説明

蒸気乾燥装置および蒸気乾燥方法

【課題】タクトタイムの増大による生産性の低下を生じることなく、被洗浄物の表面にシミのない清浄な乾燥状態を得る。
【解決手段】搬送治具13aに載置された被洗浄物13をIPA蒸気雰囲気4に浸漬して蒸気乾燥を行うIPA蒸気乾燥槽2の後段に余熱乾燥槽6を設け、IPA蒸気乾燥槽2で蒸気乾燥を終え、IPA蒸気雰囲気4の潜熱によって所定の温度まで加熱された状態にある被洗浄物13および搬送治具13aを、余熱乾燥槽6に搬入し、当該被洗浄物13および搬送治具13a自体が持つ余熱によって乾燥を加速させ、IPA蒸気乾燥槽2におけるIPA蒸気雰囲気4への反復浸漬等の煩雑な操作を必要とすることなく、被洗浄物13や搬送治具13aの表面における液滴の残留に起因する被洗浄物13のシミ等の欠陥の発生を確実に防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気乾燥装置および蒸気乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、ガラス基板、光学レンズ、光学フィルター等の光学素子の洗浄工程では、光学素子を純水等でリンス洗浄した後に乾燥工程に入る。
この乾燥工程には多くの場合、有機溶剤を使用した蒸気乾燥装置が用いられている。また、有機溶剤としては、IPA(イソプロピル・アルコール)が広く用いられている。
【0003】
IPAを用いる蒸気乾燥装置では、約82℃の温度のIPA蒸気で満たされた蒸気槽内に、被洗浄物である光学素子を搬入し、IPA蒸気よりも低温の光学素子の表面にIPA蒸気を凝縮させ、光学素子の表面に付着して流れ落ちるIPA液で光学素子の表面を濯ぎ、光学素子の表面に残存する洗浄液や異物をIPA液で置換して取り除く処理が行われる。
【0004】
IPAは乾燥槽に設けられた加熱装置で約82℃程度に加熱され、乾燥槽内にIPA蒸気の雰囲気が形成される。このIPA蒸気の雰囲気に、洗浄後の、ほぼ常温の光学素子を搬入すると、光学素子の温度がIPA蒸気よりも低いため、光学素子の表面に急激にIPA蒸気が凝集し、同時に、この凝縮によってIPA蒸気の雰囲気量が減少し、IPA蒸気の雰囲気の高さは低下する。
【0005】
その結果、低下したIPA蒸気の高さが元のIPA蒸気の高さ位置に戻るまでに少し時間がかかる。その間に、光学素子の表面でのIPA蒸気の凝縮が続く。
また、このとき、凝縮したIPA蒸気から放出される潜熱によって光学素子の温度上昇が起こる。
【0006】
そして、光学素子の温度がIPA蒸気の温度と等しくなった時点でIPA蒸気の凝縮は停止し、IPA蒸気の雰囲気から光学素子が引き上げられてIPA蒸気の雰囲気の上方で冷却および乾燥される。
【0007】
このようなIPAを用いる蒸気乾燥装置は、すでに広い分野で使用されている。一方で、光学素子や、ハードディスク等の被洗浄物の形状は多様化し、形状によっては乾燥不良を起こし、被洗浄物の縁にウォーターマーク等のシミが発生するなどの技術的課題が発生していた。
【0008】
そこで、特許文献1では、ディスクの蒸気乾燥装置において、乾燥槽内におけるIPA蒸気エリアの上方に設けられた冷却コイルの高さに引き上げられたディスクを、再度降下させ、ディスクの下端部をIPA蒸気エリアに再浸漬して引き上げることで、ディスクの下端部におけるシミの発生を抑制しようとする技術が開示されている。
【0009】
しかしながら上述の特許文献1の技術では、洗浄槽と蒸気乾燥槽を直列に配置した多槽式の洗浄乾燥装置に適用する場合には、以下の技術的課題が発生する。
【0010】
すなわち、多槽式の洗浄乾燥装置において、洗浄槽から蒸気乾燥槽へと被洗浄物を自動搬送によって順次移動させながら処理する場合には、洗浄槽および蒸気乾燥槽の各々での処理時間(タクトタイム)を同一にする必要があり、被洗浄物が同じタイミングで次工程に搬送される。
