説明

蒸着材料およびその製造方法

【課題】スプラッシュの発生を顕著に抑制できる、水を用いて成型した蒸着材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】水を用いて成型した一酸化ケイ素粉末を含有する蒸着材料において、焼成条件を最適化することにより、強熱減量(物質を強熱(600±25℃2時間)したときの質量の減少量)での重量変化率が1%以下である。また、蒸着材料の製造方法において、成型体を焼成する工程での焼成条件が大気雰囲気であり、かつ焼成温度が200℃以上700℃以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や医薬品等の包装材料として有用な、ガスバリア性ケイ素酸化物蒸着層を有する包装材料を製造する際に使用する蒸着材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品等の包装材料に対しては、内容物の変質を防止することが求められている。例えば、食品用包装材料に対しては、タンパク質や油脂等の酸化や変質を抑制し、更に風味や鮮度を保持できることが求められ、また、無菌状態での取扱が必要とされる医薬品用包装材料に対しては、内容物の有効成分の変質を抑制し、その効能を保持できることが求められている。
【0003】
ところで、このような内容物の変質は、包装材料を透過する酸素や水蒸気あるいは内容物と反応するような他のガスにより主として引き起こされている。
【0004】
従って、食品や医薬品等の包装材料に対しては、酸素や水蒸気などのガスを透過させない性質(ガスバリア性)を備えていることが求められており、そのような性質を有する包装材料として、アルミニウムなどの金属、一酸化ケイ素(SiO)、ケイ素酸化物(SiOx)、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物あるいはこれらの複合酸化物、更には金属フッ化物などのガスバリア性物質を高分子フィルム基材に蒸着させたガスバリア性フィルム材料が知られているが、中でも高分子フィルム基材に一酸化ケイ素が蒸着された材料が、高い透明性と高いガスバリア性の点とから注目されている。
【0005】
このような一酸化ケイ素が蒸着されたフィルム材料は、蒸着材料である一酸化ケイ素を抵抗加熱法により高分子フィルムに真空蒸着させることにより製造されているが、ここで用いられている蒸着材料の一酸化ケイ素等のケイ素酸化物は、SiとSiO2とを原料として真空蒸着法により製造されているために、以下に示すような欠点を有している。
【0006】
真空蒸着法により製造された一酸化ケイ素等の蒸着材料は真密度に非常に近い密度を有し、非常に緻密な構造となっている。このため、この蒸着材料を蒸着させてフィルム材料を製造した場合には、蒸着の際の加熱による熱衝撃や内部から発生するガスの圧力などにより、気化していない蒸着材料が、高温の微細な粒のまま飛散する現象(スプラッシュ現象)が生じやすいという問題がある。このような高温の微細粒が蒸着基材である高分子フィルムに衝突した場合には、一酸化ケイ素などの蒸着材料の蒸着により形成した薄膜にピンホールが生じてガスバリア性が低下するという問題や、蒸着材料の蒸着により形成した薄膜を有する包装材料をロールに巻き取る際に、その微細粒が包装材料の間に巻取られ、最終的に製品中に混入するという問題もある。また、場合により高分子フィルム基材に貫通孔を生じさせるという問題も生じる。
【0007】
また、近年では、坩堝や加熱ヒーターなどを使用する従来の抵抗加熱蒸着法に代えて、蒸着材料を局部的且つ急速に加熱でき、しかも包装材料の生産性を高めるために蒸着材料の堆積速度を速めて巻取蒸着加工速度を向上させることのできる電子ビーム加熱蒸着法が採用される傾向があるが、この電子ビーム加熱蒸着法の場合、抵抗加熱蒸着法の場合に比べ、蒸着材料が受ける熱衝撃のレベルが格段と高くなるので、上記の問題がいっそう顕著に現れるようになる。
【0008】
そこで、従来、このような問題を解決するために、例えば、一酸化ケイ素を高分子フィルム基材に蒸着させる場合、蒸着材料(SiO)を真空蒸着法により予めSiとSiOとから製造しておくのではなく、SiとSiOとを乾式で混合して加圧成形し焼結したものを蒸着材料とすることが提案されている(特許文献1)。
【0009】
