説明

蒸着用ボートおよびこれを用いた蒸着装置

【課題】静電容量バラツキの少ない大容量電極箔を形成する事を目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため本発明の蒸着用ボート13は、凹溝17が、少なくとも蒸着材料が供給される供給用凹溝19Aと、この供給用凹溝19Aと連通する蒸発用凹溝20と、この蒸発用凹溝20と連通する拡散用凹溝19Bとで構成され、表面に供給用凹溝19Aおよび拡散用凹溝19Bが形成された領域のそれぞれの基体18の抵抗値に対する、表面に蒸発用凹溝20が形成された領域の基体18の抵抗値の比は、蒸着材料の沸点を蒸着材料の融点で除した値以上であるものとした。これにより本発明は、供給用凹溝19A近傍の温度を下げ、供給用凹溝19A近傍における蒸着材料の溶融や酸化を抑制し、蒸発量を安定化させる。また凹溝17の端部にまで均一に蒸着材料を行き渡らせることが出来る。そしてその結果、均一な粗膜層7を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蒸着用ボートとこれを用いた蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図10は電解コンデンサの電極箔1を模式的に表した断面図である。
【0003】
この電極箔1は、アルミニウム箔からなる基材2と、この基材2上に形成された粗膜層3とを備えている。粗膜層3は、アルミニウムからなる微粒子4が不規則に積み重なって枝分かれし、内部に多数の空孔を有する疎な構造である。そして粗膜層3は、膜厚が20〜40μm程度の厚い膜である。このように粗膜層3を疎で厚い膜とすることによって、電極箔1の表面積を増やし、大容量のコンデンサを実現することができる。
【0004】
そしてこのような疎で厚い粗膜層3を形成するための蒸着装置は、真空ポンプに連結された真空槽を備えている。この真空槽内には、基材2の表面と対向する位置に配置されるとともに、両端がそれぞれ正または負の電極に接続された蒸着用ボート(図11の図番113)と、この蒸着用ボート113に蒸着材料を供給する供給部と、真空槽内にガスを導入するガス管とが設けられている。蒸着用ボート113は、凹溝117が形成された基体118からなり、その材料はBN(窒化ホウ素)、W(タングステン)、PBN(熱分解窒化ホウ素)などの抵抗発熱体からなる。
【0005】
またガス管からは不活性ガスとしてのアルゴンガスと、活性ガスとしての酸素ガスとをバランスよく供給し、疎な粗膜層3を形成する。
【0006】
なお、この出願の発明に近似する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。また蒸着用ボートに関連する先行技術文献情報としては特許文献2〜4が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−258355号公報
【特許文献2】特開2007−39809号公報
【特許文献3】特開昭60−75574号公報
【特許文献4】特開平5−26633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の電極箔は、図12のSEM写真から分かるように、粗膜層3の膜厚や密度が不均一で、静電容量がバラつくことがあった。
【0009】
その理由は、粗膜層3を形成する際、蒸着材料が蒸着用ボート113から均一に蒸発していないからと考えられる。
【0010】
すなわち供給部から供給される蒸着材料は、蒸着用ボート113からの輻射熱や蒸発した微粒子4からの潜熱を受け、蒸着用ボート113に到達する前に過剰に溶融してしまうことがある。このように過剰に溶融すると、蒸着材料が凹溝117内に一定した速度で安定して充填されず、凹溝117から蒸発材料が均一に蒸発しない。また凹溝117の端部は蒸着材料が均一に行き渡らず、凹溝117から蒸発材料が均一に蒸発しないことがある。
【0011】
そしてその結果、粗膜層3が不均一となり、静電容量がバラつくのであった。
【0012】
