蓄冷材、蓄冷器及び極低温蓄冷式冷凍機
【課題】より環境に優しく、球状化し易く、利用するのに充分な機械的な強度があり、安
価で、冷凍機に利用したときに優れた熱的性質を持つ蓄冷材を提供する。
【解決手段】蓄冷材を、ビスマス単独の粒体であり、粒径が0.14mm以上1.6mm以下の粒体の割合が全粒体に対して70重量%以上であり、且つ、短径に対する長径の比が5以下である粒体の割合が全粒体に対して70重量%以上である粒体から構成する。
価で、冷凍機に利用したときに優れた熱的性質を持つ蓄冷材を提供する。
【解決手段】蓄冷材を、ビスマス単独の粒体であり、粒径が0.14mm以上1.6mm以下の粒体の割合が全粒体に対して70重量%以上であり、且つ、短径に対する長径の比が5以下である粒体の割合が全粒体に対して70重量%以上である粒体から構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄冷材、蓄冷器及び極低温蓄冷式冷凍機に係り、特に、GM(ギフォード・マクマホン)サイクル冷凍機、スターリングサイクル冷凍機、パルス管冷凍機、ビルミエサイクル冷凍機、ソルベーサイクル冷凍機、又は、これを予冷段に使った冷凍システム等に用いるのに好適な、新規な蓄冷材を用いて冷凍能力を向上させた蓄冷材、蓄冷器、極低温蓄冷式冷凍機、及び、これを用いた冷凍システム、超電導磁石、核磁気共鳴イメージング(MRI)装置、クライオポンプ、寒剤精製装置、超電導素子冷却装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、極低温領域で広く使われている冷凍機の一つに、蓄冷式冷凍機がある。これは、蓄冷器と称される蓄熱型の熱交換器を備えている。この蓄冷器は、容器内部に蓄冷材と呼ばれる熱交換材料を内蔵している。
【0003】
蓄冷材としては、対象となる温度で大きな比熱を持つ材料が用いられる。冷凍機は、室温から4Kまでの広い温度が実現されているので、その全領域で、できる限り大きな比熱を持つ材料を選ぶ必要がある。比熱は、材料によって温度依存性が大きく異なっており、1つの材料で全温度領域に対応できるものはない。そのため、温度に応じて最適な材料を組合せて用いられている。通常、室温から50K付近までは金網状の銅やステンレス鋼を用い、それ以下の温度では球状の鉛を用いている。鉛は、50K以下の低い温度領域で、他の材料より高い比熱と、ある程度の構造的強度を持ち、安価でもあることから、広く用いられてきている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、環境に対する影響から、ヨーロッパでは2006年から電気製品への使用を禁止する指令が施行されることが検討されている。電気製品の半田に鉛が使われており、廃棄後、戸外に放置されることで環境が汚染されることへの対策という側面が強い。
【0005】
規制の内容は、一部の軍事用、宇宙用を除く殆どの電気製品から鉛を排除するというものである。規制対象品の中には医療機器も入っており、現時点では、MRI装置の冷凍機に使われている鉛が規制対象になるか否かは明確ではないが、禁止された場合、その影響は大きく、何らかの対応策を確保しておく必要がある。
【0006】
鉛に替わる蓄冷材として、特許文献2に、インジウムとビスマス及び更に第3の材料の合金が挙げられている。インジウムは、50K以下の温度で鉛に次ぐ比熱を持っているので、その特性を活かそうという思想である。
【0007】
【特許文献1】特開平3−99162号公報
【特許文献2】特開2004−225920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、インジウムは大変軟らかい金属であるため、そのままでは蓄冷材として使えず、ビスマスや他の金属との合金にすることで、蓄冷材に求められる硬度まで上げているが、それでも蓄冷材として利用するには不十分である。又、インジウムの価格は鉛の約3倍であり、蓄冷材として使うのには高すぎるという問題がある。
【0009】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、毒性が低く、球状化し易く、利用するのに充分な機械的な強度があり、安価で、冷凍機に利用したときに優れた熱的性質を持つ蓄冷材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ビスマス単独の粒体であり、粒径が0.14mm以上1.6mm以下の粒体の割合が全粒体に対して70重量%以上であり、且つ、短径に対する長径の比が5以下である粒体の割合が全粒体に対して70重量%以上である粒体からなることを特徴とする蓄冷材により、前記課題を解決したものである。
【0011】
又、前記粒体の表面粗さを、最大高さRmax基準で100μm以下としたものである。
【0012】
本発明は、又、ビスマス単独の粒体であり、且つ、粒体の表面粗さが、最大高さRmax基準で100μm以下である粒体からなることを特徴とする蓄冷材により、前記課題を解決したものである。
【0013】
又、前記粒体の組織が、少なくとも一部に非晶質相を含有するようにしたものである。
【0014】
又、前記粒体における、長さ10μm以上の微小欠陥を有する粒子の全粒子に対する割合を30重量%以下としたものである。
【0015】
又、前記粒体の表面が酸化により変色していないようにしたものである。
【0016】
又、前記粒体を、ブロック状、ペレット状、又は、板状に焼結、加工したものである。
【0017】
本発明は、又、前記の蓄冷材を充填したことを特徴とする蓄冷器を提供するものである。
【0018】
又、前記の蓄冷材と、磁性蓄冷材とから構成される2層以上の積層構造としたことを特徴とする蓄冷器を提供するものである。
【0019】
又、前記磁性蓄冷材を、HoCu2、HoCu2とGd2O2S又はGAP(GdAlO3)、Er3Ni又はEr3Co、又は、Er3Ni又はEr3CoとGd2O2S又はGAP(GdAlO3)としたものである。
【0020】
本発明は、又、前記の蓄冷器を具備したことを特徴とする極低温蓄冷式冷凍機を提供するものである。
【0021】
又、前記蓄冷器を最低温冷却段に用いたものである。
【0022】
あるいは、前記蓄冷器を中間冷却段に用い、最終冷却段蓄冷器に4K以下に大きな比熱を持つ別な磁性材を用いたものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、蓄冷材としてビスマス単独を用いているので、環境に与える負荷が比較的低い。又、蓄冷材に要求される条件である、球状化し易い、利用するのに十分な機械的な強度がある、安価で、冷凍機に利用したときに優れた熱的性質を持つ等の、蓄冷材として要求される条件を満足している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
