説明

蒸気洗浄方法及び装置

【課題】 従来洗浄困難であった被洗浄面全域をコンタミが覆った場合であっても、該コンタミを好適に除去する。
【解決手段 】被洗浄面に対して垂直な方向から洗浄流体を吹き付ける第一の洗浄工程と、第一の洗浄工程により部分的に露出した被洗浄面に対して垂直とは異なる所定の角度を以って洗浄流体を吹き付ける第二の洗浄工程と、によって被洗浄面とコンタミとの剥離部分を拡大させてコンタミの除去を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型電子部品等の製造工程において、当該電子部品に付着する所謂コンタミ、フラックス等を洗浄する洗浄方法及び装置に関する。より詳細には、高圧の蒸気を用いて当該電子部品の洗浄を実施する高圧蒸気洗浄方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の製造工程は、種々の工程において該電子部品に付着する物質を洗浄除去する所謂洗浄工程を含んでいる。本出願人は、この様な洗浄工程に際して、蒸気吹き付け位置を変更可能であって、少量の蒸気の吹き付けを行いつつ且つ吹き付け位置或いは吹き付け方向を適宜変更可能とすることによって、高圧蒸気の吹き付けのみによって種々の被洗浄物の洗浄を可能とする高圧蒸気洗浄装置(特許文献1)を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−031148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばコンタミ或いはフラックスが被洗浄部の表面上に微細な塊として点在している場合、前述した高圧蒸気洗浄装置によってもこれらを容易且つ短時間に除去できることが確認されている。しかし、コンタミが表面上を広い範囲で、或いはその全面を覆った状態の場合、これらは容易に除去できず、更には該コンタミが塊として分散して存在する場合と比較してその除去に多大の時間を要することが確認された。
【0005】
本発明は以上の状況に鑑みて為されたものであって、洗浄により除去すべきものが被洗浄物の表面を広い範囲で覆った場合であっても、これを容易且つ短時間で除去することを可能とする洗浄方法及び装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る洗浄方法は、被洗浄物の被洗浄面に付着した被除去物を洗浄する洗浄方法であって、被洗浄面に対して垂直な方向から洗浄流体を吹き付ける第一の洗浄工程と、被洗浄面に対して垂直とは異なる所定の角度を以って洗浄流体を吹き付ける第二の洗浄工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
なお、該洗浄方法において、第一に洗浄工程の後で第二の洗浄工程が行われることが好ましい。また、被洗浄物を移動可能に支持し、第一の洗浄工程及び第二の洗浄工程は被洗浄物が支持された状態を維持したままで行われることが好ましい。また、この場合には、被洗浄物を支持した状態で、所定の軸を中心に被洗浄物を回転させることがより好ましい。更にその際、第一の洗浄工程及び第二の洗浄工程は、被洗浄物を回転させる間に行われることがより好ましい。また、該洗浄方法において、第一の洗浄工程は所定の軸から延在する第一の径方向において所定距離にある被洗浄面に対して行われ、第二の洗浄工程は第一の径方向から任意の角度を有して所定の軸から延在する第二の径方向において所定距離近傍にある被洗浄面に対して行われることが好ましい。或いは、第二の洗浄工程が行われる被洗浄面上の位置は、第一の洗浄工程において被洗浄面に対して吹き付けられる洗浄流体と第二の洗浄工程において被洗浄面に対して吹き付けられる洗浄流体とが干渉しない距離だけ、第一の洗浄工程が行われる被洗浄面上の位置から隔置されることが好ましい。更に、所定の角度は、被洗浄面を基準として60度よりも小さいことが好ましい。また、第一の洗浄工程及び第二の洗浄工程で用いられる洗浄流体は同一であることが好ましい。また、洗浄流体が飽和蒸気からなることがより好ましい。更に、第一の洗浄工程により被除去物が部分的に除去された被洗浄面に対して第二の洗浄工程を行い、被除去物と被洗浄面との間に洗浄液を侵入させることにより、部分的に除去された被洗浄面の周囲の被除去物を除去することがより好ましい。
