説明

蓄冷器

【課題】冷媒の流れに伴って蓄冷メッシュ部材が蓄冷室において移動するおそれを抑制させる蓄冷器を提供する。
【解決手段】蓄冷器1は、 蓄冷室20を形成する筒壁21と蓄冷室20に対して冷媒を出し入れさせる冷媒出入孔22,23とを有する蓄冷容器2と、蓄冷容器2の蓄冷室20に冷媒流れ方向において直列に収容された複数個の蓄冷メッシュ部材3とを有する。蓄冷メッシュ部材3は、蓄冷可能な金属で形成された第1線材31と、容器の筒壁21を構成する材料および第1線材31を構成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数をもつ第2線材32とが部分的に互いに接触しつつ絡み合った織物で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷凍装置に使用される蓄冷器に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍装置では、冷熱を蓄積させる蓄冷器が使用されている。蓄冷器は、蓄冷室を形成する筒壁と蓄冷室に対して冷媒を出し入れさせる冷媒出入孔とを有する蓄冷容器と、蓄冷容器の蓄冷室に収容された蓄冷メッシュ部材とを有する。蓄冷メッシュ部材は、蓄冷容器の蓄冷室において、冷媒流れ方向において直列に複数並設された状態で収容されている。このような蓄冷器は極低温発生装置等の冷凍装置に組み込まれており、冷熱を蓄積させる。上記した蓄冷メッシュ部材は、一般的には、蓄冷可能な銅合金またはステンレス鋼等の金属で形成された線材をメッシュ状に編み込むことにより形成されている。
【0003】
ところで、上記した蓄冷器が冷凍装置に組み込まれている状態では、冷凍装置の使用時において、蓄冷器に収容されている蓄冷メッシュ部材が低温域に冷却されるため、蓄冷メッシュ部材がこれの径方向に収縮する。このため冷媒が蓄冷器に流れて蓄冷器が冷却されると、蓄冷メッシュ部材の外縁部と蓄冷容器の筒壁の内周壁面との間に形成される隙間の隙間幅が増加する傾向がある。この場合、冷媒の流れに対して蓄冷器内に収容されている蓄冷メッシュ部材が追従移動するおそれがある。この場合、場合によっては、蓄冷器の熱バランスが変動するおそれがあり、蓄冷器の蓄冷能力および熱交換効率に影響を与えるおそれがある。
【0004】
特許文献1には、極低温冷凍装置に使用する蓄冷器が開示されている。このものによれば、蓄冷器の蓋部、蓄冷器の内部を複数の分割室に仕切る仕切部材は、温度に対して負の熱膨張率をもつ材料で形成されている。特許文献2には、温度が降下するに伴って膨張する性質(温度に対して負の熱膨張率)をもつ材料で形成されたディスプレーサをシリンダのシリンダ室に配置する技術が開示されている。このものによれば、シリンダが冷却されたとしても、ディスプレーサの外径が増加するため、ディスプレーサの外周壁面とシリンダの内周壁面との隙間の隙間幅が減少し、この隙間から冷媒がリークすることが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−286311号公報
【特許文献2】特開2001−56158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1によれば、蓄冷器の蓋部および仕切部材は、温度に対して負の熱膨張率をもつ材料のみで形成されている。特許文献2によれば、温度に対して負の熱膨張率をもつ材料のみでディスプレーサが形成されている。このように特許文献1,2は、異なる線膨張係数をもつ複数の線材を複合化させたものではない。
【0007】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、異なる線膨張係数をもつ第1線材および第2線材を複合化させつつ蓄冷メッシュ部材を作成して蓄冷メッシュ部材の径方向の線膨張係数を調整でき、これにより蓄冷メッシュ部材が冷却されるときであっても、筒壁の内壁面と蓄冷メッシュ部材の外縁部との間に形成される隙間の隙間幅の増加が抑制され、従って、冷媒の流れに伴って蓄冷メッシュ部材が蓄冷室において追従移動するおそれを抑制させる蓄冷器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る蓄冷器は、(i) 蓄冷室を形成する筒壁と蓄冷室に対して冷媒を出し入れさせる冷媒出入孔とを有する蓄冷容器と、(ii)蓄冷容器の蓄冷室に冷媒流れ方向において直列に収容された複数個の蓄冷メッシュ部材とを具備しており、(iii)蓄冷メッシュ部材は、冷媒出入孔に連通すると共に冷媒流体を通過させる細孔を形成するように、蓄冷可能な金属で形成された第1線材と、蓄冷容器の筒壁を構成する材料および第1線材を構成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数をもつ第2線材とが互いに接触しつつ絡み合った織物で形成されている。
