蓄熱パネル体
【課題】建材に用いるに適切な熱応答性に調整できる蓄熱パネル体を提供する
【解決手段】複数の袋状凹部13を備える一対のパネル材2を形成し、各パネル材2の袋状凹部13の底部同士を当接させ各パネル材2を重ね合わせてパネル体8を形成し、一対のパネル材2間の互いに連通した隙間12の部分に蓄熱材5を充填して蓄熱パネル体1を構成した。
【解決手段】複数の袋状凹部13を備える一対のパネル材2を形成し、各パネル材2の袋状凹部13の底部同士を当接させ各パネル材2を重ね合わせてパネル体8を形成し、一対のパネル材2間の互いに連通した隙間12の部分に蓄熱材5を充填して蓄熱パネル体1を構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱パネル体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、建築構造物の壁や天井に埋め込んで使用される構造体であって、部屋の温度を快適に保つアクティブ蓄熱構造体が知られている(例えば、特許文献1参照)。このアクティブ蓄熱構造体には、融解と凝固の温度が適切に調整されて所望の蓄熱性能を発揮する蓄熱体を有したパネル状の蓄熱パネル体が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−176923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、建物の壁や天井に蓄熱パネル体を使用した場合、外気温度に対して当該蓄熱パネル体の熱応答性が良すぎると弊害が生じる。例えば、夏季に冷房している室内では、外気温により蓄熱パネル体が暖められるが、室内との温度差が5℃程度になると蓄熱パネル体の表面に結露が生じる問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、建物の壁や天井の蓄熱体として利用するに適切な熱応答性を有する蓄熱パネル体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、複数の袋状凹部を備える一対のパネル材を形成し、各パネル材の袋状凹部の底部同士を当接させ各パネル材を重ね合わせてパネル体を形成し、一対のパネル材間の互いに連通した隙間部分に潜熱型の蓄熱材を充填したことを特徴とする蓄熱パネル体を提供する。
【0007】
また本発明は、上記蓄熱パネル体において、前記パネル体の表裏面に樹脂製の硬質シートを重ね合わせ、これらの硬質シートを前記パネル体の縁に沿って溶着し前記蓄熱材を密封する容器を形成したことを特徴とする。
【0008】
また本発明は、上記蓄熱パネル体において、前記蓄熱材は、吸熱ピークと放熱ピークの間に温度差を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄熱パネル体。
【0009】
また本発明は、上記蓄熱パネル体において、輻射熱を反射する輻射熱反射層が表面に形成された耐火板で前記パネル体を覆い耐火性を持たせたことを特徴とする。
【0010】
また本発明は、上記蓄熱パネル体において、前記袋状凹部が電磁波を反射する反射面を構成することを特徴とする。
【0011】
また本発明は、上記蓄熱パネル体において、前記袋状凹部が前記底部に向かって縮径することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パネル体の中に袋状凹部が点在するため、該パネル体に充填された潜熱型の蓄熱材を熱が伝導する際に適度な抵抗となり、袋状凹部がない場合に比べて蓄熱材の熱応答性が緩やかになる。これにより、建物の壁や天井の蓄熱体として利用するに適切な熱応答性が得られる。
また、蓄熱材に袋状凹部が点在するため、蓄熱材の深部(厚さ方向)にまで袋状凹部の表面を伝って空気層の熱が伝えられるため熱交換効率の向上が得られる。
更に、袋状凹部が形成された2枚のパネル材を貼り合わせるだけで、上記のような各種の効果を有するパネル体を簡単に作ることができ、また、袋状凹部の底部同士が当接するパネル構造であるから剛性が高く軽量な蓄熱パネル体となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るアクティブソーラーシステムを利用した建物の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る蓄熱パネル体の構成を示す斜視図である。
【図3】蓄熱パネル体の断面図である。
【図4】蓄熱材の示差走査熱量測定の測定結果を示す図である。
【図5】蓄熱パネル体の潜熱及び放熱の特性を示す図である。
【図6】室温変化の比較試験の結果を示す図である。
【図7】蓄熱パネル体の製造方法を示す図である。
【図8】蓄熱パネル体の製造方法を示す図である。
【図9】蓄熱パネル体の製造方法を示す図である。
【図10】蓄熱パネル体の壁面への設置態様を示す図である。
【図11】蓄熱パネル体の壁面への設置態様を示す断面図である。
【図12】第2実施形態に係る蓄熱パネル体の構成を示す断面図である。
【図13】第2実施形態に係る蓄熱パネル体の他の構成を示す断面図である。
【図14】第3実施形態に係る蓄熱パネル体の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付した図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
図1は、アクティブソーラーシステムを利用した建物の断面図である。
一般に、建物の壁、床、天井材等に蓄熱パネル体1を配置したアクティブソーラーと呼称される太陽熱蓄熱構造物が知られている。蓄熱パネル体1は、外気が高い場合には、それを蓄熱して室内に熱伝導させず、外気が低い場合には、内気の熱を蓄熱して室外に熱伝導させず、これによって室内の居住空間の快適性を確保する。
【0015】
本実施形態の建物37は、従来型の木造建築物であり基礎37Aの上につか37Bが配置され、該つか37Bの上に土台37Cが配置され、土台37Cの上に根太37Dが掛け渡され、根太37Dの上に床材37Eが貼られて床部が構成されている。符号38は壁構造であり、39は天井材である。
建物37の特に壁面は外気の温度の影響を受ける部分であり、壁構造38には、蓄熱パネル体1が配置され、その室内側の面には内壁板や壁の仕上げ材40が貼られている。床部の根太37D間には、上面が床材37Eの裏面に接触した状態で蓄熱パネル体1が配置され、その下部に電気式床暖房機としてのヒーター43が敷設され、ヒーター43の下部が断熱材41で覆われている。また、天井材39の上部に蓄熱パネル体1が配置され、その上部には断熱材42が敷設されている。
【0016】
本アクティブソーラーシステムでは、壁構造38、天井材39及び床材37Eの各内部構造に蓄熱性を持たせており、夏季においては屋外からの熱を一日、蓄熱パネル体1によって吸熱して蓄熱し、室内の温度上昇を抑制する。また、冬季においては室内の熱量によって蓄熱パネル体1に蓄熱することで、室内の熱量が建物37の外壁面、天井より外気に熱伝達されることを防止する。このように、本アクティブソーラーシステムでは、室内及び外気の温度差で蓄熱・放熱が行われため、床暖房や空調等の消費電力を抑えつつ快適性の高い室内温度環境が実現される。また床部にはヒーター43が敷設され、冬季においては料金が安い夜間電力を使用して該ヒーター43の熱を蓄熱パネル体1で吸熱して蓄熱させておくことで電力料金を抑えた床暖房が実現される。
【0017】
図2は蓄熱パネル体1の一部を切り欠いて示す斜視図であり、図3は蓄熱パネル体1の断面図である。
蓄熱パネル体1は、内部に蓄熱材5が充填されたパネル状の構造体として構成され、建材に用いて好適な寸法(例えば600mm×900mm×10mm)の略矩形に形成され、上述のように、建物37の壁や天井、床などに敷設されている。
蓄熱パネル体1は、板状の樹脂製で中空のパネル体8の表裏面を樹脂製の表面シート材9で覆って容器を形成し該容器に蓄熱材5を充填して構成されている。パネル体8は、底部に向かって縮径した所定の高さの円錐台形状(すり鉢状や円柱状でもよい)の凹部である袋状凹部13が千鳥格子状に設けられた2枚の樹脂製のパネル材2を、袋状凹部13の底部同士が当接するように重ね合わせて接合して形成されている。すなわち、パネル体8には、2枚のパネル材2の間に、胴部が括れた形状(いわゆる、砂時計形状)の多数の中空筒状体11が散在し、また、それぞれの中空筒状体11の間には互いに連通した隙間12が形成される。パネル体8にあっては、これらの中空筒状体11により剛性が高められ、また、軽量化が図られる。そして、このように剛性に優れ軽量なパネル体8を、袋状凹部13を予め設けた2枚のパネル材を貼り合わせるだけで簡単に製作できる。
