説明

蒸着装置、蒸着方法および無機配向膜の形成方法

【課題】蒸発源と基板との間の距離を大きくすることなく、基板面内における蒸着物質の蒸着角度の均一化を図る。
【解決手段】本発明では、スリット22aを有するスリット板22の移動制御と、基板支持台17の回転角度制御による蒸着物質の入射角制御とを同時に行うことによって、基板W面内における蒸着角度の均一化を図る。すなわち、スリット板22が基板W上の被蒸着領域を画定し、この画定された被蒸着領域に対する蒸着物質の入射角を基板Wの回転角度で制御することによって、基板W面内において蒸着物質の入射角の一様化を図り、蒸着角度の均一化を図る。好適には、基板W表面に対する蒸着物質の入射角の制御を、スリット板22の移動位置に対応して行う。基板Wの回転角度とスリット板22の位置とを互いに関連させることによって、蒸着角度の均一化を効率よく行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶用無機配向膜の形成工程に用いて好適な蒸着装置、蒸着方法および無機配向膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、負の誘電異方性を有する液晶分子を、液晶パネルを構成する一対の基板間に垂直配向するように封入したVA(Vertically Aligned)モードの液晶表示装置が広く知られている。
【0003】
VAモードの液晶表示装置では、電界無印加時に液晶分子が基板の主面に対してほぼ垂直に配向するため、光は液晶層をその偏光面をほとんど変化させることなく通過する。従って、基板の上下に偏光板を設置することにより、電界無印加時において良好な黒色表示が可能である。これに対して、電界印加時には、液晶分子は基板の主面に対して傾斜配向し、その結果生じる複屈折性により入射する光の偏光面が回転する。このVAモードの液晶表示装置は、TN(Twisted Nematic)モードの液晶表示装置に比べて、高いコントラストを実現できるという利点を有している。
【0004】
上述のように、VAモードの液晶表示装置では、電界印加時に液晶分子を傾斜配向させて複屈折性を得るようにしている。そのため、電界無印加時において液晶分子をあらかじめ微小な傾斜角度(プレチルト角)を持たせて配向させている。液晶分子を基板の主面に対して所定のプレチルト角で配向させるため、基板の液晶層対向面には配向膜が形成されている。
【0005】
従来より、液晶基板用の配向膜には、ポリイミド等の有機材料が広く用いられている。しかし、有機材料からなる配向膜は、耐光性や耐熱性に劣るため、近年では、SiO(シリコン酸化膜)等の無機材料からなる耐光性、耐熱性に優れた無機配向膜の開発が進められている。液晶基板用の無機配向膜の形成には、従来より、斜方蒸着法が用いられている(下記特許文献1参照)。
【0006】
図8は、下記特許文献1に記載の蒸着装置1の概略構成図である。この蒸着装置1は、蒸着物質を蒸発させる蒸発源2と、蒸着物質の蒸気が流通可能な開口部3aを備える蒸気流通部3と、被蒸着材としての基板5を蒸発源2に対して所定角度傾斜させて配設する基板支持部7とを具備する蒸着室8と、蒸着室8を真空にするための真空ポンプ10とを備えている。蒸気流通部3は、固定遮蔽板3bに板面方向への位置移動が許容された状態で設けられ、且つ開口部3aに対して相対移動可能に形成されるとともに、開口部3aへの相対移動に基づき蒸気の流通を遮ることが可能な可動遮蔽板3cを備えている。可動遮蔽板3cの移動は、制御部9によって制御される。
【0007】
基板5は、その被蒸着面を蒸発源2に対して斜めに配置されることで、蒸発源2から発生した蒸着物質が基板5の被蒸着面に対して斜めに蒸着される。液晶分子のプレチルト角すなわち配向特性は、基板5に対する蒸着物質の蒸着角度で決定される。従って、基板5は、基板配設部7によって、必要とする液晶分子のプレチルト角に対応して傾斜配置されている。
【0008】
そして、図8に示した従来の蒸着装置1は、蒸発源2と基板5との間に形成された蒸気流通部3の開口部3aの開口量を、固定遮蔽板3bに対する可動遮蔽板3cの相対移動によって制御するようにしている。従って、基板5表面に対する蒸着物質の蒸着領域は、図9〜図11に示すように、固定遮蔽板3bに対する可動遮蔽板3cの相対位置で決定されることになる。このように、基板5の蒸着領域を可動遮蔽板3cの移動で制御することによって、基板5の面内における蒸着物質の膜厚の均一化を図るようにしている。
【0009】