そこで本発明は、均一な粗膜層を有し、静電容量のバラツキの少ない電極箔を形成する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そしてこの目的を達成するため本発明は、凹溝が、少なくとも一方の端部に配置され、蒸着材料が供給される供給用凹溝と、この供給用凹溝と連通し、蒸着材料を蒸発させる蒸発用凹溝と、この蒸発用凹溝と連通するとともに、凹溝の他方の端部に配置された拡散用凹溝とで構成され、表面に供給用凹溝および拡散用凹溝が形成された領域のそれぞれの基体の抵抗値に対する、表面に蒸発用凹溝が形成された領域の基体の抵抗値の比は、蒸着材料の沸点を蒸着材料の融点で除した値以上であるものとした。
【発明の効果】
【0014】
これにより本発明は、均一な粗膜層を有し、静電容量のバラツキの少ない電極箔を形成できる。
【0015】
その理由は、上記蒸着用ボートの構成により、供給用凹溝および拡散用凹溝が形成された領域の基体の発熱を抑えることができるからである。
【0016】
これにより供給用凹溝近傍からの輻射熱を抑制できるとともに、供給用凹溝からの蒸着材料の蒸発量を抑え、微粒子の潜熱による影響を低減することができる。また凹溝の両端がいずれも低温化されるため、溶融した蒸着材料が両端へと引っ張られ、凹溝内での濡れ性が均質化される。
【0017】
そしてその結果、蒸発用凹溝から蒸着材料を均一に蒸発させ、粗膜層が均一で、静電容量のバラツキの少ない電極箔を製造する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1における電極箔の断面図
【図2】本発明の実施例1における蒸着装置の模式図
【図3】(a)本発明の実施例1における蒸着用ボートの上面図、(b)同蒸着用ボートの長軸方向における垂直断面図、(c)同蒸着用ボートを抵抗加熱用電源に接続した回路図
【図4】本発明の実施例1における電極箔のSEM写真
【図5】本発明の実施例1と従来の電極箔の静電容量のバラツキを示す図
【図6】比較例の電極箔のSEM写真
【図7】(a)比較例の蒸着用ボートの上面図、(b)同蒸着用ボートの長軸方向における垂直断面図
【図8】(a)本発明の実施例2における蒸着用ボートの上面図、(b)同蒸着用ボートの長軸方向における垂直断面図
【図9】(a)本発明の実施例3における蒸着用ボートの上面図、(b)同蒸着用ボートの長軸方向における垂直断面図
【図10】従来の電極箔の断面図
【図11】(a)従来の蒸着用ボートの上面図、(b)同蒸着用ボートの長軸方向における垂直断面図
【図12】従来の電極箔のSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施例1)
以下、本実施例では、固体電解コンデンサや電解液を用いた電解コンデンサなどに用いる電極箔を製造する蒸着装置と、この装置に用いられる蒸着用ボートについて説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施例の電極箔5は、アルミニウムからなる基材6と、この基材6上に形成された粗膜層7とからなる。粗膜層7は、基材6の表面からアルミニウムからなる微粒子8が不均一に積層し、複数に枝分かれした疎な構造体である。この粗膜層7は、内部に多数の空孔が形成され、これらの空孔は外部と繋がっているため、粗膜層7の表面積は非常に大きくなっている。このような粗膜層7は、蒸着によって形成することができる。
【0021】
基材6の膜厚は30μm程度、粗膜層7の厚みは片面で20μm〜80μm程度であり、粗膜層7は、基材6の片面あるいは両面に形成されていてもよい。粗膜層7は、20μm以上の厚い膜とすることで表面積を拡大し、大容量化を実現できる。なお、80μm以下としたのは、この厚みが本実施例における蒸着プロセスで精度よく形成できる限界厚みだからである。
【0022】
微粒子8は、直径が0.01μm〜0.3μm程度であり、空孔径の最頻値は、0.01μm〜0.2μm程度である。このように微細な微粒子8を積み上げるとともに、微細な空孔を多数形成することによって、粗膜層7の表面積を拡大することができる。
【0023】
