説明

蓄冷体

【課題】過冷却を防止すると共に、冷却、解凍を繰り返しても過冷度が大きくならない蓄冷体の提供を目的とする。
【解決手段】蓄冷剤容器の蓄冷剤21中に、少なくとも一部が伸長可能な膜37で構成されて前記膜37を貫通する切れ込み39が形成された外殻32内に、前記蓄冷剤21よりも凝固温度が高い水42が充填された過冷度低減装置31を収容し、前記過冷度低減装置31内の水42が氷42aとなる際の体積増大により前記伸長可能な膜37が伸長して前記切れ込み39が拡開し、該拡開した切れ込みを介して前記過冷度低減装置31内の氷42aに前記蓄冷剤21を接触させ、前記蓄冷剤21の過冷却を低減させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄冷剤の過冷度を低減することが可能な蓄冷体に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄冷剤容器に蓄冷剤が収容された蓄冷体は、予め蓄冷体を冷凍庫などに収容して蓄冷剤を冷凍させて使用される。蓄冷剤は、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウムなどの無機塩の水溶液、メタノールやエタノールなどのアルコール水溶液、あるいは水溶性高分子にゲル化剤を添加したもの等からなり、使用時の融解潜熱によって長時間保冷作用を発揮することができる。
【0003】
蓄冷体は、冷凍庫などで冷凍させる際に、蓄冷剤が過冷却状態となることがある。たとえば、寒剤を入れない融点0℃の蓄冷剤の場合、過冷却状態となると−10℃〜−15℃程度でも、結晶化(冷凍)しないことがあり、結晶化していない蓄冷剤は融解潜熱を利用できないため、使用時の保冷時間が短くなる問題がある。
過冷却を低減させる方法として、螺合させたボルトとナットからなるトリガーを蓄冷剤と共に容器に収容し、ボルト又はナットの一方を回転させることにより、過冷却状態の蓄冷剤に機械的衝撃を与えて蓄冷剤の結晶化を開始させるものがある(特許文献1)。
また、密閉容器に潜熱蓄熱材を封入し、密閉容器の変形に伴って変形するスプリングを潜熱蓄熱材中に配置し、密閉容器を捻ってスプリングを変形させることにより振動を与えて潜熱蓄熱材の固化を開始させるものがある(特許文献2)。
【0004】
また、過冷度を小さくできる保冷装置として、第一の液体が充填されて密封された第一の容器と、第一の容器内に配置された第二の容器とを具備し、第二の容器には第一の液体よりも凝固温度の高い第二の液体が充填されて密封され、第二の容器の少なくとも一部分は、第二の液体が少なくとも部分的に通過可能であると共に第一の液体が通過不能である膜からなる保冷装置が提案されている(特許文献3)。
【0005】
しかし、ボルトとナットからなるトリガーを用いる方法は、容器の外からボルト又はナットを回転させねばならず、作業が面倒であり、大量の蓄冷体を冷凍庫で冷却させる業務用にはふさわしくない。さらに、また、容器の外からボルト又はナットを回転させることから、容器が破れやすい問題もある。
一方、スプリングを用いる方法は、外部から密閉容器を捻る必要があり、外力を加える手間が必要であり、作業が面倒で大量の蓄冷体を冷凍庫で冷却させる業務用にはふさわしくない。さらに、外部から密閉容器を捻ることから、容器が破れやすい問題がある。
また、第一の容器と第二の容器を有する保冷装置は、第二の容器に氷核が通過する膜と弾性膜があり、第二容器の構造が複雑であり、しかも保冷装置を繰り返し使用すると、第一の液体に第二の液体が進入し、第二の容器で氷核を生成する能力が低下し、過冷度が大きくなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭63−60854号公報
【特許文献2】特開平2−73582号公報