【0009】
蓄冷メッシュ部材は、蓄冷可能な金属で形成された第1線材と、容器の筒壁を構成する材料および第1線材を形成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数をもつ第2線材とが互いに接触しつつ絡み合った織物で形成されている。
【0010】
本発明によれば、互いに異なる線膨張係数をもつ第1線材および第2線材の混合割合により、蓄冷メッシュ部材の径方向の線膨張係数が調整される。ここで、織物は織布および不織布を含む。織布は、互いに異なる線膨張係数をもつ第1線材および第2線材を織り込んで形成されている。不織布は、互いに異なる線膨張係数をもつ第1線材および第2線材同士をパンチング処理等で機械的に絡めた構造をもつ。
【0011】
蓄冷器の使用時には、冷却された冷媒が蓄冷器の蓄冷室を冷媒出入孔を介して通過するため、蓄冷メッシュ部材が冷却され、ひいては、蓄冷容器の筒壁の内径が小さなるように筒壁が径方向に熱収縮される。ここで、蓄冷メッシュ部材を構成する第2線材は、容器の筒壁を構成する材料および第1線材を構成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数をもつ。このため蓄冷メッシュ部材が冷却されるとき、第2線材の熱収縮量が抑えられている。このため蓄冷メッシュ部材が冷却されるときであっても、筒壁の内壁面と蓄冷メッシュ部材の外縁部との間に形成される隙間の隙間幅の増加が抑制される。このため蓄冷メッシュ部材が低温に冷却されたとしても、冷媒の流れによって蓄冷メッシュ部材が追従移動するおそれが抑制される。
【0012】
蓄冷メッシュ部材を形成する織物は、蓄冷可能な金属で形成された第1線材と、筒壁を構成する材料および第1線材を構成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数をもつ第2線材とが互いに接触しつつ絡み合って形成されている。このため、蓄冷メッシュ部材が冷却されるとき、蓄冷メッシュ部材において互いに異なる線膨張係数をもつ第1線材および第2線材が互いに干渉して互いに作用することができ、蓄冷メッシュ部材の径方向の線膨張係数が調整される。
【0013】
このため、冷凍装置の使用時において、蓄冷器に収容されている蓄冷メッシュ部材が冷却されて低温化されるとき、筒壁の材料および第1線材の材料の熱膨張係数よりも小さくされている第2線材の熱収縮量が抑えられ、ひいては、蓄冷メッシュ部材の全体の径方向の熱収縮が抑えられる。この結果、冷凍装置の使用時において蓄冷器が冷却されるとき、蓄冷メッシュ部材が第1線材のみで形成されている場合に比較して、蓄冷容器の筒壁の内壁面と蓄冷メッシュ部材の外縁部との間に形成される隙間の隙間幅の増加が抑制される。従って、蓄冷メッシュ部材が冷媒の流れに対して追従移動しにくくなる作用が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、互いに異なる線膨張係数をもつ第1線材および第2線材が部分的に互いに接触しつつ絡み合って蓄冷メッシュ部材が形成されている。このため第1線材および第2線材の混合割合により蓄冷メッシュ部材の径方向の線膨張係数が調整可能である。ここで、第1線材および第2線材が互いに干渉するように蓄冷メッシュ部材は変位することができる。結果として、蓄冷器が使用される低温時において、蓄冷メッシュ部材は、第2線材の動きと第1線材の動きとの双方が重なったように変位する。
【0015】
本発明によれば、冷凍装置が作動するとき、冷媒が蓄冷器に流れて冷却されるため、蓄冷器に収容されている蓄冷メッシュ部材が冷却されて低温化される。このとき、蓄冷メッシュ部材の全体の熱膨張係数が調整されているため、蓄冷容器の筒壁の内壁面と蓄冷メッシュ部材の外縁部との間に形成される隙間の隙間幅の増加が抑制される。このため蓄冷器の筒壁と共に蓄冷メッシュ部材が低温に冷却されたとしても、冷媒の流れによって蓄冷メッシュ部材が追従移動するおそれが抑制される。この場合、蓄冷器の蓄冷機能および熱交換効率を良好に維持させるのに有利となる。従って蓄冷器が冷凍装置に搭載されている場合において、冷凍装置の冷凍性能が良好に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1に係り、蓄冷器の内部構造を示す断面図である。
