説明

蒸着方法及び蒸着装置

【課題】るつぼや冷却水が不要となり、構造を簡素化するとともに、投入エネルギを低減し、更に成膜時におけるスプラッシュの発生を防止する。
【解決手段】チャンバ14内で基板11に対向して設けられた蒸着材13から粒子17を蒸発させて基板表面に堆積させることにより基板表面に保護膜を形成する。上記蒸着材をチャンバ内で固体のまま露出した状態で宙に浮かせる。具体的には、蒸着材が中心に孔を有する円板である。先ず複数個の蒸着材を一本のロッドにそれぞれ孔を嵌入させることによって一列に配置させる。次に複数個の蒸着材を配置させたロッドをチャンバ内に挿入して水平に保持する。更にこのロッド先端に配置された蒸着材の外周面にビーム16を照射して蒸着材から粒子を蒸発させ、ロッド先端に配置された蒸着材が消費されると次に配置された蒸着材をロッド先端に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AC型のプラズマディスプレイパネルに用いられる膜や、透明導電膜の成膜等に好適な蒸着材を蒸着する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶(Liquid Crystal Display : LCD)をはじめとして、各種の平面ディスプレイの研究開発と実用化はめざましく、その生産も急増している。カラープラズマディスプレイパネル(PDP)についても、その開発と実用化の動きが最近活発になっている。PDPは、電極構造の点で金属電極がガラス誘電体層で覆われるAC型と、放電空間に金属電極が露出しているDC型とに分類されるが、AC型が主流である。このAC型PDPでは、イオン衝撃のスパッタリングによりガラス誘電体層の表面が変質して放電開始電圧が上昇しないように、ガラス誘電体層表面に高い昇華熱を持つ保護膜をコーティングする必要がある。この保護膜は直接放電空間と接しているため、耐スパッタリング性の他に複数の重要な役割を担っている。即ち、保護膜に求められる特性は、放電時の耐スパッタリング性、高い二次電子放出能、絶縁性及び光透過率などである。これらの条件を満たす材料として、一般的にMgOが挙げられ、このMgOを蒸着材としてMgO膜を成膜する装置としてPVD装置が知られている(例えば、引用文献1参照。)。
【0003】
このPVD装置は、金属製の水冷るつぼの内部で加熱対象を電磁力により浮揚して溶解するコールドクルーシブル法を、PVD(蒸着、イオンプレーティング)技術に適用したものであり、冷却機構を有するるつぼと、るつぼの上部に位置する基板ホルダと、るつぼの外周に設けられた誘導加熱装置とを備える。またPVD装置は、るつぼと基板の中間において、るつぼで溶解されて発生した原料の蒸気をイオン化する高周波コイルを設けてイオンプレーティング装置としても用いられる。更に雰囲気ガス導入機構、真空引き機構又は加圧機構のいずれか一つを少なくとも備えることにより、種々の雰囲気、圧力に調整して成膜できる。このように構成されたPVD装置では、るつぼの周囲に配置した誘導コイルに交流電流(例えば、約1kHzの高周波)を印加すると交流磁界が発生し、るつぼとその内部の加熱対象(蒸着原料)にうず電流が誘起され、両者に斥力が働くため、加熱対象がるつぼ内で浮揚した状態になるとともに、誘起されたうず電流がジュール熱により加熱対象を溶融する。この結果、加熱対象がるつぼと非接触で溶解されるため、るつぼからの汚染を抑制できるようになっている。
【特許文献1】特開平8−104981号公報(段落[0002]、段落[0005]、段落[0007])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の特許文献1に示されたPVD装置では、るつぼからの汚染を抑制できるけれども、るつぼや冷却水を必要とするため、装置の構造が複雑化する不具合があった。また上記従来の特許文献1に示されたPVD装置では、加熱対象(蒸着原料)を誘導コイルを用いた電磁力で浮揚させるとともに、加熱対象(蒸着原料)に誘起されたうず電流で発生するジュール熱により加熱対象を融解するため、極めて多くのエネルギを必要とする問題点もあった。
【0005】
本発明の目的は、るつぼや冷却水が不要となり、構造を簡素化できるとともに、投入エネルギを低減できる、蒸着方法及び蒸着装置を提供することにある。本発明の別の目的は、成膜時にスプラッシュの発生を防止できる、蒸着方法及び蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、図1及び図2に示すように、チャンバ14内で基板11に対向して蒸着材13を設け、蒸着材13から粒子17を蒸発させて基板11表面に堆積させることにより基板11表面に保護膜を形成する蒸着方法の改良である。その特徴ある構成は、蒸着材13をチャンバ14内で固体のまま露出した状態で宙に浮かせたところにある。この請求項1に記載された蒸着方法では、蒸着材13を融解せずに固体のまま露出した状態で宙に浮かせたので、るつぼや冷却水が不要となって構造を簡素化できる。また蒸着材13にビーム16を照射するときに蒸着材13が露出した状態であってしかも宙に浮いた状態であるため、蒸着材13以外の部材にビーム16が照射されない。このため蒸発した粒子17に不純物が混入しないので、基板11表面に粒子が堆積して形成された保護膜の純度の低下を防止できる。