説明

蓄冷機能付きエバポレータ

【課題】蓄冷材容器の破損を防止しうるとともに、放冷時の吐気温のばらつきを抑制しうる蓄冷機能付きエバポレータを提供する。
【解決手段】蓄冷機能付きエバポレータの熱交換コア部4は、複数の冷媒流通管13と、内部に蓄冷材Rが封入された複数の蓄冷材容器16とを備えている。蓄冷材容器16内の蓄冷材Rは、冷媒流通管13内を流れる冷媒の有する冷熱により冷却される。蓄冷材容器16内に、蓄冷材Rを貯める蓄冷材貯留部26と、蓄冷材貯留部26に通じ、かつ蓄冷材貯留部26の内容積を蓄冷材容器16の内容積よりも小さくする圧力逃がし空間27とを、蓄冷材貯留部26の上部と圧力逃がし空間27とが通風方向に並びように設けらる。蓄冷材貯留部26内の蓄冷材Rは、蓄冷材貯留部26内の圧力が異常上昇した際に圧力逃がし空間27内に流入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両の空調装置に用いられる蓄冷機能付きエバポレータに関する。
【0002】
この明細書および特許請求の範囲において、図1および図3の上下を上下というものとする。
【0003】
また、この明細書および特許請求の範囲において、「コンデンサ」という用語には、通常のコンデンサの他に凝縮部および過冷却部を有するサブクールコンデンサを意味するものとする。
【背景技術】
【0004】
近年、環境保護や自動車の燃費向上などを目的として、信号待ちなどの停車時にエンジンを自動的に停止させる自動車が提案されている。
【0005】
しかしながら、通常の車両用空調装置においては、エンジンを停止させると、エンジンを駆動源とする圧縮機が停止するので、エバポレータに冷媒が供給されなくなり、冷房能力が急激に低下するという問題がある。
【0006】
そこで、このような問題を解決するために、エバポレータに蓄冷機能を付与し、エンジンが停止して圧縮機が停止した際に、エバポレータに蓄えられた冷熱を放冷して車室内を冷却することが考えられている。
【0007】
この種の蓄冷機能付きエバポレータとして、上下方向に間隔をおいて配置された1対のタンクと、両タンク間に設けられた熱交換コア部とを備えており、熱交換コア部が、幅方向を通風方向に向けるとともに長さ方向を上下方向に向けた状態で両タンクの長さ方向に間隔をおいて配置され、かつ上下両端部がそれぞれ両タンクに通じさせられた複数の扁平状冷媒流通管と、幅方向を通風方向に向けるとともに長さ方向を上下方向に向けた状態で両タンクの長さ方向に間隔をおいて配置され、かつ内部に蓄冷材が封入された蓄冷材容器とを有し、蓄冷材容器内の蓄冷材が、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱により冷却されるようになされている蓄冷機能付きエバポレータが提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
特許文献1記載の蓄冷機能付きエバポレータによれば、圧縮機が作動している通常の冷房時には、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱が、蓄冷材容器内の蓄冷材に伝わって蓄冷材に蓄えられ、圧縮機が停止した際には、蓄冷材容器内の蓄冷材に蓄えられた冷熱が、蓄冷材容器が熱的に接触させられた冷媒流通管を経て熱交換コア部を通過する空気に放冷されるようになっている。
【0009】
ところで、この種の蓄冷機能付きエバポレータの蓄冷材容器内に封入される蓄冷材としては、融点が5〜10℃に調整されたパラフィン系の潜熱蓄熱材を用いるのが一般的である。たとえば特許文献1に記載された蓄冷機能付きエバポレータにおいても、蓄冷材容器内に封入される蓄冷材としては、融点が6℃であるテトラデカンが用いられている。
【0010】
しかしながら、通常の使用環境温度範囲、たとえば−40〜90℃の範囲よりも高温になった場合に、液相状態の蓄冷材および蓄冷材容器内に残存している空気が熱膨張し、蓄冷材容器における1つの密閉された空間の内容積に対する封入された蓄冷材の体積の比率である蓄冷材充填率によっては、蓄冷材容器の内圧が異常上昇して破損するおそれがある。
【0011】