【図2】実施形態1に係り、蓄冷器の内部構造の要部を示す部分断面図である。
【図3】実施形態1に係り、蓄冷メッシュ部材の主要部の平面図である。
【図4】実施形態1に係り、蓄冷メッシュ部材の主要部の断面図である。
【図5】実施形態2に係り、蓄冷メッシュ部材を構成する第1線材および第2線材の混合割合を変化させた場合における線膨張係数、ステンレス鋼等の線膨張係数を示すグラフである。
【図6】実施形態3に係り、第1線材および第2線材を混合させた1本の混合線材を示す側面図である。
【図7】実施形態4に係り、蓄冷器を搭載する極低温冷凍装置を示す図である。
【図8】実施形態5に係り、蓄冷器を搭載する極低温冷凍装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
蓄冷器は、蓄冷室を形成する筒壁と蓄冷室に対して冷媒を出し入れさせる冷媒出入孔とを有する蓄冷容器と、蓄冷容器の蓄冷室に冷媒流れ方向において直列に収容された複数個の蓄冷メッシュ部材とを有する。蓄冷メッシュ部材は、冷媒出入孔に連通すると共に冷媒流体を通過させる複数の細孔を形成するように、蓄冷可能な金属で形成された第1線材と、容器の筒壁を構成する材料および第1線材を構成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数をもつ第2線材とがメッシュ状に織り込んで形成された織物で形成されている。織物は、縦糸および横糸が1本ごとに交互に浮き沈みしつつ交錯する平織り、組織点が斜めに連続して綾線を表す綾織り、縦糸および横糸が5本以上で交錯点が隣り合わないようにされた朱子織り等を含む。このように織物構造は特に限定されない。
【0018】
第1線材を構成する蓄冷可能な金属としては、筒壁を形成する材料と同一材料または同系材料で形成できる。同系材料とは、最大含有成分が共通する材料を意味する。第1線材を構成する蓄冷可能な金属としては、ステンレス鋼等の合金鋼、炭素鋼、銅、銅合金が例示される。ステンレス鋼としてはオーステナイト系が例示される。第2線材を構成する材料としては、容器の筒壁を構成する材料および第1線材を構成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数をもつ材料とされている。第2線材を構成する材料としては、使用温度領域において温度変化に対して負の線膨張係数を有する材料が例示される。温度変化に対して負の線膨張係数を有する材料は、温度が降下すると膨張する材料を意味する。負の線膨張係数を有する材料としては、例えば、高強度ポリエチレン樹脂(ダイニーマ,登録商標)、パラフェニレンベンゾビスオキサゾール(ザイロン,登録商標)が挙げられる。
【0019】
好ましくは、第2線材の熱伝導度は第1線材の熱伝導度よりも高くすることができる。この場合、蓄冷メッシュ部材の径方向における熱伝導のばらつきが抑制され、蓄冷メッシュ部材の径方向における温度のばらつき低減に貢献できる。
【0020】
上記した蓄冷器は、蓄冷器を搭載する蓄冷型冷凍装置に適用できる。蓄冷型冷凍装置は、例えば、パルス管冷凍装置、スターリング冷凍装置、ギフォードマクマホン冷凍装置等に適用できる。
【0021】
(実施形態1)
図1〜図4は本発明を具体化した実施形態1の概念を示す。図1に示すように、蓄冷器1は、蓄冷室20を形成する筒壁21と蓄冷室20に対して冷媒を出し入れさせる第1冷媒出入孔22および第2冷媒出入孔23とを有する蓄冷容器2と、蓄冷容器2の蓄冷室20において冷媒が流れる方向(矢印A1,A2方向)に沿って直列に積層されて収容された複数個の蓄冷メッシュ部材3とを有する。一般的には蓄冷容器2は、蓄冷性能を確保するため真空断熱室303に収容される。冷媒としては、ヘリウム、フルオロカーボン、炭酸ガス、アルゴン、ネオン、窒素等が例示される。
【0022】
図1に示すように、蓄冷容器2は、蓄冷室20を形成すると共に軸線P1をもつ筒壁21と、筒壁21の軸長方向の両端部を閉鎖する第1閉鎖板24および第2閉鎖板25と、第1閉鎖板24に形成された第1冷媒出入孔22と、第2閉鎖板25に形成された第2冷媒出入孔23とを有する。筒壁21は円筒形状とされているが、場合によっては角筒形状でも良い。蓄冷室20の断面形状は円形や四角形に限らず様々な形状が考えられる。例えば、断面リング形状の筒形状でも良い。また断面形状が軸線P1に沿った方向の途中で変化する2段形状などの多段形状でも良い。