【特許文献3】特開2006−343066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、過冷却を防止すると共に、冷却、解凍を繰り返しても過冷度が大きくなるのを低減できる蓄冷体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、蓄冷剤容器に蓄冷剤と該蓄冷剤の過冷度を低減する過冷度低減装置が収容された蓄冷体において、前記過冷度低減装置は、少なくとも一部が伸長可能な膜で構成されて前記膜を貫通する切れ込みが形成された外殻内に前記蓄冷剤よりも凝固温度が高い水が充填されており、前記過冷度低減装置内の水が氷となる際の体積増大により前記伸長可能な膜が伸長して前記切れ込みが拡開し、該拡開した切れ込みを介して前記過冷度低減装置内の氷に前記蓄冷剤を接触させることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1において、前記過冷度低減装置の伸長可能な膜に形成された切れ込みは、貫通孔あるいは開口した切れ込みからなり、前記外殻の少なくとも一部に設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2において、前記過冷度低減装置の伸長可能な膜に形成された切れ込みは、前記伸長可能な膜を伸長させた状態で形成され、前記伸長可能な膜が伸長状態を解放あるいは緩和された状態では、切れ込みが収縮した状態であることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項3において、前記過冷度低減装置の伸長可能な膜に形成された切れ込みは、前記伸長可能な膜を伸長率100〜500%に伸長させた状態で径0.1〜0.5mmの貫通孔であることを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1から4の何れか一項において、前記伸長可能な膜は、伸長率10〜2000%(JIS K 6251準拠)であるスチレンエラストマーからなることを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明は、請求項5において、前記スチレンエラストマーには、パラフィンが含まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、蓄冷剤容器内に蓄冷剤と共に収容された過冷度低減装置は、常温においては、過冷却度低減装置の伸長可能な膜に、この膜が伸張された状態で形成された切れ込みが、伸びていない状態では蓄冷剤及び過冷却度低減装置内の水を、実質的に通さないため、伸長可能な膜に形成された切れ込みを通って蓄冷剤が過冷却度低減装置内に進入したり、過冷却度低減装置内の水が伸長可能な膜に形成された切れ込みを通って蓄冷剤に進入したりすることがない。また、蓄冷体を冷凍庫などに収容して蓄冷剤の凝固温度以下まで冷却して蓄冷剤を凍結(結晶化)させる際、過冷度低減装置内の水は、蓄冷剤よりも凝固温度が高いため、最初に過冷度低減装置内の水が氷になり、その際の水の体積膨張により過冷度低減装置の伸長可能な膜が伸長して該伸長可能な膜に形成されている切れ込みが拡開し、該拡開した切れ込みを介して過冷度低減装置内の氷に蓄冷剤が接触するようになる。これによって蓄冷剤の過冷却を抑え、効率良く蓄冷剤を凍結(結晶化)させることができる。しかも、過冷度低減装置内の氷は、伸長可能な膜に形成されている切れ込みを通ることができず、蓄冷剤に進入することがない。一方、過冷度低減装置外の蓄冷剤は、過冷度低減装置内に氷が充満しているため、伸長可能な膜に形成された切れ込みから過冷度低減装置内に進入することができない。
【0015】
また、本発明によれば、蓄冷体は冷却後の使用による温度上昇によって過冷度低減装置内の氷が水になると、その際の氷の体積減少によって過冷度低減装置の伸長可能な膜が縮んで切れ込みが縮小し、該切れ込みを過冷度低減装置内の水及び過冷度低減装置外の蓄冷剤が通れないため、過冷度低減装置内の水が過冷度低減装置外の蓄冷剤に進入したり、逆に過冷度低減装置外の蓄冷剤が過冷度低減装置内に進入したりすることがない。そのため、蓄冷剤の冷却、解凍を繰り返し行っても過冷度低減効果が損なわれにくく、過冷度が大きくなるのを防止することができる。
【0016】
さらに、本発明の蓄冷体は、過冷却防止のために蓄冷剤容器の外部から過冷度低減装置を操作したり、蓄冷剤容器を捻るなどの変形を加えたりする必要がなく、蓄冷剤容器が破損するおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る蓄冷体の斜視図である。
【図2】図1の2−2断面図である。
【図3】本発明の過冷度低減装置の一実施形態に係る斜視図である。
【図4】図3の4−4断面図である。
【図5】伸長可能な膜に形成した貫通孔からなる切れ込みを示す図である。
