蒸着マスク洗浄装置、蒸着マスク洗浄システムおよび蒸着マスク洗浄方法
【課題】蒸着マスクに強固に付着した付着物を、蒸着マスクにダメージを与えるおそれを低減しつつ、効率よく除去する蒸着マスク洗浄装置、蒸着マスク洗浄システムおよび蒸着マスク洗浄方法を提供する。
【解決手段】有機ELデバイスの製造工程に用いられる蒸着マスク16を洗浄するための蒸着マスク洗浄装置としての電解洗浄装置13は、蒸着マスク16を収容する洗浄槽としての電解槽20と、電解槽20にアルカリ性の電解液を供給するポンプ21および貯留槽22からなる電解液供給部と、洗浄槽内に設けられている陽極電極23および陰極電極24の電極と、陽極電極23および陰極電極24の電極間に通電する通電部26と、を備える。
【解決手段】有機ELデバイスの製造工程に用いられる蒸着マスク16を洗浄するための蒸着マスク洗浄装置としての電解洗浄装置13は、蒸着マスク16を収容する洗浄槽としての電解槽20と、電解槽20にアルカリ性の電解液を供給するポンプ21および貯留槽22からなる電解液供給部と、洗浄槽内に設けられている陽極電極23および陰極電極24の電極と、陽極電極23および陰極電極24の電極間に通電する通電部26と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELデバイスの製造工程に用いられる蒸着マスクを洗浄するための蒸着マスク洗浄装置、蒸着マスク洗浄システムおよび蒸着マスク洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンスデバイス(以下、有機ELデバイスと称する)は、発光素子の多くに低分子材料(以下、有機EL材料と称する)が用いられており、その製造時には有機EL材料を基材に蒸着する真空蒸着工程が多く実施されている。この真空蒸着工程では、発光素子のパターン形成すなわち基剤のマスクを目的として、例えば薄膜状や平板状に形成されその表面に微細なパターンが高精度に設けられた蒸着マスクが用いられる。この蒸着マスクは、真空蒸着工程において有機EL材料が付着することから、使用後には蒸着マスクに付着した有機EL材料などの付着物を除去する必要がある。そこで、蒸着マスクを例えば炭化水素系溶剤などに浸せきして付着物を除去するいわゆるウェット式の洗浄方法や、蒸着マスクに付着した付着物をレーザ光やプラズマガスなどを用いて付着物を物理的に除去するいわゆるドライ式の洗浄方法などが提案されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−113043号公報
【特許文献2】特開2010−186167号公報
【特許文献3】特開2003−332052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、溶剤を用いたウェット式の洗浄方法の場合、蒸着時には蒸着マスクに有機EL材料などの付着物が強固に付着すること、また、付着物の量が多いことなどから、蒸着マスクに設けられているパターンの細孔部などに入り込んだ付着物の除去が困難である。また、ドライ式の洗浄方法の場合、付着物を物理的に除去する際の衝撃が大きく、蒸着マスクそのもの、あるいは蒸着マスクに設けられている微細なパターンなどを破損するおそれがある。
【0005】
本発明は、蒸着マスクに強固に付着した付着物を、蒸着マスクにダメージを与えるおそれを低減しつつ、効率よく除去する蒸着マスク洗浄装置、蒸着マスク洗浄システムおよび蒸着マスク洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載した蒸着マスク洗浄装置の発明は、有機ELデバイスの製造工程に用いられる蒸着マスクを洗浄するための蒸着マスク洗浄装置であって、前記蒸着マスクを収容する洗浄槽と、前記洗浄槽にアルカリ性の電解液を供給する電解液供給部と、前記洗浄槽内に設けられている陽極電極および陰極電極の各電極と、前記陽極電極および陰極電極の各電極間に通電する通電部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載した蒸着マスク洗浄装置の発明は、前記アルカリ性の電解液は、その濃度が3%より大きい水酸化カリウム溶液であることを特徴とする。
請求項3に記載した蒸着マスク洗浄装置の発明は、前記洗浄槽に貯留されている前記アルカリ性の電解液を撹拌するための撹拌手段をさらに備えることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載した蒸着マスク洗浄システムの発明は、請求項1から3のいずれか一項記載の蒸着マスク洗浄装置と、有機溶剤を用いて蒸着マスクを洗浄する溶剤洗浄装置と、を組み合わせたことを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載した蒸着マスク洗浄方法の発明は、請求項1から3のいずれか一項記載の蒸着マスク洗浄装置を用いて蒸着マスクを洗浄する電解洗浄工程を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載した蒸着マスク洗浄装置の発明、請求項4に記載した蒸着マスク洗浄システムの発明および請求項5に記載した蒸着マスク洗浄方法の発明によれば、アルカリ性の電解液を貯留した洗浄槽内に設けられている陽極および陰極の電極間に通電することにより、蒸着マスクを電解洗浄する。このとき、各電極には気泡が生じ、その気泡により蒸着マスクの表面やパターンあるいはパターンの側壁部などの微細に形成された部位が洗浄される。したがって、蒸着マスクに付着した有機EL材料などの付着物を、蒸着マスクにダメージを与えるおそれを低減しつつ、効率よく除去することができる。
【0011】
請求項2に記載した蒸着マスク洗浄装置の発明によれば、アルカリ性の電解液として水酸化カリウム溶液を用いているので、水酸化カリウム溶液によるエッチング効果によって蒸着マスクに強固に付着した付着物を除去することができる。また、水酸化カリウム溶液の濃度を3%よりも大きくすることにより、より効率よく付着物を除去することができ、洗浄効率を向上させることができる。
【0012】
請求項3に記載した蒸着マスク洗浄装置の発明によれば、電解液を撹拌しつつ電解洗浄を実施するので、例えば電極に近接する部位と電極から離れた部位とにおける電解液の濃度にムラが生じることを防止できるとともに、電解洗浄工程に各電極で生じる気泡をまんべんなく蒸着マスクの全体に行き渡らせることができる。したがって、電解洗浄を効率よく実施することができるとともに、蒸着マスクの洗浄効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態による電解洗浄装置を用いた蒸着マスク洗浄システムの構成を概略的に示す図