したがって、安全性を考慮して、蓄冷材充填率を低くする必要があるが、この場合、次のような問題が生じる。すなわち、特許文献1記載の蓄冷機能付きエバポレータが圧縮機およびコンデンサとともに車両用空調装置に組み込まれる際には、通常、ケーシング内に、熱交換コア部が空気通路に位置するように垂直状態で配置されるので、蓄冷材容器の上側部分に蓄冷材の存在しない比較的大きな部分が生じることになる。その結果、蓄冷材容器の上側部分では冷熱を蓄えることができず、圧縮機が停止した際に、空気が通過する熱交換コア部における蓄冷材容器の上側部分における蓄冷材が存在していない部分を流れる空気の温度が、蓄冷材が存在している部分を流れる空気の温度に比べて速く上昇し、蓄冷機能付きエバポレータを通過する空気の温度である吐気温が大きくばらつくという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4043776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明の目的は、上記問題を解決し、蓄冷材容器の破損を防止しうるとともに、放冷時の吐気温のばらつきを抑制しうる蓄冷機能付きエバポレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0015】
1)熱交換コア部が、長さ方向を上下方向に向けた状態で間隔をおいて配置された複数の冷媒流通管と、長さ方向を上下方向に向けて配置されるとともに内部に蓄冷材が封入された蓄冷材容器とを備えており、蓄冷材容器内の蓄冷材が、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱により冷却されるようになされている蓄冷機能付きエバポレータにおいて、
蓄冷材容器内に、蓄冷材を貯める蓄冷材貯留部と、蓄冷材貯留部に通じ、かつ蓄冷材貯留部の内容積を蓄冷材容器の内容積よりも小さくする圧力逃がし空間とが、少なくとも蓄冷材貯留部の上部と圧力逃がし空間とが通風方向に並ぶように設けられており、蓄冷材貯留部内の圧力が異常上昇した際に、蓄冷材が蓄冷材貯留部から圧力逃がし空間内に流入するようになされている蓄冷機能付きエバポレータ。
【0016】
2)蓄冷材容器内の蓄冷材貯留部と圧力逃がし空間とが、上端部において通じさせられている上記1)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0017】
3)蓄冷材貯留部と圧力逃がし空間とを通じさせる連通部に、通常の使用環境温度範囲において連通部を閉鎖するとともに、蓄冷材貯留部内の圧力が異常上昇した際に連通部を開放する閉鎖部材が設けられている上記1)または2)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0018】
4)冷媒流通管および蓄冷材容器がそれぞれ幅方向を通風方向に向けた扁平状であり、圧力逃がし空間が、蓄冷材容器における通風方向と直角をなす2つの側壁間に跨るように通風方向に間隔をおいて設けられ、かつ蓄冷材容器の上端壁から下方にのびる2つの縦壁部、および両縦壁部の下端部どうしを連結する横壁部により囲繞され、両縦壁部のうち少なくともいずれか一方の縦壁部の上端部に、蓄冷材貯留部と圧力逃がし空間とを通じさせる連通部が設けられている上記3)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0019】
5)冷媒流通管および蓄冷材容器がそれぞれ幅方向を通風方向に向けた扁平状であり、圧力逃がし空間が、蓄冷材容器における通風方向と直角をなす2つの側壁間に跨るように通風方向に間隔をおいて設けられ、かつ蓄冷材容器の上端壁から下方にのびる2つの縦壁部、および両縦壁部の下端部どうしを連結する横壁部により囲繞され、蓄冷材容器の上端壁に、両縦壁部のうち少なくともいずれか一方の縦壁部の通風方向両側部分を通じさせるように上方膨出部が設けられ、上方膨出部内が、蓄冷材貯留部と圧力逃がし空間とを通じさせる連通部となっている上記3)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0020】
