説明

蓄熱装置

【課題】 小型化でき、冷熱及び温熱を蓄熱可能とする蓄熱装置の提供。
【解決手段】 二チタン酸カリウムを主成分とする蓄熱材料Mを収容し、電気抵抗加熱ヒータ32及び熱吸収器34hを有する蓄熱槽10と、水Wを収容し、熱吸収器34wを有し、内壁表面14に凹凸が形成された水槽12とを、開閉弁44a、44bを有する導管46aによって連結し、減圧して密閉した蓄熱槽10内と水槽12内を連通し、蓄熱材料Mが水分子を結晶の層間に吸蔵するときに、熱吸収器34wが水槽12内で気化する水Wから放出される蒸発潜熱を冷熱として回収し、熱吸収器34hが蓄熱槽10内での蓄熱材料Mの発熱を温熱として回収し、蓄熱材料Mから水分子が離脱するときに、熱吸収器34wが水槽12内で凝縮する水蒸気Vから放出される凝縮潜熱を温熱として回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温熱及び冷熱を回収可能であり、温熱及び冷熱を適時利用可能な蓄熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題が盛んに取り上げられる昨今、エネルギーの有効利用が大きな関心事となっている。日本で消費される全一次供給エネルギーの約66%が廃熱となり利用されていないという統計があるが、これらの廃熱の多くは低品位廃熱であり、再利用が困難であるという問題を有している。
一方、住宅、オフィス、工場等において、空調機器、給湯器、ボイラー等が必要不可欠な機器となっており、これらの機器によるエネルギー消費量の増大が環境問題のみならず電力安定供給の不安をもたらしていることから、エネルギー消費量削減に向けてこれら機器の省エネルギー対策が盛んに行われている。
【0003】
特に、空調機器の稼働率がピークを迎える夏季の正午付近の時間帯は、電力消費量が急増して電力の安定供給に多大な影響を及ぼしており、電力消費平準化が標榜される原因にもなっている。電力消費平準化対策に関する技術として、氷蓄熱システムがある。
氷蓄熱システムは、夏季の間、安価な夜間電力を利用して冷熱源となる氷を作って貯蔵し、空調機器を稼働させる昼間に、貯蔵しておいた氷の融解潜熱を利用して冷房を行う。そして、冬季の間、安価な夜間電力を利用して温熱源となる温水を作って貯蔵し、空調機器を稼働させる昼間に、温水の顕熱を利用して暖房を行う。しかし、氷蓄熱システムは設備が大きく、初期投資も高額になる欠点がある他、従来の空調機器と同様、圧縮機が必要であり、冬季には、冷水から温水を作りその温度を維持するための消費電力が大きい。したがって、冬季に氷蓄熱システムが達成する電力コスト低減は、夏季には及ばない。このような問題があるので、現状の氷蓄熱システムの普及率はパッケージエアコン出荷台数の1%程度に過ぎない。
【0004】
そこで、氷蓄熱システムが有する消費電力低減の問題を解決するために、水を利用した潜熱蓄熱システムに関する技術が開発されている。かかる技術の一例として特許文献1に提唱されている潜熱蓄熱システムは、内部の水を蒸発させ、その蒸発潜熱により氷を生成して冷熱蓄熱する氷蓄熱槽と、氷蓄熱槽に接続する容器内に氷蓄熱槽からの水蒸気を吸着する吸着剤を収納してなる吸着ユニットと、吸着ユニットと氷蓄熱槽の間に介装されて弁を開く時には吸着ユニットと氷蓄熱槽を相互に連通するように接続し、弁を閉じる時にはその接続を遮断する開閉弁と、開閉弁を閉じる時に吸着剤を加熱する加熱手段と、を備え、前記加熱手段を作動させつつ前記容器内の吸着剤から容器外へ水蒸気を排出させて吸着剤を再生する。なお、吸着ユニットに収容されている吸着剤は、シリカゲルやゼオライト等を主成分としている。
【0005】
この潜熱蓄熱システムでは、吸着剤が水蒸気を連続して吸着し、平衡状態が維持されるように氷蓄熱槽に収容された水は蒸発潜熱を奪い水蒸気となり、やがて氷が生成し、冷熱蓄熱が行われる。吸着剤がその吸着能の限界近くまで水分を吸着したら、開閉弁を閉じて吸着剤を加熱手段によって加熱し、吸着剤から発生する水蒸気を容器外へ取り出して吸着剤をほぼ当初の状態に再生し、再生した吸着剤によって冷熱蓄熱を継続して行う。加熱手段として廃熱等を利用することが可能である。