上記表面シート材9は、パネル体8の縁部の隙間12を封止して、パネル体8を容器32(図9)とするものであり、この表面シート材9には樹脂製の硬質シートが用いられている。
【0018】
蓄熱材5には、固相−液相の間で状態を変化させて蓄熱する各種の潜熱型のものが使用される。特に、本実施形態では、吸熱ピークP1の温度が放熱ピークP2の温度に対して約10℃の高くなる特性を有した蓄熱材5が用いられている。
【0019】
図4は、蓄熱材5の示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry:DSC)の測定結果を示す図である。なお、この測定は、蓄熱材5をマイナス(−)70℃からプラス(+)70℃に加熱した後、マイナス(−)70℃に冷却して行われている。また、同図において、「TEMP」は温度の時間変化(TIME/min)を示し、「DSC」は熱流(Heat Flow / mW)の時間変化を示す。
この図に示すように、蓄熱材5は、マイナス(−)70℃からプラス(+)70℃に加熱される過程では約35.8℃に吸熱ピークP1が出現し、プラス(+)70℃からマイナス(−)70℃に冷却される過程では約25.8℃に放熱ピークP2が出現する。
このような蓄熱材5を蓄熱パネル体1に用いることで、図5に示すように、蓄熱パネル体1が約31℃で蓄熱し約28℃で安定放熱するパネルが実現される。
【0020】
この蓄熱パネル体1を建物37に使用することで、夏季においては、昼間の外気温上昇に伴って外気温が31℃を超え始めると、この外気温が蓄熱材5に蓄熱されることから、冷房をせずとも(又は弱い冷房能力でも)、外気温による室内温度の上昇が抑えられる。また、室内を冷房した際には、室温が28℃を下回り始めると、蓄熱材5が放熱することから、冷房による室内の冷え過ぎが防止される。すなわち、この蓄熱パネル体1を用いることで、夏季においては、冷房を使用せずとも日中の外気温の温度上昇に比して室内温度の上昇を抑えることができ、また、冷房を使用した場合でも冷房による過度の冷え過ぎを防止した快適な室温が維持される。
一方、冬季においては、室内の熱が外気に伝熱されることなく該蓄熱パネル体1に蓄熱され、さらに、日中の外気の温度も蓄熱パネル体1に蓄熱され、そして室内の温度低下に伴って蓄熱パネル体1が放熱するため、外気の温度低下に比して室内の温度低下が抑えられる。また冬季においては、安い夜間電力を使用してヒーター43で蓄熱パネル体1を40℃に加熱して蓄熱材5に蓄熱させておくことで、明け方にかけて外気温が低下し蓄熱パネル体1が28℃に冷やされたときに放熱を開始させることができる。これにより、明け方の冷え込むときに合せて室内が暖められる。このとき、蓄熱パネル体1を床材37Eの下に配置した場合には、蓄熱パネル体1と床材37Eの間の熱抵抗により、床材37Eの表面温度は約23℃程度に抑えられ快適な温度の床暖房が実現される。このように、蓄熱パネル体1を用いることで、冬季においては、外気温の温度低下に比して室内温度の低下を抑えることができ、また、夜間電力を使用して蓄熱パネル体1を加熱し蓄熱しておくことで電力料金を抑えつつ快適な室温が維持される。
【0021】
上記図4に示す熱特性を有する蓄熱材5は、例えば硫酸ナトリウム10水塩を主成分とし、食塩水及び水分を吸収した樹脂材を添加することで得られる。
【0022】
蓄熱パネル体1は、厚さが10mm程度に構成される。この蓄熱パネル体1の厚さ方向には多数の中空筒状体11が散在することから、この中空筒状体11の表面を伝って空気の熱が蓄熱パネル体1の深部(厚さ方向)にまで到達する。このため、空気と蓄熱材5との間の蓄熱、放熱が円滑に行われることとなり、蓄熱パネル体1の熱交換効率が高められる。
【0023】
一般に、建物37の壁や天井に用いる蓄熱体は、外気温の変動に対して熱応答性が良すぎると、例えば冷房時の室内において、外気の温度によって暖められた蓄熱体の表面と室内の温度との間に温度差が生じ、この蓄熱体の表面に結露が生じる。
これに対して、本実施形態の蓄熱パネル体1では、図1に示す内部構造により、中空筒状体11が蓄熱材5の中に散在するため、これら中空筒状体11が蓄熱材5の中を熱が伝わる際の抵抗として寄与し、中空筒状体11がない場合に比べて蓄熱材5の熱応答性(外気温度に対する蓄熱及び放熱の持続時間)が緩やかになる。これにより、室内の温度が外気温及び室内温度の急激な変動に追従することがなく、快適な温度域を中心として緩やかに室温を変化させることができる。
【0024】
図6は、室内の壁構造を蓄熱パネル体1又はベニヤ壁として、室内の断熱・保温効果の比較試験をした結果を示す図である。なお、ベニヤ壁にはベニヤ板にグラスウールを貼着した板材が用いられている。また、この比較試験の結果は、外気の温度が日中に高くなる夏季に、時刻8時半〜17時に亘り26℃の設定温度で冷房される室内の温度を、時刻5時〜24時の間、1時間ごとに計測してグラフ化したものである。
この比較試験から明らかなように、室内の壁構造にベニヤ壁を用いた場合、ベニヤ壁が外部の温度変動に対して熱応答性が良すぎることから、冷房中に室内温度が過度に低くなり、また、冷房終了後は外気の温度により室内温度が急激に上昇する。このように、ベニヤ壁にあっては、冷房中に室内温度が低下し過ぎるためベニヤ壁表面に結露が生じ、また、冷房時と冷房終了後の温度差が大きく、また、冷房終了後の温度変化が急であるため、人体に負担を強いることになる。
【0025】
これに対して、室内の壁構造に本実施形態の蓄熱パネル体1を用いた場合、図5を参照して説明した通り、31℃を超える外気の温度が蓄熱パネル体1に蓄熱され、また、室内が冷房で過度に冷却されるときには、蓄熱パネル体1から室内に放熱されることで、室内の過度の温度低下が抑制され、快適な一定室温に維持される。また、冷房終了に伴って蓄熱パネル体1の動作が放熱から外気温の蓄熱に切り替わるため、冷房終了時に室内温度が急激に上昇することがない。これにより、人体に優しい室内温度環境が実現できる。
【0026】
また蓄熱パネル体1は、中空筒状体11が蓄熱材5の中に散在することで、中空筒状体11がない場合に比べて蓄熱材5の熱応答性が緩やかになる。この結果、放熱時には、その放熱を長時間に亘って緩やかに継続さされることから、図6に示すように、一日の長い時間に亘って、外部の温度変化に比べて緩やかに室温が変動することとなり、快適な室内温度環境を長時間に亘って維持することができる。
【0027】
この比較試験では、蓄熱材5に上記の潜熱型を用いるとともに、厚さ10mm程度のパネル体8において、全容積に占める中空筒状体11の全体の割合を20%〜50%(すなわち、蓄熱材5の容積(隙間12の体積)と中空筒状体11の全体容積の比を8:2〜5:5)として蓄熱パネル体1を構成することで、図6に示すような、建物37の蓄熱体として用いるに最適な熱応答性が実現されている。
【0028】
また中空筒状体11の容積を変更することで、蓄熱材5の充填量や、中空筒状体11と蓄熱材5の接触面積などが変わるから、蓄熱パネル体1の蓄熱性能を変えることができ、また、蓄熱材5の熱応答性も変えることができる。中空筒状体11の容積変更は、袋状凹部13の数や寸法(開口径や深さ方向の縮径率)、形状(円錐やすり鉢状、円柱など)を変えるだけで簡単に変更可能である。
【0029】
なお、実際に建物37に設置するに際し、蓄熱パネル体1の蓄熱性能が足りない場合には、複数枚の蓄熱パネル体1を積層して使用することで蓄熱量を高めることができる。こうすることで、積層した蓄熱パネル体1の間で熱交換が生じることから、これら蓄熱パネル体1の熱応答性がより緩やかになる。また、1枚の蓄熱パネル体1の厚みが10mm程度に抑えられているため、蓄熱パネル体1を複数枚積層して建物37の蓄熱体に使用する場合でも、使用するに十分現実的な厚みのパネル体を構成することができる。
【0030】
次いで、蓄熱パネル体1の製造方法について、図7乃至図9を参照して説明する。
パネル体8は、2枚のパネル材2を貼り合わせて形成するため、図7(A)に示すように、その端面(縁部)30が開放している。したがって、パネル材2の間の隙間12に蓄熱材5を充填するためには、容器を形成する必要がある。容器の形成に際しては、端面30を閉塞するように、例えば帯状の閉塞用の板材を端面30に宛がって接合し容器を構成することが考えられる。しかしながら、この場合には、端面30が平滑な面でないと、閉塞用板材と端面30の間に隙間が生じ、蓄熱材5が漏れてしまうし、これを防止するために、端面30を平滑に面出しするのは非常に労力が要る。
【0031】
そこで、本実施形態では、次のようにして容器を形成している。
すなわち、図7(B)に示すように、パネル体8の表裏面に、樹脂製の硬質シートである表面シート材9を重ねた後、パネル体8の表裏の面全体を加熱加圧して表面シート材9を接合する。表面シート材9には、例えばPP(ポリプロピレン)やPET(ポリエチレンテレフタラート)や塩化ビニール、スチロール等の硬質な熱可塑性の樹脂材が好適に用いられる。
