説明

蒸気接触式加熱装置

【課題】蒸気の混合効率を高めると共に、比較的低圧の蒸気を供給することで質の高い加熱処理を実現可能とする蒸気接触式加熱装置を提供する。
【解決手段】流体移送手段としての蒸気混合用ポンプ4内に液体の昇圧流路45を設け、この昇圧流路45に開口するよう、蒸気供給口46をケーシング43に設けることで、昇圧流路45中に蒸気供給領域47を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の加熱装置、特に蒸気を流体に直接接触させることで流体を加熱する蒸気接触式加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の加熱装置は、例えば液体連続加熱装置、液体連続式殺菌装置、熱水製造装置など、種々の液体加熱用途に利用されている。
【0003】
例えば、液状食品の殺菌方法には、金属壁等を隔てて間接的に加熱する間接加熱方式と、蒸気により液体を直接加熱する直蒸気加熱方式があるが、このうち、コーヒーフレッシュや豆乳などの焦げ付き易い液体、あるいは青汁など変色し易い液体などの殺菌方法として、短い加熱時間で済み、かつ液体への熱影響が小さく品質の低下防止が可能な直蒸気加熱方式が好ましく用いられる傾向にある。
【0004】
例えば特開2004−201533号公報には、殺菌されるべき液体に直接蒸気を吹き込むことにより当該液体を殺菌温度にまで加熱するインジェクションヒーターを備えた蒸気吹込み式直接加熱殺菌装置が開示されている(特許文献1を参照)。
【0005】
また、特開2000−300976号公報には、流体連続加熱装置として、被加熱流体を送る定量ポンプと、定量ポンプから送られてきた被加熱流体にスチームを直接混合して加熱する静止型混合器とで構成されたものが開示されている(特許文献2を参照)。
【0006】
また、特許文献2には、蒸気(スチーム)を被加熱流体に直接吹き込んで混合する静止型混合器として、例えば実公平7−37703号公報に開示の分散混合器を使用可能な旨が記載されている(特許文献3を参照)。ここで、特許文献3に開示の分散混合器は、内部に、ねじり板等の攪拌エレメントを固定した主流体(被加熱流体)通過用導管と、この導管内に接続するノズルを設け、このノズルを介して導管内に注入流体(蒸気)を注入するヘッダと、ヘッダに注入流体を圧送する圧送手段とを主に備えるものである。
【特許文献1】特開2004−201533号公報
【特許文献2】特開2000−300976号公報
【特許文献3】実公平7−37703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、液体への蒸気の混合方法としては、特許文献2や特許文献3に開示の如く、静的な混合方法が採用されているが、加熱あるいは殺菌しようとする液体によっては、蒸気の混合効率が不十分となる場合がある。そのため、蒸気と液体とが均一に混ざり合わず、加熱や殺菌にばらつきが生じる恐れがある。
【0008】
また、上述の混合器に供給される被加熱流体は定量ポンプにより送られてきたものであるから、その流体圧は高く、また上述の如き攪拌エレメントを通過させるためには相応の液体圧が必要となる。従い、ポンプ下流側に配設される混合器内で被加熱流体に蒸気を混合するためには、ポンプの吐出圧力を上回る蒸気圧が必要となり、結果として高い蒸気供給圧力が要求される。これでは、要求される殺菌温度を超えて必要以上に加熱することになり、被加熱流体への熱ダメージ、ひいては流体の品質低下を招く恐れがあり好ましくない。
【0009】
