蒸気弁装置およびそれを備えた発電設備
【課題】弁棒とブッシュとの間隙よりも狭いシール部材を新たに設けて大気側への漏洩蒸気量を低減することにある。
【解決手段】蒸気入口部及び蒸気出口部を有する蒸気弁本体と、この蒸気弁本体の上面開口部を閉塞する上蓋202と、この上蓋の大気側から蒸気弁本体内の蒸気室に貫通させて設けられ先端部に有する弁体により蒸気出口部より流出する蒸気流量を制御する弁棒205と、この弁棒が貫通する上蓋202の貫通穴に弁棒205が軸方向に往復動するに適正な間隙を存するように設けられたブッシュ201とを備えた蒸気弁装置において、弁棒205とブッシュ201との間隙からの漏洩蒸気量を低減するため、上蓋202の蒸気室側に貫通する弁棒の周囲に、弁棒205とブッシュ201との間隙よりも狭く、好ましくは弁棒205の外表面に接触するように配置された環状のシール部材301を備える。
【解決手段】蒸気入口部及び蒸気出口部を有する蒸気弁本体と、この蒸気弁本体の上面開口部を閉塞する上蓋202と、この上蓋の大気側から蒸気弁本体内の蒸気室に貫通させて設けられ先端部に有する弁体により蒸気出口部より流出する蒸気流量を制御する弁棒205と、この弁棒が貫通する上蓋202の貫通穴に弁棒205が軸方向に往復動するに適正な間隙を存するように設けられたブッシュ201とを備えた蒸気弁装置において、弁棒205とブッシュ201との間隙からの漏洩蒸気量を低減するため、上蓋202の蒸気室側に貫通する弁棒の周囲に、弁棒205とブッシュ201との間隙よりも狭く、好ましくは弁棒205の外表面に接触するように配置された環状のシール部材301を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンの蒸気弁装置およびそれを備えた発電設備に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンを備えた発電設備としては、図19に示すような構成例のものがある。
【0003】
図19において、ボイラー700からの蒸気は主蒸気止め弁701、蒸気加減弁702を通過し、高圧タービン710で仕事をした後、逆止弁707を経由して再びボイラ−700の再熱器にて加熱され、再蒸気止め弁703、インターセプト弁704を経て中圧タービン711、低圧タービン712へ流入して仕事をする。そして、低圧タービン712より流出した蒸気は復水器713により水に戻され、給水ポンプ714にて昇圧して再びボイラー700に供給されるという、循環系が形成されている。
【0004】
また、プラントの運用効率を高めるために、プラントによっては、主蒸気止め弁701の流入側とボイラー700の再熱器の流入側とを結ぶ流路に設けられた高圧タービンバイパス弁705やボイラー700の再熱器の流出側と復水器713との間に接続された流路に低圧タービンバイパス弁706が設置され、タービンの運転に係わらずボイラー系単独の循環運転ができるようになっている。
【0005】
図18は、上述した蒸気タービンに使用されている蒸気加減弁702の従来構造を示す断面図である。
【0006】
この蒸気加減弁702は、図18に示すように図示しないボイラー等からの蒸気が流入する蒸気入口部Iとこの蒸気入口部とは直交する方向に蒸気を流出させる蒸気出口部Oとを有する蒸気弁本体200と、この蒸気弁本体200の上面開口部を閉塞する上蓋202とを備え、蒸気弁本体200内部の蒸気出口部側に弁座203が設けられ、この弁座203に当接する弁体204が上蓋202を貫通させて蒸気弁本体200内部に挿入された弁棒205の先端部に取付けられている。この弁棒205は上蓋202に支持された油圧駆動機構206に連結されている。この場合、上蓋202の弁棒205の貫通部は、摺動面となることからこの部分にブッシュ201が設けられている。
【0007】
このような構造の蒸気加減弁702において、油圧駆動機構206により弁棒205が上下方向に駆動されると弁体204が弁座203と当接又は開離することで、開閉動作をなし、蒸気タービンへ流れる蒸気量の制御により、蒸気タービンの回転数が制御される。
【0008】
ところで、かかる従来の蒸気加減弁において、弁棒205の摺動面となるブッシュ201の内径と弁棒205の外径との間隙寸法は、
(1)弁棒205とブッシュ201の材料組合せによる熱の伸び差
(2)予定された運転期間から予想される弁棒205およびブッシュ201への酸化スケールの付着量
により弁棒205の往復動を阻害しない程度に大きな寸法に決定されており、概ね1mm以下が採用されている。
【0009】
したがって、通常運転においては、ブッシュ201と弁棒205の間隙を通して蒸気室から大気側に向って蒸気が常に漏洩していることになる。
【0010】
さらに、最近では蒸気圧力や蒸気温度条件が上昇しており、上述の(1)と(2)の理由から益々ブッシュ201と弁棒205の間隙寸法が拡大し、結果的に蒸気漏洩量が増加する傾向にある。
【0011】
また、更に最近の蒸気タービンは、同業他社との受注競争や発電事業主らによる市場からの要求として性能向上(効率向上)が強く求められている。
【0012】
この蒸気タービンの性能向上の内訳として、蒸気タービンそのものの内部効率もあるが、蒸気タービンの入口に設置された蒸気弁の弁棒部分から無駄に漏洩する蒸気は、熱力学に有効な仕事をする前に蒸気タービンに流入する蒸気流量を減少させることを意味し、結果的に蒸気タービンの効率に大きな影響(効率低下)を与えることであり、これら弁棒部分からの漏洩蒸気量を如何に低減するかが永年の懸案であった。
【0013】
このような弁棒部分からの漏洩蒸気量を低減するための技術としては、すでに米国にて公開されている(特許文献1)
【特許文献1】US2006/0175567(Aug,10,2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、この技術では、ブッシュの内面にリングを設けるだけの構造なので、運転開始直後は一時的に漏洩蒸気量を低減することが可能でも、経年的に弁棒外径やリング内径への酸化スケールの付着量により間隙が減少し、弁棒の往復動を阻害してしまうという不適合の発生が容易に想定される。
【0015】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたもので、弁棒とブッシュとの間隙よりも狭いシール部材を新たに設けて大気側への漏洩蒸気量を低減することができる蒸気弁装置およびそれを備えた発電設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記の目的を達成するため、次のような手段により蒸気弁装置を構成するものである。
【0017】
すなわち、蒸気入口部及び蒸気出口部を有する蒸気弁本体と、この蒸気弁本体の上面開口部を閉塞する上蓋と、この上蓋の大気側から前記蒸気弁本体内の蒸気室に貫通させて設けられ先端部に有する弁体により前記蒸気出口部より流出する蒸気流量を制御する弁棒と、この弁棒が貫通する前記上蓋の貫通穴に前記弁棒が軸方向に往復動するに適正な間隙を存するように設けられたブッシュとを備えた蒸気弁装置において、前記上蓋の蒸気室側に貫通する弁棒の周囲に、前記弁棒と前記ブッシュとの間隙よりも狭い間隙を有するか、もしくは前記弁棒の外表面に接触するように配置された環状のシール部材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、弁棒とブッシュとの間隙よりも狭いシール部材を新たに設けて大気側への漏洩蒸気量を低減することができるので、従来のリング構造のものと比較して、現実的に発生する弁棒表面への酸化スケールの付着に対しても有効であり、更には既設の蒸気弁装置についても容易にシール部材の追設が可能なことから、既設蒸気タービンの効率を向上させることが可能となり、さらに発電設備全体の効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
図1(a),(b)は本発明による蒸気弁装置の第1の実施形態における要部を示し、(a)は断面図、(b)は(a)に示すシール部材のスリット部分の一部と弁棒をA矢方向から見た図、図2は図1におけるシール部材の半部を拡大して示す斜視図である。
【0021】
なお、図18に示す蒸気加減弁と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる点について述べる。
【0022】
第1の実施形態では、図1に示すように弁棒205の外径とこの弁棒205が貫通する上蓋202の貫通穴に設けられたブッシュ201の内径との間隙寸法は従来設計のままとして、上蓋202の蒸気室側に対応する弁棒205の貫通部分の周囲面にシール部材301を複数本のボルト302により取付けるものである。
【0023】
このシール部材301は、図2に示すように弁棒205に対する内周側部分がリング状であり、その弁棒205に相対する内周部(接触部)304の内径寸法は、弁棒205とブッシュ201との間隙よりも狭く、好ましくは弁棒205との間に間隙を持たず常時接触するように構成されている。なお、図2に示した本実施形態では内周部304が弁棒205に常時接触する接触部304を構成している例を示している。
【0024】
また、内周部(接触部)304部分には、放射状に複数個に分割するように切り込み加工されたスリット部303が形成されている。この場合、分割のための一つの切り込み加工幅は、例えばワイヤーカット加工により0.1mm以下とし、さらには当該スリット部303は漏洩蒸気の通路となるため、限りなく小さく0.05mm以下が好ましい。また、スリット部の長さや厚み、分割数については、シール部材301の材質やその強度に係わる設計要素により定められるので、任意とする。
【0025】
さらに、弁棒205の往復動により酸化スケールが通過する時のシール部材301への噛み込みを防止するために、シール部材301の接触部304の端部は球面形状にしている。
【0026】
また、シール部材301の材質は、ブッシュ201内径と弁棒205の外径による間隙を変化させないために、弁棒205と膨張係数が等しく、好ましくは弁棒205と同一材質であることが望ましい。
【0027】
さらに、シール部材301の内面は、弁棒205の往復動による摩耗防止のために窒化による表面硬化処理、又は酸化スケールが付着し難い材質である一般にステライトの商標名にて市販されているコバルト基硬質合金が盛金されるか、または弁棒205と常時接触状態を保つため、シール部材301の内面へ酸化スケールが付着しないようにシール部材301そのものをコバルト基硬質合金にて製作することも可能である。
【0028】
このような構成のシール部材301を上蓋202の蒸気室側に対応する弁棒205の貫通部分の周囲面に複数本のボルト302により取付け、放射状(すなわち、弁棒205に対する径方向)に複数個に分割するように切り込み加工されてスリット部303が形成された接触部304を弁棒205との間に間隙を持たず常時接触させることにより、弁棒205の外表面に経年的に酸化スケールが付着しても、シール部材301は常時弁棒205に接触しながらスリット部303で分割された1片毎に又は該当する複数片がこれら酸化スケールを乗り越えるように弾性変形する。したがって、弁棒205の往復動を阻害(拘束)することはない。
【0029】
ここで、本発明の第1の実施形態におけるシール部材301と従来における漏洩蒸気量、すなわち漏洩蒸気の通路となる断面積の概略比較を行うと次の通りである。
【0030】
従来:弁棒外径=Φ100mm、ブッシュ内径=Φ100.5mmより
弁棒とブッシュの間隙断面積= 78mm2
第1の実施形態:分割数=36、スリット幅(加工幅)=0.05mm、スリット長さ10mmより
スリット部の総断面積=18mm(弁棒とシール部材の間隙はゼロ)
このように従来に比べて漏洩蒸気の通路となる断面積は格段に小さく、実際には流量係数等も加味される(本実施形態の形状の方が流量係数は悪い)ため、漏洩蒸気は確実に低減する。
【0031】
さらには、スリット部303の切り込み部分にも経年的に酸化スケールが付着し、当該加工幅も減少する傾向となることから、初期段階と比べれば本実施形態のシール部材301の構造では時間経過とともに漏洩蒸気量は減少方向となる。
【0032】
このように本発明の第1の実施形態によれば、永年の懸案であった弁棒部分からの漏洩蒸気量を低減することができ、先に公開されている特許文献1に示されたリング構造のものに比較して、現実的に発生する弁棒表面への酸化スケールの付着事象に対して有効である。
【0033】
