説明

蓄光照明体並びに培養装置及び方法

【課題】強光阻害を防止しつつ藻類に光を効果的に照射して藻類の光合成を促進させることができる蓄光照明体等を提供する。
【解決手段】蓄光ビーズBは、藻類Aを培養する培養液Sよりも熱膨張率が大きく、温度変化に応じて浮沈するように培養液Sに対する比重が調整された基材と、この基材の表面及び内部の少なくとも一方に設けられた蓄光材とを備えており、温度変化に応じて浮沈することによって培養液Sに照射される光を遮光し、或いは、培養液Sをその内部から照明する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光照明体並びに培養装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、バイオリアクターは、生体触媒を用いて生化学反応を行う装置をいい、通常の化学反応を行う装置に比べて、副生成物が少ない、工程が少ない、収率が良い、省エネルギー性に優れる等の利点を有する。近年では、藻類(特に、微細藻類)を用いてバイオディーゼル等のバイオエネルギーや抗酸化物質のアスタキサンチン等の生理有用物質を生産するバイオリアクターが注目されている。
【0003】
藻類を用いたバイオリアクターは、光合成によって藻類を培養しながら上記のバイオエネルギーや生理有用物質を生産しているため、藻類の培養装置ということもできる。このようなバイオリアクターは、ガラス、プラスチック、ビニル等の光透過性を有する透明材料を用いて形成された培養槽を備えており、太陽光や別途設けた照明装置から発せられる光を培養槽内の藻類に照射して藻類の培養を行うものが多い。以下の非特許文献1には、オープンレースウェイ型(オープンポンド型)等の開放式のバイオリアクター、及び、チューブ型又はパネル型の密閉式のバイオリアクターが開示されている。
【0004】
ここで、透明材料を用いて形成された培養槽を備えるバイオリアクターは、藻類を培養しているうちに培養槽の光入射面に藻類が付着し、外から差し込む光を遮断してしまうという状況が生じ得る。以下の特許文献1には、培養液中に光エネルギーを供給する光入射面に平行な流れを生ずるような機械的攪拌手段を設けることで、光入射面に光合成微生物が濃厚に付着するのを防止する培養装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−176号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Orlando Jorquera et al.,“Comparative energy life-cycle analyses of microalgal biomass production in open ponds and photobioreactors”,Bioresource Technology,February 2010,Vol 101,Issue 4,p.1406-1413
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した各種のバイオリアクターのうち、屋外に設置されて太陽光を利用するものは、以下の(1)〜(4)に示す問題がある。
【0008】
(1)太陽光が得られる時間帯が限られる
太陽光は、日出から日没までの日中の時間帯に得られ、日没から日出までの夜間の時間帯には得ることができない。このため、太陽光を利用するバイオリアクターでは、別途設けた照明装置から発せられる光を用いる場合を除いて、基本的には夜間の時間帯において光合成が行われないため効率が悪い。
【0009】
(2)強光阻害が生ずる
藻類が光合成を行うにはある程度の強度を有する光の照射が必要である。しかしながら、藻類に照射される光の強度がその藻類の光飽和点を超える強度であると、光合成の効率が低下するとともに、アンテナ色素から出るラジカルが蓄積して藻類にダメージを与える現象(強光阻害)が生ずる。太陽光の強度は、季節及び時間帯によって大きく変動するため、光強度が高くなる夏期日中等に強光阻害が生じ易い。
【0010】
(3)藻類が付着する
密閉式のバイオリアクターは、透明なチューブ型又はパネル型の培養槽を備えており、外部からの光を透明な培養槽を介して内部に収容された藻類に照射している。このため、藻類を培養しているうちに、透明な培養槽に藻類が付着することによって光透過性が低下し、結果として効率が低下する。ここで、前述した特許文献1に開示された技術を用いれば藻類の付着を防止できるとも考えられるが、機械的攪拌手段を駆動するエネルギーが別途必要になってしまう。