【0011】
このため、特許文献1のように、後段の蒸気乾燥槽において被洗浄物の再浸漬を行う場合には、蒸気乾燥槽での処理時間が長くなる。
【0012】
したがって、洗浄槽のタクトタイムに処理時間の長い蒸気乾燥槽の動作を整合させるためには、複数の蒸気乾燥槽を設置して、蒸気乾燥の並列処理を行う必要があり、設置台数の増加により洗浄乾燥装置の設備費が高額になってしまう、という技術的課題があった。
【0013】
また、蒸気乾燥装置を1台のままとして、設備コストを抑制する場合には、蒸気乾燥槽での洗浄時間が従来の2倍近く長くなり、これに合わせて洗浄工程のタクトタイムも2倍となることで洗浄乾燥装置の生産性は半減してしまう、という別の技術的課題を生じる。
【0014】
また、特許文献1のように、被洗浄物であるディスクの一部を部分的にIPA蒸気内に再浸漬する場合には、IPA蒸気と上方の冷却空気との境界線上にディスクが位置することとなり、不均一な乾燥によって乾燥品質が却って低下することも懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2008−264690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、タクトタイムの増大による生産性の低下を生じることなく、被洗浄物の表面にシミのない清浄な乾燥状態を得ることが可能な蒸気乾燥技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の観点は、有機溶剤の蒸気による被洗浄物の蒸気乾燥が行われる第1処理槽と、
前記蒸気乾燥を経た前記被洗浄物の余熱乾燥が行われる第2処理槽と、
を具備した蒸気乾燥装置を提供する。
本発明の第2の観点は、有機溶剤の蒸気を用いた被洗浄物の蒸気乾燥を行う第1工程と、
前記蒸気乾燥を経た前記被洗浄物の余熱乾燥を行う第2工程と、
を含む蒸気乾燥方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、タクトタイムの増大による生産性の低下を生じることなく、被洗浄物の表面にシミのない清浄な乾燥状態を得ることが可能な蒸気乾燥技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態である蒸気乾燥方法を実施する蒸気乾燥装置の構成の一例を示す概念図である。
【図2】本発明の一実施の形態である蒸気乾燥方法を実施する蒸気乾燥装置の変形例の構成の一例を示す概念図である。
【図3】本発明の一実施の形態である蒸気乾燥方法の作用の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施の形態の第1態様では、蒸気乾燥槽と、1槽以上の余熱乾燥槽とを備えた、有機溶剤を用いた光学素子の洗浄乾燥装置を例示する。
本実施の形態の第2態様では、第1態様に記載の光学素子の洗浄乾燥装置において、余熱乾燥槽は温度調整可能な加熱装置を備えた構成を例示する。
【0021】
本実施の形態の第3態様では、蒸気乾燥槽で光学素子を蒸気乾燥させる蒸気乾燥工程と、前記蒸気乾燥工程の後に1槽以上設置された余熱乾燥槽で光学素子を余熱乾燥させる工程と、を備えた光学素子乾燥方法を例示する。
【0022】
本実施の形態の第4態様では、第1態様に記載の光学素子の洗浄乾燥装置において、余熱乾燥槽は密閉された構成を例示する。
本実施の形態の第5態様では、第1態様に記載の光学素子の洗浄乾燥装置において、余熱乾燥槽の下面および側面には保温材が設置された構成を例示する。
【0023】
本実施の形態の第6態様では、第1態様に記載の光学素子の洗浄乾燥装置において、余熱乾燥槽の下部または側面部、又はその両方にヒータが設置された構成を例示する。
【0024】