【図6】過冷度低減装置の作用を示す断面図である。
【図7】実験装置を示す図である。
【図8】1回目の冷却時の温度−時間曲線である。
【図9】2回目の冷却時の温度−時間曲線である。
【図10】3回目の冷却時の温度−時間曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1及び図2に示す蓄冷体10は、本発明の一実施形態に係るものであり、蓄冷剤容器11と、前記蓄冷剤容器11内に収容された蓄冷剤21及び過冷度低減装置31とよりなる。
【0019】
蓄冷剤容器11は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンあるいはポリアミド、ポリエステル等のプラスチック、アルミニウム等の金属性容器、あるいは、アルミプレート等がインサートされた樹脂製複合容器、ラミネートフィルムを熱シールした柔軟な袋状容器等で構成される。特に、パリソンを用いてインジェクションブロー成形した中空平板状に製造されたものが多く使用される。前記蓄冷剤容器11の平面視形状は、四角形、その他の多角形等、適宜の形状とされるが、この例では略長方形とされている。なお、この実施形態における蓄冷剤容器11は、200mm×285mm×18mmの外径寸法からなる。前記蓄冷剤容器11には、側面に蓄冷剤充填口13が形成されている。前記蓄冷剤充填口13は、蓄冷剤21及び過冷度低減装置31の収容後、キャップが嵌められ、接着剤、熱融着あるいは高周波融着等により封止される。
【0020】
蓄冷剤21は、0℃以下の公知のものとされる。使用可能な蓄冷剤の例として、金属塩水溶液、好ましくは塩化ナトリウム水溶液(15.00%)を挙げることができる。塩化ナトリウム水溶液(15.00%)の凝固温度(凍結温度)は−10.888℃である。
【0021】
過冷度低減装置31は、図3及び図4に示すように、外殻32と該外殻32内に充填された水42とよりなる。前記外殻32は、水42を充填可能な容器(カプセル)であり、両端が半球あるいは平面で構成された略円筒形、球形等、適宜の形状、寸法からなり、少なくとも一部が伸長可能な膜37で構成されている。本実施形態の外殻32は、両端が半球で構成された略円筒形からなる外殻本体33と、該外殻本体33の両端間の中央部外周に装着された伸長可能な膜37とからなる。
【0022】
外殻本体33の材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンあるいはポリアミド、ポリエステル等のプラスチックからなる。本実施形態の外殻本体33は、ポリプロピレンからなり、射出ブロー成形法によって、平面視、楕円形状において、長径25〜45mm、外周径8〜15mm、壁面の厚み1〜2.5mmの略円筒形に形成されている。前記外殻本体33の両端間の中央には、対向する位置に開口34が計2個形成されている。前記開口34は、円形、四角形等の孔からなり、後述の切れ込み39を包囲する大きさで形成されている。本実施形態の開口34は、径3〜8mmの円形の孔からなる。
【0023】
伸長可能な膜37は、前記外殻本体33の開口34を覆うように設けられている。前記伸長可能な膜37は、弾性を有する膜であり、張力により伸長し、張力解放により元に戻る伸縮可能な材質からなる。前記伸長可能な膜37を構成する伸縮可能な材質は、蓄冷体10の使用温度範囲、例えば0℃〜−60℃の範囲で伸縮性(弾性)を有するものとされる。前記伸長可能な膜37を構成する材質としては、伸長率10〜2000%(JIS K 6251準拠)であるスチレンエラストマーが好ましい。伸張率は、少なくとも水の膨張に追従する必要がある。なお、スチレンエラストマーは、水添スチレンブロック共重合体を含む。
【0024】
水添スチレンブロック共重合体は、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)、及びスチレンエチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEEPS)からなる群から選ばれた一種又は二種以上の混合物である。前記スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)は、通常、イソプレンが1、4結合で90%以上反応して得られる。
【0025】
