力のRCICの蒸気タービン2の回転速度信号13Aiが下降して、比較演算器22の第2入力の信号発生器21の出力信号である500rpm以下となると、比較演算器22のディジタル出力信号22Doは1を出力する。また、比較演算器24の第1入力の油圧ポンプ4の吐出圧力信号12Aiが下降して、比較演算器24の第2入力の信号発生器23の出力信号である1MPa以下となると、比較演算器24のディジタル出力信号24Doは1を出力する。論理和演算器25の第1入力である比較演算器22のディジタル出力信号22Do、または、論理和演算器25の第2入力である比較演算器24のディジタル出力信号24Doのいずれかが1のときに、論理和演算器25のディジタル出力信号25Doは1を出力する。
【0053】
論理積演算器26の第1入力信号であるタービン停止過程信号200Di2は1であるため、論理和演算器25のディジタル出力信号25Doが1を出力すると論理積演算器26のディジタル出力信号26Doは1を出力し、限時演算器27のディジタル出力信号27Doは1を出力する。論理積演算器29の第1入力信号である否定演算器28のディジタル出力信号28Doは1であり、論理積演算器29の第2入力信号である限時演算器27のディジタル出力信号27Doは1であることから、論理積演算器29のディジタル出力信号29Doは1を出力する。
【0054】
この結果、蒸気加減弁開度指令演算部20Bの切換演算器33は第2入力である信号発生器32の出力信号である120%開度指令信号を出力する。このことにより、電油変換器9には、蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10を駆動して蒸気加減弁6を全開させる開度指令信号が出力される。
【0055】
上述した本発明の蒸気タービン制御装置及びそれを用いた蒸気タービン設備の一実施の形態によれば、タービン停止過程の所定の時期に制御装置20より電油変換器9へ蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10を開状態待機とする指令を出力するので、電油変換器9の抵抗が小さい状態で、蒸気加減弁6を確実に全開させることができる。このことにより、全開保持用ばね7は、RCICの蒸気タービン2が停止し駆動油圧が喪失されたときに、蒸気加減弁6および蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10の開状態を維持するのに必要なだけのばね力を有していればよいので、ばね力の強化が不要となる。この結果、油圧装置等の機器の小型化が図れる。
【0056】
また、上述した本発明の蒸気タービン制御装置及びそれを用いた蒸気タービン設備の一実施の形態によれば、全開保持用ばね7のばね力の強化が不要となるので、RCICの蒸気タービン2の通常運転時の制御において優れた操作性を確保することができる。
【0057】
なお、本実施の形態においては、蒸気加減弁6の弁棒6aと蒸気加減弁駆動用アクチュエータ10のピストンロッド10aとをリンク機構11により接続した例を用いて説明したが、これに限るものではない。両者が機械的に接続されていれば良い。
【0058】
また、本実施の形態においては、RCICの蒸気タービン2の停止過程における蒸気加減弁6の全開指令切換えのタイミングを、回転状態量検出手段として回転速度検出器13または圧力センサ12からの検出信号により検知する例で説明したが、これに限るものではない。RCICの蒸気タービン2の回転速度13Aiが規定値以下となったことを検知できれば、いずれか一方の検出信号のみで構成しても良い。
【符号の説明】
【0059】
1 原子炉
2 RCICの蒸気タービン
3 給水ポンプ
4 油圧ポンプ
5 蒸気入口止め弁
6 蒸気加減弁
7 全開保持用ばね
8 油タンク
9 電油変換器
10 蒸気加減弁駆動用アクチュエータ
11 リンク機構
12 圧力センサ
13 回転速度検出器
20 制御装置
20A トリガ信号演算部
20B 蒸気加減弁開度指令演算部
200 主制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉へ緊急に冷却水を供給する給水ポンプを駆動する蒸気タービンと、前記蒸気タービンの蒸気入口の上流側に設けられ、前記原子炉の通常時に閉止し、緊急時に開動作する蒸気入口弁と、前記蒸気入口弁の下流側に設けられ、弁棒に設けられた全開保持用ばねの伸長力で前記原子炉の通常時に全開し、緊急時に全開から閉止方向に制御される蒸気加減弁と、前記蒸気加減弁の弁棒と機械的に接続されたピストンを駆動して前記蒸気加減弁の開度を制御可能とする蒸気加減弁駆動用アクチュエータと、前記蒸気タービンの回転軸に機械的に接続した油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出され前記蒸気加減弁駆動用アクチュエータへ供給される圧油の供給量を制御する電油変換器とを備え、前記蒸気加減弁駆動用アクチュエータによって前記蒸気加減弁を駆動制御する蒸気タービン制御装置において、