基材6の材料は、アルミニウムに限定されず、その他チタン、タンタルなどの弁金属やその合金材料、銅、銀など種々の導電性材料を用いることができる。本実施例では、膜厚30μm、幅10cm程度のものを用いた。
【0024】
また粗膜層7の材料もアルミニウムに限定されず、その他弁金属材料やその合金材料をはじめ、種々の導電性材料を用いることができる。
【0025】
なお、複数の微粒子8が結合する部分が電気的に導通していれば電極として機能するため、これらの結合部分を除き、それぞれの微粒子8の一部は、酸化物あるいは窒化物などの絶縁性の金属化合物で構成されていてもよい。
【0026】
基材6と微粒子8の材料は、異なるものを用いてもよいが、主成分を同一にする方が、両者の親和性が高く、また微粒子8の蒸着時の熱で基材6も軟化し、密着性を高めることができる。
【0027】
また蒸着材料は、アルミニウムのように比較的融点の低い金属材料を用いることによって、生産性を高めることができる。
【0028】
次に、本実施例の電極箔5を製造する蒸着装置9について説明する。図2に示すように、本実施例の蒸着装置9は、基材6を所定方向(矢印X)に連続的に移送させながら、基材6の表面に沸騰した蒸着材料を蒸着させ、基材6上に粗膜層7を形成するものである。
【0029】
この蒸着装置9は、真空ポンプ(図示せず)に連結された真空槽10を備え、この真空槽10内には帯状の基材6が巻かれている巻き出しローラー11と、この巻き出しローラー11から移送されてきた基材6を巻き取る巻き取りローラー12と、これらの巻き出しローラー11と巻き取りローラー12との間で基材6の表面と対向する位置に設けられ、両端がそれぞれ抵抗加熱用電源の正負の電極(図示せず)の接続された蒸着用ボート13と、この蒸着用ボート13に蒸着材料を供給する供給部14と、真空槽10内に不活性ガスおよび活性ガスを導入するガス管(図示せず)とが少なくとも設けられている。
【0030】
蒸着材料とは、本実施例では細い線状に加工されたアルミニウム線からなる。供給部14は、アルミニウム線が巻かれているボビン15と、アルミニウム線を蒸着用ボート13へ導く供給管16とを備えている。
【0031】
蒸着用ボート13は、図3(a)(b)に示すように、表面に凹溝17が形成された基体18からなり、凹溝17は、供給部14側に配置され、この供給部14から蒸着材料が供給される供給用凹溝19Aと、この供給用凹溝19Aと連通し、蒸着材料を蒸発させる蒸発用凹溝20と、この蒸発用凹溝20と連通する拡散用凹溝19Bとを少なくとも備えている。供給用凹溝19Aと拡散用凹溝19Bとは、それぞれ凹溝17の相反する端部に配置される。ここでいう端部とは、基材6の送り方向に対して垂直な方向の端部となる。
【0032】
なお、蒸着用ボート13は、長手方向が基材の送り方向Xに対して垂直になるように配置される。
【0033】
そして供給用凹溝19Aは、蒸発用凹溝20よりも蒸着用ボート13の長手方向(供給用凹溝19Aと蒸発用凹溝20との連結方向)に対して垂直方向の幅が狭く(d1<d2)、表面に供給用凹溝19Aが形成された領域の基体18の抵抗値(以下R1と言う)は、表面に蒸発用凹溝20が形成された領域の基体18の抵抗値(以下R2と言う)よりも小さくなっている。
【0034】
同様に拡散用凹溝19Bも、蒸発用凹溝20よりも蒸着用ボート13の長手方向(拡散用凹溝19Bと蒸発用凹溝20との連結方向)に対して垂直方向の幅が狭く(d3<d2)、表面に拡散用凹溝19Bが形成された領域の基体18の抵抗値(以下R3と言う)は、表面に蒸発用凹溝20が形成された領域の基体18の抵抗値R2よりも小さくなっている。
【0035】
本実施例では、幅d1および幅d3を10mm、幅d2を20mm程度とし、供給用凹溝19Aと拡散用凹溝19B、蒸発用凹溝20の長さは合計で基材6の幅(10cm)とほぼ同じとなるように設計した。
【0036】
ここで抵抗値とは、図3(c)に示すように、蒸着用ボート13の長手方向の両端を、それぞれ抵抗加熱用電源Zに接続した場合の基体18の抵抗値である。抵抗値R1、R2、R3は、直列に繋がっている。これらの抵抗値R1、R2、R3は、R=ρ・l/S(ρ;抵抗係数、l;基体の長さ、S;基体の垂直断面積)から求めることができる。ρ、l、Sの値は、それぞれの凹溝(供給用凹溝19A、あるいは蒸発用凹溝20、あるいは拡散用凹溝19B)が形成された領域の基体18の値である。なお、供給用凹溝19A、拡散用凹溝19Bあるいは蒸発用凹溝20の底面に傾斜をつけるなど、基体18の垂直断面積が変化する場合は、その平均値をSとする。
