説明

蒸着治具、蒸着装置、及び対物レンズの製造方法

【課題】比較的簡単な構造で、被蒸着物の装着位置による膜厚差を低減することができる蒸着治具及びこれを備えた蒸着装置等を提供すること。
【解決手段】可動ホルダ34が、基板ホルダ31の外周側において、装着された基板20を周方向に所定の角度に傾斜させているため、平板では球面から距離が離れやすい外周側であっても基板ホルダ31内の基板20に設けられた被蒸着物DSに略均一な膜厚で蒸着することができる。また、可動ホルダ34によって基板20を傾斜させる構造であるため、簡単な構造とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被蒸着物を装着して真空容器内に保持する蒸着治具及びこれを備えた蒸着装置、並びに対物レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸着装置として、真空容器内に設けた蒸着治具によって被蒸着物を180度反転させ、1バッチの処理で被蒸着物の両面に蒸着するものがある(特許文献1及び2参照)。この蒸着装置は、被蒸着物を装着した蒸着治具を中心軸のまわりに回転させながら蒸着を行う。ドーム状の蒸着治具の所定の球面に沿うように被蒸着物を装着すれば、理論上、同一緯線上に装着された被蒸着物は、蒸着源の位置に関係なく、略同じ膜厚になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−271935号公報
【特許文献2】実開平2−125968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような蒸着装置は、ドーム状の領域を分割した複数の平板に沿って被蒸着物を装着しているため、付着する蒸着材料の膜厚が平板の位置によって異なるという問題がある。ここで、経線方向の膜厚差は、補正板によってある程度補正が可能であるが、緯線方向の膜厚差は補正板では修正ができない。そのため、平板の緯線方向における中心部と端部とで膜厚差が発生し、その差は平板の外縁部に近づくほど大きくなる。また、特許文献2のような蒸着装置は、平板を緯線方向に分割し、経線方向の平板の傾きを調整することができるが、膜厚差がより大きい緯線方向の平板の傾きを調整することが難しい。また、特許文献2では、回転治具を周方向に沿って支軸を連結しているものもあるが、構造が複雑となっている。
【0005】
そこで、本発明は、比較的簡単な構造で、被蒸着物の装着位置による膜厚差を低減することができる蒸着治具及びこれを備えた蒸着装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る蒸着治具は、装着された基板を蒸着源に対向して支持可能であるとともに、球面に沿う扇状の基本領域の外周側において、装着された基板を周方向に所定の角度に傾斜した状態で支持する複数の部分領域と、複数の部分領域を経線方向に沿った軸に関して反転可能に支持する支持体と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記蒸着治具によれば、複数の部分領域が、球面に沿う基本領域の外周側において、装着された基板を周方向に所定の角度に傾斜させているため、平板では球面から距離が離れやすい外周側であっても基本領域内の基板に設けられた被蒸着物に略均一な膜厚で蒸着することができる。また、部分領域を傾斜させる構造であるため、支持体や複数の部分領域を反転させるための機構を簡単な構造とすることができる。
【0008】
このように、上記蒸着治具によれば、基板に設けられた被蒸着物に略均一な膜厚で蒸着することが可能となるので、被蒸着物に対して、蒸着物を多層に蒸着させる場合であっても、略均一な膜厚で蒸着することが可能となる。そのため、量産時において安定性良く蒸着することが可能となる。例えば、光ピックアップ装置に用いられる対物レンズに対して、2層以上さらには3層以上の多層の反射防止膜を蒸着する場合であっても、上記蒸着治具を用いることにより、量産時において安定性良く蒸着することが可能となる。
【0009】
本発明の具体的な態様又は側面では、上記蒸着治具において、複数の部分領域は、略扇形の輪郭を有することを特徴とする。この場合、球面に沿う基本領域を効率よく分割することができる。
【0010】
