説明

蓄冷機能付きエバポレータ

【課題】周囲の温度が通常の使用環境温度範囲よりも高温になった際の蓄冷材容器の破裂を防止しうる蓄冷機能付きエバポレータを提供する。
【解決手段】蓄冷機能付きエバポレータは、複数の冷媒流通管と、内部に蓄冷材が封入された複数の蓄冷材容器16とを備えている。蓄冷材容器16に、内圧の異常上昇時に蓄冷材を流出させる流出口30を設け、流出口30を、一部が流出口30内に嵌め入れられる栓部材31により閉鎖する。蓄冷材容器16の流出口30の断面形状を円形とし、栓部材31を、直径が流出口30の内径よりも大きい球状とする。栓部材31を形成する材料の熱膨張率を、蓄冷材容器16を形成する材料の熱膨張率よりも小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両のカーエアコンに用いられる蓄冷機能付きエバポレータに関する。
【0002】
この明細書および特許請求の範囲において、図1の上下を上下というものとする。また、この明細書および特許請求の範囲において、「アルミニウム」という用語には、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。
【背景技術】
【0003】
近年、環境保護や自動車の燃費向上などを目的として、信号待ちなどの停車時にエンジンを自動的に停止させる自動車が提案されている。
【0004】
しかしながら、通常のカーエアコンにおいては、エンジンを停止させると、エンジンを駆動源とする圧縮機が停止するので、エバポレータに冷媒が供給されなくなり、冷房能力が急激に低下するという問題がある。
【0005】
そこで、このような問題を解決するために、エバポレータに蓄冷機能を付与し、エンジンが停止して圧縮機が停止した際に、エバポレータに蓄えられた冷熱を放冷して車室内を冷却することが考えられている。
【0006】
この種の蓄冷機能付きエバポレータとして、上下方向に間隔をおいて配置された1対のタンクと、両タンク間に、幅方向を通風方向に向けるとともにタンクの長さ方向に間隔をおいて配置され、かつ両端部がそれぞれ両タンクに通じさせられた複数の扁平状冷媒流通管と、上下方向にのびるとともに冷媒流通管に熱的に接触させられた複数の蓄冷材容器とを備えており、各蓄冷材容器が、1つの密閉された空間を有するとともに、当該空間内に潜熱蓄冷材が封入されており、蓄冷材容器内の蓄冷材が、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱により冷却されるようになされている蓄冷機能付きエバポレータが提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1記載の蓄冷機能付きエバポレータによれば、圧縮機が作動している通常の冷房時には、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱が、蓄冷材容器内の蓄冷材に伝わって蓄冷材に蓄えられ、圧縮機が停止した際には、蓄冷材容器内の蓄冷材に蓄えられた冷熱が、蓄冷材容器が熱的に接触させられた冷媒流通管を通って通風間隙に配置されたフィンに伝えられ、フィンから当該通風間隙を流れる空気に放冷されるようになっている。
【0008】
ところで、この種の蓄冷機能付きエバポレータの蓄冷材容器内に封入される蓄冷材としては、融点が5〜10℃に調整されたパラフィン系の潜熱蓄熱材を用いるのが一般的である。たとえば特許文献1に記載された蓄冷機能付きエバポレータにおいても、蓄冷材容器内に封入される蓄冷材としては、融点が6℃であるテトラデカンが用いられている。
【0009】
また、蓄冷材容器の強度は、通常の使用環境温度範囲、たとえば−40〜90℃の範囲内においては、液相状態の蓄冷材が密度変化するとともに、蓄冷材容器内に残存している空気が熱膨張することにより内圧が上昇したとしても、破損しないような強度に設計されている。しかしながら、車両火災などにより周囲の温度が通常の使用環境温度範囲よりも高温になると、液相状態の蓄冷材の密度変化、および蓄冷材容器内に残存している空気の熱膨張が著しくなり、内圧が異常に上昇して蓄冷材容器が破裂するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4043776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明の目的は、上記問題を解決し、周囲の温度が通常の使用環境温度範囲よりも高温になった際の蓄冷材容器の破裂を防止しうる蓄冷機能付きエバポレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0013】