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、更に図1〜図3に示すように、蒸着材13が中心に孔13a又は切欠き凹部を有する円板であって、複数個の蒸着材13を一本のロッド24にそれぞれ孔13a又は切欠き凹部を嵌入させることによって一列に配置させ、複数個の蒸着材13を配置させたロッド24をチャンバ14内に挿入して水平に保持し、この水平に保持したロッド24先端に配置された蒸着材13の外周面にビーム16を照射して蒸着材13から粒子17を蒸発させ、このビーム16の照射による熱でロッド24先端の蒸着材13がこの蒸着材13の次に配置された蒸着材13に結合されたとき蒸着材13の位置を固定したままロッド24の先端を次に配置された蒸着材13まで引込め、上記ビーム16の照射されている蒸着材13が消費されて消失すると上記次に配置された蒸着材13が上記消失した蒸着材13の位置に至るように複数個の蒸着材13を移動させることを特徴とする。この請求項2に記載された蒸着方法では、複数個の蒸着材13を嵌入したロッド24をチャンバ14内に挿入することにより、蒸着材13を融解せずに固体のまま露出した状態で宙に浮かせることができるので、るつぼや冷却水を必要とし構造が複雑化する従来のPVD装置と比較して、るつぼや冷却水が不要となって構造を簡素化できる。またロッド24先端に配置された蒸着材13の外周面にビーム16を照射すると、蒸着材13から粒子17が蒸発してこの蒸着材13が消費される。ここで上記ビーム16の照射による熱でロッド24先端の蒸着材13がこの蒸着材13の次に配置された蒸着材13に結合される。このとき蒸着材13の位置を固定したままロッド24の先端を次に配置された蒸着材13まで引込めるので、ビーム16の照射されている蒸着材13が消費されて消失しても、ロッド24が消費されることはない。上記ビーム16の照射されている蒸着材13が消失すると、次に配置された蒸着材13がこの消失した蒸着材13の位置に至るように複数個の蒸着材13を移動させる。このため蒸発した粒子17に不純物が混入しないので、基板11表面に粒子17が堆積して形成された保護膜の純度の低下を防止できるとともに、ロッド24の消耗を阻止できるので、ロッド24を繰返し使用できる。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明であって、更に図1〜図3に示すように、蒸着材13が中心に孔13aを有し、蒸着材13へのビーム16の照射中にロッド24を蒸着材13とともに回転させることを特徴とする。この請求項3に記載された蒸着方法では、ロッド24の回転により蒸着材13も回転するので、ビーム16が蒸着材13の外周面に均一に照射される。この結果、蒸着材13が孔13aを中心に略均一に減少するので、安定して成膜できる。またビーム16の蒸着材13への照射時に蒸着材13が加熱して蒸着材13内部に熱歪みが発生するけれども、この熱歪みが蒸着材13の孔13aで吸収されて蒸着材13自体に熱応力が殆ど発生しないので、蒸着材13が破損することはなく、スプラッシュの発生を防止できる。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項2に係る発明であって、更に図5に示すように、蒸着材73が中心に切欠き凹部73aを有し、蒸着材73へのビームの照射中にロッド73を蒸着材73とともに揺動させることを特徴とする。この請求項4に記載された蒸着方法では、ロッド74の揺動とともに蒸着材73も揺動するので、ビームが蒸着材73の外周面に均一に照射される。この結果、蒸着材73が切欠き凹部73aを中心に略均一に減少するので、安定して成膜できる。またビームの蒸着材73への照射時に蒸着材73が加熱して蒸着材73内部に熱歪みが発生するけれども、この熱歪みが蒸着材73の切欠き凹部73aで吸収されて蒸着材73自体に熱応力が殆ど発生しないので、蒸着材73が破損することはなく、スプラッシュの発生を防止できる。
【0010】
請求項5に係る発明は、図1及び図2に示すように、基板11を保持する基板保持手段12と、基板保持手段12により保持された基板11に対向して設けられた蒸着材13と、基板保持手段12と蒸着材13とを収容するチャンバ14と、蒸着材13にビーム16を照射することにより蒸着材13から蒸発した粒子17を基板11表面に堆積させることにより基板11表面に保護膜を形成する蒸発堆積手段18とを備えた蒸着装置の改良である。その特徴ある構成は、蒸着材13がチャンバ14内で固体のまま露出した状態で宙に浮かせて保持する蒸着材保持手段23を更に備えたところにある。この請求項5に記載された蒸着装置では、蒸着材13を融解せずに固体のまま露出した状態で蒸着材保持手段23により宙に浮かせて保持するので、るつぼや冷却水が不要となって構造を簡素化できる。また蒸着材13に蒸発堆積手段18によりビーム16を照射するときに蒸着材13が蒸着材保持手段23により露出した状態であってしかも宙に浮いた状態に保持されているため、蒸着材13以外の部材にビーム16が照射されない。このため蒸発した粒子17に不純物が混入しないので、基板11表面に堆積して形成された保護膜の純度が低下するのを防止できる。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明であって、更に図1〜図3に示すように、蒸着材13が中心に孔13a又は切欠き凹部を有する円板であって、蒸着材保持手段23が、複数個の蒸着材13の孔13a又は切欠き凹部をそれぞれ嵌入させることによって複数個の蒸着材13を一列に配置させる一本のロッド24と、複数個の蒸着材13を配置させたロッド24をチャンバ14内に挿入して水平に保持するロッド保持機構26と、水平に保持されたロッド24先端に配置された蒸着材13の外周面に蒸発堆積手段18によりビーム16を照射して蒸着材13から粒子を蒸発させたときであってビーム16の照射による熱でロッド24先端の蒸着材がこの蒸着材13の次に配置された蒸着材13に結合されたとき蒸着材13の位置を固定したままロッド24の先端を次に配置された蒸着材13まで引込めるとともに上記ビームの照射されている蒸着材13が消費されて消失したとき次に配置された蒸着材13が上記消失した蒸着材13の位置に至るように複数個の蒸着材を移動させる送り機構27とを有することを特徴とする。