【図2】一実施形態による電解洗浄装置を模式的に示す図
【図3】一実施形態による蒸着マスクの洗浄処理の流れを示す図
【図4】一実施形態による水酸化カリウム溶液の濃度と剥離程度との関係を示す図
【図5】一実施形態による撹拌の有無と剥離程度との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態による蒸着マスク洗浄装置、蒸着マスク洗浄システムおよび蒸着マスク洗浄方法について、図1から図5を参照しながら説明する。
図1に示すように、蒸着マスク洗浄システム10は、溶剤洗浄装置11、第一リンス装置12、電解洗浄装置13、第二リンス装置14および乾燥装置15を備えている。この蒸着マスク洗浄システム10は、蒸着マスク16を洗浄する。本実施形態で想定している蒸着マスク16は、有機ELデバイスの製造工程における真空蒸着工程において有機EL材料を蒸着する基材をマスクするためのものであり、図示は省略するが、その表面に微細なパターンが高精度に形成されている。蒸着マスク16は、例えばニッケルおよびその合金あるいはステンレスなど導電性を有する材料により形成されている。本実施形態の蒸着マスク16は、その外形が概ね65mm×75mm程度、厚みが概ね1mm程度の薄膜状に形成されている。なお、蒸着マスク16は、対象となる基材の大きさにより様々な大きさ及び厚みのものが用いられる。つまり、本実施形態の、蒸着マスク洗浄システム10は、様々な大きさの蒸着マスク16を洗浄対象としている。なお、蒸着マスク洗浄システム10には、図1に示す各装置間で蒸着マスク16を搬送する図示しない搬送装置、および蒸着マスク洗浄システム10の全体を制御するための図示しない主制御装置なども設けられている。
【0015】
溶剤洗浄装置11は、周知の構成もののであり、例えば炭化水素系の洗浄溶剤やN−メチルピロリドンなどの溶剤特には有機溶剤を用いて蒸着マスク16を洗浄する。図1には模式的に蒸着マスク16を浸せきする槽型の溶剤洗浄装置11を示しているが、溶剤洗浄装置11は、例えば溶剤を蒸着マスク16に吐出するいわゆるシャワー型のものを採用してもよい。また、溶剤洗浄装置11は、いわゆる超音波洗浄を行う超音波洗浄装置と組み合わせて用いてもよい。さらには、洗浄工程における洗浄効率すなわち洗浄のスループットを向上させるために溶剤洗浄装置11を複数台設けた構成としてもよい。
【0016】
第一リンス装置12は、周知の構成のものであり、溶剤洗浄装置11において蒸着マスク16に付着した溶剤を例えば純水などのリンス剤により洗い流す。換言すると、第一リンス装置12は、蒸着マスク16をリンスする。図1では1台の第一リンス装置12を示したが、一般的に第一リンス装置12は複数台設けられており、蒸着マスク16を段階的にリンスする構成となっている。この第一リンス装置12は、例えば、図1に示すような蒸着マスク16を浸せきする槽型のもの、あるいは、蒸着マスク16にリンス剤を吐出するシャワー型のものなどを採用できる。また、槽型およびシャワー型のものを組み合わせた構成としてもよい。
【0017】
電解洗浄装置13は、特許請求の範囲に記載した蒸着マスク洗浄装置に相当し、蒸着マスク16を電解洗浄する。つまり、本実施形態の蒸着マスク洗浄システム10は、有機溶剤を用いて蒸着マスク16を洗浄する周知の溶剤洗浄装置11と、蒸着マスク16を電解洗浄する電解洗浄装置13とを組み合わせた構成となっている。電解洗浄装置13は、図2に示すように、電解槽20、ポンプ21、貯留槽22、陽極電極23および陰極電極24の各電極、マスク保持部25、通電部26および2つの撹拌翼27を備えている。
【0018】
電解槽20は、特許請求の範囲に記載した洗浄槽に相当し、蒸着マスク16を収容する。また、電解槽20は、ポンプ21によって貯留槽22に貯留されているアルカリ性の電解液が供給される。本実施形態では、アルカリ性の電解液として、エッチング効果を奏する水酸化カリウム(KOH)溶液を用いている。また、水酸化カリウム溶液は、後述するように濃度が3%より大きいものを用いている。これらポンプ21および貯留槽22は、特許請求の範囲に記載した電解液供給部を構成している。この電解槽20には、後述する電解洗浄工程において、蒸着マスク16ならびに陽極電極23および陰極電極24の各電極を浸せきできるだけの電解液が貯留される。
【0019】
陽極電極23および陰極電極24の各電極は、電解槽20の内部に設けられている。このうち、陽極電極23は、電解槽20の内部に設けられ蒸着マスク16を保持するためのマスク保持部25に取り付けられている。この陽極電極23は、マスク保持部25に保持された蒸着マスク16に接触する位置関係となるように設けられている。つまり、電解洗浄時には、導電性を有する蒸着マスク16自体が陽極として機能する。陰極電極24は、電解槽20の内壁に、陽極電極23と離間した状態で設けられている。これら陽極電極23および陰極電極24は、通電部26に接続している。通電部26は、陽極電極23および陰極電極24の各電極間に通電するためのいわゆる直流電源装置である。本実施形態の場合、通電部26は、電解洗浄工程において、12Vより大きい直流電圧、4Aより大きい直流電流を安定して通電可能に構成されている。
【0020】
ここで、電解洗浄について簡単に説明する。電解液を貯留した状態で通電部26から通電を行うと、各電極では以下のような化学反応が生じる。
陰極(−極)側:2H2O+2e- → H2+2OH-
陽極(+極)側:2OH → H2O+1/2O2+2e-
このように電解槽20の内部では、陰極側では水分子が還元されて水素が発生し、陽極側では水酸化イオンが酸化されて水分子および酸素が発生する。このとき、上記したように蒸着マスク16自体が陽極として機能することから、酸素は蒸着マスク16全体において発生する。そして、発生した酸素により蒸着マスク16の表面に気泡が生じ、その気泡により蒸着マスク16の表面に付着した汚れや付着物が除去される。なお、蒸着マスク16の表面においては酸素の発生により酸化反応が生じるものの、付着物が付着することはない。
【0021】
撹拌翼27は、電解槽20内に設けられており、図示しない回転駆動部に接続されている。撹拌翼27は、電解洗浄工程には回転駆動部により回転駆動される。このとき、電解槽20内には、撹拌翼27によって対流や循環などの流れが形成される。つまり、電解槽20内の電解液は、撹拌翼27により撹拌される。この撹拌翼27は、特許請求の範囲に記載した撹拌手段に相当する。