更には、既設の蒸気弁装置についても容易にシール部材の追設が可能なことから、既設蒸気タービンの効率を向上させることができるため、これら既設の発電設備においても発電設備全体の効率を向上させることができる。
【0034】
(第2の実施形態)
図3は本発明による蒸気弁装置の第2の実施形態における要部を示す断面図で、図1と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0035】
第2の実施形態では、図3に示すように上蓋202の蒸気室側に対応する弁棒205の貫通部分の周囲面に取付けられるシール部材301として、放射状(すなわち、弁棒205に対する径方向)に複数個のスリット部303がそれぞれ形成されたリング状の接触部304a,304bを弁棒205の外表面と接するように弁棒205の往復動方向に2段列にして設けたものである。
【0036】
当該シール部材301に作用する差圧は、蒸気室側(上流)が定格蒸気圧力、ブッシュ201側(下流)が大気圧力となり、それらから最大差圧となる可能性があり、各スリット部の微小なスリットの切り込み幅から漏洩する蒸気は臨界状態となって作用すると微小なスリットの切り込み部分に侵食の発生も懸念される。
【0037】
本実施形態では、シール部材301に弁棒205の往復動方向に2段列にしてリング状の接触部304a,304bを設けているので、上記第1の実施形態と同様の作用効果に加えて、当該シール部材301に作用する差圧を減少させることができる。
【0038】
上記ではシール部材301に弁棒205の往復動方向に2段列にしてリング状の接触部304a,304bを設けたが、好ましくは3段列以上の接触部を設けることにより、多段オリフィス機能を持たせることが可能となり、当該シール部材の微小なスリットの切り込み幅から漏洩する蒸気量は、単段列、2段列に比べてさらに減少することは明白である。
【0039】
(第3の実施形態)
図4は本発明による蒸気弁装置の第3の実施形態における要部を示す断面図で、図1と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0040】
第3の実施形態では、図4に示すようにシール部材301の外側面(上蓋202との取付け面とは反対側の面)に中空円板状の保護カバー305を配置してシール部材301と一体的に上蓋202にボルト302により取付けるようにしたものである。この場合、保護カバー305の内径はブッシュ201の内径より大きく設定してあるので、弁棒205と接触することはない。
【0041】
このような構成とすれば、上記第1の実施形態と同様の作用効果に加えて、蒸気弁本体の蒸気入口から蒸気とともに異物が流入しても、保護カバー305により保護されているので、シール部材301が異物により破損することを防止できる。
【0042】
(第4の実施形態)
図5は本発明による蒸気弁装置の第4の実施形態における要部を示す断面図で、図4と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0043】
前述した蒸気弁装置においては、上蓋202を貫通する弁棒205の外径とこの弁棒205の上蓋202の貫通部に設けられたブッシュ201の内径との間隙寸法は大きいため、弁棒205が往復動するときに弁棒205がその軸方向と直交する方向に揺動する可能性がある。
【0044】
これに対して、前述した各実施形態によれば、シール部材301の内面は弁棒205と接触するように組立られ、且つ上蓋202に固定された構造であるため、弁棒205が揺動する動きに追従することができない。
【0045】
そこで、第4の実施形態では、図5に示すように内径側に弁棒205との対向面が開口する環状凹部402aを形成したシール部材本体402の環状凹部402a内に弁棒205の往復動方向と直交する方向にスライド可能に、且つ放射状に複数個のスリット部303を形成したリング状の接触部304が弁棒205の外表面と接するようにシール部材401を設け、さらにシール部材本体402の外側面(上蓋202との取付け面とは反対側の面)に中空円板状の保護カバー305を配置してシール部材本体402と一体的に上蓋202にボルト302により取付けるようにしたものである。この場合、保護カバー305の内径はブッシュ201の内径より大きく設定してあるので、弁棒205と接触することはない。
【0046】
したがって、このような構成とすれば、第1の実施形態の作用効果に加えて、シール部材本体402と保護カバー305によりシール部材401が弁棒205の往復動と直交する方向にスライド可能に保持されているので、弁棒205が往復動と直交する方向に揺動してもシール部材401の接触部を弁棒205と接触させた状態で弁棒205の動きに追従させることができる。
【0047】
また、シール部材401は、シール部材本体402と別体になっているので、メンテナンス時にシール部材401を容易に交換することができる。
【0048】
さらに、シール部材401は、シール部材本体402に取付けられた保護カバー305により保護されているので、第3の実施形態と同様に蒸気弁本体の蒸気入口から蒸気とともに異物が流入しても、シール部材301が異物により破損することを防止できる。
【0049】
(第5の実施形態)
図6は本発明による蒸気弁装置の第5の実施形態における要部を示す断面図で、図1と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0050】
蒸気弁装置においては、弁棒205からの漏洩蒸気を2〜3箇所の図示しないヘッダーに分割して回収する構造がとられている。図6ではその回収構造の1段目を示しており、ポート503は任意ヘッダーに接続されるものである。
【0051】
第5の実施形態では、このような回収構造を備えた蒸気弁装置において、1段目のブッシュ502とその先に連なるブッシュ201との間に蒸気室側のシール部材301と同様のシール部材501を取付けるものである。
【0052】
このように弁棒205の往復動方向のブッシュ内部に複数段のシール部材を配置することで、第1の実施形態と同様の作用効果に加えて、さらに大気側への漏洩蒸気を効果的に防止することができる。
【0053】
(第6の実施形態)
図7は本発明による蒸気弁装置の第6の実施形態における要部を示す断面図、図8は図7のX−X線に沿う矢視断面図で、図1と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0054】
第6の実施形態では、図7及び図8に示すように上蓋202の蒸気室側に対応する弁棒205の貫通部分の周囲部に、付き合せ面が互い違いの段差面となるように2分割されたケース310a,310bを内径側に弁棒205との対向面が開口する環状凹部310cが形成されるように組合せて配置され、環状凹部310c内に複数の断面が略三角形状のシール部材片320aを挟み込み且つ全体が環状のシール部材320になるようにそれぞれ挿入した上で、これらケース310a,310bを一体的に上蓋202にボルト302により取付けるようにしたものである。
【0055】
この場合、各シール部材片320aは、それ自体がバネになっており、そのバネ力にて各シール部材片320aの先端が弁棒205の外表面に接触して押付けられるように機能している。
【0056】
また、シール部材片320a自体のバネ力の調整は、2分割されたケース310a,310bの開口幅の寸法Aとシール部材片320aの挟み込み長さ寸法Bの寸法差(締付け寸法)により行われ、2分割されたケース310a,310bの合せ面を調整加工することにより任意の寸法差(締付け寸法)を得ることができるので、弁棒205への押付け力の微調整が可能である。
【0057】
ここで、シール部材片320aの形状や機能、特徴について述べると次の通りである。
【0058】
(1)ケース310a,310bにより形成された環状凹部310c内に挿入される複数のシール部材片320a全体は、弁棒205に対する径方向断面(すなわち、弁棒205の中心軸を含む断面)が略三角形状の中空部を有する環状のシール部材320を形成しており、環状凹部310c内に挿入される際には、三角形状の頂点に相当する凸部が内周側(すなわち、弁棒205の表面と相対する側)に位置するように配置される。また、この環状のシール部材320の弁棒205に対する外周側は繋がらずに切れた構造となっている。そして、これらの複数のシール部材片320aは、ケース310a,310bにより形成された環状凹部310c内に挿入されることで弁棒205の軸方向に押圧され、内周側に配置された凸部には内周方向(すなわち、弁棒205に対する径方向内側)へのバネ力が作用する。
【0059】
シール部材片320aの板の厚みtは、予想される弁棒205表面への酸化スケールの付着量以上の厚みがあれば、弁棒205の往復動の度に酸化スケールを乗り越える際に個別に独立して弾性変形しても、隣り合うシール部材片320aとのシール性を保持することができる。
【0060】
なお、バネ力確保のためにはシール部材片320aの板の厚みtは均一である必要はなく、任意に設計できる。
【0061】
(2)弁棒205に対する径方向断面が略三角形状のシール部材片320aにおいて、弁棒205の外表面に接する凸形状の頂点部分は、弁棒205の往復動方向に曲面(R1)加工されている。
【0062】
なお、弁棒205の外表面に接する部位が凸形状であり、その頂点部分に曲面(R1)加工が施されていれば、シール部材片320aの弁棒205に対する径方向断面の全体形状としては略三角形状の中空環状のものに拘わらず、内周側に凸形状となっていれば丸形や、あるいは台形(四角形)や五角形などの多角形状をした中空環状のものであってもよい。また、本実施形態においてはシール部材片320aの弁棒205に対する外周側は繋がらない形状としているが、これらを繋げた完全中空形状とすることも可能である。
【0063】
更に、弁棒205の外表面には、経年的に酸化スケールが付着するが、弁棒205の往復動により酸化スケール部分が通過するときのシール部材320へ噛み込みを防止するために、シール部材320の内面(弁棒との接触面)は凸状の曲面(R1)形状としているので、弁棒205の往復動を阻害(拘束)することはない。
【0064】
(3)弁棒205の外表面には経年的に酸化スケールが付着するが、複数のシール部材片320aにより形成された環状のシール部材320は、常時弁棒205に接触しているので、該当する1片または複数片が弁棒205の往復動の度に酸化スケールを乗り越えるように個別に独立して弾性変形することができる。また、変形後はシール部材片320a自体のバネ力により元の状態に戻る。
【0065】
(4)断面が略三角形状のシール部材片320aの残り2箇所の角は、2分割されたケース310a,310bの環状凹部310c内に挟み込まれており、シール部材320自体が弁棒205の往復動の度に酸化スケールを乗り越えるように変形した場合、その動きを妨げないようにシール部材320の周方向に曲面(R2)を施し、自由度を確保している。
【0066】
(5)略三角形状のシール部材片320aにおいて、弁棒205の外表面に接する部分と反対側の外周側は、繋がらずに切れており、間隙(L)がある。このため、シール部材320の形状変形時の遊び(逃げ)の役目を負っており、間隙寸法は限定せず、設計によってとは2分割されたケース310a,310bの環状凹部310c内に挟み込まれた2箇所の曲面(R2)の近傍まで開口していても機能的には構わない。
【0067】
次に略三角形状のシール部材片320aの製作手順について図9により説明する。
【0068】
なお、製作途中にて必要な熱処理工程や後述する盛金工程については公知であるため、ここではその説明を省略する。
【0069】
(1)図9(a)に示す厚さtの素材の平板を、同図(b)に示すように2分割されたケース310a,310bの環状凹部310cの内面寸法の曲率(R3)で整形する。
【0070】
(2)整形したシール部材片320aを、同図(c)に示すように曲率(R3)の付いた方を内側として略三角形状になるように丸めて整形する。
【0071】
(3)略三角形状の両端面を、同図(d)に示すようにクサビ型に整形する。
【0072】
(4)略三角形状の凸形状の頂点部分を、同図(e)に示すように弁棒205の外径寸法(R4)に整形する。
【0073】
この場合、上記(2)とは逆に、曲率(R3)の付いた方を外側にして略三角形状に丸めるように整形することも可能であるが、作用する蒸気差圧に対する強度や弾性変形の容易さから上記(2)の手段が好ましい。
【0074】
このように製作された複数のシール部材片320a全体は、断面が略三角形状の中空部を有する環状のシール部材320を形成する。