【特許文献1】特開2003−129228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、以上のように構成される従来の蒸着装置1においては、基板5に蒸着される蒸着物質の膜厚の面内均一化を図ることは可能となるが、蒸着角度を面内において均一化することができないという問題がある。
【0011】
これは、点源とみなせる蒸発源2で蒸発した蒸着物質は、一定の広がりをもって開口部3aを通過するとともに基板5に入射するため、基板5表面の各領域に蒸着物質が同一の入射角で入射するとは限らないからである。例えば図9に示すように、蒸発源2に最も近い基板上のある点Saにおける蒸着物質の入射角をθa、蒸発源2に最も遠い基板上の他の点Sbにおける蒸着物質の入射角をθbとしたとき、θa<θbとなり、基板面内において蒸着物質の入射角の均一化が図れない。
【0012】
蒸着物質の入射角が基板5の面内において不均一であると、基板5に蒸着される蒸着物質の蒸着角度も不均一となる。従って、このような従来の蒸着方法で無機配向膜が形成された基板5を液晶基板として用いた場合に、液晶分子のプレチルト角が基板面内において不均一となり、画面の面内位置によって画質が異なってしまうことになる。このような問題は、基板の大面積化に伴って、より顕著となる。
【0013】
一方、蒸着物質の入射角を基板5の面内において均一にするための一手法として、蒸発源2と基板5との間の距離を大きくすることが挙げられる。しかし、蒸発源2と基板5との間の距離を大きくすると、蒸発量が多くなり蒸着効率が低下する、装置が大型化する、基板の大面積化に限界がある、平均自由工程による制約がありプロセス圧力が上がると蒸着効率が極端に低下する、などの問題が生じる。
【0014】
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、蒸発源と基板との間の距離を大きくすることなく基板面内における蒸着物質の蒸着角度の均一化を図ることができる蒸着装置、蒸着方法および無機配向膜の形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の課題を解決するに当たり、本発明の蒸着装置は、蒸着物質を蒸発させる蒸発源と、前記蒸発源に対向配置され前記蒸着物質が蒸着される基板を支持する基板支持部と、前記蒸発源と前記基板支持部との間に配置され前記蒸着物質の流通を制限する開口部とを備えた蒸着装置において、
前記開口部に対して相対移動自在であり、前記開口部の開口幅よりも狭いスリットを有するスリット板と、
前記基板支持部に設けられ、前記基板表面に対する前記蒸着物質の入射角を可変とする基板回転機構と、
前記開口部に対する前記スリット板の相対位置制御および前記基板支持部の回転角度制御を行う制御部とを備えている。
【0016】
また、本発明の蒸着方法は、蒸発源で蒸発した蒸着物質を、前記蒸着物質の流通を制限する開口部を介して基板表面に蒸着させる蒸着方法であって、
前記開口部の開口幅よりも狭いスリットを有するスリット板を前記開口部に対して相対移動させる工程と、
前記基板を回転させて前記基板表面に対する前記蒸着物質の入射角を制御する工程とを同時に行いながら、
前記基板表面に、前記蒸着物質を蒸着させる。
【0017】
更に、本発明の無機配向膜の形成方法は、蒸発源で蒸発した無機材料からなる蒸着物質を、前記蒸着物質の流通を制限する開口部を介して液晶表示装置用透明基板に蒸着させる無機配向膜の形成方法であって、
前記開口部の開口幅よりも狭いスリットを有するスリット板を前記開口部に対して相対移動させる工程と、
前記透明基板を回転させて前記透明基板表面に対する前記蒸着物質の入射角を制御する工程とを同時に行いながら、
前記透明基板表面に、前記蒸着物質を蒸着させる。
【0018】
すなわち、本発明では、開口部に対するスリット板の相対位置の制御と、基板の回転角度制御による蒸着物質の入射角制御とを同時に行うことによって、基板面内における蒸着角度の均一化を図るようにしている。より具体的に、開口部に対するスリット板の相対位置が基板上の被蒸着領域を画定し、この画定された被蒸着領域に対する蒸着物質の入射角を基板の回転角度で制御することによって、基板面内において蒸着物質の入射角の一様化を図り、蒸着角度の均一化を図るようにしている。
【0019】
好適には、基板表面に対する蒸着物質の入射角の制御を、開口部に対するスリット板の相対位置に対応して行う。基板の回転角度とスリット板の位置とを互いに関連させることによって、蒸着角度の均一化、更には無機配向膜の配向特性の均一化を効率よく行うことができる。