本発明の別の側面では、複数の部分領域は、反転の前後に、装着された基板が移動可能な係止部をそれぞれ有することを特徴とする。この場合、装着された基板の一方の面と他方の面とが反転の前後に蒸着源に対向する下側に入れ替わって自重で傾き姿勢を変化させ得ることを利用して、基板の他方の面も蒸着に際して略球面に沿っている状態で保持することができる。
【0011】
本発明のさらに別の側面では、基本領域は、経線方向に沿った基準軸を通る接平面に対して略平行に設けられる第1ホルダと、複数の部分領域として接平面に対して基準軸のまわりに所定の角度に傾斜して設けられる少なくとも1つ以上の第2ホルダとを有することを特徴とする。ここで、接平面は、球面上の1点における接平面である。この場合、第2ホルダが接平面に対して経線方向に沿った基準軸のまわりに所定の角度に傾斜して設けられるため、第2ホルダを反転させても基板を球面に沿うように配置させることができる。
【0012】
本発明のさらに別の側面では、第2ホルダは、偶数個で構成され、基準軸を挟んで対称的に配置されることを特徴とする。この場合、第2ホルダに基板を均等に無駄なく配置させることができる。
【0013】
本発明のさらに別の側面では、第1ホルダは、第1の経線方向に沿った基準軸に関して反転し、第2ホルダは、第2の経線方向に沿った追加軸に関して反転することを特徴とする。この場合、第1及び第2ホルダをそれぞれ独立して反転操作することができる。
【0014】
本発明のさらに別の側面では、第1及び第2ホルダは、共通する経線方向に沿った基準軸に関して反転することを特徴とする。この場合、第1及び第2ホルダを1つの共通する経線方向に沿った基準軸により反転させることにより、反転機構や反転操作を簡単にすることができる。
【0015】
本発明のさらに別の側面では、支持体は、球面の中心軸のまわりに回転駆動されることを特徴とする。この場合、蒸着源が球面から等距離の位置に設けられていなくても、被蒸着物に蒸着膜を略均一に付着させることができる。
【0016】
上記課題を解決するため、本発明に係る蒸着装置は、上記蒸着治具を備え、蒸着治具は、蒸着源に対向して配置されることを特徴とする。この場合、上記蒸着治具を備えることにより、平板では球面から距離が離れやすい外周側であっても基本領域内の基板に設けられた被蒸着物に略均一な膜厚で蒸着することができる。また、部分領域を傾斜させる構造であるため、反転機構を簡単な構造とすることができる。
【0017】
本発明に係る光ピックアップ装置用の対物レンズの製造方法は、上記蒸着治具を使用することを特徴とする。この場合、上記蒸着治具を使用することにより、被蒸着物である対物レンズに略均一な膜厚で蒸着することができる。そのため、対物レンズに対して、2層以上さらには3層以上の多層の反射防止膜を蒸着する場合であっても、量産時において安定性良く蒸着することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係る蒸着装置を説明する概念図である。
【図2】(A)は、第1実施形態に係る蒸着治具の平面概念図であり、(B)は、蒸着治具の側面概念図であり、(C)は、基板ホルダの平面図であり、(D)は、(C)のA−A矢視断面図であり、(E)は、(C)のB−B矢視断面図である。
【図3】(A)〜(C)は、第1実施形態における基板ホルダ上の位置と分光特性との関係を示す図であり、(D)〜(F)は、従来における基板ホルダ上の位置と分光特性との関係を示す図である。
【図4】(A)は、第2実施形態に係る蒸着治具の平面概念図であり、(B)は、蒸着治具の側面概念図であり、(C)は、基板ホルダの平面図であり、(D)は、(C)のA−A矢視断面図である。
【図5】(A)〜(C)は、第2実施形態における基板ホルダ上の位置と分光特性との関係を示す図である。
【図6】(A)は、第3実施形態に係る蒸着治具の平面概念図であり、(B)は、蒸着治具の側面概念図であり、(C)は、基板ホルダの平面図であり、(D)は、(C)のA−A矢視断面図である。
【図7】(A)〜(C)は、第3実施形態における基板ホルダ上の位置と分光特性との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第1実施形態〕
