説明

蒸気駆動式圧縮装置

【課題】停止時に逆回転しない蒸気駆動式圧縮装置を提供する。
【解決手段】蒸気駆動式圧縮装置1は、蒸気の膨張力を回転力に変換する蒸気膨張機2と、蒸気膨張機2によって駆動されて対象気体を圧縮する圧縮機4,5と、圧縮機5から圧縮された対象気体が吐出され、逆止弁8を備える吐出流路9と、逆止弁8の上流側において吐出流路9から分岐し、放風弁10を介して外部に開放した放風流路12とを有し、蒸気膨張機2の蒸気の流量を制御可能な蒸気制御弁14と、逆止弁8の上流側において吐出流路9の圧力を検出する吐出圧力検出器13と、圧縮機4,5の駆動を停止する際に、吐出圧力検出器13の検出値が所定の設定圧力以下になるまでは、放風弁10を開放する停止制御装置15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気駆動式圧縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラで発生した蒸気を使用するプラントにおいては、ボイラが発生する中圧(例えば1.2〜1.6MPa)の蒸気を減圧弁で減圧し、低圧(例えば0.8〜0.9MPa)の蒸気を需要設備に供給するのが一般的である。減圧弁で蒸気を減圧すると、蒸気の圧力差エネルギーを廃棄することになるためエネルギーを回収することが望まれる。
【0003】
特許文献1には、蒸気でスクリュ蒸気膨張機(「蒸気モータ」または「スチームエンド」)を駆動することによって、蒸気の圧力エネルギーを回転力に変換して回収し、さらにその蒸気膨張機の回転力によってスクリュ圧縮機(エアエンド)を駆動して、空気を圧縮する蒸気駆動式圧縮装置が記載されている。特許文献1の蒸気駆動式圧縮装置は、蒸気膨張機に蒸気を供給する流路に蒸気制御弁を設け、この制御弁をスクリュ圧縮機の吐出流路の圧力を一定に保つようにPID制御することで、蒸気膨張機の回転数を制御するようになっている。
【0004】
このような蒸気駆動式圧縮装置では、その運転を停止する場合には、蒸気制御弁を全閉にすることによって、蒸気膨張機が駆動トルクを発生しないようにする。しかしながら、運転停止状態において、スクリュ圧縮機の吐出流路の圧力が高い場合には、この吐出流路の圧力によってスクリュ圧縮機のロータを逆回転させるトルクが生じる。つまり、吐出流路の圧力が高いと、スクリュ圧縮機は、スクリュ膨張機として動作することによって逆回転する。蒸気制御弁が閉鎖されている状態では、蒸気膨張機はトルクを発生せず、スクリュ圧縮機の回転を制止することもできない。したがって、従来の蒸気駆動式圧縮装置は、吐出流路の圧力によってスクリュ圧縮機が逆回転することを防止することができない。
【0005】
蒸気駆動式圧縮装置の構成によっては、このようなスクリュ圧縮機の逆回転を許容できない場合がある。例えば、オイルフリー式スクリュ圧縮機において、ロータ軸、あるいはシール本体にねじを設けて、ロータ軸の回転によって軸受用潤滑油や空気にロータ室から軸受に向かって移動するような圧力を与えるビスコシールと呼ばれるシール構造を採用したものがある。このようなスクリュ圧縮機では、ロータ軸が逆回転すると、ビスコシールが内部の軸受用潤滑油をビスコシールの近傍に設けられた大気開放孔などを通じて外部に排出してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−250196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記問題点に鑑みて、本発明は、停止時に逆回転しない蒸気駆動式圧縮装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明による蒸気駆動式圧縮装置は、蒸気の膨張力を回転力に変換する蒸気膨張機と、前記蒸気膨張機によって駆動されて対象気体を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機から圧縮された前記対象気体が吐出され、逆止弁を備える吐出流路と、前記逆止弁の上流側において前記吐出流路から分岐し、放風弁を介して外部に開放した放風流路とを有し、前記蒸気膨張機の前記蒸気の流量を制御可能な蒸気制御弁と、前記逆止弁の上流側において前記吐出流路の圧力を検出する吐出圧力検出器と、前記圧縮機の駆動を停止する際に、前記吐出圧力検出器の検出値が所定の設定圧力以下になるまでは、前記放風弁を開放する停止制御装置とを備えるものとする。