【0075】
また、前記シール部材片320aの材質は、シール部材320の内径と弁棒205の外径との間隙を変化させないために、弁棒205と膨張係数が等しく、好ましくは弁棒205と同一材質であることが望ましい。
【0076】
ここで、シール部材320より弁棒205の膨張係数が大きい組合せになった場合には、実機運転温度(高温)状態下にてシール部材320が弁棒205の外表面に接触するように構成するため、組立作業時の常温(低温)状態下では膨張係数の差により生じる伸び差の分を、略三角形状のシール部材片320aを環状に整形した後の弁棒205の外形寸法に整形するときに、シール部材320の内径寸法を大きく整形することにより、弁棒205の外径との間隙として確保することができる。このため、組立作業時の常温(低温)状態下では、シール部材320が弁棒205の外表面に接触しないことになるが、材料の組合せの観点からすれば好ましい手段である。
【0077】
更に、シール部材320の内面は、弁棒205の往復動による摩耗防止のために窒化による表面硬化処理、または酸化スケールが付着し難い材質である一般にステライトの商品名にて市販されているコバルト基硬質合金が盛金されている。
【0078】
また、弁棒205と常時接触状態を保つために、シール部材320の内面へ酸化スケールが付着しないようにシール部材320そのものをコバルト基硬質合金にて製作することも可能である。
【0079】
このようにシール部材320の材質や材料の組合せは、材料強度や酸化スケールの付着特性、膨張係数、シール性能等の要求機能から決定されるが、直接高温蒸気に晒されながらシール部材320のバネ力を確保する目的であれば、シール部材320の材料としてニッケル合金鋼(例えばインコネル718など)等が好適である。
【0080】
このように本発明の第6の実施形態によれば、複数の断面が略三角形状のシール部材片320aを2分割されたケース310a,310bの組合せにより形成される環状凹部310c内に弁棒205の外表面と接触するようにして挟み込み且つ全体が環状のシール部材320になるようにそれぞれ挿入した上で、これらケース310a,310bを一体的に上蓋202にボルト302により取付けるようにしたので、第1の実施形態と同様の作用効果が得られることに加えて、前述した本実施形態独自の作用効果を得ることができる。
【0081】
(第7の実施形態)
図10は本発明による蒸気弁装置の第6の実施形態における要部を示す断面図で、図7と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0082】
第7の実施形態では、図10に示すように環状のシール部材320を構成する複数のシール部材片320aとして、弁棒205の外表面に接する面の周方向に複数段の凸凹状のラビリンス320bを加工したものである。
【0083】
ここで、ラビリンスの歯の形状や歯の植え方等種々考案されているため、特に形状については言及しないが、弁棒205の往復動により酸化スケール部分が通過するときのシール部材320への噛み込みを防止するために、図示しないがシール部材320の内面(弁棒との接触面)の両端部は曲面(R1)形状とすることが望ましい。
【0084】
このように本実施形態では、弁棒205の外表面に接する複数のシール部材片320aの周方向面に複数段の凸凹状のラビリンス320bを加工したので、第7の実施形態の作用効果に加えて、常時運転中の弁棒部分からの漏洩蒸気量をさらに低減することができる。
【0085】
(第8の実施形態)
図11は本発明による蒸気弁装置の第8の実施形態における要部を示す断面図で、図7と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0086】
前述した図7に示す第6の実施形態において、上蓋202を貫通する弁棒205の外径とこの弁棒205の上蓋202の貫通部に設けられたブッシュ201の内径との間隙寸法は大きいため、弁棒205が往復動するときに弁棒205がその軸方向と直交する方向に揺動する可能性がある。
【0087】
また、シール部材320の内面は、弁棒205と接触するように組立られ、且つ上蓋202に固定された構造となっているため、弁棒205が揺動するとその動きに追従することができない。
【0088】
そこで、第8の実施形態では、図11に示すように上蓋202の蒸気室側に対応する弁棒205の貫通部分の周囲部に、有底筒状のボックス330を配置し、このボックス330内に第7の実施形態と同様の構成の2分割されたケース331a,331bを組合せてこれらをボルト332により一体化したケース331を弁棒205の往復動方向と直交する方向にスライド可能に、且つ環状凹部331c内に複数の断面が略三角形状のシール部材片320aを挟み込み且つ全体が環状になるようにそれぞれ挿入して形成したシール部材320が弁棒205の外表面と接するように設けた上で、ボックス330を上蓋202にボルト333により取付けるようにしたものである。
【0089】
このような構成とすれば、ボックス330に2分割されたケース331a,331bを組合せてこれらをボルト332により一体化したケース331を弁棒205の往復動方向と直交する方向にスライド可能に保持されているので、弁棒205が往復動と直交する方向に揺動してもケース331の環状凹部331c内に挿入されたシール部材320の接触部を弁棒205と接触させた状態で弁棒205の動きに追従させることができる。
【0090】
(第9の実施形態)
図12は本発明による蒸気弁装置の第9の実施形態におけるシール部材の一部を示す断斜視図であり、他の構成については図7と同様なので、ここではその説明については省略する。
【0091】
前述した第6の実施形態では、2分割されたケース331a,331bの内径側に形成された環状凹部331c内に複数の断面が略三角形状のシール部材片320aを挟み込んで全体が環状のシール部材320を構成するようにしたが、本実施形態では図12に示すように断面が略三角形状の環状のシール部材601とし、このシール部材601の図示しない弁棒の外表面に接触する内周側の先端部分に弁棒205に対する放射状の切り込み加工(すなわち、弁棒205に対する径方向への切り込み加工)を周方向に適宜の間隔をあけて施して複数のスリット部602を設けるようにしたものである。
【0092】
この場合、一つの切り込み加工によるスリット幅は、例えばワイヤーカット加工により0.1mm以下とし、さらには当該スリット部602は常時開口した漏洩蒸気の通路となるため、限りなく小さく0.05mm以下が好ましい。
【0093】
また、スリット部602の長さや分割数については、シール部材601の強度や漏洩蒸気量(スリット部を通過する蒸気量)に係わる設計要素により定まることから、任意とする。
【0094】
このように本実施形態によれば、先端部分に適宜の間隔を存して放射状に切り込み加工を施して複数のスリット部602を設けたシール部材601は、常時弁棒に接触しながらスリット部602の1片毎または該当する複数片がこれら酸化スケールを乗り越えるように弾性変形するため、弁棒の往復動を阻害(拘束)することはない。
【0095】
また、シール部材601は環状の一体型のため、使用中にシール部材の一部が破損しても、シール部材601全体がバラバラに散乱することがないので、より安全である。
【0096】
このような構成のシール部材601を用いても、本発明で得られる効果や機能は前述した実施形態と同様である。
【0097】
(第10の実施形態)
図13は本発明による蒸気弁装置の第10の実施形態における要部を示す断面図、図14は図13のY−Y線に沿う矢視断面図で、図1と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0098】
第10の実施形態では、図13及び図14に示すように上蓋202の蒸気室側に対応する弁棒205の貫通部分の周囲部に、有底筒状のケース340とこのケース340内部にケース上部に設けられるガイド341に支持させながら複数のクサビ型のシール部材片342aを全体が環状のシール部材342になるように、且つ各シール部材片342aの外周側に該シール部材片342aを常に弁棒205の外表面を押付けるためのバネ、例えば皿バネ343を介在させてそれぞれ径方向に並設した上で、ケース340を閉止板344と一体的に上蓋202にボルト345により取付けるようにしたものである。この場合、各シール部材片342aに作用させるバネの反発力は全て同一になるようにする必要がある。
【0099】
上記各シール部材片342aの外周側に該シール部材片342aを常に弁棒205の外表面を押付けるためのバネとして、例えば皿バネ343を用いたが、板バネ又は圧縮コイルバネでも良く、更なる反発力を得るためにはシール部材片342aに対して複数個のバネを取付けたり、バネの形状によっては複数のシール部材片342aに対して1個のバネを取付けたりすることも可能である。これらのバネ343は高温蒸気に晒されるため、バネ材料としてはニッケル合金鋼(例としてインコネル718など)の高温材料が適している。
【0100】
なお、バネ343の目的は、各シール部材片342aを常に弁棒205の外表面に押付けるように作用させるためのものであり、例えば図示しないがベローズを用いてそのベローズに任意の圧力を作用させて押付け力を得るようにしても良い。
【0101】
また、上記シール部材342の材質は、シール部材342の内径と弁棒205の外径との間隙を変化させないため、弁棒205と膨張係数が等しく、好ましくは弁棒205と同一材質であることが望ましいが、材料強度や酸化スケールの付着特性から材料の組合せが決定される。
【0102】
ここで、シール部材342より弁棒205の膨張係数が大きい組合せになった場合には、実機運転温度(高温)状態下にてシール部材342が弁棒205の外表面に接触するように構成するため、組立作業時の常温(低温)状態下では、膨張係数の差により生じる伸び差の分を、シール部材342の内径と弁棒205の外径との間隙として確保することができる。このため、組立作業時の常温(低温)状態下では、シール部材342が弁棒205の外表面に接触しないことになるが、材料の組合せの観点からすれば好ましいことである。
【0103】
更に、シール部材342の内面は、弁棒205の往復動による摩耗防止のために窒化による表面硬化処理、または酸化スケールが付着し難い材質である一般にステライトの商標名にて市販されているコバルト基硬質合金が盛金されている。これに代えて、弁棒205と常時接触状態を保つため、シール部材342の内面へ酸化スケールが付着しないようにシール部材342そのものをコバルト基硬質合金にて製作することも可能である。
【0104】
このように各シール部材片342aに作用させるバネ343の反発力は全て同一であること、また、クサビ型の各シール部材片342aを並設することで全体が環状に保持することができ、各シール部材片342aと弁棒205との間隙は、弁棒205とブッシュ201の間隙よりも狭く、好ましくは弁棒205との間に間隙を持たずシール部材342が常時弁棒205に接触するように構成されている。
【0105】
図15は、シール部材片342aとガイド341との組合せ状態を説明するための斜視図を示している。
【0106】
図15に示すようにガイド341には、径方向にシール部材片342aの位置決め溝341aとこの位置決め溝341a相互間に摺動抵抗軽減溝341bがそれぞれ設けられている。
【0107】
この摺動抵抗軽減溝341bは、次のような理由により設けられる。
【0108】
すなわち、シール部材342は、蒸気室内に設置されており、シール部材342自体に蒸気圧力が作用することから、常時蒸気漏洩方向に押付け力が発生する。このような力は、シール部材片342aを半径方向に進退(移動)させる障害となる恐れがあるため、シール部材片342a自体の摺動抵抗の軽減を目的に閉止板344のシール部材片342aとの接触面に摺動抵抗軽減用の溝341bが半径方向に加工されている。
【0109】
また、クサビ状のシール部材片342aはその径方向の内端側が球面状の凸部に形成され、上面には閉止板341の位置決め溝341aに嵌め込まれる凸状のガイド342bが設けられ、さらに、クサビ面(隣り合う面)の中央部分に凹状の陥没部342cを形成して、隣り合う面同士の接触面積を減少させて摺動抵抗の軽減を図るようにしている。この場合、凹状の陥没部342cに代えて両クサビ面間を完全に貫通させた中空部としてもその効果は同じである。
【0110】
