説明

蓄冷機能付きエバポレータ

【課題】周囲の温度が通常の使用環境温度範囲よりも高温になった際の蓄冷材容器の破裂を防止しうる蓄冷機能付きエバポレータを提供する。
【解決手段】蓄冷機能付きエバポレータは、上下方向にのびる複数の冷媒流通管と、上下方向にのびるとともに内部に蓄冷材が封入された複数の蓄冷材容器16とを備えている。蓄冷材容器16に、内圧の異常上昇時に蓄冷材を流出させる流出口23を設け、流出口23を栓部材24により閉鎖する。栓部材24は、ゴム状弾性を有する耐熱材料からなり、かつ流出口23内に嵌められて流出口23の内周面に接触するシール部材33と、通常の使用環境温度範囲よりも高温になった際に軟化または溶融する材料からなり、かつシール部材33を流出口23の内周面側に押し付けてシール部材33につぶし代を付与する押圧部材34とよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両のカーエアコンに用いられる蓄冷機能付きエバポレータに関する。
【0002】
この明細書および特許請求の範囲において、図1の上下を上下というものとする。
【背景技術】
【0003】
近年、環境保護や自動車の燃費向上などを目的として、信号待ちなどの停車時にエンジンを自動的に停止させる自動車が提案されている。
【0004】
しかしながら、通常のカーエアコンにおいては、エンジンを停止させると、エンジンを駆動源とする圧縮機が停止するので、エバポレータに冷媒が供給されなくなり、冷房能力が急激に低下するという問題がある。
【0005】
そこで、このような問題を解決するために、エバポレータに蓄冷機能を付与し、エンジンが停止して圧縮機が停止した際に、エバポレータに蓄えられた冷熱を放冷して車室内を冷却することが考えられている。
【0006】
この種の蓄冷機能付きエバポレータとして、上下方向に間隔をおいて配置された1対のタンクと、両タンク間に、幅方向を通風方向に向けるとともにタンクの長さ方向に間隔をおいて配置され、かつ両端部がそれぞれ両タンクに通じさせられた複数の扁平状冷媒流通管と、上下方向にのびるとともに冷媒流通管に熱的に接触させられた複数の蓄冷材容器とを備えており、各蓄冷材容器が、1つの密閉された空間を有するとともに、当該空間内に潜熱蓄冷材が封入されており、蓄冷材容器内の蓄冷材が、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱により冷却されるようになされている蓄冷機能付きエバポレータが提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1記載の蓄冷機能付きエバポレータによれば、圧縮機が作動している通常の冷房時には、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱が、蓄冷材容器内の蓄冷材に伝わって蓄冷材に蓄えられ、圧縮機が停止した際には、蓄冷材容器内の蓄冷材に蓄えられた冷熱が、蓄冷材容器が熱的に接触させられた冷媒流通管を通って通風間隙に配置されたフィンに伝えられ、フィンから当該通風間隙を流れる空気に放冷されるようになっている。
【0008】
ところで、この種の蓄冷機能付きエバポレータの蓄冷材容器内に封入される蓄冷材としては、融点が5〜10℃に調整されたパラフィン系の潜熱蓄熱材を用いるのが一般的である。たとえば特許文献1に記載された蓄冷機能付きエバポレータにおいても、蓄冷材容器内に封入される蓄冷材としては、融点が6℃であるテトラデカンが用いられている。
【0009】
また、蓄冷材容器の強度は、通常の使用環境温度範囲、たとえば−40〜90℃の範囲内においては、液相状態の蓄冷材が密度変化するとともに、蓄冷材容器内に残存している空気が熱膨張することにより内圧が上昇したとしても、破損しないような強度に設計されている。しかしながら、車両火災などにより周囲の温度が通常の使用環境温度範囲よりも高温になると、液相状態の蓄冷材の密度変化、および蓄冷材容器内に残存している空気の熱膨張が著しくなり、内圧が異常に上昇して蓄冷材容器が破裂するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4043776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明の目的は、上記問題を解決し、周囲の温度が通常の使用環境温度範囲よりも高温になった際の蓄冷材容器の破裂を防止しうる蓄冷機能付きエバポレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0013】
1)上下方向にのびる複数の冷媒流通管と、上下方向にのびるとともに内部に蓄冷材が封入された複数の蓄冷材容器とを備えており、蓄冷材容器内の蓄冷材が、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱により冷却されるようになされている蓄冷機能付きエバポレータにおいて、