【0011】
(4)培養液の光透過性が低下する
藻類を培養して藻類の密度が高くなると、培養液中の藻類が外から差し込む光を遮断してしまい、培養液(藻類を含む培養液)の光透過性が低下してしまう。すると、太陽光が培養槽の深部まで届かなくなり、培養槽の深部において光合成が促進されなくなることから効率が低下してしまう。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、強光阻害を防止しつつ藻類に光を効果的に照射して藻類の光合成を促進させることができる蓄光照明体、並びに当該蓄光照明体を用いて効率的に藻類を培養することができる培養装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の蓄光照明体は、藻類(A)を培養する培養液(S)を該培養液内から照明する蓄光照明体(B)であって、前記培養液よりも熱膨張率が大きく、温度変化に応じて浮沈するように前記培養液に対する比重が調整された基材(21、31)と、前記基材の表面及び前記基材の内部の少なくとも一方に設けられた蓄光材(22、32)とを備えることを特徴としている。
また、本発明の蓄光照明体は、前記基材が、光透過性を有する基材であることを特徴としている。
また、本発明の蓄光照明体は、前記蓄光材が、青色光及び赤色光の少なくとも一方を主とする色光を放出することを特徴としている。
また、本発明の蓄光照明体は、前記蓄光材が、ストロンチウムアルミネート(SrAl)或いはカルシウムアルミネート(CaAl)を主成分とし、希土類元素を添加してなるものであることを特徴としている。
また、本発明の蓄光照明体は、前記希土類元素が、ユーロピウム(Eu)、デスプロシウム(Dy)、ネオジウム(Nd)の少なくとも1つを含むことを特徴としている。
また、本発明の蓄光照明体は、前記基材の表面に設けられた前記蓄光材を覆う光透過性を有する保護膜(23)を備えることを特徴としている。
本発明の培養装置は、藻類(A)を培養する培養装置(1、2)であって、前記藻類を含む培養液を貯留する培養槽(11、41)と、前記培養槽に対し、上記の何れかに記載の蓄光照明体の供給及び回収を行う供給回収装置(16、17)とを備えることを特徴としている。
また、本発明の培養装置は、前記供給回収装置が、太陽光の強度に応じて前記培養槽に対する前記蓄光照明体の供給及び回収を行うことを特徴としている。
本発明の培養方法は、藻類(A)を培養する培養方法であって、前記藻類を含む培養液(S)を貯留する培養槽(11、41)に対し、上記の何れかに記載の蓄光照明体の供給及び回収の少なくとも一方を行うステップを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、培養液よりも膨張率が大きく、温度変化に応じて浮沈するように培養液に対する比重が調整された基材と、基材の表面及び内部の少なくとも一方に設けられた蓄光材とを備える蓄光ビーズを培養液に供給して藻類を培養している。これにより、温度変化に応じて蓄光ビーズを浮沈させることができるため、強光阻害を防止しつつ藻類に光を効果的に照射して藻類の光合成を促進させることができるという効果がある。また、藻類の光合成が促進されることから、効率的に藻類を培養することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態による培養装置の全体構成を示す平面図である。
【図2】本発明の一実施形態による蓄光照明体としての蓄光ビーズの構成を示す断面図である。
【図3】培養装置の培養槽内に供給された蓄光ビーズの状態を説明する図である。
【図4】培養装置の培養槽内に供給された蓄光ビーズが攪拌される様子を示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態による培養装置を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による蓄光照明体並びに培養装置及び方法について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による培養装置の全体構成を示す平面図である。図1に示す通り、培養装置1は、培養槽11、羽根車12、モータ13、ガス供給ノズル14、養分供給ノズル15、蓄光ビーズ供給装置16(供給回収装置)、及び蓄光ビーズ回収装置17(供給回収装置)を備えており、培養槽11内に収容された藻類の培養を行う。尚、図1に示す培養装置1は、開放式のバイオリアクターの一種であるオープンポンド型のバイオリアクターである。