この請求項6に記載された蒸着装置では、複数個の蒸着材13を嵌入したロッド24をロッド保持機構26にてチャンバ14内に挿入し水平に保持することにより、蒸着材13を融解せずに固体のまま露出した状態で宙に浮かせることができるので、るつぼや冷却水を必要とし構造が複雑化する従来のPVD装置と比較して、るつぼや冷却水が不要となって構造を簡素化できる。またロッド24先端に配置された蒸着材13の外周面に蒸発堆積手段18にてビーム16を照射することにより蒸着材13から粒子17を蒸発させて蒸着材13が消費される。このとき送り機構27が蒸着材13の位置を固定したままロッド24の先端を次に配置された蒸着材13まで引込めるので、ビーム16の照射されている蒸着材13が消費されて消失しても、ロッド24が消費されることはない。そして上記ビーム16の照射されている蒸着材13が消失すると、次に配置された蒸着材13がこの消失した蒸着材13の位置に至るように送り機構27により複数個の蒸着材13が移動される。このため蒸発した粒子17に不純物が混入しないので、基板11表面に粒子17が堆積して形成された保護膜の純度が低下するのを防止できるとともに、ロッド24の消耗を阻止できるので、ロッド24を繰返し使用できる。
【0012】
請求項7に係る発明は、請求項6に係る発明であって、更に図1〜図3に示すように、蒸着材13が中心に孔13aを有し、蒸着材保持手段23が、蒸着材13へのビーム16の照射中にロッド24を蒸着材13とともに回転させる回転機構を更に有することを特徴とする。この請求項7に記載された蒸着装置では、ロッド24の回転機構による回転に伴って蒸着材13も回転するので、ビーム16が蒸着材13の外周面に均一に照射される。この結果、蒸着材13が孔13aを中心に略均一に減少するので、安定して成膜できる。またビーム16の蒸着材13への照射時に蒸着材13が加熱して蒸着材13内部に熱歪みが発生するけれども、この熱歪みが蒸着材13の孔13aで吸収されて蒸着材13自体に熱応力が殆ど発生しないので、蒸着材13が破損することはなく、スプラッシュの発生を防止できる。
【0013】
請求項8に係る発明は、請求項6に係る発明であって、更に図5に示すように、蒸着材73が中心に切欠き凹部73aを有し、蒸着保持手段が、蒸着材73へのビームの照射中にロッド74を蒸着材とともに揺動させる揺動機構を更に有することを特徴とする。この請求項8に記載された蒸着装置では、蒸着材73の揺動機構による揺動に伴ってロッド74も揺動するので、ビームが蒸着材73の外周面に均一に照射される。この結果、蒸着材73が切欠き凹部73aを中心に略均一に減少するので、安定して成膜できる。またビームの蒸着材73への照射時に蒸着材73が加熱して蒸着材73内部に熱歪みが発生するけれども、この熱歪みが蒸着材73の切欠き凹部73aで吸収されて蒸着材73自体に熱応力が殆ど発生しないので、蒸着材73が破損することはなく、スプラッシュの発生を防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、チャンバ内で基板に対向する蒸着材を固体のまま露出した状態で宙に浮かせ、この蒸着材から粒子を蒸発させて基板表面に堆積させることにより基板表面に保護膜を形成するので、蒸着材を融解せず、るつぼや冷却水が不要となって構造を簡素化できる。また蒸着材にビームを照射するときに蒸着材が露出した状態であってしかも宙に浮いた状態であるため、蒸着材以外の部材にビームが照射されない。この結果、蒸発した粒子に不純物が混入しないので、基板表面に堆積した保護膜の純度が低下するのを防止できる。また蒸着材を誘導コイルを用いた電磁力で浮揚させたり、蒸着材に誘起されたうず電流で発生するジュール熱により蒸着材を融解するために、極めて多くのエネルギを必要とする従来のPVD装置と比較して、本発明では、蒸着材を融解せずに固体のまま宙に浮かせた状態でこの蒸着材から粒子を蒸発させるので、投入エネルギを低減できる。
【0015】
また蒸着材が中心に孔等を有する円板であって、複数個の蒸着材を一本のロッドにそれぞれ孔等を嵌入させることによって一列に配置させ、複数個の蒸着材を配置させたロッドをチャンバ内に挿入して水平に保持し、このロッド先端に配置された蒸着材の外周面にビームを照射して蒸着材から粒子を蒸発させ、このビームの照射による熱でロッド先端の蒸着材がこの蒸着材の次に配置された蒸着材に結合されたとき蒸着材の位置を固定したままロッドの先端を次に配置された蒸着材まで引込め、更に上記ビームの照射されている蒸着材が消費されて消失すると上記次に配置された蒸着材が上記消失した蒸着材の位置に至るように複数個の蒸着材を移動させれば、蒸着材を融解せずに固体のまま露出した状態で宙に浮かせることができるので、るつぼや冷却水を必要とし構造が複雑化する従来のPVD装置と比較して、るつぼや冷却水が不要となって構造を簡素化できるとともに、ビームがロッドに照射されない。この結果、蒸発した粒子に不純物が混入しないので、基板表面に粒子が堆積して形成された保護膜の純度の低下を防止できるとともに、ロッドの消耗を阻止できるので、ロッドを繰返し使用できる。また蒸着材へのビームの照射中にロッドを蒸着材とともに回転させたり或いは揺動させれば、蒸着材が孔又は切欠き凹部を中心に略均一に減少するので、安定して成膜できるとともに、ビームの蒸着材への照射時に蒸着材内部に熱歪みが発生するけれども、この熱歪みが孔又は切欠き凹部により吸収されて蒸着材自体に熱応力が殆ど発生しない。この結果、蒸着材が破損することはないので、スプラッシュの発生を防止できる。