水添スチレンブロック共重合体の含有量は、スチレンエラストマーを十分な機械強度にしたり、スチレンエラストマーのアスキーC硬度を容易に1以上に調整できたりする点で、組成物の全重量あたり、12重量%以上、好ましくは16重量%以上であり、スチレンエラストマーのアスキーC硬度を容易に30以下に調整できたり、二軸押出機にて十分ゲル状にできたりする点で、組成物の全重量あたり、35重量%以下、好ましくは30重量%以下である。
【0026】
水添スチレンブロック共重合体の数平均分子量は、特に制限されないが、得られる組成物の機械強度が高まる点から、10万以上であることが好ましい。40万程度のものも使用することができるが、上限は制限されない。
【0027】
スチレンエラストマーには、粘着性付与樹脂を含むことができる。粘着性付与物質は、前記伸長可能な膜37に外殻本体33との密着性を高め、蓄冷剤容器11内の蓄冷剤21が冷却凝固と解凍を繰り返しても伸長可能な膜37が外殻本体33から剥離しにくくできる。
【0028】
粘着性付与物質の具体的な例として、ロジン樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、石炭樹脂、フェノール樹脂、及びキシレン樹脂等からなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
ロジン樹脂として、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、及び変性ロジン等を例示することができる。
テルペン樹脂として、α−ピネン系テルペン樹脂、β−ピネン系テルペン樹脂、ジペンテン系テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、及び水添テルペン樹脂等を例示することができる。
石油樹脂として、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、共重合系(C5/C9系)石油樹脂、脂環族系(水素添加系、ジシクロペンタジエン(DCPD)系)石油樹脂、及びスチレン系(スチレン系、置換スチレン系)石油樹脂等を例示することができる。
石炭樹脂として、クマロン・インデン樹脂等を例示することができる。
以上のうち、低温にあっても脆化せず、エラストマーの各成分の相溶性が得られ、tanδ>1とするためには、テルペン樹脂が好ましく、さらに蓄冷剤の溶融・固化といったヒートサイクルに耐える組成物として、水添テルペン樹脂が最も好ましい。
【0029】
スチレンエラストマーにおける粘着性付与樹脂の含有量は、水添スチレンブロック共重合体100重量部に対して、得られる組成物のtanδや粘着性が高まる点から、120重量部以上、好ましくは150重量部以上であり、得られる組成物のアスキーC硬度が容易に30以下に調整できるようになり、それにより粘着面と整合できるようになり、組成物の実質的な粘着性が増加する点から、450重量部以下、好ましくは400重量部以下である。特に、貫通孔とせずに、開口した切れ込み(スリット)を入れた場合、スチレンエラストマーの粘着性が高いと、スリットの開口部断面での密着性が高まり、蓄冷体の繰り返し使用によって過冷度が大きくなっていくのを抑制できると思われる。
【0030】
アスキーC硬度は、高い機械強度を得るために、1以上、好ましくは5以上であり、粘着面と容易に整合できて実質的な粘着性が増加する点から、30以下、好ましくは25以下である。
【0031】
前記tanδは周波数が1Hzでのピーク値である。tanδは、粘弾性試験において、貯蔵剪断弾性率(G')と損失剪断弾性率(G")の比であるG"/G'、損失正接(損失係数)と呼び、材料が変形する際に材料がどのくらいエネルギーを吸収するか(熱に変える)を示している。したがって、低温環境にあっても柔軟性を示す素材を選択する点から、tanδは、1、好ましくは2を超える。このtanδは温度依存性があるため、そのピーク温度が実際の組成物の使用温度近くにあることにより、上記の効果をより有効に発現することが可能となる。したがって、ピーク温度は、実際の用途に応じて適宜選択すれば足りるが、冷凍冷蔵品を保管輸送する物流資材として使用するための実用性から0〜40℃にあるのが好ましい。
【0032】
スチレンエラストマーには、さらに粘着性を高めるため、軟化剤を含有してもよく、例えば、水添スチレンブロック共重合体100重量部に対して、0〜200重量部含有することができる。