蓄冷材容器に、内圧の異常上昇時に蓄冷材を流出させる流出口が設けられるとともに、流出口が栓部材により閉鎖されており、栓部材が、ゴム状弾性を有する耐熱材料からなり、かつ流出口内に嵌められて流出口の内周面に接触するシール部材と、通常の使用環境温度範囲よりも高温になった際に軟化または溶融する材料からなり、かつシール部材を流出口の内周面側に押し付けてシール部材につぶし代を付与する押圧部材とよりなる蓄冷機能付きエバポレータ。
【0014】
2)蓄冷材容器が金属製であり、栓部材の押圧部材が、蓄冷材容器に熱的に接触させられている上記1)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0015】
3)栓部材のシール部材に、シール部材における蓄冷材容器外方を向いた端面から他端面に向かってのびる円筒状の穴が形成され、穴内に押圧部材が圧入され、シール部材における穴の周囲の部分が押圧部材により流出口の内周面側に押し付けられてシール部材につぶし代が付与されている上記1)または2)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0016】
4)栓部材のシール部材が断面円形のリング状であり、シール部材に押圧部材が貫通状に圧入され、リング状シール部材が押圧部材により流出口の内周面側に押し付けられてシール部材につぶし代が付与されているている上記1)または2)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0017】
5)金属製蓄冷材容器に貫通穴が形成されるとともに、貫通穴内に金属製の円筒状部材が嵌め入れられて蓄冷材容器に固定されることにより流出口が設けられ、円筒状部材に、栓部材の押圧部材を外側から押さえて抜けを防止する押さえ部が設けられ、押さえ部が、蓄冷材容器から押圧部材に熱を伝える伝熱部を兼ねている上記3)または4)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0018】
6)栓部材の押圧部材の外端部にフランジ部が設けられ、フランジ部が円筒状部材の押さえ部により外側から押さえられている上記5)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0019】
7)栓部材の押圧部材が、100℃以上で溶融または軟化変形する材料で形成されている上記1)〜6)のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0020】
8)栓部材のシール部材の最高使用温度が200℃以上である上記1)〜7)のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【発明の効果】
【0021】
上記1)〜8)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、蓄冷材容器に、内圧の異常上昇時に蓄冷材を流出させる流出口が設けられるとともに、流出口が栓部材により閉鎖されており、栓部材が、ゴム状弾性を有する耐熱材料からなり、かつ流出口内に嵌められて流出口の内周面に接触するシール部材と、通常の使用環境温度範囲よりも高温になった際に軟化または溶融する材料からなり、かつシール部材を流出口の内周面側に押し付けてシール部材につぶし代を付与する押圧部材とよりなるので、たとえば車両火災などにより通常の使用環境温度範囲よりも高温、たとえば100℃以上の温度にさらされた場合には、押圧部材が軟化または溶融し、シール部材を流出口の内周面に押し付ける力が低減される。したがって、シール部材のつぶし代が減少して流出口が開放されることになり、蓄冷材容器内の蓄冷材および残存空気が流出口から流出して内圧が低減されて、蓄冷材容器の破裂が防止される。なお、蓄冷材封入部の強度は、通常の使用環境温度範囲、たとえば−40〜90℃の範囲内においては、液相状態の蓄冷材が密度変化するとともに、蓄冷材封入部内に残存している空気が熱膨張することにより内圧が上昇したとしても、破損しないような強度に設計されている。
【0022】
上記2)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、蓄冷材容器が金属製であり、栓部材の押圧部材が、蓄冷材容器に熱的に接触させられているので、通常の使用環境温度範囲よりも高温、たとえば100℃以上の温度にさらされた場合であっても、押圧部材の温度が蓄冷材容器の温度上昇に追随して上昇し、蓄冷材容器内の蓄冷材および残存空気が遅滞なく流出口から流出する。したがって、蓄冷材が流出口から流出する前に、蓄冷材容器の内圧が異常に上昇することが防止され、蓄冷材容器の破裂が確実に防止される。蓄冷材容器が金属製であり、押圧部材と蓄冷材容器が熱的に接触させられていないと、蓄冷材容器の温度が上昇したとしても押圧部材の温度上昇が遅れ、その結果蓄冷材容器内の蓄冷材および残存空気の流出口からの流出が遅れて、蓄冷材容器の内圧が以上に上昇するおそれがある。