6)冷媒流通管および蓄冷材容器がそれぞれ幅方向を通風方向に向けた扁平状であり、蓄冷材容器内が、蓄冷材容器における通風方向と直角をなす2つの側壁間に跨って設けられ、かつ蓄冷材容器の全高にわたる仕切壁により通風方向に並んだ2つの区画に仕切られることによって、蓄冷材容器内に蓄冷材貯留部および圧力逃がし空間が設けられ、蓄冷材容器の上端壁に、仕切壁の通風方向両側部分を通じさせるように上方膨出部が設けられ、上方膨出部内が、蓄冷材貯留部と圧力逃がし空間とを通じさせる連通部となっている上記3)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0021】
7)通常の使用環境温度範囲において、蓄冷材貯留部内の蓄冷材の液面が、蓄冷材容器の全高の70%以上の高さに位置するようになされている上記1)〜6)のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【発明の効果】
【0022】
上記1)〜7)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、蓄冷材容器内に、蓄冷材を貯める蓄冷材貯留部と、蓄冷材貯留部に通じ、かつ蓄冷材貯留部の内容積を蓄冷材容器の内容積よりも小さくする圧力逃がし空間とが、少なくとも蓄冷材貯留部の上部と圧力逃がし空間とが通風方向に並びように設けられており、蓄冷材貯留部内の圧力が異常上昇した際に、蓄冷材が蓄冷材貯留部から圧力逃がし空間内に流入するようになされているので、蓄冷材容器の内容積に対する封入された蓄冷材の体積の比率である蓄冷材充填率を、使用環境温度における蓄冷材容器の内圧による破損を防止しうる割合とした場合にも、蓄冷材を蓄冷材貯留部の上端近傍まで入れることによって、空気が通過する熱交換コア部の蓄冷材容器の上端近傍まで蓄冷材を存在させることが可能になる。したがって、蓄冷材容器の上端近傍においても蓄冷材容器内の蓄冷材に冷熱を蓄えることができ、圧縮機が停止した際に、熱交換コア部における蓄冷材容器の上端近傍に相当する部分を流れる空気の温度上昇を抑制し、蓄冷機能付きエバポレータを通過する空気の温度である吐気温のばらつきを抑制することができる。
【0023】
また、たとえば車両火災などにより通常の使用環境温度範囲よりも高温、たとえば100℃以上の温度にさらされた場合には、蓄冷材が蓄冷材貯留部から圧力逃がし空間内に流入するので、蓄冷材貯留部の内圧の上昇、ひいては蓄冷材容器の内圧の上昇が抑制されて、蓄冷材容器の破裂が防止される。なお、蓄冷材容器の強度は、通常の使用環境温度範囲、たとえば−40〜90℃の範囲内においては、液相状態の蓄冷材が密度変化するとともに、蓄冷材容器内に残存している空気が熱膨張することにより内圧が上昇したとしても、破損しないような強度に設計されている。
【0024】
上記3)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、車両に設置するまでの間に、蓄冷材貯留部内の蓄冷材が圧力逃がし空間内に流入することを防止することが可能になる。
【0025】
上記4)〜6)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、蓄冷材貯留部と圧力逃がし空間とを通じさせる連通部を比較的簡単に設けることができる。
【0026】
上記7)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、蓄冷機能付きエバポレータを通過する空気の温度である吐気温のばらつきを、効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の蓄冷機能付きエバポレータの全体構成を示す一部切り欠き斜視図である。
【図2】図1のA−A線拡大断面図である。
【図3】図1の蓄冷機能付きエバポレータに用いられている蓄冷材容器の垂直断面図である。
【図4】蓄冷材容器の第1の変形例を示す垂直断面図である。
【図5】蓄冷材容器の第2の変形例を示す垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0029】
以下の説明において、通風方向下流側(各図面に矢印Xで示す方向)を前、これと反対側を後というものとする。また、前方から後方を見た際の左右、すなわち図1の左右を左右というものとする。
【0030】
