説明

蒸着用材料

【課題】金属珪素と二酸化珪素の蒸着用材料は、加熱時に蒸気圧が高いために蒸発しにくく、さらに溶融型の蒸着用材料であるため、より大きい熱衝撃が必要となり、蒸着用材料が飛散してスプラッシュが発生しやすい。また蒸着速度の低下の問題、蒸着膜のバリア性の低下の問題もある。本発明の課題は、スプラッシュ現象の発生を抑制し、高いガスバリア性を付与できる蒸着用材料を提供することである。
【解決手段】金属珪素と、二酸化珪素と、酸化マグネシウム粉末とを含有してなる加熱方式の蒸着用材料であって、珪素とマグネシウムの合計の原子数と、酸素の原子数の比(O/(Si+Mg))が1.0〜1.8であり、マグネシウムと珪素の原子数の比(Mg/Si)が0.02〜0.50であることを特徴とする蒸着用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着用材料に関するものである。
【0002】
本発明の蒸着用材料を使用したガスバリア性蒸着フィルムは、例えば太陽電池のバックシート、食品や医薬品等の包装分野、あるいは非包装分野で酸素および水蒸気を遮断する必要がある部材の分野に広く用いることができる。
【背景技術】
【0003】
ハードディスクや半導体モジュールなどの精密電子部品類、あるいは、食品や医薬品類の包装に用いられる包装材料は、内容物を保護することが必要である。特に、食品包装においては蛋白質や油脂などの酸化や変質を抑制し、味や鮮度を保持することが必要である。
【0004】
また無菌状態での取り扱いが必要とされる医薬品類においては有効成分の変質を抑制し、効能を維持すること、さらに、精密電子部品類においては金属部分の腐食、絶縁不良などを防止するために、包装材料を透過する酸素や水蒸気、その他内容物を変質させる気体を遮断するガスバリア性を備える包装体が求められている。
【0005】
そのため、従来から温度、湿度などに影響されないアルミニウムなどの金属箔やアルミニウム蒸着フィルムあるいは、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン‐ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリロニトリル(PAN)などの樹脂フィルムやこれらの樹脂をラミネートまたはコーティングしたプラスチックフィルムなどが好んで用いられてきた。
【0006】
ところが、アルミニウムなどの金属箔やアルミニウム蒸着フィルムを用いた包装材料は、ガスバリア性には優れるが、不透明であるため、包装材料を透過して内容物を識別することが難しいだけではなく、使用後の廃棄の際に不燃物として処理しなければならいない点や金属探知機による異物検査や、電子レンジでの加熱処理が出来ない点などの欠点を有していた。
【0007】
また、ガスバリア性樹脂フィルムやガスバリア性樹脂をコーティングしたフィルムは、温度依存性が大きく、高いガスバリア性を維持できない。さらに、使用後PVDCやPANなどは廃棄・焼却の際に有害物質が発生する原因となる可能性などの問題があった。
【0008】
そこで、これらの欠点を克服した包装用材料として、最近では酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素などの無機酸化物を透明な基材フィルム上に蒸着したガスバリア性フィルムが上市されている。
【0009】
これらのガスバリア性蒸着フィルムは透明性および酸素、水蒸気などのガス遮断性を有していることが知られ、金属箔などでは得ることの出来ない透明性、ガスバリア性の両方を有する包装材料として好適とされており、酸化珪素SiOxを蒸着したフィルムでは食品包装用フィルムとして用いられている。また、酸化珪素SiOxを蒸着用材料とした加熱方式による蒸着は非常に成膜速度が速く、生産性が高い。
【0010】
しかし、ここで用いられている蒸着用材料の酸化珪素のSiOx(0<x<2)は、金属珪素と二酸化珪素を原料として真空蒸着により製造されるため、次に示すような欠点を有している。
【0011】
真空蒸着法により製造する蒸着用材料の酸化珪素SiOx(0<x<2)は大量生産に適した製造方法ではないため、材料費が高く、製造コストが高くなるという問題がある。また、この蒸着用材料の酸化珪素SiOx(0<x<2)は真密度に近い密度を有し、非常に緻密な構造になっている。
【0012】
そのため、この蒸着用材料を蒸発させてバリアフィルムを製造した場合には、蒸着の際の加熱による熱衝撃や内部から発生するガスの圧力により、気化していない蒸着用材料が高温の粒子として飛散するスプラッシュという現象が発生するという問題がある。