上述の第1態様の作用および効果は一例として以下の通りである。
有機溶剤を用いて蒸気乾燥させる光学素子の洗浄乾燥装置では、有機溶剤が加熱され蒸気となった蒸気雰囲気中で被洗浄物を待機させるため、被洗浄物は溶剤の沸点付近まで温められている。
しかし、蒸気槽から出た被洗浄物には蒸気乾燥では完全に乾かなかった溶剤が付着している場合がある。
【0025】
溶剤が完全に乾かなかった原因としては、被洗浄物やそれを保持する治具に液体が溜まりやすい構造である場合や、被洗浄物の熱容量が大きいために被洗浄物が溶剤の蒸気温度付近まで十分に温められないために乾かないと言ったことが考えられる。
【0026】
完全に乾燥しなかった溶剤を常温でゆっくりと乾燥させると溶剤のたまっている部分に空気中の汚れが付着しやすくなり、シミの発生につながる。
【0027】
そこで、本実施の形態の第1態様の光学素子の洗浄乾燥装置では、蒸気乾燥槽の後に、被洗浄物自体の余熱による乾燥を促進させる余熱乾燥槽を設置し、この余熱乾燥槽の中に被洗浄物を静置させることで残留溶剤の乾燥を早める。
【0028】
また、余熱乾燥槽の設置により残留溶剤の乾燥を早めることで空気中の汚れが付着する前にすばやく乾燥させることができ、被洗浄物にシミが形成されることを防止することが可能となる。
【0029】
上述の第2態様の作用および効果は一例として以下の通りである。
また、余熱乾燥槽に温度調節が可能な加熱装置を備えることにより、余熱乾燥槽内を加温することができ、被洗浄物に残留している溶剤の乾燥時の気化熱により奪われた熱量を補うことが可能となる。その結果、被洗浄物の乾燥時間はさらに早まり、シミ等の欠陥のない良好な乾燥品質を得ることができる。
【0030】
上述の第3態様の作用および効果は一例として以下の通りである。
余熱乾燥槽を用いる余熱乾燥工程を蒸気乾燥工程の後に設けることにより、被洗浄物を迅速に乾燥させて被洗浄物のシミの発生を防止できる。
【0031】
また、余熱乾燥工程で1槽以上の余熱乾燥槽を用いることにより、余熱乾燥槽内での静置時間を短縮できる。これにより短い洗浄タクトの洗浄機にも対応できる。
【0032】
上述の第4態様の作用および効果は一例として以下の通りである。
余熱乾燥槽を密閉構造とすることで、余熱乾燥工程が周囲の環境状態の影響を受けにくくなるとともに、空気中の異物等の付着による被洗浄物の汚損を防止できる。また、被洗浄物の温度低下を抑制して、余熱乾燥に寄与する熱量を保つことができる。
【0033】
上述の第5態様の作用および効果は一例として以下の通りである。
余熱乾燥槽の下面および側面に保温材を設置することで、被洗浄物の温度低下を抑制すると同時に、前段の蒸気乾燥工程で加温された被洗浄物の持つ熱で余熱乾燥槽内の温度を効果的に維持および上昇させることができる。
【0034】
上述の第6態様の作用および効果は一例として以下の通りである。
余熱乾燥槽の下部または側面部、又はその両方にはヒータを設置することで余熱乾燥槽内の温度を、高い状態に維持できると同時に余熱乾燥槽内の温度をコントロールして所望の値に一定に保つことができ、余熱乾燥を効果的に行うことができる。
【0035】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態である蒸気乾燥方法を実施する蒸気乾燥装置の構成の一例を示す概念図である。
図2は、本発明の一実施の形態である蒸気乾燥方法を実施する蒸気乾燥装置の変形例の構成の一例を示す概念図である。
図3は、本発明の一実施の形態である蒸気乾燥方法の作用の一例を示すフローチャートである。
【0036】
なお、本実施の形態では、図1および図2において、左右方向をX方向、上下方向をZ方向、紙面に垂直な方向をY方向として説明する。また、一例として、Z方向は鉛直方向、X−Y平面は水平面とする。