【0017】
培養槽11は、培養対象である藻類を含む培養液Sを貯留する槽である。具体的に、培養槽11は、平面視形状が細長い楕円環形状の底壁(図示省略)と、この底壁の内周側及び外周側にそれぞれ設けられて鉛直方向(紙面垂直方向)に延びる内周壁11a及び外周壁11bとからなり、底壁と内周壁11a及び外周壁11bの下端部とを地中に埋設した状態で設置される。この培養槽11によって、平面視形状が細長い楕円形状であって上方が開放されている流路が地上に形成される。
【0018】
羽根車12は、培養槽11に貯留された培養液Sを攪拌するとともに、培養槽11によって形成される流路に沿って培養液Sを循環させるものである。具体的に、羽根車12は、培養槽11の流路に沿う複数箇所において、その回転軸が流路に沿う方向に交差するように設置される。モータ13は、培養液Sの攪拌及び循環を行うために、羽根車12を回転駆動する。
【0019】
ガス供給ノズル14は、培養槽11に貯留された培養液Sに対し、空気及び二酸化炭素(CO)等のガスを供給する。養分供給ノズル15は、培養槽11に貯留された培養液Sに対し、藻類の培養に必要な栄養分である窒素やリン等を供給する。これらガス供給ノズル14及び養分供給ノズル15は、羽根車12と同様に、培養槽11の流路に沿う複数箇所において、その長手方向が流路に沿う方向に交差するように設置される。
【0020】
蓄光ビーズ供給装置16は、培養槽11に貯留された培養液Sに対して蓄光ビーズを供給するものであり、蓄光ビーズ回収装置17は、培養液Sに供給されている蓄光ビーズを回収するものである。ここで、蓄光ビーズは、蓄光性を有する球状物体(蓄光照明体)であり、藻類の光合成の効率低下等を引き起こす強光阻害を防止しつつ、藻類に光を効果的に照射して藻類の光合成を促進させるものである。尚、蓄光ビーズの詳細については後述する。
【0021】
蓄光ビーズ供給装置16は、例えばフォトダイオード等の光センサを備えており、太陽光の光強度が予め設定された強度(例えば、藻類の光飽和点を超えるある強度)を超えた場合に、強光阻害を防止すべく培養槽11に貯留された培養液Sに対して蓄光ビーズを供給する。蓄光ビーズ回収装置17は、蓄光ビーズ供給装置16と同様に、フォトダイオード等の光センサを備えており、例えば太陽光の光強度の数日間の平均値がある一定値よりも低下した場合に、蓄光ビーズによって太陽光が遮られるのを防止すべく培養槽11に貯留された培養液Sに供給されている蓄光ビーズを回収する。
【0022】
蓄光ビーズ回収装置17は、例えば藻類の大きさよりも大きく蓄光ビーズの径よりも細かな目の捕集網を備えており、この捕集網を用いて培養液Sを掬い上げることにより、培養液Sに供給されている蓄光ビーズを回収する。尚、上記の捕集網と同様の目の大きさを有する捕集袋を培養槽11内に配設しておき、回収すべき量の蓄光ビーズが捕集袋に捕集されたときに、蓄光ビーズ回収装置17が捕集袋ごと蓄光ビーズを回収するようにしても良い。或いは、捕集袋を常設した状態で蓄光ビーズを回収するのではなく、藻類を回収する直前に捕集袋を配設して蓄光ビーズを回収するようにしても良い。
【0023】
以上説明したモータ13による羽根車12の駆動、ガス供給ノズル14からのガスの供給、及び養分供給ノズル15からの栄養分の供給は、培養装置1の動作を統括して制御する制御装置(図示省略)によって制御される。尚、蓄光ビーズの供給及び回収は、制御装置によって蓄光ビーズの供給及び回収が許可されている場合に、蓄光ビーズ供給装置16及び蓄光ビーズ供給装置17の制御の下で行われる。
【0024】
次に、以上説明した培養装置1で用いられる蓄光ビーズについて説明する。図2は、本発明の一実施形態による蓄光照明体としての蓄光ビーズの構成を示す断面図である。図2(a)に示す蓄光ビーズBは、基材21、蓄光材22、及び保護膜23からなり、培養装置1の培養槽11に貯留された培養液Sに供給されて、太陽光を遮光して強光阻害を防止し、或いは、培養液Sを培養液S内から照明して藻類の光合成を促進させるものである。
【0025】