【0008】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る洗浄装置は、被洗浄面に付着した被除去物を洗浄する洗浄装置であって、被洗浄面に対して垂直な方向から洗浄流体を吹き付け可能な垂直ノズルと、被洗浄面に対して垂直とは異なる所定の角度を以って洗浄流体を吹き付け可能な傾斜ノズルと、垂直ノズル及び傾斜ノズルに対する被洗浄面の相対位置を移動可能な相対位置移動手段と、を有し、相対位置移動手段は、垂直ノズルにより洗浄流体が吹き付けられた被洗浄面に対して傾斜ノズルからの洗浄流体の吹き付けを可能とすることを特徴とする。
【0009】
なお、該洗浄装置において、相対位置移動手段は被洗浄面を有する被洗浄物を支持し且つ所定の回転軸を中心に回転させることが好ましい。また、垂直ノズルは所定の軸から延在する第一の径方向において所定距離にある被洗浄面に対して洗浄流体を吹き付け、傾斜ノズルは第一の径方向から任意の角度を有して所定の軸から延在する第二の径方向において所定距離近傍にある被洗浄面に対して洗浄流体を吹き付けることが好ましい。また、所定の回転軸の回転方向をプラス方向とした場合、任意の角度は第一の径方向に対してプラス方向に設けられる角度であることが好ましい。或いは、傾斜ノズルが洗浄流体を吹き付ける被洗浄面上の位置は、垂直ノズルが被洗浄面に対して吹き付ける洗浄流体と傾斜ノズルが被洗浄面に対して吹き付ける洗浄流体とが干渉しない距離だけ、垂直ノズルが洗浄流体を吹き付ける被洗浄面上の位置から隔置されることが好ましい。また、所定の角度は、被洗浄面を基準として60度よりも小さいことが好ましい。また、垂直ノズルと傾斜ノズルとが被洗浄面に吹き付ける洗浄流体は同一であることが好ましい。また、洗浄流体が飽和蒸気からなることがより好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数のノズルを用いて流体を噴出し、被洗浄物の洗浄を行うことによって、従来では除去困難であった被洗浄面を広範囲に覆った被除去物の除去が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】本発明における洗浄方法の概念について、その一工程を模式的に示す説明図である。
【図1B】本発明における洗浄方法の概念について、その一工程を模式的に示す説明図である。
【図1C】本発明における洗浄方法の概念について、その一工程を模式的に示す説明図である。
【図1D】本発明における洗浄方法の概念について、その一工程を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る洗浄装置を模式的に示す図である。
【図3】本発明の第二の実施形態に係る洗浄装置における一の洗浄方法への対応を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第二の実施形態に係る洗浄装置における他の洗浄方法への対応を模式的に示す図である。
【図5】図3及び4に示す実施形態の更なる態様における一対のノズルを側方から見た場合の位置関係を示す図である。
【図6】図5に示す一対のノズルについて、一態様における平面内での位置関係を示す図である。
【図7】図6に示す一対のノズルについて、図6に示す態様とは異なる態様における平面内での位置関係を示す図である。
【図8】図6に示す一対のノズルについて、更なる態様における平面内での位置関係を示す図である。
【図9】本発明の一実施例に係るノズル構成について、被洗浄物を回転させる構成の洗浄装置にあって、被洗浄物の回転の外側から回転中心に向かう方向に沿って該ノズルを見た場合の構成を示す図である。