図1及び図2を参照して、本発明の蒸着装置について説明する。図1に示すように、蒸着装置100は、成膜用の蒸着源10と、複数の被蒸着物DSを保持する基板20と、基板20を支持し、回転及び反転させる蒸着治具30と、蒸着源10や蒸着治具30等を収納する真空容器40と、蒸着治具30の経線方向の膜厚を調節する補正板50と、蒸着源10の動作を制御する蒸着源制御部91と、蒸着治具30を操作駆動する蒸着治具駆動部92と、真空容器40内の気圧を制御する気圧制御部93と、補正板50の配置を調整する補正板制御部94と、蒸着源制御部91、蒸着治具駆動部92、気圧制御部93、及び補正板制御部94の動作を制御する制御部90とを備える。なお、本蒸着装置100による成膜の対象となる被蒸着物DSは、射出成形により形成された小型のプラスチックレンズであり、例えば光ピックアップ装置の対物レンズとして用いられる。
【0020】
蒸着源10は、成膜材料の真空蒸着を可能にするものであり、ルツボ部分10aと電子銃部分10bとを備える。ここで、ルツボ部分10aは、被蒸着物DSの光学面OL1,OL2のコーティング用の蒸発物質を収容しており、電子銃部分10bは、ルツボ部分10a中の蒸発物質に対して電子線を入射させる。これにより、電子線でルツボ部分10a中の蒸発物質を加熱して溶かし、ルツボ部分10aから蒸発物質の蒸気EMを上方に射出させることができる。蒸着源10は、蒸着源制御部91によって動作する。なお、ルツボ部分10aは、単一に限らず複数とすることができ、複数の成膜材料を被蒸着物DSの光学面OL1,OL2にコーティングすることができ、成膜材料の変更によって被蒸着物DS表面に多層のコーティングを形成することができる。
【0021】
基板20は、後述する蒸着治具30により、複数の被蒸着物DSを蒸着源10に対向する状態で蒸着源10の上方に配置される。基板20は、一部拡大して示すように、各被蒸着物DSの一方の面である光学面OL1と他方の面である光学面OL2を下方に露出させる開口21を有している。この開口21により、蒸着源10からの蒸気EMを被蒸着物DSの光学面OL1又は光学面OL2上に入射させ蒸発物質を堆積させることができる。光学面OL1,OL2上に堆積される堆積膜すなわち薄膜は、例えば反射防止膜とするが、フィルタ等の各種機能を有する光学薄膜とすることができる。
【0022】
蒸着治具30は、基板20を蒸着源10に対向して支持するものである。すなわち、蒸着治具30は、蒸着源10に対向して上方に配置されている。蒸着治具30は、全体としてドーム状であり、図2(A)及び2(B)に示すように、球面に沿う扇状の基本領域に相当する基板ホルダ31と、基板ホルダ31を反転可能に支持する支持体32とを備える。なお、図2(B)では、基板ホルダ31が反転途中の状態を示している。
【0023】
図2(A)及び2(C)に示すように、各基板ホルダ31は、ドーム状又は球面状の領域を8等分した輪郭を有し、蒸着治具30のドーム中央寄りの固定ホルダ33と、蒸着治具30のドーム外縁寄りの一対の可動ホルダ34と、一対の回転軸35とを備える。固定ホルダ33は、基板20を基準軸31aに沿って基板ホルダ31のドーム中央寄りに固定する。一対の可動ホルダ34は、一対の基板20を基板ホルダ31のドーム外縁寄りの部分領域において、基準軸31aを挟んで固定する。そして、可動ホルダ34は、装着された基板20を周方向に所定の角度に傾斜した状態で支持する。回転軸35は、後述する支持体32に支持されて基準軸31a上に配置される。なお、本実施形態において、1つの固定ホルダ33と一対の可動ホルダ34とは、支持基板31bにより一体的に形成されている。
【0024】
可動ホルダ34は、図2(C)に示すように、略扇形の輪郭を有しており、2つの可動ホルダ34が、回転軸35を挟んで左右対称に固定して配置されている。可動ホルダ34を構成する支持基板31bには、基板20を装着した際に基板20の両側の面が露出するような矩形の開口34bが設けられている。開口34bの角部において、図2(D)に示すように、支持基板31bから係止部34aが立設されている。係止部34aは、基板20を4隅から支持して落下を防止する。係止部34aは、基板20が蒸着源10に対向する面が略球面に沿うように傾斜させる爪34cを有しており、支持基板31bから爪34cまでの距離は、基準軸31a側で短くなっており、基準軸31aから離れた辺側で長くなっている。つまり、回転軸35から周方向に離れるにしたがって基板20を保持する空間が広くなっていると見ることができる。これにより、係止部34aは、基板ホルダ31が反転した際に、装着された基板20が上下に多少移動可能になっており、特に、基板ホルダ31の辺側で基板が下側に大きく移動するので、一対の基板20は、球面に沿うように傾斜する。つまり、一対の可動ホルダ34は、屋根形に折れ曲がって配置され、下側に180度未満の角度αをなす。