【0006】
また、特許文献2に提唱されている潜熱蓄熱システムは、内部の水を蒸発させ、その蒸発潜熱によって氷を生成して冷熱蓄熱する氷蓄熱槽と、氷蓄熱槽に接続され、太陽光を受けて集熱する集熱容器と、集熱容器内に設けられ、氷蓄熱槽からの水蒸気を吸着する吸着剤と、集熱容器の集熱時には閉弁して集熱容器と氷蓄熱槽の接続を遮断し、非集熱時には開弁して集熱容器と氷蓄熱槽を互いに接続するよう集熱容器と氷蓄熱槽の間に介装された開閉弁と、集熱容器での集熱時に集熱容器内の吸着剤から排出される水蒸気を集熱容器外へ排出する排出手段とを備える。
【0007】
この潜熱蓄熱システムでは、特許文献1に提唱されているものとほぼ同様にして冷熱蓄熱を行い、吸着剤の再生には太陽熱を利用している。
これらの潜熱蓄熱システムは、氷蓄熱システムとは異なり、氷の生成に冷凍機を使用しないので、消費電力が小さくてすみ、真空ポンプ等の排気手段を使用して氷蓄熱槽内で発生する水蒸気を外部に排出する必要がない。
【特許文献1】特開平7−167463号公報
【特許文献2】特開平7−167466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の潜熱蓄熱システムでは、吸着剤による水蒸気の吸着がシステムの駆動力となっており、氷蓄熱槽に収容された水が蒸発する際の蒸発潜熱によって氷の生成が行われる。しかしながら、シリカゲルやゼオライト等からなる吸着剤は、単位体積当たりの水吸着量が小さい。このため、氷蓄熱槽での氷の生成には極めて多量の吸着剤が必要であり、潜熱蓄熱システムが大型化するという問題がある。また、潜熱蓄熱システムが蓄熱するのは冷熱のみであるので、実用にあたってその適用分野が限定されてしまうという問題もある。
本発明は、上記問題を解決するものであり、その目的とするところは、小型化でき、冷熱及び温熱を蓄熱可能とし、大きな温熱及び冷熱を適時利用可能な蓄熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、その課題を解決するために以下のような構成をとる。請求項1の発明に係る蓄熱装置は、一般式K2Ti25-x・nH2O(ただし、0≦x≦1、0≦n≦2.7)により表される二チタン酸カリウムを主成分とする蓄熱材料を収容し、加熱手段及び熱吸収手段を有する蓄熱槽と、水を収容し、熱吸収手段を有する水槽と、蓄熱槽と水槽を連結し、開閉弁を有する導管と、蓄熱槽内と水槽内を減圧可能に構成された減圧手段とを有し、蓄熱槽内及び水槽内を大気圧以下に減圧して密閉し、水槽内で水が蒸発する際の蒸発潜熱を冷熱として水槽の熱吸収手段により回収しつつ、開閉弁を開いて水蒸気を水槽から蓄熱槽に導き、蓄熱槽内で蓄熱材料が水分子を結晶の層間に吸蔵する際の水和熱を温熱として蓄熱槽の熱吸収手段により回収し、水分子を結晶の層間に吸蔵した蓄熱材料を加熱手段によって加熱し、加熱された蓄熱材料から発生する水蒸気を水槽に導き、水槽内で水蒸気が凝縮する際の凝縮潜熱を温熱として水槽の熱吸収手段により回収し、開閉弁を閉じて蓄熱槽での発熱又は吸熱と水槽での発熱又は吸熱を停止させる。
【0010】
蓄熱材料の主成分をなす二チタン酸カリウムは、水分子が結晶の層間に吸蔵されると発熱し、水分子が結晶中から離脱すると吸熱する。活性アルミナやゼオライトと同様に、二チタン酸カリウムは吸熱過程と発熱過程において固体であり、取り扱いが容易である。また、水分子を吸着する活性アルミナやゼオライトと比較すると、二チタン酸カリウムは単位体積当たりの重量が2倍以上あるため、単位体積当たりの蓄熱量が大きくなる。したがって、同じ蓄熱量の活性アルミナやゼオライトと二チタン酸カリウムを比較すると、二チタン酸カリウムは小容積で良く、蓄熱装置の小型化を可能とする。
【0011】
二チタン酸カリウムの結晶構造は、TiO5三角両錐体からなる層と層との間にK+イオンが配置されていると考えられている。かかる結晶構造では、層間に配置されたK+イオンが容易に水和され、一般式K2Ti25-x・nH2Oにより表記される二チタン酸カリウム水和物となる。このとき、水分子はK+イオンに誘導されるようにTiO5三角両錐体からなる層間に吸蔵される。水分子が吸蔵されてTiO5三角両錐体からなる層の間隔は伸長するが、結晶構造は維持されている。なお、実験データではあるが、H2Oの量nが取り得る最大値として2.7が求められている。