前記蒸気タービンの回転状態量を検知する回転状態量検知手段と、
前記回転状態量検知手段で検知した前記蒸気タービンの回転状態量を取込み、前記蒸気タービンの停止過程において、前記蒸気タービンの回転状態量が予め設定した規定値以下を検知したときに、前記蒸気加減弁駆動用アクチュエータが全開状態となる指令を前記電油変換器へ出力する制御手段とを備えた
ことを特徴とする蒸気タービン制御装置。
【請求項2】
原子炉へ緊急に冷却水を供給する給水ポンプを駆動する蒸気タービンと、前記蒸気タービンの蒸気入口の上流側に設けられ、前記原子炉の通常時に閉止し、緊急時に開動作する蒸気入口弁と、前記蒸気入口弁の下流側に設けられ、弁棒に設けられた全開保持用ばねの伸長力で前記原子炉の通常時に全開し、緊急時に全開から閉止方向に制御される蒸気加減弁と、前記蒸気加減弁の弁棒と機械的に接続されたピストンを駆動して前記蒸気加減弁の開度を制御可能とする蒸気加減弁駆動用アクチュエータと、前記蒸気タービンの回転軸に機械的に接続した油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出され前記蒸気加減弁駆動用アクチュエータへ供給される圧油の供給量を制御する電油変換器とを備え、前記蒸気加減弁駆動用アクチュエータによって前記蒸気加減弁を駆動制御する蒸気タービン制御装置において、
前記蒸気タービンの回転状態量を検知する回転状態量検知手段と、
前記回転状態量検知手段で検知した前記蒸気タービンの回転状態量を取込み、前記蒸気タービンの停止過程において、前記蒸気タービンの回転状態量が予め設定した規定値以下か否かを判定するトリガ演算部と、前記蒸気タービンの目標回転速度と前記蒸気タービンの回転状態量とを基に前記蒸気加減弁開度指令を算出し、前記トリガ演算部からの判定信号が否のときは前記蒸気加減弁開度指令を前記電油変換器へ出力し、前記トリガ演算部からの判定信号が正のときは前記蒸気加減弁の全開指令を前記電油変換器へ出力する蒸気加減弁開度指令演算部とを有する制御手段とを備えた
ことを特徴とする蒸気タービン制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の蒸気タービン制御装置において、
前記蒸気加減弁開度指令演算部は、前記トリガ演算部からの判定信号を切換え信号とし、前記切換え信号が否のときは前記蒸気加減弁開度指令を前記電油変換器へ出力し、前記切換え信号が正のときは前記蒸気加減弁の全開指令を前記電油変換器へ出力する切換演算器を備えた
ことを特徴とする蒸気タービン制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の蒸気タービン制御装置において、
前記制御手段に予め設定した前記規定値は、前記油圧ポンプからの圧油が前記蒸気加減弁駆動用アクチュエータを駆動する為に必要な油圧に設定されている
ことを特徴とする蒸気タービン制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の蒸気タービン制御装置において、
前記回転状態量検知手段は、前記蒸気タービンの回転軸に設けられた回転速度検出器である
ことを特徴とする蒸気タービン制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の蒸気タービン制御装置において、
前記回転状態量検知手段は、前記油圧ポンプの吐出圧力を検出する圧力センサである
ことを特徴とする蒸気タービン制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載された蒸気タービン制御装置を備えた
ことを特徴とする蒸気タービン設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−96282(P2013−96282A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238738(P2011−238738)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】