【図10】図9に示すノズル構成について、被洗浄物を回転させる構成の洗浄装置にあって、被洗浄物の回転の径方向に沿って該ノズルを見た場合の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る洗浄方法の一実施形態について、その概念を以下に図面を参照して説明する。図1A〜1Dは当該蒸気洗浄方法の概念について、工程を分解してこれらを順次示すものである。具体的には、該工程における、被洗浄物である製品3及びコンタミ5、ノズル10、及びノズルから被洗浄物に対して蒸気として吹き付けられる洗浄流体11、各々の状態を模式的に示している。通常、コンタミ等の被除去物或いは要除去物が塊として製品表面に点在している場合、例えば高温の洗浄流体を吹き付けることによりコンタミ及び製品が熱膨張し、その際の膨張量の差によりこれらの間に洗浄流体等が進入できる隙間が生じる。コンタミの剥離及び除去はこの隙間への洗浄流体から転じた洗浄液等の侵入により促進されるが、そのためには洗浄液の該隙間への侵入が容易となるように、製品表面に対して小さな仰角にて洗浄流体を吹きつけることが好ましい。なお、本形態では、コンタミ5の態様等に準じて洗浄液を蒸気化したもの、或いは洗浄液とその混合物、更には洗浄液単体を用いる場合があり、これらを洗浄流体として総称する。
【0013】
しかし、図1A等に示すように、製品3の表面の全面に所謂コンタミ5が付着している場合、上述したような剥離のきっかけとなる隙間の発生は、従来の如く仰角を抑えた洗浄流体の吹き付けのみではほぼ望めない。そこで、本実施形態では、まず図1Aにその第一工程として示すように、製品3の表面、より好適にはコンタミ5の表面に対して、ノズル10が垂直に洗浄流体11を吹き付けることとしている。この場合、洗浄流体11の流速がコンタミ5の表面に対して垂直方向に大きいことから、該洗浄流体11から得られる衝撃を最も効果的にコンタミ5に対して与えることが可能となる。洗浄流体11から得られる衝撃、該洗浄液11から加えられる吹き付け圧等により、図1Bに示すようにコンタミ5の部分的除去が為され、被洗浄面3aが露出する領域が得られる。また、コンタミ5の除去部分には洗浄流体11から転じて生じた洗浄液11aが微小量残余することとなる。
【0014】
続いて、ノズル10から製品3及びコンタミ5に吹き付ける洗浄流体11の吹き付け角度を、90°より小さな所定の角度αに変更し、部分的除去が為された領域、即ち露出した被洗浄面3aに再度洗浄流体11の吹き付けを行う(図1C)。その際、コンタミ5が部分的に除去された領域の周囲において、製品3及びコンタミ5各々の熱膨張量の差により、製品3-コンタミ5間に洗浄液11aが侵入できる隙間が生じる。また、製品3とコンタミ5との間の界面に洗浄液11aが入り込み、これらの間の付着力も低下させる。更に、洗浄流体11の吹き付け角度となるαを小さくしたことにより、製品3及びコンタミ5の延在方向への洗浄流体11の流速が大きくなり、前述した隙間への洗浄流体11或いは洗浄液11aの侵入がより効率よく為される。
【0015】
以上の洗浄流体11及び洗浄液11aより得られる効果、及び隙間に加えられる洗浄流体11からの衝撃力、更には洗浄流体11の吹き付け圧力により、部分的な被洗浄面3aの露出領域の周囲に生じた剥離部分が吹き付け方向を中心に展延してゆく。この剥離部分が拡大することにより、コンタミ5が製品3の表面より除去される。即ち、コンタミ5の表面に対して垂直に洗浄流体11を吹き付けて部分的な剥離領域を生成する第一の洗浄工程と、該剥離領域に対して垂直とは異なる所定の仰角αを以って洗浄流体11を吹き付ける第二の洗浄工程と、を段階的に行うことにより、従来困難であって、コンタミ5が表面を広範或いは全域に覆った製品3の洗浄が可能となる。なお、前記垂直の基準は、製品3の表面或いはコンタミ5の表面とすることが好ましく、製品3の表面に凹凸が存在する場合には、製品3表面を巨視的に見て規定可能な略平面とすることが好ましい。従って、本発明における垂直なる角度は、この様な略平面に対して規定される角度を含み、垂直とは異なる所定の角度αもこの様に規定される略平面を基準として規定されることが好ましい。また、第一の洗浄工程で製品3表面に吹き付けられる洗浄流体11と第二の洗浄工程で製品3表面に吹き付けられる洗浄流体11とが干渉し合って剥離の効果が低減することを防止する観点から、第二の洗浄工程は第一の洗浄工程の終了後に行われることが好ましい。
【0016】
続いて、以上に述べた方法を実行するための洗浄装置について、その形態を各々図面を参照して説明する。なお、前述した方法の形態では、単一のノズルを用いて実施しても良いが、工程に要するタクトタイム、或いは装置構造の簡略化の観点から第一及び第二の洗浄工程を各々異なるノズルにて実行することがより好ましい。以上より、以下の実施形態では単一の洗浄装置であって、複数のノズルを有する形態について例示する。
【0017】