【0016】
また基板保持手段により保持された基板に対向して蒸着材を設け、この蒸着材を蒸着材保持手段により固体のまま露出した状態で宙に浮かせ、この状態の蒸着材から蒸発堆積手段により粒子を蒸発させてこの粒子を基板表面に堆積させることにより基板表面に保護膜を形成すれば、蒸着材を融解せず、るつぼや冷却水が不要となって構造を簡素化できる。また蒸発堆積手段により蒸着材にビームを照射するときに蒸着材が蒸着材保持手段により露出した状態であってしかも宙に浮いた状態に保持されるため、蒸着材以外の部材にビームが照射されない。この結果、蒸発した粒子に不純物が混入しないので、基板表面に堆積した保護膜の純度が低下するのを防止できる。
【0017】
また蒸着材が中心に孔等を有する円板であって、複数個の蒸着材の孔等を一本のロッドにそれぞれ嵌入させることによって複数個の蒸着材を一列に配置させ、このロッドをロッド保持機構によりチャンバ内に挿入して水平に保持し、この水平に保持されたロッド先端に配置された蒸着材の外周面に蒸発堆積手段によりビームを照射して蒸着材から粒子を蒸発させたときであってビームの照射による熱でロッド先端の蒸着材がこの蒸着材の次に配置された蒸着材に結合されたときに、送り機構が蒸着材の位置を固定したままロッドの先端を次に配置された蒸着材まで引込めるとともに、上記ビームの照射されている蒸着材が消費されて消失したときに、次に配置された蒸着材が上記消失した蒸着材の位置に至るように複数個の蒸着材を移動させるように構成すれば、蒸着材を融解せずに固体のまま露出した状態で宙に浮かせることができるので、るつぼや冷却水を必要とし構造が複雑化する従来のPVD装置と比較して、るつぼや冷却水が不要となって構造を簡素化できるとともに、ビームがロッドに照射されない。この結果、蒸発した粒子に不純物が混入しないので、基板表面に粒子が堆積して形成された保護膜の純度の低下を防止できるとともに、ロッドの消耗を阻止できるので、ロッドを繰返し使用できる。更に蒸着材へのビームの照射中にロッドを蒸着材とともに回転機構により回転させたり或いは揺動機構により揺動させれば、蒸着材が孔又は切欠き凹部を中心に略均一に減少するので、安定して成膜できるとともに、ビームの蒸着材への照射時に蒸着材内部に熱歪みが発生するけれども、この熱歪みが孔又は切欠き凹部により吸収されて蒸着材自体に熱応力が殆ど発生しない。この結果、蒸着材が破損することはないので、スプラッシュの発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
<第1の実施の形態>
図1に示すように、蒸着装置10は、基板11を保持する基板保持手段12と、基板保持手段12により保持された基板11に対向して設けられた蒸着材13と、基板保持手段12と蒸着材13とを収容するチャンバ14と、蒸着材13に電子ビーム16を照射することにより蒸着材13から蒸発した粒子17を基板11表面に堆積させることにより基板11表面に保護膜を形成する蒸発堆積手段18とを備える。チャンバ14内は排気装置19により所定の真空度まで減圧された後に、このチャンバ14内にはガス導入口21からO2ガス、Arガス、N2ガス等が導入される。また基板保持手段12は、下面に基板11が接することにより基板11を水平に保持する保持板12aと、チャンバ14の上壁14a中央からチャンバ14内に鉛直下向きに挿入され保持板12aを支持する支軸12bと、チャンバ14の上壁14a上面に取付けられ支軸12bを回転可能に保持する回転機構12cと、保持板12aに基板11を密着させる吸着機構(図示せず)とを有する。吸着機構としては、バキュームによる吸引力、静電力、電磁力等を利用した機構が挙げられる。更に蒸発堆積手段18は、この実施の形態では、電子ビーム蒸着手段であり、蒸着材13外周面に電子ビーム16を照射して加熱することにより、ZnO粒子、MgO粒子、TiO2粒子、Al粒子、Ti粒子、TiAl粒子、Cu粒子、Cr粒子等の粒子17を蒸発させて飛び出させ、この粒子17を基板11表面に堆積させて基板11表面に保護膜を形成するように構成される。なお、蒸発堆積手段18はチャンバ14の底壁14b上にベース22を介して取付けられ、この蒸発堆積手段18の発した電子ビーム16はチャンバ14外方に設けられた磁界発生手段(図示せず)により蒸着材13の外周面に向って曲げられるようになっている。
【0019】
一方、蒸着材13は蒸着材保持手段23によりチャンバ14内で固体のまま露出した状態であってしかも宙に浮いた状態で保持される。蒸着材13は中心に円形の孔13aを有する円板に形成される(図1〜図3)。この蒸着材13の外径は30〜100mmの範囲内に形成され、孔径は5〜10mmの範囲内に形成され、厚さは5〜30mmの範囲内に形成されることが好ましい。ここで、蒸着材13の外径を30〜100mmの範囲内に限定したのは、30mm未満では後述するロッド24の外径が小さくなって材料全体の強度が低下し、またスプラッシュが発生し易くなり、100mmを超えると実際の製造工程において取扱いが困難となり、またロッド24への負担が大きくなって破損し易くなるからである。また蒸着材13の内径を5〜10mmの範囲内に限定したのは、5mm未満ではロッド24の強度不足により支持が困難となり、10mmを超えると蒸着材13の有効体積が減少してしまうからである。更に蒸着材13の厚さを5〜30mmの範囲内に限定したのは、5mm未満では蒸着材13の強度不足により蒸着材13に割れやスプラッシュが発生し易くなり、30mmを超えると実際の製造工程において取扱いが困難となるからである。