【0025】
固定ホルダ33は、図2(C)に示すように、略扇形の輪郭を有しており、固定ホルダ33には、回転軸35が対称軸上に固定して配置されている。固定ホルダ33には、基板20を装着した際に基板20の両側の面が露出するような矩形の開口33bが設けられている。開口33bの角部において、図2(E)に示すように、支持基板31bから係止部33aが立設されている。係止部33aは、基板20を4隅から支持して落下を防止する。係止部33aは、基板20が蒸着源10に対向する面が略球面に沿うような状態に固定する爪33cを有している。係止部33aは、係止部34aと異なり、基板ホルダ31が反転した際に、装着された基板20は移動しないようになっている。
【0026】
一対の回転軸35は、基板ホルダ31のドーム中央寄りとドーム外縁寄りとに固定されており、支持体32にそれぞれ支持されて、基準軸31aに沿って延びている。回転軸35は、図1に示す真空容器40に設けられた反転機構41によって回転軸35のまわりに回転され、基板ホルダ31を180度反転させる。
【0027】
支持体32は、円形の外枠32aと、中央枠32bと、放射状に延びる経線枠32cと、回転装置32d(図1参照)とを備える。支持体32は、基板ホルダ31を基準軸31aのまわりに反転可能に支持し、基板ホルダ31を球面の中心軸OXのまわりに回転させるものである。支持体32は、蒸着治具駆動部92の制御下で動作する回転装置32dに駆動されて前記球面の中心軸OXのまわりに回転する。なお、基板ホルダ31は、対向する外枠32aと中央枠32bとによって傾斜して支持される。
【0028】
図1に戻って真空容器40は、その内部空間ISにおいて、蒸着源10を底部に支持し、蒸着治具30を上部に支持する。真空容器40の壁面には、基板ホルダ31を反転させるために回転軸35を回転させる反転機構41が設けられている。なお、真空容器40には、真空容器40内の気圧を制御する気圧制御部93が接続されている。この気圧制御部93によって真空容器40内を減圧したり、リークしたりする。
【0029】
補正板50は、基板ホルダ31の経線方向の膜厚差を調整するためのものである。補正板50は、蒸着源10と蒸着治具30との間に配置されている。補正板50は、補正板制御部94によって、真空容器40内の姿勢が制御されている。補正板50を適宜上げ下ろしすることにより、基板ホルダ31において、補正板50の陰になる部分は、蒸着がされないようになっている。
【0030】
制御部90は、蒸着源制御部91、蒸着治具駆動部92、気圧制御部93、及び補正板制御部94の動作を制御する。
【0031】
以下、蒸着装置100の動作について説明する。蒸着装置100は、予め、真空容器40内の蒸着治具30上に基板20をセットし蒸着源10に蒸発物質をセットした状態として、不図示の扉を閉じている。なお、基板20には、予め多数の被蒸着物DSが取り付けられている。
【0032】
まず、制御部90の制御下で気圧制御部93を動作させ真空容器40の内部空間ISを高真空に減圧する。次に、制御部90の制御下で蒸着源制御部91によって蒸着源10を動作させ、成膜材料を被蒸着物DSの光学面OL1にコーティングする。この際、制御部90の制御下で蒸着治具駆動部92を介して蒸着治具30とともに基板20を中心軸OXのまわりに回転させる。これにより、基板20上の被蒸着物DSの位置を成膜中変化させることができ、多数の被蒸着物DSの均一な成膜が可能になる。次に、被蒸着物DSの光学面OL2に成膜材料をコーティングする場合、真空容器40に設けられた反転機構41により、基板ホルダ31の回転軸35を回転させ、基板ホルダ31を反転させる。その後、上記と同様に蒸着源制御部91等を動作させ、被蒸着物DSの光学面OL2にコーティングする。なお、光学面OL1,OL2のコーティングの際に、制御部90の制御下で補正板制御部94によって補正板50を適宜上げ下ろしし、被蒸着物DSの膜厚を調整する。
【0033】