第二リンス装置14は、図1に示すように、電解洗浄装置13にて電解洗浄された蒸着マスク16をリンスする。この第二リンス装置14は、基本的な構成は上記した第一リンス装置12と共通しており、蒸着マスク16を例えば純水などによりリンスする。なお、第二リンス装置14も、第一リンス装置12と同様に複数台設ける構成としてもよい。
【0022】
乾燥装置15は、第二リンス装置14でリンスされた蒸着マスク16を乾燥させる。乾燥装置15は、送風機28から清浄な窒素ガスなどの不活性ガスを蒸着マスク16に吹き付けることにより蒸着マスク16を乾燥させる。この乾燥装置15は、例えば自然乾燥によって蒸着マスク16を乾燥させる構成、あるいは送風機28と自然乾燥とを組み合わせた構成などであってもよい。また、乾燥装置15が設置されている乾燥室内の温度を調整することにより、乾燥効率を向上させる構成としてもよい。
このような構成の蒸着マスク洗浄システム10は、その全体あるいは一部の装置がクリーンルーム内に設けられており、蒸着マスク16の洗浄を行っている。
【0023】
次に、上記した構成の電解洗浄装置13およびそれを用いた蒸着マスク洗浄システム10の作用について洗浄処理の流れとともに説明する。
図3は、蒸着マスク洗浄システム10による洗浄処理の大まかな流れを示している。蒸着マスク16の洗浄処理では、まず、ステップS1において溶剤洗浄工程が実施される。この溶剤洗浄工程は、上記した溶剤洗浄装置11による蒸着マスク16の洗浄が行われる。なお、溶剤洗浄工程を実施する前に、プレシャワー装置にて蒸着マスク16に付着したゴミなどを予め除去する工程を含めてもよい。
溶剤洗浄工程が終了すると、ステップS2において、溶剤リンス洗浄工程が実施される。このリンス工程では、溶剤洗浄工程で蒸着マスク16を洗浄した溶剤が純水などにより洗い流される。
【0024】
リンス工程が終了すると、ステップS3において、電解洗浄工程が実施される。つまり、本実施形態による蒸着マスク洗浄方法では、水酸化カリウム溶液のエッチング効果に着目し、従来の溶剤洗浄工程に追加して電解洗浄工程を実施している。この電解洗浄工程では、上記したように電解液である水酸化カリウム溶液を洗浄槽に貯留し、蒸着マスク16を水酸化カリウム溶液に浸せきし、撹拌翼27により水酸化カリウム溶液を撹拌した状態で、通電部26による通電が行われる。ここで、発明者らは、蒸着マスク16の洗浄度合いが水酸化カリウム溶液の濃度および通電部26による通電量(電圧値、電流値)により変化することを見いだした。
【0025】
図4は、電圧値を12Vに一定にした状態で水酸化カリウム溶液の濃度および通電する電流値を変化させた場合における剥離程度の変化を示す試験データである。ここで、「剥離程度」とは、蒸着マスク16の洗浄度合いを表す指標であり、洗浄後によって蒸着マスク16から付着物、本実施形態の場合は蒸着工程で付着する有機EL材料、が剥離した度合いを数値化したものである。例えば剥離程度が「不可」は、電解洗浄を実施しても、試験的に有機EL材料を付着させたサンプル品の蒸着マスク16ではそれほど剥離しなかった状態(再洗浄が必要な状態)を示している。また、剥離程度の数値が大きくなる程付着物が除去されたことを示しており、その数値が「5」で完全に除去されたことを示している。
【0026】
また、「撹拌なし」と「撹拌あり」のデータは、撹拌翼27を駆動した場合と駆動しなかった場合とにおけるデータ、すなわち、水酸化カリウム溶液を撹拌した場合と撹拌しなかった場合とにおけるデータを示している。このうち、「撹拌あり」のデータは、通電した状態で10分間の撹拌を行った場合のデータである。なお、本実施形態で電圧値を12Vとした理由は、電圧値を12Vよりも小さくすると通電時の電流値が安定しなかったためである。この電圧値は通電部26の仕様や洗浄対象となる蒸着マスク16の大きさや形状などにより変化する可能性があるため、例えば事前試験などにより適切な電圧値を設定すればよい。すなわち、電圧値は12Vに限定されるものではない。
【0027】
この図4に示すように、水酸化カリウム溶液の濃度が1%の場合、電流値を変化させても剥離程度はいずれも不可であった。また、水酸化カリウム溶液を撹拌しても剥離程度は不可であった。つまり、水酸化カリウム溶液の濃度が1%の場合には、サンプル品の蒸着マスク16では電解洗浄を実施しても付着物をほとんど除去できないことが明らかになった。なお、サンプル品では不可であったが、気泡後からによる洗浄および水酸化カリウム溶液のエッチング効果は期待できる。そのため、例えば有機EL材料の付着量が少ないかそれほど強固に付着していない蒸着マスク16の洗浄、あるいは、パターンの側壁部など微細な部位に付着した有機EL材料を気泡の力により除去する目的には使用可能である。
【0028】
これに対して、水酸化カリウム濃度が3%の場合、撹拌なしの状態では、電流値が1Aで剥離程度が1、電流値が2Aで剥離程度が1、電流値が3Aで剥離程度が2、電流値が4Aで剥離程度が3.5、電流値が5Aで剥離程度が4.5となり、付着物を除去することができること、および、電流値を大きくするほど剥離程度が大きくなることが明らかになった。一方、撹拌ありの状態では、電流値が1Aで剥離程度が1、電流値が2Aで剥離程度が1.5、電流値が3Aで剥離程度が3、電流値が4Aで剥離程度が4、電流値が5Aで剥離程度が4.8となり、撹拌なしの場合に比べて剥離程度が大きくなることが明らかになった。
【0029】
さらに、水酸化カリウム濃度が5%の場合、図4および図5に示すように、撹拌なしの状態では、電流値が1Aで剥離程度が1、電流値が2Aで剥離程度が1.5、電流値が3Aで剥離程度が2、電流値が4Aで剥離程度が3、電流値が5Aで剥離程度が4.5となり、付着物を除去することができ、電流値を大きくするほど剥離程度が大きくなる傾向にあることが明らかになった。一方、撹拌ありの状態では、電流値が1Aで剥離程度が1.2、電流値が2Aで剥離程度が1.7、電流値が3Aで剥離程度が2.2、電流値が4Aで剥離程度が4、電流値が5Aで剥離程度が4.7となり、撹拌なしの場合に比べて剥離程度が大きくなる傾向にあることが明らかになった。
【0030】
このように、水酸化カリウム溶液の濃度が概ね3%よりも大きくすることにより蒸着マスク16の付着物を除去可能となることが確認できた。また、水酸化カリウム溶液を撹拌することにより、撹拌しない場合に比べて剥離程度が大きくなる傾向にあることも確認できた。そして、水酸化カリウム溶液の濃度を3%よりも大きくした場合(例えば5%にした場合)であっても、剥離程度にはそれほどの差違が生じない傾向にあることが確認できた。
【0031】