この方法によれば、焼結法を利用しているために比較的低コストで製造できるが、生産性を向上させる目的で電子ビームの出力レベルを従来以上にあげた場合、十分な程度にまでスプラッシュ現象を抑制することができないという問題があった。
【0010】
そこで、Si粉末とSiO粉末とを含有するスラリーを湿式成形し、その成形の際にゲル化させ、得られた成形体を乾燥し、焼成する多孔質蒸着材料が提案されている(特許文献2)。
【0011】
焼成温度が低すぎると成型体にOH基が多く残り、その残存OH基がスプラッシュの一因となると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭63−310961号公報
【特許文献2】特開平9−143689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、スプラッシュの発生を顕著に抑制できる、水を用いて成型した蒸着材料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、焼成条件を最適化することにより製造された蒸着材料が、上述の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、水を用いて成型した、一酸化ケイ素粉末を含有する蒸着材料において、焼成条件を最適化することにより、強熱減量(物質を強熱(600±25℃2時間)したときの質量の減少量)での重量変化率が1%以下である蒸着材料を提供する。
【0016】
また、本発明は、成型体を焼成する工程での焼成条件が大気雰囲気であり、かつ焼成温度が200℃以上700℃以下である蒸着材料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の蒸着材料は、強熱減量(物質を強熱(600±25℃2時間)したときの質量の減少量)での重量変化率が1%以下であることにより、スプラッシュの発生を顕著に抑制できる。
【0018】
本発明の蒸着材料の製造方法は、焼成条件を最適化することにより、強熱減量(物質を強熱(600±25℃2時間)したときの質量の減少量)での重量変化率が1%以下である蒸着材料を製造でき、これによりスプラッシュの発生を顕著に抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の蒸着材料は一酸化ケイ素を主体とする蒸着材料で、水を用いて成型される。水を用いて成型した蒸着材料は、そのままでは材料内部に残存するOH基によりスプラッシュ現象が生じる。そこで、焼成による脱OH化を検討した。十分に焼成が行われると残存OH基はなくなるため、強熱減量(物質を強熱(600±25℃2時間)したときの質量の減少量)での重量変化率が1%以下となり、スプラッシュ現象が抑制されたものとなる。
【0021】
また、本発明の蒸着材料の成型体を焼成する工程において、材料の酸化による膨張率は、1%以上3%以下である。材料の酸化による膨張率が1%未満であると、材料が十分に酸化されないために、蒸着に際して適度な溶融相が生成されず、スプラッシュの原因になるおそれがある。材料の酸化による膨張率が3%を超えると、膨張しすぎるために、材料にひび割れが生じるなど、使用性に支障をきたすおそれがある。
【0022】
本発明の蒸着材料を構成する物質(原料)としては、一酸化ケイ素又は金属ケイ素、二酸化ケイ素を使用することができる。なかでも、金属ケイ素と二酸化ケイ素とを原料として構成されたものが、ガスバリア性に優れたSiO膜を形成できるので好ましい。
【0023】
なお、これらの一酸化ケイ素又は金属ケイ素、二酸化ケイ素は、粉末状で使用することが好ましく、平均粒径は一般に1μm以上20μm以下のものが好ましい。1μmよりも細かい粒子や、20μmよりも大きい粒子では、材料が作りづらく、スプラッシュが多くなるので好ましくない。また、一酸化ケイ素粉末の平均粒径は5μm以上10μm以下、金属ケイ素粉末の平均粒径は5μm以上15μm以下、二酸化ケイ素粉末の平均粒径は3μm以上10μm以下のものが特に好ましい。主として、一酸化ケイ素粉末を使用するが、金属ケイ素粉末と二酸化ケイ素粉末のいずれか又は両方を原料として使用することもできる。その場合の混合比率は、重量%で30%以上の一酸化ケイ素粉末を使用し、金属ケイ素粉末と二酸化ケイ素粉末をモル比で1:1から1:5に混合したものがスプラッシュを抑制できるので好ましい。より好ましくは、金属ケイ素粉末と二酸化ケイ素粉末をモル比で1:1.5に混合したものが特に好ましい。