【0009】
この構成によれば、圧縮機を停止する際に放風弁を開いて圧縮機の吐出流路の圧力を十分に低下させるので、スクリュ膨張機の駆動トルクがなくなったときに、吐出流路の圧力によって膨張機が逆回転することがない。
【0010】
また、本発明の蒸気駆動式圧縮装置において、前記停止制御装置は、前記圧縮機の駆動を停止する際に、前記蒸気制御弁の開度を徐々に小さくしつつ、前記放風弁の開度を徐々に大きくしてもよい。この場合には、前記吐出圧力検出器の検出値が所定の設定圧力以下になったときには、直ちに、前記蒸気制御弁および前記放風弁を全閉にすることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、蒸気制御弁を徐々に閉鎖して発生する駆動トルクを漸減させ、放風弁を徐々に開放して吐出流路の圧力を漸減させる。これによって、蒸気膨張機および圧縮機の回転数をスムーズに低下させられる。また、吐出流路の圧力が十分に低下した場合には、直ちに蒸気制御弁および放風弁を全閉にして、運転を完全停止すれば、無駄な蒸気の消費をなくせる。
【0012】
また、本発明の蒸気駆動式圧縮装置において、前記停止制御装置は、前記圧縮機の駆動を停止する際に、所定の設定時間後に前記蒸気制御弁が全閉となるように前記蒸気制御弁を一定の速度で閉鎖すると同時に、前記設定時間後に前記放風弁が全開となるように、前記放風弁を一定の速度で開放してもよい。この場合にも、前記吐出圧力検出器の検出値が所定の設定圧力以下になったときには、直ちに、前記蒸気制御弁および前記放風弁を全閉にすることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、駆動トルクの減少と吐出流路の圧力低下とを等しいタイムスパンでバランスよく生じさせられるので、蒸気膨張機および圧縮機の回転数をスムーズに低下させられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態の蒸気駆動式圧縮装置の概略構成図である。
【図2】図1の蒸気駆動式圧縮装置における運転停止時の蒸気制御弁と放風弁の開度変化を例示する図である。
【図3】図1の蒸気駆動式圧縮装置における運転停止時の蒸気制御弁と放風弁の開度変化を示し、且つ、図2に示したものより早く吐出圧力が低下した場合を例示する図である。
【図4】図1の蒸気駆動式圧縮装置における運転停止時の蒸気制御弁と放風弁の、図2および図3に示したものとは別の開度変化を例示する図である。
【図5】本発明の第2実施形態の蒸気駆動式圧縮装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。先ず、図1に、本発明の第1実施形態である蒸気駆動式圧縮装置1を示す。蒸気駆動式圧縮装置1は、空気を圧縮すべき対象気体とする圧縮空気製造装置である。
【0016】
蒸気駆動式圧縮装置1は、蒸気の膨張力を回転力に変換する蒸気膨張機2と、ギア3を介して蒸気膨張機2によって駆動され、空気を圧縮する第1段圧縮機4および第2段圧縮機5とを有する。蒸気膨張機2は、ハウジング内に雌雄一対のスクリュロータを収容してなり、スクリュロータの歯溝内の密閉空間において蒸気を膨張させることによって、スクリュロータを回転させるスクリュエキスパンダである。第1段圧縮機4および第2段圧縮機5は、ハウジング内に雌雄一対のスクリュロータを収容してなり、スクリュロータを回転駆動することによって、スクリュロータの歯溝内の密閉空間において空気を圧縮するスクリュ圧縮機である。
【0017】
蒸気駆動式圧縮装置1において、第1段圧縮機4と第2段圧縮機5とはインタークーラ6を介して直列に接続されている。つまり、第1段圧縮機4が圧縮して吐出した空気は、インタークーラ6で冷却された後、第2段圧縮機5によってさらに圧縮される。第2段圧縮機5が吐出した圧縮空気は、アフタークーラ7および逆止弁8が介設された吐出流路9を通して不図示のリザーバに送られ、リザーバから需要先に供給される。リザーバには、他の空気圧縮装置が並列に接続されてもよい。