以上の事情に鑑み、本発明では、蒸気の混合効率を高めると共に、比較的低圧の蒸気を供給することで質の高い加熱処理を実現可能とする蒸気接触式加熱装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、回転子の作用により昇圧を伴って流体を移送する流体移送手段と、流体に蒸気を供給する蒸気供給領域とを備えた蒸気接触式加熱装置であって、流体移送手段に流体の流入口と排出口とが設けられると共に、流入口と排出口との間に昇圧流路が形成され、かつ昇圧流路に蒸気の供給口を開口することで、昇圧流路中に蒸気供給領域が配設された蒸気接触式加熱装置を提供する。
【0011】
上述の構成によれば、回転子の作用で流体が移送されるのと同時に、蒸気供給口を介して昇圧流路中に設けられた蒸気供給領域に蒸気が吹き込まれ、流体移送手段内部で流体と蒸気との混合および混合流体の昇圧とが同時に行われる。通常、流体移送手段の内部に配設される回転子は昇圧流路を形成し、あるいは当該流路に面するものであるから、かかる回転子を回転させることで流体と、流体に供給された蒸気とが攪拌混合される。これにより、流体と蒸気との動的な混合が可能となり、蒸気を流体に均一に混合することができるようになる。
【0012】
また、流体移送手段内の昇圧流路にあって、昇圧を伴って流入口から排出口へと移送されている最中の流体に蒸気を混合することにより、従来のように、流体の昇圧後に蒸気を供給する場合と比べて低圧の蒸気を供給することができる。そのため、供給すべき蒸気が比較的低温で済み、必要以上に加熱することで加熱処理すべき流体に熱ダメージを与えたり、品質の劣化を招くことがない。また、低圧蒸気であれば、圧力変動も小さく安定した加熱処理が可能となる。さらに、蒸気供給領域を昇圧流路中に配設することで、蒸気供給後も昇圧することができるので、蒸気の供給に伴う液体の昇温により生じる恐れのあるキャビテーションを極力避けることができる。これにより、蒸気を流体に均一に溶け込ますことができ、ばらつきの少ない安定した加熱処理が可能となる。
【0013】
蒸気供給領域を内部に設けた流体移送手段としては、回転子を備え、その回転作用により昇圧と動的混合とを同時に可能とするものであればよい。具体的には、渦巻き式や渦流式などに代表される非容積式のポンプ、あるいはロータリー式やスクリュー式などの回転容積式のポンプを挙げることができる。この場合、ポンプの昇圧作用は、通常ポンプ内部に配設され、自身の回転エネルギを圧力エネルギへと変換して流体に付与するロータ(回転子)によりもたらされるものであるから、例えばその昇圧量はロータの回転数でもって調整することができる。これによりポンプ内部における蒸気供給圧と流体圧との定量的な管理が可能となり、自動化も容易に実現できる。また、ポンプの回転数で圧力バランスが調整可能となるため、容易に流体に合わせた温度の蒸気を導入することができ、これにより種々の流体に対しても本発明に係る加熱装置を適用することが可能となる。
【0014】
ここで、本発明に係る加熱装置を用いて流体を加熱殺菌する場合、蒸気供給用の流体移送手段の下流側に配されたホールドパイプにより加熱された流体を一定時間保持することで、実質的に有効且つ十分な殺菌を行う場合が多い。そのため、実際には流体移送手段のさらに下流側においても流体圧を高く保つ必要がある。かかる観点から、本発明では、流体移送手段に設けられた排出口およびその下流側における流体の圧力が、蒸気の供給口における蒸気の圧力より高く維持されるようにした。具体的には、流体移送手段の排出口よりも下流側に背圧弁を設けるようにした。
【0015】