さらに、以下の説明において、「アルミニウム」という用語には、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。
【0031】
図1はこの発明による蓄冷機能付きエバポレータの全体構成を示し、図2および図3はその要部の構成を示す。
【0032】
図1において、蓄冷機能付きエバポレータ(1)は、上下方向に間隔をおいて配置された左右方向にのびるアルミニウム製第1ヘッダタンク(2)およびアルミニウム製第2ヘッダタンク(3)と、両ヘッダタンク(2)(3)間に設けられた熱交換コア部(4)とを備えている。
【0033】
第1ヘッダタンク(2)は、前側(通風方向下流側)に位置する冷媒入口ヘッダ部(5)と、後側(通風方向上流側)に位置しかつ冷媒入口ヘッダ部(5)に一体化された冷媒出口ヘッダ部(6)とを備えている。冷媒入口ヘッダ部(5)の右端部に冷媒入口(7)が設けられ、冷媒出口ヘッダ部(6)の右端部に冷媒出口(8)が設けられている。第2ヘッダタンク(3)は、前側に位置する第1中間ヘッダ部(9)と、後側に位置しかつ第1中間ヘッダ部(9)に一体化された第2中間ヘッダ部(11)とを備えている。第2ヘッダタンク(3)の第1中間ヘッダ部(9)内と第2中間ヘッダ部(11)内とは、両中間ヘッダ部(9)(11)の右端部に跨って接合され、かつ内部が通路となった連通部材(12)を介して通じさせられている。
【0034】
図1および図2に示すように、熱交換コア部(4)には、幅方向が通風方向(前後方向)を向くとともに長さ方向が上下方向を向いた複数のアルミニウム押出形材製扁平状冷媒流通管(13)が、左右方向に間隔をおいて並列状に配置されている。ここでは、前後方向に間隔をおいて配置された2つの冷媒流通管(13)からなる複数の組(14)が左右方向に間隔をおいて配置されており、前後の冷媒流通管(13)よりなる組(14)の隣り合うものどうしの間に通風間隙(15)が形成されている。前側の冷媒流通管(13)の上端部は冷媒入口ヘッダ部(5)に接続されるとともに、同下端部は第1中間ヘッダ部(9)に接続されている。また、後側の冷媒流通管(13)の上端部は冷媒出口ヘッダ部(6)に接続されるとともに、同下端部は第2中間ヘッダ部(11)に接続されている。
【0035】
熱交換コア部(4)における全通風間隙(15)のうち一部の複数の通風間隙(15)でかつ隣接していない通風間隙(15)において、蓄冷材(R)(図3参照)が封入されたアルミニウム製蓄冷材容器(16)が、前後両冷媒流通管(13)に跨るように配置されている。また、残りの通風間隙(15)に、両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートからなるコルゲート状のアウターフィン(17)が、前後両冷媒流通管(13)に跨るように配置されて通風間隙(15)を形成する左右両側の組(14)を構成する前後両冷媒流通管(13)にろう付されている。すなわち、蓄冷材容器(16)が配置された通風間隙(15)の両側の通風間隙(15)にそれぞれアウターフィン(17)が配置されている。また、左右両端の冷媒流通管(13)の組(14)の外側にも両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートからなるアウターフィン(17)が配置されて前後両冷媒流通管(13)にろう付され、さらに左右両端のアウターフィン(17)の外側にアルミニウム製サイドプレート(18)が配置されてアウターフィン(17)にろう付されている。アウターフィン(17)は、前後方向にのびる波頂部、前後方向にのびる波底部、および波頂部と波底部とを連結する連結部よりなるコルゲート状である。アウターフィン(17)は、前側冷媒流通管(13)の前側縁よりも後方に位置し、かつ各組(14)の前後の冷媒流通管(13)にろう付されたフィン本体部(19)と、フィン本体部(19)の前側縁に連なるとともに前側冷媒流通管(13)の前側縁よりも前方に張り出すように設けられた外方張り出し部(21)とを備えている。蓄冷材容器(16)が配置されていない隣接する通風間隙(15)に配置されたアウターフィン(17)の外方張り出し部(21)間にはアルミニウム製スペーサ(22)が配置されて外方張り出し部(22)にろう付されている。