図1には、本発明に係る第1実施形態の蓄冷型極低温冷凍機の概略を模式的に示す。この冷凍機は、本発明を2段式GM冷凍機に適用したものである。
【0026】
本実施形態の冷凍機1は、図示する如く、圧縮機11から高圧の冷媒ガスが高圧ガス配管12と高圧バルブ13を経て供給され、低圧バルブ14と低圧ガス配管15を経て低圧ガスとして回収される。この冷凍機1では、1段シリンダ2と2段シリンダ3に、1段蓄冷器21と2段蓄冷器31がそれぞれ収容され、両蓄冷器21、31が、駆動モータ16によって駆動され、上下方向に往復動作することにより、各冷却器の下端側が冷却される。
【0027】
前記1段蓄冷器21と2段蓄冷器31の中には、それぞれ1段蓄冷材22と2段蓄冷材32が充填されている。1段蓄冷材22は、銅製のメッシュ150の金網を、例えば970枚積層して形成されている。
【0028】
2段蓄冷器(ディスプレーサ)31は、図示する如く、2段蓄冷材32が、体積比でほぼ同量の位置で仕切られた上下2層の積層構造であり、2層目の低温側蓄冷材32Bに顆粒状のHoCu2が充填され、1層目の高温側蓄冷材32Aにバルクを破砕したBi(ビスマス)又は球状のBiが充填されている。
【0029】
本実施形態の冷凍機1の冷却部は、一体的に連続形成された前記1段シリンダ2と2段シリンダ3にそれぞれ収容された1段冷却器21と2段冷却器31とで構成され、1段シリンダの下端(低温端)の1段冷却ステージ23は約40Kまで冷やされ、2段シリンダの下端の2段冷却ステージ33は、例えば7K以下まで冷やされる。又、1段冷却ステージ23と2段冷却ステージ33には電気ヒータ(図示せず)がそれぞれ取り付けられ、その電気入力によって熱負荷が印加され、各ステージの冷凍能力が測定できるようになっている。
【0030】
なお、図1において、24は1段蓄冷器21のガス通路、25は1段シリンダ2との間を気密にするためのシール、26は1段膨張空間、34は2段蓄冷器のガス通路、36は2段膨張空間であり、ディスプレーサのストロークは25mmである。但し、2段蓄冷器31と2段シリンダ3の間のシールは省略してある。
【0031】
本実施例において、高温側の蓄冷材32Aとして充填される顆粒状のビスマスは、例えば純度99.99%とすることができ、その粒径は0.14〜1.6mm、好ましくは0.15〜1.4mm、更に好ましくは0.22〜1.3mmである。
【0032】
ビスマスサイズ(粒径)と4.2Kの冷凍能力の関係の例を図2に示す。
【0033】
粒径が0.14mm未満の場合は、蓄冷器に充填する際の密度が高くなりすぎ、冷却媒体であるHeガスの通過抵抗が急激に増大することになる。又、粒径が1.6mmを超える場合には、粒体と冷却媒体との間の熱交換効率が著しく低下してしまう恐れがある。
【0034】
又、本実施形態のビスマス製蓄冷材の最小径に対する最大径の比(アスペクト比)は、3次元の任意の方向について5以下、好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、更に可能な限り球形に近づけることが好ましい。アスペクト比が5を超える場合には、機械的に変形破壊を起こし易くなると共に、高密度で充填することが困難となるため、冷却効率が低下する。
【0035】
なお、以下に示す本実施形態の冷凍能力1Wの4.2K冷凍機を使用した実験では、ビスマス製蓄冷材は純度99.99%以上、粒径0.3〜0.5mm、アスペクト比5以下の顆粒状のものを使用し、特に断らない限りは、モータ16による運転サイクルは60rpm、ディスプレーサのストロークは30mmである。
【0036】
まず、図3には、本発明が蓄冷材の素材として使用するビスマスの低温域における体積比熱の特性を、他の蓄冷材として利用されている材料と対比させて示す。ビスマスBiは、化粧品の材料にも使われていることから安全性が高く、環境汚染の心配も無いと考えられ、しかも安価である。一般に、蓄冷材としては、目的とする極低温域における体積比熱が大きいことが要求されるが、図3を見る限りビスマスは鉛Pbに及ばない。但し、5K以上の領域では、磁性蓄冷材であるHoCu2とほぼ一致している特徴を有している。図において、GOSはGd2O2Sの略称である。
【実施例1】
【0037】
実施例1で評価した蓄冷材の硬度測定結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
ビッカーズ硬度では、ビスマス球は鉛と同等であるといってよい。表面が黒色のBロットの硬度が、表面が金色のAロットに比べて低いが、表面酸化の影響である可能性がある。又、強度に関しては、圧縮強度を測ったところ、圧縮による変形はビスマスの方が鉛より少なく、材料の割れも観察されなかった。このことから、ビスマスは鉛と同等の強度を有していることが分かった。
【0040】
次に、鉛とビスマスを2段蓄冷器31に充填して冷凍能力を比較した。蓄冷器構成を図4に示す。鉛、ビスマスともに粒径0.4−0.5mmのものを用いた。ビスマスは、表面が酸化していない球状粉から篩い分けをして用いた。鉛とビスマスの充填量が違うが、ここでは充填体積を揃えて実験を行なった。
【0041】
最低温度の回転数依存性を図5に示す。2段温度T2は殆ど差がないが、1段温度T1は全回転数領域でビスマス(△印)を用いた方が鉛(○印)より2K程度低くなっている。
【0042】
1段無負荷時の2段冷凍能力の回転数依存性を図6に示す。試験したどの回転数でもビスマス(△印)の場合の方が鉛(○印)より高い冷凍能力を示している。最高の冷凍能力は48rpmで得られた。60rpmの場合の冷凍能力線図を図7に示す。図5で示したように、1段温度が鉛の場合よりビスマスでは低くなっていた。その結果を反映して、1段に負荷をかけた場合にも、ビスマス(△印)の方が鉛(○印)より低い温度を示していることがわかる。
【0043】
1段に負荷を入れた時の2段冷凍能力の比較を図8に示す。どの1段温度でもビスマス(△印)の方が鉛(○印)より高い冷凍能力を示している。その差は1段温度が高いほど大きく、45K付近では4.2Kの2段冷凍能力に約10%もの大きな違いが見られる。
【0044】
次に、表面状態及び粒径の違いによる冷凍能力の違いを評価した。ビスマス球は大きさ0.1mm刻みで篩い分けした。評価した分類を表2に示す。なお、低温側には、図4(B)と同様に、HoCu2110g+GOS93.7gを充填した。
【0045】
【表2】
【0046】
図9は、ビスマスの条件をパラメータとした2段冷凍能力の1段温度依存性を示している。黒い点がBロットに対応し、白抜き点がAロットに対応する。同ロット内の粒径による違いに比べて、ロット間の違いが大きい。特に1段温度T1が40Kより高い範囲で、ロット間の違いが、より大きくなっていることが分かる。
【0047】