【0023】
上記3)および4)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、栓部材の構成が比較的簡単になる。
【0024】
上記5)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、金属製蓄冷材容器に貫通穴が形成されるとともに、貫通穴内に金属製の円筒状部材が嵌め入れられて蓄冷材容器に固定されることにより流出口が設けられ、円筒状部材に、栓部材の押圧部材を外側から押さえて抜けを防止する押さえ部が設けられているので、通常の使用環境温度範囲内での蓄冷材の洩れを確実に防止することができる。また、押さえ部が、蓄冷材容器から押圧部材に熱を伝える伝熱部を兼ねているので、通常の使用環境温度範囲よりも高温、たとえば100℃以上の温度にさらされた場合であっても、押圧部材の温度が蓄冷材容器の温度上昇に追随して上昇し、蓄冷材容器内の蓄冷材および残存空気が遅滞なく流出口から流出する。したがって、蓄冷材が流出口から流出する前に、蓄冷材容器の内圧が異常に上昇することが防止され、蓄冷材容器の破裂が確実に防止される。しかも、押さえ部および伝熱部を別個に用意する必要がなく、部品点数が少なくなる。
【0025】
上記6)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、押さえ部により押圧部材を確実に押さえることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の蓄冷機能付きエバポレータの全体構成を示す一部切り欠き斜視図である。
【図2】図1のA−A線拡大断面図である。
【図3】図1の蓄冷機能付きエバポレータの蓄冷材容器の一部分を拡大して示す斜視図である。
【図4】図3のB−B線拡大断面図である。
【図5】蓄冷材容器の流出口に栓部材を装着する方法を示す分解斜視図である。
【図6】蓄冷材容器の流出口に栓部材を装着する方法を示す垂直断面図である。
【図7】周囲の温度が通常の使用環境温度範囲よりも高温になった場合の栓部材の状態を示す垂直断面図である。
【図8】蓄冷材容器の流出口および栓部材の変形例を示す図4相当の図である。
【図9】図8の蓄冷材容器の流出口に栓部材を装着する方法を示す図6相当の図である。
【図10】図8の流出口および栓部材を有する蓄冷機能付きエバポレータにおいて、周囲の温度が通常の使用環境温度範囲よりも高温になった場合の栓部材の状態を示す図7相当の図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0028】
以下の説明において、通風方向下流側(図1および図2に矢印Xで示す方向)を前、これと反対側を後というものとする。また、前方から後方を見た際の左右、すなわち図1の左右を左右というものとする。
【0029】
さらに、以下の説明において、「アルミニウム」という用語には、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。
【0030】
図1はこの発明による蓄冷機能付きエバポレータの全体構成を示し、図2〜図4はその要部の構成を示す。
【0031】
図1において、蓄冷機能付きエバポレータ(1)は、上下方向に間隔をおいて配置された左右方向にのびるアルミニウム製第1ヘッダタンク(2)およびアルミニウム製第2ヘッダタンク(3)と、両ヘッダタンク(2)(3)間に設けられた熱交換コア部(4)とを備えている。
【0032】
第1ヘッダタンク(2)は、前側(通風方向下流側)に位置する冷媒入口ヘッダ部(5)と、後側(通風方向上流側)に位置しかつ冷媒入口ヘッダ部(5)に一体化された冷媒出口ヘッダ部(6)とを備えている。冷媒入口ヘッダ部(5)の右端部に冷媒入口(7)が設けられ、冷媒出口ヘッダ部(6)の右端部に冷媒出口(8)が設けられている。第2ヘッダタンク(3)は、前側に位置する第1中間ヘッダ部(9)と、後側に位置しかつ第1中間ヘッダ部(9)に一体化された第2中間ヘッダ部(11)とを備えている。第2ヘッダタンク(3)の第1中間ヘッダ部(9)内と第2中間ヘッダ部(11)内とは、両中間ヘッダ部(9)(11)の右端部に跨って接合され、かつ内部が通路となった連通部材(12)を介して通じさせられている。
【0033】