【0023】
筒壁21は軸線P1を1周するように形成されており、ステンレス鋼(SUS304系)で形成されているが、場合によっては他の合金鋼で形成しても良い。ステンレス鋼としてはオーステナイト系(SUS304系、SUS316系)が採用される。オーステナイト系は低温脆化しにくい材料である。この蓄冷器1は、蓄冷型の極低温発生装置等の冷凍装置に適用される。
【0024】
図3は蓄冷メッシュ部材3の一部の平面視を示す。図4は蓄冷メッシュ部材3の一部の断面視を示す。蓄冷メッシュ部材3は、複数の細孔30を形成するように、第1線材31と第2線材32とが互いに曲成されつつ部分的に接触するようにメッシュ状に織り込んで形成された平板状の織物で形成されている。当該織物を打ち抜くことによりあるいは切り取ることにより蓄冷メッシュ部材3を形成できる。筒壁21が円筒形状であれば、筒壁21の横断面形状に対応するように、蓄冷メッシュ部材3は円板状をなす。筒壁21が角筒形状であれば、筒壁21の横断面形状に対応するように、蓄冷メッシュ部材3は角板状をなす。蓄冷メッシュ部材3は、蓄冷容器2の蓄冷室20において冷媒が流れる方向(矢印A1,A2方向)に沿って直列に積層される。蓄冷室20において冷媒が流れる方向は、蓄冷メッシュ部材3の平面に直交する方向に沿った方向である。
【0025】
第1線材31は、蓄冷可能な金属で形成されている。第2線材32を構成する材料は、蓄冷容器2の筒壁21を構成する材料および第1線材31を構成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数(具体的には、負の線膨張係数)をもつ。第2線材32はできるだけ均等間隔で編み込まれていることが好ましい。複数の細孔30は、冷媒出入孔22,23に連通すると共に冷媒を通過させることができる。なお、各第1線材31および各第2線材32の横断面形状は円形状とされているが、これに限らず、楕円形状、長円形状でも良い。
【0026】
図3および図4に示すように、第1線材31および第2線材32は、互いに部分的に交差しつつ接触する接触領域33を介して互いに摩擦接触しつつ、互いにくぐり合うように織り込まれている。接触領域33は、第1線材31および第2線材32が互いに部分的に摩擦接触して係合する交差領域を意味する。接触領域33の周囲には複数の細孔30が存在するため、第1線材31および第2線材32は互いに接触領域33で摩擦接触しつつも、第1線材31および第2線材32のそれぞれの変位性が確保されている。
【0027】
接触領域33において第1線材31および第2線材32が互いに摩擦接触して係合するため、第1線材31および第2線材32が互いに干渉して互いに追従動作が可能となる。ここで、第1線材31は正の線膨張係数を有すると共に、第2線材32は負の線膨張係数を有する。このため、温度降下に伴い、第2線材32自体の長さが膨張するときであっても第1線材31の長さは収縮する。結果として、蓄冷メッシュ部材3は、第2線材32の膨張作用と第1線材31の収縮作用との双方が重なった動作をする。このため第1線材31と第2線材32との混合割合によって、蓄冷メッシュ部材3の径方向の線膨張係数は調整される。
【0028】
本実施形態によれば、第1線材31を構成する蓄冷可能な金属としては、筒壁21を形成する材料と同一材料または同系材料にできる。従って、低温脆化の抑制を考慮して、ステンレス鋼等の合金鋼が採用される。ステンレス鋼としてはオーステナイト系が採用される。具体的には、ステンレス鋼(SUS304,SUS316)が挙げられる。
【0029】
蓄冷メッシュ部材3を形成する第2線材32を構成する材料としては、蓄冷容器2の筒壁21を構成する材料および第1線材31を構成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数をもつ材料とされている。例えば、第2線材32を構成する材料としては、蓄冷器1の使用温度領域(例えば、−250〜50℃)において温度変化に対して負の線膨張係数を有する材料(例えば高分子材料)が挙げられる。負の線膨張係数を有する材料としては、例えば、高強度ポリエチレン樹脂(ダイニーマ,登録商標)、パラフェニレンベンゾビスオキサゾール(ザイロン,登録商標)が挙げられる。高強度ポリエチレン樹脂(ダイニーマ,登録商標)、パラフェニレンベンゾビスオキサゾール(ザイロン,登録商標)の熱伝導度は、第1線材31を形成するオーステナイト系のステンレス鋼等の合金鋼の熱伝導度よりも高く、伝熱性が優れている。