また、水酸化カリウム溶液の濃度が同じ場合には、電流値を大きくすることにより、具体的には概ね3A以上とすることにより実用上問題ない程度(剥離程度が3以上)での付着物の除去が可能となることが確認できた。さらに、より好ましくは、電流値を4A以上とすることにより、撹拌なしの場合であっても実用上問題ない程度で付着物の除去が可能となることが確認できた。なお、電流値をさらに大きくしても同様の効果は得られるものの、蒸着マスク16自体の発熱が大きくなる。そのため、電解洗浄工程においては上記したように水素が発生することから、作業の安全性などを考慮して上限となる電流値を適宜選択するようにするとよい。
【0032】
電解洗浄工程が終了すると、ステップS4において、リンス工程が実施される。このリンス工程は、ステップS2のリンス工程と概ね共通する態様にて実施され、電解洗浄工程で蒸着マスク16に付着した電解液がリンス剤により洗い流される。リンス工程が終了すると、ステップS5において、乾燥工程が実施され、蒸着マスク16の乾燥が行われる。
このように、蒸着マスク洗浄システム10では、蒸着マスク16を電解洗浄する電解洗浄工程を実施するとともに、洗浄処理において周知の溶剤洗浄工程(ステップS1)と組み合わせて実施している。
【0033】
以上説明した電解洗浄装置13およびそれを用いた蒸着マスク洗浄システム10によれば、次のような効果を得ることができる。
電解洗浄装置13は、水酸化カリウム溶液を電解槽20に貯留し、蒸着マスク16を水酸化カリウム溶液に浸せきした状態で通電部26から通電する。このとき、陽極電極23を蒸着マスク16に接触させているので、蒸着マスク16自体が陽極として機能する。このため、電解洗浄時には、蒸着マスク16の全体から酸素の発生に伴う気泡が生じる。そして、その気泡が蒸着マスク16に設けられている例えばパターン表面やパターン側壁部あるいは細孔などの部位に入り込むことにより、蒸着マスク16は洗浄される。したがって、蒸着マスク16に付着した付着物特に真空蒸着工程において付着した有機EL材料を、蒸着マスク16にダメージを与えるおそれを低減しつつ、蒸着マスク16の表面に付着した付着物を除去することができる。このとき、微細に形成されたパターンなども除去できるので、蒸着マスク16を効率よく洗浄することができる。
【0034】
このとき、電解洗浄装置13は、アルカリ性の電解液を用いているので、アルカリ性の電解液が奏するエッチング効果により、蒸着マスク16に強固に付着した付着物であっても除去することができる。さらに、アルカリ性の電解液として、本実施形態では濃度が3%よりも大きい水酸化カリウム溶液を用いているので、上記した図4および図5にて示したように、蒸着マスク16に付着した付着物を効率よく除去することができる。したがって、蒸着マスク16の洗浄に要する時間や回数を削減でき、洗浄作業の効率を向上させることができる。
【0035】
また、撹拌翼27を回転駆動することにより電解液を撹拌しているので、例えば電極の近傍と電極から離れた部位における電解液の濃度ムラなどを防止でき、効果的に電解洗浄を実施することができる。また、撹拌することにより、電解洗浄工程において生じる気泡をまんべんなく蒸着マスク16に行き渡らせることができ、蒸着マスク16の洗浄効率を向上させることができる。さらに、蒸着マスク16の表面に電解液の循環あるいは対流が形成されることにより、微細なパターン内にも気泡を導くことができる。したがって、電解洗浄時の洗浄効果および洗浄効率をより向上させることができる。
【0036】
また、このような電解洗浄装置13およびそれを用いた蒸着マスク洗浄システム10により洗浄する蒸着マスク洗浄方法によれば、従来構成の溶剤洗浄装置11と電解洗浄装置13とを組み合わせることにより、従来構成の溶剤洗浄装置11だけでは除去しきれなかった蒸着マスク16に強固に付着した有機EL材料などの付着物を、蒸着マスク16にダメージを与えるおそれを低減しつつ、効率よく除去することができる。また、有機EL材料以外の付着物も除去することができる。
【0037】
(その他の実施形態)
本発明は、上記した一実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲において次のように変形または拡張することができる。
一実施形態ではアルカリ性の電解液としてエッチング効果を奏する水酸化カリウム溶液を用いたが、強アルカリ性を有する他のアルカリ性溶液、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)溶液などを用いてもよい。
【0038】
一実施形態で撹拌手段として採用した撹拌翼27の数や設置位置などは図2に例示したものに限定されず、電解槽20内で電解液を撹拌可能な数や設置位置であればよい。また、撹拌手段は撹拌翼27に限定されない。例えば磁力などにより電解槽20の内側と外側とを直接的に接続することなく電解液を撹拌するいわゆるマグネチックスターラーのようなもの、あるいは高圧の電解液を吹き出すジェット噴流式によるものなどを採用することができる。すなわち、撹拌手段は、電解槽20の形状や電解液の量などに応じて適切な数量および方式のものを適宜選択すればよい。この場合、気泡による洗浄効率を高めるため、蒸着マスク16の表面および近傍において流れを形成するように配置するとなおよい。
【符号の説明】
【0039】
図面中、10は蒸着マスク洗浄システム、11は溶剤洗浄装置、13は電解洗浄装置(蒸着マスク洗浄装置)、16は蒸着マスク、20は電解槽(洗浄槽)、21はポンプ(電解液供給部)、22は貯留槽(電解液供給部)、23は陽極電極(電極)、24は陰極電極(電極)、26は通電部、27は撹拌翼(撹拌手段)を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELデバイスの製造工程に用いられる蒸着マスクを洗浄するための蒸着マスク洗浄装置、蒸着マスク洗浄システムおよび蒸着マスク洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンスデバイス(以下、有機ELデバイスと称する)は、発光素子の多くに低分子材料(以下、有機EL材料と称する)が用いられており、その製造時には有機EL材料を基材に蒸着する真空蒸着工程が多く実施されている。この真空蒸着工程では、発光素子のパターン形成すなわち基剤のマスクを目的として、例えば薄膜状や平板状に形成されその表面に微細なパターンが高精度に設けられた蒸着マスクが用いられる。この蒸着マスクは、真空蒸着工程において有機EL材料が付着することから、使用後には蒸着マスクに付着した有機EL材料などの付着物を除去する必要がある。そこで、蒸着マスクを例えば炭化水素系溶剤などに浸せきして付着物を除去するいわゆるウェット式の洗浄方法や、蒸着マスクに付着した付着物をレーザ光やプラズマガスなどを用いて付着物を物理的に除去するいわゆるドライ式の洗浄方法などが提案されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−113043号公報