【0012】
2Ti25-xは雰囲気中の水分子を速く結晶の層間に吸蔵し、K2Ti25-x・nH2Oを生成する。生成したK2Ti25-x・nH2Oを20℃、相対湿度50%の大気中で250℃まで加熱すると、K2Ti25-x・nH2Oの質量の約15%に相当するnH2Oが離脱し、TiO5三角両錐体からなる層間の間隔が収縮し、K2Ti25-xに戻る。この反応は一種のトポケミカルな反応と考えられ、結晶構造の変化を伴わないため、二チタン酸カリウムは水分子の吸蔵と離脱の繰り返しに対して極めて安定である。
【0013】
20℃、相対湿度50%の大気中で、n=2.6のK2Ti25-x・nH2Oを10℃/minの速さで30℃から250℃まで加熱し、K2Ti25-x・nH2OからnH2Oが離脱するときの吸熱量を測定した結果、306J/g(=780J/cm3)の値が確認され、吸熱が30〜215℃の温度域において認められた。したがって、二チタン酸カリウムは30〜215℃の温度域において蓄熱材料として機能する。
【0014】
また、二チタン酸カリウムの結晶構造において、TiO5三角両錐体からなる層間にあるK+イオンが水分子と強く結合するので、特に130℃未満では雰囲気の水蒸気圧や温度が変動しても、ほぼ一定の速度で結晶の層間に水分子を吸蔵し続けて発熱する。したがって、活性アルミナやゼオライトとは異なり、二チタン酸カリウムは雰囲気の水蒸気圧や温度の変動によって顕著な影響を受けない。
【0015】
蓄熱槽内及び水槽内を真空ポンプ等によって大気圧以下に減圧した後密閉し、導管の開閉弁を開くと、水槽内は飽和水蒸気圧になるまで水が速やかに気化して水蒸気となり、水蒸気は蓄熱槽内に流れる。蓄熱槽内の蓄熱材料は結晶の層間に水分子を高速で吸蔵するので、蓄熱槽内及び水槽内は飽和水蒸気圧を維持するため水の気化が一層促進される。蓄熱槽内及び水槽内が飽和水蒸気圧に達するまで、水は蒸発潜熱を吸収し、その蒸発潜熱を冷熱として水槽の熱吸収手段が回収する。一方、蓄熱槽内では、水分子を結晶の層間に吸蔵することで蓄熱材料が発熱して温熱を放出し、この放出された温熱を蓄熱槽の熱吸収手段が回収する。蓄熱材料の主成分をなす二チタン酸カリウムは、二チタン酸カリウム1モルあたり最大2.7モルの水分子を結晶の層間に吸蔵すると発熱を停止する。
【0016】
次に、蓄熱槽の加熱手段が水分子を吸蔵した蓄熱材料を加熱すると、二チタン酸カリウムの結晶内の水分子が水蒸気となって結晶外に離脱し、離脱した水蒸気が蓄熱槽内から導管を通って水槽内に流れる。
したがって、蓄熱材料を加熱するための熱を加熱手段によって外部から蓄熱装置に導入しさえすれば、冷熱と温熱を得ることができ、しかも、冷熱と温熱の放出を繰り返し行うことができる。
【0017】
請求項2の発明に係る蓄熱装置は、請求項1記載の蓄熱装置であり、水槽の内壁表面は平滑ではなく凹凸が形成されており、凹凸の凹部で水槽内に流れた水蒸気が毛管凝縮して水となる。毛管凝縮する水蒸気が凝縮潜熱を放出し、この凝縮潜熱を温熱として水槽の熱吸収手段が回収する。水槽の内壁表面上の凹凸の凹部では毛管凝縮した水の付着力が強く、凹部に付着した水の蒸気圧が水槽の底部に収容されている水の蒸気圧よりも小さいので、水蒸気の毛管凝縮と凝縮潜熱の放出が効率的に行われる。
蓄熱槽が有する加熱手段として、例えば、電気抵抗加熱ヒータ、給湯器やボイラー等の廃熱を用いる加熱機器、太陽集光熱を用いる加熱機器等を挙げることができる。蓄熱装置の稼働時間帯に応じて適切な加熱手段を選択活用すれば、コストの低廉化が可能となる。
【0018】
請求項3の発明に係る蓄熱装置は、請求項2記載の蓄熱装置であって、非平滑形状が、水槽の内壁表面に形成された上下方向の微細線状の溝である。