基材21は、培養液Sよりも熱膨張率が大きく、太陽光の照射による培養液Sの温度変化に応じて浮沈するように培養液Sに対する比重が調整された球状の部材である。この基材21は、例えばポリプロピレンに金属粉(例えば、鉄粉)を添加することによって形成された、数ミリメートル〜数センチメートル程度の直径を有する部材である。ポリプロピレンに対する金属粉の添加量は、例えば培養液Sに対する蓄光ビーズBの比重が0.97となるように調整されている。尚、基材21は、培養液Sよりも熱膨張率が大きく、上記の通り浮沈可能であれば、ポリプロピレン等の光透過性を有する材料以外に、光透過性を有しない材料を用いることもできる。
【0026】
蓄光材22は、基材21の表面に形成されており、太陽光等の光を蓄積して数時間に亘って蓄積した光を放出する。この蓄光材22は、藻類の光合成を促進するために、光合成で利用される吸収波長域400〜700nmで特に波長が420〜470nmの青色光及び640〜690nmの赤色光の少なくとも一方を主とする色光を放出可能なものが望ましく、太陽光が得られない夜間の時間帯における光合成を促進するために、その色光を数時間に亘って放出可能なものが望ましい。
【0027】
具体的に、蓄光材22は、ストロンチウムアルミネート(SrAl)或いはカルシウムアルミネート(CaAl)を主成分とし、希土類元素を添加したものを用いることができる。ここで、添加する希土類元素としては、ユーロピウム(Eu)、デスプロシウム(Dy)、ネオジウム(Nd)等が挙げられる。蓄光材22の主成分と希土類元素との具体的な組み合わせ例としては以下のものが考えられる。
SrAl:Eu
SrAl:Eu,Dy
SrAl1225:Eu,Dy
CaAl:Eu,Nd
【0028】
保護膜23は、基材21の表面に設けられた蓄光材22を覆うように形成された光透過性を有する部材であり、蓄光材22の加水分解や劣化を防止して蓄光材22の性能(残光輝度、残光時間)を維持するために設けられるものである。この保護膜23は、光透過性、防水性、耐候性を有するものであれば、特に材質は限定されない。例えば、ポリ塩化ビニル等を用いることができる。
【0029】
また、図2(b)に示す蓄光ビーズBは、基材31及び蓄光材32からなる。図2(a)に示す蓄光ビーズBは基材21の表面に蓄光材22が形成されているのに対し、図2(b)に示す蓄光ビーズBは、基材31の内部に蓄光材32が設けられている点が相違する。基材31は、基材21と同様に、培養液Sよりも熱膨張率が大きく、太陽光の照射による培養液Sの温度変化に応じて浮沈するように培養液Sに対する比重が調整された球状の部材であるが、基材31は、耐水性と光透過性とを有することが必須となる。
【0030】
蓄光材32は、蓄光材22と同様に、太陽光等の光を蓄積して数時間に亘って蓄積した光を放出するものであり、光合成で利用される波長、特に青色光及び赤色光の少なくとも一方を主とする色光を数時間に亘って放出可能なものが望ましい。この蓄光材32としては、蓄光材22と同様に、ストロンチウムアルミネート(SrAl)或いはカルシウムアルミネート(CaAl)を主成分とし、ユーロピウム(Eu)、デスプロシウム(Dy)、ネオジウム(Nd)等を添加したものを用いることができる。
【0031】
次に、以上の蓄光ビーズBを用いた藻類の培養方法について説明する。図1に示す培養装置1が稼働されると、不図示の制御装置によってモータ13が制御され、羽根車12が回転駆動される。すると、培養装置1の培養槽11に貯留された培養液S(培養対象である藻類を含む培養液S)は、羽根車12によって攪拌されるとともに、培養槽11によって形成される流路に沿って循環する。培養液Sが循環している間は、制御装置の制御によってガス供給ノズル14からのガスの供給、及び養分供給ノズル15からの栄養分の供給が定期的に或いは不定期に行われる。
【0032】
ここで、培養槽11に貯留された培養液Sに照射される太陽光の光強度が予め設定された強度(例えば、藻類の光飽和点を超えるある強度)を超えたとする。すると、蓄光ビーズ供給装置16によって、蓄光ビーズBが培養槽11に貯留された培養液Sに供給される。尚、培養槽11に対する蓄光ビーズBの供給及び回収は、不図示の制御装置によって予め許可されているとする。
【0033】
オープンポンド型の培養槽11内を循環する培養液Sは、強度の高い太陽光が照射されることによって温度が上昇している。他方、培養槽11に供給された蓄光ビーズBは、前述した通り、太陽光の照射による培養液Sの温度変化に応じて浮沈するように培養液Sに対する比重が調整されている。このため、蓄光ビーズBは、図3(a)に示す通り、温度が上昇した培養液Sの液面に浮上して培養液Sの液面を覆う。図3は、培養装置の培養槽内に供給された蓄光ビーズの状態を説明する図である。