1)複数の冷媒流通管と、内部に蓄冷材が封入された複数の金属製蓄冷材容器とを備えており、蓄冷材容器内の蓄冷材が、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱により冷却されるようになされている蓄冷機能付きエバポレータにおいて、
蓄冷材容器に、内圧の異常上昇時に蓄冷材を流出させる流出口が設けられ、流出口が、少なくとも一部が流出口内に嵌め入れられる栓部材により閉鎖されており、栓部材を形成する材料の熱膨張率が、蓄冷材容器を形成する材料の熱膨張率よりも小さくなっている蓄冷機能付きエバポレータ。
【0014】
2)栓部材を形成する材料の熱膨張率が、蓄冷材容器を形成する材料の熱膨張率の1/2以下である上記1)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0015】
3)栓部材を形成する材料がステンレス鋼であり、蓄冷材容器を形成する材料がアルミニウムである上記1)または2)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0016】
4)蓄冷材容器の流出口の断面形状が円形であり、栓部材の少なくとも一部分が、直径が流出口の内径よりも大きい球状、または大端径が流出口の内径よりも大きい円錐状となっている上記1)〜3)のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0017】
5)蓄冷材容器に、栓部材の飛びを防止する飛び防止部材が設けられている上記1)〜4)のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0018】
6)蓄冷材容器における流出口の周囲の部分に、外方に突出しかつ栓部材が収容された筒状部が設けられ、筒状部の外端に、爪からなる複数の飛び防止部材が設けられている上記5)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0019】
7)飛び防止部材が、栓部材を外側から押さえて流出口の開放を防止する押さえ部を兼ねている上記5)または6)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【発明の効果】
【0020】
上記1)〜7)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、蓄冷材容器に、内圧の異常上昇時に蓄冷材を流出させる流出口が設けられ、流出口が、少なくとも一部が流出口内に嵌め入れられる栓部材により閉鎖されており、栓部材を形成する材料の熱膨張率が、蓄冷材容器を形成する材料の熱膨張率よりも小さくなっているので、たとえば車両火災などにより通常の使用環境温度範囲よりも高温、たとえば100℃以上の温度にさらされた場合には、蓄冷材容器の熱膨張量が栓部材の熱膨張量よりも大きくなり、流出口の周縁部と栓部材との間に隙間が生じる。したがって、蓄冷材容器内の蓄冷材および残存空気が流出口から流出して内圧が低減され、蓄冷材容器の破裂が防止される。なお、蓄冷材封入部の強度は、通常の使用環境温度範囲、たとえば−40〜90℃の範囲内においては、液相状態の蓄冷材が密度変化するとともに、蓄冷材封入部内に残存している空気が熱膨張することにより内圧が上昇したとしても、破損しないような強度に設計されている。
【0021】
上記4)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、蓄冷材容器の流出口を栓部材により確実に閉鎖することができる。
【0022】
上記5)および6)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、たとえば車両火災などにより通常の使用環境温度範囲よりも高温、たとえば100℃以上の温度にさらされて蓄冷材容器内の蓄冷材および残存空気が流出口から流出する際に、飛び防止部材によって栓部材の飛びが防止されるので、安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の蓄冷機能付きエバポレータの全体構成を示す一部切り欠き斜視図である。