次に、制御部90の制御下で蒸着源制御部91によって蒸着源10等の動作を停止させることで、成膜材料の蒸着を停止し被蒸着物DSを徐々に冷却する。その後、被蒸着物DSがある程度冷却した段階で、制御部90の制御下で気圧制御部93によって真空容器40内のリークを開始させ、真空容器40内を徐々に外気圧に戻し始める。真空容器40内の気圧が外気圧に達したことを検出した後、真空容器40の扉を開放する。
【0034】
以上の説明から明らかなように、本実施形態の蒸着装置100によれば、可動ホルダ34が、基板ホルダ31の外周側において、装着された基板20を周方向に所定の角度に傾斜させているため、平板では球面から距離が離れやすい外周側であっても基板ホルダ31内の基板20に設けられた被蒸着物DSに略均一な膜厚で蒸着することができる。また、可動ホルダ34によって基板20を傾斜させる構造であるため、簡単な構造とすることができる。
【実施例1】
【0035】
図3(A)〜3(C)は、本実施形態における基板ホルダ31上の位置と膜厚のばらつきについて説明するものである。図3(A)の基板ホルダ31上の位置に対応する分光特性極値を図3(B)に、各位置における分光特性を図3(C)に示す。一方、図3(D)〜3(F)は、本実施形態における基板ホルダ上の位置と膜厚のばらつきについて説明するものである。図3(D)の基板ホルダ上の位置に対応する分光特性極値を図3(E)に、各位置における分光特性を図3(F)に示す。ここで、分光特性のばらつきは、膜厚のばらつきと略同一となっている。
【0036】
図3(B)に示すように、本実施形態における基板ホルダ31上の分光特性極値は、664nm〜675nmであった。一方、図3(E)に示すように、従来における基板ホルダ上の分光特性極値は、647nm〜675nmであった。また、従来の基板ホルダでは、ドーム外縁寄りの端部(No.11、13、15、16、18、20)の分光特性極値が短波長側にシフトしており、膜厚がドーム外縁寄りの中心部(No.10、12、14、17、19、21)よりも薄くなっていた。以上のことから、本実施形態における基板ホルダ31を用いることにより、膜厚差が低減されることがわかる。また、図3(C)と3(F)とを比較すると、本実施形態における基板ホルダ31を用いることにより、各位置における反射率のばらつきが低減されることがわかる。
【0037】
〔第2実施形態〕
以下、本発明に係る第2実施形態の蒸着治具について説明する。第2実施形態の蒸着治具は、第1実施形態の蒸着治具を変形したものであり、特に説明しない部分は、第1実施形態と同様である。
【0038】
以下、図4を参照しつつ、第2実施形態に係る蒸着治具230について詳述する。
蒸着治具230は、全体としてドーム状であり、図4(A)及び4(B)に示すように、扇形の外周側の隅部分を除いた形状の輪郭を有する第1ホルダ233と、略扇形の輪郭を有する第2ホルダ234と、第1ホルダ233及び第2ホルダ234を反転可能に支持する支持体232とを備える。なお、図4(B)では、第1及び第2ホルダ233,234が反転途中の状態を示している。
【0039】
第1ホルダ233は、経線方向の基準軸231aに沿った中心領域に配置され、第2ホルダ234は、基準軸231aから離れた周辺領域に配置される。第2ホルダ234は、第1ホルダ233の外縁側において第1ホルダ233を両側から挟むように配置されており、第1ホルダ233と、第1ホルダ233の左側に配置される第2ホルダ234の右半分と、第1ホルダ233の右側に配置される第2ホルダ234の左半分とを併せることにより、球面に沿う扇状の基本領域231が構成される。ここで、第1ホルダ233を挟む一対の第2ホルダ234の片側部分は、扇状の基本領域231内のうち外周側の一対の部分領域に相当するものとなっている。つまり、一対の第2ホルダ234は、その蒸着位置において、基準軸231aを通る接平面に対して基準軸231aのまわりに所定の角度に回転して傾斜した状態で配置される。これにより、第2ホルダ234は、装着された基板20を周方向に所定の角度に傾斜した状態で支持する。一方、第1ホルダ233は、基準軸231aを通る接平面に対して略平行に固定して配置される。第1ホルダ233は、第1の経線方向に沿った基準軸231aのまわりに回転することで180度反転可能になっており、第2ホルダ234は、支持体232の中央の中心軸OXから第2の経線方向に放射状に延び、一対の基準軸231a,231a間に配置される追加軸231cのまわりに回転することで180度反転可能になっている。
【0040】
