説明

蒸着装置

【課題】蒸着材料の無駄な使用を防止し、基板表面に質の良い薄膜を形成する。
【解決手段】蒸着装置は、基板6を保持するホルダ13と複数の容器1とエネルギー発生手段5と移動機構2と重量測定機構4とを備えている。複数の容器1は、基板6の表面に形成する薄膜の原料である蒸着材料を収容する。エネルギー発生手段5は、ホルダ13に対して位置決めされており、容器1に収容された蒸着材料を気化させるエネルギーを発する。移動機構2は、複数の容器1から選択した一の容器1を、エネルギー発生手段5から発せられたエネルギーを付与できる蒸着ポジションへ移動させる。重量測定機構4は、容器1内の蒸着材料の重量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面に薄膜を形成する蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の技術の発展に伴い、基板に複数層の薄膜を形成する蒸着装置が実用化されている。特許文献1には、蒸着材料として昇華性材料または有機材料を用いる蒸着装置が開示されている。この蒸着装置は、蒸着材料が入れられる多数の蒸着ボードを備えている。蒸着装置は、各々の蒸着ボード内の蒸着材料を加熱するための電極ジグを備えている。薄膜が形成される基板は、これらの蒸着ボードに対向して配置される。蒸着材料が加熱されると、蒸着材料が昇華または蒸発し、基板の表面に蒸着材料からなる薄膜が形成される。特許文献1の図7に記載されているように、蒸着ボートおよび電極ジグは放射状に8つ配置されている。各々の蒸着ボードに収容された蒸着材料を順番に基板表面に堆積させることで、基板上に多層膜を形成することができる。
【0003】
特許文献2には、蒸着材料を入れる複数の坩堝を備えた真空蒸着装置が開示されている。この真空蒸着装置は、内部を真空状態に維持することのできる真空チャンバを備えている。薄膜が形成される基板を支持する基板ホルダは、チャンバ内の坩堝に対向して設けられている。チャンバ内には、坩堝内の蒸着原料を加熱溶融して蒸発させる加熱手段として、電子ビームを発射する電子銃が設けられている。
【0004】
特許文献2の図4〜図6に記載の蒸着装置は、4種類の蒸着原料をそれぞれ個別に収容する4個の坩堝と、蒸着原料を収容した所定の坩堝を所定の加熱位置(電子ビーム照射位置)に移動させる回転機構と、を備えている。1つの材料種の蒸着作業が完了したら、次に蒸着する蒸着原料を収容した坩堝を加熱位置に移動させて、連続して異なる材料種の蒸着作業を行うことができる。これにより、基板の表面に多層膜を形成することが出来る。
【0005】
特許文献3には、チャンバと、蒸着物質が入れられた複数の坩堝とを備えた蒸着装置が開示されている。坩堝は回転(公転)移動可能に構成されている。この蒸着装置は、蒸着物質を収容した複数の坩堝のうちのいずれか一つを局所的に加熱する加熱部を具備する蒸発源を備えている。この加熱源は電子ビームの発生源であって良いことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−265576号公報
【特許文献2】特開2006−016627号公報
【特許文献3】特開2007−302990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に記載の蒸着装置では、各々の坩堝内に収容されている蒸着材料の残量を把握することができない。複数の蒸着材料を順番に基板の表面に堆積させている間に蒸着材料が枯渇することがある。しかしながら、容器内の蒸着材料の残量を把握できないため、蒸着材料の枯渇に気付かず、基板表面に薄膜を十分に形成できないことがある。特に、複数の蒸着材料を順番に基板表面に堆積する場合には、1つ容器内の蒸着材料の枯渇に気付かないまま、連続して他の容器内の蒸着材料を基板に蒸着してしまうことがある。この場合、当該他の容器に収容された蒸着材料を無駄に使用してしまう。また、蒸着材料の残量が把握できないため、蒸着材料の残量に応じて加熱量を調整できず、基板表面に形成される薄膜の質が劣化することがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の蒸着装置は基板の表面に薄膜を形成する装置に関する。この蒸着装置は、基板を保持するホルダと複数の容器とエネルギー発生手段と移動機構と重量測定機構とを備えている。複数の容器は、基板の表面に形成する薄膜の原料である蒸着材料を収容する。エネルギー発生手段は、ホルダに対して位置決めされており、容器に収容された蒸着材料を気化させるエネルギーを発する。移動機構は、複数の容器から選択した一の容器を、エネルギー発生手段から発せられたエネルギーを付与できる蒸着ポジションへ移動させる。重量測定機構は、容器内の蒸着材料の重量を測定する。