【0020】
また蒸着材保持手段23は、複数個の蒸着材13の孔13aをそれぞれ嵌入させる一本のロッド24(図2及び図3)と、このロッド24をチャンバ14内に挿入して水平に保持するロッド保持機構26(図1)と、ロッド24により保持された複数個の蒸着材13とロッドとの位置関係を調整する送り機構27(図2)とを有する。上記ロッド24に複数個の蒸着材13を嵌入させることにより、隣接する蒸着材13が密着した状態で一列に配置される。このロッド24の直径は蒸着材13の孔径より僅かに小さく、例えば0.1〜3mm程度小さく形成される。またロッド保持機構23はロッド24の基端を保持するとともに、チャンバ14下部に形成されたロッド挿入孔14cからロッド24をチャンバ14内に挿入してこのロッドを水平に保持できるように構成される。ここで、ロッド24をチャンバ14内に水平に挿入したとき、ロッド24の先端部が基板保持手段12の支軸12bの中心線の延長線上に位置するように構成される(図1及び図2)。送り機構27は、ロッド24をその長手方向に突出させた或いは引込めるロッド伸縮手段(図示せず)と、ロッド24に嵌入された複数個の蒸着材13のうち最もロッド24基端側に配置された蒸着材13の端面に接する当接板27aと、ロッド24と平行に設けられ先端に当接板27aが固着されたシャフト27bと、このシャフト27bを当接板27aとともにその長手方向に突出させたり或いは引込めるシャフト伸縮手段(図示せず)とからなる(図2)。ここで、ロッド保持機構26によりロッド24がチャンバ14内に水平に挿入された状態で、蒸発堆積手段18の発した電子ビーム16が磁界発生手段により曲げられ、この電子ビーム16がロッド24先端に配置された蒸着材13の外周面に照射されるように構成される(図1及び図2)。更に蒸着材13への電子ビーム16の照射中にロッド24を蒸着材13とともに回転させる回転機構(図示せず)がロッド保持機構26に内蔵される。
【0021】
一方、電子ビーム16の照射による熱でロッド24先端の蒸着材13がこの蒸着材13の次に配置された蒸着材13に結合されたとき、上記送り機構27の当接板27aをロッド24の最も基端側の蒸着材13の端面に当接させて蒸着材13をその位置に固定した状態で、送り機構27のロッド伸縮手段によりロッド24の先端が上記次に配置された蒸着材13の内部に位置するまでロッド24を引込めるように構成される。ここで、ロッド24の先端は、蒸着材13の幅をWとするとき、次に配置された蒸着材13の結合端面から0.1W〜0.8W、好ましくは0.2W〜0.5Wの長さだけ上記次に配置された蒸着材13の内部に引込むように構成される。ここで、次にロッド24先端が上記次に配置された蒸着材13の内部に引込む長さを0.1W〜0.8Wの範囲内に限定したのは、0.1W未満では電子ビーム16の照射されている蒸着材13が消費されて外径が小さくなり消失直前に電子ビーム16がロッド24に照射されるおそれがあり、0.8Wを超えると蒸着材13がロッド24から脱落するおそれがあるからである。また上記電子ビーム16の照射されている蒸着材13が消費されて消失したときに、送り機構27のロッド伸縮手段が上記次に配置された蒸着材13が上記消失した蒸着材13の位置に至るように複数個の蒸着材13を移動させるように構成される。ロッド24先端に配置された蒸着材13が消失したことは、カメラ等で撮影した画像を画像識別センサにより検出してもよく、或いは重量センサにより検出してもよい。なお、図1中の符号28は蒸発した粒子17がチャンバ14の側壁14d内面に付着するのを防止するステンレス製又はNi基耐熱合金製の防着板である。また上記蒸着材保持手段23は2セット用意され、一方の蒸着材保持手段23のロッド24をチャンバ14に挿入してこのロッド24に嵌入された複数個の蒸着材13が全て無くなったときに、他方の蒸着材保持手段23のロッド24をチャンバ14に挿入してこのロッド24に嵌入された蒸着材13に電子ビーム16を照射する、即ち蒸着材保持手段23を1セットずつ交互に用いるように構成されることが好ましい。更にコントローラ(図示せず)の制御入力には上記画像識別センサ又は重量センサの検出出力が接続され、コントローラの制御出力には蒸着材保持手段23の回転機構及び送り機構27と蒸発堆積手段18とが接続される。
【0022】
このように構成された蒸着装置10を用いて蒸着材13を基板11に蒸着する方法を説明する。先ずチャンバ14外でロッド保持機構26により保持されたロッド24に複数個の蒸着材13を嵌入した後に、このロッド24をロッド保持機構26により保持したままチャンバ14内に挿入して水平に保持する(図1)。これにより蒸着材13を融解せずに固体のまま露出した状態で宙に浮かせることができるので、るつぼや冷却水を必要とし構造が複雑化する従来のPVD装置と比較して、るつぼや冷却水が不要となって構造を簡素化できる。次いで回転機構によりロッド24を回転させる(図1及び図2)。この回転に伴って複数個の蒸着材13も回転する。次にこの状態でロッド24先端に配置された蒸着材13の外周面に蒸発堆積手段18にて電子ビーム16を照射する(図2(a))。これによりロッド24先端の蒸着材13の外周面から粒子17が蒸発するとともに、ロッド24先端に位置する蒸着材13とこの蒸着材13に隣接する蒸着材13とが発熱しこれらの蒸着材13,13の接触部分が融解して互いに結合される(図2(b))。