第1ホルダ233は、図4(C)に示すように、略扇形の輪郭を有しており、第1ホルダ233には、一対の回転軸235が対称軸上に配置されている。第1ホルダ233には、基板20を装着した際に基板20の両側の面が露出するような矩形の開口33bが設けられている。開口33bの角部において、支持基板231bから係止部33aが立設されている。係止部33aは、基板20を4隅から支持して落下を防止する。係止部33aは、基板20が蒸着源10に対向する面が略球面に沿うような状態に固定する爪33cを有している。第1ホルダ233の回転軸235は、基準軸231a上に沿って配置される。
【0041】
第2ホルダ234は、図4(C)に示すように、略扇形の輪郭を有しており、第2ホルダ234には、追加軸231cに沿った一対の回転軸236が対称軸上に固定して配置されている。第2ホルダ234には、基板20を装着した際に基板20の両側の面が露出するような矩形の開口34bが設けられている。開口34bの角部において、支持基板231dから係止部34aが立設されている。係止部34aは、基板20を4隅から支持して落下を防止する。係止部34aは、基板20が蒸着源10に対向する面が略球面に沿うような状態に固定する爪34cを有している。第2ホルダ234の回転軸236は、追加軸231c上に沿って配置される。
【0042】
第1ホルダ233に隣接する一対の第2ホルダ234は、第1及び第2ホルダ233,234が反転しても基準軸231aを通る接平面に対して基準軸231aのまわりに所定の角度に回転して傾斜した状態で配置されるため、一対の第2ホルダに装着された基板20は、球面に沿うように傾斜する。つまり、第1及び第2ホルダ333,334は、屋根形に折れ曲がって配置され、下側に180度未満の角度αをなす。
【0043】
支持体232は、円形の外枠232aと、中央枠232bと、中間枠232eと、放射状に延びる第1の経線枠232cと、第2の経線枠232fと、回転装置32d(図1参照)とを備える。第1の経線枠232cは、第1ホルダ233の中央側の輪郭に沿った形状になっており、第2の経線枠232fは、第1及び第2ホルダ233,234の輪郭に沿った形状になっている。中間枠232eは、第2ホルダ234の上端に沿って一対の第2の経線枠232fを結んでいる。なお、第1ホルダ233は、対向する外枠232aと中央枠232bとによって傾斜して支持され、第2ホルダ234は、対向する外枠232aと中間枠233eとによって傾斜して支持される。これにより、第1及び第2ホルダ233,234は、それぞれ独立して反転操作が可能となっている。なお、第1ホルダ233と第2ホルダ234とを単一の共通の反転機構41を用いて順次反転させてもよいし、複数の異なる反転機構41を用いて同時に反転させてもよい。
【実施例2】
【0044】
図5(A)〜5(C)は、本実施形態における第1及び第2ホルダ233,234上の位置と膜厚のばらつきについて説明するものである。図5(A)の第1及び第2ホルダ233,234上の位置に対応する分光特性極値を図5(B)に、各位置における分光特性を図5(C)に示す。
【0045】
図5(B)に示すように、本実施形態における第1及び第2ホルダ233,234上の分光特性極値は、666nm〜672nmであった。よって、本実施形態における第1及び第2ホルダ233,234を用いることにより、膜厚差が低減されることがわかる。また、図5(C)に示すように、本実施形態における第1及び第2ホルダ233,234を用いることにより、各位置における反射率のばらつきが低減されることがわかる。
【0046】
〔第3実施形態〕
以下、本発明に係る第3実施形態の蒸着治具について説明する。第3実施形態の蒸着治具は、第1実施形態の蒸着治具を変形したものであり、特に説明しない部分は、第1実施形態と同様である。
【0047】
以下、図6を参照しつつ、第3実施形態に係る蒸着治具330について詳述する。
蒸着治具330は、全体としてドーム状であり、図6(A)及び6(B)に示すように、球面に沿う扇状の基本領域に相当する基板ホルダ331と、基板ホルダ331を反転可能に支持する支持体32とを備える。なお、図6(B)では、基板ホルダ331が反転途中の状態を示している。
【0048】