【0032】
次いで図8(A)に示すように、パネル体8の表裏面のいずれかの面の表面シート材9を、容器32の縁部を画定する溶着予定線I〜IVに沿って加熱しながら押圧し、パネル体8とともに熱溶着してパネル体8の周囲を封じる。次に、図8(B)に示すように、上記溶着予定線I〜IVに沿って表面シート材9を切り落として密封の容器32を形成する。
なお、表面シート材9が無い状態でもパネル体8の縁部を熱溶着することで容器32を形成することは可能であるが、この場合には、パネル体8を構成するパネル材2の厚みが十分でないと、熱溶着箇所が延びて肉薄になったときに破けて穴が生じる。これに対して、表面シート材9を用いることで、破ける危険性を容易に回避することができ、また、表面の剛性や平坦性を確保することができる。
【0033】
さて、容器32を形成した後、図8(C)に示すように、容器32の上端部32Aに蓄熱材5を注入する注入口35、及びエア抜きのためのエア抜き孔36を形成する。そして、図示しない治具で容器32を起立保持し、注入口35に接続した注入管から容器32に蓄熱材5を充填する。
そして、図9(A)に示すように、注入口35、及びエア抜き孔36の下側に規定した溶着予定線Vに沿って表面シート材9を加熱押圧して熱溶着し、図9(B)に示すように、溶着予定線Vに沿って切り落として容器32を分断する。蓄熱材5を密封した蓄熱パネル体1が形成される。
【0034】
このように、本実施形態では、パネル体8を構成する2枚のパネル材2を熱溶着して容器32を形成するため、密封性の高い容器32を簡単に製造することができる。更に、パネル体8の表裏面に、樹脂製の硬質シートから成る表面シート材9を設けて熱溶着するため、溶着部分の破けが防止され液漏れを確実に防止することができる。
【0035】
図10は、このように製造した蓄熱パネル体1を、建物37の壁面に敷設するときの設置態様を示す図である。
この蓄熱パネル体1には、その4隅に表裏に貫通する貫通孔370が予め設けられており、図10に示すように、この貫通孔370に釘375を通して壁面に釘着される。これらの貫通孔370は、例えば、樹脂製の筒部材をパネル体8の対応箇所に予め埋め込んでおき、パネル体8が表面シート材9で覆われた後に、各筒部材の両端開口を貫通させることで形成される。このように蓄熱パネル体1に筒部材を用いて貫通孔370を予め形成しておくことで、内部の蓄熱材5が漏れ出すことなく、釘や鋲を打ち付けて壁面に設置することができる。
また、図11に示すように、蓄熱パネル体1の縁部377を例えば段形状に形成し、他の蓄熱パネル体1の縁部377と互いに嵌り合う構成とすることで、蓄熱パネル体1同士の間に隙間を生じずに壁面に敷き詰め可能にしてもよい。
【0036】
このように本実施形態によれば、複数の袋状凹部13を備える一対のパネル材2を形成し、各パネル材2の袋状凹部13の底部同士を当接させ各パネル材2を重ね合わせてパネル体8を形成し、一対のパネル材2間の互いに連通した隙間12の部分に蓄熱材5を充填して蓄熱パネル体1を構成した。
【0037】
この構成によれば、パネル体8の中に袋状凹部13が点在するため、パネル体8に充填された蓄熱材5を熱が伝導する際に適度な抵抗となり、袋状凹部13が無い場合に比べて蓄熱材5の熱応答性を緩やかできる。これにより、建物37の壁や天井の蓄熱体として利用するに適切な熱応答性が得られ、夏季の結露を防止し、また、長時間に亘り快適な温度域に室温を維持できる。
また、蓄熱材5に袋状凹部13が点在するため、蓄熱材5の深部(厚さ方向)にまで袋状凹部13の表面を伝って空気層の熱が伝えられるため熱交換効率の向上が得られる。
更に、袋状凹部13が予め形成された2枚のパネル材を貼り合わせるだけで、上記のような各種の効果を有するパネル体8を簡単に作ることができ、また、袋状凹部13の底部同士が当接するパネル構造であるから剛性が高く軽量な蓄熱パネル体1が得られる。
【0038】
また本実施形態によれば、パネル体8の表裏面に樹脂製の硬質シートを表面シート材9として重ね合わせ、これらの表面シート材9をパネル体8の縁に沿って加熱加圧して溶着し密封する構成とした。
この構成によれば、パネル体8を構成する2枚のパネル材2を加熱加圧して容器32を形成するため、密封性の高い容器32を簡単に製造することができる。更に、パネル体8の表裏面に、樹脂製の硬質シートから成る表面シート材9を設けて溶着するため、溶着部分の破けが防止され液漏れを確実に防止することができる。
更に、パネル体8の表面が表面シート材9で覆われることで袋状凹部13には空気が密封されるが、空気は蓄熱材5に比べて蓄熱量が非常に小さいため、当該蓄熱パネル体1の蓄熱性能に影響を与えることがなく、蓄熱材5の充填量だけを考慮して蓄熱性能を設計することができる。すなわち、パネル体8の容積に占める袋状凹部13の容積を調節することで、蓄熱材5の充填量を調整することができ、これにより、蓄熱パネル体1の蓄熱性能を所望の性能とすることができる。このとき、袋状凹部13の容積は、袋状凹部13の数や開口径、深さ方向の縮径率を可変することで容易に調整することができる。
【0039】
[第2実施形態]
本実施形態は、電磁波遮蔽機能を備えた蓄熱パネル体について説明する。
電化製品、屋内配電線、送電線或いは、携帯電話、パソコン、コンピューター等から発する電磁波は、現代社会の生活では避けて通れない。そこで、特開2004−250643号公報に示されるように、従来、電磁波から身を守ることが可能な電磁波吸収構造物が提案されている。
これに対して、本実施形態の蓄熱パネル体100は、建物37の壁、床、天井材等に配置するに適した第1実施形態の蓄熱パネル体1に電磁波遮蔽機能を持たせることで、居住空間の電磁波遮蔽を容易に実現可能にしている。
【0040】
図12は、本実施形態に係る蓄熱パネル体100の断面図である。なお、同図において、第1実施形態の蓄熱パネル体1と同様の部材については同一の符号を付し、その説明を省略する。
蓄熱パネル体100は、パネル材2の凹部(袋状凹部)13に電磁波を反射する反射面が構成されている。すなわち、袋状凹部13の内面には電磁波遮蔽素材としてのアルミニウム箔14が張設され、このアルミニウム箔14により蓄熱パネル体100に進入する電磁波が反射される。
また本実施形態の表面シート材109は、第1実施形態の表面シート材9とは異なり、接合用樹脂シート21と、硬質樹脂シート22と、電磁波遮蔽層23とを、この順で積層して構成されている。電磁波遮蔽層23は、例えば10μm程度の厚みに形成された薄いアルミニウム箔、或いは、硬質樹脂シート22の表面に蒸着等により形成されたアルミニウム層により構成されており、蓄熱パネル体100に入射する電磁波を反射する。
【0041】
接合用樹脂シート21には、パネル体8の素材(本実施形態では、PP:ポリプロピレン)と同質の素材から成る平滑なシートが用いられている。また、硬質樹脂シート22には、例えばPET(ポリエチレンテレフタラート)や塩化ビニール、スチロール等の比較的硬質な熱可塑性の樹脂材が用いられる。この硬質樹脂シート22により、蓄熱パネル体1の平坦性及び強度が高められる。
【0042】
これら接合用樹脂シート21、硬質樹脂シート22、及び電磁波遮蔽層23には、それぞれの融点が接合用樹脂シート21<硬質樹脂シート22<電磁波遮蔽層23を満足す素材が選定されている。
すなわち、蓄熱パネル体100の成型時には、硬質樹脂シート22が溶融する程度に加熱しながら表面シート材9を押圧することで、硬質樹脂シート22の下層の接合用樹脂シート21にも適度に溶融を生じさせ、この接合用樹脂シート21とパネル体8の間の接合、接合用樹脂シート21と硬質樹脂シート22の間の接合、及び、硬質樹脂シート22と電磁波遮蔽層23の間の接合を一度に行うことができる。
【0043】
以上のような構造の蓄熱パネル体100においては、電磁波Hが入射すると、その一部H1が電磁波遮蔽層23によって反射され、残りが袋状凹部13に入射する。袋状凹部13に入射した電磁波Hは、その一部の電磁波H2が内面のアルミニウム箔14により外部に向けて反射される。これに加え、袋状凹部13は、内面が曲面を描くカップ状であるため、電磁波Hが、この袋状凹部13内で複数回の反射を繰り返し、各反射で電磁波H2の吸収や拡散、電磁波同士の干渉による打ち消し合いが生じて速やかに減衰される。このように、袋状凹部13は、電磁波の単なる反射に加え、電磁波を反復反射させることで吸収や拡散、電磁波同士の干渉を生じさせて電磁波を速やかに減衰させるので、電磁波遮蔽性に非常に優れたものとなる。
【0044】
袋状凹部13による電磁波遮蔽効果は、袋状凹部13の開口Aを大きくするほど高くなるものの、単純にそうすると、パネル体8の内部に占める隙間12の容積が減じられて充填可能な蓄熱材5の量が制限されてしまう。