図1および図2に示すように、熱交換コア部(4)には、上下方向にのびるとともに幅方向が通風方向(前後方向)を向いた複数のアルミニウム押出形材製扁平状冷媒流通管(13)が、左右方向に間隔をおいて並列状に配置されている。ここでは、前後方向に間隔をおいて配置された2つの冷媒流通管(13)からなる複数の組(14)が左右方向に間隔をおいて配置されており、前後の冷媒流通管(13)よりなる組(14)の隣り合うものどうしの間に通風間隙(15)が形成されている。前側の冷媒流通管(13)の上端部は冷媒入口ヘッダ部(5)に接続されるとともに、同下端部は第1中間ヘッダ部(9)に接続されている。また、後側の冷媒流通管(13)の上端部は冷媒出口ヘッダ部(6)に接続されるとともに、同下端部は第2中間ヘッダ部(11)に接続されている。
【0034】
熱交換コア部(4)における全通風間隙(15)のうち一部の複数の通風間隙(15)でかつ隣接していない通風間隙(15)において、蓄冷材(図示略)が封入されたアルミニウム製蓄冷材容器(16)が、前後両冷媒流通管(13)に跨るように配置されている。また、残りの通風間隙(15)に、両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートからなるコルゲート状のアウターフィン(17)が、前後両冷媒流通管(13)に跨るように配置されて通風間隙(15)を形成する左右両側の組(14)を構成する前後両冷媒流通管(13)にろう付されている。すなわち、蓄冷材容器(16)が配置された通風間隙(15)の両側の通風間隙(15)にそれぞれアウターフィン(17)が配置されている。また、左右両端の冷媒流通管(13)の組(14)の外側にも両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートからなるアウターフィン(17)が配置されて前後両冷媒流通管(13)にろう付され、さらに左右両端のアウターフィン(17)の外側にアルミニウム製サイドプレート(18)が配置されてアウターフィン(17)にろう付されている。
【0035】
蓄冷材容器(16)は幅方向を前後方向に向けた扁平状であり、前側冷媒流通管(13)の前側縁よりも後方に位置し、かつ各組(14)の前後2つの冷媒流通管(13)にろう付された容器本体部(21)と、容器本体部(21)の前側縁部(風下側縁部)に連なるとともに前側冷媒流通管(13)の前側縁よりも前方(通風方向外側)に張り出すように設けられた外方張り出し部(22)とを備えている。蓄冷材容器(16)の容器本体部(21)の左右方向の寸法は全体に等しくなっている。蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(22)は、上下方向の寸法が容器本体部(21)の上下方向の寸法と等しく、かつ左右方向の寸法が容器本体部(21)の左右方向の寸法よりも大きくなっており、容器本体部(21)に対して左右方向外方に膨出している。外方張り出し部(22)の左右方向の寸法は、冷媒流通管(13)の左右方向の寸法である管高さの2倍に、蓄冷材容器(16)の容器本体部(21)の左右方向の寸法を加えた高さと等しくなっている。蓄冷材容器(16)内へ充填される蓄冷材としては、凝固点が5〜10℃程度に調整されたパラフィン系潜熱蓄冷材が用いられる。具体的には、ペンタデカン、テトラデカンなどが用いられる。蓄冷材は、蓄冷材容器(16)の上端近傍まで存在するように蓄冷材容器(16)内に封入されている。なお、蓄冷材容器(16)の強度は、通常の使用環境温度範囲、たとえば−40〜90℃の範囲内においては、液相状態の蓄冷材が密度変化するとともに、蓄冷材容器(16)内に残存している空気が熱膨張することにより内圧が上昇したとしても、破損しないような強度に設計されている。
【0036】
図3および図4に示すように、蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(22)の上端に、上方に開口しかつ内圧の異常上昇時に蓄冷材を流出させる流出口(23)が設けられており、流出口(23)が栓部材(24)により閉鎖されている。
【0037】
流出口(23)は、蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(22)の上端に貫通穴(25)が形成されるとともに、貫通穴(25)内にアルミニウム製の段付き円筒状部材(26)が嵌め入れられてろう付などによって固定されることにより設けられている。外方張り出し部(22)の上壁部分における貫通穴(25)の周囲には、上方突出状の筒状フランジ部(27)が一体に形成されている。段付き円筒状部材(26)は、小径部(28)と、小径部(28)の上側にテーパ部(30)を介して一体に形成されかつ蓄冷材容器(16)の外側に突出した大径部(29)とよりなる。小径部(28)は、上端は筒状フランジ部(27)の上端とほぼ同一高さ位置あるとともに、下端部が外方張り出し部(22)内に突出するように筒状フランジ(27)内に通され、この状態で筒状フランジ部(27)にろう付されている。大径部(29)には、周方向にのびる1対の水平状スリット(31)が対向するように形成されており、大径部(29)におけるスリット(31)よりも上方の部分を径方向内方に円弧状に変形させることによって、栓部材(24)を外側から押さえる押さえ部(32)が設けられている。
