説明

蓄光塗料膜

【課題】 視認可能な残光状態を長時間維持することができる、蓄光材を含む塗料の塗布によって得られる蓄光塗料膜を安価に提供し、その用途拡大を図る
【解決手段】 ビヒクル塗膜表面に、平均粒径(D50)が30〜200μmの蓄光材粉末を表面に付着させた蓄光単層を、複数層重ねて形成し、蓄光塗料膜を得る。これによって残光特性が優れた粒径の大きな蓄光材粉末粒子が、塗料膜の中で沈降することがなくなり、残光特性が向上した蓄光塗料膜が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線や可視光線で励起されて長時間に亘って残光性を発現する蓄光材料を用いた、暗所で視認可能な蓄光塗料膜に関する。
【背景技術】
【0002】
時計の文字盤などには、夜間の視認性を確保するために、蓄光材の表示が用いられている。また、非常口などの表示にも災害による停電時を想定して、電源がなくとも一定時間発光させて視認性を確保するために、蓄光材が用いられることがある。さらには屋外でも地震や津波などの災害発生を想定した、避難路の案内看板にも、蓄光材の使用が検討されている。
【0003】
このような蓄光材には、銅(Cu)または塩素(Cl)により付活される硫化亜鉛(ZnS)の粉末や、ユウロピウム(Eu)またはディスプロシウム(Dy)により付活されるアルミン酸ストロンチウム(SrAl)の粉末が用いられ、これらの粉末を分散させた塗料を塗布することにより蓄光材の表示層が得られる。
【0004】
このような蓄光塗料膜は、前記の用途の他に各種装飾品や、夜間における消火器の視認補助表示などに使用することが可能である。しかしながら、このような用途には多量の蓄光材が必要になり、しかも、残光輝度が大きいアルミン酸ストロンチウムは高価であり、製造コストの低減が困難になるという問題がある。
【0005】
アルミン酸ストロンチウムを用いた蓄光材については、特許文献1や特許文献2に、材料の組成や製造方法が開示されているが、前記の問題に対処するための技術が必ずしも十分に開示されているわけではなく、蓄光材の用途拡大には多くの課題がある。
【0006】
【特許文献1】 特開2001−107039号公報
【特許文献2】 特開2002−012863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、視認可能な残光状態を長時間維持することができる、蓄光材を含む塗料の塗布によって得られる蓄光塗料膜を安価に提供し、その用途拡大を図ることである。
【解決手段】
【0008】
本発明者らの検討結果によると、蓄光材粉末を分散させた塗料膜の残光輝度を大きくするには、蓄光材粉末の粒径を大きくすることが効果的である。しかし、粒径を増加させた蓄光材粉末をビヒクルに分散させた塗料であっても、塗布して塗膜を形成する際に、大きな粒径の粉末は、沈降してしまい、粉末に一定の比率で含まれる微粉が塗料膜表面近傍に偏移する傾向がある。
【0009】
このため従来の塗布方法では、粒径の大きな蓄光材粉末の塗料膜の特性向上への寄与が必ずしも十分ではなかった。本発明は、前記課題に鑑み、大きな粒径の蓄光材粉末粒子が、表面に確実に存在する構造の塗膜を得るための、塗布方法を検討した結果なされたものである。
【0010】
即ち、本発明は、平均粒径(D50)が30〜200μmの蓄光材粉末が表面に付着したビヒクル層からなる蓄光単層を少なくとも1層有する蓄光層と、前記蓄光層の表面に形成されたビヒクル被覆層を有することを特徴とする蓄光塗料膜である。
【0011】
また、本発明は、前記蓄光単層の厚みが、前記蓄光材粉末の平均粒径とほぼ等しいことを特徴とする、前記の蓄光塗料膜である。
【0012】
また、本発明は、前記蓄光塗料膜が、平均粒径が20〜120μmの蓄光材粉末とビヒクルを含む下地層の表面に形成されてなることを特徴とする、前記の蓄光塗料膜である。
【0013】