【0037】
そして本実施例の蒸着用ボート13は、蒸着領域を広くとるため、蒸発用凹溝20の長さl2の方が、供給用凹溝19Aの長さl1や拡散用凹溝19Bの長さl3よりも長くなるように形成している。したがって、抵抗値R1およびR3をR2より下げるためには、供給用凹溝19Aが形成された領域および拡散用凹溝19Bが形成された領域のそれぞれの基体18の垂直断面積の平均値は、蒸発用凹溝20が形成された領域の基体18の垂直断面積の平均値よりも大きくなるものである。
【0038】
本実施例では、抵抗値R1およびR3を1とした場合に、抵抗値R2は3倍〜4倍とした。
【0039】
この抵抗値の比率は、この値に制限されないが、少なくとも蒸着材料の沸点を蒸着材料の融点で除した(割った)値以上とすることで、供給用凹溝19A近傍で過剰に蒸着材料(アルミニウム線)が溶融してしまうのを低減できる。
【0040】
なお、本実施例では、10Pa条件下において、蒸着材料となるアルミニウムの融点は約660℃、沸点は1300℃前後であり、蒸着材料の沸点を蒸着材料の融点で除した値は約2である。
【0041】
またこの抵抗値の比率は、5倍以下とすることが望ましい。すなわち、供給用凹溝19Aが設けられた領域の基体18は、後述の蒸着プロセスにおいて、蒸着材料の融点以上に加熱される必要がある。したがって、上述の抵抗値の比率を5倍よりも大きくすると、蒸発用凹溝20が設けられた領域の基体18の温度は、非常に高温になることになり、蒸着材料が蒸発用凹溝20の全体に行き渡る前に蒸発してしまい、均一な粗膜層7を形成するのが難しくなる。また基材6への輻射熱が大きくなり、微粒子8が成長してしまい、空孔の小さな粗膜層7を形成するのが難しくなる。
【0042】
また本実施例では、供給用凹溝19Aと拡散用凹溝19Bを、凹溝17の両端に対称に形成している。すなわち、抵抗値R1とR3とを、ほぼ同程度の値となるように設計した。これにより凹溝17の両端が同様の温度分布で低温化され、蒸発用凹溝20で溶融したアルミニウムは、凹溝17の両端へと引っ張られる。
【0043】
なお、蒸着用ボート13は、BN(窒化ホウ素)やW(タングステン)、PBN(熱分解窒化ホウ素)、グラファイト、あるいはこれらの複合体からなる抵抗発熱材料を用いることができる。
【0044】
以下、本実施例の電極箔5の製造方法について説明する。
【0045】
本実施例では、上述の蒸着装置9を用いた抵抗加熱式蒸着法によって、下記のように粗膜層7を形成した。なお、本実施例では、活性ガスとして酸素ガスを用い、不活性ガスとしてアルゴンガスを用いている。
(1)図2に示す真空槽10の内部を0.01〜0.001Paの真空に保つ。
(2)基材6の周辺に、酸素ガスと、酸素ガスに対して流量が2〜6倍のアルゴンガスを、ガス管を介して導入させ、基材6の周辺の圧力を10〜30Paの状態にする。
(3)基材6の温度を150〜300℃の範囲に保つ。
(4)図3(a)に示す蒸着用ボート13の供給用凹溝19Aに、図2に示す供給部14からアルミニウム線を供給する。
(5)蒸着用ボート13を抵抗加熱により加熱し、供給用凹溝19Aでアルミニウム線を溶融させて蒸発用凹溝20に流し込む。流れ込んだアルミニウム線は、拡散用凹溝19Bの端部にも引っ張られるように行き渡る。
(6)蒸発用凹溝20に充填されたアルミニウムを沸騰させ、蒸発させて、アルミニウムの微粒子8を基材6の表面に蒸着させる。基材6は巻き出しローラー11から巻き取りローラー12へと矢印X方向に移送させ、微粒子8を基材6の表面に、順次連続的に蒸着していく。
【0046】
上記の圧力やガス圧、温度などの条件は一例であるが、以上のプロセスで粗膜層7を形成することができる。
【0047】
図4、図5を用いて本実施例の効果を以下に説明する。
【0048】