図6(A)及び6(C)に示すように、各基板ホルダ331は、ドーム状又は球面状の領域を8等分した輪郭を有し、蒸着治具330のドーム中央寄りの第1ホルダ333と、蒸着治具330のドーム外縁寄りの一対の第2ホルダ334と、一対の回転軸335と、一対の第2ホルダ抑止棒337とを備える。第1ホルダ333は、基板20を基準軸331aに沿って基板ホルダ331のドーム中央寄りに固定する。一対の第2ホルダ334は、一対の基板20を基板ホルダ331のドーム外縁寄りの部分領域において、可動な状態で基準軸331aを挟んでいる。つまり、一対の第2ホルダ334は、その蒸着位置において、基準軸331aを通る接平面に対して基準軸331aのまわりに所定の角度に回転して傾斜した状態で配置される。これにより、第2ホルダ334は、装着された基板20を周方向に所定の角度に傾斜した状態で支持する。一方、第1ホルダ333は、基準軸331aを通る接平面に対して略平行に固定して配置される。回転軸335は、第1及び第2ホルダ333,334で共通の軸となっており、支持体32に支持されて基準軸331a上に配置される。基板ホルダ331は、支持体32の対向する外枠32aと中央枠32bとによって傾斜して支持される。これにより、基板ホルダ331すなわち第1及び第2ホルダ333,334は、共通する基準軸331aのまわりに回転することで180度反転可能になっている。
【0049】
第2ホルダ334は、図6(C)に示すように、略扇形の輪郭を有しており、2つの第2ホルダ334が、回転軸335を挟んで左右対称に可動な状態で配置されている。図6(D)に示すように、第2ホルダ334を構成する支持基板331dには、基板20を装着した際に基板20の両側の面が露出するような矩形の開口34bが設けられている。開口34bの角部において、支持基板331dから係止部34aが立設されている。係止部34aは、基板20を4隅から支持して落下を防止する。係止部34aは、基板20が蒸着源10に対向する面が略球面に沿うような状態に固定する爪34cを有している。第2ホルダ334は、基準軸331a上に延びる支持部334dに支持されている。支持部334dは、ヒンジ状となっており、第2ホルダ334を回動可能にする。これにより、基板ホルダ331が反転した際に、第2ホルダ334に装着された各基板20は、球面に沿うように傾斜する。つまり、一対の第2ホルダ334は、屋根形に折れ曲がって配置され、下側に180度未満の角度αをなす。
【0050】
第1ホルダ333は、図6(C)に示すように、略扇形の輪郭を有しており、第1ホルダ333には、回転軸335が対称軸上に固定して配置されている。第1ホルダ333には、基板20を装着した際に基板20の両側の面が露出するような矩形の開口33bが設けられている。開口33bの角部において、支持基板331bから係止部33aが立設されている。係止部33aは、基板20を4隅から支持して落下を防止する。係止部33aは、基板20が蒸着源10に対向する面が略球面に沿うような状態に固定する爪33cを有している。
【0051】
一対の回転軸335は、基板ホルダ331のドーム中央寄りとドーム外縁寄りとに固定されており、支持体32にそれぞれ支持されて、基準軸331aに沿って延びている。回転軸335は、真空容器40に設けられた反転機構41によって回転軸335のまわりに回転され、基板ホルダ331を180度反転させる。
【0052】
なお、本実施形態において、回転軸335の外縁を回転軸受で支持し、第1及び第2ホルダ333,334との境界部分の回転軸335に例えばユニバーサルジョイントを設けることによって、第1ホルダ333を経線方向に関して球面に沿うように傾斜させてもよい。
【実施例3】
【0053】
図7(A)〜7(C)は、本実施形態における基板ホルダ331上の位置と膜厚のばらつきについて説明するものである。図7(A)の基板ホルダ331上の位置に対応する分光特性極値を図7(B)に、各位置における分光特性を図7(C)に示す。
【0054】
図7(B)に示すように、本実施形態における基板ホルダ331上の分光特性極値は、666nm〜673nmであった。よって、本実施形態における基板ホルダ331を用いることにより、膜厚差が低減されることがわかる。また、図7(C)に示すように、本実施形態における基板ホルダ331を用いることにより、各位置における反射率のばらつきが低減されることがわかる。
【0055】
以上実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、基板ホルダ31等の開口33b,34b等を矩形としたが、基板20を支持しつつ、基板20を露出可能な形状であればよい。