【図2】図1のA−A線拡大断面図である。
【図3】図1の蓄冷機能付きエバポレータの蓄冷材容器の一部分を拡大して示す斜視図である。
【図4】図3のB−B線拡大断面図である。
【図5】周囲の温度が通常の使用環境温度範囲よりも高温になった場合の栓部材の状態を示す垂直断面図である。
【図6】蓄冷材容器の流出口および栓部材の変形例を示す図4相当の図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0025】
以下の説明において、通風方向下流側(図1および図2に矢印Xで示す方向)を前、これと反対側を後というものとする。また、前方から後方を見た際の左右、すなわち図1の左右を左右というものとする。
【0026】
さらに、以下の説明において、「アルミニウム」という用語には、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。
【0027】
図1はこの発明による蓄冷機能付きエバポレータの全体構成を示し、図2〜図4はその要部の構成を示す。
【0028】
図1において、蓄冷機能付きエバポレータ(1)は、上下方向に間隔をおいて配置された左右方向にのびるアルミニウム製第1ヘッダタンク(2)およびアルミニウム製第2ヘッダタンク(3)と、両ヘッダタンク(2)(3)間に設けられた熱交換コア部(4)とを備えている。
【0029】
第1ヘッダタンク(2)は、前側(通風方向下流側)に位置する風下側上ヘッダ部(5)と、後側(通風方向上流側)に位置しかつ風下側上ヘッダ部(5)に一体化された風上側上ヘッダ部(6)とを備えている。風下側上ヘッダ部(5)の右端部に冷媒入口(7)が設けられ、風上側上ヘッダ部(6)の右端部に冷媒出口(8)が設けられている。第2ヘッダタンク(3)は、前側に位置する風下側下ヘッダ部(9)と、後側に位置しかつ風下側下ヘッダ部(9)に一体化された風上側下ヘッダ部(11)とを備えている。第2ヘッダタンク(3)の風下側下ヘッダ部(9)内と風上側下ヘッダ部(11)内とは、両下ヘッダ部(9)(11)の右端部に跨って接合され、かつ内部が通路となった連通部材(12)を介して通じさせられている。
【0030】
図1および図2に示すように、熱交換コア部(4)には、上下方向にのびるとともに幅方向が通風方向(前後方向)を向いた複数のアルミニウム押出形材製扁平状冷媒流通管(13)が、左右方向に間隔をおいて並列状に配置されている。ここでは、前後方向に間隔をおいて配置された2つの冷媒流通管(13)からなる複数の組(14)が左右方向に間隔をおいて配置されており、前後の冷媒流通管(13)よりなる組(14)の隣り合うものどうしの間に通風間隙(15)が形成されている。前側の冷媒流通管(13)の上端部は風下側上ヘッダ部(5)に接続されるとともに、同下端部は風下側下ヘッダ部(9)に接続されている。また、後側の冷媒流通管(13)の上端部は風上側上ヘッダ部(6)に接続されるとともに、同下端部は風上側下ヘッダ部(11)に接続されている。
【0031】
熱交換コア部(4)における全通風間隙(15)のうち一部の複数の通風間隙(15)でかつ隣接していない通風間隙(15)において、蓄冷材(図示略)が封入されたアルミニウム製蓄冷材容器(16)が、前後両冷媒流通管(13)に跨るように配置されている。また、残りの通風間隙(15)に、両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートからなるコルゲート状のアウターフィン(17)が、前後両冷媒流通管(13)に跨るように配置されて通風間隙(15)を形成する左右両側の組(14)を構成する前後両冷媒流通管(13)にろう付されており、蓄冷材容器(16)が配置された通風間隙(15)の両側の通風間隙(15)にそれぞれアウターフィン(17)が配置されている。また、左右両端の冷媒流通管(13)の組(14)の外側にも両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートからなるアウターフィン(17)が配置されて前後両冷媒流通管(13)にろう付され、さらに左右両端のアウターフィン(17)の外側にアルミニウム製サイドプレート(18)が配置されてアウターフィン(17)にろう付されている。左右両端のアウターフィン(17)とサイドプレート(18)との間も通風間隙となっている。