図4は本実施例の蒸着用ボート13を用いた場合の電極箔5を上面から写したSEM写真であり、図12は従来の蒸着用ボート(図11(a)の図番113)を用いて蒸着した場合の電極箔1の上面SEM写真である。図11(a)(b)に示すように、従来の蒸着用ボート113は、基体118に幅、深さともに一定の凹溝117が形成されている。
【0049】
図4および図12を比較すれば、目視でも粗膜層7のムラが低減できていることが分かる。また図5は、従来と本実施例における電極箔について、基材の長さ方向、すなわち基材の送り方向(図2の矢印X方向)における位置を横軸に、単位面積当たりの容量バラツキを計測したものである。この図5では、従来の電極箔1(図12の電極箔)は、単位面積当たりの容量バラツキが最大で±40%前後あるのに対し、本実施例の電極箔5は、±5%程度に抑えられたことが分かる。
【0050】
このように本実施例では、均一な粗膜層7を有し、静電容量のバラツキの少ない電極箔5を製造できる。
【0051】
その理由は、蒸着用ボート13の凹溝17を、上記構成としたことにより、供給用凹溝19A周辺の発熱を抑えることができるからである。
【0052】
また供給用凹溝19Aが形成された領域では、基体18の抵抗が低いため、発熱を抑えることができ、近傍の輻射熱も抑制できる。したがって、供給部14から供給された蒸着材料が蒸着ボートに到達する前に過剰に溶融するのを抑制でき、蒸発用凹溝20に一定量を一定の速度で安定して供給することができる。また蒸着材料が蒸着用ボート13に到達する前に、アルミニウムが溶融し難くなるため、表面の熱酸化による酸化アルミニウム皮膜の発生を低減できる。なお、この酸化アルミニウム皮膜が形成されると、沸点が上昇してしまうため、アルミニウムが露出している部分との蒸発速度が変わる。したがって、酸化アルミニウム皮膜の形成を抑制することは、均一な蒸発に有用である。
【0053】
さらに供給用凹溝19Aが形成された領域では、基体18の抵抗が低いため、発熱を抑制でき、供給用凹溝19Aにおける蒸着材料の蒸発量を抑えることができる。また本実施例では、供給用凹溝19Aの開口部は幅が狭いため、更に効果的に蒸発量を抑えることができる。したがって、供給部14から供給される蒸着材料が、蒸発した微粒子8からの潜熱によって加熱されるのを抑制できる。よって蒸着材料が蒸着用ボート13に到達する前に過剰に溶融するのを抑制でき、凹溝17内に均一に蒸着材料を供給できる。また熱酸化も抑制でき、蒸着材料の表面に酸化皮膜が形成されるのを抑制できる。
【0054】
以上のように本実施例では、蒸着用ボート13からの輻射熱と、蒸着微粒子8からの潜熱を低減することができ、蒸発用凹溝20から蒸発材料を均一に蒸発させ、粗膜層7が均一で、静電容量のバラツキの少ない電極箔5を製造する事ができる。
【0055】
なお、酸素ガスを導入する場合、酸化皮膜が形成されやすいことから、本実施例のように供給用凹溝19A近傍における蒸着材料の溶融を抑制することは、均一な膜形成に有効である。
【0056】
また本実施例のように、活性ガス、不活性ガスを導入し、比較的高圧条件下で蒸着をする場合、微粒子8が結合して大きな潜熱を持ちやすいことから、供給用凹溝19A近傍における蒸発量を低減することは、均一な膜形成に有効である。
【0057】
さらに本実施例では、図4の上面図から目視でわかるように、基材6の送り方向と垂直な方向Yのムラも低減できる。その理由を、比較例を用いながら以下に説明する。
【0058】
図6は比較の為の電極箔の上面図であり、図7(a)(b)に示す蒸着用ボート213を用いて形成したものである。蒸着用ボート213は、本実施例1と同様に供給用凹溝219Aと蒸発用凹溝220とを有しているが、拡散用凹溝19Bが形成されていない。このような比較例の蒸着用ボート213を用いると、図6で示すように、蒸着用ボート213の長手方向、すなわち基材6の送り方向Xと垂直な方向Yでムラができる場合がある。
【0059】
この理由は、凹溝217全体に溶融したアルミニウムが行き渡っていないからと考えられる。すなわち、図7(a)(b)に示す比較例の構成では、供給用凹溝219Aが形成されている側と反対側の端部にまでアルミニウムが均一に充填されず、Y方向のムラとなることがある。