【0037】
図1に例示されるように、本実施の形態の蒸気乾燥装置M1は、IPA浸漬槽1の後段に順に配置されたIPA蒸気乾燥槽2(第1処理槽)および余熱乾燥槽6(第2処理槽)と、これらの各槽の間で被洗浄物13(被洗浄物)を移動させるためのハンドリングロボット11を備えている。
【0038】
このハンドリングロボット11は、一例として、IPA浸漬槽1、IPA蒸気乾燥槽2、余熱乾燥槽6の上方を通過する経路を備え、水平面内(X−Y平面)にループ形に敷設された横行レール11aと、この横行レール11aに沿って循環するように走行する複数の台車11bを備えている。
【0039】
さらに、個々の台車11bの下部には、Z方向に昇降する昇降アーム11cが設けられ、この昇降アーム11cの下端部には、被洗浄物13が載置された搬送治具13aが着脱自在に保持される構成となっている。
【0040】
そして、IPA浸漬槽1、IPA蒸気乾燥槽2、余熱乾燥槽6の各々の直上位置への台車11bの移動および停止、さらには昇降アーム11cの昇降動作により、搬送治具13aに載置された被洗浄物13の、各槽への搬入および搬出等の搬送動作が行われる。
【0041】
一方、本実施の形態の蒸気乾燥装置M1において、IPA蒸気乾燥槽2は、被洗浄物13の搬入および搬出のために上端が開放されたカップ形を呈している。
【0042】
このIPA蒸気乾燥槽2の底部には、当該底部に貯留されたイソプロピル・アルコール(IPA15(有機溶剤))を加熱するためのヒータ3が設けられている。そして、ヒータ3によってIPA15を所定の温度に加熱して蒸発させることにより、IPA蒸気乾燥槽2の内部にIPA蒸気雰囲気4が形成される。
【0043】
また、IPA蒸気乾燥槽2の上部の開口端には、全周に沿って、冷却水等の冷媒が流通する冷却管5が配置されており、IPA蒸気乾燥槽2の内部において、この冷却管5の配置高さまで上昇したIPA蒸気雰囲気4を凝縮させ、IPA蒸気乾燥槽2の壁面に沿って底部のIPA15に還流させて回収する構成となっている。
【0044】
これにより、IPA蒸気乾燥槽2の底部のIPA15から発生するIPA蒸気雰囲気4の高さは、IPA蒸気乾燥槽2の内部で冷却管5の直下の所定の高さに一定に維持される。
本実施の形態の場合、IPA蒸気乾燥槽2の後段に配置された余熱乾燥槽6は、略直方体形の密閉容器として構成されている。
【0045】
この余熱乾燥槽6の上面には、搬送治具13aを保持したハンドリングロボット11の昇降アーム11cが出入りするための搬入扉14aが設けられている。
【0046】
また、余熱乾燥槽6の内部には、昇降アーム11cから受け渡された搬送治具13aを水平方向(X方向)に搬送するための槽内ベルトコンベア12が、X方向に所定の長さに設けられている。
【0047】
本実施の形態の場合、この槽内ベルトコンベア12の長さは、たとえば、当該槽内ベルトコンベア12の搬送方向に、二つの搬送治具13aが同時に載置される長さに設定されている。
【0048】
すなわち、本実施の形態の場合、この槽内ベルトコンベア12の長さや搬送速度は、前段のIPA浸漬槽1およびIPA蒸気乾燥槽2におけるタクトタイム(搬送治具13aに載置された1セットの被洗浄物13当たりの処理の所要時間)に影響されることなく、余熱乾燥槽6の内部において、搬送治具13aに載置された被洗浄物13が、槽内ベルトコンベア12上を移動する間に余熱乾燥される十分な時間を捻出可能な長さや搬送速度に設定される。
【0049】
この槽内ベルトコンベア12の移動方向の終端部に面する余熱乾燥槽6の側壁部には、搬出扉14bが設けられ、この搬出扉14bの外側には、槽内ベルトコンベア12と対応する高さ位置に、槽外ベルトコンベア12aが設けられている。
【0050】