また、本発明は、前記蓄光材粉末が、銅(Cu)または塩素(Cl)により付活される硫化亜鉛(ZnS)の粉末、ユウロピウム(Eu)またはディスプロシウム(Dy)により付活されるアルミン酸ストロンチウム(SrAl)の粉末の少なくともいずれかであることを特徴とする、前記の蓄光塗料膜である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の蓄光膜は、ほぼ蓄光材粉末粒子1箇分の厚みの蓄光材塗膜を、複数層形成することにより構成されているので、塗膜表面に蓄光材粉末の微粉が偏って存在することがない。このため、微粉より残光特性が優れた大きな粒径の蓄光材粉末の特性を十分に発現することができる。
【0015】
また、本発明においては、蓄光膜の表面に、ビヒクル被覆層を形成して外観を平滑にしているが、蓄光材粉末の粒径が大き過ぎると、ビヒクル被覆層によっても表面の凹凸を十分に解消できない。また、蓄光材粉末の粒径が小さ過ぎると、蓄光材としての特性が低下する。このため、本発明者は、複数層からなる蓄光層に用いる蓄光材粉末粒子の平均粒径(D50)の最適値を検討し、その結果によれば、30〜200μmであった。
【0014】
一方で、蓄光材粉末の平均粒径を小さくすると、残光輝度は低下するものの、残光時間が長くなることが知られていて、異なる平均粒径の蓄光材粉末を用いることで、残光特性の調整が可能である。このような目的のため、本発明においては、平均粒径の小さい蓄光材粉末を含む下地層を併用することが可能である。また、下地層に用いる蓄光粉末の平均粒径(D50)についても実験により求めたが、20〜120μmが好ましい。
【0015】
なお、本発明におけるビヒクルに用いられる材料は特に限定されるものではなく、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂などが挙げられる。また、蓄光材としては、一般的に多用されている、銅(Cu)または塩素(Cl)により付活される硫化亜鉛(ZnS)の粉末や、ユウロピウム(Eu)またはディスプロシウム(Dy)により付活されるアルミン酸ストロンチウム(SrAl)などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】 本発明の蓄光塗料膜の形成工程の一例の断面を模式的に示した図。
【図2】 本発明の蓄光塗料膜の一例の蓄光特性の評価結果を示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に本発明の実施の形態について説明する。塗料を構成する主材料は、顔料とビヒクルであり、ここでは蓄光材粉末が顔料に相当する材料である。ビヒクルは、溶媒、結合材となる高分子材料、ワックスなどの添加剤からなる。ここでは、塗料膜の強度や可撓性を確保するために、無溶媒の反応硬化型ビヒクルを選択した。ただし、塗布の作業性向上を目的として溶媒を加えてもよい。
【0018】
図1は、本発明の蓄光塗料膜の形成工程の一例の断面を模式的に示した図である。ここで、図1(a)は下地層の表面に、蓄光単層の第1の層を形成した状態、図1(b)、図1(c)、図1(d)は、順次、第2の層、第3の層、第4の層を形成した状態を示し、図1(e)は、ビヒクル被覆層を形成した状態を示す。
【0019】
図1において、1aは下地層を構成する第一の蓄光材粉末粒子、1bは蓄光単層を構成する第二の蓄光材粉末粒子、2aは下地層を構成する第一のビヒクル、2bは蓄光単層を構成する第二のビヒクル、2cは各蓄光単層を被覆する第三のビヒクル、3はビヒクル被覆層を構成する第四のビヒクルである。
【0020】
この例では、第一ないし第四のビヒクルとして、二液型のアクリルウレタンを用いたが、個々のビヒクルとして、アルキド樹脂やエポキシ樹脂を用いこともできる。さらに言えば1液型でエマルジョン型塗料や溶媒型塗料のビヒクルでも使用可能であるが、前記のように塗料膜の強度などの点で、特性低下が生じることがあるので注意が必要である。
【0021】
また、第一の蓄光材粉末粒子1aとして、平均粒径(D50)が30μmのアルミン酸ストロンチウム系蓄光材を用い、第二の蓄光材粉末粒子1bとして、同じくアルミン酸ストロンチウム系で、平均粒径(D50)が160μmのものを用いた。
【0022】
さらに、一般に粉末を液体や固体からなる連続相に分散させる場合は、界面の親和性を改善するために表面処理を施すことがある。この場合もこの方法は適用可能であり、表面処理には各種の界面活性剤やシラン系、チタネート系のカップリング剤などを用いることができる。