【0018】
また、蒸気駆動式圧縮装置1は、アフタークーラ7と逆止弁8との間において吐出流路9から分岐し、放風弁10を介してサイレンサ11に接続された放風流路12を有する。つまり、サイレンサ11を設けた放風流路12の末端は、大気に開放されている。
【0019】
さらに、蒸気駆動式圧縮装置1は、吐出流路9の逆止弁8の上流側に、より詳しくは、アフタークーラ7と放風流路12との間に、圧縮空気の圧力Pdを検出する吐出圧力検出器13を備える。さらに、蒸気駆動式圧縮装置1は、蒸気膨張機2に蒸気を供給する流路に、開度調節することによって蒸気の流量を制御できる蒸気制御弁14が設けられている。
【0020】
そして、蒸気駆動式圧縮装置1は、吐出圧力検出器13の検出値Pdが入力され、放風弁10および蒸気制御弁14の開度を制御する停止制御装置15を備える。また、停止制御装置15には、蒸気駆動式圧縮装置1に運転停止を指示するために、オペレータの操作により発生または不図示の外部コントローラが出力する停止信号が入力されるようになっている。
【0021】
停止制御装置15は、図2に示すように、停止信号が入力されると、予め定めた設定時間(例えば5秒)後に、蒸気制御弁14が全閉になるように、一定の速度で蒸気制御弁14の開度を徐々に小さくする。同時に、停止制御装置15は、設定時間後に、つまり、蒸気制御弁14が全閉になると同時に、放風弁10が全開になるように、放風弁10の開度を一定の速度で徐々に大きくする。
【0022】
また、停止制御装置15は、吐出圧力検出器13の検出値が、所定の設定圧力(例えば0.01MPa)以下になると、放風弁10を直ちに全閉にする。この設定圧力は、蒸気膨張機2の駆動トルクがゼロであっても、第1段圧縮機4および第2段圧縮機5が、吐出流路9の圧力によって逆回転、つまり、蒸気膨張機として駆動されることがないような十分に低い圧力に設定する。
【0023】
本実施形態では、吐出流路9の圧力が十分に低下するまで放風弁10を開放するので、第1段圧縮機4および第2段圧縮機5が、吐出流路9の圧力によって逆回転しない。
【0024】
また、停止制御装置15は、蒸気制御弁14および放風弁10の開度を徐々に変化させるので、蒸気膨張機2の駆動トルクや第1段圧縮機4および第2段圧縮機5の負荷トルクが急激に変動することがない。このため、蒸気駆動式圧縮装置1では、蒸気膨張機2、第1段圧縮機4および第2段圧縮機5の回転数が急激に変動しないように、スムーズに停止することができる。
【0025】
尚、停止制御装置15は、設定時間の経過前に吐出圧力検出器13の検出値が設定圧力以下になった場合には、設定時間の経過後、つまり、蒸気制御弁14が全閉および放風弁10が全開になってから、放風弁10を閉鎖してもよいが、図3に示すように、所定時間の経過を待つことなく、直ちに、蒸気制御弁14を全閉にし、且つ、放風弁10を直ちに全閉にしてもよい。
【0026】
吐出流路9の圧力が十分に低下した場合は、膨張機4,5の逆転のおそれがないので、直ちに蒸気制御弁14を全閉にして、無駄な蒸気の消費を抑制できる。
【0027】
また、蒸気膨張機2、第1段圧縮機4および第2段圧縮機5のスクリュロータ等の慣性力や運転圧力等の条件によっては、蒸気膨張機2、第1段圧縮機4および第2段圧縮機5の回転数が急激に変動する心配がない。その場合は、停止信号が入力された瞬間に、蒸気制御弁14を全閉にするとともに放風弁10を全開にしてもよい。
【0028】
例えば図4に示すように、停止信号が入力されるとすぐに放風弁10が全開から全閉に切り替えるように構成してもよい。この場合、図2や図3のように放風弁10の開度を徐々に変化させた場合に比べて、第1段圧縮機4および第2段圧縮機5の負荷トルクに若干の変動が生じるが、放風弁10として安価な電磁開閉弁を採用できるなど、構成を簡略化できるという利点がある。
【0029】
また、図5には、本発明の第2実施形態である蒸気駆動式圧縮装置1aを示す。この蒸気駆動式圧縮装置1aは、第1実施形態の蒸気駆動式圧縮装置1と多くの構成が共通であるため、同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0030】