【0038】
栓部材(24)は、ゴム状弾性を有する耐熱材料からなり、かつ流出口(23)の内周面、ここでは段付き円筒状部材(26)の小径部(28)の内周面に接触するシール部材(33)と、通常の使用環境温度範囲では剛性を有する固体であるとともに、通常の使用環境温度範囲よりも高温になった際に軟化または溶融する材料からなり、かつシール部材(33)を流出口(23)(小径部(28))の内周面側に押し付けてシール部材(33)につぶし代を付与する押圧部材(34)とよりなる。シール部材(33)は、熱硬化性エラストマや、熱可塑性エラストマのうちの最高使用温度が200℃以上である材料、たとえばフッ素ゴム、シリコーンゴムなどにより形成されている。また、押圧部材(34)は、100℃以上で溶融または軟化変形する材料、たとえばSn:40質量%、Bi:56質量%およびZn:4質量%よりなり、溶融点が130℃である低融点合金により形成されている。
【0039】
シール部材(33)は、流出口(23)の段付き円筒状部材(26)の小径部(28)内に嵌め入れられた円柱部(33a)と、円柱部(33a)の上端に一体に形成されかつ径方向外方に広がるとともに下面が段付き円筒状部材(26)のテーパ部(30)に密着するテーパ面となった拡径部(33b)とよりなる。シール部材(33)には、外方を向いた端面、ここでは上端面から他端面に向かってのびる円筒状の有底穴(35)が形成されている。押圧部材(34)は、外周面が円筒状であるとともに、シール部材(33)の穴(35)内に圧入されるピン状であり、シール部材(33)の円柱部(33a)における有底穴(35)の周りの部分を流出口(23)の内周面側(段付き円筒状部材(26)の小径部(28)の内周面側)に押し付けて圧縮し、シール部材(33)の円柱部(33a)における有底穴(35)の周りの部分につぶし代を付与する。押圧部材(34)の上端にはシール部材(33)の上端面を覆うフランジ部(34a)が一体に形成されている。なお、シール部材(33)には、有底穴(35)に代えて貫通穴が形成されていてもよい。
【0040】
ここで、栓部材(24)を流出口(23)に嵌め入れる方法について、図5および図6を参照して説明する。
【0041】
予め、蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(22)に貫通穴(25)および筒状フランジ部(27)を設けておくとともに、貫通穴(25)および筒状フランジ部(27)内に段付き円筒状部材(26)を嵌め入れてろう付することにより、流出口(23)を設けておく。この状態では、段付き円筒状部材(26)の大径部(29)には1対のスリット(31)は形成されているが、スリット(31)よりも上側の部分は変形させられておらず、押さえ部(32)は設けられていない。
【0042】
ついで、シール部材(33)を流出口(23)内に挿入する。この段階では、シール部材(33)の円柱部(33a)の外周面と段付き円筒状部材(26)の小径部(28)の内周面とは接触しているものの円柱部(33a)の外周面は小径部(28)の内周面側に押し付けられていない。なお、シール部材(33)を流出口(23)内に挿入した段階で、シール部材(33)の円柱部(33a)の外周面と段付き円筒状部材(26)の小径部(28)の内周面との間には小さな隙間が存在していてもよい。また、この段階では、シール部材(33)の拡径部(33b)は段付き円筒状部材(26)のテーパ部(30)上に載っているだけである。さらに、この段階では、押圧部材(34)の有底穴(35)の内径は押圧部材(34)の外径よりも小さい(図5および図6参照)。
【0043】
ついで、押圧部材(34)をシール部材(33)の有底穴(35)内に圧入し、有底穴(35)内に圧入された押圧部材(34)によって、シール部材(33)の円柱部(33a)における有底穴(35)の周りの部分を流出口(23)の内周面(段付き円筒状部材(26)の小径部(28)の内周面)側に押し付ける。こうして、シール部材(33)の円柱部(33a)における有底穴(35)の周りの部分につぶし代が付与され、流出口(23)が密封される。その後、段付き円筒状部材(26)の大径部(29)における各スリット(31)よりも上側の部分を径方向内方に円弧状に変形させて押さえ部(32)を設け、押さえ部(32)により押圧部材(34)のフランジ部(34a)を上側から押さえる。こうして、栓部材(24)が流出口(23)に嵌め入れられている。ここで、押さえ部(32)は、蓄冷材容器(16)と押圧部材(34)とを熱的に接触させる伝熱部を兼ねている。