そして、槽内ベルトコンベア12に静置される間に余熱乾燥された被洗浄物13が載置された搬送治具13aは、搬出扉14bを通じて槽外ベルトコンベア12aの側に移動して払い出される。
【0051】
この余熱乾燥槽6の壁面全体には保温材7が配置され、余熱乾燥槽6に搬入された搬送治具13aに載置された被洗浄物13の温度低下を防止して、被洗浄物13および搬送治具13aの各々のそれ自体が持つ余熱による乾燥が効果的に行われる構造となっている。
【0052】
さらに、本実施の形態の場合、余熱乾燥槽6の底部には、余熱乾燥槽6の内部雰囲気を加熱するための防爆構造のヒータ8(温度制御手段)と、余熱乾燥槽6の内部雰囲気の温度を検出する温度センサ9(温度制御手段)が設置されている。
【0053】
そして、温度センサ9によって測定された余熱乾燥槽6の温度に基づいて、当該温度センサ9に備えられた図示しない温度調節機構により、ヒータ8を制御することで、余熱乾燥槽6の温度が、所望の設定温度に保たれる構造となっている。
【0054】
また、密閉構造の余熱乾燥槽6の上部壁面において搬入扉14aに隣り合う位置には、たとえば、搬入扉14aの開口部に清浄なエアーカーテンを形成するクリーンユニット10が設置され、搬入扉14aを通じて余熱乾燥槽6内に粉塵等が侵入することを防止する構造となっている。
【0055】
なお、搬送治具13aに載置された被洗浄物13を搬送するためのハンドリングロボット11、および余熱乾燥槽6の内部における槽内搬送用の槽内ベルトコンベア12は、被洗浄物13を動揺させて損傷しないように、振動の少ない構造が採用されている。
以下、本実施の形態の蒸気乾燥装置M1の作用の一例を説明する。
【0056】
図1において、ハンドリングロボット11の搬送経路におけるIPA浸漬槽1の上流側に位置する図示しない純水洗浄設備等で洗浄された室温の被洗浄物13は、搬送治具13aに載置された状態でハンドリングロボット11の昇降アーム11cに保持されてIPA浸漬槽1に到来し、IPA浸漬槽1のIPA15の液面下に浸漬される(図3のステップ101)。
【0057】
そして、被洗浄物13および搬送治具13aに付着した純水等の液体や異物は、IPA15に置換され、IPA浸漬槽1の底部に除去される。
その後、被洗浄物13および搬送治具13aは、ハンドリングロボット11によって次のIPA蒸気乾燥槽2に搬入され、IPA蒸気雰囲気4の中に被洗浄物13の全体が浸漬される。
【0058】
この時、室温の被洗浄物13および搬送治具13aと、たとえば、82℃の温度のIPA蒸気雰囲気4との温度差により、IPA蒸気雰囲気4は、被洗浄物13および搬送治具13aの表面で無数のIPA15の液滴として凝縮し、被洗浄物13および搬送治具13aの表面を洗い流す。
【0059】
これにより、被洗浄物13および搬送治具13aの表面に残存していた水分や異物が、凝縮したIPA15に置換されて除去されるとともに、被洗浄物13および搬送治具13aは、凝縮するIPA蒸気雰囲気4の潜熱を受けて、IPA蒸気雰囲気4とほぼ等しい温度にまで加熱されて乾燥状態となる(図3のステップ102(第1工程))。
【0060】
本実施の形態では、上述のように乾燥状態となった後、被洗浄物13および搬送治具13aをハンドリングロボット11により、さらに、後段の余熱乾燥槽6に搬入扉14aを通じて搬入し、槽内ベルトコンベア12の上に受け渡す。
【0061】
余熱乾燥槽6は、ヒータ8によって所定の温度に維持されているため、槽内ベルトコンベア12に載置されて搬出扉14bの方向に移動する被洗浄物13および搬送治具13aは、搬入時の温度がほとんど低下することがない。
【0062】
そして、被洗浄物13および搬送治具13aは、槽内ベルトコンベア12の上を所定の速度で搬出扉14bの側に移動する間に、当該被洗浄物13自体が持つ余熱によって迅速に乾燥され、被洗浄物13や搬送治具13aに付着して残存していた僅かなIPA15の滴等も完全に気化して除去された乾燥状態となる(図3のステップ103(第2工程))。