【0030】
なお本実施形態によれば、蓄冷メッシュ部材3のメッシュ数は150〜400が例示される。第1線材31の線径は0.018〜0.06mmが例示され、第2線材32の線径は0.012〜0.1mmが例示される。細孔30の平均サイズは(0.04〜0.12mm)×(0.04〜0.12mm)が例示される。 但しこれに限定されるものではない。
【0031】
さて、蓄冷器1の使用時には、蓄冷器1の蓄冷室20に収容されている蓄冷メッシュ部材3が冷却される。この場合、蓄冷容器2の筒壁21の内径が小さくなるように、筒壁21がこれの径方向(矢印D方向,図2参照)において矢印D1方向(求心方向)に向けて熱収縮される。ここで、蓄冷メッシュ部材3の第2線材32を構成する材料は、蓄冷容器2の筒壁21を構成する材料および第1線材31を構成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数をもつ。具体的には、第2線材32を構成する材料は、負の線膨張係数をもつ。
【0032】
このため使用時において蓄冷メッシュ部材3が冷却されるとき、矢印D方向において、単位長さ当たり、筒壁21の熱収縮量に比較して第2線材32の熱収縮量は抑制される。
【0033】
具体的には、負の線膨張係数をもつ第2線材32だけをみると、第2線材32はこれの長さ方向に膨張する。
【0034】
これに対して、第1線材31の材料は蓄冷器1の筒壁21の材料と同系材料または同一材料であるため、第1線材31の熱収縮量は、基本的には筒壁21の線膨張係数および熱収縮量と大差ない。
【0035】
このような本実施形態によれば、蓄冷メッシュ部材3の織物は、筒壁21を構成する材料と同程度の線膨張係数をもつ第1線材31と、筒壁21を構成する材料および第1線材31を構成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数(負の線膨張係数)をもつ第2線材32とが編み込まれて形成されている。この結果、蓄冷メッシュ部材3の径方向(矢印D方向)の熱収縮量は、矢印D方向において、単位長さあたり、蓄冷器1の筒壁21の熱収縮量に比較して少ない。
【0036】
このため蓄冷器1の使用時において、蓄冷器1内の蓄冷メッシュ部材3が冷却されるとき、筒壁21の内壁面21iと蓄冷メッシュ部材3の外縁部3pとの間に形成される隙間34の隙間幅t1(図2参照)が、蓄冷メッシュ部材3を第1線材31のみで織り込んだ場合に比較して、小さくなるか消失する。このため、蓄冷器1内の蓄冷メッシュ部材3が極低温等の低温に冷却されたとしても、冷媒の流れ(矢印A1,A2方向)によって蓄冷メッシュ部材3が冷媒の流れ方向に追従移動するおそれが抑制される。
【0037】
以上説明したように本実施形態によれば、蓄冷器1に収容されている蓄冷メッシュ部材3が冷却されて低温化されるとき、蓄冷容器2の筒壁21の内壁面21iと蓄冷メッシュ部材3の外縁部3pとの間に形成される隙間34の隙間幅t1が小さくなるかあるいは消失する。このため蓄冷器1の蓄冷室20に収容されている蓄冷メッシュ部材3が低温に冷却されたとしても、ガス状の冷媒の流れ(矢印A1,A2方向)によって蓄冷メッシュ部材3が追従移動するおそれが抑制される。このため蓄冷器1の所望の蓄冷性能および熱交換効率を確保するのに有利となる。
【0038】
更に本実施形態によれば、蓄冷器1の使用温度域において、第2線材32の熱伝導度は、ステンレス鋼等の合金鋼で形成されている第1線材31の熱伝導度よりも高くされている。しかも第2線材32は蓄冷メッシュ部材3の径方向に沿って延設されている。この結果、蓄冷メッシュ部材3の径方向(矢印D方向)における熱伝導のばらつきが抑制され、蓄冷メッシュ部材3の径方向の温度むらの低減に貢献できる。このため蓄冷器1の所望の蓄冷性能および熱交換効率を確保するのに有利となる。
【0039】
また、第1線材31および第2線材32の双方を、高強度ポリエチレン樹脂(ダイニーマ)またはパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(ザイロン)で形成することも考えられる。この場合には、蓄冷メッシュ部材3をこれの径方向において熱膨張させ、隙間34の隙間幅t1(図2参照)を完全に無くすることも期待できる。しかしながらこれらの樹脂材料は蓄冷性が必ずしも充分ではないため、蓄冷メッシュ部材3の蓄冷性能および熱交換効率が低下する不具合があり、好ましくない。この意味で、蓄冷作用に優れた第1線材31と、適度な線膨張係数をもつ第2線材32との双方を織り込んだ織物で、蓄冷メッシュ部材3を形成することが好ましい。