【0032】
蓄冷材容器(16)は幅方向を前後方向に向けた扁平状であり、前側冷媒流通管(13)の前側縁よりも後方に位置し、かつ各組(14)の前後2つの冷媒流通管(13)にろう付された本体部(21)と、本体部(21)の前側縁部(風下側縁部)に連なるとともに前側冷媒流通管(13)の前側縁よりも前方(通風方向外側)に張り出すように設けられた外方張り出し部(22)とを備えている。蓄冷材容器(16)の本体部(21)の左右方向の寸法は全体に等しくなっている。蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(22)は、上下方向の寸法が本体部(21)の上下方向の寸法と等しく、かつ左右方向の寸法が本体部(21)の左右方向の寸法よりも大きくなっており、本体部(21)に対して左右方向外方に膨出している。外方張り出し部(22)の左右方向の寸法は、冷媒流通管(13)の左右方向の寸法である管高さの2倍に、蓄冷材容器(16)の本体部(21)の左右方向の寸法を加えた高さと等しくなっている。蓄冷材容器(16)内に、前後方向にのびる波頂部、前後方向にのびる波底部、および波頂部と波底部とを連結する連結部よりなるコルゲート状のアルミニウム製インナーフィン(23)が、本体部(21)から外方張り出し部(22)に至るように配置されており、波底部および波頂部が蓄冷材容器(16)の本体部(21)の左右両側壁にろう付されている。
【0033】
蓄冷材容器(16)は、両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートにプレス加工が施されて本体部(21)および外方張り出し部(22)を形成する膨出部(21a)(22a)が形成され、かつ周縁部どうしが互いにろう付された2枚の略縦長方形状アルミニウム板(24)よりなる。そして、2枚のアルミニウム板(24)を、インナーフィン(23)を間に挟んで膨出部(21a)(22a)の開口どうしが対向するように組み合わせ、この状態で両アルミニウム板(24)の周縁部どうしおよび両アルミニウム板(24)とインナーフィン(23)とをろう付することによって蓄冷材容器(16)が形成されている。したがって、蓄冷材容器(16)は、両アルミニウム板(24)を構成するアルミニウムブレージングシートの芯層によって形成されていることになる。
【0034】
蓄冷材容器(16)内へ充填される蓄冷材としては、凝固点が5〜10℃程度に調整されたパラフィン系潜熱蓄冷材が用いられる。具体的には、ペンタデカン、テトラデカンなどが用いられる。蓄冷材は、蓄冷材容器(16)の上端近傍まで存在するように蓄冷材容器(16)内に封入されている。なお、蓄冷材容器(16)の強度は、通常の使用環境温度範囲、たとえば−40〜90℃の範囲内においては、液相状態の蓄冷材が密度変化するとともに、蓄冷材容器(16)内に残存している空気が熱膨張することにより内圧が上昇したとしても、破損しないような強度に設計されている。
【0035】
アウターフィン(17)は、前後方向にのびる波頂部、前後方向にのびる波底部、および波頂部と波底部とを連結する連結部よりなるコルゲート状である。アウターフィン(17)は、前側冷媒流通管(13)の前側縁よりも後方に位置し、かつ各組(14)の前後の冷媒流通管(13)にろう付されたフィン本体部(25)と、フィン本体部(25)の前側縁に連なるとともに後側冷媒流通管(13)の前側縁よりも前方に突出するように設けられた外方突出部(26)とを備えている。そして、蓄冷材容器(16)が配置された通風間隙(15)の両隣の通風間隙(15)に配置されたアウターフィン(17)の外方突出部(26)が、蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(22)の左右両側面にろう付されている。また、隣接するアウターフィン(17)の外方突出部(26)間にはアルミニウム製スペーサ(27)が配置されており、外方突出部(26)にろう付されている。
【0036】
図3および図4に示すように、蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(22)の上端に、内圧の異常上昇時に蓄冷材を流出させる流出口(30)が設けられており、流出口(30)が、少なくとも一部が流出口(30)内に嵌め入れられる栓部材(31)により閉鎖されている。