【発明の効果】
【0009】
上記構成の蒸着装置によれば、各々の容器内の蒸着材料の重量の測定結果から容器内の蒸着材料の残量を測定することができ、蒸着材料の無駄な使用を防止することができる。また、蒸着材料の残量に応じた適正な量のエネルギーを付与できるため、基板表面に質の良い薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態における蒸着装置の概略斜視図である。
【図2】蒸着装置に設けられた容器ホルダの概略斜視図である。
【図3】容器ホルダに保持された容器とその容器の重量を測定する重量測定機構とを示す概略断面図である。
【図4】容器ホルダに保持された容器とその容器内の蒸着材料を気化させるエネルギー発生手段とを示す概略断面図である。
【図5】蒸着装置に設けられた容器および重量測定機構の別の構成を示す概略断面図である。
【図6】第2の実施形態における蒸着装置の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明の第1の実施形態の蒸着装置の概略斜視図である。蒸着装置は、複数の容器1、移動機構2、重量測定機構4、エネルギー発生手段5およびホルダ13を備えている。これらの構成要素1,2,4,5,13は、内部を減圧可能に構成されたチャンバ8内に設けられていることが好ましい。ホルダ13は、薄膜が形成される基板6を、容器1に対向させた状態で保持する。
【0013】
各々の容器1は、基板6の表面に形成する薄膜の原料である蒸着材料を収容する。基板6の表面に多層膜を形成する場合、各々の容器1には異なる蒸着材料が入れられる。
【0014】
エネルギー発生手段5は、ホルダ13に対して位置決めされており、容器1に収容された蒸着材料を気化させるエネルギーを発する。エネルギー発生手段5としては、容器1に高周波電圧を印加して容器1および容器1内の蒸着材料を加熱する加熱源や、容器1内の蒸着材料に向けて電子ビームを発する電子ビーム源などが用いられる。
【0015】
蒸着材料は、エネルギー発生手段5からのエネルギーにより、蒸発および昇華等によって気化する物質であれば良い。蒸着材料は、減圧されたチャンバ8内で気化するものであれば良い。気化した蒸着材料は、ホルダ13に保持されている基板6の表面に堆積する。これにより、基板6の表面に薄膜が形成される。
【0016】
移動機構2は、複数の容器1から選択した一の容器1を、エネルギー発生手段5から発せられたエネルギーを付与できる蒸着ポジションへ移動させる。これにより、エネルギー発生手段5は、複数の容器1のうちの一の容器1に収容された蒸着材料を選択的に気化することができる。
【0017】
本実施形態における移動機構2は、複数の容器1を円周上に配列して保持する容器ホルダである。この容器ホルダ2は、複数の容器1が配列した円の中心2a周りに回転自在に構成されている。
【0018】
図2は容器1および容器ホルダ2の概略斜視図である。容器ホルダ2は、円周上に配列された複数の開口2bを有している。容器1は、蒸着材料を収容する収容部1aと、収容部1aから突出した突出部1bとを有している。この突出部1bが容器ホルダ2の開口2bに嵌められることによって、容器1は容器ホルダ2に保持される。複数の容器1は、容器ホルダ2の回転に伴って回転移動する。
【0019】
容器ホルダ2の回転にともない、複数の容器1のうちのいずれか1つの容器1がエネルギー発生手段5からのエネルギーが供給される蒸着ポジションに配置される。容器ホルダ2の回転角を適宜調節することで、各々の容器1に収容された蒸着材料を、ホルダ13に保持された基板6に対して同じ位置で気化することができる。これにより、基板6の表面に形成された多層膜の各層を均一に形成できる。
【0020】
重量測定機構4は、容器1内の蒸着材料の重量を測定する。図3は、容器ホルダ2に保持された容器1と重量測定機構4の一例を示す概略断面図であり。この重量測定機構4は、容器1と容器1内の蒸着材料3との合計の重さを計測する重量計である。容器ホルダ2は、上下方向Sに移動可能に構成されている。容器ホルダ2が下方に移動して重量計4の上に置かれることで、蒸着材料3を含む容器1全体の重量が計測される。
【0021】