【特許文献2】特開2010−186167号公報
【特許文献3】特開2003−332052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、溶剤を用いたウェット式の洗浄方法の場合、蒸着時には蒸着マスクに有機EL材料などの付着物が強固に付着すること、また、付着物の量が多いことなどから、蒸着マスクに設けられているパターンの細孔部などに入り込んだ付着物の除去が困難である。また、ドライ式の洗浄方法の場合、付着物を物理的に除去する際の衝撃が大きく、蒸着マスクそのもの、あるいは蒸着マスクに設けられている微細なパターンなどを破損するおそれがある。
【0005】
本発明は、蒸着マスクに強固に付着した付着物を、蒸着マスクにダメージを与えるおそれを低減しつつ、効率よく除去する蒸着マスク洗浄装置、蒸着マスク洗浄システムおよび蒸着マスク洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載した蒸着マスク洗浄装置の発明は、有機ELデバイスの製造工程に用いられる蒸着マスクを洗浄するための蒸着マスク洗浄装置であって、前記蒸着マスクを収容する洗浄槽と、前記洗浄槽にアルカリ性の電解液を供給する電解液供給部と、前記洗浄槽内に設けられている陽極電極および陰極電極の各電極と、前記陽極電極および陰極電極の各電極間に通電する通電部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載した蒸着マスク洗浄装置の発明は、前記アルカリ性の電解液は、その濃度が3%より大きい水酸化カリウム溶液であることを特徴とする。
請求項3に記載した蒸着マスク洗浄装置の発明は、前記洗浄槽に貯留されている前記アルカリ性の電解液を撹拌するための撹拌手段をさらに備えることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載した蒸着マスク洗浄システムの発明は、請求項1から3のいずれか一項記載の蒸着マスク洗浄装置と、有機溶剤を用いて蒸着マスクを洗浄する溶剤洗浄装置と、を組み合わせたことを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載した蒸着マスク洗浄方法の発明は、請求項1から3のいずれか一項記載の蒸着マスク洗浄装置を用いて蒸着マスクを洗浄する電解洗浄工程を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載した蒸着マスク洗浄装置の発明、請求項4に記載した蒸着マスク洗浄システムの発明および請求項5に記載した蒸着マスク洗浄方法の発明によれば、アルカリ性の電解液を貯留した洗浄槽内に設けられている陽極および陰極の電極間に通電することにより、蒸着マスクを電解洗浄する。このとき、各電極には気泡が生じ、その気泡により蒸着マスクの表面やパターンあるいはパターンの側壁部などの微細に形成された部位が洗浄される。したがって、蒸着マスクに付着した有機EL材料などの付着物を、蒸着マスクにダメージを与えるおそれを低減しつつ、効率よく除去することができる。
【0011】
請求項2に記載した蒸着マスク洗浄装置の発明によれば、アルカリ性の電解液として水酸化カリウム溶液を用いているので、水酸化カリウム溶液によるエッチング効果によって蒸着マスクに強固に付着した付着物を除去することができる。また、水酸化カリウム溶液の濃度を3%よりも大きくすることにより、より効率よく付着物を除去することができ、洗浄効率を向上させることができる。
【0012】
請求項3に記載した蒸着マスク洗浄装置の発明によれば、電解液を撹拌しつつ電解洗浄を実施するので、例えば電極に近接する部位と電極から離れた部位とにおける電解液の濃度にムラが生じることを防止できるとともに、電解洗浄工程に各電極で生じる気泡をまんべんなく蒸着マスクの全体に行き渡らせることができる。したがって、電解洗浄を効率よく実施することができるとともに、蒸着マスクの洗浄効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態による電解洗浄装置を用いた蒸着マスク洗浄システムの構成を概略的に示す図
【図2】一実施形態による電解洗浄装置を模式的に示す図
【図3】一実施形態による蒸着マスクの洗浄処理の流れを示す図
【図4】一実施形態による水酸化カリウム溶液の濃度と剥離程度との関係を示す図
【図5】一実施形態による撹拌の有無と剥離程度との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態による蒸着マスク洗浄装置、蒸着マスク洗浄システムおよび蒸着マスク洗浄方法について、図1から図5を参照しながら説明する。
図1に示すように、蒸着マスク洗浄システム10は、溶剤洗浄装置11、第一リンス装置12、電解洗浄装置13、第二リンス装置14および乾燥装置15を備えている。この蒸着マスク洗浄システム10は、蒸着マスク16を洗浄する。本実施形態で想定している蒸着マスク16は、有機ELデバイスの製造工程における真空蒸着工程において有機EL材料を蒸着する基材をマスクするためのものであり、図示は省略するが、その表面に微細なパターンが高精度に形成されている。蒸着マスク16は、例えばニッケルおよびその合金あるいはステンレスなど導電性を有する材料により形成されている。本実施形態の蒸着マスク16は、その外形が概ね65mm×75mm程度、厚みが概ね1mm程度の薄膜状に形成されている。なお、蒸着マスク16は、対象となる基材の大きさにより様々な大きさ及び厚みのものが用いられる。つまり、本実施形態の、蒸着マスク洗浄システム10は、様々な大きさの蒸着マスク16を洗浄対象としている。なお、蒸着マスク洗浄システム10には、図1に示す各装置間で蒸着マスク16を搬送する図示しない搬送装置、および蒸着マスク洗浄システム10の全体を制御するための図示しない主制御装置なども設けられている。
【0015】
溶剤洗浄装置11は、周知の構成もののであり、例えば炭化水素系の洗浄溶剤やN−メチルピロリドンなどの溶剤特には有機溶剤を用いて蒸着マスク16を洗浄する。図1には模式的に蒸着マスク16を浸せきする槽型の溶剤洗浄装置11を示しているが、溶剤洗浄装置11は、例えば溶剤を蒸着マスク16に吐出するいわゆるシャワー型のものを採用してもよい。また、溶剤洗浄装置11は、いわゆる超音波洗浄を行う超音波洗浄装置と組み合わせて用いてもよい。さらには、洗浄工程における洗浄効率すなわち洗浄のスループットを向上させるために溶剤洗浄装置11を複数台設けた構成としてもよい。