【0037】
流出口(30)は、蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(22)の上壁に平面から見て円形の貫通穴(32)が形成されるとともに、外方張り出し部(22)の上壁における貫通穴(32)の周囲の部分に上方突出状の筒状フランジ部(34)が一体に形成され、貫通穴(32)および筒状フランジ部(34)内にアルミニウム製の段付き円筒状部材(33)が嵌め入れられてろう付などによって固定されることにより設けられている。貫通穴(32)および筒状フランジ部(34)は、蓄冷材容器(16)を構成する両アルミニウム板(24)における外方張り出し部(22)を形成する膨出部(22a)に跨って設けられている。段付き円筒状部材(33)は、小径部(35)と、小径部(35)の上側にテーパ部(36)を介して一体に形成されかつ蓄冷材容器(16)の外側に突出するとともに、栓部材(31)を収容する筒状部になる大径部(37)とよりなる。小径部(35)は、上端は筒状フランジ部(34)の上端とほぼ同一高さ位置あるとともに、下端部が外方張り出し部(22)内に突出するように筒状フランジ部(34)および貫通穴(32)内に通され、この状態で筒状フランジ部(34)にろう付されている。そして、段付き円筒状部材(33)の小径部(35)の円筒状内部通路が流出口(30)となっている。ここで、蓄冷材容器(16)を構成する両アルミニウム板(24)を形成するアルミニウムブレージングシートの芯層と、段付き円筒状部材(33)を形成するアルミニウムとは同一材質であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0038】
栓部材(31)は、流出口(30)の内径よりも大きくかつ段付き円筒状部材(33)の大径部(37)の内径よりも小さい直径を有する球状であり、大径部(37)内に収容された状態でその一部が流出口(30)内に嵌め入れられ、流出口(30)が栓部材(31)により閉鎖されている。なお、栓部材(31)は、少なくとも一部分が、流出口(30)の内径よりも大きくかつ段付き円筒状部材(33)の大径部(37)の内径よりも小さい直径を有する球状であってもよい。また、段付き円筒状部材(33)の大径部(37)の上端に、径方向内方に突出した爪からなりかつ栓部材(31)の飛びを防止する複数の飛び防止部材(38)が周方向に間隔をおいて一体に設けられている。飛び防止部材(38)は、栓部材(31)を外側から押さえて小径部(35)の上端に押し付けることによって、流出口(30)の開放を防止する押さえ部を兼ねている。栓部材(31)は、蓄冷材容器(16)を含めて蓄冷機能付きエバポレータ(1)の全体を全ての部品を一括してろう付した後に、蓄冷材容器(16)に装着される。栓部材(31)の装着の前には、飛び防止部材(38)は図3に鎖線で示すように、大径部(37)の軸線方向に真っ直ぐに上方にのびており、栓部材(31)が大径部(37)内に入れられた後に径方向内方に曲げられる。
【0039】
ここで、栓部材(31)を形成する材料の熱膨張率が、蓄冷材容器(16)を構成するアルミニウム板(24)の芯層および段付き円筒状部材(33)を構成するアルミニウムの熱膨張率よりも小さくなっており、たとえば栓部材(31)を形成する材料の熱膨張率が、蓄冷材容器(16)を構成するアルミニウム板(24)の芯層および段付き円筒状部材(33)を構成するアルミニウムの熱膨張率の1/2以下であることが好ましい。具体的に例示すれば、蓄冷材容器(16)を構成するアルミニウム板(24)の芯層および段付き円筒状部材(33)を構成するアルミニウムが、熱膨張率が23×10−6/℃であるJIS A3003からなり、栓部材(31)が、熱膨張率が10.4×10−6/℃であるJIS SUS410からなることが好ましい。
【0040】