図2は、本発明の一実施形態に係る洗浄装置100の主要構成を模式的に示している。該洗浄装置100は、垂直ノズル10a、傾斜ノズル10b、及び支持・移動手段13を有する。垂直ノズル10aは、製品3の被洗浄面3a上の所定位置に対して垂直に洗浄流体11を吹き付け可能となるように配置される。傾斜ノズル10bは、被洗浄面3a上の所定位置に対して前述した所定の角度αで洗浄流体11を吹き付け可能となるように配置される。支持・移動手段13は製品3を支持すると共に、垂直ノズル10aの下で前述した第一の洗浄工程が行われた後、該製品3を第二の洗浄工程を行うべく傾斜ノズル10bの下の所定位置まで移動させる。なお、支持・移動手段13は、例えばリニアスライダ上に配置された吸着ステージ等、公知の機構により構築可能であることからここでの詳述は省略する。
【0018】
以上の構造からなる洗浄装置100を用いることにより、コンタミ5の部分的な除去を行った後、製品3を移動させてコンタミ5の除去範囲の拡大を図ることが出来る。従って、前述した洗浄方法を連続的且つ効果的に実施することが可能となる。なお、本形態では垂直ノズル10a及び傾斜ノズル10bが各々一個ずつ固定で配置された構成を例示しているが、本発明は当該形態に限定されない。例えば垂直ノズル10aを支持・移動手段13の搬送方向に垂直であって被洗浄面3a(コンタミ5表面)と平行な方向に複数配置する、或いは当該方向に該垂直ノズル10aが移動することとしても良い。又この場合、傾斜ノズル10bも同様に複数個配置する、或いは移動可能とすることとすることが好ましい。また、第一の洗浄工程と第二の洗浄工程との間に、垂直ノズル10aによって得られた除去領域を前述した搬送方向に垂直な方向に拡大するように更なる傾斜ノズルを配置した、補助的な洗浄工程を設けても良い。
【0019】
更に、本実施形態では、垂直ノズル10a及び傾斜ノズル10bが基本的には固定であり、支持・移動手段13が製品3を一方向に移動させる構成を例示したが、本発明の態様はこれに限定されない。即ち、支持・移動手段13が製品3をXY平面内に移動させることで製品3の被洗浄面3a全域に対してこれらノズルから洗浄液が吹き付けられることとしても良く、逆にこれらノズルのみが移動することによって被洗浄面3aの全域に対して洗浄液の吹き付けが行われる態様としても良い。即ち、ここで例示した支持・移動手段13は、垂直ノズル10a及び傾斜ノズル10bを移動させる場合を含め、垂直ノズル10aと傾斜ノズル10bに対する被洗浄物の相対的な位置(相対位置)を移動可能とする相対位置移動手段の一態様として把握されるべきである。
【0020】
本発明において洗浄流体として好適に用いられる飽和蒸気について、以下に補足的に説明する。本発明では、例えば水と水蒸気のように同じ物質の液体と蒸気とが熱平行にある流体を飽和蒸気として定義する。当該状態では液相及び気相の水が共存しており、水が蒸発する速度と凝集する速度とが同じにある。通常この様な飽和蒸気の圧力を飽和蒸気圧と称呼し、Pa(パスカル)等の気圧の単位によって示される。飽和蒸気は、潜熱加熱による高速且つ均一な加熱が可能であること、圧力と温度とを一時的に設定可能であること、また熱伝達率が高いこと等による熱源としての利用に優れている。本発明では、このような液相及び気相が混合されている飽和蒸気を洗浄液として用いることとして述べるが、装置としては飽和蒸気に限定されず、被洗浄物の条件によっては過熱蒸気や沸騰水による洗浄を行っても良い。更には、コンタミの材質に応じて、洗浄流体として、有機溶剤、気体等の種々の物質を使用することも可能である。
【0021】
次に、本発明に係る洗浄装置の第二の実施形態について述べる。図3及び4は、該第二の実施形態に係る洗浄装置200を用いた洗浄方法の異なる対応様式を模式的に示す図である。なお、前述した第一の実施形態において例示された構成と同様の構成に関しては同一の参照符号を用いることとし、ここでの説明は省略する。本洗浄装置200では、支持・移動手段13が所定の軸Aを中心に回転することを特徴とする。図3に示す洗浄方法では、第一の洗浄工程では垂直ノズル10aの直下でコンタミ5の部分的除去が行われ、続いて支持・移動手段13による製品3の回転が行われる。該回転によって部分的除去が為された位置(製品表面3aが露出した部分)が傾斜ノズル10bによる洗浄流体11の吹き付け位置に至った後に、製品3の回転が停止され、当該配置にて第二の洗浄工程が実施される。