重量測定機構4により、蒸着材料3の残量を自動的に見積もることができ、基板6への薄膜の形成中に蒸着材料の残量を把握することができる。これにより、蒸着材料の無駄な使用を防止することができる。特に、ある容器1内の蒸着材料が枯渇したことを直ぐに把握することができるため、他の容器1内の蒸着材料を無駄に使用することもなくなる。また、蒸着材料の残量を把握することで、蒸着材料の残量に応じた適正な量のエネルギーを付与できるため、基板6の表面に質の良い薄膜を形成することができる。
【0022】
重量測定機構4は、ホルダ13に対して位置決めされている。重量測定機構4は、1つの容器1が蒸着ポジションにあるときに、複数の容器1のうちの少なくとも1つの容器1の重量を測定可能な位置に設けられている。
【0023】
図1に示す例では、蒸着中の蒸着材料を収容する容器1に隣接する容器1の下に重量測定機構4が配置されている。これにより、重量測定機構4は、蒸着終了直後の容器1の重量を測定することができる。可能であれば、重量測定機構4は、蒸着中の容器1の重量を測定することが出来る位置に存在していても良い。
【0024】
エネルギー発生手段5は、容器1に接触しない状態で容器1に収容された蒸着材料3を加熱する非接触式の加熱手段であって良い。このような非接触式の加熱手段を用いれば、容器1および容器ホルダ2はエネルギー発生手段5に干渉することなく移動できるという利点がある。また、エネルギー発生手段5を容器1とともに移動させる必要が無いため、エネルギー発生手段5に電力を供給する配線などを容易に引き回すことが出来る。さらに、容器1ごとにエネルギー発生手段5を設ける必要が無いという利点もある。
【0025】
図4は、エネルギー発生手段5としての非接触式の加熱手段の一例を示している。各々の容器1は突出部1bを有している。エネルギー発生手段5としての加熱手段は、複数の容器のうちの一の容器1の突出部1bを挟んで配置された一対の電極を有する。この電極は、高周波電圧によって突出部1bを介して容器1を加熱する。図4に示すように、一対の電極5は、容器1の移動を妨げないように、容器1の移動方向Tに交差する方向から、容器1の突出部1bを挟んで配置される。
【0026】
図4では、非接触式の加熱手段として、高周波電圧を利用するものを例示したが、加熱方式は、赤外線、電子ビーム、ヒートポンプレーザおよびマイクロ波などであってもよい。これらの加熱手段は、蒸着材料の残量に応じて当該蒸着材料を適正な温度で加熱できるものであることが好ましい。
【0027】
上記の蒸着装置を用いた蒸着方法の一例について説明する。始めに、各々の容器1に蒸着材料3を入れ、チャンバ8内を減圧する。次に、蒸着材料3が入れられた容器1を、ホルダ13に保持された基板6に正対するポジション、つまりエネルギー発生手段5からのエネルギーを付与できる蒸着ポジションに移動させる。このポジションで、エネルギー発生手段5により蒸着材料3を気化して、基板6の表面にその蒸着材料3から成る薄膜を形成する。
【0028】
次に、移動機構2により容器1を移動させて、別の容器1を蒸着ポジションに移動させる。そして、エネルギー発生手段5によりこの容器1内の蒸着材料3を気化して、基板6の表面にその蒸着材料3から成る薄膜を形成する。これらの動作を繰り返して、基板6の表面に多層膜を形成することが出来る。
【0029】
重量測定機構4、蒸着中の蒸着材料を収容する容器1に隣接する容器1、つまり蒸着終了直後の容器1の重量を測定する。これにより、重量測定機構4は、蒸着終了直後の容器1の重量から蒸着材料の残量を検知することができる。
【0030】
図5は、蒸着装置に備えられた容器および重量測定機構の別の構成を示している。図5において、容器11は、移動機構2に保持される被保持部11dと、ばね11cを介して被保持部11dの上に配置され、蒸着材料3を収容する収容部11aと、を有する。ばね11cは、収容部11aおよび収容部11aに収容されている蒸着材料3の重量に応じて伸縮する。これにより、収容部11aの、被保持部11dからの高さは、収容部11a内の蒸着材料3の重量に応じて変化する。
【0031】
重量測定機構は、収容部11aの被保持部11dからの高さを計測するセンサ12である。このセンサ12によって測定された収容部11aの高さに基づいて、収容部11a内の蒸着材料3の重量を算出することができる。
【0032】
センサ12は、光学センサなどの非接触式のセンサであることが好ましい。センサ12が非接触式であれば、容器1および容器ホルダ2がセンサ12に干渉することなく移動させ易いという利点がある。また、図3で説明したように、容器1および容器ホルダ2の上下方向Sの移動が不要になるという利点もある。
【0033】
図5に示す容器11は突出部11bを有している。この突出部11bは凹部を有しており、この凹部内に上記ばね11cが嵌めこまれている。この突出部11bは、図4に示すものと同様に、エネルギー発生手段としての一対の電極に挟まれる部分であって良い。