このように構成すれば、流体移送手段の排出口における流体圧(出口圧力)を所定の値に保持することができる。これにより、一旦流体に溶け込んだ蒸気がキャビテーションを起こさないよう、蒸気混合流体を高圧に維持して、より安定した加熱殺菌を行うことができる。また、上述の如くポンプの排出口側圧力を設定できるのであれば、ポンプの回転数と合わせて設定することで、蒸気供給領域における圧力バランスをより高精度に管理することができる。これにより、圧力バランスの調整パラメータが可視化でき、精密且つ安定した運転が可能となる。特に、微妙な調整が必要となる液状食品の加熱殺菌処理においては、食品ごとに必要となる殺菌温度が異なる場合もあるが、この場合であっても、殺菌温度に応じた飽和蒸気圧に基づき、供給可能な蒸気圧(温度)が定まるので、かかる蒸気を供給できるよう、ポンプ背圧および回転数を設定すればよい。これにより、加熱処理すべき流体に合わせて適切な蒸気を供給することができ、例えば種々の加熱殺菌処理にも容易に対応することができる。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明によれば、本発明では、蒸気の混合効率を高めると共に、比較的低圧の蒸気を供給することで質の高い加熱処理を実現可能とする蒸気接触式加熱装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る蒸気接触式加熱装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1に示す蒸気接触式加熱装置は、例えば流体の加熱殺菌に用いられるもので、加熱処理の対象となる流体を貯蔵、排出する液体タンク1と、液体タンク1内の流体を後述する熱交換器3および蒸気混合用ポンプ4に移送するための移送用ポンプ2と、移送用ポンプ2により送られてきた流体を、混合すべき蒸気の温度に近づける目的で予備加熱する熱交換器3と、熱交換器3で予備加熱された流体に蒸気を混合して、流体を殺菌温度にまで加熱する蒸気混合用ポンプ4と、蒸気混合により加熱された流体を一定時間保持して流体の殺菌作用を促進するホールドパイプ5と、ホールドパイプ5で殺菌処理がなされた流体を所定以下の温度にまで冷却する主冷却器6と、主冷却器6の下流側に配設され、蒸気混合用ポンプ4の背圧を一定に保持する主背圧弁7とを主たる構成要素として備える。
【0019】
なお、図1中、符号8は、蒸気接触式加熱装置内の流体系(流路)の洗浄あるいは減菌処理に使用される水を貯蔵、排出する水タンクを、符号9は、運転条件に合わせて、液体タンク1からのラインと水タンク9からのラインとを切換える第一切換弁をそれぞれ示している。
【0020】
また、同図中、符号10は、系減菌処理時あるいは殺菌処理不良発生時に、処理済の液体等を不具合なく回収ライン(排水ライン)へと流すために当該液体の冷却を行う排水用冷却器を、符号11は、排水用冷却器10の下流側に設けられ、排水ラインの背圧を一定に保持する排水用背圧弁を、さらに符号12は、蒸気混合用ポンプ4の出口側(後述する排出口42の下流側)における液体温度、あるいはホールドパイプ5の出口側における液体温度が設定すべき殺菌温度範囲を逸脱した場合、処理済液体を回収ライン(排水ライン)へと送るための第二切換弁をそれぞれ示している。
【0021】
また、同図中、符号13、14、15はそれぞれ、予備加熱用の熱交換器3に使用する熱水を所定量確保するための熱水タンク、熱水タンク13と熱交換器3との間で熱水を循環させるための循環用ポンプ、循環用ポンプ14から送られた熱水を所定温度にまで昇温するヒーターを示している。
【0022】
また、この実施形態では、各種流体の温度や流量を計測、制御するための制御部が設けられている。例えば図1中、符号TICA−1は、蒸気混合用ポンプ4の出口側における液体の温度を温度センサにより計測し、この計測値に基づき、同計測箇所における液体温度が所要の温度範囲内に収まるよう蒸気混合用ポンプ4への蒸気の供給量を調節する殺菌温度制御部を示している。同様に、符号TICA−2は、主冷却器6の出口側における液体の温度を計測し、この計測値に基づき、同計測箇所における液体温度が所要の温度範囲内に収まるよう主冷却器6への冷却水供給量を調節する冷却温度制御部を、符号TICA−3は、熱交換器3の出口側における液体の温度を計測し、この計測値に基づき、同計測箇所における液体温度が所要の温度範囲内に収まるよう熱交換器3に使用する熱水の温度(例えばヒーター15による加熱量)を調節する予熱温度制御部をそれぞれ示している。