【0022】
図4に示す洗浄方法では、第一の洗浄工程と第二の洗浄工程とを別工程として分離するのではなく、製品3の回転動作中においても垂直ノズル10a及び傾斜ノズル10b各々からの洗浄流体11の吹き付けを連続的に続ける態様としている。例えば、洗浄後の乾燥工程も考慮した場合、所謂スピン乾燥機における基板支持手段は本発明における製品3の支持・移動手段13として用い、当該スピン乾燥機に対して本発明に係る洗浄用のノズルを付加することによって、図4に示す構成を得ることが可能である。なお、当該洗浄装置200においても、第一の実施形態で述べたように各々のノズルを複数とする、或いは各々のノズルを移動させる構成としても良い。ノズルを移動させる構成の場合、垂直ノズル10aは回転中心である軸Aから回転平面の外方に直線的に移動することとし、傾斜ノズル10bは垂直ノズル10aの移動に対応するように軸Aからの距離が各々同じとなるように移動させることが好ましい。
【0023】
次に、第二の実施形態として示した洗浄装置200における垂直ノズル10a及び傾斜ノズル10bの配置に関して、より好適な条件を求めた構成を第三の実施形態として説明する。図5は図3及び4に示す実施形態の更なる態様における一対のノズルを側方から見た場合の位置関係を示す図である。また、図6は図5に示す一対のノズルについて、当該態様における平面内での位置関係を示す図である。図3及び4に示す形態では垂直ノズル10aによる吹き付け位置と傾斜ノズル10bによる吹き付け位置とは、回転面においてノズルディレイ角(吹き付け位置のずれ量)θdが180度となるように配置されていた。本形態ではこのノズルディレイ角θdをより小さなものとしている。なお、本形態では支持・移動手段13は図中矢印CW方向(回転方向CW)に製品3を回転させることとしている。また、回転軸Aは図中のZ軸方向に沿うように、平面である製品3の被洗浄面3aは該Z軸に垂直なXY平面と平行になるよう定義される。
【0024】
本形態では側方から見た状態において、垂直ノズル10aによる洗浄流体11の吹き付け位置である垂直ヒット領域5aと傾斜ノズル10bによる洗浄流体11の吹き付け位置である傾斜ヒット領域5bとがオーバーラップするように配置される。また、傾斜ノズル10bから吹き付けられる洗浄流体11は、回転面の径方向である図6中の矢印Bに沿った方向で傾斜ノズル10bより噴出される。このように両ノズルが近接された構成とすることにより、垂直ノズル10a及び傾斜ノズル10bをユニット化することが可能となる。これにより洗浄ノズルの形態を簡素化することが可能となり、洗浄空間の管理が容易となる。なお、図5においては、側方から見た状態で、垂直ヒット領域5aと傾斜ヒット領域5bとがオーバーラップすることとしているが、より厳密には、本形態は回転時の周方向においてヒット領域が一致することが望ましい。即ち、垂直ノズル10aは所定の軸A(z軸)から延在する第一の径方向において所定距離にある位置に対して洗浄流体11を吹き付け、傾斜ノズル10bは該第一の径方向から任意の角度(ノズルディレイ角θd)を有して所定の軸A(z軸)から延在する第二の径方向において所定の距離にある位置に対して前記洗浄流体11を吹き付ける構成とされる。しかしながら、実際には、垂直ノズル10aの垂直ヒット領域5aの形状に対して傾斜ノズル10bの傾斜ヒット領域5bの形状は噴出した方向に長くなるように歪むこともあり、これらヒット位置を厳密に一致させることは困難である。
【0025】
なお、垂直ノズル10aと傾斜ノズル10bとの位置関係は、例えば支持・移動手段13の回転方向CWを+(プラス)方向とした場合にノズルディレイ角θdも垂直ノズル10aの位置を基準として+(プラス)方向に配置されることを要する。或いは、垂直ノズル10aからの洗浄流体11の吹き付けに対して傾斜ノズル10bからの洗浄流体11の吹き付けが、時間軸的に当該記載の順に為されるように支持・移動手段13の動作方向とノズルディレイ角θdとが設定されることを要する。また、第二の洗浄工程を効果的に行うためには製品3表面-コンタミ5間の境目に洗浄液を吹き付けることが好ましいが、現実的には前述のノズルディレイ角θd、傾斜ノズル10bの角度α、洗浄流体11の温度、洗浄流体11の圧力、垂直ノズル10aと傾斜ノズル10bとの被洗浄面との距離等、様々な条件によって洗浄能力は決定される、即ち、本発明において所定の軸A(z軸)から規定される所定距離は、第一の洗浄工程が行われる被洗浄面と第二の洗浄工程が行われる被洗浄面とが以上の条件より生じるずれを加味して定義される、或いは所定距離近傍として定義される。