軟化剤は、例えば鉱物油系、植物油系、合成系などの各種ゴム用、及び樹脂用軟化剤からなる群から適宜選択することができる。ここで、鉱物油系として、ナフテン系、パラフィン系、アロマチック系などのプロセス油が例示され、植物油系として、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、梛子油、落花生油、木ろう、パインオイル、オリーブ油などが例示される。なかでも、純度や耐熱安定性などの点から、非芳香族系オイル、特に鉱物油系のパラフィン系オイル、ナフテン系オイル又は合成系のポリイソブチレン系オイルから選択される一種又は二種以上が好ましい。
軟化剤の数平均分子量は、ブリードアウトが抑えられる点から、300以上、特に350以上が好ましく、べたつき感が抑えられる点から、1000以下、特に800以下が好ましい。
【0033】
本実施形態の伸長可能な膜37は、幅15〜35mm、膜厚2mmの環状からなり、前記外殻本体33の開口34と対応する位置に切れ込み39が形成されている。前記切れ込み39は、常温等の通常時では前記外殻32内の水42及び液体の蓄冷剤21が通過できず、前記外殻32内の水42が氷となる際の体積膨張により伸長可能な膜37が伸長することで拡開し、該拡開した切れ込みを介して前記外殻32内の氷に過冷度低減装置31外の蓄冷剤21が接触できるように形成されている。
【0034】
前記切れ込み39は、具体的にはスリットまたは貫通孔等が考えられる。前記切れ込み39は、図5の(A)のように前記伸長可能な膜37を伸長させた状態で形成され、前記伸長可能な膜37が前記外殻本体33に装着されることによって(B)のように伸長可能な膜37の伸長が解放あるいは緩和され、それによって、前記切れ込み39部分の隙間(孔)40が小あるいは、実質的にほとんど無くなった状態となり、前記過冷度低減装置31内の水42及び前記過冷度低減装置31外の蓄冷剤21が切れ込み39を通れなくする。これにより、繰り返し蓄冷体を使用しても、使用とともに過冷度が大きく変化することがない。前記貫通孔からなる切れ込み39の形成時、前記伸長可能な膜37の伸長率は100〜500%、より好ましくは150〜350%である。上記伸張率は、切れ込みを形成するのに高倍率で伸張しすぎた場合、わずかに傷つけても、エラストマーに貫通孔が形成され、これが伝播して所望の大きさの切れ込みを形成できない。一方、伸張率が低い場合、細孔をできるだけ小さく形成することができない。したがって、上記伸張率の数値範囲が好ましい。伸長可能な膜37を伸長させた状態で形成する貫通孔の径は、0.1〜0.5mmが好ましく、より好ましくは0.22〜0.44mmである。
【0035】
前記外殻32内に充填される水42は、必ずしも純水でなくても良い。また、前記外殻32内への水の充填は、注射器によりもしくは水内で外殻本体にスチレンエラストマーを貼付けることにより行うことができる。また、水は前記外殻32内に空気をほとんど残さないように充填されるのが好ましい。
【0036】
前記蓄冷体10の作用について説明する。
前記蓄冷体10は、使用前の常温では、図6の(A)に示すように、過冷度低減装置31の伸長可能な膜37に形成されている切れ込み39がほとんど閉じたあるいは完全に閉じた状態となっており、また、蓄冷剤容器11内の蓄冷剤21及び過冷度低減装置31内の水42が液体となっている。前記蓄冷剤21及び水42は、前記切れ込み39を通ることができず、互いに混ざることなく前記伸長可能な膜37で分離されている。
【0037】
前記蓄冷体10は、使用に際して予め冷凍庫等で前記蓄冷剤21の凝固温度以下の低温に冷却される。その際、前記蓄冷体10が水の凍結温度以下になると、図6の(B)のように、前記過冷度低減装置31内の水42が氷42aとなる。そして、水42が氷42aとなる際の体積増加により、前記過冷度低減装置31の外殻32が外方に押され、前記伸長可能な膜37が伸長して切れ込み39が拡開し、該拡開した切れ込み39aを介して前記過冷度低減装置31内の氷42aに前記過冷度低減装置31外の蓄冷剤21が接触する。その場合、拡開した切れ込み39aが、前記過冷度低減装置31内の氷42aで塞がれているため、前記過冷度低減装置31外の蓄冷剤21は、拡開した切れ込み39aを通って過冷度低減装置31内に進入することが防止される。