【0036】
蓄冷材容器(16)は幅方向が前後方向を向くとともに長さ方向が上下方向を向いた扁平状であり、前側冷媒流通管(13)の前側縁よりも後方に位置し、かつ各組(14)の前後2つの冷媒流通管(13)にろう付された容器本体部(23)と、容器本体部(23)の前側縁部(風下側縁部)に連なるとともに前側冷媒流通管(13)の前側縁よりも前方(通風方向外側)に張り出すように設けられた外方張り出し部(24)とを備えている。蓄冷材容器(16)の容器本体部(23)の左右方向の寸法は全体に等しくなっている。蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(24)は、上下方向の寸法が容器本体部(23)の上下方向の寸法と等しく、かつ左右方向の寸法が容器本体部(23)の左右方向の寸法よりも大きくなっており、容器本体部(23)に対して左右方向外方に膨出している。外方張り出し部(24)の左右方向の寸法は、冷媒流通管(13)の左右方向の寸法である管高さの2倍に、容器本体部(23)の左右方向の寸法を加えた高さと等しくなっている。そして、蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(24)の左右両側面に、蓄冷材容器(16)が配置された通風間隙(15)の両隣の通風間隙(15)に配置されたアウターフィン(17)の外方張り出し部(22)がろう付されている。蓄冷材容器(16)は、両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートにプレス加工が施されて容器本体部(23)および外方張り出し部(24)を形成する膨出部(25a)(25b)が形成され、かつ周縁部どうしが互いにろう付された2枚の略縦長方形状アルミニウム板(25)よりなる。
【0037】
図2および図3に示すように、蓄冷材容器(16)内には、蓄冷材(R)を貯める蓄冷材貯留部(26)と、蓄冷材貯留部(26)に通じ、かつ蓄冷材貯留部(26)の内容積を蓄冷材容器(16)の内容積よりも小さくする圧力逃がし空間(27)とが設けられている。圧力逃がし空間(27)は、蓄冷材容器(16)の通風方向の中間部、ここでは容器本体部(23)の通風方向の中間部でかつ前側冷媒流通管(13)の前側縁よりも後方の部分に、蓄冷材容器(16)の上端から蓄冷材容器(16)の高さの中程よりも上方まで至るように設けられている。蓄冷材貯留部(26)の上部と圧力逃がし空間(27)とは、通風方向上流側および下流側から見て重なった部分を有している。
【0038】
蓄冷材貯留部(26)内へ充填される蓄冷材(R)(図2においては図示略)としては、凝固点が5〜10℃程度に調整されたパラフィン系潜熱蓄冷材(R)が用いられる。具体的には、ペンタデカン、テトラデカンなどが用いられる。パラフィン系潜熱蓄冷材(R)の体積膨張率は空気の体積膨張率よりも大きい。そして、通常の使用環境温度範囲において、蓄冷材貯留部(26)内の蓄冷材(R)の液面が蓄冷材容器(16)の全高の70%以上、好ましくは90%以上の高さに位置するようになされている。また、蓄冷材容器(16)の内容積に対する封入された蓄冷材(R)の体積の比率である蓄冷材(R)充填率は70〜80%であることが好ましい。当該充填率は、常温におけるものである。
【0039】
蓄冷材容器(16)の蓄冷材貯留部(26)内における圧力逃がし空間(27)よりも下方の部分には、容器本体部(23)の後端部から外方張り出し部(24)の前端部に至るアルミニウム製インナーフィン(28)(図3においては図示略)が配置されている。インナーフィン(28)は、前後方向にのびる波頂部、前後方向にのびる波底部、および波頂部と波底部とを連結する連結部よりなるコルゲート状である。インナーフィン(28)のフィン高さは全体に等しく、蓄冷材容器(16)の左右両側壁(16a)における容器本体部(23)に位置する部分の内面にろう付されている。
【0040】