【0056】
また、上記実施形態では、被蒸着物DSがプラスチック製のレンズであるとしたが、被蒸着物DSは、レンズに限らず様々な光学素子とすることができ、またその材料も、プラスチックに限らずガラスその他の無機材料とすることもできる。
【0057】
また、上記実施形態では、蒸着源10を電子線で加熱するが、他の加熱法で蒸着源10を加熱することもできる。
【0058】
また、上記実施形態では、開口33b,34bの角部の4隅に係止部33a,34aを設けたが、基板20を安定して保持できれば、例えば開口33b,34bの辺上等、適当な位置に係止部33a,34aを設けてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10…蒸着源、 20…基板、 30,230,330…蒸着治具、 31,331…基板ホルダ、 31a,231a,331a…基準軸、 231c…追加軸、 32,232…支持体、 33…固定ホルダ、 34…可動ホルダ、 233,333…第1ホルダ、 234,334…第2ホルダ、 35,235,236,335…回転軸、 40…真空容器、 50…補正板、 90…制御部、 91…蒸着源制御部、 92…蒸着治具駆動部、 93…気圧制御部、 94…補正板制御部、 100…蒸着装置、 DS…被蒸着物、 OL1,OL2…光学面、 OX…中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着された基板を蒸着源に対向して支持可能であるとともに、球面に沿う扇状の基本領域の外周側において、前記装着された基板を周方向に所定の角度に傾斜した状態で支持する複数の部分領域と、
前記複数の部分領域を経線方向に沿った軸に関して反転可能に支持する支持体と、
を備えることを特徴とする蒸着治具。
【請求項2】
前記複数の部分領域は、略扇形の輪郭を有することを特徴とする請求項1に記載の蒸着治具。
【請求項3】
前記複数の部分領域は、反転の前後に、前記装着された基板が移動可能な係止部をそれぞれ有することを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれか一項に記載の蒸着治具。
【請求項4】
前記基本領域は、経線方向に沿った基準軸を通る接平面に対して略平行に設けられる第1ホルダと、前記複数の部分領域として前記接平面に対して前記基準軸のまわりに所定の角度に傾斜して設けられる少なくとも1つ以上の第2ホルダとを有することを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれか一方に記載の蒸着治具。
【請求項5】
前記第2ホルダは、偶数個で構成され、前記基準軸を挟んで対称的に配置されることを特徴とする請求項4に記載の蒸着治具。
【請求項6】
前記第1ホルダは、第1の経線方向に沿った基準軸に関して反転し、第2ホルダは、第2の経線方向に沿った追加軸に関して反転することを特徴とする請求項4及び請求項5のいずれか一項に記載の蒸着治具。
【請求項7】
前記第1及び第2ホルダは、共通する経線方向に沿った基準軸に関して反転することを特徴とする請求項4及び請求項5のいずれか一項に記載の蒸着治具。
【請求項8】
前記支持体は、球面の中心軸のまわりに回転駆動されることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の蒸着治具。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の蒸着治具を備え、前記蒸着治具は、蒸着源に対向して配置されることを特徴とする蒸着装置。
【請求項10】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の蒸着治具を使用することを特徴とする光ピックアップ装置用の対物レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−231370(P2011−231370A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102375(P2010−102375)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】