【0020】
また、蒸着物質の基板面内における膜厚の均一性を高めるために、開口部に対するスリット板の移動速度を可変とすることが好ましい。基板の回転角度制御とスリット板の移動速度制御とを同時に行うことによって、蒸着物質の蒸着角度の均一化とともに膜厚の均一化を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上述べたように、本発明によれば、基板面内における蒸着物質の蒸着角度の均一化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、本発明はこれに限定されることなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0023】
図1は本発明の実施形態による蒸着装置11の概略構成図である。本実施形態の蒸着装置11は、真空槽14を備えている。真空槽14は、真空ポンプ26によって所定の真空度に排気される。真空槽14の内部には、蒸着物質を蒸発させる蒸発源12と、基板Wを支持する基板支持部17とが設置されている。
【0024】
蒸発源12は、電子ビーム加熱や抵抗加熱等によって蒸着物質の蒸気を発生させる。蒸着物質には、本実施形態では、SiO2、SiO、TiO2、Al23等の無機材料の単体または混合体が用いられるが、勿論これらに限られない。
【0025】
基板支持部17は、基板Wの表面(被蒸着面)が蒸発源12側に向くように基板Wを支持する。基板Wの支持機構は特に限定されず、静電チャック方式やメカニカルクランプ方式が採用される。基板支持部17は、図1において矢印Cで示すように、回転軸24の周りに回転可能とされることで、基板回転機構を構成している。本実施形態において、基板Wは、ガラス基板等の液晶表示装置用透明基板で構成されているが、これに限定されない。
【0026】
蒸発源12と基板支持部17との間には、蒸発源12で蒸発した蒸着物質の流通を制限する開口部13aを備えた遮蔽板13が配置されている。遮蔽板13は、真空槽14の内部において、基板支持台17が配置される蒸着室18を区画している。真空槽14には、蒸着室18へプロセスガスを導入するガス導入ノズル16と、蒸着室18との間で基板5の搬入・搬出を行うための搬送室19が設置されている。
【0027】
蒸着室18は、真空ポンプ26による真空排気作用と、ガス導入ノズル16からの酸素ガス導入により、1×10-3Pa〜1×10-1Pa、好ましくは、5×10-3Pa〜5×10-2Paに調節され、この圧力領域で基板Wの成膜が行われる。
【0028】
搬送室19は、真空ポンプ21によって真空排気可能とされ、仕切弁23を介して蒸着室18と接続されている。搬送室19の内部には、基板支持台17へ基板5を搬送したり、基板支持台17から基板5を受け取るための搬送ロボット20が配置されている。
【0029】
遮蔽板13の近傍には、開口部13aの開口幅Tよりも狭い幅tのスリット22aを有するスリット板22が設置されている。スリット22aは、基板支持台17の回転軸24の軸方向に沿って基板Wの直径以上の大きさにわたって形成されている。
【0030】
スリット板22は、図1において矢印A,Bで示すように遮蔽板13の板面に平行に相対移動自在に構成されている。本実施形態では、スリット板22は、遮蔽板13よりも蒸発源12側に配置されることで、スリット22aによって遮蔽板13の開口部13aを通過する蒸着物質の流通を更に制限する。なお、スリット板22を遮蔽板13よりも基板支持台17側に配置することも勿論可能である。また、遮蔽板13の近傍には、膜厚モニタ15が設置されている。
【0031】
さて、遮蔽板13に対するスリット板22の相対移動制御および基板支持台17の回転角度制御は、真空槽14の外部に設置された制御部25によって行われる。なお、本実施形態では、これらスリット板22の移動制御用の制御部および基板支持台17の回転角度制御用の制御部を共通の制御部25で構成しているが、それぞれ別々の制御部で構成することも勿論可能である。
【0032】
制御部25は、スリット板22を所定の移動速度で移動させる。スリット板22の移動速度は特に限定されず、また、スリット板22の移動速度は等速に限られない。例えば、スリット板の移動速度をスリット位置によって可変とすることで、基板Wに成膜される蒸着膜の膜厚均一性を高めることができる。
【0033】
また、制御部25は、遮蔽板13に対するスリット板22の相対位置に対応して、基板支持台17の回転角度を制御するように構成されている。すなわち、基板支持台17の回転角度は、遮蔽板13に対するスリット板22の移動位置に基づいて決定されている。