【0034】
図6は、第2の実施形態における蒸着装置の概略斜視図である。第2の実施形態では、容器1を保持する容器ホルダ22は、複数の容器1を直線上に配列して保持する。この容器ホルダ22は、複数の容器1が配列した直線Tに沿ってスライド自在に構成されている。この場合でも、各々の容器1に収容された蒸着材料を、ホルダ13に保持された基板6に対して同じ位置で気化することができる。これにより、基板6の表面に形成された多層膜の各層を均一に形成できる。蒸着装置のその他の構成は、第1の実施形態と同様であるため、それらの説明は省略する。
【0035】
以上、本発明の望ましい実施形態について提示し、詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない限り、さまざまな変更及び修正が可能であることを理解されたい。
【0036】
例えば、上記の第1の実施形態または第2の実施形態では、容器は回転移動またはスライド移動自在に構成されている。これに限らず、容器は任意の曲線軌道に沿って移動自在に構成されていて良い。
【0037】
図1および図6では、エネルギー発生手段は、1つのみ示されているが、容器ホルダに保持された幾つかまたは全部の容器の位置に応じて複数配置されていて良い。また、重量計も、容器ホルダに保持された幾つかまたは全部の容器の位置に応じて複数配置されていても良い。
【符号の説明】
【0038】
1,11 容器
1a,11a 収容部
1b,11b 突出部
2,22 容器ホルダ(移動機構)
3 蒸着材料
4 重量測定機構
5 エネルギー発生手段
6 基板
8 チャンバ
11c ばね
11d 被保持部
12 センサ
13 ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に薄膜を形成する蒸着装置であって、
前記基板を保持するホルダと、
前記基板の表面に形成する薄膜の原料である蒸着材料を収容する複数の容器と、
前記ホルダに対して位置決めされ、該容器に収容された前記蒸着材料を気化させるエネルギーを発するエネルギー発生手段と、
前記複数の容器から選択した一の容器を、前記エネルギー発生手段から発せられたエネルギーを付与できる蒸着ポジションへ移動させる移動機構と、
前記容器内の前記蒸着材料の重量を測定する重量測定機構と、を備えた蒸着装置。
【請求項2】
前記重量測定機構は、前記ホルダに対して位置決めされており、前記蒸着ポジションにおいて前記複数の容器のうちの少なくとも1つの容器の重量を測定可能な位置に設けられている、請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記重量測定機構は、前記蒸着材料と前記容器の合計の重さを計測する重量計を有する、請求項1または2に記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記容器は、前記移動機構に保持される被保持部と、ばねを介して前記被保持部の上に配置され前記蒸着材料を収容する収容部と、を有し、
前記重量測定機構は、前記収容部の前記被保持部からの高さを計測し、前記収容部の高さから前記収容部内の蒸着材料の重量を算出する、請求項1または2に記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記エネルギー発生手段は、前記容器に接触しない状態で前記容器に収容された前記蒸着材料を加熱する非接触式の加熱手段である、請求項1から4のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項6】
各々の前記容器は突出部を有しており、
前記加熱手段は、前記蒸着ポジションにおいて前記一の容器の前記突出部を挟んで配置され、高周波電圧によって前記突出部を介して前記容器を加熱する一対の電極を有している、請求項5に記載の蒸着装置。
【請求項7】
前記移動機構は、前記複数の容器を円周上に配列して保持する容器ホルダを有し、
前記容器ホルダは、前記複数の容器が配列した円の中心周りに回転自在に構成されている、請求項1から6のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項8】
前記移動機構は、前記複数の容器を直線上に配列して保持する容器ホルダを有し、
前記容器ホルダは、前記複数の容器が配列した直線に沿ってスライド自在に構成されている、請求項1から6のいずれか1項に記載の蒸着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate