説明

蓄光体

【課題】 本発明は、人以外の特定の動物を誘引又は忌避することができる蓄光体を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の蓄光体は、人以外の特定の動物を誘引又は忌避する特定の波長光を発光する蓄光剤を、少なくとも一部分に含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人以外の特定の動物を誘引又は忌避する特定の波長光を発光する蓄光剤を含む蓄光体に関する。本発明の蓄光体は、例えば、特定の魚を誘引する漁具、特定の動物を忌避する獣害防止用具などに好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
従来、暗所において人に物体の存在を視認させるために、物体に発光性を付与する技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ロープ本体の少なくとも外周面に、蓄光顔料の発光部と再帰反射性構造体の発光部とを適当に区分けして形成した発光ロープが提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、波長350nm〜800nmの光線を選択反射してなる第1光輝性フィルムの表面に、接着性を備えた接着層を積層してなる第1積層体における前記接着層の表面に、別途用意した、離型基材フィルムの表面に蓄光性を備えた蓄光性顔料を含む樹脂を蓄光層として積層した蓄光層転写材から前記蓄光層のみを転写して得られる蓄光性積層体、及び当該蓄光性積層体をマイクロスリットして得られる蓄光糸が提案されている。
【0005】
また、特許文献3では、1本又は数本の蓄光糸を撚り合せて蓄光糸撚糸を作成し、1本又は数本の原糸を撚り合せて撚糸を作成し、この蓄光糸撚糸と撚糸を数本撚り合せて所定寸法及び強度のロープとした蓄光糸入り発光ロープが提案されている。
【0006】
また、特許文献4では、擬似モノフィラメントからなる芯成分の表面に、蓄光性蛍光体を含有するコーティング材からなるコーティング成分を被覆した蓄光釣り糸が提案されている。
【0007】
しかし、これら技術はいずれも暗所において人に物体の存在を視認させることを目的としており、人以外の動物を対象としているわけではない。
【0008】
一方、魚群に引き網の存在を視認させ、引き網に接近しないようにするために、合成樹脂に蓄光蛍光物質を混合し紡糸した合成繊維を用いてなるロープ、または成形ロープにて構成した引き網用引き網が提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平1−200388号公報
【特許文献2】特開2008−155592号公報
【特許文献3】特開平10−168773号公報
【特許文献4】特開2007−282580号公報
【特許文献5】実公平2−21909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、人以外の特定の動物を誘引又は忌避することができる蓄光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討したところ、以下に示す蓄光体により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち本発明は、特定の動物を誘引又は忌避する特定の波長光を発光する蓄光剤を、少なくとも一部分に含む蓄光体、に関する。
【0013】
前記動物が水生動物であることが好ましい。
【0014】
前記蓄光体は、例えば、糸、ロープ、網、かご、壺、又はシートである。
【発明の効果】
【0015】
魚は、その種類によって感応する波長光が異なるという性質がある。例えば、スルメイカは485nm程度の波長光に感応し、マイワシ及びカタクチイワシは500nm程度の波長光に感応し、マアジ及びサンマは510nm程度の波長光に感応する。当該性質を利用し、発光ピーク波長が485nmの光を発光する蓄光剤を含む蓄光網を用いれば、主にスルメイカを誘引して集めることができる。同様に、発光ピーク波長が500nmの光を発光する蓄光剤を含む蓄光網を用いれば、主にマイワシ及びカタクチイワシを誘引して集めることができ、発光ピーク波長が510nmの光を発光する蓄光剤を含む蓄光網を用いれば、主にマアジ及びサンマを誘引して集めることができる。このように、本発明の蓄光網を用いれば、特定の種類の魚のみを容易に漁獲することができる。また、本発明の蓄光網を用いれば、近年大きな問題となっている外来魚のみを容易に捕獲し、駆除することができる。さらに、本発明の蓄光体を水族館又は観賞用の水槽の特定位置に設けておけば、蓄光体に魚が集まってくるためアイキャッチ効果が得られる。
【0016】
一方、ある種の動物は、特定の波長光を嫌って避ける性質がある。当該性質を利用し、特定の発光ピーク波長の光を発光する蓄光剤を含む蓄光網又は蓄光ロープを田畑等に設けておけば、夜間特定の動物を忌避することができる。つまり、当該蓄光網等を獣害防止用具として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1a】図1aはスルメイカの蓄光糸への誘引性を評価するための水槽の上面図である。
【図1b】図1bはスルメイカの蓄光糸への誘引性を評価するための水槽の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の蓄光体は、特定の動物を誘引又は忌避する特定の波長光を発光する蓄光剤を、少なくとも一部分に含んでいる。
【0019】
蓄光体の形態は、用途に応じて適宜選択することができ、例えば、糸、ロープ、網、かご、壺、及びシートなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
蓄光体の主原料は、用途に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂、ゴム、紙、天然繊維、金属、及びセラミックスなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
蓄光剤は、特定の動物を誘引又は忌避する特定の波長光を発光するものを適宜選択して使用する。このような蓄光剤としては公知のものを特に制限なく使用でき、例えば、アルカリ土類金属酸化物に賦活剤として希土類をドープさせたものが挙げられ、具体的には、CaAl:Eu,Nd(紫色発光、発光ピーク波長440nm)、SrAl1425:Eu,Dy(青緑色発光、発光ピーク波長495nm)、SrAl:Eu,Dy(緑色発光、発光ピーク波長540nm)などが挙げられる。
【0022】
スルメイカを誘引する蓄光剤は、発光ピーク波長が485±10nm(好ましくは±9nm)の光を発光するものであり、例えばSrAl1425:Eu,Dy(青緑色発光、発光ピーク波長495nm)が挙げられる。マイワシ及びカタクチイワシを誘引する蓄光剤は、発光ピーク波長が500±5nm(好ましくは±4nm)の光を発光するものであり、例えばSrAl1425:Eu,Dy(青緑色発光、発光ピーク波長495nm)とSrAl:Eu,Dy(緑色発光、発光ピーク波長540nm)との混合物が挙げられる。マアジ及びサンマを誘引する蓄光剤は、発光ピーク波長が510±5nm(好ましくは±4nm)の光を発光するものであり、例えばSrAl1425:Eu,Dy(青緑色発光、発光ピーク波長495nm)とSrAl:Eu,Dy(緑色発光、発光ピーク波長540nm)との混合物が挙げられる。また、2種以上の蓄光剤を混合して発光ピーク波長を調整してもよい。また、発光ピーク波長が異なる蓄光体を2種以上組み合わせて発光ピーク波長を調整してもよい。例えば、発光ピーク波長が異なる複数の蓄光糸を撚り合わせることにより発光ピーク波長を調整することができる。
【0023】
蓄光剤は、蓄光体の主原料に添加してもよく、蓄光体の表面に塗布等により設けてもよい。
【0024】
蓄光剤は、蓄光体の少なくとも一部分に含有させることが必要であり、どの部分に含有させるかは蓄光体の用途を考慮して適宜調整する。例えば、本発明の蓄光体を底曳網及び駆け廻し網などの漁網として用いる場合、魚を誘引して入網へと向かわせる袖網又は寄せ網に蓄光剤を含有させることが好ましい。
【0025】
蓄光体を夜間使用する場合には、予め蓄光剤を含有する部分に光を照射して蓄光剤を励起させておいてもよく、使用時に所定間隔で蓄光剤を含有する部分に光を照射して蓄光剤を励起させてもよい。光源は特に制限されず、例えば、太陽光、LED、メタルハライドランプ、蛍光灯などが挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下に実施例および比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例および比較例によって限定されるものではない。
【0027】
実施例1
(蓄光糸の作製)
