説明

蓄光性シート

【課題】蓄光性シートにおいて、蓄光材層の厚さに拘わらず物体の角部や曲面に沿って撓曲可能とし、しかも蓄光材層における樹脂バインダの硬化時の変形を効果的に防止する。
【解決手段】樹脂バインダに蓄光材を混入した蓄光材層2を有する蓄光性シート1において、蓄光材層2が、互いに離間して配置された同一の厚さを有する複数の厚肉部11と、各厚肉部11の間に位置し、当該厚肉部11より小さい一定の厚さを有する薄肉部12とを備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通路の壁や物品等に取り付けられ、長時間に亘って高輝度な発光を持続することのできる蓄光性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
透明樹脂バインダに微粉末の蓄光材を混練した蓄光物質を延展した蓄光性シートが知られている(特許文献1参照)。この種の蓄光性シートにおいて長時間に亘って高輝度な発光を持続するためには、発光面の単位面積あたりの蓄光材の重量(g/m)を増大させるために、蓄光材の密度を高くするのみならず、蓄光材層の厚さを大きくすることが望ましい。その一方で、蓄光材の密度や蓄光材層の厚さの増大により蓄光性シートの弾性や撓曲容易性が損なわれるため、蓄光性シートを物体の角部や曲面に沿って配置することがより困難となる。
【0003】
従来、撓曲容易な蓄光性シートとして、例えば、透明樹脂メディウムに微粉末の蓄光材を混入した蓄光インクを比較的変形し易い透明なシート材に塗布して形成した蓄光材層を有し、当該蓄光材層が、蓄光インクを複数回重ね塗りして形成された多数の点あるいは線による反復パターンとして形成されたものが知られている(特許文献2参照)。
【0004】
また、テーブル等の角部に設置可能な蓄光性シートとして、例えば、下面に両面接着テープが設けられたベース部と、このベース部の上面に設けられる軟質な蓄光性樹脂からなる発光部とを備え、ベース部には折り曲げ可能なベース側凹溝が長手方向に沿って形成され、発光部にはベース側凹溝に対応した箇所に折り曲げ可能な発光側凹溝が長手方向に沿ってそれぞれ形成されたものが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−111971号公報
【特許文献2】特許第3856793号公報
【特許文献3】特開2004−308113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2に記載の従来の蓄光性シートは、蛍光灯に装着して使用することを前提としているため、反復パターンとして形成された蓄光材層の間に透光領域を確保する必要が生じ、単位面積あたりに使用する蓄光材の重量を効率的に増大させることができないという課題があった。また、この従来の蓄光性シートでは、シルク印刷等で形成される蓄光材層の膜厚は100μm程度であり、その構成上、より大きな膜厚を得ることが難しいという課題もあった。
【0007】
また、上記特許文献3に記載の従来の蓄光性シートは、テーブル等の角部に配置することを目的としており、任意の曲面等に設置することは困難であるという課題があった。加えて、この種の蓄光性シートでは、ある程度まで厚さを増大させると、蓄光材層に含まれる樹脂(エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等)の硬化時の収縮により無視できない反り等の変形が生じ得るが、上記特許文献3では、そのような変形の対策については全く考慮されていなかった。
【0008】
また、樹脂バインダとしてのシリコーン樹脂等と共に可塑剤を使用して蓄光性シートの可撓容易性を確保する方法もあるが、可塑剤によって輝度の向上が阻害されるという問題がある。
【0009】
本発明は、このような従来技術の課題を鑑みて案出されたものであり、蓄光材層の厚さに拘わらず、物体の角部や曲面に沿って撓曲可能であり、しかも蓄光材層における樹脂バインダの硬化時の変形を効果的に防止することができる蓄光性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明の第1の側面によれば、樹脂バインダに蓄光材を混入した蓄光材層(2)を有する蓄光性シート(1)であって、前記蓄光材層は、互いに離間して配置された同一の厚さを有する複数の厚肉部(11)と、前記各厚肉部の間に位置し、当該厚肉部より小さい一定の厚さを有する薄肉部(12)とを備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第2の側面によれば、前記各厚肉部の厚さは、1〜2mmであり、 前記薄肉部の厚さは、0.1〜0.5mmであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第3の側面によれば、前記薄肉部は格子状に配置されたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の第4の側面によれば、両面に接着剤が塗布された弾性支持層(3)を更に備え、当該弾性支持層一方の面に前記蓄光材層が接着されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明の第1の側面によれば、蓄光性シートの輝度を向上させるために厚肉部の厚さ(すなわち、蓄光材層の厚さ)に拘わらず、蓄光性シートは各厚肉部の間に位置する薄肉部の存在により物体の角部や曲面に沿って撓曲可能であり、しかも蓄光材層における樹脂バインダの硬化時の変形が効果的に防止される。