【0026】
前述したように製品3とコンタミ5との間の隙間は、各々が熱膨張した際の膨張量の相違によって好適に拡大される。本発明では洗浄流体11として加熱状態にある飽和蒸気を用いており、該洗浄流体11を吹き付けて該蒸気を介して熱を加えることによって製品3及びコンタミ5の加熱も重ねて行う態様としている。従って、垂直ノズル10aからの洗浄流体11の吹き付けから傾斜ノズル10bからの洗浄流体11の吹き付けまでに要する時間を短く抑えられるほど、製品3及びコンタミ5をより高温まで加熱することが可能となる。図7に示す実施形態は、この加熱効果を考慮して可能な限り垂直ヒット領域5aと傾斜ヒット領域5bとが近接された態様となる。なお、垂直ヒット領域5aと傾斜ヒット領域5bとが重なる、或いは干渉が生じる位置に設置されることは好ましくない。この場合、両ノズルから吹き付けられた洗浄流体11が互いに衝突しあう現象が生じ、各々の役割を損なう恐れがある。図7に示すノズルディレイ角θdは以上を考慮した最低角度とされている。両ノズルの配置をこの様に設定することにより、製品3からのコンタミ5の剥離をより効果的に進展させることが可能となる。
【0027】
なお、図7に示す実施形態の場合、垂直ヒット領域5a等が軸A(図中Z軸)に近づいた場合、周方向において垂直ヒット領域5aと傾斜ヒット領域5bとの位置関係が、軸Aから遠い場合と比較して異なってしまう。この場合、図6或いは7に示す所謂rθ系の配置ではなく、図8に示すようなXY座標系をベースに両ノズルの位置関係を定義するほうが好ましいと考えられる。同図に示す実施形態では、ノズルのディレイ角をオフセットdという態様にて設けることとしている。当該態様においても、このオフセットdの値を前述したノズルディレイ角θdと同じ考え方により設定することで、製品3からの好適なコンタミ5の剥離除去を行うことが可能となる。即ち、傾斜ノズル10bが洗浄流体11を吹き付ける被洗浄面3a上の位置は、垂直ノズル10aが被洗浄面3aに対して吹き付ける洗浄流体11と傾斜ノズル10bが被洗浄面3aに対して吹き付ける洗浄流体11とが干渉しない距離だけ、垂直ノズル10aが洗浄流体11を吹き付ける被洗浄面3a上の位置から、オフセットd或いはノズルディレイ角θdだけ隔置される。
【0028】
次に、図8に示したノズルを実際に具現化した例について、図を参照して述べる。図9は、本発明の更なる実施形態に係るノズル構成について、被洗浄物を回転させる構成の洗浄装置200にあって、製品3の回転の外側から回転中心である軸Aに向かう方向に沿って該ノズル10を見た場合の構成を示す図である。また、図10は、図9に示すノズル構成について、当該ノズル10を製品3の回転の径方向に沿って見た場合の構成を示す図である。本形態におけるノズル10は、垂直ノズル10a、傾斜ノズル10b、マニホールド部22、ホルダ23、ノズル保持移動体24、及び配管25を有する。
【0029】
垂直ノズル10a及び傾斜ノズル10bは各々フレキシブルチューブを介してマニホールド部22に接続される。垂直ノズル10aは、フレキシブルチューブによって洗浄流体11の被洗浄面3a上の垂直ヒット領域5aへの吹き付けが可能となる位置に固定される。また、傾斜ノズル10bは、洗浄流体11の吹き付け角度が所定の角度αとなり、且つ傾斜ヒット領域5bが垂直ヒット領域5aに対してオフセットdとなるように、フレキシブルチューブによってその位置が固定される。マニホールド部22はホルダ23によって支持され、該ホルダ23はノズル保持移動体24によって図中X方向に移動可能に支持される。配管25は耐熱性を有する材料からなり、不図示の飽和蒸気源に接続される。該飽和蒸気源から供給される洗浄流体は、配管25からホルダ23及びマニホールド部22内部の流体経路を介して垂直ノズル10a及び傾斜ノズル10bに送られる。
【0030】