ビスマスの粒径による2段冷凍能力の違いを図10に示す。1段温度T1を25K〜45Kまで、5K刻みで描いてある。黒い点がBロットに対応し、白抜き点がAロットに対応する。ロット間の比較ができるのは粒径が0.4−0.5mmの場合であるが、違いは1段温度が高いほど大きいことが分かる。それに対して同ロット内の粒径による冷凍能力の違いは少ないと見ることができる。
【0048】
1段冷凍能力の場合を図11に示すが、こちらはロット間の違いも実際上無いと見てよい。これは鉛の場合、明らかな粒径依存性が見られたのと対照的である。
【0049】
これらの結果から、評価した範囲ではビスマスの粒径が冷凍能力に与える影響は無いと考えて良い。信頼性等に問題がなければ、使用する粒径範囲が広ければ、購入単価を安くできる。一方、表面の酸化状態が冷凍機性能に影響を与える可能性があり、表面酸化状態による4.2Kにおける冷凍能力の違いを調べた結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
鉛に替わる蓄冷材としてビスマスを評価した結果、4K冷凍機用としてビスマスは鉛より優れた性能を示すことが示された。材料の価格も粒径を広く取れる可能性があることから、鉛より安くすることができる可能性がある。ただ表面が酸化すると性能が下がる可能性がある。
【0052】
実際に利用するには、冷凍能力だけでなく材料強度も重要であるが、硬度試験、圧縮試験でビスマスは鉛以上の硬度、強度があることが示された。以上のことから、ビスマスは鉛の替わりに十分使える可能性がある。
【実施例2】
【0053】
次に、冷凍能力0.5Wの4.2K機による10K以上の温度領域のビスマス特性を評価した。
【0054】
これまで4K領域におけるビスマスの効果に着目した実験結果について記載した。しかし、GM冷凍機の用途として、4K以外にクライオポンプ等10K以上の領域もある。この温度領域で、従来は、全て鉛が蓄冷材として使われている。鉛を全てビスマスに替えると、10K以上の温度領域では冷凍能力が30%以上低下する結果となっていた。従って鉛フリーが不可欠となった場合、冷凍能力不足のため鉛を全てビスマスに置き換えることでは済まない場合も生じてくる。そこでビスマスを利用して、鉛と同等の冷凍能力を達成する方策を見つけるための実験を行なった。
【0055】
方策の一つとして、ビスマスと他の蓄冷材のハイブリット化が考えられる。そこで、これまで試みた蓄冷材の中から、15K前後で優れた比熱特性を持つ材料を選択して評価した。まずは4Kで使われているHoCu2と、15Kに比熱ピークを持つEr0.7Ho0.3Niを評価した。図3に示したように、Er0.7Ho0.3Niは15K付近に大きな比熱ピークを持っている。GOSは、5K付近の比熱ピークとなる温度以上で極端に比熱が低下することから、評価の対象外とした。
【0056】
用いた冷凍機は、冷凍能力0.5Wの4.2K機であり、シリンダ寸法は1段内径52mm、長さ191.5mm、2段内径25mm、長さ165mmである。又、ストローク25mm、充填圧力19kgf/cm2G、ディスプレーサモータ回転数60rpmであった。1段蓄冷器は、150メッシュの銅網を900枚充填している。圧縮機の運転周波数は50Hzであった。
【0057】
本実施例で比較した蓄冷器の構成を図12に、蓄冷器構成の違いによる冷凍能力の違いを図13に示す。
【0058】
2段の最低到達温度は、HoCu2が充填されている場合だけ4K以下であった。最も低い温度は、蓄冷器2の場合の2.78Kであり、全てビスマスからなる蓄冷器3の場合の6.14Kとは大きな差がある。一方、1段は全てビスマスからなる蓄冷器3の場合に最も低い温度が達成された。
【0059】
冷凍能力を比較するため、冷凍能力線図から内挿法により2段温度10K、15K、20Kと1段温度50K、60K、70Kの場合の冷凍能力を求めて比較した。図14が2段能力、図15が1段能力である。
【0060】
図14に示した2段能力は、全てビスマス(蓄冷器3)の場合、鉛(蓄冷器1)に比べて低下するが、ビスマスの低温側1/4をHoCu2(蓄冷器5)又はEr0.7Ho0.3Ni(蓄冷器6)で置き換えることで、ほぼ鉛と同等まで回復することが分かる。
【0061】
一方で、図15に示した1段冷凍能力はビスマスにより向上する。即ち、全てビスマス(蓄冷器3)にした場合、2段温度T2が10K付近の低い温度の場合に1段冷凍能力の値は特に大きい。しかし2段温度が1段冷凍能力に与える効果は大きく、20Kと高くなると1段冷凍能力はハイブリット蓄冷器の場合と同等か、むしろ劣っている。総合的に見ると、鉛に替わる蓄冷機構成としてはビスマスとHoCu2の組み合わせが優れている。
【0062】
以上のように、本実施形態のビスマスからなる蓄冷材は、鉛より環境に優しい点で優れている上に、例えばHoCu2、Gd2O2S等の磁性蓄冷材や更に他の種類の蓄冷材と併用する等の工夫を施すことにより、従来の鉛以上の蓄冷材として活用することが可能となる。
【0063】
又、HoCu2と共に併用する磁性蓄冷材としては、前記Gd2O2Sに限らず、GAP(GdAlO3)や、一般式RxO2S又は(R1−yR’y)xO2S(R、R’は少なくとも一種類の希土類元素、0.1≦x≦9、0≦y≦1)で表わされるものを挙げることができる。この場合、元素R及びR’を、イットリウムY、ランタンLa、セリウムCe、プラセオジムPr、ネオジムNd、プロメチウムPm、サマリウムSm、ユーロピウムEu、ガドリニウムGd、テルビウムTb、ジスプロシウムDy、ホルミウムHo、エルビウムEr、ツリウムTm、又は、イッテルビウムYbとしてもよい。又、Er3Niの代りにEr3Coを用いることもできる。
【0064】
又、以上の実施形態では、蓄冷材がビスマス単独の顆粒状(粉体)からなる場合を示したが、本発明の蓄冷材としては、ビスマス単独に限らず、ビスマスを主成分とする合金であってもよい。合金成分としてはアンチモン(Sb)があり、これを、例えば5〜10%程度まで含有させてもよく、このような合金にすることにより硬度を上げることができるという利点もある。
【0065】
又、ビスマス又はビスマスを主成分とする合金からなる顆粒状の蓄冷材は、溶融金属を回転円板やロール、回転ノズル等を使用し、粒状化と同時に急冷する溶融金属急冷法によって製造してもよく、又、プラズマスプレー法やガスアトマイズ法等任意の製法により製造するようにしてもよい。
【0066】
次に、前記第1実施形態の2段式GM冷凍機を使ったMRI装置である本発明の第2実施形態を図16に示す。
【0067】
本実施形態のMRI装置4では、磁場空間48を作り出すために超電導磁石45が用いられている。該超電導磁石45は、液体ヘリウム44に浸漬され、超電導状態まで冷やされている。液体ヘリウム容器43の外部に熱シールド42があり、更に外側には真空容器41がある。液体ヘリウムは注入口46から注入されるが、液体ヘリウム容器43内部に設けられている凝縮部47によって、気化したヘリウムは再び液に戻され、ヘリウムを長期間無補給で運転が可能である。