【0016】
第一リンス装置12は、周知の構成のものであり、溶剤洗浄装置11において蒸着マスク16に付着した溶剤を例えば純水などのリンス剤により洗い流す。換言すると、第一リンス装置12は、蒸着マスク16をリンスする。図1では1台の第一リンス装置12を示したが、一般的に第一リンス装置12は複数台設けられており、蒸着マスク16を段階的にリンスする構成となっている。この第一リンス装置12は、例えば、図1に示すような蒸着マスク16を浸せきする槽型のもの、あるいは、蒸着マスク16にリンス剤を吐出するシャワー型のものなどを採用できる。また、槽型およびシャワー型のものを組み合わせた構成としてもよい。
【0017】
電解洗浄装置13は、特許請求の範囲に記載した蒸着マスク洗浄装置に相当し、蒸着マスク16を電解洗浄する。つまり、本実施形態の蒸着マスク洗浄システム10は、有機溶剤を用いて蒸着マスク16を洗浄する周知の溶剤洗浄装置11と、蒸着マスク16を電解洗浄する電解洗浄装置13とを組み合わせた構成となっている。電解洗浄装置13は、図2に示すように、電解槽20、ポンプ21、貯留槽22、陽極電極23および陰極電極24の各電極、マスク保持部25、通電部26および2つの撹拌翼27を備えている。
【0018】
電解槽20は、特許請求の範囲に記載した洗浄槽に相当し、蒸着マスク16を収容する。また、電解槽20は、ポンプ21によって貯留槽22に貯留されているアルカリ性の電解液が供給される。本実施形態では、アルカリ性の電解液として、エッチング効果を奏する水酸化カリウム(KOH)溶液を用いている。また、水酸化カリウム溶液は、後述するように濃度が3%より大きいものを用いている。これらポンプ21および貯留槽22は、特許請求の範囲に記載した電解液供給部を構成している。この電解槽20には、後述する電解洗浄工程において、蒸着マスク16ならびに陽極電極23および陰極電極24の各電極を浸せきできるだけの電解液が貯留される。
【0019】
陽極電極23および陰極電極24の各電極は、電解槽20の内部に設けられている。このうち、陽極電極23は、電解槽20の内部に設けられ蒸着マスク16を保持するためのマスク保持部25に取り付けられている。この陽極電極23は、マスク保持部25に保持された蒸着マスク16に接触する位置関係となるように設けられている。つまり、電解洗浄時には、導電性を有する蒸着マスク16自体が陽極として機能する。陰極電極24は、電解槽20の内壁に、陽極電極23と離間した状態で設けられている。これら陽極電極23および陰極電極24は、通電部26に接続している。通電部26は、陽極電極23および陰極電極24の各電極間に通電するためのいわゆる直流電源装置である。本実施形態の場合、通電部26は、電解洗浄工程において、12Vより大きい直流電圧、4Aより大きい直流電流を安定して通電可能に構成されている。
【0020】
ここで、電解洗浄について簡単に説明する。電解液を貯留した状態で通電部26から通電を行うと、各電極では以下のような化学反応が生じる。
陰極(−極)側:2H2O+2e- → H2+2OH-
陽極(+極)側:2OH → H2O+1/2O2+2e-
このように電解槽20の内部では、陰極側では水分子が還元されて水素が発生し、陽極側では水酸化イオンが酸化されて水分子および酸素が発生する。このとき、上記したように蒸着マスク16自体が陽極として機能することから、酸素は蒸着マスク16全体において発生する。そして、発生した酸素により蒸着マスク16の表面に気泡が生じ、その気泡により蒸着マスク16の表面に付着した汚れや付着物が除去される。なお、蒸着マスク16の表面においては酸素の発生により酸化反応が生じるものの、付着物が付着することはない。
【0021】
撹拌翼27は、電解槽20内に設けられており、図示しない回転駆動部に接続されている。撹拌翼27は、電解洗浄工程には回転駆動部により回転駆動される。このとき、電解槽20内には、撹拌翼27によって対流や循環などの流れが形成される。つまり、電解槽20内の電解液は、撹拌翼27により撹拌される。この撹拌翼27は、特許請求の範囲に記載した撹拌手段に相当する。
第二リンス装置14は、図1に示すように、電解洗浄装置13にて電解洗浄された蒸着マスク16をリンスする。この第二リンス装置14は、基本的な構成は上記した第一リンス装置12と共通しており、蒸着マスク16を例えば純水などによりリンスする。なお、第二リンス装置14も、第一リンス装置12と同様に複数台設ける構成としてもよい。
【0022】
乾燥装置15は、第二リンス装置14でリンスされた蒸着マスク16を乾燥させる。乾燥装置15は、送風機28から清浄な窒素ガスなどの不活性ガスを蒸着マスク16に吹き付けることにより蒸着マスク16を乾燥させる。この乾燥装置15は、例えば自然乾燥によって蒸着マスク16を乾燥させる構成、あるいは送風機28と自然乾燥とを組み合わせた構成などであってもよい。また、乾燥装置15が設置されている乾燥室内の温度を調整することにより、乾燥効率を向上させる構成としてもよい。
このような構成の蒸着マスク洗浄システム10は、その全体あるいは一部の装置がクリーンルーム内に設けられており、蒸着マスク16の洗浄を行っている。
【0023】
次に、上記した構成の電解洗浄装置13およびそれを用いた蒸着マスク洗浄システム10の作用について洗浄処理の流れとともに説明する。
図3は、蒸着マスク洗浄システム10による洗浄処理の大まかな流れを示している。蒸着マスク16の洗浄処理では、まず、ステップS1において溶剤洗浄工程が実施される。この溶剤洗浄工程は、上記した溶剤洗浄装置11による蒸着マスク16の洗浄が行われる。なお、溶剤洗浄工程を実施する前に、プレシャワー装置にて蒸着マスク16に付着したゴミなどを予め除去する工程を含めてもよい。
溶剤洗浄工程が終了すると、ステップS2において、溶剤リンス洗浄工程が実施される。このリンス工程では、溶剤洗浄工程で蒸着マスク16を洗浄した溶剤が純水などにより洗い流される。
【0024】
リンス工程が終了すると、ステップS3において、電解洗浄工程が実施される。つまり、本実施形態による蒸着マスク洗浄方法では、水酸化カリウム溶液のエッチング効果に着目し、従来の溶剤洗浄工程に追加して電解洗浄工程を実施している。この電解洗浄工程では、上記したように電解液である水酸化カリウム溶液を洗浄槽に貯留し、蒸着マスク16を水酸化カリウム溶液に浸せきし、撹拌翼27により水酸化カリウム溶液を撹拌した状態で、通電部26による通電が行われる。ここで、発明者らは、蒸着マスク16の洗浄度合いが水酸化カリウム溶液の濃度および通電部26による通電量(電圧値、電流値)により変化することを見いだした。
