説明

蒸着装置

【課題】蒸着マスク変形の低減、並びに被成膜基板と蒸着マスクとの密着性の向上及び塗り分け精度の向上を実現させる蒸着装置を提供する。
【解決手段】磁性材料を含んでなる金属箔14と金属箔14を固定するマスクフレーム15とからなる蒸着マスク11の上に載置された被成膜基板(基板20)を、蒸着マスク11に押圧する押圧機構12を備える蒸着装置1であって、押圧機構12が、少なくとも前記被成膜基板の角部において蒸着マスク11を引き寄せうる磁石18を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置、特に、マスクを用いる蒸着に適した蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子を構成する有機化合物層や電極を、スパッタリングや蒸着等の真空成膜手法によって特定のパターンで形成する場合、具体的な手法として、成膜部位に対応する開口部を形成したシャドウマスクを用いたパターニング手法が広く一般に採用されている。
【0003】
近年、素子の高精細化の要求を受けて、高精細パターンを精度良く形成できる真空蒸着用マスクが必要となっている。
【0004】
ところで、真空蒸着装置においては、薄膜を形成する基板(被成膜基板)をマスク上に重ねて位置合わせ(アライメント)を行った後、蒸着源あるいはスパッタリングターゲットに対向した状態で固定してから成膜を行う。
【0005】
ここで成膜の際、マスクと基板との間で間隙が発生するのを防止するために、押圧付与等の手法で蒸着装置内にて基板とマスクとを密着させている。例えば、特許文献1に示されるように、基板を重りやプランジャピン等で力学的に蒸着マスクに押し当てることで、基板と蒸着マスクの密着性を高める方法が提案されている。このように基板とマスクとの密着性を高めることで、マスク裏への材料の回り込みを防ぎ、精度良い塗り分けを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−158571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、基板を大判化した場合、基板や蒸着マスク自身の自重により、蒸着マスクの中央部にて生じる撓みが顕著になり、基板全体を押圧したとしても、基板の周辺、特に、基板の四隅(角部)で基板と蒸着マスクとの密着性が低下する。
【0008】
その結果、塗り分け精度が低下する。
【0009】
また、特許文献1にて開示されている方法に従って基板上から均等に力を加えると、基板や蒸着マスクへの負荷が大きくなり、基板や蒸着マスクが変形してしまう。その結果、所望の箇所からずれて塗り分けられてしまい、塗り分け精度を低下させてしまう。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、蒸着マスク変形の低減、並びに被成膜基板と蒸着マスクとの密着性の向上及び塗り分け精度の向上を実現させる蒸着装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の蒸着装置は、強磁性体材料を含んでなる金属箔と該金属箔を固定するマスクフレームとからなる蒸着マスクを保持するマスク保持手段と、
前記蒸着マスクに載置された被成膜基板を前記蒸着マスクに押圧する押圧機構と、
を備える蒸着装置であって、
前記押圧機構が、少なくとも前記被成膜基板の角部に対応する位置に磁石を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、蒸着マスク変形の低減、並びに被成膜基板と蒸着マスクとの密着性の向上及び塗り分け精度の向上を実現させる蒸着装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の蒸着装置における実施形態の例を示す断面模式図。
【図2】蒸着マスク及び基板に対する押圧体及び磁石の好ましい位置関係を示す模式図。
【図3】本発明の作用を模式的に示す断面図。
【図4】実施例1で使用した蒸着装置を示す断面模式図。
【図5】蒸着装置の蒸着マスクの開口部付近を拡大した断面模式図。
【図6】本発明の蒸着装置に設けられる押圧機構が備える磁石及び押圧体の位置関係を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の蒸着装置は、少なくとも蒸着源と、磁性材料を含んでなる蒸着マスクに載置された被成膜基板を保持する手段と、前記被成膜基板を蒸着マスクに押し当てる押圧機構と、を備えている。ここで蒸着マスクは、強磁性体材料を含んでなる金属箔と、この金属箔を固定するマスクフレームと、からなる部材である。一方、押圧機構は、上記蒸着マスクの上方に位置する部材であって、上記蒸着マスクに載置される被成膜基板の角部上方となる部分に磁石が配置されている。本発明において、押圧機構は、上記磁石に加えて、さらに前記被成膜基板の周辺でかつ前記マスクフレームの上で前記被成膜基板を前記蒸着マスクに押し当てる押圧体を有するのが好ましい。