【0068】
凝縮部47はGM冷凍機1の2段冷却ステージ33と熱的に結合され、継続的に寒冷が供給される。GM冷凍機1の1段冷却ステージ23により熱シールド42が冷却されている。
【0069】
本実施形態では、GM冷凍機1の冷凍能力が本発明にかかる蓄冷材によって向上されるので、液体ヘリウム44の再凝縮を、より効率的に行なうことができ、ヘリウムの蒸発量がより大きなMRI装置にも対応可能になる。
【0070】
なお、本実施形態では、冷凍機1を液体ヘリウム44の再凝縮に用いていたが、液体ヘリウムを無くし、冷凍機1が直接、超電導磁石45を熱伝導で冷却するように構成することもできる。又、熱シールドを追加し、1段冷却ステージ23と2段冷却ステージ33が、それぞれ別の熱シールドを冷やす、いわゆるシールド冷却型にすることもできる。
【0071】
以上の実施形態においては、本発明がGMサイクル冷凍機に適用されていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、パルス管冷凍機、スターリングサイクル冷凍機、ビルミエサイクル冷凍機、ソルベーサイクル冷凍機等の他の蓄冷型極低温冷凍機にも適用できることは明らかである。
【0072】
又、本発明に係る蓄冷型極低温冷凍機を使ったシステムとしては、前記第2実施形態のMRI装置に限らず、NMR装置、超電導磁石装置、クライオポンプ、ジョセフソン電圧標準装置、寒剤情製装置、超電導素子冷却装置、ヘリウム再凝縮装置等にも、同様に適用できることは明らかである。
【0073】
又、蓄冷材の形状も粒体に限定されず、ブロック状、ペレット状、又は、板状に焼結、加工してから、蓄冷器に充填することもできる。あるいは、蓄冷材を、目開きが0.01mmから1mmになるような網状としたり、目開きが0.01mmから1mmの金属網表面に塗布又はめっきして形成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上説明したとおり、本発明によれば、環境に優しい材料からなる優れた性能を有する極低温蓄冷材を提供することが可能となり、又、該蓄冷材を充填した極低温蓄冷器、更に該蓄冷器を備えた極低温冷凍機を提供することが可能となり、更には該冷凍機を使用する各種システムを提供することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係る第1実施形態の極低温冷凍機の概要を模式的に示す説明図
【図2】ビスマスサイズと4.2Kの冷凍能力の関係の例を示す線図
【図3】蓄冷材を構成する材料の体積比熱を示す線図
【図4】(A)従来の鉛蓄冷器と(B)本発明に係るビスマス蓄冷器の構成を比較して示す2段蓄冷器の要部断面図
【図5】本発明の実施例1における無負荷時の最低温度の回転数依存性を示す線図
【図6】同じく1段無負荷時の2段冷凍能力の回転数依存性を示す線図
【図7】同じく60rpmの場合の冷凍能力線図
【図8】同じく1段に負荷を入れた時の4.2Kにおける2段冷凍能力の1段温度依 存性を示す線図
【図9】同じくビスマスの条件をパラメータとした4.2Kにおける2段冷凍能力の1段温度依存性を示す線図
【図10】同じく4.2Kにおける2段冷凍能力のビスマス粒径依存性を示す線図
【図11】同じく1段冷凍能力のビスマス粒径依存性を示す線図
【図12】実施例2で比較した2段蓄冷器の要部構成を示す断面図
【図13】実施例2における蓄冷器構成の違いによる冷凍能力を比較して示す線図
【図14】同じく2段冷凍能力を比較して示す線図
【図15】同じく1段冷凍能力を比較して示す線図
【図16】本発明の冷凍機をMRI装置に適用した第2実施形態の全体構成を示す概略断面図
【符号の説明】
【0076】
1…冷凍機
2…1段シリンダ
3…2段シリンダ
21…1段蓄冷器
22…1段蓄冷材
23…1段冷却ステージ
31…2段蓄冷器
32…2段蓄冷材
32A…高温側蓄冷材
32B…低温側蓄冷材
33…2段冷却ステージ
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄冷材、蓄冷器及び極低温蓄冷式冷凍機に係り、特に、GM(ギフォード・マクマホン)サイクル冷凍機、スターリングサイクル冷凍機、パルス管冷凍機、ビルミエサイクル冷凍機、ソルベーサイクル冷凍機、又は、これを予冷段に使った冷凍システム等に用いるのに好適な、新規な蓄冷材を用いて冷凍能力を向上させた蓄冷材、蓄冷器、極低温蓄冷式冷凍機、及び、これを用いた冷凍システム、超電導磁石、核磁気共鳴イメージング(MRI)装置、クライオポンプ、寒剤精製装置、超電導素子冷却装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、極低温領域で広く使われている冷凍機の一つに、蓄冷式冷凍機がある。これは、蓄冷器と称される蓄熱型の熱交換器を備えている。この蓄冷器は、容器内部に蓄冷材と呼ばれる熱交換材料を内蔵している。
【0003】
蓄冷材としては、対象となる温度で大きな比熱を持つ材料が用いられる。冷凍機は、室温から4Kまでの広い温度が実現されているので、その全領域で、できる限り大きな比熱を持つ材料を選ぶ必要がある。比熱は、材料によって温度依存性が大きく異なっており、1つの材料で全温度領域に対応できるものはない。そのため、温度に応じて最適な材料を組合せて用いられている。通常、室温から50K付近までは金網状の銅やステンレス鋼を用い、それ以下の温度では球状の鉛を用いている。鉛は、50K以下の低い温度領域で、他の材料より高い比熱と、ある程度の構造的強度を持ち、安価でもあることから、広く用いられてきている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、環境に対する影響から、ヨーロッパでは2006年から電気製品への使用を禁止する指令が施行されることが検討されている。電気製品の半田に鉛が使われており、廃棄後、戸外に放置されることで環境が汚染されることへの対策という側面が強い。
【0005】
規制の内容は、一部の軍事用、宇宙用を除く殆どの電気製品から鉛を排除するというものである。規制対象品の中には医療機器も入っており、現時点では、MRI装置の冷凍機に使われている鉛が規制対象になるか否かは明確ではないが、禁止された場合、その影響は大きく、何らかの対応策を確保しておく必要がある。
【0006】
鉛に替わる蓄冷材として、特許文献2に、インジウムとビスマス及び更に第3の材料の合金が挙げられている。インジウムは、50K以下の温度で鉛に次ぐ比熱を持っているので、その特性を活かそうという思想である。
【0007】
【特許文献1】特開平3−99162号公報
【特許文献2】特開2004−225920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、インジウムは大変軟らかい金属であるため、そのままでは蓄冷材として使えず、ビスマスや他の金属との合金にすることで、蓄冷材に求められる硬度まで上げているが、それでも蓄冷材として利用するには不十分である。又、インジウムの価格は鉛の約3倍であり、蓄冷材として使うのには高すぎるという問題がある。