【0040】
ところで、熱伝導性が良い銅合金で第2線材を形成する場合が考えられる。あるいは、熱伝導性が良い銅合金で第1線材および第2線材の双方を形成する場合も考えられる。しかしながら銅合金の引張強度は必ずしも充分ではない。この場合、銅合金で形成された線材の線径が増加するため、1個あたりの細孔30の開口面積が過剰に増加したり、細孔30の総数が過剰に減少したりするおそれがある。この場合、冷媒の通過性が蓄冷器1の径方向(矢印D方向)においてばらつくおそれがある。この点本実施形態によれば、上記した第2線材32を構成する高強度ポリエチレン樹脂(ダイニーマ)、パラフェニレンベンゾビスオキサゾール(ザイロン)は、銅合金等よりも、高い引張強度および高い弾性率を有する。このため、銅合金で第2線材32を形成する場合に比較して、第2線材32の線径を細くできる。この場合、1個当たりの細孔30の開口面積の過剰化を抑えつつ細孔30の総数を増加させることができる。この場合、蓄冷メッシュ部材3の径方向(矢印D方向)における冷媒の流れの均一化に貢献できる。なお、単位面積において、第2線材32の本数/第1線材31の本数)をαとすると、αは例えば10〜0.01の範囲内、10〜0.01の範囲内、1〜0.1の範囲内、0.8〜0.15の範囲内とすることができる。但しこれに限定されるものではない。αはX方向およびY方向(図3参照)において同じ値とされていることが好ましい。場合によっては、X方向のαとY方向のαとは異なる値とされていても良い。
【0041】
(実施形態2)
図5は実施形態2の結果を示す。本実施形態によれば、図3および図4に示す織物で形成された蓄冷メッシュ部材3の基本条件を維持しつつ、第1線材31および第2線材32の混合割合を変えた。第1線材31はオーステナイト系のステンレス鋼(SUS304)で形成した。第2線材32は高強度ポリエチレン樹脂(ダイニーマ)で形成した。第1線材31の線径は0.018mmとし、第2線材32の線径は0.02mmとした。細孔30の平均サイズは0.046×0.044mmとした。蓄冷メッシュ部材3のメッシュ数は400とした。
【0042】
単位面積あたり、試験例1では第1線材31の本数:第2線材32の本数=1:1とした。試験例2では第1線材31の本数:第2線材32の本数=2:1とした。試験例3では第1線材31の本数:第2線材32の本数=5:1とした。試験例4では第1線材31の本数:第2線材32の本数=10:1とした。換言すると、単位面積あたり、(第2線材32の本数/第1線材31の本数)をαとすると、試験例1のαは1であり、試験例2のαは0.5であり、試験例3のαは0.2であり、試験例4のαは0.1である。αはX方向およびY方向(図3参照)において同じ値とされている。
【0043】
試験例1〜4に係る線膨張係数についての計算結果を図5に示す。図5は、参考例1としてステンレス鋼(SUS304)、参考例2としてステンレス鋼(SUS316)、参考例3として高強度ポリエチレン樹脂(ダイニーマ)、参考例4としてパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(ザイロン)についての線膨張係数も示す。図5に示すように、ステンレス鋼(SUS304)の線膨張係数は+17×10−6であった。ステンレス鋼(SUS316)の線膨張係数は+16×10−6であった。高強度ポリエチレン樹脂(ダイニーマ)の線膨張係数は−12×10−6であった。パラフェニレンベンゾビスオキサゾール(ザイロン)の線膨張係数は−6×10−6であった。
【0044】
図5に示すように、試験例1〜試験例4に係る蓄冷メッシュ部材3の線膨張係数は、+(2〜15)×10−6であり、いずれも、ステンレス鋼(SUS304)、ステンレス鋼(SUS316)の線膨張係数よりも小さかった。
【0045】
図5によれば、上記したαが減少するにつれて、負の線膨張係数をもつ第2線材32の割合が減少すると共に、正の線膨張係数をもつ第1線材31の割合が増加するため、蓄冷メッシュ部材3の径方向の線膨張係数は増加する傾向がある。すなわち、αが増加するにつれて、負の線膨張係数をもつ第2線材32の混合割合が増加するため、蓄冷メッシュ部材3の線膨張係数は減少する傾向がある。ここで、隙間幅t1(図2参照)を小さくさせるためには、αが高い方が好ましい。しかしαが過剰に高い場合には、蓄冷メッシュ部材3を蓄冷器1に組付ける条件よっては、筒壁21の内壁面21iと蓄冷メッシュ部材3の外縁部3pとが過剰に摩擦するおそれがないこともない。かかる事情を考慮すると、αとしては、0.15〜0.95の範囲内、0.25〜0.85の範囲内、0.25〜0.75の範囲内が好ましい。