水槽の内壁表面に上下方向の微細線状の溝を形成すると、内壁表面上の溝部で水蒸気から毛管凝縮して生じた水は溝を伝わりスムーズに水槽の底部に流れて溝部から排除されるので毛管凝縮が促進される。また、溝は微細であるので内壁の比表面積が大きくなり水蒸気の毛管凝縮が効率的に行われる。溝の幅は、例えば、0.1〜2mm程度である。溝の断面形状は特に限定されず、溝の断面形状として、例えば、三角形状、四角形状、半円形状、楕円形状を挙げることができる。
【0019】
請求項4の発明に係る蓄熱装置は、請求項2記載の蓄熱装置であって、非平滑形状が、水槽の内壁表面に密着し、銅線又は耐腐食処理を表面に施したアルミニウム線で形成された網である。
銅は熱伝導率が高いので、銅線で形成された網上で水蒸気が毛管凝縮しやすい。また、網を形成する銅線を細径とした方が、網の比表面積が大きくなり、水蒸気が毛管凝縮しやすい。しかし、網の強度を考慮すると、網を形成する銅線の径を、例えば0.01〜0.3mmとすることが好ましい。
【0020】
アルミニウムも熱伝導率が高いので、アルミニウム線で形成された網上で水蒸気が毛管凝縮しやすい。網を形成するアルミニウム線の表面に耐腐食処理を施すことによって、網が水によって腐食されることを防止できる。 高い熱伝導率を有する金や銀は高価であり、銅線又はアルミニウム線で網を形成することによって網のコストの低廉化が可能となる。銅線又はアルミニウム線は、銅又はアルミニウムを主成分とする合金を材料としてもかまわない。
なお、網の形状は、網目間に微小空間を形成でき、大きな表面積を有するものであればよい。網の形状として、例えば、平織、綾織、平畳織、綾畳織、蓮織等を挙げることができ、パンチングメタルを積層する構造としてもよい。
【0021】
請求項5の発明に係る蓄熱装置は、請求項2記載の蓄熱装置であって、水槽がアルミニウム製であり、水槽の内壁表面を電解エッチングした後にアノード酸化処理することで非平滑形状を形成する。
電解エッチングした後にアノード酸化処理したアルミニウムは、陽極酸化アルミナ又は陽極酸化ポーラスアルミナと呼ばれ、その箔はアルミ電解コンデンサの電極として使用されている。アルミニウムに電解エッチングを施すことによって、アルミニウムの表面には細孔が形成される。この細孔は表面に対して直交するシリンダ状のセルが規則的に六方配列したハニカム構造を形成しており、比表面積が大きくなっている。電解エッチングによって形成される細孔の孔径は、電解エッチング条件によって異なるが、一般に0.1μm程度である。アルミニウム製の水槽に電解エッチングを施すときは、HCl、NaCl、NH4Cl、ClCH2COOH等の水溶液をこの水槽に入れ、水槽を陽極とし、陰極を水溶液に入れて、直流、交流又は交流重畳電流を流す。
【0022】
電解エッチングを施したアルミニウムにアノード酸化処理を施すと、アルミニウムの表面にあるシリンダ状のセルの表面がアルミナによって被覆され、アルミニウムの表面が水によって腐食されることを抑制できる。アルミニウム製の水槽に電解エッチングを施した後にアノード酸化処理を施すときは、この水槽に沸騰した水を入れ、Al23・mH2O(ただし、1.0≦m≦2.7)の擬ベーマイト皮膜を形成した後、水槽の水を排出してから、水槽にホウ酸アンモニウム水溶液や燐酸アンモニウム水溶液を入れ、水槽を陽極とし、陰極を水溶液に入れて、両極の間に600V程度の直流電圧を印加する。
水槽をアルミニウム製とし、水槽の内壁表面に電解エッチングを施し、さらにアノード酸化処理を施すと、水槽の内壁表面で水蒸気が毛管凝縮しやすくなるとともに、水槽の内壁表面の腐食を防止できる。
【0023】
請求項6の発明に係る蓄熱装置は、請求項1から請求項5記載の蓄熱装置であり、水槽内に0.01テックス未満の繊維で作製された布を充填すると、水蒸気が水槽内壁で毛管凝縮する際、生成した水が水槽内壁から素早く吸い取られるため毛管凝縮を促進させることができ、その結果凝縮潜熱の回収速度が向上する。さらに高い保水性によって蓄熱装置もしくは水槽を傾斜しても水が蓄熱槽に流れ込むことを防ぐことができ、その結果蓄熱材料の主成分をなす二チタン酸カリウムの分解を防ぐことができる。
【0024】