【0009】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、毒性が低く、球状化し易く、利用するのに充分な機械的な強度があり、安価で、冷凍機に利用したときに優れた熱的性質を持つ蓄冷材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ビスマス単独の粒体であり、粒径が0.14mm以上1.6mm以下の粒体の割合が全粒体に対して70重量%以上であり、且つ、短径に対する長径の比が5以下である粒体の割合が全粒体に対して70重量%以上である粒体からなることを特徴とする蓄冷材により、前記課題を解決したものである。
【0011】
又、前記粒体の表面粗さを、最大高さRmax基準で100μm以下としたものである。
【0012】
本発明は、又、ビスマス単独の粒体であり、且つ、粒体の表面粗さが、最大高さRmax基準で100μm以下である粒体からなることを特徴とする蓄冷材により、前記課題を解決したものである。
【0013】
又、前記粒体の組織が、少なくとも一部に非晶質相を含有するようにしたものである。
【0014】
又、前記粒体における、長さ10μm以上の微小欠陥を有する粒子の全粒子に対する割合を30重量%以下としたものである。
【0015】
又、前記粒体の表面が酸化により変色していないようにしたものである。
【0016】
又、前記粒体を、ブロック状、ペレット状、又は、板状に焼結、加工したものである。
【0017】
本発明は、又、前記の蓄冷材を充填したことを特徴とする蓄冷器を提供するものである。
【0018】
又、前記の蓄冷材と、磁性蓄冷材とから構成される2層以上の積層構造としたことを特徴とする蓄冷器を提供するものである。
【0019】
又、前記磁性蓄冷材を、HoCu2、HoCu2とGd2O2S又はGAP(GdAlO3)、Er3Ni又はEr3Co、又は、Er3Ni又はEr3CoとGd2O2S又はGAP(GdAlO3)としたものである。
【0020】
本発明は、又、前記の蓄冷器を具備したことを特徴とする極低温蓄冷式冷凍機を提供するものである。
【0021】
又、前記蓄冷器を最低温冷却段に用いたものである。
【0022】
あるいは、前記蓄冷器を中間冷却段に用い、最終冷却段蓄冷器に4K以下に大きな比熱を持つ別な磁性材を用いたものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、蓄冷材としてビスマス単独を用いているので、環境に与える負荷が比較的低い。又、蓄冷材に要求される条件である、球状化し易い、利用するのに十分な機械的な強度がある、安価で、冷凍機に利用したときに優れた熱的性質を持つ等の、蓄冷材として要求される条件を満足している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
図1には、本発明に係る第1実施形態の蓄冷型極低温冷凍機の概略を模式的に示す。この冷凍機は、本発明を2段式GM冷凍機に適用したものである。
【0026】
本実施形態の冷凍機1は、図示する如く、圧縮機11から高圧の冷媒ガスが高圧ガス配管12と高圧バルブ13を経て供給され、低圧バルブ14と低圧ガス配管15を経て低圧ガスとして回収される。この冷凍機1では、1段シリンダ2と2段シリンダ3に、1段蓄冷器21と2段蓄冷器31がそれぞれ収容され、両蓄冷器21、31が、駆動モータ16によって駆動され、上下方向に往復動作することにより、各冷却器の下端側が冷却される。
【0027】
前記1段蓄冷器21と2段蓄冷器31の中には、それぞれ1段蓄冷材22と2段蓄冷材32が充填されている。1段蓄冷材22は、銅製のメッシュ150の金網を、例えば970枚積層して形成されている。
【0028】
2段蓄冷器(ディスプレーサ)31は、図示する如く、2段蓄冷材32が、体積比でほぼ同量の位置で仕切られた上下2層の積層構造であり、2層目の低温側蓄冷材32Bに顆粒状のHoCu2が充填され、1層目の高温側蓄冷材32Aにバルクを破砕したBi(ビスマス)又は球状のBiが充填されている。
【0029】
本実施形態の冷凍機1の冷却部は、一体的に連続形成された前記1段シリンダ2と2段シリンダ3にそれぞれ収容された1段冷却器21と2段冷却器31とで構成され、1段シリンダの下端(低温端)の1段冷却ステージ23は約40Kまで冷やされ、2段シリンダの下端の2段冷却ステージ33は、例えば7K以下まで冷やされる。又、1段冷却ステージ23と2段冷却ステージ33には電気ヒータ(図示せず)がそれぞれ取り付けられ、その電気入力によって熱負荷が印加され、各ステージの冷凍能力が測定できるようになっている。
【0030】
なお、図1において、24は1段蓄冷器21のガス通路、25は1段シリンダ2との間を気密にするためのシール、26は1段膨張空間、34は2段蓄冷器のガス通路、36は2段膨張空間であり、ディスプレーサのストロークは25mmである。但し、2段蓄冷器31と2段シリンダ3の間のシールは省略してある。
【0031】
本実施例において、高温側の蓄冷材32Aとして充填される顆粒状のビスマスは、例えば純度99.99%とすることができ、その粒径は0.14〜1.6mm、好ましくは0.15〜1.4mm、更に好ましくは0.22〜1.3mmである。
【0032】
ビスマスサイズ(粒径)と4.2Kの冷凍能力の関係の例を図2に示す。
【0033】
粒径が0.14mm未満の場合は、蓄冷器に充填する際の密度が高くなりすぎ、冷却媒体であるHeガスの通過抵抗が急激に増大することになる。又、粒径が1.6mmを超える場合には、粒体と冷却媒体との間の熱交換効率が著しく低下してしまう恐れがある。
【0034】
又、本実施形態のビスマス製蓄冷材の最小径に対する最大径の比(アスペクト比)は、3次元の任意の方向について5以下、好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、更に可能な限り球形に近づけることが好ましい。アスペクト比が5を超える場合には、機械的に変形破壊を起こし易くなると共に、高密度で充填することが困難となるため、冷却効率が低下する。
【0035】
なお、以下に示す本実施形態の冷凍能力1Wの4.2K冷凍機を使用した実験では、ビスマス製蓄冷材は純度99.99%以上、粒径0.3〜0.5mm、アスペクト比5以下の顆粒状のものを使用し、特に断らない限りは、モータ16による運転サイクルは60rpm、ディスプレーサのストロークは30mmである。
【0036】