【0046】
(実施形態3)
図6は、蓄冷メッシュ部材3を織り込む混合線材37を示す。混合線材37は、第1線材31と第2線材32とを撚ることにより1本の線材として形成されている。第1線材31は、オーステナイト系のステンレス鋼(SUS304またはSUS316)等の合金鋼で形成されており、高い蓄冷性を有する。第2線材32は、高強度ポリエチレン樹脂(ダイニーマ)またはパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(ザイロン)で形成されており、温度に対して負の線膨張係数を有すると共に、高い引張強度および高い弾性率を有する。混合線材37の線膨張係数は、蓄冷容器2の筒壁21を構成する材料の線膨張係数よりも小さくされている。このような混合線材37は第1線材31および第2線材32の性質を併有することができる。第1線材31および第2線材32の混合割合を変更すれば、混合線材37の線膨張係数等の物理的性質を調整できる。
【0047】
(実施形態4)
図7は本発明をパルス管式の極低温冷却装置に適用した実施形態4を示す。本実施形態によれば、極低温冷却装置は、圧力振動源100側から直列に、圧縮空間101および圧縮ピストン102をもつ圧力振動源100と、連通配管104と、円筒形状をなす蓄冷器1と、冷凍出力取出部として機能する低温側熱交換器105と、空洞状のパルス管107と、位相制御器110とを有する。圧縮された冷媒の摩擦熱を低減させるための放熱器を連通配管104に設けることが好ましい。位相制御器110は、ガス状の冷媒の圧力波形を調整させるためのものであり、直列に、ガス状の冷媒の流量を絞る機能をもつ絞り部111と、タンク室をもつバッファタンク112とを有する。蓄冷器1のうち圧力振動源100側は高温端1Hとされている。蓄冷器1のうち圧力振動源100と反対側は低温端1Lとされている。パルス管107のうちバッファタンク112側は高温端107Hとされている。パルス管107のうち低温側熱交換器105側は低温端107Lとされている。蓄冷器1およびパルス管107は、真空容器300の真空断熱室303内に収容されており、外部から蓄冷器1およびパルス管107への熱侵入は抑えられている。
【0048】
蓄冷器1は実施形態1と同様な構造で構成されている。圧縮ピストン102が圧縮作用して圧縮空間101内のガス状の冷媒が圧縮されると、圧縮空間101内のガス状の冷媒は、連通配管104、蓄冷器1、低温側熱交換器105、パルス管107、絞り部111を経て繰り返してバッファタンク112に移動する。このように圧縮ピストン102が繰り返して往復移動すると、低温側熱交換器105において極低温の冷凍出力が取り出される。蓄冷器1およびパルス管107は真空容器300の真空断熱室303内に収容されており、外部から蓄冷器1およびパルス管107への熱侵入は抑えられている。
【0049】
本実施形態によれば、実施形態1と同様に、蓄冷器1に収容されている蓄冷メッシュ部材3が冷却されて低温化されるとき、図2に示すように、円筒形状をなす蓄冷容器2の筒壁21の内壁面21iと円板形状をなす蓄冷メッシュ部材3の外縁部3pとの間に形成される隙間34の隙間幅t1(図2参照)が小さくなるかあるいは消失する。このため蓄冷機内の蓄冷メッシュ部材3が低温に冷却されたとしても、冷媒の流れによって蓄冷メッシュ部材3が追従移動するおそれが抑制される。このため蓄冷器1の所望の蓄冷性能および熱交換効率を確保するのに有利となる。この場合、極低温冷却装置の冷凍出力を良好に確保できる。
【0050】
本実施形態によれば、実施形態1と同様に、蓄冷器1の使用温度域において、第2線材32の熱伝導度は、ステンレス鋼等の合金鋼で形成されている第1線材31の熱伝導度よりも高くされている。この結果、蓄冷メッシュ部材3の径方向(矢印D方向)における熱伝導のばらつきが抑制され、蓄冷メッシュ部材3の全体の径方向の温度むらの低減に貢献できる。この場合、蓄冷器1における蓄冷作用および熱交換効率の向上に貢献でき、極低温冷却装置の冷凍出力を良好に確保できる。
【0051】
(実施形態5)