そこで、本実施形態では、底部に向かって縮径するように袋状凹部13を形成している。このような構成により、パネル材2の表面では開口Aの割合を大きくして、多くの電磁波Hが袋状凹部13に導かれるようにしつつ、それぞれのパネル体8の内部では容積を十分に確保して十分な量の蓄熱材5を充填可能としている。
【0045】
なお、袋状凹部13に設けるアルミニウム箔14、及び電磁波遮蔽層23のアルミニウムは、純アルミニウムであっても、アルミニウム合金であっても良く、また、例えば袋状凹部13にアルミニウムを蒸着して電磁波反射作用を生じさせても良い。
また、アルミニウム箔14に代えて、電磁波遮蔽効果(反射効果或いは吸収効果)を有する他の金属箔を張設する構成としても良い。このとき、アルミニウム箔14や、これに代わる金属箔は、袋状凹部13の内面に隙間なく密接させて張り付いてなくとも良く、アルミニウム箔14や金属箔を袋状凹部13に宛がい、先端が細い棒などで袋状凹部13に押し込むなどすれば十分である。
【0046】
また、図13に示すように、袋状凹部13の基材となるパネル材102の素材に、電磁波を反射する特性を備えた材料を用いることで、袋状凹部13の内面を含むパネル材102の表面全体に電磁波反射特性を持たせても良い。
係るパネル材102の素材としては、PE(ポリエチレン)などの熱可塑性樹脂に、導電性カーボンなどから成る導電性繊維などの導電性充填材、或いは磁性充填材を混合した素材を用いることができ、このような熱可塑性樹脂を基材にした素材を用いることで、電磁波の遮蔽性に加え、加工成形の容易性を発揮することができる。また、パネル材102の熱伝導性が高められるため、空気との熱交換効率が高められ、結果として蓄熱パネル体100の蓄熱性能が高められる。
【0047】
このように、本実施形態の蓄熱パネル体100によれば、電磁波が袋状凹部13で反復反射されて速やかに減衰されるから、電磁波遮蔽性に優れ、建材として利用するに好適な蓄熱パネル体100が得られる。
特に、蓄熱パネル体100を電熱式床暖房機と組み合わせて使用することで、電熱式床暖房機が発する電磁波を遮蔽し、なおかつ、該床暖房機の熱を蓄熱して床暖房に利用することができるため消費電力を削減することができる。
また、この蓄熱パネル体100を蓄冷材として使用することができる。特に、表面がアルミニウムから成る電磁波遮蔽層23で覆われているため、この電磁波遮蔽層23が、蓄熱材5の温度上昇を遅延するように作用し、高い保冷効果が得られる。
【0048】
また本実施形態によれば、袋状凹部13が、底部に向かって(パネル体8の内部に向かって)縮径する構成としたため、パネル体8の表面に、複数の袋状凹部13を十分な面積で開口させつつパネル体8の内部の容積減少が抑えられ、十分な量の蓄熱材5を充填することができる。
【0049】
[第3実施形態]
本実施形態は、防耐火性を備えた耐火・蓄熱パネル体について説明する。
図14は、本実施形態に係る耐火・蓄熱パネル体200の断面図である。なお、同図において、第1実施形態の蓄熱パネル体1と同様の部材については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0050】
耐火・蓄熱パネル体200は、第1実施形態に係る蓄熱パネル体1の表面の表面シート材9を、更に、耐火板50で覆って構成されている。耐火板50は、0.4mm〜0.5mmの厚みを有する例えば金属板であり、縁部50Aを蓄熱パネル体1の両端部に沿って折り曲げることで、蓄熱パネル体1に取り付けられている。また、耐火板50の表面には、輻射熱を反射するための輻射熱反射層51が形成されている。
【0051】
なお、耐火板50には、耐火性を有する例えば鉄板やアルミニウム板、鋼板といった任意の材質の金属板、或いは、セラミック板を用いることができる。
また、蓄熱パネル体1への耐火板50の固定手法は、縁部50Aを折り曲げて固定する手法の他にも、耐火板50の裏面に、多数の楔を設けて蓄熱パネル体1の表面にとめても良い。
輻射熱反射層51は、例えば耐火板50の表面へのアルミニウムの溶射によって形成されている。なお、輻射熱反射層51の素材には、輻射熱の反射性能が高い任意の素材が使用できる。また、輻射熱反射層51の形成には、耐火板50の表面に、輻射熱反射性が得られる厚みの皮膜を形成可能であれば任意の形成手法を用いても良い。
【0052】
本実施形態の耐火・蓄熱パネル体200によれば、蓄熱パネル体1の表面が耐火板50で覆われることで、建材に用いて好適な耐火性を備えた蓄熱パネル体が得られる。
特に、本実施形態の耐火・蓄熱パネル体200においては、内部に多数の中空筒状体11が形成されているため、これら中空筒状体11を介して耐火板50から蓄熱パネル体1の裏面への熱移動が生じ易くなり、防耐火性能を向上に寄与する。また、蓄熱パネル体1の蓄熱材5には、固相−液相の間で状態を変化させて蓄熱する潜熱型のものが使用されるため、蓄熱パネル体1のパネル材2が熱で破けた場合でも、液体の蓄熱材5が漏れ出るだけなので、不燃性の点でも有利なものとなる。
【0053】
さらに、本実施形態の耐火・蓄熱パネル体200によれば、吸熱ピークP1が35.8℃、放熱ピークP2が25.8℃という蓄熱材5を用いているため、吸熱ピークP1と放熱ピークP2の間の10℃の温度差により、固体−液体の相変化時に1kgあたり800kcal(1cal=4.18605J)という大きな熱量を蓄熱材5に蓄熱できる。
すなわち、耐火・蓄熱パネル体200を、厚みが10mmのときに1m2あたり10kgの蓄熱材5が入るように構成すると、この耐火・蓄熱パネル体200には4000kcalの熱量を蓄熱できることとなる。
このような耐火・蓄熱パネル体200によれば、火災時に加わる熱量を蓄熱材5で大量に吸収できるため、高温環境下でも、より長い時間耐えることができ、防耐火性能を大きく向上させることができる。
また、本実施形態の耐火・蓄熱パネル体200において、中空筒状体11の径や数、さらには蓄熱パネル体1の厚みを変えるだけで、所望の防耐火性能を簡単に得ることができる。
【0054】
なお、耐火・蓄熱パネル体200において、第2実施形態の蓄熱パネル体100と同様に、パネル材2の凹部(袋状凹部)13に電磁波を反射する反射面を形成して電磁波遮蔽性を持たせても良い。
【0055】
上述した各実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形及び応用が可能であることは勿論である。
例えば、保冷車両の保冷庫の壁面に蓄熱パネル体1、100、或いは、耐火・蓄熱パネル体200を設置し、各蓄熱パネル体1、100、或いは、耐火・蓄熱パネル体200には、8%の塩水を使用した弱酸性の蓄熱材5を予め充填しておくことで、マイナス5℃以下の温度に庫内を保冷することができる。
【0056】
上述した第1〜第3実施形態において、中空筒状体11を構成する袋状凹部13の断面形状をカップ状としたが、これに限らず、円錐状や筒状(円柱や多角柱)にしても良い。また、中空筒状体11の内部が仕切られずに蓄熱パネル体1の表裏に貫通していても良い。
【符号の説明】
【0057】
1、100 蓄熱パネル体
200 耐火・蓄熱パネル体
2、102 パネル材
5 蓄熱材
8 パネル体
9、109 表面シート材
11 中空筒状体
12 隙間
13 袋状凹部
14 アルミニウム箔
21 接合用樹脂シート
22 硬質樹脂シート
23 電磁波遮蔽層
50 耐火板
51 輻射熱反射層
H 電磁波
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱パネル体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、建築構造物の壁や天井に埋め込んで使用される構造体であって、部屋の温度を快適に保つアクティブ蓄熱構造体が知られている(例えば、特許文献1参照)。このアクティブ蓄熱構造体には、融解と凝固の温度が適切に調整されて所望の蓄熱性能を発揮する蓄熱体を有したパネル状の蓄熱パネル体が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−176923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、建物の壁や天井に蓄熱パネル体を使用した場合、外気温度に対して当該蓄熱パネル体の熱応答性が良すぎると弊害が生じる。例えば、夏季に冷房している室内では、外気温により蓄熱パネル体が暖められるが、室内との温度差が5℃程度になると蓄熱パネル体の表面に結露が生じる問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、建物の壁や天井の蓄熱体として利用するに適切な熱応答性を有する蓄熱パネル体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、複数の袋状凹部を備える一対のパネル材を形成し、各パネル材の袋状凹部の底部同士を当接させ各パネル材を重ね合わせてパネル体を形成し、一対のパネル材間の互いに連通した隙間部分に潜熱型の蓄熱材を充填したことを特徴とする蓄熱パネル体を提供する。