【0060】
これに対し本実施例では、蒸着用ボート13に拡散用凹溝19Bを形成したため、拡散用凹溝19B側が低温になり、溶融したアルミニウムが引っ張られる。そしてその結果、アルミニウムが凹溝17内で均一に溶融し、基材6のY方向に対して均一に蒸着できるのである。
【0061】
さらに本実施例では、供給用凹溝19Aと拡散用凹溝19Bとを対称に形成した為、いずれの端部も同様の温度分布を示す。そして供給用凹溝19A、拡散用凹溝19Bのいずれの端部にも溶融したアルミニウムが行き渡り、より蒸着の均一性を確実に高めることができる。
【0062】
(実施例2)
本実施例では、図8(a)に示すように、蒸着用ボート21の供給用凹溝22Aと蒸発用凹溝23、拡散用凹溝22Bの幅をいずれも同じ幅とし、基体24自体の幅を変えたものである。
【0063】
すなわち本実施例では、表面に供給用凹溝22A、拡散用凹溝22Bが形成された領域のそれぞれの基体24の幅t1および幅t3は、表面に蒸発用凹溝23が形成された領域の基体24の幅t2よりも幅が広く、表面に供給用凹溝22A、拡散用凹溝22Bが形成された領域のそれぞれの基体24の抵抗値は、表面に蒸発用凹溝23が形成された領域の基体24の抵抗値よりも小さくなるように形成した。
【0064】
なお本実施例でも、実施例1と同様に、表面に供給用凹溝22A、拡散用凹溝22Bが形成された領域の基体24のそれぞれ抵抗値に対する、表面に蒸発用凹溝23が形成された領域の基体24の抵抗値の比は、(蒸着材料の沸点)/(蒸着材料の融点)以上であって5以下となることが好ましく、本実施例でもこの比は3〜4程度である。
【0065】
これにより本実施例では、供給用凹溝22A周辺の発熱を抑えるとともに、供給用凹溝22Aからの蒸発量を抑えることができる。したがって、供給部(図2の14)から供給された蒸着材料が蒸着用ボート21に到達する前に過剰に溶融するのを抑制でき、また蒸着材料の表面の熱酸化を防ぐことができる。そしてその結果、基材の送り方向において粗膜層7を均一に形成し、容量バラツキの少ない電極箔5を形成できる。
【0066】
また拡散用凹溝22B内も低温化することによって、凹溝25の両端まで溶融したアルミニウムを行き渡らせることができる。そしてその結果、基材の送り方向(図2のX方向)と垂直方向においても粗膜層7を均一に形成し、容量バラツキの少ない電極箔5を形成できる。
【0067】
なお本実施例では、図8(b)に示すように、供給用凹溝22Aと蒸発用凹溝23、拡散用凹溝22Bの深さは同一としたが、例えば供給用凹溝22Aは、一方の端部側から蒸発用凹溝23と連通する他方の端部に向かって段階的に深くなる構造としてもよく、この場合は供給用凹溝22Aから蒸発用凹溝23へと蒸着材料をより速やかに移動させることができる。
【0068】
その他実施例1と同様の構成および効果については説明を省略する。
【0069】
(実施例3)
本実施例では、図9(a)に示すように、蒸着用ボート26の供給用凹溝27Aと蒸発用凹溝28、拡散用凹溝27Bの幅を同じ幅としている。また供給用凹溝27Aと蒸発用凹溝28、拡散用凹溝27Bがそれぞれ形成された基体29の幅も同じである。そして図9(b)に示すように供給用凹溝27Aと拡散用凹溝27Bとは、それぞれの端部から蒸発用凹溝28に向かって段階的に深くなる構造とした。
【0070】
供給用凹溝27Aの端部から蒸発用凹溝28側へと溝を深くしていくことで、蒸着材料を蒸発用凹溝28へと速やかに流し込むことができる。また蒸発用凹溝28から拡散用凹溝27Bの端部に向かって底面に上向きの傾斜をつけることで、蒸着材料の這い上がりを抑制できる。
【0071】
本実施例においても、実施例1と同様に、供給用凹溝27Aおよび拡散用凹溝27Bが形成された領域のそれぞれの基体29の抵抗値に対する、表面に蒸発用凹溝28が形成された領域の基体29の抵抗値の比は、蒸着材料の沸点を蒸着材料の融点で除した値以上であり、5以下となることが好ましく、本実施例でもこの比は3〜4程度である。
【0072】
なお、本実施例においては、供給用凹溝27Aと拡散用凹溝27Bが形成された領域の基体29の抵抗値および断面積は徐徐に変化するため、その平均値を用いた。