まず、図3には、本発明が蓄冷材の素材として使用するビスマスの低温域における体積比熱の特性を、他の蓄冷材として利用されている材料と対比させて示す。ビスマスBiは、化粧品の材料にも使われていることから安全性が高く、環境汚染の心配も無いと考えられ、しかも安価である。一般に、蓄冷材としては、目的とする極低温域における体積比熱が大きいことが要求されるが、図3を見る限りビスマスは鉛Pbに及ばない。但し、5K以上の領域では、磁性蓄冷材であるHoCu2とほぼ一致している特徴を有している。図において、GOSはGd2O2Sの略称である。
【実施例1】
【0037】
実施例1で評価した蓄冷材の硬度測定結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
ビッカーズ硬度では、ビスマス球は鉛と同等であるといってよい。表面が黒色のBロットの硬度が、表面が金色のAロットに比べて低いが、表面酸化の影響である可能性がある。又、強度に関しては、圧縮強度を測ったところ、圧縮による変形はビスマスの方が鉛より少なく、材料の割れも観察されなかった。このことから、ビスマスは鉛と同等の強度を有していることが分かった。
【0040】
次に、鉛とビスマスを2段蓄冷器31に充填して冷凍能力を比較した。蓄冷器構成を図4に示す。鉛、ビスマスともに粒径0.4−0.5mmのものを用いた。ビスマスは、表面が酸化していない球状粉から篩い分けをして用いた。鉛とビスマスの充填量が違うが、ここでは充填体積を揃えて実験を行なった。
【0041】
最低温度の回転数依存性を図5に示す。2段温度T2は殆ど差がないが、1段温度T1は全回転数領域でビスマス(△印)を用いた方が鉛(○印)より2K程度低くなっている。
【0042】
1段無負荷時の2段冷凍能力の回転数依存性を図6に示す。試験したどの回転数でもビスマス(△印)の場合の方が鉛(○印)より高い冷凍能力を示している。最高の冷凍能力は48rpmで得られた。60rpmの場合の冷凍能力線図を図7に示す。図5で示したように、1段温度が鉛の場合よりビスマスでは低くなっていた。その結果を反映して、1段に負荷をかけた場合にも、ビスマス(△印)の方が鉛(○印)より低い温度を示していることがわかる。
【0043】
1段に負荷を入れた時の2段冷凍能力の比較を図8に示す。どの1段温度でもビスマス(△印)の方が鉛(○印)より高い冷凍能力を示している。その差は1段温度が高いほど大きく、45K付近では4.2Kの2段冷凍能力に約10%もの大きな違いが見られる。
【0044】
次に、表面状態及び粒径の違いによる冷凍能力の違いを評価した。ビスマス球は大きさ0.1mm刻みで篩い分けした。評価した分類を表2に示す。なお、低温側には、図4(B)と同様に、HoCu2110g+GOS93.7gを充填した。
【0045】
【表2】
【0046】
図9は、ビスマスの条件をパラメータとした2段冷凍能力の1段温度依存性を示している。黒い点がBロットに対応し、白抜き点がAロットに対応する。同ロット内の粒径による違いに比べて、ロット間の違いが大きい。特に1段温度T1が40Kより高い範囲で、ロット間の違いが、より大きくなっていることが分かる。
【0047】
ビスマスの粒径による2段冷凍能力の違いを図10に示す。1段温度T1を25K〜45Kまで、5K刻みで描いてある。黒い点がBロットに対応し、白抜き点がAロットに対応する。ロット間の比較ができるのは粒径が0.4−0.5mmの場合であるが、違いは1段温度が高いほど大きいことが分かる。それに対して同ロット内の粒径による冷凍能力の違いは少ないと見ることができる。
【0048】
1段冷凍能力の場合を図11に示すが、こちらはロット間の違いも実際上無いと見てよい。これは鉛の場合、明らかな粒径依存性が見られたのと対照的である。
【0049】
これらの結果から、評価した範囲ではビスマスの粒径が冷凍能力に与える影響は無いと考えて良い。信頼性等に問題がなければ、使用する粒径範囲が広ければ、購入単価を安くできる。一方、表面の酸化状態が冷凍機性能に影響を与える可能性があり、表面酸化状態による4.2Kにおける冷凍能力の違いを調べた結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
鉛に替わる蓄冷材としてビスマスを評価した結果、4K冷凍機用としてビスマスは鉛より優れた性能を示すことが示された。材料の価格も粒径を広く取れる可能性があることから、鉛より安くすることができる可能性がある。ただ表面が酸化すると性能が下がる可能性がある。
【0052】
実際に利用するには、冷凍能力だけでなく材料強度も重要であるが、硬度試験、圧縮試験でビスマスは鉛以上の硬度、強度があることが示された。以上のことから、ビスマスは鉛の替わりに十分使える可能性がある。
【実施例2】
【0053】
次に、冷凍能力0.5Wの4.2K機による10K以上の温度領域のビスマス特性を評価した。
【0054】
これまで4K領域におけるビスマスの効果に着目した実験結果について記載した。しかし、GM冷凍機の用途として、4K以外にクライオポンプ等10K以上の領域もある。この温度領域で、従来は、全て鉛が蓄冷材として使われている。鉛を全てビスマスに替えると、10K以上の温度領域では冷凍能力が30%以上低下する結果となっていた。従って鉛フリーが不可欠となった場合、冷凍能力不足のため鉛を全てビスマスに置き換えることでは済まない場合も生じてくる。そこでビスマスを利用して、鉛と同等の冷凍能力を達成する方策を見つけるための実験を行なった。
【0055】
方策の一つとして、ビスマスと他の蓄冷材のハイブリット化が考えられる。そこで、これまで試みた蓄冷材の中から、15K前後で優れた比熱特性を持つ材料を選択して評価した。まずは4Kで使われているHoCu2と、15Kに比熱ピークを持つEr0.7Ho0.3Niを評価した。図3に示したように、Er0.7Ho0.3Niは15K付近に大きな比熱ピークを持っている。GOSは、5K付近の比熱ピークとなる温度以上で極端に比熱が低下することから、評価の対象外とした。
【0056】
用いた冷凍機は、冷凍能力0.5Wの4.2K機であり、シリンダ寸法は1段内径52mm、長さ191.5mm、2段内径25mm、長さ165mmである。又、ストローク25mm、充填圧力19kgf/cm2G、ディスプレーサモータ回転数60rpmであった。1段蓄冷器は、150メッシュの銅網を900枚充填している。圧縮機の運転周波数は50Hzであった。
【0057】
本実施例で比較した蓄冷器の構成を図12に、蓄冷器構成の違いによる冷凍能力の違いを図13に示す。
【0058】
2段の最低到達温度は、HoCu2が充填されている場合だけ4K以下であった。最も低い温度は、蓄冷器2の場合の2.78Kであり、全てビスマスからなる蓄冷器3の場合の6.14Kとは大きな差がある。一方、1段は全てビスマスからなる蓄冷器3の場合に最も低い温度が達成された。
【0059】
冷凍能力を比較するため、冷凍能力線図から内挿法により2段温度10K、15K、20Kと1段温度50K、60K、70Kの場合の冷凍能力を求めて比較した。図14が2段能力、図15が1段能力である。
【0060】