【0044】
蓄冷材容器(16)内には、容器本体部(21)の後端部から外方張り出し部(22)の前端部に至るアルミニウム製インナーフィン(36)が、上下方向のほぼ全体にわたって配置されている。インナーフィン(36)は、前後方向にのびる波頂部、前後方向にのびる波底部、および波頂部と波底部とを連結する連結部よりなるコルゲート状である。インナーフィン(36)のフィン高さは全体に等しく、蓄冷材容器(16)の容器本体部(21)の左右両側壁内面にろう付されている。
【0045】
蓄冷材容器(16)は、両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートにプレス加工が施されて容器本体部(21)および外方張り出し部(22)を形成する膨出部(21a)(22a)が形成され、かつ周縁部どうしが互いにろう付された2枚の略縦長方形状アルミニウム板(37)よりなる。流出口(23)の貫通穴(25)および筒状フランジ部(27)は、2枚のアルミニウム板(37)に跨って設けられている。そして、2枚のアルミニウム板(37)を、インナーフィン(36)を間に挟んで膨出部(21a)(22a)の開口どうしが対向するように組み合わせ、この状態で両アルミニウム板(37)の周縁部どうしおよび両アルミニウム板(37)とインナーフィン(36)とをろう付することによって蓄冷材容器(16)が形成されている。
【0046】
アウターフィン(17)は、前後方向にのびる波頂部、前後方向にのびる波底部、および波頂部と波底部とを連結する連結部よりなるコルゲート状である。アウターフィン(17)は、前側冷媒流通管(13)の前側縁よりも後方に位置し、かつ各組(14)の前後の冷媒流通管(13)にろう付されたフィン本体部(38)と、フィン本体部(38)の前側縁に連なるとともに後側冷媒流通管(13)の前側縁よりも前方に張り出すように設けられた外方張り出し部(39)とを備えている。そして、蓄冷材容器(16)が配置された通風間隙(15)の両隣の通風間隙(15)に配置されたアウターフィン(17)の外方張り出し部(39)が、蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(22)の左右両側面にろう付されている。また、隣接するアウターフィン(17)の外方張り出し部](39)間にはアルミニウム製スペーサ(41)が配置されており、外方張り出し部(39)にろう付されている。
【0047】
上述した蓄冷機能付きエバポレータ(1)は、車両のエンジンを駆動源とする圧縮機、圧縮機から吐出された冷媒を冷却するコンデンサ(冷媒冷却器)、コンデンサを通過した冷媒を減圧する膨張弁(減圧器)とともに冷凍サイクルを構成し、カーエアコンとして、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両、たとえば自動車に搭載される。そして、圧縮機が作動している場合には、圧縮機で圧縮されてコンデンサおよび膨張弁を通過した低圧の気液混相の2相冷媒が、冷媒入口(7)を通って蓄冷機能付きエバポレータ(1)の冷媒入口ヘッダ部(5)内に入り、前側の全冷媒流通管(13)を通って第1中間ヘッダ部(9)内に流入する。第1中間ヘッダ部(9)内に入った冷媒は、連通部材(12)を通って第2中間ヘッダ部(11)内に入った後、後側の全冷媒流通管(13)を通って出口ヘッダ部(6)内に流入し、冷媒出口(8)から流出する。そして、冷媒が冷媒流通管(13)内を流れる間に、通風間隙(15)を通過する空気と熱交換をし、冷媒は気相となって流出する。
【0048】
このとき、冷媒流通管(13)内を流れる冷媒の有する冷熱によって蓄冷材容器(16)の容器本体部(21)内の蓄冷材が冷却され、さらに容器本体部(21)内の冷却された蓄冷材の有する冷熱がインナーフィン(36)を介して蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(22)内の蓄冷材に伝えられるとともに、通風間隙(15)を通って冷媒により冷やされた空気の有する冷熱が外方張り出し部(22)内の蓄冷材に伝えられ、その結果蓄冷材容器(16)内全体の蓄冷材に冷熱が蓄えられる。
【0049】
圧縮機が停止した場合には、蓄冷材容器(16)の容器本体部(21)および外方張り出し部(22)内の蓄冷材の有する冷熱が、インナーフィン(36)を介して容器本体部(21)および外方張り出し部(22)の左右両側壁に伝えられる。容器本体部(21)の左右両側壁に伝えられた冷熱は、冷媒流通管(13)を通過し、当該冷媒流通管(13)にろう付されているアウターフィン(17)のフィン本体部(38)を介して蓄冷材容器(16)が配置されている通風間隙(15)の両隣の通風間隙(15)を通過する空気に伝えられる。外方張り出し部(22)の左右両側壁に伝えられた冷熱は、外方張り出し部(22)の左右両側面にろう付されたアウターフィン(17)の外方張り出し部](39)を介して通風間隙(15)を通過する空気に伝えられる。したがって、エバポレータ(1)を通過した風の温度が上昇したとしても、当該風は冷却されるので、冷房能力の急激な低下が防止される。