【0034】
なお、スリット板22の移動制御と基板支持台17の回転制御は、電気式、機械式のいずれの方式でも適用可能である。例えば、スリット板22および基板支持台17の何れか一方の移動量を電気的に検出しその出力に基づいて他方を制御してもよいし、スリット板22の移動制御機構と基板支持台17の回転機構とをラックやギヤ等の機械的要素で互いにリンクさせて構成することができる。
【0035】
そして、遮蔽板(開口部13a)に対するスリット板22の相対位置の制御と、基板の回転角度制御による蒸着物質の入射角制御とを同時に行うことによって、基板面内における蒸着角度の均一化を図るようにしている。より具体的には、開口部13aに対するスリット板22の相対位置が基板W上の被蒸着領域を画定し、この画定された被蒸着領域に対する蒸着物質の入射角を基板の回転角度で制御することによって、基板W面内における蒸着物質の入射角の一様化を図り、蒸着角度の均一化を図るようにしている。
【0036】
図2は、蒸発源12と、基板支持台17と、スリット板22との関係を示している。基板支持台17は、成膜時において、蒸発源12で発生した蒸着物質の蒸気が、基板Wに対して入射角が0°〜90°、好ましくは、35°〜55°となるように調整される。そして、スリット板22のスリット22は、基板支持台17上の基板Wに対して蒸着物質の入射角が±5°以下、好ましくは、±1°以下になるように、スリット幅tが決定されている。また、蒸発源12と基板Wとの間の距離は、例えば500mm〜5000mm、好ましくは、1000mm〜2000mmに設定される。
【0037】
次に、以上のように構成される本実施形態の蒸着装置11の作用について説明する。
【0038】
まず、基板搬送室19内の搬送ロボット20によって、蒸着室18内の基板支持台17上へ基板Wが搬送される。基板支持台17は、基板Wを受ける際、図1に示す位置から上方へ180°反転した状態で待機し、仕切弁23を介して基板Wが搬送ロボット20から基板支持台17上へ移載される。基板支持台17は、基板Wを受け取った後、図1に示すように基板Wを蒸発源12に向けて所定角度回転する。その後、仕切弁23が閉じられ、真空槽14の内部が所定の減圧雰囲気に真空排気される。
【0039】
次に、蒸発源12によって蒸着材料を蒸発させる。スリット板22は、当初、遮蔽板13の開口部を閉塞する位置に待機しており、蒸発源12から飛来する蒸着物質の蒸気を遮蔽する。また、基板支持台17は、基板Wを蒸発源12に対して所定角度傾斜した状態で支持している。
【0040】
基板Wの成膜が開始されると、制御部25は、スリット板22を(例えばA方向)に向けて移動させることにより、開口部13aに対してスリット22aを相対移動させる。図2に示したように、スリット22aは、基板Wの被蒸着領域を制限する。従って、この被蒸着領域の範囲において、蒸着物質の入射角はθ1〜θ3の範囲に維持される。
【0041】
基板Wの成膜過程においては、スリット22aを開口部13aの開口幅(T)以上にわたって移動させる。これと同時に、制御部25は、スリット22aの移動位置に対応して基板支持台17を回転軸17の周りに回転させることによって、基板Wに入射する蒸着物質の入射角をθ1〜θ3の範囲に維持する。具体的に図2に示すように、スリット22aを矢印A方向に移動させながら、基板支持台17を図中矢印C方向に回転させる。基板支持台17の回転角度は、上述のように、スリット22aの移動位置に基づいて制御される。
【0042】
以上のように、スリット板22の移動制御と基板Wの回転角度制御とを同時に行うことによって、基板Wと蒸発源12との間の距離を大きくすることなく、基板Wの面内における蒸着角度の均一化を図ることができる。特に、基板表面に対する蒸着物質の入射角の制御を、開口部に対するスリット板の相対位置に対応して行うことで、蒸着角度の均一化を容易に実現することができる。
【0043】
また、本実施形態によれば、無機材料からなる蒸着材料を基板W面内に対して一定の蒸着角度で形成することができるので、蒸着膜の配向特性の均一化を図ることができる。これにより、液晶表示装置において液晶分子のプレチルト角の面内均一化を図ることができ、表示画像の画質向上を図ることができる。
【0044】
一方、スリット板22の移動速度制御と基板支持台17の回転角度制御とを同時に行うことで、蒸着角度の面内均一性だけでなく、蒸着膜の膜厚均一性をも同時に高めることができる。