【0007】
また本発明は、上記蓄熱パネル体において、前記パネル体の表裏面に樹脂製の硬質シートを重ね合わせ、これらの硬質シートを前記パネル体の縁に沿って溶着し前記蓄熱材を密封する容器を形成したことを特徴とする。
【0008】
また本発明は、上記蓄熱パネル体において、前記蓄熱材は、吸熱ピークと放熱ピークの間に温度差を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄熱パネル体。
【0009】
また本発明は、上記蓄熱パネル体において、輻射熱を反射する輻射熱反射層が表面に形成された耐火板で前記パネル体を覆い耐火性を持たせたことを特徴とする。
【0010】
また本発明は、上記蓄熱パネル体において、前記袋状凹部が電磁波を反射する反射面を構成することを特徴とする。
【0011】
また本発明は、上記蓄熱パネル体において、前記袋状凹部が前記底部に向かって縮径することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パネル体の中に袋状凹部が点在するため、該パネル体に充填された潜熱型の蓄熱材を熱が伝導する際に適度な抵抗となり、袋状凹部がない場合に比べて蓄熱材の熱応答性が緩やかになる。これにより、建物の壁や天井の蓄熱体として利用するに適切な熱応答性が得られる。
また、蓄熱材に袋状凹部が点在するため、蓄熱材の深部(厚さ方向)にまで袋状凹部の表面を伝って空気層の熱が伝えられるため熱交換効率の向上が得られる。
更に、袋状凹部が形成された2枚のパネル材を貼り合わせるだけで、上記のような各種の効果を有するパネル体を簡単に作ることができ、また、袋状凹部の底部同士が当接するパネル構造であるから剛性が高く軽量な蓄熱パネル体となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るアクティブソーラーシステムを利用した建物の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る蓄熱パネル体の構成を示す斜視図である。
【図3】蓄熱パネル体の断面図である。
【図4】蓄熱材の示差走査熱量測定の測定結果を示す図である。
【図5】蓄熱パネル体の潜熱及び放熱の特性を示す図である。
【図6】室温変化の比較試験の結果を示す図である。
【図7】蓄熱パネル体の製造方法を示す図である。
【図8】蓄熱パネル体の製造方法を示す図である。
【図9】蓄熱パネル体の製造方法を示す図である。
【図10】蓄熱パネル体の壁面への設置態様を示す図である。
【図11】蓄熱パネル体の壁面への設置態様を示す断面図である。
【図12】第2実施形態に係る蓄熱パネル体の構成を示す断面図である。
【図13】第2実施形態に係る蓄熱パネル体の他の構成を示す断面図である。
【図14】第3実施形態に係る蓄熱パネル体の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付した図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
図1は、アクティブソーラーシステムを利用した建物の断面図である。
一般に、建物の壁、床、天井材等に蓄熱パネル体1を配置したアクティブソーラーと呼称される太陽熱蓄熱構造物が知られている。蓄熱パネル体1は、外気が高い場合には、それを蓄熱して室内に熱伝導させず、外気が低い場合には、内気の熱を蓄熱して室外に熱伝導させず、これによって室内の居住空間の快適性を確保する。
【0015】
本実施形態の建物37は、従来型の木造建築物であり基礎37Aの上につか37Bが配置され、該つか37Bの上に土台37Cが配置され、土台37Cの上に根太37Dが掛け渡され、根太37Dの上に床材37Eが貼られて床部が構成されている。符号38は壁構造であり、39は天井材である。
建物37の特に壁面は外気の温度の影響を受ける部分であり、壁構造38には、蓄熱パネル体1が配置され、その室内側の面には内壁板や壁の仕上げ材40が貼られている。床部の根太37D間には、上面が床材37Eの裏面に接触した状態で蓄熱パネル体1が配置され、その下部に電気式床暖房機としてのヒーター43が敷設され、ヒーター43の下部が断熱材41で覆われている。また、天井材39の上部に蓄熱パネル体1が配置され、その上部には断熱材42が敷設されている。
【0016】
本アクティブソーラーシステムでは、壁構造38、天井材39及び床材37Eの各内部構造に蓄熱性を持たせており、夏季においては屋外からの熱を一日、蓄熱パネル体1によって吸熱して蓄熱し、室内の温度上昇を抑制する。また、冬季においては室内の熱量によって蓄熱パネル体1に蓄熱することで、室内の熱量が建物37の外壁面、天井より外気に熱伝達されることを防止する。このように、本アクティブソーラーシステムでは、室内及び外気の温度差で蓄熱・放熱が行われため、床暖房や空調等の消費電力を抑えつつ快適性の高い室内温度環境が実現される。また床部にはヒーター43が敷設され、冬季においては料金が安い夜間電力を使用して該ヒーター43の熱を蓄熱パネル体1で吸熱して蓄熱させておくことで電力料金を抑えた床暖房が実現される。
【0017】
図2は蓄熱パネル体1の一部を切り欠いて示す斜視図であり、図3は蓄熱パネル体1の断面図である。
蓄熱パネル体1は、内部に蓄熱材5が充填されたパネル状の構造体として構成され、建材に用いて好適な寸法(例えば600mm×900mm×10mm)の略矩形に形成され、上述のように、建物37の壁や天井、床などに敷設されている。
蓄熱パネル体1は、板状の樹脂製で中空のパネル体8の表裏面を樹脂製の表面シート材9で覆って容器を形成し該容器に蓄熱材5を充填して構成されている。パネル体8は、底部に向かって縮径した所定の高さの円錐台形状(すり鉢状や円柱状でもよい)の凹部である袋状凹部13が千鳥格子状に設けられた2枚の樹脂製のパネル材2を、袋状凹部13の底部同士が当接するように重ね合わせて接合して形成されている。すなわち、パネル体8には、2枚のパネル材2の間に、胴部が括れた形状(いわゆる、砂時計形状)の多数の中空筒状体11が散在し、また、それぞれの中空筒状体11の間には互いに連通した隙間12が形成される。パネル体8にあっては、これらの中空筒状体11により剛性が高められ、また、軽量化が図られる。そして、このように剛性に優れ軽量なパネル体8を、袋状凹部13を予め設けた2枚のパネル材を貼り合わせるだけで簡単に製作できる。
上記表面シート材9は、パネル体8の縁部の隙間12を封止して、パネル体8を容器32(図9)とするものであり、この表面シート材9には樹脂製の硬質シートが用いられている。
【0018】
蓄熱材5には、固相−液相の間で状態を変化させて蓄熱する各種の潜熱型のものが使用される。特に、本実施形態では、吸熱ピークP1の温度が放熱ピークP2の温度に対して約10℃の高くなる特性を有した蓄熱材5が用いられている。
【0019】
図4は、蓄熱材5の示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry:DSC)の測定結果を示す図である。なお、この測定は、蓄熱材5をマイナス(−)70℃からプラス(+)70℃に加熱した後、マイナス(−)70℃に冷却して行われている。また、同図において、「TEMP」は温度の時間変化(TIME/min)を示し、「DSC」は熱流(Heat Flow / mW)の時間変化を示す。
この図に示すように、蓄熱材5は、マイナス(−)70℃からプラス(+)70℃に加熱される過程では約35.8℃に吸熱ピークP1が出現し、プラス(+)70℃からマイナス(−)70℃に冷却される過程では約25.8℃に放熱ピークP2が出現する。
このような蓄熱材5を蓄熱パネル体1に用いることで、図5に示すように、蓄熱パネル体1が約31℃で蓄熱し約28℃で安定放熱するパネルが実現される。
【0020】
この蓄熱パネル体1を建物37に使用することで、夏季においては、昼間の外気温上昇に伴って外気温が31℃を超え始めると、この外気温が蓄熱材5に蓄熱されることから、冷房をせずとも(又は弱い冷房能力でも)、外気温による室内温度の上昇が抑えられる。また、室内を冷房した際には、室温が28℃を下回り始めると、蓄熱材5が放熱することから、冷房による室内の冷え過ぎが防止される。すなわち、この蓄熱パネル体1を用いることで、夏季においては、冷房を使用せずとも日中の外気温の温度上昇に比して室内温度の上昇を抑えることができ、また、冷房を使用した場合でも冷房による過度の冷え過ぎを防止した快適な室温が維持される。