これらの蒸着材13,13の接触部分に溶着部29が形成されて結合された後に、送り機構27のシャフト伸縮手段が蒸着材13の位置を固定したままロッド24の先端を次に配置された蒸着材13の内部に引込める(図2(c))。この結果、電子ビーム16の照射されている蒸着材13が消費されて消失しても、ロッド24の先端に電子ビーム16が照射されることがないため、ロッド24が消費されることはない。上記電子ビーム16の照射されている蒸着材13が消費されてその外径が小さくなる(図2(d))。このときロッド24の回転に伴う蒸着材13の回転により、電子ビーム16が蒸着材13の外周面に均一に照射されるので、蒸着材13が孔13aを中心に略均一に減少して蒸着材13の直径が次第に小さくなり、安定して成膜できる。また電子ビーム16の蒸着材13への照射時に蒸着材13が加熱して蒸着材13内部に熱歪みが発生するけれども、この熱歪みは蒸着材13の孔13aで吸収されて蒸着材13自体に熱応力は殆ど発生しない。この結果、蒸着材13が破損しないので、スプラッシュの発生を防止できる。
【0023】
次に上記電子ビーム16の照射されていた蒸着材13が消費されて消失したことを画像認識センサ又は重量センサが検出すると、コントローラは蒸発堆積手段18を制御して電子ビーム16の照射を停止するとともに、回転機構を制御してロッド24の回転を停止する。そしてコントローラは送り機構27のロッド伸縮手段を制御して、上記次に配置された蒸着材13が上記消失した蒸着材13の位置に至るように複数個の蒸着材13を移動させる(図2(e))。更にコントローラは蒸発堆積手段18を制御して、電子ビーム16を発生しロッド24先端の蒸着材13外周面に照射するとともに、回転機構を制御してロッド24を回転させ蒸着材13の回転を再開する。この結果、電子ビーム16がロッド24に全く照射されず、ロッド24が全く消費されないので、蒸発した粒子17に不純物が混入することはない。従って、基板11表面に粒子17が堆積して形成された保護膜の純度が低下するのを防止できるとともに、ロッド24の消耗を阻止できるので、ロッド24を繰返し使用できる。また蒸着材13を残すことなく100%使い切ることができるので、蒸着材13の利用効率を向上できる。
【0024】
<第2の実施の形態>
図4は本発明の第2の実施の形態を示す。この実施の形態では、蒸着材53の孔53aが四角形状に形成されるとともに、ロッド54の断面形状が蒸着材53の孔53aに相応する四角形状に形成される。上記以外は第1の実施の形態と同一に構成される。このように構成された蒸着装置では、ロッド54の蒸着材53に対する空回りを防止できることを除いて、第1の実施の形態の動作と略同様であるので、繰返しの説明を省略する。
【0025】
<第3の実施の形態>
図5は本発明の第3の実施の形態を示す。この実施の形態では、蒸着材73が中心に切欠き凹部73aを有する円板である。本明細書において、切欠き凹部73aとは、蒸着材73に形成された扇状切欠き73bと、蒸着材73の中心に形成された角形凹部73cとを有し、上記扇状切欠き73bと角形凹部73cとが連通したものをいう。また蒸着材保持手段のロッド74は蒸着材73の切欠き凹部73aの角形凹部73cに相応する角形に形成される。更に蒸着材保持手段は回転機構ではなく揺動機構を有する。この揺動機構は蒸着材73へのビームの照射中にロッド74を蒸着材73とともに揺動させるように構成される。上記以外は第1の実施の形態と同一に構成される。このように構成された蒸着装置では、蒸着材73の揺動機構による揺動に伴ってロッド74も揺動するので、電子ビームが蒸着材73の外周面に均一に照射される。この結果、蒸着材73が切欠き凹部73aの角形凹部73cを中心に略均一に減少するので、安定して成膜できる。また電子ビームの蒸着材73への照射時に蒸着材73が加熱して蒸着材73内部に熱歪みが発生するけれども、この熱歪みが蒸着材73の切欠き凹部73aで吸収されて蒸着材73自体に熱応力が殆ど発生しない。この結果、蒸着材73が破損することはなく、スプラッシュの発生を防止できる。上記以外の動作は第1及び第2の実施の形態の動作と略同様であるので、繰返しの説明を省略する。
【0026】
<第4の実施の形態>
図6は本発明の第4の実施の形態を示す。図6において図1に示す部品と同一符号は同一部品を示す。この実施の形態では、蒸発堆積手段98が蒸着材13にプラズマビーム96を照射するプラズマ蒸着手段である。この蒸発堆積手段98の発したプラズマビーム96はチャンバ14外周面に設けられた磁界発生手段(図示せず)により蒸着材13の外周面に向って曲げられるようになっている。上記以外は第1の実施の形態と同一に構成される。このように構成された蒸着装置90では、第1の実施の形態の蒸着装置と比べて投入エネルギ量が少なくて済むことを除いて、動作は第1の実施の形態の動作と略同様であるので、繰返しの説明を省略する。
【0027】
なお、上記第1〜第4の実施の形態では、電子ビーム又はプラズマビームを磁界発生手段により曲げたが、磁界発生手段を比較的高い位置に設置すれば、電子ビーム又はプラズマビームを磁界発生手段により曲げなくてもよい。また、上記第1〜第4の実施の形態では、ロッドに嵌入した蒸着材をチャンバの側壁からチャンバ内に挿入したが、ロッドに嵌入した蒸着材をチャンバの底壁又は上壁からチャンバ内に挿入してもよい。また、上記第1〜第4の実施の形態では、基板を回転させた状態で基板に粒子を堆積させ保護膜を形成したが、基板を固定した状態で蒸着材を移動させて、基板に粒子を堆積させ保護膜を形成したり、或いは基板を所定の位置にセットして保護膜の厚さ分布を意図的に付けるようにしてもよい。更に、上記第1の実施の形態では、蒸着材の孔の形状及びロッドの断面形状を円形に形成し、上記第2の実施の形態では、蒸着材の孔の形状及びロッドの断面形状を四角形に形成したが、三角形状、五角形状又はその他の多角形状、或いはノッチ付の円形に形成してもよい。