【0045】
ここで、膜厚に関しては、蒸発源12に近い被蒸着領域ほど膜厚が大きくなる傾向にある。そこで、スリット板22の移動速度を可変とすることで、基板W面内の膜厚均一性を向上させることができる。具体的には、図2に示したようにスリット板22を矢印A方向に移動させながら成膜を行う場合には、スリット板22の移動速度が漸次低下するように、スリット板22の移動速度を制御する。すなわち、基板Wの被蒸着領域が蒸発源12と近い領域ほどスリット22aの通過速度を速くし、蒸発源12から遠い領域ほどスリット22aの通過速度を遅くする。これにより、膜厚均一性の更なる向上を図ることが可能となる。
【0046】
この場合、基板支持体17の回転角度をスリット板22の移動位置に応じて変化させるようにしているので、スリット板22の移動位置に応じて基板支持台17の回転速度も変化する。従って、以上の制御により、基板面内の膜厚均一性を向上させることができると同時に、蒸着角度の均一性をも維持することができる。
【0047】
スリット板22のスリット22aが遮蔽板13の開口部13aの全幅以上にわたって移動した後、基板Wの蒸着工程が終了する。なお、スリット板22を逆方向に移動させることで、同一基板Wに対する蒸着処理を継続することも勿論可能である。蒸着工程終了後、基板Wは、上述と逆の動作で基板支持台17から搬送ロボット20へ移載される。そして、次なる未処理の基板Wが基板支持台17に載置されるとともに、当該基板Wに対して上述の蒸着処理が同様な方法で行われる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
スリット板22の移動速度制御と基板支持台17の回転角度制御の一実施例について説明する。以下の例では、基板Wの直径を300mm、基板−蒸発源距離を2000mmとし、蒸着角度45°±0.5°の条件で成膜を行う場合について説明する。
【0050】
図3に示すように、基板Wは、回転軸24を回転中心として矢印C方向に回転し、スリット板22は、遮蔽板13に対して図中矢印B方向に直線的に移動するものとする。遮蔽板13の開口部13aの開口幅は160.01mm、スリット22aの開口幅30mm、スリット22aの移動幅は190.01mm、スリット22aの移動速度は0.75mm/secとした。
【0051】
そして、基板支持台に支持されている基板Wの面法線の鉛直方向に対するなす角を基板回転角δ(°)、基板回転中心(回転軸24)とスリット22aとの間の距離をスリット移動距離(mm)としたとき、上記成膜条件で蒸着を行うときの基板回転角とスリット移動距離との関係を図4および図5に示す。図5は、図4においてX1〜X7で示したスリット板22の移動距離とそのときの基板回転角を示している。
【0052】
図4および図5に示すように、スリット22aが開口部13aの全幅範囲を通過するまでの基板支持台の回転角は、142.65°−137.28°=5.37°である。基板支持台回転角δは、スリット移動距離に対応して定まり、スリット移動距離に応じて基板支持台回転角δは、ほぼ直線的に変化する。
【0053】
図6は、蒸着材料にSiO2、成膜圧力を1.2×10-2Paとして成膜を行ったときの蒸着膜の基板面内におけるプレチルト角評価結果(配向分布特性)を示している。また、図7は、上記条件で成膜を行ったときの蒸着膜の基板面内における膜厚分布特性を示している。図6および図7において、黒丸は、スリット板22および基板回転機構を持たない従来例を示し、白丸は、本発明の実施例を示している。また、各図において横軸は、基板中心からの距離を示している。なお、基板に対する蒸着物質の入射角θは、従来例では、42.70°<θ<47.25°であり、本発明の実施例では、44.50°<θ<45.50°であった。
【0054】
図6に示すように、本実施例によれば、従来例に比べて、プレチルト角の分布が改善されていることがわかる。また、図7に示すように、従来例では、膜厚分布が基板中心に対して±30%の変動がある。本実施例では、この膜厚分布を緩和するために、スリット板の移動速度を基板中心に対しその前後で±30%可変して成膜を行った。その結果、図7に示すような膜厚分布結果が得られ、基板面内における膜厚のバラツキを改善することができた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態による蒸着装置の概略構成図である。
【図2】図1の蒸着装置における要部の拡大図である。
【図3】本発明の実施例において説明する基板とスリット板との関係を示す模式図である。