【0038】
さらに前記蓄冷体10が冷却されて蓄冷剤21の凝固温度以下になると、図6の(C)のように拡開している切れ込み39aの部分で前記蓄冷剤21と接触する氷42aが核となって前記蓄冷剤21の凝固が始まる。そのため、過冷度を抑えて蓄冷剤21を凝固させることができる。符号21aは凝固した状態の蓄冷剤を表す。
【0039】
また、冷却した前記蓄冷体10は、使用時の温度上昇によって、まず前記蓄冷剤21が融解して液体となり、さらなる温度上昇によって前記過冷度低減装置31内の氷42aが、図6の(D)のように水42になる。前記過冷度低減装置31内が氷42aの間は、前記拡開した切れ込み39aが前記過冷度低減装置31内の氷42aで塞がれているため、前記過冷度低減装置31外の液体状の蓄冷剤21が、拡開した切れ込み39aを通って前記過冷度低減装置31内に進入するのが阻止される。また、前記過冷度低減装置31内の氷42aが水42となる場合には、氷42aから水42へ変化することによる体積減少で、それまで伸長していた伸長可能な膜37が収縮し、前記切れ込み39が拡開状態からほとんど閉じたあるいは完全に閉じた状態となり、前記蓄冷剤21及び水42が切れ込み39を通ることができず、その後においても互いに混ざることなく前記伸長可能な膜37で分離される。
【0040】
また、その後の繰り返し使用により、前記図6の(A)〜(D)を繰り返し、前記蓄冷剤21と前記過冷度低減装置31内の水42との混合が防止または抑えられるため、繰り返し使用によって過冷度が大になるのを抑えることできる。
【0041】
前記過冷度低減装置31の効果を確認するため、以下の実験を行った。前記過冷度低減装置31の外殻本体33を、射出ブロー成形法によってポリプロピレンから、長径35mm、短径12mm、壁面の厚み1mmに成形した。外殻本体33の両端間の中央には、対向する位置に前記開口34を、錐によって計2個形成した。
また、前記伸長可能な膜37を、水添スチレンブロック共重合体の含有量が100重量部、粘着性付与樹脂として水添テルペン樹脂が300重量部、軟化剤としてパラフィンオイルが、180重量部、tanδが4.2、ピーク温度23℃、伸長率1600%(JIS K 6251準拠)、アスキーC硬度が6のスチレンエラストマー(品名:ナグフレックス、イノアックコーポレーション製)から押出し成形方法によって、幅25mm、膜厚2mm、外径12mmの環状に形成した。さらに、膜37の前記外殻本体33の開口34と対応する位置に前記切れ込み39を形成した。前記切れ込み39の形成は、前記伸長可能な膜37を200%に伸長させた状態で、加熱した金属細線を接触させることにより径0.22mmの貫通孔を形成することによって行った。貫通孔の大きさは、金属細線の径を変更することで調節できる。また、レーザ加工機を使用することも可能である。
その後、前記環状に成形された伸長可能な膜37を、前記外殻本体33の外面に装着し、前記外殻本体33の開口34を前記伸長可能な膜37の切れ込み39部分で覆い、前記過冷度低減装置31の外殻32を形成した。前記過冷度低減装置31の外殻32内には水(純水)を、注射器により気泡がないように溢れるまで充填注入した。さらに、前記外殻本体33の一端面に熱電対挿入孔を開け、熱電対63(図7に示す)の先端を熱電対挿入孔から外殻本体33内の水内に挿入し、その後、熱電対挿入孔を、接着剤で塞いだ。
【0042】
このようにして形成した前記過冷度低減装置31を、図7に示すように、容器51内の15%塩化ナトリウム水溶液53中に位置させた。前記容器51内の15%塩化ナトリウム水溶液53の量は100mlである。そして、前記容器51を、冷却槽60のブラインに浸かるようにセットした。前記冷却槽60のブライン及び前記容器51内の15%塩化ナトリウム水溶液53中には熱電対61、62の先端をセットした。
【0043】
前記のようにセットし、前記15%塩化ナトリウム水溶液53の冷却を3回繰り返し、その際におけるブラインの温度、前記15%塩化ナトリウム水溶液53の温度、前記過冷度低減装置31内の水の温度及び冷却時間を測定した。なお、各回の冷却後は、冷却停止によって前記容器51内の15%塩化ナトリウム水溶液53を常温に戻した。
【0044】