【0013】
高温の粒子が高分子フィルム上に到達した際には、ピンホールや異物が生じ、バリア性の低下および外観不良となる。さらに、上記記載の加熱方式、特に電子銃による加熱は、より大きい熱衝撃を蒸着用材料が受けることで上記のスプラッシュと異物の発生がより顕著に現れる。
【0014】
これに対して金属珪素と二酸化珪素の混合蒸着用材料は、比較的安価であるが、加熱時に一酸化珪素よりも蒸気圧が高いために蒸発しにくく、さらに溶融型の蒸着用材料であるため、より大きい熱衝撃が必要となり、蒸着用材料が飛散してスプラッシュが発生しやすい。また、二酸化珪素の分解による酸素ガスの発生で成膜室内の圧力が上昇し、蒸着速度の低下、つまり生産性の低下が起こり、また蒸着膜密度の低下による蒸着膜のバリア性の低下を引き起こす問題もある。
公知技術としては、例えば下記の特許文献1〜2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第3725200号公報
【特許文献2】特許第3267637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、以上の従来技術の問題を解決しようとするものであり、スプラッシュ現象の発生を抑制し、高いガスバリア性を付与できる蒸着用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は係る課題に鑑みなされたものであり、請求項1に記載の発明は、金属珪素と、二酸化珪素と、酸化マグネシウム粉末とを含有してなる加熱方式の蒸着用材料であって、珪素とマグネシウムの合計の原子数と、酸素の原子数の比(O/(Si+Mg))が1.0〜1.8であり、マグネシウムと珪素の原子数の比(Mg/Si)が0.02〜0.50であることを特徴とする蒸着用材料である。
【0018】
請求項2に記載の発明は、嵩密度が0.9〜1.5g/cmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の蒸着用材料である。
【0019】
請求項3に記載の発明は、前記金属珪素と前記二酸化珪素の合計に対し、前記金属珪素粉末の割合が5〜30重量%であり、前記酸化マグネシウムと前記金属珪素における珪素のmol比(MgO/Si)が0.1〜2.0であることを特徴とする請求項1に記載の蒸着用材料である。
【0020】
請求項4に記載の発明は、前記酸化マグネシウム粉末の純度が99.9%以上であることを特徴とする請求項1に記載の蒸着用材料である。
【0021】
請求項5に記載の発明は、カルシウムの濃度が100ppm以下であり、かつ酸化マグネシウム粉末に含まれるカルシウムの濃度が1,000ppm以下であることを特徴とする請求項4に記載の蒸着用材料である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の蒸着用材料によれば、生産性向上のために高い出力での電子ビーム加熱蒸着法を利用した場合でもスプラッシュ現象を抑制でき、高いガスバリア性の蒸着フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
本発明で蒸着用材料として使用される金属珪素と、二酸化珪素と、酸化マグネシウム粉末とを含有してなる加熱方式の蒸着用材料は、珪素とマグネシウムの合計の原子数と酸素の原子数の比(O/(Si+Mg))、マグネシウムと珪素の原子数の比(Mg/Si)、および、好適には嵩密度を管理することで、電子ビームによる熱衝撃に対して破壊されにくく、即ち、耐熱衝撃性が向上し、スプラッシュ現象を抑制するものである。
【0024】
そして、電子ビーム加熱による蒸着の際には、好適には嵩密度を管理することで、緻密構造にならないようにして熱伝導性を低くすることと、低い熱伝導性を持つ二酸化珪素を混合したことにより、電子ビーム加熱による急激な温度上昇による突沸の発生を抑制し、スプラッシュ現象を低減させたものである。
【0025】
また、二酸化珪素が加熱されると酸素ガスが脱離し、加熱された金属珪素も二酸化珪素から発生した酸素ガスが近傍にあるため、突沸することなく反応しSiOx蒸気となる。また、酸化マグネシウムも蒸発しMgOy蒸気となることで、高分子基材フィルム上にSiOx・MgOy膜を形成できる。また、蒸着材料の表層には溶融した二酸化珪素が残ることでスプラッシュを抑制し、高いバリア性を持つ蒸着フィルムを形成できると考えられる。