なお、上述した実施形態において、垂直ノズル10a及び傾斜ノズル10bに供給される洗浄流体11は、各々異なる洗浄液をこれに用いても良い。しかし、本発明では個々のノズルより吹き付けられる洗浄流体11の化学的特性を利用するのではなく、洗浄流体11の吹き付け方向の差異によるコンタミ5に対する応力付加方向の相違等の、物理的事象の相違を利用している。従って、上述した本発明を具現化したノズル構成に示されるように洗浄液をこれらノズルで共用することとし、流体経路の簡略化、及び装置構成の簡略化、更には洗浄液の供給に要するコストの削減等を行うことが好ましい。
【0031】
次に、傾斜ノズル10bにおける仰角(所定の角度α)を変えた場合について、実際に洗浄を行った場合の結果を以下の表に示す。同表において、製品3及びコンタミ5の条件は全て同一としてコンタミ5の洗浄除去を行い、非常に良好な場合を◎、良好な場合を○、難点ありの場合を△として示している。また、複数の評価が為されているが、これらは角度以外の洗浄液流量、洗浄液温度、ノズル-傾斜ヒット領域間の距離、等を変えた条件を含むことによる。

同表によれば、角度20度の場合には全ての条件で洗浄が良好に行われ、40度の場合には概ね良好であるが条件によってはコンタミの再付着等が懸念され、60度の場合にはコンタミの再付着の可能性が高いが条件によっては採用可能であることが理解できる。
【0032】
以上の簡便な構成からなるノズル10と、軸A周りに回転する支持・移動手段とからなる洗浄装置を用いることにより、従来では除去困難であった被洗浄面を広範囲に覆ったコンタミ等被除去物の製品表面からの除去が可能となる。なお、前述した実際の評価結果による所定の角度αの好適な範囲に関して、部分的なコンタミ5の除去領域が形成された後では、被洗浄面3aに対して垂直な方向の流速が大きくなるよりも平行な方向の流速が大きくなる方が、製品3とコンタミ5との間に洗浄液11aが効果的に侵入する可能性が高くなると考えられる。従って、原則的には、所定の角度αは45度以下であることが好ましく、同表の40度の結果はこれを裏付ける。しかし、コンタミ5の物性或いはコンタミ5の製品3に対する付着力が大きく、前述した垂直方向の衝撃も連続的に加えることが求められる場合もある。同表より、60度であれば垂直方向の衝撃力を高くした上でも傾斜ノズルによる吹き付けの効果が得られていることが確認される。以上より、該所定の角度は60度を最大とし、好適にはこれよりも小さい40度、より好適には20度以下に設定されることが好ましい。
【符号の説明】
【0033】
3:製品、 3a:被洗浄面、 5:コンタミ、 5a:垂直ヒット領域、 5b:傾斜ヒット領域、 10:ノズル、 10a:垂直ノズル、 10b:傾斜ノズル、 11:洗浄流体、 11a:洗浄液、 13:支持・移動手段、 22:マニホールド部、 23:ホルダ、 24:ノズル保持移動部、 25:配管、 100、200:洗浄装置、 A:所定の回転中心(軸)、 B:洗浄流体噴出方向、 CW:回転方向、 α:所定の角度、 θd:ノズルディレイ角、 d:オフセット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被洗浄物の被洗浄面に付着した被除去物を洗浄する洗浄方法であって、
前記被洗浄面に対して垂直な方向から洗浄流体を吹き付ける第一の洗浄工程と、
前記被洗浄面に対して垂直とは異なる所定の角度を以って前記洗浄流体を吹き付ける第二の洗浄工程と、を有することを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
前記第一の洗浄工程の後で前記第二の洗浄工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記被洗浄物を移動可能に支持し、前記第一の洗浄工程及び前記第二の洗浄工程は前記被洗浄物が支持された状態を維持したままで行われることを特徴とする請求項2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記前記被洗浄物を支持した状態で、所定の軸を中心に前記被洗浄物を回転させることを特徴とする請求項3に記載の洗浄方法。
【請求項5】
前記第一の洗浄工程及び前記第二の洗浄工程は、前記被洗浄物を回転させる間に行われることを特徴とする請求項4に記載の洗浄方法。
【請求項6】