圧力逃がし空間(27)は、蓄冷材容器(16)における通風方向と直角をなす2つの左右側壁(16a)間に跨るように通風方向に間隔をおいて設けられ、かつ蓄冷材容器(16)の上端壁(16b)から下方にのびる2つの縦壁部(29)、および両縦壁部(29)の下端部どうしを連結する横壁部(31)により囲繞されている。両縦壁部(29)のうち少なくともいずれか一方の縦壁部(29)、ここでは通風方向上流側の縦壁部(29)の上端部に、蓄冷材貯留部(26)と圧力逃がし空間(27)とを通じさせる連通部(32)が設けられている。ここで、蓄冷材貯留部(26)内の蓄冷材(R)の液面は、連通部(32)よりも下方に位置していることが好ましいが、これに限定されるものではない。連通部(32)に、通常の使用環境温度範囲において連通部(32)を閉鎖するとともに、通常の使用環境温度範囲よりも高温になって蓄冷材貯留部(26)内の圧力が異常上昇した際に連通部(32)を開放する閉鎖部材(33)が設けられている。したがって、通常の使用環境温度範囲よりも高温になって蓄冷材貯留部(26)内の圧力が異常上昇した際に、蓄冷材(R)が蓄冷材貯留部(26)から圧力逃がし空間(27)内に流入するようになされている。
【0041】
上述した蓄冷機能付きエバポレータ(1)は、車両のエンジンを駆動源とする圧縮機、圧縮機から吐出された冷媒を冷却するコンデンサ(冷媒冷却器)、コンデンサを通過した冷媒を減圧する膨張弁(減圧器)とともに冷凍サイクルを構成し、カーエアコンとして、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両、たとえば自動車に搭載される。そして、圧縮機が作動している場合には、圧縮機で圧縮されてコンデンサおよび膨張弁を通過した低圧の気液混相の2相冷媒が、冷媒入口(7)を通って蓄冷機能付きエバポレータ(1)の冷媒入口ヘッダ部(5)内に入り、前側の冷媒流通管(13)を通って第1中間ヘッダ部(9)内に流入する。第1中間ヘッダ部(9)内に入った冷媒は、連通部材(12)内を通って第2中間ヘッダ部(11)内に入った後、後側の冷媒流通管(13)を通って出口ヘッダ部(6)内に流入し、冷媒出口(8)から流出する。そして、冷媒が冷媒流通管(13)内を流れる間に、通風間隙(15)を通過する空気と熱交換をし、冷媒は気相となって流出する。
【0042】
このとき、冷媒流通管(13)内を流れる冷媒の有する冷熱によって蓄冷材容器(16)の容器本体部(23)内の蓄冷材(R)が冷却され、さらに容器本体部(23)内の冷却された蓄冷材(R)の有する冷熱がインナーフィン(28)を介して蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(24)内の蓄冷材(R)に伝えられるとともに、通風間隙(15)を通って冷媒により冷やされた空気の有する冷熱が外方張り出し部(24)内の蓄冷材(R)に伝えられ、その結果蓄冷材容器(16)内全体の蓄冷材(R)に冷熱が蓄えられる。
【0043】
圧縮機が停止した場合には、蓄冷材容器(16)の容器本体部(23)および外方張り出し部(24)内の蓄冷材(R)の有する冷熱が、インナーフィン(28)を介して蓄冷材容器(16)の左右両側壁(16a)に伝えられる。左右両側壁(16a)の容器本体部(23)に位置する部分に伝えられた冷熱は、冷媒流通管(13)を通過し、当該冷媒流通管(13)にろう付されているアウターフィン(17)のフィン本体部(19)を介して蓄冷材容器(16)が配置されている通風間隙(15)の両隣の通風間隙(15)を通過する空気に伝えられる。左右両側壁(16a)の外方張り出し部(24)に位置する部分に伝えられた冷熱は、外方張り出し部(24)の左右両側面にろう付されたアウターフィン(17)の外方張り出し部](21)を介して通風間隙(15)を通過する空気に伝えられる。したがって、エバポレータ(1)を通過した風の温度が上昇したとしても、当該風は冷却されるので、冷房能力の急激な低下が防止される。
【0044】
たとえば車両火災などによって、周囲の温度が通常の使用環境温度範囲よりも高温、たとえば100℃以上の温度になると、液相状態の蓄冷材(R)の体積膨張(密度変化)および蓄冷材貯留部(26)内に残存している空気の熱膨張が顕著になって、蓄冷材貯留部(26)の内圧が異常に上昇する。しかしながら、パラフィン系潜熱蓄冷材(R)の体積膨張率は空気の体積膨張率よりも大きいので、通常の使用環境温度範囲よりも高温になって蓄冷材貯留部(26)内の圧力が異常上昇すると、閉鎖部材(33)が開放されて蓄冷材貯留部(26)内の蓄冷材(R)が連通部(32)を通って圧力逃がし空間(27)内に流入する。したがって、蓄冷材貯留部(26)の内圧が低減され、蓄冷材容器(16)の破裂が防止される。