【0050】
たとえば車両火災などによって、周囲の温度が通常の使用環境温度範囲よりも高温、たとえば100℃以上の温度になると、液相状態の蓄冷材の密度変化および蓄冷材容器(16)内に残存している空気の熱膨張が顕著になって、蓄冷材容器(16)の内圧が異常に上昇しようとする。しかしながら、栓部材(24)のフランジ部(34a)を含む押圧部材(34)が、周囲の空気により加熱されるとともに、段付き円筒状部材(26)の押さえ部(32)を介して蓄冷材容器(16)の壁から伝わった熱により加熱されて部分的に溶融する。すると、押圧部材(34)の外径が小さくなるとともに、フランジ部(34a)の厚みが薄くなる。押圧部材(34)の外径が小さくなると、押圧部材(34)によりシール部材(34)における有底穴(35)の周囲の部分を流出口(23)の内周面側に押し付ける力が低減され、シール部材(34)における有底穴(35)の周囲の部分に付与されていたつぶし代が減少する。これと同時に、フランジ部(34a)の厚みが薄くなると、押さえ部(32)によりフランジ部(34a)を介して押圧部材(34)を下方に押さえる力が小さくなる。したがって、シール部材(33)が蓄冷材容器(16)の内圧により上方に押し上げられて流出口(23)が開放され、蓄冷材容器(16)内の蓄冷材および残存空気が流出口(23)から流出して内圧が低減され、蓄冷材容器(16)の破裂が防止される(図7参照)。
【0051】
図8〜図10は蓄冷材容器(16)に設けられかつ内圧の異常上昇時に蓄冷材を流出させる流出口、および流出口を閉鎖する栓部材の変形例を示す。
【0052】
図8において、蓄冷材容器(16)の流出口(50)は、蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(22)の上端に形成された貫通穴(25)内にアルミニウム製の円筒状部材(51)が嵌め入れられてろう付などによって固定されることにより設けられている。円筒状部材(51)は、上端部が貫通穴(25)の周囲の筒状フランジ部(27)の上端よりも上方に突出するとともに、下端部が外方張り出し部(22)内に突出するように筒状フランジ(27)内に通され、この状態で筒状フランジ部(27)にろう付されている。
【0053】
流出口(50)を閉鎖する栓部材(52)は、ゴム状弾性を有する耐熱材料からなり、かつ流出口(50)の内周面、ここでは円筒状部材(51)の内周面に接触するOリング(53)(シール部材)と、通常の使用環境温度範囲では剛性を有する固体であるとともに、通常の使用環境温度範囲よりも高温になった際に軟化または溶融する材料からなり、かつOリング(53)を流出口(50)の内周面側に押し付けてOリング(53)につぶし代を付与する円柱状の押圧部材(54)とよりなる。Oリング(53)は、最高使用温度が200℃以上である材料、たとえばフッ素ゴムにより形成されている。また、押圧部材(54)は、100℃以上で溶融または軟化変形する材料、たとえばSn:40質量%、Bi:56質量%およびZn:4質量%よりなり、溶融点が130℃である低融点合金により形成されている。
【0054】
栓部材(52)は次の方法で流出口(50)に嵌め入れられる。
【0055】
予め、図9に示すように、Oリング(53)を押圧部材(54)の周囲に装着しておく。ついで、Oリング(53)および押圧部材(54)を流出口(50)内に圧入し、押圧部材(54)によって、Oリング(53)を流出口(23)の内周面(円筒状部材(51)の内周面)側に押し付ける。こうして、Oリング(53)につぶし代が付与され、流出口(50)が密封される。
【0056】
たとえば車両火災などによって、周囲の温度が通常の使用環境温度範囲よりも高温、たとえば100℃以上の温度になると、液相状態の蓄冷材の密度変化および蓄冷材容器(16)内に残存している空気の熱膨張が顕著になって、蓄冷材容器(16)の内圧が異常に上昇しようとする。しかしながら、栓部材(52)の押圧部材(54)が、周囲の空気により加熱されて部分的に溶融して外径が小さくなる。押圧部材(54)の外径が小さくなると、Oリング(53)を流出口(50)の内周面側に押し付ける力が低減され、Oリング(53)に付与されていたつぶし代が減少する。したがって、流出口(50)が開放され、蓄冷材容器(16)内の蓄冷材および残存空気が流出口(50)から流出して内圧が低減され、蓄冷材容器(16)の破裂が防止される(図10参照)。