【0034】
浮上した蓄光ビーズBによって培養液Sの液面が覆われることにより、培養槽11に貯留された培養液Sに照射される強度の高い太陽光は蓄光ビーズBによって遮られる。すると、培養液Sに含まれる藻類Aに強度の高い太陽光が照射される割合が低下し、この結果として強光阻害が低減される。尚、蓄光ビーズBに強度の高い太陽光が照射されると、その光エネルギーは蓄光ビーズBに蓄積されることになる。
【0035】
これに対し、培養槽11に貯留された培養液Sに照射される太陽光の強度が低い場合(例えば、藻類Aの光飽和点を超えない程度の強度の場合)、或いは、太陽光が照射されない夜間の時間帯である場合には、強度の高い太陽光が照射されていた場合に比べて培養液Sの温度が低下する。すると、蓄光ビーズBは、浮力が低下して、図3(b)に示す通り培養槽11の底部に沈下する。
【0036】
蓄光ビーズBが培養槽11の底部に沈下すると、培養槽11に貯留された培養液Sに照射される太陽光が蓄光ビーズBによっては遮られない。すると、貯留された培養液Sの上層部では、藻類Aに太陽光が効率良く照射されるため光合成が促進される。また、蓄光ビーズBが培養槽11に底部に沈下すると、沈下した蓄光ビーズBから放出される光によって培養槽11の底部が照明される。すると、培養液Sの吸収等によって太陽光の照射量が低くなる培養液Sの下層部においても蓄光ビーズBから放射される光が藻類Aに照射されるため光合成が促進される。
【0037】
ここで、培養槽11に貯留された培養液Sは、羽根車12によって攪拌されている。このため、培養液Sの流れは、培養槽11の流路に沿う流れ以外に、図4に示す通り、鉛直方向(培養槽11の深さ方向)の流れFが生ずる。図4は、培養装置の培養槽内に供給された蓄光ビーズが攪拌される様子を示す図である。
【0038】
前述した通り、培養液Sの液面に浮上した蓄光ビーズBには、太陽光の光エネルギーが十二分に蓄積されている。この蓄光ビーズBが培養槽11の深さ方向の流れFによって下方に沈降すると、図3(b)に示す状態と同様の状態になり、沈下した蓄光ビーズBから放出される光によって培養槽11の底部が照明される。すると、培養液Sの液面に浮上している蓄光ビーズBによって太陽光が遮られていたとしても、培養液Sの下層部において蓄光ビーズBから放射される光が藻類Aに照射され、強光阻害の低減及び光合成の促進が同時に実現される。
【0039】
ここで、例えば太陽光の光強度の数日間の平均値がある一定値よりも低下した場合には、蓄光ビーズ回収装置17は、蓄光ビーズによって太陽光が遮られるのを防ぐために培養液Sに供給されている蓄光ビーズを回収する。具体的には、藻類の大きさよりも大きく蓄光ビーズの径よりも細かな目の捕集網を用いて培養液Sを掬い上げることにより蓄光ビーズを回収する。或いは、捕集網と同様の目の大きさを有しており、培養槽11内に配設された捕集袋を回収することによって蓄光ビーズを回収する。尚、蓄光ビーズBの回収は、蓄光ビーズBの性能が低下したときに行っても良い。
【0040】
以上では、培養装置1が開放式のバイオリアクターの一種であるオープンポンド型のバイオリアクターである場合を例に挙げて説明したが、チューブ型、パネル型、又はドーム型の密閉式のバイオリアクターについても蓄光ビーズBを用いることができる。図5は、本発明の他の実施形態による培養装置を模式的に示す平面図である。尚、図5に示す培養装置2は、密閉式のバイオリアクターの一種であるドーム型のバイオリアクターである。
【0041】
図5に示す培養装置2は、直線状の流路R1と、流路R1の一端から分岐した円弧状の流路R2,R3と、流路R2,R3と流路R1の他端とをそれぞれ接続する直線状の流路R4,R5とを形成する培養槽41を備える。この培養槽41は、太陽光や別途設けた照明装置から発せられる光を培養槽41内の培養液に照射するために、ガラス、プラスチック、ビニル等の光透過性を有する透明材料を用いて形成されている。
【0042】
このような培養槽41内に蓄光ビーズBを供給すると、図5に示す通り、蓄光ビーズBは、培養槽41の内壁に衝突しながら培養液の流れに乗って移動する。蓄光ビーズBが培養槽41の内壁に衝突すると、培養槽41の内壁に付着した藻類が引き剥がされる。この結果として、藻類の付着による光透過性の低下を防止することができ、効率を向上させることができる。
【0043】