一方、冬季においては、室内の熱が外気に伝熱されることなく該蓄熱パネル体1に蓄熱され、さらに、日中の外気の温度も蓄熱パネル体1に蓄熱され、そして室内の温度低下に伴って蓄熱パネル体1が放熱するため、外気の温度低下に比して室内の温度低下が抑えられる。また冬季においては、安い夜間電力を使用してヒーター43で蓄熱パネル体1を40℃に加熱して蓄熱材5に蓄熱させておくことで、明け方にかけて外気温が低下し蓄熱パネル体1が28℃に冷やされたときに放熱を開始させることができる。これにより、明け方の冷え込むときに合せて室内が暖められる。このとき、蓄熱パネル体1を床材37Eの下に配置した場合には、蓄熱パネル体1と床材37Eの間の熱抵抗により、床材37Eの表面温度は約23℃程度に抑えられ快適な温度の床暖房が実現される。このように、蓄熱パネル体1を用いることで、冬季においては、外気温の温度低下に比して室内温度の低下を抑えることができ、また、夜間電力を使用して蓄熱パネル体1を加熱し蓄熱しておくことで電力料金を抑えつつ快適な室温が維持される。
【0021】
上記図4に示す熱特性を有する蓄熱材5は、例えば硫酸ナトリウム10水塩を主成分とし、食塩水及び水分を吸収した樹脂材を添加することで得られる。
【0022】
蓄熱パネル体1は、厚さが10mm程度に構成される。この蓄熱パネル体1の厚さ方向には多数の中空筒状体11が散在することから、この中空筒状体11の表面を伝って空気の熱が蓄熱パネル体1の深部(厚さ方向)にまで到達する。このため、空気と蓄熱材5との間の蓄熱、放熱が円滑に行われることとなり、蓄熱パネル体1の熱交換効率が高められる。
【0023】
一般に、建物37の壁や天井に用いる蓄熱体は、外気温の変動に対して熱応答性が良すぎると、例えば冷房時の室内において、外気の温度によって暖められた蓄熱体の表面と室内の温度との間に温度差が生じ、この蓄熱体の表面に結露が生じる。
これに対して、本実施形態の蓄熱パネル体1では、図1に示す内部構造により、中空筒状体11が蓄熱材5の中に散在するため、これら中空筒状体11が蓄熱材5の中を熱が伝わる際の抵抗として寄与し、中空筒状体11がない場合に比べて蓄熱材5の熱応答性(外気温度に対する蓄熱及び放熱の持続時間)が緩やかになる。これにより、室内の温度が外気温及び室内温度の急激な変動に追従することがなく、快適な温度域を中心として緩やかに室温を変化させることができる。
【0024】
図6は、室内の壁構造を蓄熱パネル体1又はベニヤ壁として、室内の断熱・保温効果の比較試験をした結果を示す図である。なお、ベニヤ壁にはベニヤ板にグラスウールを貼着した板材が用いられている。また、この比較試験の結果は、外気の温度が日中に高くなる夏季に、時刻8時半〜17時に亘り26℃の設定温度で冷房される室内の温度を、時刻5時〜24時の間、1時間ごとに計測してグラフ化したものである。
この比較試験から明らかなように、室内の壁構造にベニヤ壁を用いた場合、ベニヤ壁が外部の温度変動に対して熱応答性が良すぎることから、冷房中に室内温度が過度に低くなり、また、冷房終了後は外気の温度により室内温度が急激に上昇する。このように、ベニヤ壁にあっては、冷房中に室内温度が低下し過ぎるためベニヤ壁表面に結露が生じ、また、冷房時と冷房終了後の温度差が大きく、また、冷房終了後の温度変化が急であるため、人体に負担を強いることになる。
【0025】
これに対して、室内の壁構造に本実施形態の蓄熱パネル体1を用いた場合、図5を参照して説明した通り、31℃を超える外気の温度が蓄熱パネル体1に蓄熱され、また、室内が冷房で過度に冷却されるときには、蓄熱パネル体1から室内に放熱されることで、室内の過度の温度低下が抑制され、快適な一定室温に維持される。また、冷房終了に伴って蓄熱パネル体1の動作が放熱から外気温の蓄熱に切り替わるため、冷房終了時に室内温度が急激に上昇することがない。これにより、人体に優しい室内温度環境が実現できる。
【0026】
また蓄熱パネル体1は、中空筒状体11が蓄熱材5の中に散在することで、中空筒状体11がない場合に比べて蓄熱材5の熱応答性が緩やかになる。この結果、放熱時には、その放熱を長時間に亘って緩やかに継続さされることから、図6に示すように、一日の長い時間に亘って、外部の温度変化に比べて緩やかに室温が変動することとなり、快適な室内温度環境を長時間に亘って維持することができる。
【0027】
この比較試験では、蓄熱材5に上記の潜熱型を用いるとともに、厚さ10mm程度のパネル体8において、全容積に占める中空筒状体11の全体の割合を20%〜50%(すなわち、蓄熱材5の容積(隙間12の体積)と中空筒状体11の全体容積の比を8:2〜5:5)として蓄熱パネル体1を構成することで、図6に示すような、建物37の蓄熱体として用いるに最適な熱応答性が実現されている。
【0028】
また中空筒状体11の容積を変更することで、蓄熱材5の充填量や、中空筒状体11と蓄熱材5の接触面積などが変わるから、蓄熱パネル体1の蓄熱性能を変えることができ、また、蓄熱材5の熱応答性も変えることができる。中空筒状体11の容積変更は、袋状凹部13の数や寸法(開口径や深さ方向の縮径率)、形状(円錐やすり鉢状、円柱など)を変えるだけで簡単に変更可能である。
【0029】
なお、実際に建物37に設置するに際し、蓄熱パネル体1の蓄熱性能が足りない場合には、複数枚の蓄熱パネル体1を積層して使用することで蓄熱量を高めることができる。こうすることで、積層した蓄熱パネル体1の間で熱交換が生じることから、これら蓄熱パネル体1の熱応答性がより緩やかになる。また、1枚の蓄熱パネル体1の厚みが10mm程度に抑えられているため、蓄熱パネル体1を複数枚積層して建物37の蓄熱体に使用する場合でも、使用するに十分現実的な厚みのパネル体を構成することができる。
【0030】
次いで、蓄熱パネル体1の製造方法について、図7乃至図9を参照して説明する。
パネル体8は、2枚のパネル材2を貼り合わせて形成するため、図7(A)に示すように、その端面(縁部)30が開放している。したがって、パネル材2の間の隙間12に蓄熱材5を充填するためには、容器を形成する必要がある。容器の形成に際しては、端面30を閉塞するように、例えば帯状の閉塞用の板材を端面30に宛がって接合し容器を構成することが考えられる。しかしながら、この場合には、端面30が平滑な面でないと、閉塞用板材と端面30の間に隙間が生じ、蓄熱材5が漏れてしまうし、これを防止するために、端面30を平滑に面出しするのは非常に労力が要る。
【0031】
そこで、本実施形態では、次のようにして容器を形成している。
すなわち、図7(B)に示すように、パネル体8の表裏面に、樹脂製の硬質シートである表面シート材9を重ねた後、パネル体8の表裏の面全体を加熱加圧して表面シート材9を接合する。表面シート材9には、例えばPP(ポリプロピレン)やPET(ポリエチレンテレフタラート)や塩化ビニール、スチロール等の硬質な熱可塑性の樹脂材が好適に用いられる。
【0032】
次いで図8(A)に示すように、パネル体8の表裏面のいずれかの面の表面シート材9を、容器32の縁部を画定する溶着予定線I〜IVに沿って加熱しながら押圧し、パネル体8とともに熱溶着してパネル体8の周囲を封じる。次に、図8(B)に示すように、上記溶着予定線I〜IVに沿って表面シート材9を切り落として密封の容器32を形成する。
なお、表面シート材9が無い状態でもパネル体8の縁部を熱溶着することで容器32を形成することは可能であるが、この場合には、パネル体8を構成するパネル材2の厚みが十分でないと、熱溶着箇所が延びて肉薄になったときに破けて穴が生じる。これに対して、表面シート材9を用いることで、破ける危険性を容易に回避することができ、また、表面の剛性や平坦性を確保することができる。
【0033】
さて、容器32を形成した後、図8(C)に示すように、容器32の上端部32Aに蓄熱材5を注入する注入口35、及びエア抜きのためのエア抜き孔36を形成する。そして、図示しない治具で容器32を起立保持し、注入口35に接続した注入管から容器32に蓄熱材5を充填する。
そして、図9(A)に示すように、注入口35、及びエア抜き孔36の下側に規定した溶着予定線Vに沿って表面シート材9を加熱押圧して熱溶着し、図9(B)に示すように、溶着予定線Vに沿って切り落として容器32を分断する。蓄熱材5を密封した蓄熱パネル体1が形成される。
【0034】
このように、本実施形態では、パネル体8を構成する2枚のパネル材2を熱溶着して容器32を形成するため、密封性の高い容器32を簡単に製造することができる。更に、パネル体8の表裏面に、樹脂製の硬質シートから成る表面シート材9を設けて熱溶着するため、溶着部分の破けが防止され液漏れを確実に防止することができる。
【0035】
図10は、このように製造した蓄熱パネル体1を、建物37の壁面に敷設するときの設置態様を示す図である。