このような嵌め込み構造とすれば、シール部材片342aは半径方向のみに移動が可能となる。すなわち、弁棒205の外表面には経年的に酸化スケールが付着するが、各シール部材片342aは常時バネ力により弁棒205に接触するので、該当する1片または複数片が弁棒205の往復動の度に酸化スケールを乗り越えるように個別に独立して半径方向に進退することができる。
【0111】
また、シール部材片342aが径方向に進退した場合には、シール部材片342aのクサビ面(隣り合う面)に開口が生じ、その開口部分から蒸気が漏洩することになるが、クサビ形状であることから半径方向の移動量に対してその開口する幅(寸法)はクサビの先端角度(シール部材342の分割数による角度)に依存するため、非常に微小である。開口する幅(寸法)の観点から、言い換えればクサビの先端角度が45度以下となるようにシール部材342の分割数は8以上が好ましい。
【0112】
更に、弁棒205の往復動により酸化スケール部分が通過するときのシール部材342への噛み込みを防止するために、シール部材342の内面(弁棒との接触面)は凸状の球面形状としているので、弁棒205の往復動を阻害(拘束)することはない。
【0113】
このように本発明の第10の実施形態によれば、上蓋202の蒸気室側に対応する弁棒205の貫通部分の周囲部に、有底筒状のケース340とこのケース340内部にケース上部に設けられるガイド341に支持させながら複数のクサビ型のシール部材片342aを全体が環状のシール部材342になるように、且つ各シール部材片342aの外周側に該シール部材片342aを常に弁棒205の外表面を押付けるためのバネ、例えば皿バネ343を介在させてそれぞれ径方向に並設した上で、ケース340を閉止板344と一体的に上蓋202にボルト345により取付けるようにしたので、第1の実施形態と同様の作用効果が得られることに加えて、前述した本実施形態独自の作用効果を得ることができる。
【0114】
(第11の実施形態)
図16は本発明による蒸気弁装置の第11の実施形態における要部を示す断面図で、図13と同一部分には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる点について述べる。
【0115】
第11の実施形態では、図16に示すように環状のシール部材342を構成する複数のシール部材片342aとして、弁棒205の外表面に接する面の周方向に複数段の凸凹状のラビリンス342dを加工したものである。
【0116】
ここで、ラビリンスの歯の形状や歯の植え方等種々考案されているため、特に形状については言及しないが、弁棒205の往復動により酸化スケール部分が通過するときのシール部材342への噛み込みを防止するために、図示しないがシール部材342の内面(弁棒との接触面)の両端部は曲面(R1)形状とすることが望ましい。
【0117】
このように本実施形態では、第10の実施形態と同様の作用効果が得られることに加えて、弁棒205の外表面に接する複数のシール部材片342aの周方向面に複数段の凸凹状のラビリンス342dを加工したので、常時運転中の弁棒部分からの漏洩蒸気量をさらに低減することができる。
【0118】
(第12の実施形態)
図17は本発明による蒸気弁装置の第12の実施形態における要部を示す断面図で、図13と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0119】
図13に示す第10の実施形態では、上蓋202を貫通する弁棒205の外径とこの弁棒205の上蓋202の貫通部に設けられたブッシュ201の内径との間隙寸法は大きいため、弁棒205が往復動するときに弁棒205がその軸方向と直交する方向に揺動する可能性がある。
【0120】
また、シール部材342の内面は、弁棒205と接触するように組立られ、且つ上蓋202に固定された構造となっているため、弁棒205が揺動するとその動きに追従することができない。
【0121】
そこで、第12の実施形態では、図17に示すように上蓋202の蒸気室側に対応する弁棒205の貫通部分の周囲部に、有底筒状のボックス350を配置し、このボックス350内に第10の実施形態と同様にガイド341に支持させながら複数のクサビ型のシール部材片342aを全体が環状のシール部材342になるように、且つ各シール部材片342aの外周側に皿バネ343を介在させてそれぞれ径方向に並設したケース340を弁棒205の往復動方向と直交する方向にスライド可能に設けた上で、ボックス350を閉止板334と一体的に上蓋202にボルト351により取付けるようにしたものである。
【0122】
このような構成とすれば、ボックス350にケース340を弁棒205の往復動方向と直交する方向にスライド可能に保持されているので、弁棒205が往復動と直交する方向に揺動してもシール部材342の接触部を弁棒205と接触させた状態で弁棒205の動きに追従させることができる。
【0123】
このような構成としても、本発明で得られる効果や機能は前述した実施形態と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】(a),(b)は本発明による蒸気弁装置の第1の実施形態における要部を示し、(a)は断面図、(b)は(a)に示すシール部材のスリット部分の一部と弁棒をA矢方向から見た図。
【図2】図1におけるシール部材の半部を拡大して示す斜視図。
【図3】本発明による蒸気弁装置の第2の実施形態における要部を示す断面図。
【図4】本発明による蒸気弁装置の第3の実施形態における要部を示す断面図。
【図5】本発明による蒸気弁装置の第4の実施形態における要部を示す断面図。
【図6】本発明による蒸気弁装置の第5の実施形態における要部を示す断面図。
【図7】本発明による蒸気弁装置の第6の実施形態における要部を示す断面図。
【図8】図8は図7のX−X線に沿う矢視断面図。
【図9】(a)〜(e)は同実施形態において、略三角形状のシール部材片の製作手順を説明するための図。
【図10】本発明による蒸気弁装置の第6の実施形態における要部を示す断面図。
【図11】本発明による蒸気弁装置の第8の実施形態における要部を示す断面図。
【図12】本発明による蒸気弁装置の第9の実施形態におけるシール部材の一部を示す断斜視図。
【図13】本発明による蒸気弁装置の第10の実施形態における要部を示す断面図。
【図14】図13のY−Y線に沿う矢視断面図。
【図15】同実施形態において、シール部材片とガイドとの組合せ状態を説明するための斜視図本発明の…示す図。
【図16】本発明による蒸気弁装置の第11の実施形態における要部を示す断面図。
【図17】本発明による蒸気弁装置の第12の実施形態における要部を示す断面図。
【図18】従来の蒸気タービンに使用されている蒸気加減弁構造を示す断面図。
【図19】蒸気タービンを備えた発電設備の構成例を示す系統図。
【符号の説明】
【0125】
200…蒸気弁本体、201,502…ブッシュ、202…上蓋、203…弁座、204…弁体、205…弁棒、206…油圧駆動機構、301,401,501…シール部材、302…ボルト、303…スリット部、304,304a,304b…内周部(接触部)、305…保護カバー、310a,310b…ケース、320…シール部材、320a…シール部材片、320b…凹凸状のラビリンス、402…シール部材本体、310c,402a…環状凹部、503…ポート、330…ボックス、331a,331b…2分割ケース、331…ケース、331c…環状凹部、340…ケース、341…ガイド、341a…位置決め溝、342…シール部材、342a…シール部材片、342b…凸状のガイド、342c…陥没部、342d…凸凹状のラビリンス、343…皿バネ、344…閉止板、345…ボルト、350…ボックス、351…ボルト、601…シール部材、602…スリット部、
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンの蒸気弁装置およびそれを備えた発電設備に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンを備えた発電設備としては、図19に示すような構成例のものがある。
【0003】
図19において、ボイラー700からの蒸気は主蒸気止め弁701、蒸気加減弁702を通過し、高圧タービン710で仕事をした後、逆止弁707を経由して再びボイラ−700の再熱器にて加熱され、再蒸気止め弁703、インターセプト弁704を経て中圧タービン711、低圧タービン712へ流入して仕事をする。そして、低圧タービン712より流出した蒸気は復水器713により水に戻され、給水ポンプ714にて昇圧して再びボイラー700に供給されるという、循環系が形成されている。
【0004】
また、プラントの運用効率を高めるために、プラントによっては、主蒸気止め弁701の流入側とボイラー700の再熱器の流入側とを結ぶ流路に設けられた高圧タービンバイパス弁705やボイラー700の再熱器の流出側と復水器713との間に接続された流路に低圧タービンバイパス弁706が設置され、タービンの運転に係わらずボイラー系単独の循環運転ができるようになっている。
【0005】
図18は、上述した蒸気タービンに使用されている蒸気加減弁702の従来構造を示す断面図である。
【0006】
この蒸気加減弁702は、図18に示すように図示しないボイラー等からの蒸気が流入する蒸気入口部Iとこの蒸気入口部とは直交する方向に蒸気を流出させる蒸気出口部Oとを有する蒸気弁本体200と、この蒸気弁本体200の上面開口部を閉塞する上蓋202とを備え、蒸気弁本体200内部の蒸気出口部側に弁座203が設けられ、この弁座203に当接する弁体204が上蓋202を貫通させて蒸気弁本体200内部に挿入された弁棒205の先端部に取付けられている。この弁棒205は上蓋202に支持された油圧駆動機構206に連結されている。この場合、上蓋202の弁棒205の貫通部は、摺動面となることからこの部分にブッシュ201が設けられている。
【0007】
このような構造の蒸気加減弁702において、油圧駆動機構206により弁棒205が上下方向に駆動されると弁体204が弁座203と当接又は開離することで、開閉動作をなし、蒸気タービンへ流れる蒸気量の制御により、蒸気タービンの回転数が制御される。
【0008】
ところで、かかる従来の蒸気加減弁において、弁棒205の摺動面となるブッシュ201の内径と弁棒205の外径との間隙寸法は、
(1)弁棒205とブッシュ201の材料組合せによる熱の伸び差
(2)予定された運転期間から予想される弁棒205およびブッシュ201への酸化スケールの付着量
により弁棒205の往復動を阻害しない程度に大きな寸法に決定されており、概ね1mm以下が採用されている。
【0009】
したがって、通常運転においては、ブッシュ201と弁棒205の間隙を通して蒸気室から大気側に向って蒸気が常に漏洩していることになる。
【0010】
さらに、最近では蒸気圧力や蒸気温度条件が上昇しており、上述の(1)と(2)の理由から益々ブッシュ201と弁棒205の間隙寸法が拡大し、結果的に蒸気漏洩量が増加する傾向にある。
【0011】
また、更に最近の蒸気タービンは、同業他社との受注競争や発電事業主らによる市場からの要求として性能向上(効率向上)が強く求められている。
【0012】
この蒸気タービンの性能向上の内訳として、蒸気タービンそのものの内部効率もあるが、蒸気タービンの入口に設置された蒸気弁の弁棒部分から無駄に漏洩する蒸気は、熱力学に有効な仕事をする前に蒸気タービンに流入する蒸気流量を減少させることを意味し、結果的に蒸気タービンの効率に大きな影響(効率低下)を与えることであり、これら弁棒部分からの漏洩蒸気量を如何に低減するかが永年の懸案であった。
【0013】
このような弁棒部分からの漏洩蒸気量を低減するための技術としては、すでに米国にて公開されている(特許文献1)
【特許文献1】US2006/0175567(Aug,10,2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、この技術では、ブッシュの内面にリングを設けるだけの構造なので、運転開始直後は一時的に漏洩蒸気量を低減することが可能でも、経年的に弁棒外径やリング内径への酸化スケールの付着量により間隙が減少し、弁棒の往復動を阻害してしまうという不適合の発生が容易に想定される。
【0015】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたもので、弁棒とブッシュとの間隙よりも狭いシール部材を新たに設けて大気側への漏洩蒸気量を低減することができる蒸気弁装置およびそれを備えた発電設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記の目的を達成するため、次のような手段により蒸気弁装置を構成するものである。