ポリエチレン(比重1.21)90重量部、耐候剤1重量部、及び蓄光剤A(SrAl1425:Eu,Dy(青緑色発光、発光ピーク波長495nm))10重量部を混合し、溶融紡出して蓄光糸を作製した。当該蓄光糸の発光波長を分光放射計(トプコン社製、SR−UL2)を用いて測定したところ、発光ピーク波長は493nmであった。
【0028】
(蓄光糸の評価)
図1aは、スルメイカの蓄光糸への誘引性を評価するための水槽の上面図である。図1bは、当該水槽の側面図である。図1a及び図1bに示すように、アクリル板2を用いて水槽1内を3つの区画に仕切った。アクリル板2にはゲート(開口部)が設けられており、ゲートは遠隔操作により開閉可能である。区画3は透明アクリル板でさらに3つの区画に分けられており、そこにスルメイカ3を1尾ずつ入れた。区画1には、作製した蓄光糸4(サンプル1)を設置し、光源5(D65)を用いてガラス越しに1000Lxの光を10分間蓄光糸4に照射して蓄光剤を励起させた。そして、水槽1の内部に外部から光が入らないようにした。
その後、遠隔操作によりアクリル板2に設けたゲートを開け、蓄光糸4が放つ光にスルメイカ3が誘引され、スルメイカ3が蓄光糸4に近づいていくかどうか繰り返し実験した。作製した蓄光糸に誘引性があるかどうか以下の基準で評価した。評価結果を表1に示す。
○:誘引性あり
×:誘引性なし
【0029】
実施例2〜4、比較例1〜11
表1に記載のように、対象魚及び蓄光糸を変更した以外は実施例1と同様の方法で実験を行った。評価結果を表1に示す。蓄光糸のサンプル2〜4は以下の方法で作製した。なお、実施例4、比較例7及び8においては、光源(D65)を用いてガラス越しに10000Lxの光を5分間蓄光糸に照射して蓄光剤を励起させた。
【0030】
(サンプル2の作製)
ポリエチレン(比重1.48)80重量部、耐候剤1重量部、蓄光剤A(SrAl1425:Eu,Dy(青緑色発光、発光ピーク波長495nm))10重量部、及び蓄光剤B(SrAl:Eu,Dy(緑色発光、発光ピーク波長540nm))10重量部を混合し、溶融紡出して蓄光糸を作製した。当該蓄光糸の発光波長を分光放射計(トプコン社製、SR−UL2)を用いて測定したところ、発光ピーク波長は502nmであった。
【0031】
(サンプル3の作製)
ポリエチレン(比重1.48)80重量部、耐候剤1重量部、蓄光剤A(SrAl1425:Eu,Dy(青緑色発光、発光ピーク波長495nm))12重量部、及び蓄光剤B(SrAl:Eu,Dy(緑色発光、発光ピーク波長540nm))8重量部を混合し、溶融紡出して蓄光糸を作製した。当該蓄光糸の発光波長を分光放射計(トプコン社製、SR−UL2)を用いて測定したところ、発光ピーク波長は512nmであった。
【0032】
(サンプル4の作製)
ポリエチレン(比重0.95)100重量部、及び耐候剤1重量部を混合し、溶融紡出して蓄光糸を作製した。
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の蓄光体は、例えば、特定の魚を誘引する漁具、特定の動物を忌避する獣害防止用具などに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0035】
1:水槽
2:アクリル板
3:スルメイカ
4:蓄光糸
5:光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人以外の特定の動物を誘引又は忌避する特定の波長光を発光する蓄光剤を、少なくとも一部分に含む蓄光体。
【請求項2】
前記動物が水生動物である請求項1記載の蓄光体。
【請求項3】
前記蓄光体は、糸、ロープ、網、かご、壺、又はシートである請求項1又は2記載の蓄光体。

【図1a】
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【図1b】
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【公開番号】特開2012−241074(P2012−241074A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110990(P2011−110990)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【出願人】(000110882)ニチモウ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】