【0057】
図8に示すようなOリングからなるシール部材を用いた場合であっても、図4に示すシール部材(33)を用いた場合と同様に、貫通穴(25)に段付き円筒状部材(26)を嵌め入れて蓄冷材容器(16)に固定することにより流出口を設け、栓部材(52)の押圧部材(54)の上端に径方向外方に広がった拡径部を形成するとともに、この拡径部を段付き円筒状部材(26)の大径部(29)に形成した押さえ部(32)により押さえるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
この発明による蓄冷機能付きエバポレータは、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両のカーエアコンを構成する冷凍サイクルに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0059】
(1):蓄冷機能付きエバポレータ
(13):冷媒流通管
(15):通風間隙
(16):蓄冷材容器
(23):流出口
(24):栓部材
(25):貫通穴
(26):段付き円筒状部材
(32):押さえ部
(33):押圧部材
(34):押圧部材
(34a):フランジ部
(35):有底穴
(50):流出口
(51):円筒状部材
(52):栓部材
(53):Oリング(シール部材)
(54):押圧部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向にのびる複数の冷媒流通管と、上下方向にのびるとともに内部に蓄冷材が封入された複数の蓄冷材容器とを備えており、蓄冷材容器内の蓄冷材が、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱により冷却されるようになされている蓄冷機能付きエバポレータにおいて、
蓄冷材容器に、内圧の異常上昇時に蓄冷材を流出させる流出口が設けられるとともに、流出口が栓部材により閉鎖されており、栓部材が、ゴム状弾性を有する耐熱材料からなり、かつ流出口内に嵌められて流出口の内周面に接触するシール部材と、通常の使用環境温度範囲よりも高温になった際に軟化または溶融する材料からなり、かつシール部材を流出口の内周面側に押し付けてシール部材につぶし代を付与する押圧部材とよりなる蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項2】
蓄冷材容器が金属製であり、栓部材の押圧部材が、蓄冷材容器に熱的に接触させられている請求項1記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項3】
栓部材のシール部材に、シール部材における蓄冷材容器外方を向いた端面から他端面に向かってのびる円筒状の穴が形成され、穴内に押圧部材が圧入され、シール部材における穴の周囲の部分が押圧部材により流出口の内周面側に押し付けられてシール部材につぶし代が付与されている請求項1または2記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項4】
栓部材のシール部材が断面円形のリング状であり、シール部材に押圧部材が貫通状に圧入され、リング状シール部材が押圧部材により流出口の内周面側に押し付けられてシール部材につぶし代が付与されているている請求項1または2記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項5】
金属製蓄冷材容器に貫通穴が形成されるとともに、貫通穴内に金属製の円筒状部材が嵌め入れられて蓄冷材容器に固定されることにより流出口が設けられ、円筒状部材に、栓部材の押圧部材を外側から押さえて抜けを防止する押さえ部が設けられ、押さえ部が、蓄冷材容器から押圧部材に熱を伝える伝熱部を兼ねている請求項3または4記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項6】
栓部材の押圧部材の外端部にフランジ部が設けられ、フランジ部が円筒状部材の押さえ部により外側から押さえられている請求項5記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項7】
栓部材の押圧部材が、100℃以上で溶融または軟化変形する材料で形成されている請求項1〜6のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項8】
栓部材のシール部材の最高使用温度が200℃以上である請求項1〜7のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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