【0017】
すなわち、蒸気入口部及び蒸気出口部を有する蒸気弁本体と、この蒸気弁本体の上面開口部を閉塞する上蓋と、この上蓋の大気側から前記蒸気弁本体内の蒸気室に貫通させて設けられ先端部に有する弁体により前記蒸気出口部より流出する蒸気流量を制御する弁棒と、この弁棒が貫通する前記上蓋の貫通穴に前記弁棒が軸方向に往復動するに適正な間隙を存するように設けられたブッシュとを備えた蒸気弁装置において、前記上蓋の蒸気室側に貫通する弁棒の周囲に、前記弁棒と前記ブッシュとの間隙よりも狭い間隙を有するか、もしくは前記弁棒の外表面に接触するように配置された環状のシール部材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、弁棒とブッシュとの間隙よりも狭いシール部材を新たに設けて大気側への漏洩蒸気量を低減することができるので、従来のリング構造のものと比較して、現実的に発生する弁棒表面への酸化スケールの付着に対しても有効であり、更には既設の蒸気弁装置についても容易にシール部材の追設が可能なことから、既設蒸気タービンの効率を向上させることが可能となり、さらに発電設備全体の効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
図1(a),(b)は本発明による蒸気弁装置の第1の実施形態における要部を示し、(a)は断面図、(b)は(a)に示すシール部材のスリット部分の一部と弁棒をA矢方向から見た図、図2は図1におけるシール部材の半部を拡大して示す斜視図である。
【0021】
なお、図18に示す蒸気加減弁と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる点について述べる。
【0022】
第1の実施形態では、図1に示すように弁棒205の外径とこの弁棒205が貫通する上蓋202の貫通穴に設けられたブッシュ201の内径との間隙寸法は従来設計のままとして、上蓋202の蒸気室側に対応する弁棒205の貫通部分の周囲面にシール部材301を複数本のボルト302により取付けるものである。
【0023】
このシール部材301は、図2に示すように弁棒205に対する内周側部分がリング状であり、その弁棒205に相対する内周部(接触部)304の内径寸法は、弁棒205とブッシュ201との間隙よりも狭く、好ましくは弁棒205との間に間隙を持たず常時接触するように構成されている。なお、図2に示した本実施形態では内周部304が弁棒205に常時接触する接触部304を構成している例を示している。
【0024】
また、内周部(接触部)304部分には、放射状に複数個に分割するように切り込み加工されたスリット部303が形成されている。この場合、分割のための一つの切り込み加工幅は、例えばワイヤーカット加工により0.1mm以下とし、さらには当該スリット部303は漏洩蒸気の通路となるため、限りなく小さく0.05mm以下が好ましい。また、スリット部の長さや厚み、分割数については、シール部材301の材質やその強度に係わる設計要素により定められるので、任意とする。
【0025】
さらに、弁棒205の往復動により酸化スケールが通過する時のシール部材301への噛み込みを防止するために、シール部材301の接触部304の端部は球面形状にしている。
【0026】
また、シール部材301の材質は、ブッシュ201内径と弁棒205の外径による間隙を変化させないために、弁棒205と膨張係数が等しく、好ましくは弁棒205と同一材質であることが望ましい。
【0027】
さらに、シール部材301の内面は、弁棒205の往復動による摩耗防止のために窒化による表面硬化処理、又は酸化スケールが付着し難い材質である一般にステライトの商標名にて市販されているコバルト基硬質合金が盛金されるか、または弁棒205と常時接触状態を保つため、シール部材301の内面へ酸化スケールが付着しないようにシール部材301そのものをコバルト基硬質合金にて製作することも可能である。
【0028】
このような構成のシール部材301を上蓋202の蒸気室側に対応する弁棒205の貫通部分の周囲面に複数本のボルト302により取付け、放射状(すなわち、弁棒205に対する径方向)に複数個に分割するように切り込み加工されてスリット部303が形成された接触部304を弁棒205との間に間隙を持たず常時接触させることにより、弁棒205の外表面に経年的に酸化スケールが付着しても、シール部材301は常時弁棒205に接触しながらスリット部303で分割された1片毎に又は該当する複数片がこれら酸化スケールを乗り越えるように弾性変形する。したがって、弁棒205の往復動を阻害(拘束)することはない。
【0029】
ここで、本発明の第1の実施形態におけるシール部材301と従来における漏洩蒸気量、すなわち漏洩蒸気の通路となる断面積の概略比較を行うと次の通りである。
【0030】
従来:弁棒外径=Φ100mm、ブッシュ内径=Φ100.5mmより
弁棒とブッシュの間隙断面積= 78mm2
第1の実施形態:分割数=36、スリット幅(加工幅)=0.05mm、スリット長さ10mmより
スリット部の総断面積=18mm(弁棒とシール部材の間隙はゼロ)
このように従来に比べて漏洩蒸気の通路となる断面積は格段に小さく、実際には流量係数等も加味される(本実施形態の形状の方が流量係数は悪い)ため、漏洩蒸気は確実に低減する。
【0031】
さらには、スリット部303の切り込み部分にも経年的に酸化スケールが付着し、当該加工幅も減少する傾向となることから、初期段階と比べれば本実施形態のシール部材301の構造では時間経過とともに漏洩蒸気量は減少方向となる。
【0032】
このように本発明の第1の実施形態によれば、永年の懸案であった弁棒部分からの漏洩蒸気量を低減することができ、先に公開されている特許文献1に示されたリング構造のものに比較して、現実的に発生する弁棒表面への酸化スケールの付着事象に対して有効である。
【0033】
更には、既設の蒸気弁装置についても容易にシール部材の追設が可能なことから、既設蒸気タービンの効率を向上させることができるため、これら既設の発電設備においても発電設備全体の効率を向上させることができる。
【0034】
(第2の実施形態)
図3は本発明による蒸気弁装置の第2の実施形態における要部を示す断面図で、図1と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0035】
第2の実施形態では、図3に示すように上蓋202の蒸気室側に対応する弁棒205の貫通部分の周囲面に取付けられるシール部材301として、放射状(すなわち、弁棒205に対する径方向)に複数個のスリット部303がそれぞれ形成されたリング状の接触部304a,304bを弁棒205の外表面と接するように弁棒205の往復動方向に2段列にして設けたものである。
【0036】
当該シール部材301に作用する差圧は、蒸気室側(上流)が定格蒸気圧力、ブッシュ201側(下流)が大気圧力となり、それらから最大差圧となる可能性があり、各スリット部の微小なスリットの切り込み幅から漏洩する蒸気は臨界状態となって作用すると微小なスリットの切り込み部分に侵食の発生も懸念される。
【0037】
本実施形態では、シール部材301に弁棒205の往復動方向に2段列にしてリング状の接触部304a,304bを設けているので、上記第1の実施形態と同様の作用効果に加えて、当該シール部材301に作用する差圧を減少させることができる。
【0038】
上記ではシール部材301に弁棒205の往復動方向に2段列にしてリング状の接触部304a,304bを設けたが、好ましくは3段列以上の接触部を設けることにより、多段オリフィス機能を持たせることが可能となり、当該シール部材の微小なスリットの切り込み幅から漏洩する蒸気量は、単段列、2段列に比べてさらに減少することは明白である。
【0039】
(第3の実施形態)
図4は本発明による蒸気弁装置の第3の実施形態における要部を示す断面図で、図1と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0040】
第3の実施形態では、図4に示すようにシール部材301の外側面(上蓋202との取付け面とは反対側の面)に中空円板状の保護カバー305を配置してシール部材301と一体的に上蓋202にボルト302により取付けるようにしたものである。この場合、保護カバー305の内径はブッシュ201の内径より大きく設定してあるので、弁棒205と接触することはない。
【0041】
このような構成とすれば、上記第1の実施形態と同様の作用効果に加えて、蒸気弁本体の蒸気入口から蒸気とともに異物が流入しても、保護カバー305により保護されているので、シール部材301が異物により破損することを防止できる。
【0042】
(第4の実施形態)
図5は本発明による蒸気弁装置の第4の実施形態における要部を示す断面図で、図4と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0043】
前述した蒸気弁装置においては、上蓋202を貫通する弁棒205の外径とこの弁棒205の上蓋202の貫通部に設けられたブッシュ201の内径との間隙寸法は大きいため、弁棒205が往復動するときに弁棒205がその軸方向と直交する方向に揺動する可能性がある。
【0044】
これに対して、前述した各実施形態によれば、シール部材301の内面は弁棒205と接触するように組立られ、且つ上蓋202に固定された構造であるため、弁棒205が揺動する動きに追従することができない。
【0045】
そこで、第4の実施形態では、図5に示すように内径側に弁棒205との対向面が開口する環状凹部402aを形成したシール部材本体402の環状凹部402a内に弁棒205の往復動方向と直交する方向にスライド可能に、且つ放射状に複数個のスリット部303を形成したリング状の接触部304が弁棒205の外表面と接するようにシール部材401を設け、さらにシール部材本体402の外側面(上蓋202との取付け面とは反対側の面)に中空円板状の保護カバー305を配置してシール部材本体402と一体的に上蓋202にボルト302により取付けるようにしたものである。この場合、保護カバー305の内径はブッシュ201の内径より大きく設定してあるので、弁棒205と接触することはない。
【0046】
したがって、このような構成とすれば、第1の実施形態の作用効果に加えて、シール部材本体402と保護カバー305によりシール部材401が弁棒205の往復動と直交する方向にスライド可能に保持されているので、弁棒205が往復動と直交する方向に揺動してもシール部材401の接触部を弁棒205と接触させた状態で弁棒205の動きに追従させることができる。
【0047】
また、シール部材401は、シール部材本体402と別体になっているので、メンテナンス時にシール部材401を容易に交換することができる。
【0048】
さらに、シール部材401は、シール部材本体402に取付けられた保護カバー305により保護されているので、第3の実施形態と同様に蒸気弁本体の蒸気入口から蒸気とともに異物が流入しても、シール部材301が異物により破損することを防止できる。
【0049】
(第5の実施形態)
図6は本発明による蒸気弁装置の第5の実施形態における要部を示す断面図で、図1と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0050】
蒸気弁装置においては、弁棒205からの漏洩蒸気を2〜3箇所の図示しないヘッダーに分割して回収する構造がとられている。図6ではその回収構造の1段目を示しており、ポート503は任意ヘッダーに接続されるものである。
【0051】
第5の実施形態では、このような回収構造を備えた蒸気弁装置において、1段目のブッシュ502とその先に連なるブッシュ201との間に蒸気室側のシール部材301と同様のシール部材501を取付けるものである。
【0052】
このように弁棒205の往復動方向のブッシュ内部に複数段のシール部材を配置することで、第1の実施形態と同様の作用効果に加えて、さらに大気側への漏洩蒸気を効果的に防止することができる。
【0053】
(第6の実施形態)
図7は本発明による蒸気弁装置の第6の実施形態における要部を示す断面図、図8は図7のX−X線に沿う矢視断面図で、図1と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0054】