【0045】
図4および図5は、蓄冷材容器の変形例を示す。
【0046】
図4に示す蓄冷材容器(40)の場合、蓄冷材容器(40)の上端壁(40a)に、圧力逃がし空間(27)の両縦壁部(29)のうち少なくともいずれか一方、ここでは通風方向上流側の縦壁部(29)の通風方向両側部分を通じさせるように上方膨出部(41)が設けられ、上方膨出部(41)内が、蓄冷材貯留部(26)と圧力逃がし空間(27)とを通じさせる連通部(42)となっている。そして、連通部(42)の圧力逃がし空間(27)側の端部、すなわち通風方向下流側縦壁部(29)の上端と上方膨出部(41)の通風方向下流側端部との間に、通常の使用環境温度範囲において連通部(42)を閉鎖するとともに、通常の使用環境温度範囲よりも高温になって蓄冷材貯留部(26)内の圧力が異常上昇した際に連通部(42)を開放する閉鎖部材(43)が設けられており、通常の使用環境温度範囲よりも高温になって蓄冷材貯留部(26)内の圧力が異常上昇した際に、蓄冷材(R)が蓄冷材貯留部(26)から圧力逃がし空間(27)内に流入するようになされている。
【0047】
図5に示す蓄冷材容器(50)の場合、蓄冷材容器(50)内が、通風方向下流側の部分において、蓄冷材容器(50)における通風方向と直角をなす2つの左右側壁間に跨って上下方向にのびるように設けられ、かつ蓄冷材容器(50)の全高にわたる仕切壁により通風方向に並んだ2つの区画に仕切られることによって、蓄冷材貯留部(52)および圧力逃がし空間(53)が、前者が通風方向上流側に位置するように設けられている。また、蓄冷材容器(50)の上端壁(50a)に、仕切壁(51)の通風方向両側部分を通じさせるように上方膨出部(54)が設けられ、上方膨出部(54)内が、蓄冷材貯留部(52)と圧力逃がし空間(53)とを通じさせる連通部(55)となっている。仕切壁(51)の上端部は上方膨出部(54)内に突出している。そして、連通部(55)内に、通常の使用環境温度範囲において連通部(55)を閉鎖するとともに、通常の使用環境温度範囲よりも高温になって蓄冷材貯留部(52)内の圧力が異常上昇した際に上昇して連通部(55)を開放する閉鎖部材(56)が設けられており、通常の使用環境温度範囲よりも高温になって蓄冷材貯留部(52)内の圧力が異常上昇した際に、蓄冷材(R)が蓄冷材貯留部(52)から圧力逃がし空間(53)内に流入するようになされている。閉鎖部材(56)は、下端の閉鎖位置において、仕切壁(51)における上方膨出部(54)内に存在する部分(51a)に係合している。
【0048】
図4および図5に示す蓄冷材容器(40)(50)によれば、蓄冷材貯留部(26)(52)内の上端まで蓄冷材(R)を入れることができ、蓄冷材(R)の液面を蓄冷材容器(40)(50)の上端と同一にすることができる。
【0049】
上記実施形態の蓄冷機能付きエバポレータ(1)の蓄冷材容器(16)および図4および図5の蓄冷材容器(40)(50)において、閉鎖部材(33)(43)(56)は必ずしも必要としない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
この発明による蓄冷機能付きエバポレータは、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両の車両用空調装置を構成する冷凍サイクルに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0051】
(1):蓄冷機能付きエバポレータ
(4):熱交換コア部
(13):冷媒流通管
(16)(40)(50):蓄冷材容器
(26)(52):蓄冷材貯留部
(27)(53):圧力逃がし空間
(32)(42)(55):連通部
(33)(43)(56):閉鎖部材
(29):縦壁部
(31):横壁部
(40a)(50a):上端壁
(41)(54):上方膨出部
(51):仕切壁