【0024】
本発明の蒸着材料は、一酸化ケイ素の粉末を含有するスラリーを湿式成形し、その成形の際にゲル化させ、得られた成形物を乾燥し焼成することを特徴とする蒸着材料の製造方法により製造することができる。
【0025】
本発明の製造方法においては、まず、上述のような一酸化ケイ素の粉末を含有するスラリーを常法に従って調製する。ここで、スラリー化する際に使用する媒体としては、水、アルコールあるいはこれらの混合媒体を使用することができる。
【0026】
次に、得られたスラリーを湿式成形法により成形するが、この成形の際にスラリーをゲル化させることが必要である。なお、スラリーの調整に際しては、原料粒子の大きさ、使用量、媒体の量と種類、ゲル化時間等を適宜調整して、形成される蒸着材料の嵩密度を調整することが好ましい。
【0027】
また、スラリーのゲル化を行う際に、無機バインダーを使用することができるが、シリカゾルやテトラエトキシシランなどを使用することが特に好ましい。これにより、塩基性アルカリ金属化合物を使用することなく低温下で原料粉末を十分に結合させることができる。特に、金属ケイ素粉末を使用した場合には、それらのバインダーが金属の表面を保護する機能を有するので、大気雰囲気中での焼成も可能となり、より製造コストを下げることができる。
【0028】
なお、シリカゾルによるゲル化は、スラリーに塩酸などの酸を添加してゾルを不安定化することにより行うことができる。また、テトラエトキシシランによるゲル化は、テトラエトキシシランの加水分解と競争的に生じる重縮合がポリシロキサンを形成することにより行うことができる。
【0029】
次に、ゲル化した成形物を乾燥し、大気雰囲気で200℃以上700℃以下程度の温度で焼成する。なお、大気雰囲気以外の焼成では、適度な酸化状態が得られず、スプラッシュが発生するので好ましくない。これにより、本発明の蒸着材料が得られる。
【0030】
このようにして得られる本発明の蒸着材料は、従来の蒸着材料と同様に真空蒸着法に適用することができるが、特に従来の蒸着材料に対してスプラッシュ現象を抑制することが困難であった電子ビーム加熱蒸着法に対しても、スプラッシュ現象を生じさせることなく適用することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の蒸着材料及びその製造方法の有効性を比較材料と対比することにより具体的に説明する。
【0032】
[ 実施例1・2 ]
主として、平均粒径が7μmの一酸化ケイ素粉末を重量%で30%以上使用し、さらに、平均粒径が10μmの金属ケイ素粉末、平均粒径が6μmの二酸化ケイ素粉末を、O/Si比が1.12となるように混合し(実施例1)、またはO/Si比が1.14となるように混合し(実施例2)、水を用いてスラリーを調製し、シリカゾルと塩酸を加えた。
【0033】
次に、このスラリーを型に流し込み、数時間放置して十分にゲル化した。このゲル化物を乾燥した後、10℃/分の速度で600℃まで昇温し、600℃で1時間焼成することにより実施例1及び2の蒸着材料を得た。得られた蒸着材料の嵩密度をアルキメデス法にて測定した。また、JIS Z 2246に準拠してショアー硬さを測定した。また、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製TG/DTA6200示差熱熱重量同時測定装置を用いて重量変化率を測定した。示差熱熱重量同時測定とは、熱重量測定と示差熱分析とを組み合わせて、単一の装置で同時に測定する方法である。具体的には、105±5℃で2時間乾燥し、材料吸着水を取り除いた後、600±25℃で2時間、窒素雰囲気下で行い、強熱減量(物質を強熱(600±25℃2時間)したときの質量の減少量)での重量変化率を求めた。その結果を表1に示す。
【0034】
[ 比較例1 ]
焼成温度が120℃であること以外は実施例1と同様にスラリーを調製し、比較例1の材料を得た。得られた蒸着材料の嵩密度をアルキメデス法にて測定した。また、JIS Z 2246に準拠してショアー硬さを測定した。また、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製TG/DTA6200示差熱熱重量同時測定装置を用いて重量変化率を測定した。示差熱熱重量同時測定とは、熱重量測定と示差熱分析とを組み合わせて、単一の装置で同時に測定する方法である。具体的には、105±5℃で2時間乾燥し、材料吸着水を取り除いた後、600±25℃で2時間、窒素雰囲気下で行い、強熱減量(物質を強熱(600±25℃2時間)したときの質量の減少量)での重量変化率を求めた。その結果を表1に示す。