【0023】
この例では、第二のビヒクル2bに、第二の蓄光材粉末粒子1bを分散した塗料を、第二の蓄光材粉末粒子1bの粒径とほぼ厚さになるように、下地層表面に塗布して、第二のビヒクルを硬化させ、蓄光単層を得た。
【0024】
なお、蓄光単層の形成方法としては、前記の他に、第二のビヒクル2bを、下地層表面に塗布し、第二のビヒクル2bが硬化する前に、第二の蓄光材粉末粒子1bを散布し、蓄光単層の厚さを第二の蓄光材粉末粒子1bの径とほぼ等しくするために、第二のビヒクル2bに接していない第二の蓄光材粉末粒子1bを、刷毛などを用いて除くという方法も可能である。
【0025】
次に、第二の蓄光材粉末粒子1bの固着を確実にするために、表面に第三のビヒクル2cを塗布した。この工程は必ずしも必要ではなく、図1には示していないが、第二の蓄光材粉末粒子1bの表面も、第三のビヒクル2cが被覆しているのは勿論である。
【0026】
このように4層の蓄光単層を形成した後、第四のビヒクル3を塗布してビヒクル被覆層を形成し、全体の厚さを400μmとして、本発明の蓄光塗料膜が得られる。
【0027】
次に、前記の工程で得られた蓄光塗料膜の蓄光特性の評価結果を説明する。図2は、本発明の蓄光塗料膜の一例の蓄光特性の評価結果を示す図で、JISZ9107に規定されている方法で評価した結果である。
【0028】
ここでは、初期の残光輝度を1として、時間の経過による相対値の変化を示している。円(○)で示したプロットは前記の製造工程で作製した蓄光塗料膜の結果、三角形(△)で示したプロットは、平均粒径(D50)が160μmのアルミン酸ストロンチウム系蓄光材粉末を含む蓄光塗料を用いて、同一の厚さとなるように1回の塗布で形成した蓄光塗料膜の結果である。
【0029】
図2から明らかなように、本発明の蓄光塗料膜は、1回の塗布で形成した蓄光塗料膜よりも優れた残光特性を具備している。以上に説明したように、本発明によれば簡略な製造方法で、残光特性が向上した蓄光塗料膜が得られる。
【0030】
なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
1a 第一の蓄光材粉末粒子
1b 第二の蓄光材粉末粒子
2a 第一のビヒクル
2b 第二のビヒクル
2c 第三のビヒクル
3 第四のビヒクル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径(D50)が30〜200μmの蓄光材粉末が表面に付着したビヒクル層からなる蓄光単層を少なくとも1層有する蓄光層と、前記蓄光層の表面に形成されたビヒクル被覆層を有することを特徴とする蓄光塗料膜。
【請求項2】
前記蓄光単層の厚みは、前記蓄光材粉末の平均粒径とほぼ等しいことを特徴とする、請求項1に記載の蓄光塗料膜。
【請求項3】
前記蓄光層は、平均粒径(D50)が20〜120μmの蓄光材粉末とビヒクルを含む下地層の表面に形成されてなることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の蓄光塗料膜。
【請求項4】
前記蓄光材粉末は、銅(Cu)または塩素(Cl)により付活される硫化亜鉛(ZnS)の粉末、ユウロピウム(Eu)またはディスプロシウム(Dy)により付活されるアルミン酸ストロンチウム(SrAl)の粉末の少なくともいずれかであることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の蓄光塗料膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−66562(P2012−66562A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229059(P2010−229059)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(508126088)有限会社利府自動車整備工業 (1)
【出願人】(508127052)株式会社サンマリノ (1)
【出願人】(508126099)
【Fターム(参考)】