【0026】
本発明の金属珪素と、二酸化珪素と、酸化マグネシウム粉末とを含有してなる加熱方式の蒸着用材料に関して、その珪素とマグネシウムの合計の原子数と、酸素の原子数の比(O/(Si+Mg))は1.0〜1.8が望ましい。前記のO/(Si+Mg)が1.0未満では、材料に含まれる二酸化珪素が少ないため、材料表層の溶融部分が少なく、スプラッシュが発生し易く、O/(Si+Mg)が1.8を超えると、酸素ガスの発生が多くなるため、成膜室内の圧力が上昇し、蒸着速度の低下、つまり生産性の低下が起こり、また蒸着膜密度の低下により蒸着膜のバリア性が低下する。
【0027】
また、金属珪素と、二酸化珪素と、酸化マグネシウム粉末とを含有してなる加熱方式の蒸着用材料に関して、そのマグネシウムと珪素の原子数の比(Mg/Si)は0.02〜0.50が望ましい。前記のMg/Siが0.02未満では、マグネシウム成分を添加することによるバリア性向上効果が得られず、Mg/Siが0.50を超えると、蒸着したフィルムに含まれるマグネシウムの量が多くなるため、フィルムの耐水性が低下する。
【0028】
また、蒸着用材料の嵩密度は0.9〜1.5g/cmが好ましい。混合蒸着用材料の嵩密度が0.9g/cm未満では、蒸着用材料の割れや飛散が発生し易く、嵩密度が1.5g/cmを超えると、材料の蒸発に必要なエネルギーがより必要となるため、蒸発レートが低くなり、蒸着速度の低下、つまり生産性が低下する。
【0029】
さらに、蒸着用材料はそれぞれ同程度の粒径を用いると混ざりやすく、1μm〜100μmの粉末を用いることで蒸着用材料の昇温プロセスが簡易になる。これは、金属珪素が蒸着用材料に均一に混合されることで、材料が温まり易く電子ビームのデフォーカスが起こりにくいためと考えられる。
【0030】
また本発明の蒸着用材料は、前記金属珪素と前記二酸化珪素の合計に対し、前記金属珪素粉末の割合が5〜30重量%であることが好ましい。酸化マグネシウムと金属珪素が共存することで、詳細は不明であるが、 酸化マグネシウムが金属珪素によって還元(金属珪素は酸化)され、安定した蒸発が得られかつ蒸発速度の低下など不具合なく好適であった。一般に珪素化合物系材料の蒸発温度に比べ、酸化マグネシウムは蒸発温度が高いが、共存させることで、混合材料において安定した蒸発が得られたと考えられる。特に、前記酸化マグネシウムと前記金属珪素における珪素のmol比(MgO/Si)が0.1〜2.0の場合、さらに望ましくは0.3〜1.5において安定した蒸発が得られ好適であった。
【0031】
本発明で使用する蒸着用材料の、酸化マグネシウムの純度は95.0%以上が望ましく、さらには99.9%以上がより望ましい。酸化マグネシウムの純度が95.0%以下では、微量不純物による蒸着の妨げがおこり、バリア性が低下する。
【0032】
本発明で使用する蒸着用材料の、カルシウム濃度は100ppm以下が望ましく、かつ酸化マグネシウム粉末に含まれるカルシウムの濃度は1,000ppm以下が望ましい。蒸着用材料のカルシウム濃度および/または酸化マグネシウム粉末に含まれるカルシウムの濃度が上記範囲を満たさないと、カルシウム成分による蒸着の妨げがおこり、バリア性が低下し、さらにスプラッシュが発生しやすくなる。
【0033】
本発明の蒸着用材料は、珪素とマグネシウムの合計の原子数と酸素の原子数の比(O/(Si+Mg))、マグネシウムと珪素の原子数の比(Mg/Si)、また好適には嵩密度を管理すること、酸化マグネシウムの純度を高純度にすること、また材料中のカルシウム濃度を抑制することで、従来の蒸着用材料に比べスプラッシュ現象を生じさせることなく、高いバリア性を持つ蒸着フィルムを形成できる蒸着用材料を得ることができる。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0035】
<実施例1>
金属珪素には50μm以下の径を有する粉末が95%以上のものを使用し、二酸化珪素には結晶構造を95%含み、50μm以下の径を有する粉末が95%以上のものを使用し、酸化マグネシウムには純度99.9%かつカルシウム濃度が20ppmのものを使用した。珪素とマグネシウムの合計の原子数と酸素の原子数の比(O/(Si+Mg))が1.4となるようにし、マグネシウと珪素の原子数の比(Mg/Si)が0.13となるように混合した金属珪素と二酸化珪素と酸化マグネシウムからなる蒸着用材料を作製した。この蒸着用材料を坩堝に投入し、嵩密度が1.0g/cmとなるようにプレス成型した。
【0036】
