説明

蒸着材料加熱装置、蒸着装置、蒸着方法、基板

【課題】材料容器の中心付近に対して周縁付近を高く加熱することができ、しかも、材料容器に収納した蒸着材料の中心付近と周縁付近との温度差を容易に制御し得て、蒸着材料の気化量変化の応答性を高くすることができる蒸着材料加熱装置とすることができ、よって、基板に付着する被膜の膜厚の均一化に貢献することができる蒸着装置及び蒸着方法とし得て、均一な膜厚の被膜を有する基板を提供する。
【解決手段】本発明は、蒸着材料13を収納した材料容器14と、材料容器14の底面側に配置されて蒸着材料13を加熱する加熱部15と、加熱部15による蒸着材料13の加熱温度を材料容器14の中心から外周に向かう加熱領域に応じて制御する温度制御部と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着材料を収納すると共に蒸着材料を加熱して気化させる蒸着材料加熱装置、その蒸着材料加熱装置を備えて基板に被膜を蒸着する蒸着装置、その蒸着装置を用いて基板に被膜を蒸着する蒸着方法、その蒸着装置を用いて被膜を蒸着した基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板に昇華性材料または有機材料からなる蒸着材料を蒸着して被膜を形成する蒸着装置が周知である。
【0003】
蒸着装置は、チャンバ内に蒸着材料と基板とを対向させて配置し、チャンバ内を減圧した状態で、蒸着材料を適宜ON−OFF加熱によって蒸発させ、この蒸発させた蒸着材料を基板の表面に堆積させて被膜を形成するものである。
【0004】
この際、加熱源から基板を離しても、加熱源からの輻射熱を遮断することはできないうえ、蒸着材料は常に過熱していることとなってしまい、基板の中心付近に付着した被膜の膜厚は周縁付近に付着する被膜の膜厚に比べて厚くなる。
【0005】
したがって、均一な膜厚を有する基板とならず、安定した製品とは言い難いという問題が生じていた。
【0006】
そこで、材料容器の周囲から蒸着材料を加熱すると共に材料容器の底面下方に環状の制御コイルを隣接して複数配置し、その制御コイルへの通電を選択的にOFFして交番磁界を弱めることで蒸着材料の気化を部分的に減らす技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、材料容器の底面に幅方向中心側から端部側に至るほど段階的に細く(又はその逆)した直線状の水管を複数隣接して配置し、材料容器の中央部分を外側部分よりも強く冷却する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−002284公報
【特許文献2】特開平07−070739号公報
【特許文献3】特開平07−172984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した蒸着材料の冷却技術は、何れも矩形の材料容器に収納された蒸着材料を帯状フィルムの表面、即ち、蒸着面が実質的に矩形な物に対する蒸着材料の温度管理であった。しかも、ロール状の一部を蒸着面としていることから、皮膜形成時点での蒸着面は平坦な矩形ではなく、実際には反り返っていて材料容器からの距離は一定ではない。
【0010】
したがって、帯状フィルム等の走査方向(搬送方向)に沿うように材料容器に対して直線状に温度管理する制御コイルや水管では、膜厚の均一化は困難であるという問題が生じていた。
【0011】
即ち、昇華性材料又は有機材料を入れる材料容器は、チャンバの内部にて真空環境下で気化させることから、材料容器から気化した蒸着材料は、基板の中心付近の膜厚の方が周縁部に対して周回状に厚く、不均一な膜厚を生じていた。
【0012】
また、上述した蒸着材料の冷却技術は、何れも、加熱を材料容器の底面側から冷却方向に制御することから、蒸着材料の湯面で発生する気化量が実際に低減又は増加するまでの時間的なタイミング制御が難しく、膜厚にムラが発生し易いという問題も生じていた。
【0013】
そこで、本発明は、材料容器の中心付近に対して周縁付近を高く加熱することができ、しかも、材料容器に収納した蒸着材料の中心付近と周縁付近との温度差を容易に制御し得て、蒸着材料の気化量変化の応答性を高くすることができる蒸着材料加熱装置とすることができ、よって、基板に付着する被膜の膜厚の均一化に貢献することができる蒸着装置及び蒸着方法とし得て、均一な膜厚の被膜を有する基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の蒸着材料加熱装置は、蒸着材料を収納した材料容器と、該材料容器の底面側に配置されて前記蒸着材料を加熱する加熱部と、該加熱部による前記蒸着材料の加熱温度を前記材料容器の中心から外周に向かう加熱領域に応じて制御する温度制御部と、を備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の蒸着材料加熱装置は、材料容器の中心付近に対して周縁付近を高く加熱することができ、しかも、材料容器に収納した蒸着材料の中心付近と周縁付近との温度差を容易に制御し得て、蒸着材料の気化量変化の応答性を高くすることができる。
【0016】