第6の実施形態では、図7及び図8に示すように上蓋202の蒸気室側に対応する弁棒205の貫通部分の周囲部に、付き合せ面が互い違いの段差面となるように2分割されたケース310a,310bを内径側に弁棒205との対向面が開口する環状凹部310cが形成されるように組合せて配置され、環状凹部310c内に複数の断面が略三角形状のシール部材片320aを挟み込み且つ全体が環状のシール部材320になるようにそれぞれ挿入した上で、これらケース310a,310bを一体的に上蓋202にボルト302により取付けるようにしたものである。
【0055】
この場合、各シール部材片320aは、それ自体がバネになっており、そのバネ力にて各シール部材片320aの先端が弁棒205の外表面に接触して押付けられるように機能している。
【0056】
また、シール部材片320a自体のバネ力の調整は、2分割されたケース310a,310bの開口幅の寸法Aとシール部材片320aの挟み込み長さ寸法Bの寸法差(締付け寸法)により行われ、2分割されたケース310a,310bの合せ面を調整加工することにより任意の寸法差(締付け寸法)を得ることができるので、弁棒205への押付け力の微調整が可能である。
【0057】
ここで、シール部材片320aの形状や機能、特徴について述べると次の通りである。
【0058】
(1)ケース310a,310bにより形成された環状凹部310c内に挿入される複数のシール部材片320a全体は、弁棒205に対する径方向断面(すなわち、弁棒205の中心軸を含む断面)が略三角形状の中空部を有する環状のシール部材320を形成しており、環状凹部310c内に挿入される際には、三角形状の頂点に相当する凸部が内周側(すなわち、弁棒205の表面と相対する側)に位置するように配置される。また、この環状のシール部材320の弁棒205に対する外周側は繋がらずに切れた構造となっている。そして、これらの複数のシール部材片320aは、ケース310a,310bにより形成された環状凹部310c内に挿入されることで弁棒205の軸方向に押圧され、内周側に配置された凸部には内周方向(すなわち、弁棒205に対する径方向内側)へのバネ力が作用する。
【0059】
シール部材片320aの板の厚みtは、予想される弁棒205表面への酸化スケールの付着量以上の厚みがあれば、弁棒205の往復動の度に酸化スケールを乗り越える際に個別に独立して弾性変形しても、隣り合うシール部材片320aとのシール性を保持することができる。
【0060】
なお、バネ力確保のためにはシール部材片320aの板の厚みtは均一である必要はなく、任意に設計できる。
【0061】
(2)弁棒205に対する径方向断面が略三角形状のシール部材片320aにおいて、弁棒205の外表面に接する凸形状の頂点部分は、弁棒205の往復動方向に曲面(R1)加工されている。
【0062】
なお、弁棒205の外表面に接する部位が凸形状であり、その頂点部分に曲面(R1)加工が施されていれば、シール部材片320aの弁棒205に対する径方向断面の全体形状としては略三角形状の中空環状のものに拘わらず、内周側に凸形状となっていれば丸形や、あるいは台形(四角形)や五角形などの多角形状をした中空環状のものであってもよい。また、本実施形態においてはシール部材片320aの弁棒205に対する外周側は繋がらない形状としているが、これらを繋げた完全中空形状とすることも可能である。
【0063】
更に、弁棒205の外表面には、経年的に酸化スケールが付着するが、弁棒205の往復動により酸化スケール部分が通過するときのシール部材320へ噛み込みを防止するために、シール部材320の内面(弁棒との接触面)は凸状の曲面(R1)形状としているので、弁棒205の往復動を阻害(拘束)することはない。
【0064】
(3)弁棒205の外表面には経年的に酸化スケールが付着するが、複数のシール部材片320aにより形成された環状のシール部材320は、常時弁棒205に接触しているので、該当する1片または複数片が弁棒205の往復動の度に酸化スケールを乗り越えるように個別に独立して弾性変形することができる。また、変形後はシール部材片320a自体のバネ力により元の状態に戻る。
【0065】
(4)断面が略三角形状のシール部材片320aの残り2箇所の角は、2分割されたケース310a,310bの環状凹部310c内に挟み込まれており、シール部材320自体が弁棒205の往復動の度に酸化スケールを乗り越えるように変形した場合、その動きを妨げないようにシール部材320の周方向に曲面(R2)を施し、自由度を確保している。
【0066】
(5)略三角形状のシール部材片320aにおいて、弁棒205の外表面に接する部分と反対側の外周側は、繋がらずに切れており、間隙(L)がある。このため、シール部材320の形状変形時の遊び(逃げ)の役目を負っており、間隙寸法は限定せず、設計によってとは2分割されたケース310a,310bの環状凹部310c内に挟み込まれた2箇所の曲面(R2)の近傍まで開口していても機能的には構わない。
【0067】
次に略三角形状のシール部材片320aの製作手順について図9により説明する。
【0068】
なお、製作途中にて必要な熱処理工程や後述する盛金工程については公知であるため、ここではその説明を省略する。
【0069】
(1)図9(a)に示す厚さtの素材の平板を、同図(b)に示すように2分割されたケース310a,310bの環状凹部310cの内面寸法の曲率(R3)で整形する。
【0070】
(2)整形したシール部材片320aを、同図(c)に示すように曲率(R3)の付いた方を内側として略三角形状になるように丸めて整形する。
【0071】
(3)略三角形状の両端面を、同図(d)に示すようにクサビ型に整形する。
【0072】
(4)略三角形状の凸形状の頂点部分を、同図(e)に示すように弁棒205の外径寸法(R4)に整形する。
【0073】
この場合、上記(2)とは逆に、曲率(R3)の付いた方を外側にして略三角形状に丸めるように整形することも可能であるが、作用する蒸気差圧に対する強度や弾性変形の容易さから上記(2)の手段が好ましい。
【0074】
このように製作された複数のシール部材片320a全体は、断面が略三角形状の中空部を有する環状のシール部材320を形成する。
【0075】
また、前記シール部材片320aの材質は、シール部材320の内径と弁棒205の外径との間隙を変化させないために、弁棒205と膨張係数が等しく、好ましくは弁棒205と同一材質であることが望ましい。
【0076】
ここで、シール部材320より弁棒205の膨張係数が大きい組合せになった場合には、実機運転温度(高温)状態下にてシール部材320が弁棒205の外表面に接触するように構成するため、組立作業時の常温(低温)状態下では膨張係数の差により生じる伸び差の分を、略三角形状のシール部材片320aを環状に整形した後の弁棒205の外形寸法に整形するときに、シール部材320の内径寸法を大きく整形することにより、弁棒205の外径との間隙として確保することができる。このため、組立作業時の常温(低温)状態下では、シール部材320が弁棒205の外表面に接触しないことになるが、材料の組合せの観点からすれば好ましい手段である。
【0077】
更に、シール部材320の内面は、弁棒205の往復動による摩耗防止のために窒化による表面硬化処理、または酸化スケールが付着し難い材質である一般にステライトの商品名にて市販されているコバルト基硬質合金が盛金されている。
【0078】
また、弁棒205と常時接触状態を保つために、シール部材320の内面へ酸化スケールが付着しないようにシール部材320そのものをコバルト基硬質合金にて製作することも可能である。
【0079】
このようにシール部材320の材質や材料の組合せは、材料強度や酸化スケールの付着特性、膨張係数、シール性能等の要求機能から決定されるが、直接高温蒸気に晒されながらシール部材320のバネ力を確保する目的であれば、シール部材320の材料としてニッケル合金鋼(例えばインコネル718など)等が好適である。
【0080】
このように本発明の第6の実施形態によれば、複数の断面が略三角形状のシール部材片320aを2分割されたケース310a,310bの組合せにより形成される環状凹部310c内に弁棒205の外表面と接触するようにして挟み込み且つ全体が環状のシール部材320になるようにそれぞれ挿入した上で、これらケース310a,310bを一体的に上蓋202にボルト302により取付けるようにしたので、第1の実施形態と同様の作用効果が得られることに加えて、前述した本実施形態独自の作用効果を得ることができる。
【0081】
(第7の実施形態)
図10は本発明による蒸気弁装置の第6の実施形態における要部を示す断面図で、図7と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0082】
第7の実施形態では、図10に示すように環状のシール部材320を構成する複数のシール部材片320aとして、弁棒205の外表面に接する面の周方向に複数段の凸凹状のラビリンス320bを加工したものである。
【0083】
ここで、ラビリンスの歯の形状や歯の植え方等種々考案されているため、特に形状については言及しないが、弁棒205の往復動により酸化スケール部分が通過するときのシール部材320への噛み込みを防止するために、図示しないがシール部材320の内面(弁棒との接触面)の両端部は曲面(R1)形状とすることが望ましい。
【0084】
このように本実施形態では、弁棒205の外表面に接する複数のシール部材片320aの周方向面に複数段の凸凹状のラビリンス320bを加工したので、第7の実施形態の作用効果に加えて、常時運転中の弁棒部分からの漏洩蒸気量をさらに低減することができる。
【0085】
(第8の実施形態)
図11は本発明による蒸気弁装置の第8の実施形態における要部を示す断面図で、図7と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0086】
前述した図7に示す第6の実施形態において、上蓋202を貫通する弁棒205の外径とこの弁棒205の上蓋202の貫通部に設けられたブッシュ201の内径との間隙寸法は大きいため、弁棒205が往復動するときに弁棒205がその軸方向と直交する方向に揺動する可能性がある。
【0087】
また、シール部材320の内面は、弁棒205と接触するように組立られ、且つ上蓋202に固定された構造となっているため、弁棒205が揺動するとその動きに追従することができない。
【0088】
そこで、第8の実施形態では、図11に示すように上蓋202の蒸気室側に対応する弁棒205の貫通部分の周囲部に、有底筒状のボックス330を配置し、このボックス330内に第7の実施形態と同様の構成の2分割されたケース331a,331bを組合せてこれらをボルト332により一体化したケース331を弁棒205の往復動方向と直交する方向にスライド可能に、且つ環状凹部331c内に複数の断面が略三角形状のシール部材片320aを挟み込み且つ全体が環状になるようにそれぞれ挿入して形成したシール部材320が弁棒205の外表面と接するように設けた上で、ボックス330を上蓋202にボルト333により取付けるようにしたものである。
【0089】
このような構成とすれば、ボックス330に2分割されたケース331a,331bを組合せてこれらをボルト332により一体化したケース331を弁棒205の往復動方向と直交する方向にスライド可能に保持されているので、弁棒205が往復動と直交する方向に揺動してもケース331の環状凹部331c内に挿入されたシール部材320の接触部を弁棒205と接触させた状態で弁棒205の動きに追従させることができる。
【0090】
(第9の実施形態)
図12は本発明による蒸気弁装置の第9の実施形態におけるシール部材の一部を示す断斜視図であり、他の構成については図7と同様なので、ここではその説明については省略する。
【0091】
前述した第6の実施形態では、2分割されたケース331a,331bの内径側に形成された環状凹部331c内に複数の断面が略三角形状のシール部材片320aを挟み込んで全体が環状のシール部材320を構成するようにしたが、本実施形態では図12に示すように断面が略三角形状の環状のシール部材601とし、このシール部材601の図示しない弁棒の外表面に接触する内周側の先端部分に弁棒205に対する放射状の切り込み加工(すなわち、弁棒205に対する径方向への切り込み加工)を周方向に適宜の間隔をあけて施して複数のスリット部602を設けるようにしたものである。
【0092】
この場合、一つの切り込み加工によるスリット幅は、例えばワイヤーカット加工により0.1mm以下とし、さらには当該スリット部602は常時開口した漏洩蒸気の通路となるため、限りなく小さく0.05mm以下が好ましい。