上記本発明の第2の側面によれば、適切な厚さの薄肉部により蓄光性シートの撓曲容易性を維持すると共に、適切な厚さの厚肉部により効率的な発光を実現することができる。
上記本発明の第3の側面によれば、蓄光性シートは任意の角部や曲面に沿ってより容易に撓曲し、また、蓄光材層における樹脂バインダの硬化時の変形がより効果的に防止される。
上記本発明の第4の側面によれば、角部や曲面を有する物体に対して高輝度の蓄光性シートを容易に設置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態に係る蓄光シートの上面側の斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る蓄光シートの下面側の斜視図である。
【図3】第1実施形態に係る蓄光シートの断面図である。
【図4】第1実施形態に係る蓄光シートの設置例を示す斜視図である。
【図5】第1実施形態に係る蓄光シートが湾曲した様子を示す断面図である。
【図6】第1実施形態に係る蓄光シートの使用例を示す斜視図である。
【図7】第1実施形態に係る蓄光シートの別の使用例を示す斜視図である。
【図8】第2実施形態に係る蓄光シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る蓄光性シートの詳細について説明する。
【0017】
<第1実施形態>
図1〜図3に示すように、第1実施形態に係る蓄光性シート1は、上面側(すなわち、照明や日光等に対して露出される表面側)に配置された蓄光材層2と、この蓄光材層2の下面側に配置された弾性支持層3とから構成されている。蓄光性シート1は、例えば、図示しない通路の壁や物品等に安全対策用や目印として設置することができ、消灯時や日没時に発光することにより、暗闇においても物体の存在を使用者等に対して認識させることができる。
【0018】
蓄光材層2は、樹脂バインダに蓄光顔料(蓄光材)を混入して硬化させることによって形成され、互いに離間して配置された複数の厚肉部11と、平面視において各厚肉部11の間に位置する薄肉部12とを有している。蓄光材層2の樹脂バインダとしては、エポキシ樹脂等の公知の樹脂を用いることができるが、ここではポリウレタン樹脂を用いている。ここで、蓄光材層2における蓄光顔料の混合率は、15重量%としている。また、蓄光顔料としては、硫化カルシウム系顔料や硫化亜鉛系顔料などの公知の蓄光顔料を用いることができるが、ここでは、ルミノーバ蓄光顔料(根本特殊化学株式会社製)を用いている。
【0019】
各厚肉部11は、同一形状(ここでは、略立方体状)を呈し、互いに同じ間隔で規則的に配置されている。より詳細には、各厚肉部11は、平面視において正方形状をなすと共に、側面視(図3参照)においてその突出方向にやや先細りとなる台形状をなしている。平面視における正方形の1辺の長さWaは3〜7mmの範囲であることが好ましく、ここでは、1辺の長さWaを5mmとしている。長さWaが4mm未満では、厚肉部11の厚みを十分に確保することが製造上難しくなり、また、長さWaが7mmを越えると、物体の角部や曲面に設置する際の蓄光性シート1の可撓容易性が低下する。
【0020】
また、厚肉部11の厚さDaは、1〜2mmの範囲であることが好ましく、ここでは、厚さDaを2mmとしている。蓄光顔料の密度を一定とした場合、厚肉部11の厚さDaが蓄光性シート1の輝度を左右する。厚さDaが1mm未満では、高輝度(ここでは、JIS Z 9107規格の輝度レベルJC以上)を確保することが難しくなる。また、また、厚さDaが2mmを越えると、蓄光材層2の上面から入射した光が、下面側の部位まで到達し難くなり(すなわち、蓄光材層2において発光に寄与しない部位が増大し)、発光効率が低下する。
【0021】
なお、各厚肉部11は、少なくとも同一の厚さを有する限りにおいて、円柱状、多角柱状等の種々の形状をとることができる。
【0022】
薄肉部12は、平面視において四角格子状(枡目状)をなす。平面視における薄肉部の幅Wbは、1〜2mmの範囲であることが好ましく、ここでは幅Wbを1mmとしている。幅Wbが1mm未満では、蓄光性シート1の湾曲時(図5(B)参照)の曲がり代(隣接する厚肉部11の間の湾曲領域)が小さくなって可撓容易性が損なわれると共に、厚肉部11の形成が難しくなる。また、幅Wbが2mmを越えると、厚肉部11に対する薄肉部12の割合(面積)が増大し、高輝度化のために単位面積あたりの蓄光顔料の適切な重量(ここでは、500〜1000g/mとする)を確保することが難しくなる。
【0023】
また、薄肉部12の厚さDbは、その全域に渡って一定で、しかも0.1〜0.5mmの範囲であることが好ましい。ここでは、厚さDbを0.2mmとしている。厚さDbが0.1mm未満では、薄肉部12の形成が難しくなる。また、厚さDbが0.5mmを越えると、蓄光性シート1の可撓容易性が低下する。
【0024】
なお、薄肉部12は、少なくとも各厚肉部11の間に位置するように形成される限りにおいて、網目状等の任意の形状をとることができる。また、本実施形態における四角格子状のように、薄肉部12部を蓄光材層2の全面に渡って規則的な形状とすることで、蓄光性シート1は任意の角部や曲面に沿ってより容易に撓曲し、また、後述する蓄光材層2における樹脂バインダの硬化時の変形がより効果的に防止される。
【0025】