また、本発明の蒸着装置及び蒸着方法は、基板に付着する被膜の膜厚の均一化に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(A)は本発明の一実施形態に係る蒸着材料加熱装置を搭載した蒸着装置の説明図、(B)は本発明の一実施形態に係る加熱部の平面図、(C)は本発明の一実施形態に係る他の加熱部の平面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る加熱部と温度制御部との関係を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る他の加熱部の平面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る加熱部の断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る他の加熱部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の一実施形態に係る蒸着材料加熱装置、蒸着装置、蒸着方法、基板について、図面を参照して説明する。尚、以下に示す実施例は本発明の蒸着材料加熱装置、蒸着装置、蒸着方法、基板における好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定を付している場合もあるが、本発明の技術範囲は、特に本発明を限定する記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。また、以下に示す実施形態における構成要素は適宜、既存の構成要素等との置き換えが可能であり、かつ、他の既存の構成要素との組合せを含む様々なバリエーションが可能である。したがって、以下に示す実施形態の記載をもって、特許請求の範囲に記載された発明の内容を限定するものではない。
【0019】
図1(A)は本発明の一実施形態に係る蒸着材料加熱装置を搭載した蒸着装置の説明図、図1(B)は本発明の一実施形態に係る加熱部の平面図、図1(C)は本発明の一実施形態に係る他の加熱部の平面図、図2は本発明の一実施形態に係る加熱部と温度制御部との関係を示す説明図、図3は本発明の一実施形態に係る他の加熱部の平面図、図4は本発明の一実施形態に係る加熱部の断面図、図5は本発明の一実施形態に係る他の加熱部の断面図である。
【0020】
図1に示すように、蒸発装置10は、内部が図示しない真空装置によって減圧されて所定圧力の真空状態とされるチャンバ11と、チャンバ11の内部上方に配置された基板保持部12と、チャンバ11の内部下方に配置されて被膜の原料(例えば、昇華性材料又は有機材料)である蒸着材料13を収納した材料容器14と、材料容器14に収納した蒸着材料13を加熱して気化させる加熱部15と、基板保持部12に隣接するようにチャンバ11の内部に配置された温度監視部としての膜厚計16と、を備えている。
【0021】
基板保持部12は、チャンバ11の外壁11aにブラケット17を介して設けられた取付板18と、取付板18に設けられて基板19を保持するホルダ20と、を備えている。
【0022】
材料容器14は、収納した蒸着材料13の湯面よりも上方に、矢印で示す気化した蒸着材料13を部分的に通過させる制御板21が配置されている。
【0023】
加熱部15は、例えば、図1(B)に示すように、材料容器14の中心を取り巻くように略真円状、又は図1(C)に示すように、材料容器14の中心を取り巻くように矩形、とされた複数の加熱体22を備えている。
【0024】
各加熱体22は、図2に示すように、温度制御部23によって電流供給部から供給される電流をそれぞれ独立した制御部23a,23b,23c,23dで制御することで加熱温度が制御される。本実施の形態においては、各加熱体22は、四重の円形若しくは矩形とされ、内周側から外周側に向かう程に幅が広くなっている。この際、複数の加熱体22は、材料容器14の底面との対向面積が内周側よりも外周側の方が広くなるように幅設定されている。なお、各加熱体22は、例えば、図3に示すように、内周側よりも外周側に密集状態で配置しても良い。したがって、複数の加熱体22の隣接間隔、幅(面積)、面積等は、実際には、使用される基板19のサイズや厚さ、蒸着材料13の種類や被膜の膜厚等によって適宜変更可能である(アタッチメント交換等)。
【0025】
また、加熱部15は、材料容器14の中心を取り巻くように円形又は矩形に連続する複数の加熱体22により、その複数の加熱体22によって材料容器14の中心から外周に向かう円形又は矩形の加熱領域を形成している。なお、隣接する加熱体22の間は加熱体22の存在しない非加熱領域が加熱領域と交互に配置されるが、その非加熱領域に熱伝導率の低い金属体や加熱体22から電気的に絶縁する絶縁体等を配置しても良い。
【0026】
さらに、加熱部15は、加熱体22によって蒸着材料13を直接加熱しても良いし、例えば、図4に示すように、底板24と中間板25との間に加熱板26を配置すると共に、中間板25の上層に円形又は矩形の複数の熱伝導体27を配置したうえで受板28を配置した間接加熱としても良い。
【0027】
この際、図5に示すように、熱伝導体27の間に熱伝導体27よりも熱伝導率の低い金属体29を介在しても良い。
【0028】
膜厚計16は、例えば、材料容器14から気化する蒸着材料13を基板19の少なくとも中心を含む直径、若しくは基板19と平行な平面上で濃度(分布)監視することで基板19に付着する被膜の膜厚を推定(算出)し、その膜厚情報を温度制御部23に出力する。なお、膜厚計16の膜厚の監視方法は任意(例えば、赤外センサ等を用いた膜厚直接測定や反射率測定等)である。これにより、温度制御部23では、制御部23a,23b,23c,23dを個々に独立して制御して各加熱体22に印加する電流を調整する。また、膜厚計16は、チャンバ11の内部温度で気化量等を監視しても良い。
【0029】
このような構成においては、材料容器14に蒸着材料13を収納し、チャンバ11の内部を減圧して真空とし、加熱部15の加熱によって蒸着材料13を溶融・気化して基板19の表面に被膜を形成する。