以上説明した密閉式のバイオリアクターでは、例えば蓄光ビーズBを供給する供給口を培養槽に設け、この供給口を介して培養槽に貯留された培養液に蓄光ビーズBを供給することができる。或いは、上記の供給口を設けずに、藻類の供給口から藻類と共に蓄光ビーズBを供給することもできる。蓄光ビーズBは、図1に示す培養装置1と同様に、培養槽に貯留された培養液に照射される太陽光の光強度が予め設定された強度(例えば、藻類の光飽和点を超えるある強度)を超えたタイミングで供給しても良く、或いは、培養槽の内壁に藻類が付着し始めたタイミングで供給しても良い。尚、蓄光ビーズの回収は、図1に示す培養装置1と同様に、藻類の大きさよりも大きく蓄光ビーズの径よりも細かな目の捕集網を用いて行うことができる。
【0044】
以上の通り、本実施形態では、培養液Sよりも膨張率が大きく、温度変化に応じて浮沈するように培養液Sに対する比重が調整された基材21と、基材21の表面及び内部の少なくとも一方に設けられた蓄光材22とを備える蓄光ビーズBを培養液Sに供給して藻類Aを培養している。これにより、温度変化に応じて蓄光ビーズBを浮沈させることができるため、強光阻害を防止しつつ藻類に光を効果的に照射して藻類の光合成を促進させることができ、その結果として効率的に藻類を培養することができる。
【0045】
以上、本発明の一実施形態による蓄光照明体並びに培養装置及び方法について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されず、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、蓄光ビーズBの形状が球状である場合を例に挙げて説明したが、蓄光ビーズBの形状は任意である。例えば、培養槽との接触面積が広い方が培養槽の内壁に付着した藻類を容易に引き剥がすことができる場合には、蓄光ビーズBを多面体形状にすれば良い。
【符号の説明】
【0046】
1,2 培養装置
11 培養槽
16 蓄光ビーズ供給装置
17 蓄光ビーズ回収装置
21 基材
22 蓄光材
23 保護膜
31 基材
32 蓄光材
41 培養槽
A 藻類
B 蓄光ビーズ
S 培養液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類を培養する培養液を該培養液内から照明する蓄光照明体であって、
前記培養液よりも熱膨張率が大きく、温度変化に応じて浮沈するように前記培養液に対する比重が調整された基材と、
前記基材の表面及び前記基材の内部の少なくとも一方に設けられた蓄光材と
を備えることを特徴とする蓄光照明体。
【請求項2】
前記基材は、光透過性を有する基材であることを特徴とする請求項1記載の蓄光照明体。
【請求項3】
前記蓄光材は、青色光及び赤色光の少なくとも一方を主とする色光を放出することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の蓄光照明体。
【請求項4】
前記蓄光材は、ストロンチウムアルミネート(SrAl)或いはカルシウムアルミネート(CaAl)を主成分とし、希土類元素を添加してなるものであることを特徴とする請求項3記載の蓄光照明体。
【請求項5】
前記希土類元素は、ユーロピウム(Eu)、デスプロシウム(Dy)、ネオジウム(Nd)の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項4記載の蓄光照明体。
【請求項6】
前記基材の表面に設けられた前記蓄光材を覆う光透過性を有する保護膜を備えることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の蓄光照明体。
【請求項7】
藻類を培養する培養装置であって、
前記藻類を含む培養液を貯留する培養槽と、
前記培養槽に対し、請求項1から請求項6の何れか一項に記載の蓄光照明体の供給及び回収を行う供給回収装置と
を備えることを特徴とする培養装置。
【請求項8】
前記供給回収装置は、太陽光の強度に応じて前記培養槽に対する前記蓄光照明体の供給及び回収を行うことを特徴とする請求項7記載の培養装置。
【請求項9】
藻類を培養する培養方法であって、
前記藻類を含む培養液を貯留する培養槽に対し、請求項1から請求項6の何れか一項に記載の蓄光照明体の供給及び回収の少なくとも一方を行うステップを含むことを特徴とする培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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