図14に示した2段能力は、全てビスマス(蓄冷器3)の場合、鉛(蓄冷器1)に比べて低下するが、ビスマスの低温側1/4をHoCu2(蓄冷器5)又はEr0.7Ho0.3Ni(蓄冷器6)で置き換えることで、ほぼ鉛と同等まで回復することが分かる。
【0061】
一方で、図15に示した1段冷凍能力はビスマスにより向上する。即ち、全てビスマス(蓄冷器3)にした場合、2段温度T2が10K付近の低い温度の場合に1段冷凍能力の値は特に大きい。しかし2段温度が1段冷凍能力に与える効果は大きく、20Kと高くなると1段冷凍能力はハイブリット蓄冷器の場合と同等か、むしろ劣っている。総合的に見ると、鉛に替わる蓄冷機構成としてはビスマスとHoCu2の組み合わせが優れている。
【0062】
以上のように、本実施形態のビスマスからなる蓄冷材は、鉛より環境に優しい点で優れている上に、例えばHoCu2、Gd2O2S等の磁性蓄冷材や更に他の種類の蓄冷材と併用する等の工夫を施すことにより、従来の鉛以上の蓄冷材として活用することが可能となる。
【0063】
又、HoCu2と共に併用する磁性蓄冷材としては、前記Gd2O2Sに限らず、GAP(GdAlO3)や、一般式RxO2S又は(R1−yR’y)xO2S(R、R’は少なくとも一種類の希土類元素、0.1≦x≦9、0≦y≦1)で表わされるものを挙げることができる。この場合、元素R及びR’を、イットリウムY、ランタンLa、セリウムCe、プラセオジムPr、ネオジムNd、プロメチウムPm、サマリウムSm、ユーロピウムEu、ガドリニウムGd、テルビウムTb、ジスプロシウムDy、ホルミウムHo、エルビウムEr、ツリウムTm、又は、イッテルビウムYbとしてもよい。又、Er3Niの代りにEr3Coを用いることもできる。
【0064】
又、以上の実施形態では、蓄冷材がビスマス単独の顆粒状(粉体)からなる場合を示したが、本発明の蓄冷材としては、ビスマス単独に限らず、ビスマスを主成分とする合金であってもよい。合金成分としてはアンチモン(Sb)があり、これを、例えば5〜10%程度まで含有させてもよく、このような合金にすることにより硬度を上げることができるという利点もある。
【0065】
又、ビスマス又はビスマスを主成分とする合金からなる顆粒状の蓄冷材は、溶融金属を回転円板やロール、回転ノズル等を使用し、粒状化と同時に急冷する溶融金属急冷法によって製造してもよく、又、プラズマスプレー法やガスアトマイズ法等任意の製法により製造するようにしてもよい。
【0066】
次に、前記第1実施形態の2段式GM冷凍機を使ったMRI装置である本発明の第2実施形態を図16に示す。
【0067】
本実施形態のMRI装置4では、磁場空間48を作り出すために超電導磁石45が用いられている。該超電導磁石45は、液体ヘリウム44に浸漬され、超電導状態まで冷やされている。液体ヘリウム容器43の外部に熱シールド42があり、更に外側には真空容器41がある。液体ヘリウムは注入口46から注入されるが、液体ヘリウム容器43内部に設けられている凝縮部47によって、気化したヘリウムは再び液に戻され、ヘリウムを長期間無補給で運転が可能である。
【0068】
凝縮部47はGM冷凍機1の2段冷却ステージ33と熱的に結合され、継続的に寒冷が供給される。GM冷凍機1の1段冷却ステージ23により熱シールド42が冷却されている。
【0069】
本実施形態では、GM冷凍機1の冷凍能力が本発明にかかる蓄冷材によって向上されるので、液体ヘリウム44の再凝縮を、より効率的に行なうことができ、ヘリウムの蒸発量がより大きなMRI装置にも対応可能になる。
【0070】
なお、本実施形態では、冷凍機1を液体ヘリウム44の再凝縮に用いていたが、液体ヘリウムを無くし、冷凍機1が直接、超電導磁石45を熱伝導で冷却するように構成することもできる。又、熱シールドを追加し、1段冷却ステージ23と2段冷却ステージ33が、それぞれ別の熱シールドを冷やす、いわゆるシールド冷却型にすることもできる。
【0071】
以上の実施形態においては、本発明がGMサイクル冷凍機に適用されていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、パルス管冷凍機、スターリングサイクル冷凍機、ビルミエサイクル冷凍機、ソルベーサイクル冷凍機等の他の蓄冷型極低温冷凍機にも適用できることは明らかである。
【0072】
又、本発明に係る蓄冷型極低温冷凍機を使ったシステムとしては、前記第2実施形態のMRI装置に限らず、NMR装置、超電導磁石装置、クライオポンプ、ジョセフソン電圧標準装置、寒剤情製装置、超電導素子冷却装置、ヘリウム再凝縮装置等にも、同様に適用できることは明らかである。
【0073】
又、蓄冷材の形状も粒体に限定されず、ブロック状、ペレット状、又は、板状に焼結、加工してから、蓄冷器に充填することもできる。あるいは、蓄冷材を、目開きが0.01mmから1mmになるような網状としたり、目開きが0.01mmから1mmの金属網表面に塗布又はめっきして形成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上説明したとおり、本発明によれば、環境に優しい材料からなる優れた性能を有する極低温蓄冷材を提供することが可能となり、又、該蓄冷材を充填した極低温蓄冷器、更に該蓄冷器を備えた極低温冷凍機を提供することが可能となり、更には該冷凍機を使用する各種システムを提供することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係る第1実施形態の極低温冷凍機の概要を模式的に示す説明図
【図2】ビスマスサイズと4.2Kの冷凍能力の関係の例を示す線図
【図3】蓄冷材を構成する材料の体積比熱を示す線図
【図4】(A)従来の鉛蓄冷器と(B)本発明に係るビスマス蓄冷器の構成を比較して示す2段蓄冷器の要部断面図
【図5】本発明の実施例1における無負荷時の最低温度の回転数依存性を示す線図
【図6】同じく1段無負荷時の2段冷凍能力の回転数依存性を示す線図
【図7】同じく60rpmの場合の冷凍能力線図
【図8】同じく1段に負荷を入れた時の4.2Kにおける2段冷凍能力の1段温度依 存性を示す線図
【図9】同じくビスマスの条件をパラメータとした4.2Kにおける2段冷凍能力の1段温度依存性を示す線図
【図10】同じく4.2Kにおける2段冷凍能力のビスマス粒径依存性を示す線図
【図11】同じく1段冷凍能力のビスマス粒径依存性を示す線図
【図12】実施例2で比較した2段蓄冷器の要部構成を示す断面図
【図13】実施例2における蓄冷器構成の違いによる冷凍能力を比較して示す線図
【図14】同じく2段冷凍能力を比較して示す線図
【図15】同じく1段冷凍能力を比較して示す線図
【図16】本発明の冷凍機をMRI装置に適用した第2実施形態の全体構成を示す概略断面図
【符号の説明】
【0076】
1…冷凍機
2…1段シリンダ
3…2段シリンダ
21…1段蓄冷器
22…1段蓄冷材