【0030】
この際、材料容器14の中心付近(中心側)に対して材料容器14の周縁部(外周側)に向う程に加熱温度が高くなるように加熱体22に印加させる電流を制御する。
【0031】
これにより、基板19の周縁部には、従来に比べてより多くの蒸着材料13を付着させることができ、結果的に均一な膜厚の被膜を基板19に形成することができる。
【0032】
ところで、基板19に蒸着させる被膜の蒸着材料13としては、例えば、基板19を有機ELパネルに用いる場合の発光材料の場合には、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(tris(8−hydroxyquinolinato)aluminium:Alq3)や銅フタロシアニン(CuPc)等を用いるなど、真空蒸着技術により被膜を形成する基板19の種類や目的等に応じて任意である。また、基板19の表面に下地金属薄膜(例えば、金,銀,クロムなど)を形成したうえで、被膜を形成することも可能である。さらに、チャンバ11の内部の減圧度(真空度)、基板19の大きさや厚さ、被膜の膜厚等の各種条件においても任意である。
【0033】
そして、本発明の加熱体22にあっては、このような各種条件に応じて、異なった間隔や幅の物を用いても良いし、設定加熱温度を変えることで対応することができる。また、これにより、単に加熱温度を独立して制御しただけではなし得なかったより厳密な基板19の被膜の均一化を確保することができる。
【0034】
このように、本発明においては、材料容器14に収納した蒸着材料13の加熱温度を制御していることから、蒸着材料13を冷却する場合に比べて蒸着材料13の気化に対する即応性が高く、基板19に付着する被膜の膜厚にムラが発生し難く、均一化により一層貢献することができる。
【0035】
なお、本発明における加熱部15の加熱手段としては、抵抗加熱、高周波加熱、レーザ加熱等いずれの手段であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
10…蒸発装置
11…チャンバ
11a…外壁
12…基板冷却装置
13…蒸着材料
14…材料容器
15…加熱部
16…膜厚計(膜厚監視部)
17…ブラケット
18…取付板
19…基板
20…ホルダ
21…制御板
22…加熱体
23…温度制御部
23a…制御部
23b…制御部
23c…制御部
23d…制御部
24…底板
25…中間板
26…加熱板
27…熱伝導体
28…受板
29…金属体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料を収納した材料容器と、
該材料容器の底面側に配置されて前記蒸着材料を加熱する加熱部と、
該加熱部による前記蒸着材料の加熱温度を前記材料容器の中心から外周に向かう加熱領域に応じて制御する温度制御部と、
を備えていることを特徴とする蒸着材料加熱装置。
【請求項2】
前記加熱部は、複数の加熱体を備え、その複数の加熱体の配置密度を前記加熱領域に応じて変えていることを特徴とする請求項1に記載の蒸着材料加熱装置。
【請求項3】
前記加熱部は、複数の加熱体を備え、その複数の加熱体によって前記加熱領域を分割するとともに分割した前記加熱領域に応じて独立して温度設定可能としていることを特徴とする請求項1に記載の蒸着材料加熱装置。
【請求項4】
前記加熱部は、前記材料容器の中心を取り巻くように円形又は矩形に連続する複数の加熱体を備え、その複数の加熱体によって前記材料容器の中心から外周に向かう円形又は矩形の加熱領域と非加熱領域とを交互に形成していることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の蒸着材料加熱装置。
【請求項5】
前記加熱部は、複数の加熱体を備え、
前記温度制御部は前記蒸着材料の加熱温度が内周側から外周側に至るほど高くなるように前記複数の加熱体に電流を印加することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の蒸着材料加熱装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか1項記載の蒸着材料加熱装置と、
前記材料容器を内部に配置したチャンバと、
該チャンバの内部で前記材料容器の上方に配置された基板と、
前記基板に蒸着される皮膜の膜厚を監視してその膜厚情報を前記温度制御部に出力する膜厚監視部と、
を備えていることを特徴とする蒸着装置。
【請求項7】
請求項6に記載の蒸着装置を備え、
前記チャンバを真空とする減圧ステップと、
前記加熱部によって前記材料容器に収納した前記蒸着材料を気化させて前記基板の表面に被膜を形成する被膜形成ステップと、
前記膜厚監視部で監視した前記基板の膜厚情報に基づいて前記温度制御部により前記蒸着材料の加熱温度が内周側から外周側に至るほど高くなるように前記加熱部を制御する温度制御ステップと、
を備えていることを特徴とする蒸着方法。
【請求項8】
請求項6に記載の蒸着装置を用い、請求項7に記載の蒸着方法により表面に被膜が形成されていることを特徴とする基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−67845(P2013−67845A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209116(P2011−209116)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】