【0023】
また、図1中、符号TIA−1は、第二切換弁12のライン切換に使用されるもので、ホールドパイプ5の出口側における液体の温度を計測し、この計測値(温度)が、所要の殺菌温度範囲内に収まっていない場合には、当該情報を第二切換弁12に伝達、あるいは切換信号を伝達する殺菌温度監視部を示している。また、符号FICA−1は、移送用ポンプ2の出口側における液体の流量を計測し、この計測値に基づき、同計測箇所における液体の流量が所定の範囲内に収まるよう移送用ポンプ2の回転数(ここではインバータの周波数)を調節する流量制御部を示している。
【0024】
次に、蒸気混合用ポンプ4の構成について説明する。
【0025】
図2は、蒸気供給領域を内部に設けた流体移送手段としての蒸気混合用ポンプ4の軸直交断面図を示す。同図に示すように、蒸気混合用ポンプ4は、液体の流入口41および排出口42とを有するケーシング43と、ケーシング43の内部に収容され、図示しないモータの駆動軸に回転可能に連結された回転子44と、ケーシング43の内壁43aと回転子44との間に形成される、液体の昇圧流路45と、ケーシング43に設けられ、昇圧流路45に開口する蒸気供給口46とを備えている。かかる構成により、回転子44の回転時かつ蒸気の導入時には、昇圧流路45における蒸気供給口46の開口部分に、ポンプ4内部に導入した液体に蒸気を供給するための蒸気供給領域47が形成される。
【0026】
この実施形態では、蒸気混合用ポンプ4は、主にカスケードポンプで構成されている。流入口41と排出口42との間には、隔壁部48が形成され、流体流路となる昇圧流路45が、円板状の回転子44の外周に沿って、流入口41と排出口42とをつなぐように一部環状に形成される。これにより、流入口41から流入した液体は、回転子44の約一周分流れて(昇圧流路45を通って)排出口42から外部へ排出されるようになっている。回転子44は、この図示例ではいわゆる羽根車であり、その外周に沿って複数の羽根溝44aを有している。また、蒸気供給口46は、この実施形態では、一部環状をなす昇圧流路45の中間位置より流入口41に近い側に開設されている。
【0027】
次に、上記構成の加熱装置を用いた場合の処理液の加熱殺菌工程の一例を説明する。
【0028】
まず、図1に示すように、液体タンク1から排出された液体を、移送用ポンプ2により、移送用ポンプ2下流側に位置する熱交換器3に送り、後述する加熱処理時の温度に近づけるための予備加熱処理(例えば50℃以上100℃未満)を施す。このようにして予備加熱処理が施された液体を、下流側に位置する蒸気混合用ポンプ4(流体移送手段)へと移送する。
【0029】
蒸気混合用ポンプ4に送られた液体は、図2に示すように、矢印aの方向から流入口41を介して昇圧流路45内に導入される。この際、図示しないモータを駆動させることで当該モータの駆動軸に連結された回転子44が回転し、この実施形態では、流入口41から昇圧流路45に沿って排出口42へと向かう方向に回転し、昇圧流路45内に導入された液体が昇圧を伴って排出口42の側へと移送される。また、これと同時に、ケーシング43に設けられた蒸気供給口46より蒸気を矢印bの方向から昇圧流路45内に導入することで、蒸気供給口46の開口部分に形成される蒸気供給領域47において、昇圧移送中の液体に蒸気が混合される。ここで、加熱殺菌を行うべき温度あるいはそれ以上に設定された蒸気を供給することで、当該液体が加熱殺菌温度にまで昇温(加熱)される。
【0030】