上述した蓄冷機能付きエバポレータ(1)は、車両のエンジンを駆動源とする圧縮機、圧縮機から吐出された冷媒を冷却するコンデンサ(冷媒冷却器)、コンデンサを通過した冷媒を減圧する膨張弁(減圧器)とともに冷凍サイクルを構成し、カーエアコンとして、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両、たとえば自動車に搭載される。そして、圧縮機が作動している場合には、圧縮機で圧縮されてコンデンサおよび膨張弁を通過した低圧の気液混相の2相冷媒が、冷媒入口(7)を通って蓄冷機能付きエバポレータ(1)の風下側上ヘッダ部(5)内に入り、前側の全冷媒流通管(13)を通って風下側下ヘッダ部(9)内に流入する。風下側下ヘッダ部(9)内に入った冷媒は、連通部材(12)を通って風上側下ヘッダ部(11)内に入った後、後側の全冷媒流通管(13)を通って出口ヘッダ部(6)内に流入し、冷媒出口(8)から流出する。そして、冷媒が冷媒流通管(13)内を流れる間に、通風間隙(15)を通過する空気と熱交換をし、冷媒は気相となって流出する。
【0041】
このとき、冷媒流通管(13)内を流れる冷媒の有する冷熱によって蓄冷材容器(16)の本体部(21)内の蓄冷材が冷却され、さらに本体部(21)内の冷却された蓄冷材の有する冷熱がインナーフィン(23)を介して蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(22)内の蓄冷材に伝えられるとともに、通風間隙(15)を通って冷媒により冷やされた空気の有する冷熱が外方張り出し部(22)内の蓄冷材に伝えられ、その結果蓄冷材容器(16)内全体の蓄冷材に冷熱が蓄えられる。
【0042】
圧縮機が停止した場合には、蓄冷材容器(16)の本体部(21)および外方張り出し部(22)内の蓄冷材の有する冷熱が、インナーフィン(23)を介して本体部(21)および外方張り出し部(22)の左右両側壁に伝えられる。本体部(21)の左右両側壁に伝えられた冷熱は、冷媒流通管(13)を通過し、当該冷媒流通管(13)にろう付されているアウターフィン(17)のフィン本体部(25)を介して蓄冷材容器(16)が配置されている通風間隙(15)の両隣の通風間隙(15)を通過する空気に伝えられる。外方張り出し部(22)の左右両側壁に伝えられた冷熱は、外方張り出し部(22)の左右両側面にろう付されたアウターフィン(17)の外方張り出し部(26)を介して通風間隙(15)を通過する空気に伝えられる。したがって、エバポレータ(1)を通過した風の温度が上昇したとしても、当該風は冷却されるので、冷房能力の急激な低下が防止される。
【0043】
たとえば車両火災などによって、周囲の温度が通常の使用環境温度範囲よりも高温、たとえば100℃以上の温度になると、液相状態の蓄冷材の密度変化および蓄冷材容器(16)内に残存している空気の熱膨張が顕著になって、蓄冷材容器(16)の内圧が異常に上昇しようとする。しかしながら、栓部材(31)も加熱されることになり、蓄冷材容器(16)および段付き円筒状部材(33)の熱膨張量が栓部材(31)の熱膨張量よりも大きくなって、図5に示すように、流出口(30)の周縁部と栓部材(31)との間に隙間が生じる。したがって、蓄冷材容器(16)内の蓄冷材および残存空気が流出口(30)から流出して内圧が低減され、蓄冷材容器(16)の破裂が防止される。
【0044】
図6は蓄冷材容器(16)に設けられかつ内圧の異常上昇時に蓄冷材を流出させる流出口を閉鎖する栓部材の変形例を示す。
【0045】
図6に示す栓部材(40)の場合、下部が、下方に向かって縮径されかつ流出口(30)の内径よりも大きい大端径を有する円錐状となっており、上部が、円錐部(41)の大端径と等しい直径を有する円柱状となっている。円柱部を(42)で示す。栓部材(40)は、上述した栓部材(31)と同じ材料で形成される。栓部材(40)は、円錐部(41)の外周円錐面が段付き円筒状部材(33)のテーパ部(36)の内周面に沿わされるとともに、円柱部(42)の外周面が大径部(37)の内周面に沿わされた状態で、円錐部(41)の下部が流出口(30)内に嵌め入れられ、流出口(30)が栓部材(40)により閉鎖されている。なお、栓部材(40)は、全体に円錐状であってもよい。また、栓部材(40)は、飛び防止部材(38)により外側から押さえられて小径部(35)の上端に押し付けられ、これにより流出口(30)の開放が防止されている。
【0046】