【0063】
こうして余熱乾燥により、完全に乾燥された被洗浄物13および搬送治具13aは、搬出扉14bを通じて槽外ベルトコンベア12aに払い出され、外部に搬出される。
【0064】
このように、本実施の形態では、IPA蒸気乾燥槽2におけるIPA蒸気雰囲気4による蒸気乾燥の後に、さらに、余熱乾燥槽6において余熱乾燥を行うので、被洗浄物13や搬送治具13aに、ウォーターマーク等のシミの一因となる液滴や異物が残存した状態で外部に払い出されることが確実に防止され、シミ等の欠陥のない、清浄な乾燥状態の被洗浄物13を得ることができる。
【0065】
さらに、本実施の形態の蒸気乾燥装置M1の場合、IPA蒸気乾燥槽2では、IPA蒸気雰囲気4による被洗浄物13の蒸気乾燥後に、再度、被洗浄物13をIPA蒸気雰囲気4に浸漬する等の煩雑で冗長な操作は不要である。
【0066】
このため、たとえば、前段のIPA浸漬槽1のタクトタイムに整合させるために、IPA蒸気乾燥槽2の台数を2台以上に増やして並列に稼働させたり、逆に、単一のIPA蒸気乾燥槽2における蒸気乾燥の所要時間に合わせてタクトタイムを長くする等の対策は不要である。
【0067】
すなわち、本実施の形態の蒸気乾燥装置M1によれば、IPA蒸気乾燥槽2の設置台数の増加によるコスト高やタクトタイムの延長による生産性の低下等の不利益を生じることなく、シミ等の欠陥のない、清浄な乾燥状態の被洗浄物13を得ることができる。
【0068】
また、余熱乾燥槽6では、槽内ベルトコンベア12の長さや移動速度をタクトタイムに合わせて調節することで、余熱乾燥槽6における被洗浄物13や搬送治具13aの十分な余熱乾燥時間を捻出できるので、タクトタイムに影響されることなく、被洗浄物13および搬送治具13aを十分に余熱乾燥することが可能である。
【0069】
さらに、余熱乾燥槽6を密閉構造とすることで、当該余熱乾燥槽6における被洗浄物13の余熱乾燥工程が周囲の環境温度の変化等の影響を受けにくくなるとともに、空気中の異物等の付着による被洗浄物13の汚損を防止できる。
また、被洗浄物の温度低下を抑制して、余熱乾燥に寄与する熱量を保つことができる、という利点もある。
【0070】
次に、図2を参照して、本実施の形態の蒸気乾燥方法を実施する蒸気乾燥装置の変形例を説明する。
この図2に例示される変形例の蒸気乾燥装置M2では、余熱乾燥槽16の構造が上述の蒸気乾燥装置M1の余熱乾燥槽6と異なっている。
【0071】
すなわち、この蒸気乾燥装置M2では、余熱乾燥槽16は、上方が開放された直方体形の開放容器で構成されており、上面の搬入扉14a、さらには、底部のヒータの設置が省略された簡略な構造となっている。
【0072】
そして、余熱乾燥槽16の壁面は、全体が保温材7で構成され、底部には、槽内ベルトコンベア12、および余熱乾燥槽16の内部の温度管理のための温度センサ9が配置されている。
【0073】
また、槽内ベルトコンベア12による被洗浄物13の搬送方向の終端側には、搬出扉14bが設けられ、その外側には、槽外ベルトコンベア12aが配置されている。
【0074】
そして、被洗浄物13は、搬送治具13aに載置された状態で、余熱乾燥槽16の上端開口部から、槽内ベルトコンベア12の搬送方向の上流側の端部に受け渡され、搬送治具13aおよび被洗浄物13は、搬出扉14bの方向へと所定の速度で移動する間に、被洗浄物13および搬送治具13aの各々がそれ自体で持つ余熱によって余熱乾燥される。
【0075】
また、余熱乾燥槽16の壁面を構成する保温材7により、余熱乾燥槽16の内部の雰囲気が保温されているので、被洗浄物13および搬送治具13aの温度低下を抑制して、効果的に被洗浄物13および搬送治具13aの余熱乾燥を行うことができる。