図8は1回目の冷却時の温度−時間曲線、図9は2回目の冷却時の温度−時間曲線、図10は3回目の冷却時の温度−時間曲線である。図8〜図10において融点(−10.89℃)は、15%塩化ナトリウム水溶液の理論上の融点(理論上の凝固温度)であり、一方、凝固温度は、容器51内の15%塩化ナトリウム水溶液53が実際に凝固した温度である。なお、容器51内の15%塩化ナトリウム水溶液53が実際に凝固した温度は、図8〜図10に示す冷却時の温度−時間曲線において、15%塩化ナトリウム水溶液53の温度低下が止まった温度とした。
【0045】
容器51内の15%塩化ナトリウム水溶液53が実際に凝固した温度は、1回目の冷却では−12.16℃、2回目の冷却では−12.96℃、3回目の冷却では−13.16℃であり、15%塩化ナトリウム水溶液の融点(理論上の凝固温度)−10.89℃からの過冷度(温度差)は、1回目が1.27℃、2回目が2.09℃、3回目が2.27℃であった。なお、過冷度低減装置31を用いない場合における過冷度を確認するため、図7において、前記容器51内の過冷度低減装置31を除去して冷却を行い、容器51内の15%塩化ナトリウム水溶液53、100mlが実際に凝固した温度を測定した。その結果は−21.1℃で凝固し、過冷度は10.2℃であった。このように、本発明の過冷度低減装置によれば、過冷度低減効果が大きく、しかも繰り返し冷却によっても過冷度の増大を抑えることができる。
【0046】
また、前記15%塩化ナトリウム水溶液53に収容した過冷度低減装置31において、冷却前と1回目の冷却終了時と3回目の冷却終了時に、それぞれ過冷度低減装置31内の水について塩化ナトリウムの濃度を測定した。その結果、冷却前が0.005%、1回目の冷却終了時が0.14%、3回目の冷却終了時が0.25%であり、冷却の繰り返しによっても、過冷度低減装置31内への15%塩化ナトリウム水溶液53(蓄冷剤))の進入を抑えることができる。このことからも、本発明の過冷度低減装置は、継続使用及び繰り返し冷却が可能であることがわかる。
【0047】
なお、前記実施例では、外殻の一部を伸長可能な膜で構成したが、外殻全体を伸長可能な膜で構成してもよい。
【符号の説明】
【0048】
10 蓄冷体
11 蓄冷剤容器
21 蓄冷剤
31 過冷度低減装置
32 外殻
33 外殻本体
34 開口
37 伸長可能な膜
39 切れ込み
42 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄冷剤容器に蓄冷剤と該蓄冷剤の過冷度を低減する過冷度低減装置が収容された蓄冷体において、
前記過冷度低減装置は、少なくとも一部が伸長可能な膜で構成されて前記膜を貫通する切れ込みが形成された外殻内に前記蓄冷剤よりも凝固温度が高い水が充填されており、
前記過冷度低減装置内の水が氷となる際の体積増大により前記伸長可能な膜が伸長して前記切れ込みが拡開し、該拡開した切れ込みを介して前記過冷度低減装置内の氷に前記蓄冷剤を接触させることを特徴とする蓄冷体。
【請求項2】
前記過冷度低減装置の伸長可能な膜に形成された切れ込みは、貫通孔あるいは開口した切れ込みからなり、前記外殻の少なくとも一部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の蓄冷体。
【請求項3】
前記過冷度低減装置の伸長可能な膜に形成された切れ込みは、前記伸長可能な膜を伸長させた状態で形成され、前記伸長可能な膜が伸長状態を解放あるいは緩和された状態では、切れ込みが収縮した状態であることを特徴とする請求項2に記載の蓄冷体
【請求項4】
前記過冷度低減装置の伸長可能な膜に形成された切れ込みは、前記伸長可能な膜を伸長率100〜500%に伸長させた状態で径0.1〜0.5mmの貫通孔が形成されたものであることを特徴とする請求項3に記載の蓄冷体。
【請求項5】
前記伸長可能な膜は、伸長率10〜2000%(JIS K 6251準拠)であるスチレンエラストマーからなることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の蓄冷体。
【請求項6】
前記スチレンエラストマーには、パラフィンが含まれていることを特徴とする請求項5に記載の蓄冷体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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