この蓄熱パネル体1には、その4隅に表裏に貫通する貫通孔370が予め設けられており、図10に示すように、この貫通孔370に釘375を通して壁面に釘着される。これらの貫通孔370は、例えば、樹脂製の筒部材をパネル体8の対応箇所に予め埋め込んでおき、パネル体8が表面シート材9で覆われた後に、各筒部材の両端開口を貫通させることで形成される。このように蓄熱パネル体1に筒部材を用いて貫通孔370を予め形成しておくことで、内部の蓄熱材5が漏れ出すことなく、釘や鋲を打ち付けて壁面に設置することができる。
また、図11に示すように、蓄熱パネル体1の縁部377を例えば段形状に形成し、他の蓄熱パネル体1の縁部377と互いに嵌り合う構成とすることで、蓄熱パネル体1同士の間に隙間を生じずに壁面に敷き詰め可能にしてもよい。
【0036】
このように本実施形態によれば、複数の袋状凹部13を備える一対のパネル材2を形成し、各パネル材2の袋状凹部13の底部同士を当接させ各パネル材2を重ね合わせてパネル体8を形成し、一対のパネル材2間の互いに連通した隙間12の部分に蓄熱材5を充填して蓄熱パネル体1を構成した。
【0037】
この構成によれば、パネル体8の中に袋状凹部13が点在するため、パネル体8に充填された蓄熱材5を熱が伝導する際に適度な抵抗となり、袋状凹部13が無い場合に比べて蓄熱材5の熱応答性を緩やかできる。これにより、建物37の壁や天井の蓄熱体として利用するに適切な熱応答性が得られ、夏季の結露を防止し、また、長時間に亘り快適な温度域に室温を維持できる。
また、蓄熱材5に袋状凹部13が点在するため、蓄熱材5の深部(厚さ方向)にまで袋状凹部13の表面を伝って空気層の熱が伝えられるため熱交換効率の向上が得られる。
更に、袋状凹部13が予め形成された2枚のパネル材を貼り合わせるだけで、上記のような各種の効果を有するパネル体8を簡単に作ることができ、また、袋状凹部13の底部同士が当接するパネル構造であるから剛性が高く軽量な蓄熱パネル体1が得られる。
【0038】
また本実施形態によれば、パネル体8の表裏面に樹脂製の硬質シートを表面シート材9として重ね合わせ、これらの表面シート材9をパネル体8の縁に沿って加熱加圧して溶着し密封する構成とした。
この構成によれば、パネル体8を構成する2枚のパネル材2を加熱加圧して容器32を形成するため、密封性の高い容器32を簡単に製造することができる。更に、パネル体8の表裏面に、樹脂製の硬質シートから成る表面シート材9を設けて溶着するため、溶着部分の破けが防止され液漏れを確実に防止することができる。
更に、パネル体8の表面が表面シート材9で覆われることで袋状凹部13には空気が密封されるが、空気は蓄熱材5に比べて蓄熱量が非常に小さいため、当該蓄熱パネル体1の蓄熱性能に影響を与えることがなく、蓄熱材5の充填量だけを考慮して蓄熱性能を設計することができる。すなわち、パネル体8の容積に占める袋状凹部13の容積を調節することで、蓄熱材5の充填量を調整することができ、これにより、蓄熱パネル体1の蓄熱性能を所望の性能とすることができる。このとき、袋状凹部13の容積は、袋状凹部13の数や開口径、深さ方向の縮径率を可変することで容易に調整することができる。
【0039】
[第2実施形態]
本実施形態は、電磁波遮蔽機能を備えた蓄熱パネル体について説明する。
電化製品、屋内配電線、送電線或いは、携帯電話、パソコン、コンピューター等から発する電磁波は、現代社会の生活では避けて通れない。そこで、特開2004−250643号公報に示されるように、従来、電磁波から身を守ることが可能な電磁波吸収構造物が提案されている。
これに対して、本実施形態の蓄熱パネル体100は、建物37の壁、床、天井材等に配置するに適した第1実施形態の蓄熱パネル体1に電磁波遮蔽機能を持たせることで、居住空間の電磁波遮蔽を容易に実現可能にしている。
【0040】
図12は、本実施形態に係る蓄熱パネル体100の断面図である。なお、同図において、第1実施形態の蓄熱パネル体1と同様の部材については同一の符号を付し、その説明を省略する。
蓄熱パネル体100は、パネル材2の凹部(袋状凹部)13に電磁波を反射する反射面が構成されている。すなわち、袋状凹部13の内面には電磁波遮蔽素材としてのアルミニウム箔14が張設され、このアルミニウム箔14により蓄熱パネル体100に進入する電磁波が反射される。
また本実施形態の表面シート材109は、第1実施形態の表面シート材9とは異なり、接合用樹脂シート21と、硬質樹脂シート22と、電磁波遮蔽層23とを、この順で積層して構成されている。電磁波遮蔽層23は、例えば10μm程度の厚みに形成された薄いアルミニウム箔、或いは、硬質樹脂シート22の表面に蒸着等により形成されたアルミニウム層により構成されており、蓄熱パネル体100に入射する電磁波を反射する。
【0041】
接合用樹脂シート21には、パネル体8の素材(本実施形態では、PP:ポリプロピレン)と同質の素材から成る平滑なシートが用いられている。また、硬質樹脂シート22には、例えばPET(ポリエチレンテレフタラート)や塩化ビニール、スチロール等の比較的硬質な熱可塑性の樹脂材が用いられる。この硬質樹脂シート22により、蓄熱パネル体1の平坦性及び強度が高められる。
【0042】
これら接合用樹脂シート21、硬質樹脂シート22、及び電磁波遮蔽層23には、それぞれの融点が接合用樹脂シート21<硬質樹脂シート22<電磁波遮蔽層23を満足す素材が選定されている。
すなわち、蓄熱パネル体100の成型時には、硬質樹脂シート22が溶融する程度に加熱しながら表面シート材9を押圧することで、硬質樹脂シート22の下層の接合用樹脂シート21にも適度に溶融を生じさせ、この接合用樹脂シート21とパネル体8の間の接合、接合用樹脂シート21と硬質樹脂シート22の間の接合、及び、硬質樹脂シート22と電磁波遮蔽層23の間の接合を一度に行うことができる。
【0043】
以上のような構造の蓄熱パネル体100においては、電磁波Hが入射すると、その一部H1が電磁波遮蔽層23によって反射され、残りが袋状凹部13に入射する。袋状凹部13に入射した電磁波Hは、その一部の電磁波H2が内面のアルミニウム箔14により外部に向けて反射される。これに加え、袋状凹部13は、内面が曲面を描くカップ状であるため、電磁波Hが、この袋状凹部13内で複数回の反射を繰り返し、各反射で電磁波H2の吸収や拡散、電磁波同士の干渉による打ち消し合いが生じて速やかに減衰される。このように、袋状凹部13は、電磁波の単なる反射に加え、電磁波を反復反射させることで吸収や拡散、電磁波同士の干渉を生じさせて電磁波を速やかに減衰させるので、電磁波遮蔽性に非常に優れたものとなる。
【0044】
袋状凹部13による電磁波遮蔽効果は、袋状凹部13の開口Aを大きくするほど高くなるものの、単純にそうすると、パネル体8の内部に占める隙間12の容積が減じられて充填可能な蓄熱材5の量が制限されてしまう。
そこで、本実施形態では、底部に向かって縮径するように袋状凹部13を形成している。このような構成により、パネル材2の表面では開口Aの割合を大きくして、多くの電磁波Hが袋状凹部13に導かれるようにしつつ、それぞれのパネル体8の内部では容積を十分に確保して十分な量の蓄熱材5を充填可能としている。
【0045】
なお、袋状凹部13に設けるアルミニウム箔14、及び電磁波遮蔽層23のアルミニウムは、純アルミニウムであっても、アルミニウム合金であっても良く、また、例えば袋状凹部13にアルミニウムを蒸着して電磁波反射作用を生じさせても良い。
また、アルミニウム箔14に代えて、電磁波遮蔽効果(反射効果或いは吸収効果)を有する他の金属箔を張設する構成としても良い。このとき、アルミニウム箔14や、これに代わる金属箔は、袋状凹部13の内面に隙間なく密接させて張り付いてなくとも良く、アルミニウム箔14や金属箔を袋状凹部13に宛がい、先端が細い棒などで袋状凹部13に押し込むなどすれば十分である。
【0046】
また、図13に示すように、袋状凹部13の基材となるパネル材102の素材に、電磁波を反射する特性を備えた材料を用いることで、袋状凹部13の内面を含むパネル材102の表面全体に電磁波反射特性を持たせても良い。
係るパネル材102の素材としては、PE(ポリエチレン)などの熱可塑性樹脂に、導電性カーボンなどから成る導電性繊維などの導電性充填材、或いは磁性充填材を混合した素材を用いることができ、このような熱可塑性樹脂を基材にした素材を用いることで、電磁波の遮蔽性に加え、加工成形の容易性を発揮することができる。また、パネル材102の熱伝導性が高められるため、空気との熱交換効率が高められ、結果として蓄熱パネル体100の蓄熱性能が高められる。
【0047】
このように、本実施形態の蓄熱パネル体100によれば、電磁波が袋状凹部13で反復反射されて速やかに減衰されるから、電磁波遮蔽性に優れ、建材として利用するに好適な蓄熱パネル体100が得られる。