【0076】
また、この変形例の蒸気乾燥装置M2の場合には、余熱乾燥槽16の構成が簡略であり、余熱乾燥槽16の製造コストを削減できるとともに、ヒータ8を用いないので、ヒータ8に必要な稼働電力、すなわち稼働コストの削減を実現できる。
【0077】
すなわち、本変形例の蒸気乾燥装置M2の場合、上述の蒸気乾燥装置M1の場合に比較して、より低コストにて、被洗浄物13の蒸気乾燥を実現できる利点がある。
【0078】
本変形例の蒸気乾燥装置M2によれば、より低コストにて、タクトタイムの増大による生産性の低下を生じることなく、被洗浄物13の表面にシミのない清浄な乾燥状態を得ることができる、という効果が得られる。
以下に、本実施の形態の蒸気乾燥装置M1および蒸気乾燥装置M2を用いた蒸気乾燥の実施例を示す。
【0079】
(実施例1)
図1に例示された蒸気乾燥装置M1の余熱乾燥槽6を使用し、余熱乾燥槽6の内部の雰囲気の温度を30℃、35℃、40℃と、複数の異なる値に設定し、さらに、余熱乾燥槽6での被洗浄物13の静置乾燥時間を30秒、60秒、120秒と、複数の異なる値に設定した場合の、被洗浄物13の実施結果を表1に示す。
【表1】

【0080】
被洗浄物13である光学素子としては、直径が3mm以上の光学機器用レンズを使用し、乾燥後の表面のシミの発生有無を目視で観察した。
また、余熱乾燥槽6内のクリーン度は、1立方メートル中の気中パーティクル(0.3μm)の数が50個以下となるようにした。
【0081】
さらに、蒸気乾燥装置M1の全体は防爆仕様であり、IPA蒸気雰囲気4等の溶剤蒸気からなるガスが漏れ漏れることを防止するために局所排気を備えた構成とした。
【0082】
この場合、被洗浄物13におけるシミの有無の判断基準は、60Wの電球による照明の下、目視で被洗浄物13の表面にシミが確認された場合には不可(×印)とし、確認されない場合を合格(○印)と判定する判断基準を採用した。
【0083】
表1から明らかなように、余熱乾燥槽6の内部の温度が30℃以上、および乾燥時間が60秒以上の条件では、被洗浄物13にシミは発生しなくなった。
【0084】
(実施例2)
次に、図2に例示された構成の蒸気乾燥装置M2の余熱乾燥槽16で、余熱乾燥槽16の内部の温度を室温である20℃〜25℃とし、余熱乾燥槽16内での被洗浄物13の静置乾燥時間を30秒、60秒、120秒に設定した場合の、被洗浄物13の実施結果を表2に示す。
【表2】

【0085】
この場合、被洗浄物13である光学素子として直径が3mm以上の光学機器用レンズを使用し、乾燥後のレンズを観察した。
余熱乾燥槽16の内部は被洗浄物13や搬送治具13aの余熱で槽内温度の上昇が見られ、ヒータ等による加熱を必要とすることなく約30℃の温度を保つことができた。
【0086】
そして、この余熱乾燥槽16の場合も、余熱乾燥槽16の内部における120秒の乾燥時間で合格(○印)であり、被洗浄物13の表面にシミを発生させること無く乾燥できた。
【0087】
(比較例)
余熱乾燥槽6での乾燥の効果を確認するため、IPA蒸気乾燥槽2から余熱乾燥槽6まで搬送された直後の状態を、乾燥時間=0秒として表1および表2の各々にあわせて示す。
この比較例のように、乾燥時間が0秒の場合はすべて不合格(×印)であった。
【0088】
以上説明したように、本発明の実施の形態の蒸気乾燥装置M1および蒸気乾燥装置M2によれば、タクトタイムの増大による生産性の低下を生じることなく、被洗浄物13の表面にシミのない清浄な乾燥状態を得ることができる、という効果が得られる。
【0089】
すなわち、本実施の形態の蒸気乾燥装置M1および蒸気乾燥装置M2によれば、光学素子等の被洗浄物13の蒸気乾燥工程において、乾燥不良によるシミのない清浄な光学素子を得ることができる。