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の蒸着装置の実施形態を説明するが、本発明は、本発明の主旨に応じた範囲で適宜、設計変更することが可能であり、後述する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の蒸着装置における実施形態の例を示す断面模式図である。図1の蒸着装置1は、蒸着室10内に、蒸着マスク11、被成膜基板が載置された蒸着マスクを保持するマスク保持手段25、押圧機構12(以下、タッチプレートと記述する場合がある)及び蒸着源13が設けられている。図1の蒸着装置1において、薄膜が成膜される被成膜基板20(以下、単に基板と記述する場合がある)は、蒸着マスク11上に載置されている。また図1の蒸着装置1は、例えば、有機エレクトロルミネッセンスの製造に用いられる装置である。
【0017】
以下、図1の蒸着装置1を構成する各部材について説明する。
【0018】
蒸着室10は、真空排気系(図示せず)に接続されている。実際に真空蒸着を行う際には、この真空排気系により蒸着室10内の圧力が1.0×10-4Pa〜1.0×10-6Paの範囲で調整できるように設定されている。
【0019】
蒸着マスク11は、金属箔14と、マスクフレーム15と、からなる部材である。金属箔14は、強磁性体材料を含んでなる薄膜状の部材である。また金属箔14には、基板20の所望の箇所のみに蒸着材料が堆積するように所定の形状にパターニングされた開口部16を有している。一方、マスクフレーム15は、剛性の大きい材料からなる部材であり、金属箔14を固定する部材である。
【0020】
押圧機構(タッチプレート)12には、ボール17と、磁石18とが設けられている。ここでボール17は、蒸着マスク11に載置される基板20の辺部や角部を押圧するための押圧体である。一方、磁石18は、強磁性体材料を含んでいる金属箔14を基板20ごとタッチプレート12側へ引き寄せるための部材である。本発明において、基板20と金属箔14との密着性を確保するための部材として磁石18は必須である。ただし、基板20と金属箔14との密着性の確保という観点から磁石18と押圧体17とを併用するのが好ましい。尚、押圧体17及び磁石18の好ましい設置位置については後述する。
【0021】
蒸着源13は、少なくとも蒸着材料を収容する蒸着材料収容部(図示せず)と、この蒸着材料を加熱するための加熱手段(図示せず)と、を備えている。
【0022】
図2は、蒸着マスク及び基板に対する押圧体及び磁石の好ましい位置関係を示す模式図であり、(a)は、斜視図、(b)は、(a)内のA−A’断面を示す断面図である。
【0023】
図2(a)に示されるように、押圧体17は、マスクフレーム15にて支持される基板20の辺部及び角部の上方に設けられる。これにより、基板20の辺部及び角部は、押圧体17によってマスクフレーム15の上で押圧され、蒸着マスク11(金属箔14)に固定される。尚、本発明においては、押圧体として、図2(a)に示されるボールの代わりに、プランジャピン等のような突起を有する部材を設けてもよい。また押圧体17による基板の押圧方法は、本発明においては特に限定されるものではなく、ボールやピンとばねを組み合わせて調整する方法でも良い。
【0024】
一方、磁石18は、少なくとも4箇所ある基板20の角部の近傍に対応する位置に設けられる。尚、磁石18を設ける際には、例えば、図2(a)に示されるように基板20の角部の近傍にのみそれぞれ1個ずつ設ける態様があるが、本発明においてはこれに限定されるものではない。各角部の近傍に対応する位置にそれぞれ複数の磁石を設けてもよいし、図6に示したように、基板の周辺に対応する位置にさらに複数の磁石(18)を設けても良い。いずれの場合も、磁石はマスクフレームの内側の辺に沿って、金属箔の上方に設けられる。また各角部の近傍や基板の周辺に対応する位置にそれぞれ設けられる磁石18の磁力の強さや形状については、本発明では特に限定されるものではない。尚、金属箔14の開口部16近くに磁石18を配置すると、金属箔14が磁石18に引き寄せられる際に開口部16が歪む可能性がある。このため、磁石18の設置場所は金属箔14が有する開口部16から離して設けるのが望ましい。
【0025】
図3は、本発明の作用を模式的に示す断面図である。本発明の蒸着装置で基板上に薄膜を形成する際には、まず基板20を蒸着マスク上に載置する(図3(a))。このとき基板20は、自身の自重によりその中心部が大きく下に撓む(撓み量:d1)と共に、基板20の端部と金属箔14との間で隙間が生じる。この隙間は基板20の辺に沿って大きくなり、基板20の角部において一番大きくなる。
【0026】
ここで基板20の上方に磁石18を近付けると、磁石18の磁力により金属箔14は持ち上がる(図3(b))。この金属箔14の持ち上がりにより、金属箔14が基板20に接近するので、金属箔14と基板20との密着性が向上する。また金属箔14の持ち上がりにより、基板20に上方向の力が加わる。これにより、自重による基板の撓みが減少する。ここで磁石18を近付けたときの基板の撓み量をd2とすると、d1>d2となる。
【0027】
次に、基板20の端部、即ち、辺や角部を、押圧体であるボール17にてマスクフレームの上で押圧する(図3(c))。このとき、てこの原理により、基板20の中心部は基板20の端部を押した分だけ持ち上がり、さらに撓み量が減少する。ここで基板を押圧した後における基板の撓み量をd3とすると、d2>d3となる。尚、ボール17の押圧で基板20が持ち上がる際に、金属箔14は、磁石18の磁力によって上方へ引き込まれるので、基板20と金属箔14との密着性は担保されたままになる。