【0093】
また、スリット部602の長さや分割数については、シール部材601の強度や漏洩蒸気量(スリット部を通過する蒸気量)に係わる設計要素により定まることから、任意とする。
【0094】
このように本実施形態によれば、先端部分に適宜の間隔を存して放射状に切り込み加工を施して複数のスリット部602を設けたシール部材601は、常時弁棒に接触しながらスリット部602の1片毎または該当する複数片がこれら酸化スケールを乗り越えるように弾性変形するため、弁棒の往復動を阻害(拘束)することはない。
【0095】
また、シール部材601は環状の一体型のため、使用中にシール部材の一部が破損しても、シール部材601全体がバラバラに散乱することがないので、より安全である。
【0096】
このような構成のシール部材601を用いても、本発明で得られる効果や機能は前述した実施形態と同様である。
【0097】
(第10の実施形態)
図13は本発明による蒸気弁装置の第10の実施形態における要部を示す断面図、図14は図13のY−Y線に沿う矢視断面図で、図1と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0098】
第10の実施形態では、図13及び図14に示すように上蓋202の蒸気室側に対応する弁棒205の貫通部分の周囲部に、有底筒状のケース340とこのケース340内部にケース上部に設けられるガイド341に支持させながら複数のクサビ型のシール部材片342aを全体が環状のシール部材342になるように、且つ各シール部材片342aの外周側に該シール部材片342aを常に弁棒205の外表面を押付けるためのバネ、例えば皿バネ343を介在させてそれぞれ径方向に並設した上で、ケース340を閉止板344と一体的に上蓋202にボルト345により取付けるようにしたものである。この場合、各シール部材片342aに作用させるバネの反発力は全て同一になるようにする必要がある。
【0099】
上記各シール部材片342aの外周側に該シール部材片342aを常に弁棒205の外表面を押付けるためのバネとして、例えば皿バネ343を用いたが、板バネ又は圧縮コイルバネでも良く、更なる反発力を得るためにはシール部材片342aに対して複数個のバネを取付けたり、バネの形状によっては複数のシール部材片342aに対して1個のバネを取付けたりすることも可能である。これらのバネ343は高温蒸気に晒されるため、バネ材料としてはニッケル合金鋼(例としてインコネル718など)の高温材料が適している。
【0100】
なお、バネ343の目的は、各シール部材片342aを常に弁棒205の外表面に押付けるように作用させるためのものであり、例えば図示しないがベローズを用いてそのベローズに任意の圧力を作用させて押付け力を得るようにしても良い。
【0101】
また、上記シール部材342の材質は、シール部材342の内径と弁棒205の外径との間隙を変化させないため、弁棒205と膨張係数が等しく、好ましくは弁棒205と同一材質であることが望ましいが、材料強度や酸化スケールの付着特性から材料の組合せが決定される。
【0102】
ここで、シール部材342より弁棒205の膨張係数が大きい組合せになった場合には、実機運転温度(高温)状態下にてシール部材342が弁棒205の外表面に接触するように構成するため、組立作業時の常温(低温)状態下では、膨張係数の差により生じる伸び差の分を、シール部材342の内径と弁棒205の外径との間隙として確保することができる。このため、組立作業時の常温(低温)状態下では、シール部材342が弁棒205の外表面に接触しないことになるが、材料の組合せの観点からすれば好ましいことである。
【0103】
更に、シール部材342の内面は、弁棒205の往復動による摩耗防止のために窒化による表面硬化処理、または酸化スケールが付着し難い材質である一般にステライトの商標名にて市販されているコバルト基硬質合金が盛金されている。これに代えて、弁棒205と常時接触状態を保つため、シール部材342の内面へ酸化スケールが付着しないようにシール部材342そのものをコバルト基硬質合金にて製作することも可能である。
【0104】
このように各シール部材片342aに作用させるバネ343の反発力は全て同一であること、また、クサビ型の各シール部材片342aを並設することで全体が環状に保持することができ、各シール部材片342aと弁棒205との間隙は、弁棒205とブッシュ201の間隙よりも狭く、好ましくは弁棒205との間に間隙を持たずシール部材342が常時弁棒205に接触するように構成されている。
【0105】
図15は、シール部材片342aとガイド341との組合せ状態を説明するための斜視図を示している。
【0106】
図15に示すようにガイド341には、径方向にシール部材片342aの位置決め溝341aとこの位置決め溝341a相互間に摺動抵抗軽減溝341bがそれぞれ設けられている。
【0107】
この摺動抵抗軽減溝341bは、次のような理由により設けられる。
【0108】
すなわち、シール部材342は、蒸気室内に設置されており、シール部材342自体に蒸気圧力が作用することから、常時蒸気漏洩方向に押付け力が発生する。このような力は、シール部材片342aを半径方向に進退(移動)させる障害となる恐れがあるため、シール部材片342a自体の摺動抵抗の軽減を目的に閉止板344のシール部材片342aとの接触面に摺動抵抗軽減用の溝341bが半径方向に加工されている。
【0109】
また、クサビ状のシール部材片342aはその径方向の内端側が球面状の凸部に形成され、上面には閉止板341の位置決め溝341aに嵌め込まれる凸状のガイド342bが設けられ、さらに、クサビ面(隣り合う面)の中央部分に凹状の陥没部342cを形成して、隣り合う面同士の接触面積を減少させて摺動抵抗の軽減を図るようにしている。この場合、凹状の陥没部342cに代えて両クサビ面間を完全に貫通させた中空部としてもその効果は同じである。
【0110】
このような嵌め込み構造とすれば、シール部材片342aは半径方向のみに移動が可能となる。すなわち、弁棒205の外表面には経年的に酸化スケールが付着するが、各シール部材片342aは常時バネ力により弁棒205に接触するので、該当する1片または複数片が弁棒205の往復動の度に酸化スケールを乗り越えるように個別に独立して半径方向に進退することができる。
【0111】
また、シール部材片342aが径方向に進退した場合には、シール部材片342aのクサビ面(隣り合う面)に開口が生じ、その開口部分から蒸気が漏洩することになるが、クサビ形状であることから半径方向の移動量に対してその開口する幅(寸法)はクサビの先端角度(シール部材342の分割数による角度)に依存するため、非常に微小である。開口する幅(寸法)の観点から、言い換えればクサビの先端角度が45度以下となるようにシール部材342の分割数は8以上が好ましい。
【0112】
更に、弁棒205の往復動により酸化スケール部分が通過するときのシール部材342への噛み込みを防止するために、シール部材342の内面(弁棒との接触面)は凸状の球面形状としているので、弁棒205の往復動を阻害(拘束)することはない。
【0113】
このように本発明の第10の実施形態によれば、上蓋202の蒸気室側に対応する弁棒205の貫通部分の周囲部に、有底筒状のケース340とこのケース340内部にケース上部に設けられるガイド341に支持させながら複数のクサビ型のシール部材片342aを全体が環状のシール部材342になるように、且つ各シール部材片342aの外周側に該シール部材片342aを常に弁棒205の外表面を押付けるためのバネ、例えば皿バネ343を介在させてそれぞれ径方向に並設した上で、ケース340を閉止板344と一体的に上蓋202にボルト345により取付けるようにしたので、第1の実施形態と同様の作用効果が得られることに加えて、前述した本実施形態独自の作用効果を得ることができる。
【0114】
(第11の実施形態)
図16は本発明による蒸気弁装置の第11の実施形態における要部を示す断面図で、図13と同一部分には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる点について述べる。
【0115】
第11の実施形態では、図16に示すように環状のシール部材342を構成する複数のシール部材片342aとして、弁棒205の外表面に接する面の周方向に複数段の凸凹状のラビリンス342dを加工したものである。
【0116】
ここで、ラビリンスの歯の形状や歯の植え方等種々考案されているため、特に形状については言及しないが、弁棒205の往復動により酸化スケール部分が通過するときのシール部材342への噛み込みを防止するために、図示しないがシール部材342の内面(弁棒との接触面)の両端部は曲面(R1)形状とすることが望ましい。
【0117】
このように本実施形態では、第10の実施形態と同様の作用効果が得られることに加えて、弁棒205の外表面に接する複数のシール部材片342aの周方向面に複数段の凸凹状のラビリンス342dを加工したので、常時運転中の弁棒部分からの漏洩蒸気量をさらに低減することができる。
【0118】
(第12の実施形態)
図17は本発明による蒸気弁装置の第12の実施形態における要部を示す断面図で、図13と同一構成部品には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分について述べる。
【0119】
図13に示す第10の実施形態では、上蓋202を貫通する弁棒205の外径とこの弁棒205の上蓋202の貫通部に設けられたブッシュ201の内径との間隙寸法は大きいため、弁棒205が往復動するときに弁棒205がその軸方向と直交する方向に揺動する可能性がある。
【0120】
また、シール部材342の内面は、弁棒205と接触するように組立られ、且つ上蓋202に固定された構造となっているため、弁棒205が揺動するとその動きに追従することができない。
【0121】
そこで、第12の実施形態では、図17に示すように上蓋202の蒸気室側に対応する弁棒205の貫通部分の周囲部に、有底筒状のボックス350を配置し、このボックス350内に第10の実施形態と同様にガイド341に支持させながら複数のクサビ型のシール部材片342aを全体が環状のシール部材342になるように、且つ各シール部材片342aの外周側に皿バネ343を介在させてそれぞれ径方向に並設したケース340を弁棒205の往復動方向と直交する方向にスライド可能に設けた上で、ボックス350を閉止板334と一体的に上蓋202にボルト351により取付けるようにしたものである。
【0122】
このような構成とすれば、ボックス350にケース340を弁棒205の往復動方向と直交する方向にスライド可能に保持されているので、弁棒205が往復動と直交する方向に揺動してもシール部材342の接触部を弁棒205と接触させた状態で弁棒205の動きに追従させることができる。
【0123】
このような構成としても、本発明で得られる効果や機能は前述した実施形態と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】(a),(b)は本発明による蒸気弁装置の第1の実施形態における要部を示し、(a)は断面図、(b)は(a)に示すシール部材のスリット部分の一部と弁棒をA矢方向から見た図。
【図2】図1におけるシール部材の半部を拡大して示す斜視図。
【図3】本発明による蒸気弁装置の第2の実施形態における要部を示す断面図。
【図4】本発明による蒸気弁装置の第3の実施形態における要部を示す断面図。
【図5】本発明による蒸気弁装置の第4の実施形態における要部を示す断面図。
【図6】本発明による蒸気弁装置の第5の実施形態における要部を示す断面図。
【図7】本発明による蒸気弁装置の第6の実施形態における要部を示す断面図。
【図8】図8は図7のX−X線に沿う矢視断面図。
【図9】(a)〜(e)は同実施形態において、略三角形状のシール部材片の製作手順を説明するための図。
【図10】本発明による蒸気弁装置の第6の実施形態における要部を示す断面図。
【図11】本発明による蒸気弁装置の第8の実施形態における要部を示す断面図。
【図12】本発明による蒸気弁装置の第9の実施形態におけるシール部材の一部を示す断斜視図。
【図13】本発明による蒸気弁装置の第10の実施形態における要部を示す断面図。
【図14】図13のY−Y線に沿う矢視断面図。
【図15】同実施形態において、シール部材片とガイドとの組合せ状態を説明するための斜視図本発明の…示す図。