【図4】本発明の実施例において説明するスリット移動距離と基板回転角度との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施例において説明するスリット移動距離と基板回転角度との関係を示す図である。
【図6】本発明の実施例において説明するプレチルト角の面内分布を説明する図である。
【図7】本発明の実施例において説明する膜厚の面内分布を説明する図である。
【図8】従来の蒸着装置の概略構成図である。
【図9】従来の蒸着装置の一作用を説明する要部拡大図である。
【図10】従来の蒸着装置の一作用を説明する要部拡大図である。
【図11】従来の蒸着装置の一作用を説明する要部拡大図である。
【符号の説明】
【0056】
11 蒸着装置
12 蒸発源
13 遮蔽板
13a 開口部
14 真空槽
15 膜厚モニタ
16 ガス導入ノズル
17 基板支持部
18 蒸着室
19 搬送室
20 搬送ロボット
21 真空ポンプ
22 スリット板
22a スリット
23 仕切弁
24 回転軸
25 制御部
26 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着物質を蒸発させる蒸発源と、前記蒸発源に対向配置され前記蒸着物質が蒸着される基板を支持する基板支持部と、前記蒸発源と前記基板支持部との間に配置され前記蒸着物質の流通を制限する開口部とを備えた蒸着装置において、
前記開口部に対して相対移動自在であり、前記開口部の開口幅よりも狭いスリットを有するスリット板と、
前記基板支持部に設けられ、前記基板表面に対する前記蒸着物質の入射角を可変とする基板回転機構と、
前記開口部に対する前記スリット板の相対位置制御および前記基板支持部の回転角度制御を行う制御部とを備えたことを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記開口部に対する前記スリット板の相対位置に対応して、前記基板支持台の回転角度を制御することを特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記開口部に対する前記スリット板の相対位置に対応して、前記スリット板の移動速度を制御することを特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記蒸着物質は、無機材料であることを特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記基板は、液晶表示装置用の透明基板であることを特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項6】
蒸発源で蒸発した蒸着物質を、前記蒸着物質の流通を制限する開口部を介して基板表面に蒸着させる蒸着方法であって、
前記開口部の開口幅よりも狭いスリットを有するスリット板を前記開口部に対して相対移動させる工程と、
前記基板を回転させて前記基板表面に対する前記蒸着物質の入射角を制御する工程とを同時に行いながら、
前記基板表面に、前記蒸着物質を蒸着させることを特徴とする蒸着方法。
【請求項7】
前記基板表面に対する前記蒸着物質の入射角の制御が、前記開口部に対する前記スリット板の相対位置に対応して行われることを特徴とする請求項6に記載の蒸着方法。
【請求項8】
前記開口部に対して前記スリット板を相対移動させる工程では、前記開口部に対する前記スリット板の相対位置に対応して、前記スリット板の移動速度を変化させることを特徴とする請求項6に記載の蒸着方法。
【請求項9】
蒸発源で蒸発した無機材料からなる蒸着物質を、前記蒸着物質の流通を制限する開口部を介して液晶表示装置用透明基板に蒸着させる無機配向膜の形成方法であって、
前記開口部の開口幅よりも狭いスリットを有するスリット板を前記開口部に対して相対移動させる工程と、
前記透明基板を回転させて前記透明基板表面に対する前記蒸着物質の入射角を制御する工程とを同時に行いながら、
前記透明基板表面に、前記蒸着物質を蒸着させることを特徴とする無機配向膜の形成方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−277645(P2007−277645A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106297(P2006−106297)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】