この結果、乾燥不良によるシミの無い清浄な光学素子を提供することで、光学素子の製品不良の削減に寄与することができる。
【0090】
なお、本発明は、上述の実施の形態に例示した構成に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
たとえば、有機溶剤としてはIPA(イソプロピル・アルコール)に限らず、他の有機溶剤を用いてもよい。
【0091】
また、被洗浄物としては光学素子に限らず、半導体ウェハやハードディスク基板等の精密な乾燥を必要する物品に広く適用できる。
【0092】
(付記1)
蒸気乾燥槽と、
蒸気乾燥の後に1槽以上の余熱乾燥槽と、
を備えることを特徴とする有機溶剤を用いた光学素子の洗浄乾燥装置。
【0093】
(付記2)
余熱乾燥槽は温度調整可能な加熱装置を備えていることを特徴とする付記1の光学素子の洗浄乾燥装置。
【0094】
(付記3)
蒸気乾燥槽で光学素子を蒸気乾燥させる蒸気乾燥工程と、
前記蒸気乾燥工程の後に1槽以上設置された余熱乾燥槽で光学素子を余熱乾燥させる工程と、
を備えることを特徴とする光学素子乾燥方法。
【0095】
(付記4)
付記1の余熱乾燥槽は密閉されていることを特徴とする光学素子の洗浄乾燥装置。
【0096】
(付記5)
付記1の余熱乾燥槽の下面、側面には保温材が設置されていることを特徴とする光学素子の洗浄乾燥装置。
【0097】
(付記6)
付記1の余熱乾燥槽の下部または側面部、又はその両方にはヒータが設置されていることを特徴とする光学素子の洗浄乾燥装置。
【符号の説明】
【0098】
1 IPA浸漬槽
2 IPA蒸気乾燥槽
3 ヒータ
4 IPA蒸気雰囲気
5 冷却管
6 余熱乾燥槽
7 保温材
8 ヒータ
9 温度センサ
10 クリーンユニット
11 ハンドリングロボット
11a 横行レール
11b 台車
11c 昇降アーム
12 槽内ベルトコンベア
12a 槽外ベルトコンベア
13 被洗浄物
13a 搬送治具
14a 搬入扉
14b 搬出扉
15 IPA
16 余熱乾燥槽
M1 蒸気乾燥装置
M2 蒸気乾燥装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤の蒸気による被洗浄物の蒸気乾燥が行われる第1処理槽と、
前記蒸気乾燥を経た前記被洗浄物の余熱乾燥が行われる第2処理槽と、
を具備したことを特徴とする蒸気乾燥装置。
【請求項2】
請求項1記載の蒸気乾燥装置において、
前記第2処理槽は、当該第2処理槽の温度を調整する温度制御手段を備えたことを特徴とする蒸気乾燥装置。
【請求項3】
請求項2記載の蒸気乾燥装置において、
前記温度制御手段は、前記第2処理槽の壁面に配置されたヒータであることを特徴とする蒸気乾燥装置。
【請求項4】
請求項1記載の蒸気乾燥装置において、
前記第2処理槽は、密閉されていることを特徴とする蒸気乾燥装置。
【請求項5】
請求項1記載の蒸気乾燥装置において、
前記第2処理槽の壁面には、保温材が配置されていることを特徴とする蒸気乾燥装置。
【請求項6】
有機溶剤の蒸気を用いた被洗浄物の蒸気乾燥を行う第1工程と、
前記蒸気乾燥を経た前記被洗浄物の余熱乾燥を行う第2工程と、
を含むことを特徴とする蒸気乾燥方法。
【請求項7】
請求項6記載の蒸気乾燥方法において、
前記第2工程では、前記被洗浄物の雰囲気を加熱することを特徴とする蒸気乾燥方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−267823(P2010−267823A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118082(P2009−118082)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】