【図16】本発明による蒸気弁装置の第11の実施形態における要部を示す断面図。
【図17】本発明による蒸気弁装置の第12の実施形態における要部を示す断面図。
【図18】従来の蒸気タービンに使用されている蒸気加減弁構造を示す断面図。
【図19】蒸気タービンを備えた発電設備の構成例を示す系統図。
【符号の説明】
【0125】
200…蒸気弁本体、201,502…ブッシュ、202…上蓋、203…弁座、204…弁体、205…弁棒、206…油圧駆動機構、301,401,501…シール部材、302…ボルト、303…スリット部、304,304a,304b…内周部(接触部)、305…保護カバー、310a,310b…ケース、320…シール部材、320a…シール部材片、320b…凹凸状のラビリンス、402…シール部材本体、310c,402a…環状凹部、503…ポート、330…ボックス、331a,331b…2分割ケース、331…ケース、331c…環状凹部、340…ケース、341…ガイド、341a…位置決め溝、342…シール部材、342a…シール部材片、342b…凸状のガイド、342c…陥没部、342d…凸凹状のラビリンス、343…皿バネ、344…閉止板、345…ボルト、350…ボックス、351…ボルト、601…シール部材、602…スリット部、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気入口部及び蒸気出口部を有する蒸気弁本体と、この蒸気弁本体の上面開口部を閉塞する上蓋と、この上蓋の大気側から前記蒸気弁本体内の蒸気室に貫通させて設けられ先端部に有する弁体により前記蒸気出口部より流出する蒸気流量を制御する弁棒と、この弁棒が貫通する前記上蓋の貫通穴に前記弁棒が軸方向に往復動するに適正な間隙を存するように設けられたブッシュとを備えた蒸気弁装置において、
前記上蓋の蒸気室側に貫通する弁棒の周囲に、前記弁棒と前記ブッシュとの間隙よりも狭い間隙を有するか、もしくは前記弁棒の外表面に接触するように配置された環状のシール部材を備えることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項2】
請求項1記載の蒸気弁装置において、
前記環状のシール部材は、前記弁棒に対する内周部が前記弁棒に接触するとともに、少なくとも前記弁棒との接触部に前記弁棒に対する径方向に複数本のスリットを設けて複数個のシール部材片に分割したことを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項3】
請求項1記載の蒸気弁装置において、
前記環状のシール部材は、前記弁棒の軸方向に複数段設けられてなることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の蒸気弁装置において、
前記シール部材の外側に前記ブッシュの内径より大きく設定された保護カバーを配置したことを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項5】
請求項1記載の蒸気弁装置において、
前記環状のシール部材は、前記弁棒に対する径方向断面が内周側に凸部を有する中空形状であり、前記弁棒の軸方向に押圧されて内周方向へのバネ力が作用するように構成されたことを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項6】
請求項5記載の蒸気弁装置において、
前記環状のシール部材は、前記弁棒に対する外周側が繋がらずに切れていることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項7】
請求項5又は請求項6の何れかに記載の蒸気弁装置において、
前記環状のシール部材は、複数のシール部材片が周方向に配置されてなることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項8】
請求項5又は請求項6の何れかに記載の蒸気弁装置において、
前記環状のシール部材の前記弁棒に対する内周部には、前記弁棒に対する径方向への切り込み加工によるスリット部が複数設けられていることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項9】
請求項1記載の蒸気弁装置において、
前記環状のシール部材は、複数個のクサビ状のシール部材片を環状になるように配置され、且つ各シール部材片の前記弁棒に対する外周側にバネを設け、そのバネ力にて前記各シール部材片の前記弁棒に対する内周部が前記弁棒の外表面に接触して押付けられるように構成されたことを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項10】
前記請求項9記載の蒸気弁装置において、
前記各シール部材片は、その隣り合うもの同士の接触面となる部分の中央部を凹状又は中空にすると共に、半径方向の移動を許容するガイドを有し、
且つ前記シール部材片のガイドが挿入されるガイド用溝を有する閉止板を設け、この閉止板に前記シール部材片との摺動抵抗を低減するための溝を設けたことを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10の何れかに記載の蒸気弁装置において、
前記シール部材の前記弁棒の外表面に接する内周部には、表面硬化処理もしくはコバルト基硬質合金が盛金されていることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項10の何れかに記載の蒸気弁装置において、
前記シール部材は、コバルト基硬質合金にて一体的に製作されてなることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項11の何れかに記載の蒸気弁装置において、
前記シール部材の材質は、その膨張係数が前記弁棒と等しいことを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項14】
請求項1乃至請求項11の何れかに記載の蒸気弁装置において、
前記シール部材は、ニッケル合金鋼からなることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項15】
請求項5乃至請求項10の何れかに記載の蒸気弁装置において、
前記環状のシール部材を構成する複数のシール部材片は、前記弁棒の外表面に接触する面に少なくとも1段の凸凹状のラビリンスが周方向に加工されていることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項16】
前記請求項1乃至請求項15に記載の蒸気弁装置の何れかを備えたことを特徴とする発電設備。
【請求項1】
蒸気入口部及び蒸気出口部を有する蒸気弁本体と、この蒸気弁本体の上面開口部を閉塞する上蓋と、この上蓋の大気側から前記蒸気弁本体内の蒸気室に貫通させて設けられ先端部に有する弁体により前記蒸気出口部より流出する蒸気流量を制御する弁棒と、この弁棒が貫通する前記上蓋の貫通穴に前記弁棒が軸方向に往復動するに適正な間隙を存するように設けられたブッシュとを備えた蒸気弁装置において、
前記上蓋の蒸気室側に貫通する弁棒の周囲に、前記弁棒と前記ブッシュとの間隙よりも狭い間隙を有するか、もしくは前記弁棒の外表面に接触するように配置された環状のシール部材を備えることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項2】
請求項1記載の蒸気弁装置において、
前記環状のシール部材は、前記弁棒に対する内周部が前記弁棒に接触するとともに、少なくとも前記弁棒との接触部に前記弁棒に対する径方向に複数本のスリットを設けて複数個のシール部材片に分割したことを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項3】
請求項1記載の蒸気弁装置において、
前記環状のシール部材は、前記弁棒の軸方向に複数段設けられてなることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の蒸気弁装置において、
前記シール部材の外側に前記ブッシュの内径より大きく設定された保護カバーを配置したことを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項5】
請求項1記載の蒸気弁装置において、
前記環状のシール部材は、前記弁棒に対する径方向断面が内周側に凸部を有する中空形状であり、前記弁棒の軸方向に押圧されて内周方向へのバネ力が作用するように構成されたことを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項6】
請求項5記載の蒸気弁装置において、
前記環状のシール部材は、前記弁棒に対する外周側が繋がらずに切れていることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項7】
請求項5又は請求項6の何れかに記載の蒸気弁装置において、
前記環状のシール部材は、複数のシール部材片が周方向に配置されてなることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項8】
請求項5又は請求項6の何れかに記載の蒸気弁装置において、
前記環状のシール部材の前記弁棒に対する内周部には、前記弁棒に対する径方向への切り込み加工によるスリット部が複数設けられていることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項9】
請求項1記載の蒸気弁装置において、
前記環状のシール部材は、複数個のクサビ状のシール部材片を環状になるように配置され、且つ各シール部材片の前記弁棒に対する外周側にバネを設け、そのバネ力にて前記各シール部材片の前記弁棒に対する内周部が前記弁棒の外表面に接触して押付けられるように構成されたことを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項10】
前記請求項9記載の蒸気弁装置において、
前記各シール部材片は、その隣り合うもの同士の接触面となる部分の中央部を凹状又は中空にすると共に、半径方向の移動を許容するガイドを有し、
且つ前記シール部材片のガイドが挿入されるガイド用溝を有する閉止板を設け、この閉止板に前記シール部材片との摺動抵抗を低減するための溝を設けたことを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10の何れかに記載の蒸気弁装置において、
前記シール部材の前記弁棒の外表面に接する内周部には、表面硬化処理もしくはコバルト基硬質合金が盛金されていることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項10の何れかに記載の蒸気弁装置において、
前記シール部材は、コバルト基硬質合金にて一体的に製作されてなることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項11の何れかに記載の蒸気弁装置において、
前記シール部材の材質は、その膨張係数が前記弁棒と等しいことを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項14】
請求項1乃至請求項11の何れかに記載の蒸気弁装置において、
前記シール部材は、ニッケル合金鋼からなることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項15】
請求項5乃至請求項10の何れかに記載の蒸気弁装置において、
前記環状のシール部材を構成する複数のシール部材片は、前記弁棒の外表面に接触する面に少なくとも1段の凸凹状のラビリンスが周方向に加工されていることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項16】
前記請求項1乃至請求項15に記載の蒸気弁装置の何れかを備えたことを特徴とする発電設備。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−159829(P2010−159829A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2768(P2009−2768)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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