上記蓄光材層2は、樹脂バインダ中に蓄光顔料を混合したものを、図示しない型枠に流し込んで硬化させることにより形成することができる。バインダ樹脂の硬化過程においては、収縮によりある程度の歪みが生じるが、蓄光材層2は、上述のように厚肉部11と薄肉部12とを有する構成とすることにより、大きな変形を防止することができる。硬化後の蓄光材層2は型枠から外され、弾性支持層3と接着されることにより、蓄光性シート1が形成される。
【0026】
弾性支持層3は、ポリウレタンフォームの基材21と、この基材21の下面にアクリル系の接着剤(図示せず)によって接着された剥離紙22とを有する。基材21は、その下面と同様に上面にも接着剤が塗布されており、これにより、その上面が蓄光材層2の下面に接着している。このような弾性支持層3は、例えば、公知の両面粘着テープによって構成することができ、また、蓄光性シート1の用途に応じて基材21の材質等を変更することが可能である。なお、弾性支持層3を設けることにより、角部や曲面を有する物体に対して蓄光性シート1を容易に設置することが可能となるが、弾性支持層3は、必ずしも必須の構成要素ではなく、必要に応じて省略することも可能である。弾性支持層3を設けない場合、蓄光材層2は、その上下面から光を入射させて蓄光することが可能である。
【0027】
上記構成の蓄光性シート1は、厚肉部11の厚さに拘わらずその間に位置する薄肉部12が弾性変形または折れ曲がることによって容易に撓曲し、例えば、図4に示すように、物体31における曲面をなす外壁32に設置することが可能となる。薄肉部12は、外壁32に沿って弾性変形可能であるが、蓄光性シート1が角部等に沿って大きく折れ曲がる場合には破断してもよい。その場合、蓄光材層2は弾性支持層3によって支持されているため、蓄光性シート1は破断部において分離することなく一定の形状を保持可能である。
【0028】
また、蓄光性シート1は、図5(A)に示すような凸面41に沿って設置するのみならず、図5(B)に示すような凹面42に沿って設置することも可能である。蓄光性シート1を凹面42に沿って設置する場合、弾性変形または折れ曲がった薄肉部12は、例えば、最小で2.5mmの曲率半径を有するもとのなる。
【0029】
さらに、蓄光性シート1は、図6または図7に示すように、薄肉部12を切断して所望の大きさに分割することにより、柔軟性を有する材料(例えば、樹脂、ゴム等)で形成された枠体51における開口52に設置することも可能である。その場合、形成した蓄光材層2を分割して分割片2aを形成し、それら各分割片2aを枠体51の開口部に納めた後に、蓄光材層2および枠体51の下面に弾性支持層3を接着することができる。
【0030】
<第2実施形態>
次に、図8を参照して本発明の第2実施形態に係る蓄光性シートについて説明する。図8では、第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号が付されており、以下では、第1の実施形態と同様の事項については詳細な説明を省略する。
【0031】
第2実施形態に係る蓄光性シート1は、蓄光材層2の上下関係と、弾性支持層3の配置において第1実施形態の場合とは異なる。すなわち、蓄光材層2の上面は、平面として形成されており、厚肉部11が突出する蓄光材層2の下面に弾性支持層3が接着されている。
【0032】
本発明を特定の実施形態に基づいて詳細に説明したが、これらの実施形態はあくまでも例示であって、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。例えば、蓄光性シートの形状は、平面視において正方形としたが、これに限らず、円形や細長い帯状(テープ状)等、種々の形状をとることが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 蓄光性シート
2 蓄光材層
3 弾性支持層
11 厚肉部
12 薄肉部
21 基材
22 剥離紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂バインダに蓄光材を混入した蓄光材層を有する蓄光性シートであって、
前記蓄光材層は、
互いに離間して配置された同一の厚さを有する複数の厚肉部と、
前記各厚肉部の間に位置し、当該厚肉部より小さい一定の厚さを有する薄肉部と
を備えたことを特徴とする蓄光性シート。
【請求項2】
前記各厚肉部の厚さは、1〜2mmであり、
前記薄肉部の厚さは、0.1〜0.5mmであることを特徴とする請求項1に記載の蓄光性シート。
【請求項3】
前記薄肉部は格子状に配置されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蓄光性シート。
【請求項4】
両面に接着剤が塗布された弾性支持層を更に備え、当該弾性支持層一方の面に前記蓄光材層が接着されたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の蓄光性シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−169068(P2011−169068A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35725(P2010−35725)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(595083143)
【Fターム(参考)】