本実施形態の蒸気駆動式圧縮装置1aは、第1段圧縮機4と第2段圧縮機5とを接続する中間流路から、インタークーラ6の下流側において分岐し、放風弁16を介してサイレンサ17に接続された放風流路18を有する。サイレンサ17を設けた放風流路18の末端は、放風流路12の末端と同様に、大気に開放されている。
【0031】
また、蒸気駆動式圧縮装置1aは、第1段圧縮機4の吐出圧力、即ち、第1段圧縮機4と第2段圧縮機5とを接続する中間流路の圧力Pmを検出するための中間圧力検出器19を備えている。そして、この中間圧力検出器19の検出値Pmは、停止制御装置15に入力されている。
【0032】
本実施形態の停止制御装置15は、停止信号が入力されると、蒸気制御弁14を徐々に閉鎖するとともに、放風弁10および放風弁16を徐々に開放する。本実施形態では、吐出圧力検出器13の検出値Pdおよび中間圧力検出器19の検出値Pmについて、圧力低下が十分であると判断するための設定値が個別に設定されている。
【0033】
そして、放風弁10については、停止信号が入力されてから所定時間が経過したこと、または、吐出圧力検出器13の検出値Pdが設定値以下に低下したことを以て、全閉にする。また、放風弁16については、停止信号が入力されてから所定時間が経過したこと、または、中間圧力検出器19の検出値Pmが設定値以下に低下したことを以て、全閉にする。さらに、蒸気制御弁14については、停止信号が入力されてから所定時間が経過したこと、または、吐出圧力検出器13の検出値Pdが設定値以下に低下したこと、または中間圧力検出器19の検出値Pmが設定値以下に低下したことの、いずれかの状態となったことを以て、全閉にする。
【0034】
このように、各段の圧縮機の吐出圧力を、それぞれ、放風弁を開放して十分に低下させることで、より確実に、蒸気駆動式圧縮装置が停止時に逆回転することを防止できる。
【符号の説明】
【0035】
1,1a…蒸気駆動式圧縮装置
2…蒸気膨張機
4…第1段圧縮機
5…第2段圧縮機
8…逆止弁
9…吐出流路
10,16…放風弁
11,17…サイレンサ
12,18…放風流路
13…吐出圧力検出器
14…蒸気制御弁
15…停止制御装置
19…中間圧力検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気の膨張力を回転力に変換する蒸気膨張機と、
前記蒸気膨張機によって駆動されて対象気体を圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機から圧縮された前記対象気体が吐出され、逆止弁を備える吐出流路と、
前記逆止弁の上流側において前記吐出流路から分岐し、放風弁を介して外部に開放した放風流路とを有し、
前記蒸気膨張機の前記蒸気の流量を制御可能な蒸気制御弁と、
前記逆止弁の上流側において前記吐出流路の圧力を検出する吐出圧力検出器と、
前記圧縮機の駆動を停止する際に、前記吐出圧力検出器の検出値が所定の設定圧力以下になるまでは、前記放風弁を開放する停止制御装置とを備えることを特徴とする蒸気駆動式圧縮装置。
【請求項2】
前記停止制御装置は、前記圧縮機の駆動を停止する際に、前記蒸気制御弁の開度を徐々に小さくしつつ、前記放風弁の開度を徐々に大きくすることを特徴とする請求項1に記載の蒸気駆動式圧縮装置。
【請求項3】
前記停止制御装置は、前記圧縮機の駆動を停止する際に、所定の設定時間後に前記蒸気制御弁が全閉となるように前記蒸気制御弁を一定の速度で閉鎖すると同時に、前記設定時間後に前記放風弁が全開となるように、前記放風弁を一定の速度で開放することを特徴とする請求項1に記載の蒸気駆動式圧縮装置。
【請求項4】
前記吐出圧力検出器の検出値が所定の設定圧力以下になったときには、直ちに、前記蒸気制御弁および前記放風弁を全閉にすることを特徴とする請求項2または3に記載の蒸気駆動式圧縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−7285(P2013−7285A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138822(P2011−138822)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】