【0028】
このように、磁石18及び押圧体(ボール)17を備える押圧機構によって、基板20と金属箔14との密着性が向上されるので、蒸着による精度良い塗り分けが可能となる。また本発明の蒸着装置では、蒸着マスク11自体の変形を低減することができるので、蒸着マスクの寿命を長くすることができる。
【0029】
尚、基板20は、搬送装置(不図示)にて蒸着室内へ搬入し、また蒸着室外へ搬出することができる。またこの搬送装置により、複数枚の基板20に対して連続的に蒸着操作を行うことができる。
【実施例1】
【0030】
図4は、本実施例で使用した蒸着装置を示す断面模式図である。図4の蒸着装置2は、図1の蒸着装置1において、蒸着マスク11と蒸着源12との間にシャッター21が設けられていることを除いては図1の蒸着装置と同じ構成である。図4の蒸着装置2においてシャッター21は、蒸着量を制御するために設けられる部材である。具体的には、シャッター21は、開閉機構(図示せず)を有しており、蒸着開始と共に開き、目的の量の蒸着材料が基板に堆積すると、閉じる構造になっている。
【0031】
ここで図4の蒸着装置を用いて、蒸着を行った。尚、蒸着を行う際には、蒸着室10の圧力を、1.0×10-4Pa〜1.0×10-6Pa程度に調整した。
【0032】
また本実施例においては、金属箔14の材質がインバー(FeとNiを含む合金)であり、金属箔14の厚みが50μmである蒸着マスク11を用いた。また本実施例において、基板20の大きさは、360mm×470mm×0.5mmであり、マスクフレーム15は、内枠が340mm×450mm、外枠が460mm×570mm、厚さ50mmの矩形フレームを用いた。
【0033】
図5は、図4の蒸着装置の蒸着マスクの開口部付近を拡大した断面模式図である。実際に有機発光装置等の表示装置を形成する際には、装置を構成する有機発光素子を区分するバンク22が予め設けられている基板20上に、電極層(図示せず)や有機EL層23を形成する。ここでRGBの各画素を所望の位置に形成したい場合は、所望の画素を形成する領域がマスクの開口部16に合うように基板20を適宜動かして調整する。
【0034】
図2(a)に示されるように、タッチプレートが有するボール17は、基板の辺部や角部の上方に設けられている。一方、タッチプレートが有する磁石18は、基板の角部の上方に設けられている。
【0035】
本実施例においては、ボール17として40gの重さのボールを16個配置し、位置は基板端部より5mm内側に、各辺で等間隔に配置した。一方、磁石18として約0.1(T)でφ15mm×8mmtのフェライト磁石4つを基板対角線上で基板角より20mm内側に配置した。
【0036】
尚、ボール17及び磁石18を備えるタッチプレート12は、昇降機構(図示せず)で基板20との距離を自由に調節することができる。本実施例では、磁石18と基板20との距離を5mmと設定し、ボール17を基板20に押圧させる状態にした。ここで基板20と蒸着マスク11(金属箔14)の密着状態を計測した結果、ほぼ全面にわたって基板20が蒸着マスク11と密着していることが確認された。
【0037】
また本実施例の蒸着装置では、基板20及び蒸着マスク11の、基板20の中心付近の撓み量は200μm程度で、ボール17で押圧しなかった場合に比べ100μm程度、磁石18を配置しなかった場合に比べ200μm程度の撓み量を低減することができた。
【0038】
以上より、本発明の蒸着装置により、マスク変形の低減、並びに基板と蒸着マスクとの密着性の向上及び塗り分け精度の向上が実現された。
【符号の説明】
【0039】
1(2):蒸着装置、10:蒸着室、11:蒸着マスク、12:タッチプレート(押圧機構)、13:蒸着源、14:金属箔、15:マスクフレーム、16:(マスクの)開口部、17:ボール(押圧体)、18:磁石、20:基板、25:マスク保持手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性体材料を含んでなる金属箔と該金属箔を固定するマスクフレームとからなる蒸着マスクを保持するマスク保持手段と、
前記蒸着マスクに載置された被成膜基板を前記蒸着マスクに押圧する押圧機構と、
を備える蒸着装置であって、
前記押圧機構が、少なくとも前記被成膜基板の角部に対応する位置に磁石を備えることを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
前記押圧機構が、前記蒸着マスクに載置された前記被成膜基板の周辺に対応する位置であって、かつ前記マスクフレームの上にて、前記被成膜基板を前記蒸着マスクに押し当てる押圧体をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−233510(P2011−233510A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52591(P2011−52591)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】