【0025】
図4は、電圧値を12Vに一定にした状態で水酸化カリウム溶液の濃度および通電する電流値を変化させた場合における剥離程度の変化を示す試験データである。ここで、「剥離程度」とは、蒸着マスク16の洗浄度合いを表す指標であり、洗浄後によって蒸着マスク16から付着物、本実施形態の場合は蒸着工程で付着する有機EL材料、が剥離した度合いを数値化したものである。例えば剥離程度が「不可」は、電解洗浄を実施しても、試験的に有機EL材料を付着させたサンプル品の蒸着マスク16ではそれほど剥離しなかった状態(再洗浄が必要な状態)を示している。また、剥離程度の数値が大きくなる程付着物が除去されたことを示しており、その数値が「5」で完全に除去されたことを示している。
【0026】
また、「撹拌なし」と「撹拌あり」のデータは、撹拌翼27を駆動した場合と駆動しなかった場合とにおけるデータ、すなわち、水酸化カリウム溶液を撹拌した場合と撹拌しなかった場合とにおけるデータを示している。このうち、「撹拌あり」のデータは、通電した状態で10分間の撹拌を行った場合のデータである。なお、本実施形態で電圧値を12Vとした理由は、電圧値を12Vよりも小さくすると通電時の電流値が安定しなかったためである。この電圧値は通電部26の仕様や洗浄対象となる蒸着マスク16の大きさや形状などにより変化する可能性があるため、例えば事前試験などにより適切な電圧値を設定すればよい。すなわち、電圧値は12Vに限定されるものではない。
【0027】
この図4に示すように、水酸化カリウム溶液の濃度が1%の場合、電流値を変化させても剥離程度はいずれも不可であった。また、水酸化カリウム溶液を撹拌しても剥離程度は不可であった。つまり、水酸化カリウム溶液の濃度が1%の場合には、サンプル品の蒸着マスク16では電解洗浄を実施しても付着物をほとんど除去できないことが明らかになった。なお、サンプル品では不可であったが、気泡後からによる洗浄および水酸化カリウム溶液のエッチング効果は期待できる。そのため、例えば有機EL材料の付着量が少ないかそれほど強固に付着していない蒸着マスク16の洗浄、あるいは、パターンの側壁部など微細な部位に付着した有機EL材料を気泡の力により除去する目的には使用可能である。
【0028】
これに対して、水酸化カリウム濃度が3%の場合、撹拌なしの状態では、電流値が1Aで剥離程度が1、電流値が2Aで剥離程度が1、電流値が3Aで剥離程度が2、電流値が4Aで剥離程度が3.5、電流値が5Aで剥離程度が4.5となり、付着物を除去することができること、および、電流値を大きくするほど剥離程度が大きくなることが明らかになった。一方、撹拌ありの状態では、電流値が1Aで剥離程度が1、電流値が2Aで剥離程度が1.5、電流値が3Aで剥離程度が3、電流値が4Aで剥離程度が4、電流値が5Aで剥離程度が4.8となり、撹拌なしの場合に比べて剥離程度が大きくなることが明らかになった。
【0029】
さらに、水酸化カリウム濃度が5%の場合、図4および図5に示すように、撹拌なしの状態では、電流値が1Aで剥離程度が1、電流値が2Aで剥離程度が1.5、電流値が3Aで剥離程度が2、電流値が4Aで剥離程度が3、電流値が5Aで剥離程度が4.5となり、付着物を除去することができ、電流値を大きくするほど剥離程度が大きくなる傾向にあることが明らかになった。一方、撹拌ありの状態では、電流値が1Aで剥離程度が1.2、電流値が2Aで剥離程度が1.7、電流値が3Aで剥離程度が2.2、電流値が4Aで剥離程度が4、電流値が5Aで剥離程度が4.7となり、撹拌なしの場合に比べて剥離程度が大きくなる傾向にあることが明らかになった。
【0030】
このように、水酸化カリウム溶液の濃度が概ね3%よりも大きくすることにより蒸着マスク16の付着物を除去可能となることが確認できた。また、水酸化カリウム溶液を撹拌することにより、撹拌しない場合に比べて剥離程度が大きくなる傾向にあることも確認できた。そして、水酸化カリウム溶液の濃度を3%よりも大きくした場合(例えば5%にした場合)であっても、剥離程度にはそれほどの差違が生じない傾向にあることが確認できた。
【0031】
また、水酸化カリウム溶液の濃度が同じ場合には、電流値を大きくすることにより、具体的には概ね3A以上とすることにより実用上問題ない程度(剥離程度が3以上)での付着物の除去が可能となることが確認できた。さらに、より好ましくは、電流値を4A以上とすることにより、撹拌なしの場合であっても実用上問題ない程度で付着物の除去が可能となることが確認できた。なお、電流値をさらに大きくしても同様の効果は得られるものの、蒸着マスク16自体の発熱が大きくなる。そのため、電解洗浄工程においては上記したように水素が発生することから、作業の安全性などを考慮して上限となる電流値を適宜選択するようにするとよい。
【0032】
電解洗浄工程が終了すると、ステップS4において、リンス工程が実施される。このリンス工程は、ステップS2のリンス工程と概ね共通する態様にて実施され、電解洗浄工程で蒸着マスク16に付着した電解液がリンス剤により洗い流される。リンス工程が終了すると、ステップS5において、乾燥工程が実施され、蒸着マスク16の乾燥が行われる。
このように、蒸着マスク洗浄システム10では、蒸着マスク16を電解洗浄する電解洗浄工程を実施するとともに、洗浄処理において周知の溶剤洗浄工程(ステップS1)と組み合わせて実施している。
【0033】
以上説明した電解洗浄装置13およびそれを用いた蒸着マスク洗浄システム10によれば、次のような効果を得ることができる。
電解洗浄装置13は、水酸化カリウム溶液を電解槽20に貯留し、蒸着マスク16を水酸化カリウム溶液に浸せきした状態で通電部26から通電する。このとき、陽極電極23を蒸着マスク16に接触させているので、蒸着マスク16自体が陽極として機能する。このため、電解洗浄時には、蒸着マスク16の全体から酸素の発生に伴う気泡が生じる。そして、その気泡が蒸着マスク16に設けられている例えばパターン表面やパターン側壁部あるいは細孔などの部位に入り込むことにより、蒸着マスク16は洗浄される。したがって、蒸着マスク16に付着した付着物特に真空蒸着工程において付着した有機EL材料を、蒸着マスク16にダメージを与えるおそれを低減しつつ、蒸着マスク16の表面に付着した付着物を除去することができる。このとき、微細に形成されたパターンなども除去できるので、蒸着マスク16を効率よく洗浄することができる。
【0034】