【0073】
その他実施例1と同様の構成および効果については説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、均一な大容量の電極箔の量産性を高めることができ、電解コンデンサの陽極箔、あるいは陰極箔として用いることができる。
【符号の説明】
【0075】
5 電極箔
6 基材
7 粗膜層
8 微粒子
9 蒸着装置
10 真空槽
11 巻き出しローラー
12 巻き取りローラー
13 蒸着用ボート
14 供給部
15 ボビン
16 供給管
17 凹溝
18 基体
19A 供給用凹溝
19B 拡散用凹溝
20 蒸発用凹溝
21 蒸着用ボート
22A 供給用凹溝
22B 拡散用凹溝
23 蒸発用凹溝
24 基体
25 凹溝
26 蒸着用ボート
27A 供給用凹溝
27B 拡散用凹溝
28 蒸発用凹溝
29 基体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹溝が形成された基体からなる蒸着用ボートであって、
前記凹溝は、
少なくとも一方の端部に配置され、蒸着材料が供給される供給用凹溝と、
この供給用凹溝と連通し、前記蒸着材料を蒸発させる蒸発用凹溝と、
この蒸発用凹溝と連通するとともに、前記凹溝の他方の端部に配置された拡散用凹溝と、で構成され、
表面に前記供給用凹溝および前記拡散用凹溝が形成された領域のそれぞれの前記基体の抵抗値に対する、表面に前記蒸発用凹溝が形成された領域の前記基体の抵抗値の比は、前記蒸着材料の沸点を前記蒸着材料の融点で除した値以上である、蒸着用ボート。
【請求項2】
前記供給用凹溝および前記拡散用凹溝はいずれも、前記蒸発用凹溝よりも幅が狭いものとした請求項1に記載の蒸着用ボート。
【請求項3】
表面に前記供給用凹溝および前記拡散用凹溝が形成された領域はいずれも、表面に前記蒸発用凹溝が形成された領域よりも基体の幅が広いものとした請求項1に記載の蒸着用ボート。
【請求項4】
表面に前記供給用凹溝および前記拡散用凹溝が形成された領域のそれぞれの前記基体の垂直断面積の平均値は、
表面に前記蒸発用凹溝が形成された領域の前記基体の垂直断面積の平均値よりも大きいものとした請求項1に記載の蒸着用ボート。
【請求項5】
前記供給用凹溝および前記拡散用凹溝は、それぞれ凹溝の外端部から前記蒸発用凹溝側に向かって段階的に深くなる構造とした請求項1に記載の蒸着用ボート。
【請求項6】
真空槽内で基材の表面に溶融した蒸着材料を蒸着させる蒸着装置であって、
前記真空槽内には、
前記基材の表面と対向する位置に配置されるとともに、両端がそれぞれ抵抗加熱用電源に接続された蒸着用ボートと、
この蒸着用ボートに蒸着材料を供給する供給部と、
前記真空槽内にガスを導入するガス管と、が少なくとも設けられ、
前記蒸着用ボートは、
表面に凹溝が形成された基体からなり、
前記凹溝は、
少なくとも一方の端部に配置され、蒸着材料が供給される供給用凹溝と、
この供給用凹溝と連通し、前記蒸着材料を蒸発させる蒸発用凹溝と、
この蒸発用凹溝と連通するとともに、前記凹溝の他方の端部に配置された拡散用凹溝と、で構成され、
表面に前記供給用凹溝および前記拡散用凹溝が形成された領域のそれぞれの前記基体の抵抗値に対する、表面に前記蒸発用凹溝が形成された領域の前記基体の抵抗値の比は、前記蒸着材料の沸点を前記蒸着材料の融点で除した値以上である、蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図4】
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【図6】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−241233(P2012−241233A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112197(P2011−112197)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】