23…1段冷却ステージ
31…2段蓄冷器
32…2段蓄冷材
32A…高温側蓄冷材
32B…低温側蓄冷材
33…2段冷却ステージ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマス単独の粒体であり、粒径が0.14mm以上1.6mm以下の粒体の割合が全粒体に対して70重量%以上であり、且つ、短径に対する長径の比が5以下である粒体の割合が全粒体に対して70重量%以上である粒体からなることを特徴とする蓄冷材。
【請求項2】
前記粒体の表面粗さが、最大高さRmax基準で100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の蓄冷材。
【請求項3】
ビスマス単独の粒体であり、粒径が0.14mm以上1.6mm以下の粒体の割合が全粒体に対して70重量%以上であり、且つ、粒体の表面粗さが、最大高さRmax基準で100μm以下である粒体からなることを特徴とする蓄冷材。
【請求項4】
前記粒体の組織は、少なくとも一部に非晶質相を含有する請求項1乃至3のいずれかに記載の蓄冷材。
【請求項5】
前記粒体における、長さ10μm以上の微小欠陥を有する粒子の全粒子に対する割合が30重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蓄冷材。
【請求項6】
前記粒体の表面が酸化により変色していないことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蓄冷材。
【請求項7】
前記粒体が、ブロック状、ペレット状、又は、板状に焼結、加工されたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の蓄冷材。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の蓄冷材を充填したことを特徴とする蓄冷器。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載の蓄冷材と、磁性蓄冷材とから構成される2層以上の積層構造としたことを特徴とする蓄冷器。
【請求項10】
前記磁性蓄冷材が、HoCu2である請求項9に記載の蓄冷器。
【請求項11】
前記磁性蓄冷材が、HoCu2とGd2O2S又はGAP(GdAlO3)である請求項9に記載の蓄冷器。
【請求項12】
前記磁性蓄冷材が、Er3Ni又はEr3Coである請求項9に記載の蓄冷器。
【請求項13】
前記磁性蓄冷材が、Er3Ni又はEr3CoとGd2O2S又はGAP(GdAlO3)である請求項9に記載の蓄冷器。
【請求項14】
請求項8乃至13のいずれかに記載の蓄冷器を具備したことを特徴とする極低温蓄冷式冷凍機。
【請求項15】
前記蓄冷器を最低温冷却段に用いたことを特徴とする請求項14に記載の極低温蓄冷式冷凍機。
【請求項16】
前記蓄冷器を中間冷却段に用い、最終冷却段蓄冷器に4K以下に大きな比熱を持つ別な磁性材を用いたことを特徴とする請求項14に記載の極低温蓄冷式冷凍機。
【請求項1】
ビスマス単独の粒体であり、粒径が0.14mm以上1.6mm以下の粒体の割合が全粒体に対して70重量%以上であり、且つ、短径に対する長径の比が5以下である粒体の割合が全粒体に対して70重量%以上である粒体からなることを特徴とする蓄冷材。
【請求項2】
前記粒体の表面粗さが、最大高さRmax基準で100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の蓄冷材。
【請求項3】
ビスマス単独の粒体であり、粒径が0.14mm以上1.6mm以下の粒体の割合が全粒体に対して70重量%以上であり、且つ、粒体の表面粗さが、最大高さRmax基準で100μm以下である粒体からなることを特徴とする蓄冷材。
【請求項4】
前記粒体の組織は、少なくとも一部に非晶質相を含有する請求項1乃至3のいずれかに記載の蓄冷材。
【請求項5】
前記粒体における、長さ10μm以上の微小欠陥を有する粒子の全粒子に対する割合が30重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蓄冷材。
【請求項6】
前記粒体の表面が酸化により変色していないことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蓄冷材。
【請求項7】
前記粒体が、ブロック状、ペレット状、又は、板状に焼結、加工されたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の蓄冷材。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の蓄冷材を充填したことを特徴とする蓄冷器。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載の蓄冷材と、磁性蓄冷材とから構成される2層以上の積層構造としたことを特徴とする蓄冷器。
【請求項10】
前記磁性蓄冷材が、HoCu2である請求項9に記載の蓄冷器。
【請求項11】
前記磁性蓄冷材が、HoCu2とGd2O2S又はGAP(GdAlO3)である請求項9に記載の蓄冷器。
【請求項12】
前記磁性蓄冷材が、Er3Ni又はEr3Coである請求項9に記載の蓄冷器。
【請求項13】
前記磁性蓄冷材が、Er3Ni又はEr3CoとGd2O2S又はGAP(GdAlO3)である請求項9に記載の蓄冷器。
【請求項14】
請求項8乃至13のいずれかに記載の蓄冷器を具備したことを特徴とする極低温蓄冷式冷凍機。
【請求項15】
前記蓄冷器を最低温冷却段に用いたことを特徴とする請求項14に記載の極低温蓄冷式冷凍機。
【請求項16】
前記蓄冷器を中間冷却段に用い、最終冷却段蓄冷器に4K以下に大きな比熱を持つ別な磁性材を用いたことを特徴とする請求項14に記載の極低温蓄冷式冷凍機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−137632(P2011−137632A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87213(P2011−87213)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【分割の表示】特願2005−59648(P2005−59648)の分割
【原出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【分割の表示】特願2005−59648(P2005−59648)の分割
【原出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
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