蒸気を供給した液体は回転子44により動的に混合(攪拌)され、かつ昇圧されながら昇圧流路45中を排出口42の側に向けて送られ、攪拌および昇圧の終了と共に排出口42を介して外部(図1、図2でいえば矢印cの方向)に排出される。また、この実施形態では、殺菌温度制御部TICA−1により、蒸気混合用ポンプ4の出口側における液体の温度を温度センサにより計測し、この計測値に基づき、同計測箇所における液体温度が所要の温度範囲内に収まるよう蒸気混合用ポンプ4への蒸気の供給量が調節される。具体的には、蒸気供給口46の上流側に配設したコントロール弁の開閉を、殺菌温度制御部TICA−1により制御することで蒸気の流量調整を行う。
【0031】
蒸気の供給により所定の温度(加熱殺菌温度)まで加熱された液体を、蒸気混合用ポンプ4の下流側に位置するホールドパイプ5で一定時間保持し、流体の実質的な殺菌処理を行う。この際、蒸気混合用ポンプ4の排出口42およびその下流側(ホールドパイプ5内を含む)に位置する液体は、ホールドパイプ5の下流側に配設される主背圧弁7により一定圧に保持される。
【0032】
その後、ホールドパイプ5で殺菌処理がなされた液体を主冷却器6にて所定以下の温度(例えば100℃未満)にまで冷却することで、加熱殺菌工程が完了する。
【0033】
このように、流体移送手段としての蒸気混合用ポンプ4内に液体の昇圧流路45を設け、この昇圧流路45に蒸気供給口46を開口させて、昇圧流路45中に蒸気供給領域47を形成したものを用いて、蒸気の混合を行うようにした。そのため、回転子44の作用で昇圧移送中の液体に蒸気を攪拌しながら供給することができ、蒸気を流体に均一に混合して、偏りの少ない安定した加熱処理が可能となる。また、昇圧移送中の液体に蒸気を混合することで、例えば従来のように、ポンプより下流側で蒸気を混合する場合と比べて低圧の蒸気で済み、また加熱中のキャビテーションの発生を抑制することができる。従って、要求される殺菌温度以上に液体を加熱する事態を避けて、液体への熱ダメージを小さく抑えることができ、これにより品質低下を極力防止しつつも、十分な加熱殺菌処理を施すことが可能となる。
【0034】
また、この実施形態のように、流体移送手段としてポンプ(蒸気混合用ポンプ4)を適用することで、昇圧流路45における液体の昇圧量(昇圧勾配)を回転子44の回転数で調整できるようになる。これにより、ポンプ4内部における蒸気供給圧と流体圧との定量的な管理が可能となる。例えば所望の殺菌温度に応じて供給すべき蒸気圧(≦当該殺菌温度における飽和蒸気圧)が定まるので、蒸気供給領域47における液体の圧力が当該蒸気圧より若干低くなるよう、ポンプ回転数(回転子44の回転数)を調整することも可能である。このようにして、ポンプ4の回転数で圧力バランスが調整可能となるため、容易に液体に合わせた温度の蒸気を導入することができ、これにより加熱殺菌可能な液体の種類を増やすことが可能となる。
【0035】
また、この実施形態では、蒸気混合用ポンプ4の排出口42よりも下流側に主背圧弁7を設けるようにしたので、蒸気混合用ポンプ4の下流側に配設されるホールドパイプ5において流体圧を所定の値に保持することができる。これにより、一旦液体に溶け込んだ蒸気がキャビテーションを起こさないよう、蒸気混合液を高圧に維持して、より安定した加熱殺菌を行うことができる。この場合、ポンプ4の出口側における液体圧力が主背圧弁7により制御されるので、ポンプ4の回転数は、実質的にポンプ4の入口側における液体の圧力を制御することになる。
【0036】
また、以上を踏まえた上で、殺菌温度制御部TICA−1により蒸気の供給量を調整すると共に、図示は省略するが、ポンプ出口側の圧力を圧力センサ等で測定し、かかる圧力値に基づき主背圧弁7の開閉量(流量)を制御することで、より好適な加熱殺菌制御が可能となる。すなわち、蒸気混合用ポンプ4の回転数、ポンプ出口側の液体温度、およびポンプ出口側の液体の圧力を制御パラメータとすることで、より精密かつ安定した加熱殺菌処理が可能となる。従って、微妙な調整が必要となる液状食品の加熱殺菌処理においても、食品ごとに必要となる殺菌温度を精密かつ容易に調整することが可能となる。特に、蒸気接触式の加熱方法だと、液体が希釈されるため、再加熱ができないが、この加熱装置(加熱殺菌制御手段)であれば、高精度かつ安定した加熱殺菌処理が可能であるので、液状食品の加熱殺菌処理に対して非常に有効な手段となる。