【0035】
[ 比較例2〜4 ]
また、焼成温度が800℃であること以外は実施例2と同様にスラリーを調製し、比較例2の材料を得た。また、焼成温度が1000℃であること以外は実施例2と同様にスラリーを調製し、比較例3の材料を得た。また、焼成温度が1500℃であること以外は実施例2と同様にスラリーを調製し、比較例4の材料を得た。得られた蒸着材料の嵩密度をアルキメデス法にて測定した。また、JIS Z 2246に準拠してショアー硬さを測定した。また、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製TG/DTA6200示差熱熱重量同時測定装置を用いて重量変化率を測定した。示差熱熱重量同時測定とは、熱重量測定と示差熱分析とを組み合わせて、単一の装置で同時に測定する方法である。具体的には、105±5℃で2時間乾燥し、材料吸着水を取り除いた後、600±25℃で2時間、窒素雰囲気下で行い、強熱減量(物質を強熱(600±25℃2時間)したときの質量の減少量)での重量変化率を求めた。その結果を表1に示す。
【0036】
[ 評価 ]
電子ビーム加熱方式のバッチ式蒸着装置を用いて、実施例1・2及び比較例1〜4の蒸着材料を真空蒸着した。これらの蒸着材料を蒸着した際のスプラッシュ現象の有無を、目視にて観察し、表1に示した評価基準に従って評価した。その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から、実施例1・2の蒸着材料は、非常に高い蒸発速度(電子ビームの出力レベルが高い場合)で蒸着された場合でも、スプラッシュ現象は観察されなかった。
【0039】
一方、比較例1の蒸着材料は、焼成温度が低すぎるために、強熱減量での重量変化率が1%を超え、残存OH基が多量に存在するため、スプラッシュ現象が観察された。さらに、材料が十分に酸化されず、蒸着に際して適度な溶融相が生成されなかったため、スプラッシュ現象が観察された。
【0040】
比較例2の蒸着材料は、焼成温度が高いために、材料が過剰に酸化され、蒸着に際して適度な溶融相が生成されなかったため、スプラッシュ現象がわずかに観察された。比較例3及び4の蒸着材料は、焼成温度が高すぎるために、焼成前後の膨張率が3%を越え、材料が過剰に酸化され、蒸着に際して適度な溶融相が生成されなかったため、スプラッシュ現象が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、食品や医薬品等の包装材料として有用な、ガスバリア性ケイ素酸化物蒸着層を有する包装材料を製造する際に使用する蒸着材料およびその製造方法として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を用いて成型した一酸化ケイ素粉末を含有する蒸着材料において、強熱減量(物質を強熱(600±25℃2時間)したときの質量の減少量)での重量変化率が1%以下であることを特徴とする電子ビーム加熱蒸着用の蒸着材料。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸着材料について、さらに平均粒径5μm以上15μm以下の金属ケイ素粉末、平均粒径3μm以上10μm以下の二酸化ケイ素粉末のいずれかまたは両方を含有する蒸着材料。
【請求項3】
一酸化ケイ素粉末を含有する蒸着材料を製造する際に、水を用いて成型する工程と、成型体を乾燥する工程と、成型体を焼成する工程とを含み、成型体を焼成する工程での焼成条件が大気雰囲気であり、かつ焼成温度が200℃以上700℃以下であることを特徴とする蒸着材料の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の蒸着材料の製造方法について、成型体を焼成する工程において、材料の酸化による膨張率が1%以上3%以下であることを特徴とする蒸着材料の製造方法。

【公開番号】特開2011−184729(P2011−184729A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50336(P2010−50336)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】