図8は、本発明をスターリング冷凍サイクルを実行する極低温冷却装置に適用した実施形態5を示す。本実施形態によれば、極低温冷却装置は、圧力振動源100側から直列に、圧縮空間101および圧縮ピストン102をもつ圧力振動源100と、連通配管104、放熱器113と、円筒形状をなす2段式の蓄冷器1と、低温用の配管114と、膨張空間115および膨張ピストン116を有する膨張シリンダ117とを有する。蓄冷器1および膨張シリンダ117は真空容器300の真空断熱室303内に収容されており、外部から蓄冷器1等への熱侵入は抑えられている。
【0052】
蓄冷器1のうち圧力振動源100側は高温端1Hとされている。蓄冷器1のうち圧力振動源100と反対側は低温端1Lとされている。膨張ピストン116はロッド118を介して図略の駆動源により往復移動される。圧縮ピストン102が圧縮作用して圧縮空間101を圧縮させると、圧縮空間101内のガス状の冷媒が圧縮されつつ、連通配管104を経て放熱器113に至り、放熱器113で放熱され、更に、蓄冷器1、低温側熱交換器105を経て膨張空間115に移動する。なお、圧縮ピストン102の位相は膨張ピストン116の位相よりもほぼ60〜120°遅れる。このように圧縮ピストン102と膨張ピストン116とが位相をずらして往復移動することにより、ガス状の冷媒が往復移動し、膨張空間115で冷凍が発生される。冷凍出力は膨張空間115側の低温側熱交換器105により取り出される。
【0053】
図8に示すように、蓄冷器1の蓄冷容器2は、圧力振動源100側に大径蓄冷室20aを形成する大径筒壁21aと冷媒を出し入れさせる第1冷媒出入孔22とを有すると共に、小径蓄冷室20cを形成する小径筒壁21cと冷媒を出し入れさせる第2冷媒出入孔23とを有する。大径蓄冷室20aには大径の複数個の蓄冷メッシュ部材3aが積層されている。小径蓄冷室20cには小径の複数個の蓄冷メッシュ部材3cが積層されている。蓄冷メッシュ部材3a,3cは共に、第1線材および第2線材をメッシュ状に編み込んで形成されている。
【0054】
(その他)
本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。第2線材32は、蓄冷器1の蓄冷室20の温度領域において温度変化に対して負の線膨張係数を有する材料で形成されているが、これに限らず、温度変化に対して零の線膨張係数を有する材料で形成されていても良い。あるいは正の線膨張係数を有する材料であって筒壁を構成する材料および第1線材を構成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数を有する材料で形成されていても良い。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は蓄冷型の冷凍装置に搭載される蓄冷器に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1は蓄冷器、2は蓄冷容器、20は蓄冷室、21は筒壁、3は蓄冷メッシュ部材、30は細孔、31は第1線材、32は第2線材、33は接触領域、34は隙間、100は圧力振動源、102は圧縮ピストン、105は低温側熱交換器、107はパルス管、110は位相制御器、112はバッファタンクを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄冷室を形成する筒壁と前記蓄冷室に対して冷媒を出し入れさせる冷媒出入孔とを有する蓄冷容器と、前記蓄冷容器の前記蓄冷室に冷媒流れ方向において直列に収容された複数個の蓄冷メッシュ部材とを具備しており、
前記蓄冷メッシュ部材は、前記冷媒出入孔に連通すると共に冷媒を通過させる細孔を形成するように、蓄冷可能な金属で形成された第1線材と、前記蓄冷容器の前記筒壁を構成する材料および第1線材を構成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数をもつ第2線材とが互いに接触しつつ絡み合った織物で形成されている蓄冷器。
【請求項2】
請求項1において、前記第2線材は、前記蓄冷器の前記蓄冷室の温度領域において温度変化に対して負または零の線膨張係数を有する蓄冷器。
【請求項3】
請求項1または2において、前記第2線材の熱伝導度は前記第1線材の熱伝導度よりも高い蓄冷器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−117698(P2011−117698A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277701(P2009−277701)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)