【0037】
また、この実施形態では、蒸気混合用ポンプ4として、いわゆるカスケードポンプ(渦流ポンプ)を使用した。この種のポンプは、他のポンプと比べて非常に高い昇圧作用を発揮し得るものである。そのため、この種の加熱殺菌処理のように、極力低圧の蒸気を液体にスムーズに導入し、かつキャビテーションを防ぐ目的で加熱と同時に高い昇圧作用が要求される用途に非常に好適である。
【0038】
以上、本発明に係る蒸気接触式加熱装置の一実施形態を説明したが、本発明は、この実施形態に限定されることなく、上記以外の構成をなす蒸気接触式加熱装置にも適用可能である。また、本発明の特徴に係る箇所(流体移送手段としての蒸気混合用ポンプ4)についても、当然ながら、上述の形態に限定されることなく、発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0039】
上記実施形態では、蒸気混合用ポンプ4内の昇圧流路45に蒸気を供給するための蒸気供給口46を、昇圧流路45の中間位置より流入口41に近い側に開口するよう、ケーシング43に設けた場合を例示したが、開口位置は任意に設定可能である。例えば図2中破線で示すように、昇圧流路45の中間位置より排出口42に近い側に開口するよう、蒸気供給口46をケーシング43に設けることも可能である。これは、蒸気混合用ポンプ4として使用するポンプの種類によっては、昇圧流路45の形状や回転子44の形状などによりその昇圧特性が異なるため、加熱殺菌温度やその処理流体の種類に応じて、蒸気供給口46の配設位置を可変パラメータとしたほうが制御が容易となる場合があるためである。
【0040】
また、上記実施形態では、蒸気混合用ポンプ4として、渦流ポンプを適用した場合を説明したが、これに限らず、種々のポンプが使用可能である。例えば、非容積式であれば、渦巻式のポンプなどが使用可能であり、また、回転容積式であれば、ロータリー式やスクリュー式のポンプなどが使用可能である。回転子44の形状も問わない。もちろん、回転子44を備え、その回転作用により昇圧と動的混合とを同時に可能とするものである限り、ポンプに限らず種々の流体移送手段が使用可能である。
【0041】
また、上記実施形態では、各種流体の温度や流量を計測、制御するための制御部を設けて加熱殺菌処理の制御を行う場合を説明した。すなわち、ポンプ出口側の液体温度や、ポンプ回転数、蒸気の流量を制御パラメータとして加熱殺菌温度および蒸気混合用ポンプ4内の圧力バランスを制御した場合を例示したが、もちろん他のパラメータを制御パラメータとして制御を行うことも可能である。例えば圧力センサにより、各ポイントの圧力値(例えばポンプ入口側で計測した液体の圧力値や、蒸気供給口46より上流側で計測した蒸気の圧力値)をフィードバックして、各種コントロール弁の開閉を行い、これにより上述の殺菌温度やポンプ内の圧力バランス、あるいは蒸気の供給量などを制御することも可能である。もちろん、ポンプ回転数を固定パラメータとした状態で殺菌処理を制御することも可能である。例えばポンプ回転数を固定し、かつ主背圧弁7を自己調圧可能とした上で、殺菌温度制御部TICA−1により蒸気の供給量を調整することによっても殺菌処理の制御が可能である。
【0042】
また、上記実施形態では、蒸気接触式加熱装置を、液体の加熱殺菌処理に適用した場合を説明したが、もちろんこれに限ることない。その優れた加熱温度制御性能やその安定性を活かして、例えば液体連続加熱装置、熱水製造装置など、種々の液体加熱用途に好適に利用することが可能である。
【実施例】
【0043】