たとえば車両火災などによって、周囲の温度が通常の使用環境温度範囲よりも高温、たとえば100℃以上の温度になると、液相状態の蓄冷材の密度変化および蓄冷材容器(16)内に残存している空気の熱膨張が顕著になって、蓄冷材容器(16)の内圧が異常に上昇しようとする。しかしながら、栓部材(40)も加熱されることになり、蓄冷材容器(16)および段付き円筒状部材(33)の熱膨張量が栓部材(40)の熱膨張量よりも大きくなって、流出口(30)の周縁部と栓部材(40)の円錐部(41)との間に隙間が生じる。したがって、蓄冷材容器(16)内の蓄冷材および残存空気が流出口(30)から流出して内圧が低減され、蓄冷材容器(16)の破裂が防止される。
【0047】
上述した実施形態においては、蓄冷材容器(16)の流出口(30)は、蓄冷材容器(16)に段付き円筒状部材(33)を、貫通穴(32)に挿入した状態で固定することにより設けられているが、これに限定されるものではなく、円筒状部材を貫通穴(32)に挿入した状態で固定することにより設けたり、あるいは蓄冷材容器(16)の周壁に一体に設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
この発明による蓄冷機能付きエバポレータは、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両のカーエアコンを構成する冷凍サイクルに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0049】
(1):蓄冷機能付きエバポレータ
(13):冷媒流通管
(16):蓄冷材容器
(30):流出口
(31)(40):栓部材
(33):段付き円筒状部材
(37):大径部(筒状部)
(38):飛び防止部材
(41):円錐部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の冷媒流通管と、内部に蓄冷材が封入された複数の金属製蓄冷材容器とを備えており、蓄冷材容器内の蓄冷材が、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱により冷却されるようになされている蓄冷機能付きエバポレータにおいて、
蓄冷材容器に、内圧の異常上昇時に蓄冷材を流出させる流出口が設けられ、流出口が、少なくとも一部が流出口内に嵌め入れられる栓部材により閉鎖されており、栓部材を形成する材料の熱膨張率が、蓄冷材容器を形成する材料の熱膨張率よりも小さくなっている蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項2】
栓部材を形成する材料の熱膨張率が、蓄冷材容器を形成する材料の熱膨張率の1/2以下である請求項1記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項3】
栓部材を形成する材料がステンレス鋼であり、蓄冷材容器を形成する材料がアルミニウムである請求項1または2記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項4】
蓄冷材容器の流出口の断面形状が円形であり、栓部材の少なくとも一部分が、直径が流出口の内径よりも大きい球状、または大端径が流出口の内径よりも大きい円錐状となっている請求項1〜3のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項5】
蓄冷材容器に、栓部材の飛びを防止する飛び防止部材が設けられている請求項1〜4のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項6】
蓄冷材容器における流出口の周囲の部分に、外方に突出しかつ栓部材が収容された筒状部が設けられ、筒状部の外端に、爪からなる複数の飛び防止部材が設けられている請求項5記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項7】
飛び防止部材が、栓部材を外側から押さえて流出口の開放を防止する押さえ部を兼ねている請求項5または6記載の蓄冷機能付きエバポレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−88016(P2013−88016A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228562(P2011−228562)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(512025676)株式会社ケーヒン・サーマル・テクノロジー (25)
【Fターム(参考)】