(R):蓄冷材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換コア部が、長さ方向を上下方向に向けた状態で間隔をおいて配置された複数の冷媒流通管と、長さ方向を上下方向に向けて配置されるとともに内部に蓄冷材が封入された蓄冷材容器とを備えており、蓄冷材容器内の蓄冷材が、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱により冷却されるようになされている蓄冷機能付きエバポレータにおいて、
蓄冷材容器内に、蓄冷材を貯める蓄冷材貯留部と、蓄冷材貯留部に通じ、かつ蓄冷材貯留部の内容積を蓄冷材容器の内容積よりも小さくする圧力逃がし空間とが、少なくとも蓄冷材貯留部の上部と圧力逃がし空間とが通風方向に並ぶように設けられており、蓄冷材貯留部内の圧力が異常上昇した際に、蓄冷材が蓄冷材貯留部から圧力逃がし空間内に流入するようになされている蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項2】
蓄冷材容器内の蓄冷材貯留部と圧力逃がし空間とが、上端部において通じさせられている請求項1記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項3】
蓄冷材貯留部と圧力逃がし空間とを通じさせる連通部に、通常の使用環境温度範囲において連通部を閉鎖するとともに、蓄冷材貯留部内の圧力が異常上昇した際に連通部を開放する閉鎖部材が設けられている請求項1または2記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項4】
冷媒流通管および蓄冷材容器がそれぞれ幅方向を通風方向に向けた扁平状であり、圧力逃がし空間が、蓄冷材容器における通風方向と直角をなす2つの側壁間に跨るように通風方向に間隔をおいて設けられ、かつ蓄冷材容器の上端壁から下方にのびる2つの縦壁部、および両縦壁部の下端部どうしを連結する横壁部により囲繞され、両縦壁部のうち少なくともいずれか一方の縦壁部の上端部に、蓄冷材貯留部と圧力逃がし空間とを通じさせる連通部が設けられている請求項3記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項5】
冷媒流通管および蓄冷材容器がそれぞれ幅方向を通風方向に向けた扁平状であり、圧力逃がし空間が、蓄冷材容器における通風方向と直角をなす2つの側壁間に跨るように通風方向に間隔をおいて設けられ、かつ蓄冷材容器の上端壁から下方にのびる2つの縦壁部、および両縦壁部の下端部どうしを連結する横壁部により囲繞され、蓄冷材容器の上端壁に、両縦壁部のうち少なくともいずれか一方の縦壁部の通風方向両側部分を通じさせるように上方膨出部が設けられ、上方膨出部内が、蓄冷材貯留部と圧力逃がし空間とを通じさせる連通部となっている請求項3記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項6】
冷媒流通管および蓄冷材容器がそれぞれ幅方向を通風方向に向けた扁平状であり、蓄冷材容器内が、蓄冷材容器における通風方向と直角をなす2つの側壁間に跨って設けられ、かつ蓄冷材容器の全高にわたる仕切壁により通風方向に並んだ2つの区画に仕切られることによって、蓄冷材容器内に蓄冷材貯留部および圧力逃がし空間が設けられ、蓄冷材容器の上端壁に、仕切壁の通風方向両側部分を通じさせるように上方膨出部が設けられ、上方膨出部内が、蓄冷材貯留部と圧力逃がし空間とを通じさせる連通部となっている請求項3記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項7】
通常の使用環境温度範囲において、蓄冷材貯留部内の蓄冷材の液面が、蓄冷材容器の全高の70%以上の高さに位置するようになされている請求項1〜6のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−15250(P2013−15250A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147882(P2011−147882)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(512025676)株式会社ケーヒン・サーマル・テクノロジー (25)
【Fターム(参考)】