本発明の有用性を立証するため、本発明に係る蒸気接触式加熱装置を用いて流体の加熱殺菌処理を行い、その際の処理性能を評価した。
【0044】
具体的には、図1に係る構成において、主背圧弁7によりポンプ出口側(蒸気混合用ポンプ4の排出口42の下流側)における液体の圧力P2[MPa]を所定値に設定すると共に、ポンプ回転数n[Hz]を調整して、ポンプ入口側における液体の圧力P1[MPa]を所定値に設定するようにした。また、蒸気混合後の液体が設定すべき加熱殺菌温度T0[℃]となるよう、ポンプ出口側の温度T2[℃]に基づき既述の制御部(殺菌温度制御部TICA−1)により蒸気供給量を制御するようにした。
【0045】
図3に実験結果を示す。ここで、T1はポンプ入口側における液体の温度[℃]、P3は蒸気導入圧[MPa](枠中左側は導入蒸気の元圧、右側はケーシング入口における蒸気圧をそれぞれ示す)、P4はポンプ中間位置における液体の圧力[MPa](例えば図2でいえば図中破線で示す位置における液体圧)、Q1はポンプ入口側における液体の流量[L/H]をそれぞれ示す。この結果から、何れの設定温度においても、非常に誤差の少ない高精度な温度制御が可能であり、かつこの場合に、供給される蒸気圧(蒸気導入圧P3)が、ポンプ出口側圧力P2に比べて小さくて済んでいる。すなわち、供給可能な蒸気圧は、上記設定温度に応じた飽和蒸気圧以下となるが、図3のように、ポンプ入口側圧力P1と出口側圧力P2とを制御することで、低圧(低温)の蒸気が供給可能となっていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る蒸気接触式加熱装置の一構成例を示す概略図である。
【図2】蒸気混合用ポンプの軸直交断面図である。
【図3】本発明に係る加熱装置を使用した液体加熱試験の結果である。
【符号の説明】
【0047】
1 液体タンク
2 移送用ポンプ
3 熱交換器
4 蒸気混合用ポンプ
5 ホールドパイプ
6 主冷却器
7 主背圧弁
41 流入口
42 排出口
44 回転子
45 昇圧流路
46 蒸気供給口
47 蒸気供給領域
TICA 殺菌温度制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子の作用により昇圧を伴って流体を移送する流体移送手段と、前記流体に蒸気を供給する蒸気供給領域とを備えた蒸気接触式加熱装置であって、
前記流体移送手段に前記流体の流入口と排出口とを設けると共に、該流入口と該出口との間に前記流体の昇圧流路を形成し、かつ
前記昇圧流路に前記蒸気の供給口を開口することで、前記昇圧流路中に前記蒸気供給領域を配設してなる蒸気接触式加熱装置。
【請求項2】
前記流体移送手段が非容積式のポンプである請求項1記載の蒸気接触式加熱装置。
【請求項3】
前記ポンプが渦巻式である請求項2に記載の蒸気接触式加熱装置。
【請求項4】
前記ポンプが渦流式である請求項2に記載の蒸気接触式加熱装置。
【請求項5】
前記流体移送手段が回転容積式のポンプである請求項1記載の蒸気接触式加熱装置。
【請求項6】
前記排出口およびその下流側における前記流体の圧力が、前記蒸気の供給口における前記蒸気の圧力より高く維持されるようにした請求項1記載の蒸気接触式加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−121937(P2008−121937A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304429(P2006−304429)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(000152480)株式会社日阪製作所 (60)
【出願人】(597048702)ティ・エフ・シィ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】