このとき、電解洗浄装置13は、アルカリ性の電解液を用いているので、アルカリ性の電解液が奏するエッチング効果により、蒸着マスク16に強固に付着した付着物であっても除去することができる。さらに、アルカリ性の電解液として、本実施形態では濃度が3%よりも大きい水酸化カリウム溶液を用いているので、上記した図4および図5にて示したように、蒸着マスク16に付着した付着物を効率よく除去することができる。したがって、蒸着マスク16の洗浄に要する時間や回数を削減でき、洗浄作業の効率を向上させることができる。
【0035】
また、撹拌翼27を回転駆動することにより電解液を撹拌しているので、例えば電極の近傍と電極から離れた部位における電解液の濃度ムラなどを防止でき、効果的に電解洗浄を実施することができる。また、撹拌することにより、電解洗浄工程において生じる気泡をまんべんなく蒸着マスク16に行き渡らせることができ、蒸着マスク16の洗浄効率を向上させることができる。さらに、蒸着マスク16の表面に電解液の循環あるいは対流が形成されることにより、微細なパターン内にも気泡を導くことができる。したがって、電解洗浄時の洗浄効果および洗浄効率をより向上させることができる。
【0036】
また、このような電解洗浄装置13およびそれを用いた蒸着マスク洗浄システム10により洗浄する蒸着マスク洗浄方法によれば、従来構成の溶剤洗浄装置11と電解洗浄装置13とを組み合わせることにより、従来構成の溶剤洗浄装置11だけでは除去しきれなかった蒸着マスク16に強固に付着した有機EL材料などの付着物を、蒸着マスク16にダメージを与えるおそれを低減しつつ、効率よく除去することができる。また、有機EL材料以外の付着物も除去することができる。
【0037】
(その他の実施形態)
本発明は、上記した一実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲において次のように変形または拡張することができる。
一実施形態ではアルカリ性の電解液としてエッチング効果を奏する水酸化カリウム溶液を用いたが、強アルカリ性を有する他のアルカリ性溶液、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)溶液などを用いてもよい。
【0038】
一実施形態で撹拌手段として採用した撹拌翼27の数や設置位置などは図2に例示したものに限定されず、電解槽20内で電解液を撹拌可能な数や設置位置であればよい。また、撹拌手段は撹拌翼27に限定されない。例えば磁力などにより電解槽20の内側と外側とを直接的に接続することなく電解液を撹拌するいわゆるマグネチックスターラーのようなもの、あるいは高圧の電解液を吹き出すジェット噴流式によるものなどを採用することができる。すなわち、撹拌手段は、電解槽20の形状や電解液の量などに応じて適切な数量および方式のものを適宜選択すればよい。この場合、気泡による洗浄効率を高めるため、蒸着マスク16の表面および近傍において流れを形成するように配置するとなおよい。
【符号の説明】
【0039】
図面中、10は蒸着マスク洗浄システム、11は溶剤洗浄装置、13は電解洗浄装置(蒸着マスク洗浄装置)、16は蒸着マスク、20は電解槽(洗浄槽)、21はポンプ(電解液供給部)、22は貯留槽(電解液供給部)、23は陽極電極(電極)、24は陰極電極(電極)、26は通電部、27は撹拌翼(撹拌手段)を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ELデバイスの製造工程に用いられる蒸着マスクを洗浄するための蒸着マスク洗浄装置であって、
前記蒸着マスクを収容する洗浄槽と、
前記洗浄槽にアルカリ性の電解液を供給する電解液供給部と、
前記洗浄槽内に設けられている陽極電極および陰極電極の各電極と、
前記陽極電極および陰極電極の各電極間に通電する通電部と、
を備えることを特徴とする蒸着マスク洗浄装置。
【請求項2】
前記アルカリ性の電解液は、その濃度が3%より大きい水酸化カリウム溶液であることを特徴とする請求項1記載の蒸着マスク洗浄装置。
【請求項3】
前記洗浄槽に貯留されている前記アルカリ性の電解液を撹拌するための撹拌手段をさらに備えることを特徴とする請求項1または2記載の蒸着マスク洗浄装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項記載の蒸着マスク洗浄装置と、
有機溶剤を用いて蒸着マスクを洗浄する溶剤洗浄装置と、を組み合わせたことを特徴とする蒸着マスク洗浄システム。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項記載の蒸着マスク洗浄装置を用いて蒸着マスクを洗浄する電解洗浄工程を実施することを特徴とする蒸着マスク洗浄方法。
【請求項1】
有機ELデバイスの製造工程に用いられる蒸着マスクを洗浄するための蒸着マスク洗浄装置であって、
前記蒸着マスクを収容する洗浄槽と、
前記洗浄槽にアルカリ性の電解液を供給する電解液供給部と、
前記洗浄槽内に設けられている陽極電極および陰極電極の各電極と、
前記陽極電極および陰極電極の各電極間に通電する通電部と、
を備えることを特徴とする蒸着マスク洗浄装置。
【請求項2】
前記アルカリ性の電解液は、その濃度が3%より大きい水酸化カリウム溶液であることを特徴とする請求項1記載の蒸着マスク洗浄装置。
【請求項3】
前記洗浄槽に貯留されている前記アルカリ性の電解液を撹拌するための撹拌手段をさらに備えることを特徴とする請求項1または2記載の蒸着マスク洗浄装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項記載の蒸着マスク洗浄装置と、
有機溶剤を用いて蒸着マスクを洗浄する溶剤洗浄装置と、を組み合わせたことを特徴とする蒸着マスク洗浄システム。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項記載の蒸着マスク洗浄装置を用いて蒸着マスクを洗浄する電解洗浄工程を実施することを特徴とする蒸着マスク洗浄方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2013−71062(P2013−71062A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212520(P2011−212520)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(594191434)東朋テクノロジー株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(594191434)東朋テクノロジー株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
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