電子ビーム加熱方式の真空蒸着装置で、電子銃から放出する電子ビームを蒸着用材料に照射し蒸発させ、高分子フィルム基材上に成膜した。
【0037】
<実施例2>
実施例1で作製した蒸着用材料と同様に、珪素とマグネシウムの合計の原子数と酸素の原子数の比(O/(Si+Mg))が1.2となるようにし、マグネシウと珪素の原子数の比(Mg/Si)が0.12となるように混合した金属珪素と二酸化珪素と酸化マグネシウムからなる蒸着用材料を作製した。この混合蒸着用材料を坩堝に投入し、嵩密度が1.0g/cmとなるようにプレス成型した。
【0038】
以下に本発明の比較例について説明する。
【0039】
<比較例1>
金属珪素には50μm以下の径を有する粉末が95%以上のものを使用し、二酸化珪素には結晶構造を95%含み、50μm以下の径を有する粉末が95%以上のものを使用した。珪素の原子数と酸素の原子数の比(O/Si)が1.5となるように混合した金属珪素と二酸化珪素からなる蒸着用材料を作製した。この蒸着用材料を坩堝に投入し、嵩密度が1.0g/cmとなるようにプレス成型した。
【0040】
<比較例2>
実施例1で作製した混合蒸着用材料と同様に、珪素とマグネシウムの合計の原子数と酸素の原子数の比(O/(Si+Mg))が1.3となるようにし、マグネシウと珪素の原子数の比(Mg/Si)が0.65となるように混合した金属珪素と二酸化珪素と酸化マグネシウムからなる混合蒸着用材料を作製した。この混合蒸着用材料を坩堝に投入し、嵩密度が1.0g/cmとなるようにプレス成型した。
【0041】
実施例1から2、および、比較例1から2のガスバリア性蒸着フィルムについて、以下の方法で、スプラッシュの発生をチェックし、また、水蒸気透過率を測定評価した。
その結果を表1にまとめた。
【0042】
<スプラッシュ>
実施例1から2、および比較例1から2のガスバリア性蒸着フィルム500mm幅100m長について、目視によって、スプラッシュによるピンホールや異物が無いかを調べた。スプラッシュによるピンホールや異物が無い場合を○とし、スプラッシュによるピンホールや異物が1から10個までを△とし、スプラッシュによるピンホールや異物が11個以上あるものを×とした。
【0043】
<水蒸気透過率>
実施例1から2、および比較例1から2のガスバリア性蒸着フィルムの水蒸気透過率を水蒸気透過度測定装置(モダンコントロール社製 MOCON PERMATRAN 3/21)を用いて40℃90%RHの雰囲気で測定した。
【0044】
【表1】

【0045】
<比較結果>
酸化マグネシウムを蒸着用材料に加えることで顕著な水蒸気バリア性の向上がみられる。金属珪素と二酸化珪素の蒸着用材料からなる蒸着膜の水蒸気透過率が1g/m・dayより低いのに対し、酸化マグネシウムを加えた蒸着用材料からなる蒸着膜ではSiOxとMgOxの複合膜となることで1g/m・dayを超える水蒸気透過率が得られており、本発明の蒸着用材料は水蒸気バリア性が向上したと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属珪素と、二酸化珪素と、酸化マグネシウム粉末とを含有してなる加熱方式の蒸着用材料であって、珪素とマグネシウムの合計の原子数と、酸素の原子数の比(O/(Si+Mg))が1.0〜1.8であり、マグネシウムと珪素の原子数の比(Mg/Si)が0.02〜0.50であることを特徴とする蒸着用材料。
【請求項2】
嵩密度が0.9〜1.5g/cmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の蒸着用材料。
【請求項3】
前記金属珪素と前記二酸化珪素の合計に対し、前記金属珪素粉末の割合が5〜30重量%であり、前記酸化マグネシウムと前記金属珪素における珪素のmol比(MgO/Si)が0.1〜2.0であることを特徴とする請求項1に記載の蒸着用材料。
【請求項4】
前記酸化マグネシウム粉末の純度が99.9%以上であることを特徴とする請求項1に記載の蒸着用材料。
【請求項5】
カルシウムの濃度が100ppm以下であり、かつ酸化マグネシウム粉末に含まれるカルシウムの濃度が1,000ppm以下であることを特徴とする請求項4に記載の蒸着用材料。

【公開番号】特開2012−87390(P2012−87390A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236676(P2010−236676)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】