特に、蓄熱パネル体100を電熱式床暖房機と組み合わせて使用することで、電熱式床暖房機が発する電磁波を遮蔽し、なおかつ、該床暖房機の熱を蓄熱して床暖房に利用することができるため消費電力を削減することができる。
また、この蓄熱パネル体100を蓄冷材として使用することができる。特に、表面がアルミニウムから成る電磁波遮蔽層23で覆われているため、この電磁波遮蔽層23が、蓄熱材5の温度上昇を遅延するように作用し、高い保冷効果が得られる。
【0048】
また本実施形態によれば、袋状凹部13が、底部に向かって(パネル体8の内部に向かって)縮径する構成としたため、パネル体8の表面に、複数の袋状凹部13を十分な面積で開口させつつパネル体8の内部の容積減少が抑えられ、十分な量の蓄熱材5を充填することができる。
【0049】
[第3実施形態]
本実施形態は、防耐火性を備えた耐火・蓄熱パネル体について説明する。
図14は、本実施形態に係る耐火・蓄熱パネル体200の断面図である。なお、同図において、第1実施形態の蓄熱パネル体1と同様の部材については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0050】
耐火・蓄熱パネル体200は、第1実施形態に係る蓄熱パネル体1の表面の表面シート材9を、更に、耐火板50で覆って構成されている。耐火板50は、0.4mm〜0.5mmの厚みを有する例えば金属板であり、縁部50Aを蓄熱パネル体1の両端部に沿って折り曲げることで、蓄熱パネル体1に取り付けられている。また、耐火板50の表面には、輻射熱を反射するための輻射熱反射層51が形成されている。
【0051】
なお、耐火板50には、耐火性を有する例えば鉄板やアルミニウム板、鋼板といった任意の材質の金属板、或いは、セラミック板を用いることができる。
また、蓄熱パネル体1への耐火板50の固定手法は、縁部50Aを折り曲げて固定する手法の他にも、耐火板50の裏面に、多数の楔を設けて蓄熱パネル体1の表面にとめても良い。
輻射熱反射層51は、例えば耐火板50の表面へのアルミニウムの溶射によって形成されている。なお、輻射熱反射層51の素材には、輻射熱の反射性能が高い任意の素材が使用できる。また、輻射熱反射層51の形成には、耐火板50の表面に、輻射熱反射性が得られる厚みの皮膜を形成可能であれば任意の形成手法を用いても良い。
【0052】
本実施形態の耐火・蓄熱パネル体200によれば、蓄熱パネル体1の表面が耐火板50で覆われることで、建材に用いて好適な耐火性を備えた蓄熱パネル体が得られる。
特に、本実施形態の耐火・蓄熱パネル体200においては、内部に多数の中空筒状体11が形成されているため、これら中空筒状体11を介して耐火板50から蓄熱パネル体1の裏面への熱移動が生じ易くなり、防耐火性能を向上に寄与する。また、蓄熱パネル体1の蓄熱材5には、固相−液相の間で状態を変化させて蓄熱する潜熱型のものが使用されるため、蓄熱パネル体1のパネル材2が熱で破けた場合でも、液体の蓄熱材5が漏れ出るだけなので、不燃性の点でも有利なものとなる。
【0053】
さらに、本実施形態の耐火・蓄熱パネル体200によれば、吸熱ピークP1が35.8℃、放熱ピークP2が25.8℃という蓄熱材5を用いているため、吸熱ピークP1と放熱ピークP2の間の10℃の温度差により、固体−液体の相変化時に1kgあたり800kcal(1cal=4.18605J)という大きな熱量を蓄熱材5に蓄熱できる。
すなわち、耐火・蓄熱パネル体200を、厚みが10mmのときに1m2あたり10kgの蓄熱材5が入るように構成すると、この耐火・蓄熱パネル体200には4000kcalの熱量を蓄熱できることとなる。
このような耐火・蓄熱パネル体200によれば、火災時に加わる熱量を蓄熱材5で大量に吸収できるため、高温環境下でも、より長い時間耐えることができ、防耐火性能を大きく向上させることができる。
また、本実施形態の耐火・蓄熱パネル体200において、中空筒状体11の径や数、さらには蓄熱パネル体1の厚みを変えるだけで、所望の防耐火性能を簡単に得ることができる。
【0054】
なお、耐火・蓄熱パネル体200において、第2実施形態の蓄熱パネル体100と同様に、パネル材2の凹部(袋状凹部)13に電磁波を反射する反射面を形成して電磁波遮蔽性を持たせても良い。
【0055】
上述した各実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形及び応用が可能であることは勿論である。
例えば、保冷車両の保冷庫の壁面に蓄熱パネル体1、100、或いは、耐火・蓄熱パネル体200を設置し、各蓄熱パネル体1、100、或いは、耐火・蓄熱パネル体200には、8%の塩水を使用した弱酸性の蓄熱材5を予め充填しておくことで、マイナス5℃以下の温度に庫内を保冷することができる。
【0056】
上述した第1〜第3実施形態において、中空筒状体11を構成する袋状凹部13の断面形状をカップ状としたが、これに限らず、円錐状や筒状(円柱や多角柱)にしても良い。また、中空筒状体11の内部が仕切られずに蓄熱パネル体1の表裏に貫通していても良い。
【符号の説明】
【0057】
1、100 蓄熱パネル体
200 耐火・蓄熱パネル体
2、102 パネル材
5 蓄熱材
8 パネル体
9、109 表面シート材
11 中空筒状体
12 隙間
13 袋状凹部
14 アルミニウム箔
21 接合用樹脂シート
22 硬質樹脂シート
23 電磁波遮蔽層
50 耐火板
51 輻射熱反射層
H 電磁波
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の袋状凹部を備える一対のパネル材を形成し、各パネル材の袋状凹部の底部同士を当接させ各パネル材を重ね合わせてパネル体を形成し、一対のパネル材間の互いに連通した隙間部分に潜熱型の蓄熱材を充填したことを特徴とする蓄熱パネル体。
【請求項2】
前記パネル体の表裏面に樹脂製の硬質シートを重ね合わせ、これらの硬質シートを前記パネル体の縁に沿って溶着し前記蓄熱材を密封する容器を形成したことを特徴とする請求項1に記載の蓄熱パネル体。
【請求項3】
前記蓄熱材は、吸熱ピークと放熱ピークの間に温度差を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄熱パネル体。
【請求項4】
輻射熱を反射する輻射熱反射層が表面に形成された耐火板で前記パネル体を覆い耐火性を持たせたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蓄熱パネル体。
【請求項5】
前記袋状凹部が電磁波を反射する反射面を構成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蓄熱パネル体。
【請求項6】
前記袋状凹部が前記底部に向かって縮径することを特徴とする請求項5に記載の蓄熱パネル体。
【請求項1】
複数の袋状凹部を備える一対のパネル材を形成し、各パネル材の袋状凹部の底部同士を当接させ各パネル材を重ね合わせてパネル体を形成し、一対のパネル材間の互いに連通した隙間部分に潜熱型の蓄熱材を充填したことを特徴とする蓄熱パネル体。
【請求項2】
前記パネル体の表裏面に樹脂製の硬質シートを重ね合わせ、これらの硬質シートを前記パネル体の縁に沿って溶着し前記蓄熱材を密封する容器を形成したことを特徴とする請求項1に記載の蓄熱パネル体。
【請求項3】
前記蓄熱材は、吸熱ピークと放熱ピークの間に温度差を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄熱パネル体。
【請求項4】
輻射熱を反射する輻射熱反射層が表面に形成された耐火板で前記パネル体を覆い耐火性を持たせたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蓄熱パネル体。
【請求項5】
前記袋状凹部が電磁波を反射する反射面を構成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蓄熱パネル体。
【請求項6】
前記袋状凹部が前記底部に向かって縮径することを特徴とする請求項5に記載の蓄熱パネル体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−31635(P2010−31635A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142482(P2009−142482)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(508189441)ナサコア株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(508189441)ナサコア株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]