【実施例】
【0028】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
図4に示すように、直径30mm及び厚さ15mmの円板状であって中心に一辺8.0mmの正方形状の孔53aが形成されたMgOタブレット53を次の方法で作製した。なお、本実施例において、直径10mm程度までの蒸着材をペレットと呼び、直径50mm程度までの蒸着材をタブレットと呼ぶ。先ずMgO粉末とバインダと有機溶媒とを湿式ボールミルを用い、湿式混合してスラリーを調製した。調製したスラリーを噴霧乾燥し、得られた混合造粒粉末を1000MPaの圧力で加圧成形した後、1300℃の温度で焼結し、MgOタブレット53を作製した。得られたMgOタブレット53は、相対密度が95%である多結晶MgOのタブレットであった。次にガラス基板(無アルカリガラス)上に、上記MgOタブレット53を用いて電子ビーム蒸着法により、膜厚200nmのMgO膜を成膜した。具体的には、電子ビーム蒸着装置の一辺7.8mmの正方形断面を有するCu製のロッド54に上記MgOタブレット53の孔53aを嵌入し、この状態でMgOタブレット53の外周面に、到達真空度2.66×10-4Pa、酸素分圧1.33×10-2の雰囲気において、加速電圧10kV、ビームスキャンエリア約20mmφの電子ビームを照射して加熱することにより行った。
【0029】
<実施例2>
直径30mm及び厚さ15mmの円板状であって中心に一辺8.0mmの正方形状の孔が形成されたMgOタブレットに代えて、図5に示すように、直径30mm及び厚さ15mmの円板状であって中心角90度の扇状切欠き73b及び一辺8.0mmの正方形の角形凹部73cからなる切欠き凹部73aが形成されたZnOタブレット73を実施例1と同様の方法で作製した。このZnOタブレット73を用いて、実施例1と同様に電子ビーム蒸着法により、膜厚200nmのZnO膜を成膜した。
<実施例3>
直径30mm及び厚さ15mmの円板状であって中心に一辺8.0mmの正方形状の孔が形成されたMgOタブレットに代えて、直径30mm及び厚さ15mmの円板状であって中心に一辺8.0mmの正方形状の孔が形成されたTiAlタブレットを実施例1と同様の方法で作製した。このTiAlタブレットを用いて、実施例1と同様に電子ビーム蒸着法により、膜厚200nmのTiAl膜を成膜した。
<実施例4>
直径30mm及び厚さ15mmの円板状であって中心に一辺8.0mmの正方形状の孔が形成されたMgOタブレットに代えて、直径30mm及び厚さ15mmの円板状であって中心角90度の扇状切欠き及び一辺8.0mmの正方形の角形凹部からなるCuタブレットを実施例1と同様の方法で作製した。このCuタブレットを用いて、実施例1と同様に電子ビーム蒸着法により、膜厚200nmのCu膜を成膜した。
<実施例5>
直径30mm及び厚さ15mmの円板状であって中心に一辺8.0mmの正方形状の孔が形成されたMgOタブレットに代えて、直径30mm及び厚さ15mmの円板状であって中心に一辺8.0mmの正方形状の孔が形成されたAlタブレットを実施例1と同様の方法で作製した。このAlタブレットを用いて、実施例1と同様に電子ビーム蒸着法により、膜厚200nmのAl膜を成膜した。
【0030】
<比較例1>
直径10mm及び厚さ3mmの孔のないMgOペレットを次の方法で作製した。先ずMgO粉末とバインダと有機溶媒とを湿式ボールミルを用い、湿式混合してスラリーを調製した。調製したスラリーを噴霧乾燥し、得られた混合造粒粉末を10MPaの圧力で加圧成形した後、1300℃の温度で焼結し、MgOペレットを作製した。得られたMgOペレットは、相対密度97%(気孔率3%)の多結晶MgOのペレットであった。次にガラス基板(無アルカリガラス)上に、上記MgOペレットを用いて電子ビーム蒸着法により、膜厚200nmのMgO膜を成膜した。具体的には、直径50mm、深さ25mmの電子ビーム蒸着装置のCu製のハースに仕込まれた上記MgOペレットに、到達真空度2.66×10-4Pa、酸素分圧1.33×10-2の雰囲気において、加速電圧10kV、ビームスキャンエリア約40mmφの電子ビームを照射して加熱することにより行った。
【0031】
<比較例2>
比較例1のMgO粉末をZnO粉末に代えて、比較例1と同様の方法で直径10mm及び厚さ3mmの円板状のZnOペレットを作製した。このZnOペレットを用いて、比較例1と同様に電子ビーム蒸着法により、膜厚200nmのZnO膜を成膜した。
<比較例3>
比較例1のMgO粉末をTiAl粉末に代えて、比較例1と同様の方法で直径10mm及び厚さ3mmの円板状のTiAlペレットを作製した。このTiAlペレットを用いて、比較例1と同様に電子ビーム蒸着法により、膜厚200nmのTiAl膜を成膜した。
<比較例4>
比較例1のMgO粉末をCu粉末に代えて、比較例1と同様の方法で直径10mm及び厚さ3mmの円板状のCuペレットを作製した。このCuペレットを用いて、比較例1と同様に電子ビーム蒸着法により、膜厚200nmのCu膜を成膜した。
<比較例5>
比較例1のMgO粉末をAl粉末に代えて、比較例1と同様の方法で直径10mm及び厚さ3mmの円板状のAlペレットを作製した。このAlペレットを用いて、比較例1と同様に電子ビーム蒸着法により、膜厚200nmのAl膜を成膜した。
【0032】
<比較試験及び評価>