前記第一の洗浄工程は前記所定の軸から延在する第一の径方向において所定距離にある前記被洗浄面に対して行われ、前記第二の洗浄工程は前記第一の径方向から任意の角度を有して前記所定の軸から延在する第二の径方向において前記所定距離近傍にある前記被洗浄面に対して行われることを特徴とする請求項4又は5に記載の洗浄方法。
【請求項7】
前記第二の洗浄工程が行われる前記被洗浄面上の位置は、前記第一の洗浄工程において前記被洗浄面に対して吹き付けられる前記洗浄流体と前記第二の洗浄工程において前記被洗浄面に対して吹き付けられる前記洗浄流体とが干渉しない距離だけ、前記第一の洗浄工程が行われる前記被洗浄面上の位置から隔置されることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の洗浄方法。
【請求項8】
前記所定の角度は、前記被洗浄面を基準として60度よりも小さいことを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載の洗浄方法。
【請求項9】
前記第一の洗浄工程及び前記第二の洗浄工程で用いられる洗浄流体は同一であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか一項に記載の洗浄方法。
【請求項10】
前記洗浄流体が飽和蒸気からなることを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載の洗浄方法。
【請求項11】
前記第一の洗浄工程により前記被除去物が部分的に除去された被洗浄面に対して前記第二の洗浄工程を行い、前記被除去物と前記被洗浄面との間に前記洗浄液を侵入させることにより、前記部分的に除去された前記被洗浄面の周囲の被除去物を除去することを特徴とする請求項1乃至10の何れか一項に記載の洗浄方法。
【請求項12】
被洗浄面に付着した被除去物を洗浄する洗浄装置であって、
前記被洗浄面に対して垂直な方向から洗浄流体を吹き付け可能な垂直ノズルと、
前記被洗浄面に対して垂直とは異なる所定の角度を以って前記洗浄流体を吹き付け可能な傾斜ノズルと、
前記垂直ノズル及び前記傾斜ノズルに対する前記被洗浄面の相対位置を移動可能な相対位置移動手段と、を有し、
前記相対位置移動手段は、前記垂直ノズルにより前記洗浄流体が吹き付けられた前記被洗浄面に対して前記傾斜ノズルからの前記洗浄流体の吹き付けを可能とすることを特徴とする洗浄装置。
【請求項13】
前記相対位置移動手段は前記被洗浄面を有する被洗浄物を支持し且つ所定の回転軸を中心に回転させることを特徴とする請求項12に記載の洗浄装置。
【請求項14】
前記垂直ノズルは前記所定の軸から延在する第一の径方向において所定距離にある前記被洗浄面に対して前記洗浄流体を吹き付け、前記傾斜ノズルは前記第一の径方向から任意の角度を有して前記所定の軸から延在する第二の径方向において前記所定距離近傍にある前記被洗浄面に対して前記洗浄流体を吹き付けることを特徴とする請求項13に記載の洗浄装置。
【請求項15】
前記所定の回転軸の回転方向をプラス方向とした場合、前記任意の角度は前記第一の径方向に対して前記プラス方向に設けられる角度であることを特徴とする請求項14に記載の洗浄装置。
【請求項16】
前記傾斜ノズルが前記洗浄流体を吹き付ける前記被洗浄面上の位置は、前記垂直ノズルが前記被洗浄面に対して吹き付ける前記洗浄流体と前記傾斜ノズルが前記被洗浄面に対して吹き付ける前記洗浄流体とが干渉しない距離だけ、前記垂直ノズルが前記洗浄流体を吹き付ける前記被洗浄面上の位置から隔置されることを特徴とする請求項12又は13に記載の洗浄装置。
【請求項17】
前記所定の角度は、前記被洗浄面を基準として60度よりも小さいことを特徴とする請求項12乃至16の何れか一項に記載の洗浄装置。
【請求項18】
前記垂直ノズルと前記傾斜ノズルとが前記被洗浄面に吹き付ける前記洗浄流体は同一であることを特徴とする請求項12乃至17の何れか一項に記載の洗浄装置。
【請求項19】
前記洗浄流体が飽和蒸気からなることを特徴とする請求項12乃至18の何れか一項に記載の洗浄装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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