実施例1〜5のタブレット及び比較例1〜5のペレットを用いた成膜時に発生したスプラッシュ数を測定した。このスプラッシュ数の測定は、電子ビームを照射したときに飛散する蒸着材の数をデジタルビデオで撮影して数えた。その結果を表1に示す。なお、上記スプラッシュ数の測定は5回ずつ行い、表1にはそれらの平均値を示した。また表1には、蒸着材の材質、直径、厚さ及び切欠きの有無とハースの材質も記載した。
【0033】
【表1】

表1から明らかなように、比較例1〜5のペレットでは、スプラッシュが1.6〜6.6個発生したのに対し、実施例1〜5のタブレットでは、スプラッシュは全く発生しなかった。これは、比較例1〜5のペレットでは、成膜条件によってハースの材質がコンタミ(contamination:汚染)となってスプラッシュが発生したのに対し、実施例1〜5のタブレットでは、割れ等が発生せず、結果としてスプラッシュが全く発生しなかったものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明第1実施形態の蒸着装置を示す断面構成図である。
【図2】消費した蒸着材をロッド先端から離脱させる手順を示す図1のA部拡大断面図である。
【図3】図2のB−B線断面図である。
【図4】本発明第2実施形態を示す図3に対応する断面図である。
【図5】本発明第3実施形態を示す図3に対応する断面図である。
【図6】本発明第4実施形態を示す図1に対応する断面構成図である。
【符号の説明】
【0035】
10,90 蒸着装置
11 基板
12 基板保持手段
13,53,73 蒸着材
13a,53a 孔
14 チャンバ
16 電子ビーム
17 蒸発した粒子
18,98 蒸発堆積手段
23 蒸着材保持手段
24,54,74 ロッド
26 ロッド保持機構
27 送り機構
73a 切欠き凹部
96 プラズマビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内で基板に対向して蒸着材を設け、前記蒸着材から粒子を蒸発させて前記基板表面に堆積させることにより前記基板表面に保護膜を形成する蒸着方法において、
前記蒸着材を前記チャンバ内で固体のまま露出した状態で宙に浮かせたことを特徴とする蒸着方法。
【請求項2】
蒸着材が中心に孔又は切欠き凹部を有する円板であって、
複数個の前記蒸着材を一本のロッドにそれぞれ前記孔又は前記切欠き凹部を嵌入させることによって一列に配置させ、
複数個の前記蒸着材を配置させたロッドを前記チャンバ内に挿入して水平に保持し、
前記水平に保持したロッド先端に配置された蒸着材の外周面にビームを照射して前記蒸着材から粒子を蒸発させ、
前記ビームの照射による熱で前記ロッド先端の蒸着材がこの蒸着材の次に配置された蒸着材に結合されたとき前記蒸着材の位置を固定したまま前記ロッドの先端を前記次に配置された蒸着材まで引込め、
前記ビームの照射されている蒸着材が消費されて消失すると前記次に配置された蒸着材が前記消失した蒸着材の位置に至るように複数個の前記蒸着材を移動させる請求項1記載の蒸着方法。
【請求項3】
蒸着材が中心に孔を有し、蒸着材へのビームの照射中にロッドを前記蒸着材とともに回転させる請求項2記載の蒸着方法。
【請求項4】
蒸着材が中心に切欠き凹部を有し、蒸着材へのビームの照射中にロッドを前記蒸着材とともに揺動させる請求項2記載の蒸着方法。
【請求項5】
基板を保持する基板保持手段と、前記基板保持手段により保持された基板に対向して設けられた蒸着材と、前記基板保持手段と前記蒸着材とを収容するチャンバと、前記蒸着材にビームを照射することにより前記蒸着材から蒸発した粒子を前記基板表面に堆積させて前記基板表面に保護膜を形成する蒸発堆積手段とを備えた蒸着装置において、
前記蒸着材が前記チャンバ内で固体のまま露出した状態で宙に浮かせて保持する蒸着材保持手段を更に備えたことを特徴とする蒸着装置。
【請求項6】
蒸着材が中心に孔又は切欠き凹部を有する円板であって、
蒸着材保持手段が、
複数個の前記蒸着材の前記孔又は前記切欠き凹部をそれぞれ嵌入させることによって複数個の前記蒸着材を一列に配置させる一本のロッドと、
複数個の前記蒸着材を配置させたロッドを前記チャンバ内に挿入して水平に保持するロッド保持機構と、
前記水平に保持されたロッド先端に配置された蒸着材の外周面に蒸発堆積手段によりビームを照射して前記蒸着材から粒子を蒸発させたときであって前記ビームの照射による熱で前記ロッド先端の蒸着材がこの蒸着材の次に配置された蒸着材に結合されたとき前記蒸着材の位置を固定したまま前記ロッドの先端を前記次に配置された蒸着材まで引込めるとともに前記ビームの照射されている蒸着材が消費されて消失したとき前記次に配置された蒸着材が前記消失した蒸着材の位置に至るように複数個の前記蒸着材を移動させる送り機構と
を有する請求項5記載の蒸着装置。
【請求項7】
蒸着材が中心に孔を有し、蒸着材保持手段が、蒸着材へのビームの照射中にロッドを前記蒸着材とともに回転させる回転機構を更に有する請求項6記載の蒸着装置。
【請求項8】
蒸着材が中心に切欠き凹部を有し、蒸着保持手段が、蒸着材へのビームの照射中にロッドを前記蒸着材とともに揺動させる揺動機構を更に有する請求項6記載の蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−84680(P2009−84680A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83198(P2008−83198)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】