0.01テックス未満の繊維は超極細繊維と呼ばれ、繊維断面を真円と仮定すると直径約5μm以下の繊維に相当し、繊維間の隙間で起こる毛管現象によって水を素早く吸収し、大きな比表面積を有するため高い保水性も具備している。超極細繊維の多くは複雑な断面形状を有しており、その断面形状から分割型や海島型などに分けられる。繊維の太さは繊度で表現されるが、その表現方法には素材ごとに異なる太さの表記を統一するために導入された単位としてtex(テックス)がある。
tex(テックス)は、(1)式で表す。
tex(テックス)=1000×W(g)/L(m) ・・・・・(1)式
L:糸の長さ(m)、W:糸の重さ(g)である。
水を素早く吸収し、高い保水性を有する素材としては、高吸水性樹脂が一般的である。しかし高吸水性樹脂は吸水した水を素早く放出する性質を具備しておらず、本発明の蓄熱装置の水槽において水の蒸発熱を利用する操作が十分機能しなくなる。
なお、0.01テックス未満の繊維で作製された布は、織布又は不織布の形態を取り得る。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、上記のような蓄熱装置であるので、小型化でき、冷熱及び温熱を蓄熱可能であり、温熱及び冷熱を適時利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明を実施するための最良の形態を図1及び図2を参照しつつ説明する。図1は本発明に係る蓄熱装置の構成図、図2は水槽の説明図であり、(i)は水槽の構造図、(ii)は(i)のI−I線断面である。
蓄熱装置1は、蓄熱槽10、水槽12、熱交換器24h、24w、真空ポンプ26、循環ポンプ28h、28w、貯槽30h、30w、導管46を有する。
【0027】
蓄熱槽10内には、一般式K2Ti25-x・nH2O(ただし、0≦x≦1、0≦n≦2.7)により表記される二チタン酸カリウムを主成分とする蓄熱材料Mが収容されている。蓄熱槽10は、250℃までの範囲で温度制御可能な電気抵抗加熱ヒータ32を有し、蓄熱材料Mを加熱可能に構成されており、蓄熱槽10に設置された温度計(図示せず)によって蓄熱槽10内の温度を測定可能に構成されている。また、熱吸収器34hの導管36hが蓄熱槽10に密着して螺旋状に配設されている。
【0028】
貯槽30h、循環ポンプ28h、熱交換器24hが蓄熱槽10に隣接して配置されている。貯槽30h、循環ポンプ28h、熱交換器24h及び熱吸収器34hの導管36hが配管によって互いに接続されている。貯槽30hが循環ポンプ28hの吸引側に接続され、循環ポンプ28hの吐出側が熱交換器24hを介して熱吸収器34hの導管36hの入側に接続され、熱吸収器34hの導管36hの出側が貯槽30hに接続されている。
【0029】
開閉弁38aが循環ポンプ28hの吐出側と熱交換器24hとの間の配管に配置され、開閉弁38b、38cが熱交換器24hと熱吸収器34hの導管36hの入側との間の配管に順番に配置され、開閉弁38dが熱吸収器34hの導管36hの出側と貯槽30hとの間の配管に配置されている。
配管が循環ポンプ28hの吐出側と開閉弁38aとの間から分岐して開閉弁38bと開閉弁38cとの間に接続されており、開閉弁38e、38fがこの分岐した配管に配置されている。別の配管が開閉弁38bと開閉弁38cとの間から分岐して開閉弁38dと貯槽30hとの間に接続されており、開閉弁38g、38iがこの分岐した配管に配置されている。
【0030】
貯槽30h内には熱媒体Tが貯留されている。
熱交換器24hは一次側を流れる熱媒体Tから二次側を流れる水に温熱を伝達可能に構成されている。
水槽12内の底部には水Wが収容されており、水槽12内の上部が空間13となっている。ただし、水槽内に0.01テックス未満の繊維で作製された布を充填する場合は、水Wの一部または全部が布に保水されており、空間13も布で占められる。水槽12の内壁表面14上には上下方向に連続し、幅が0.1〜2mmである溝16が形成されている。また、水槽12に設置された温度計(図示せず)によって空間13内の温度を測定可能となっており、熱吸収器34wの導管36wが水槽12に密着して螺旋状に配設されている。
【0031】
貯槽30w、循環ポンプ28w、熱交換器24wが水槽12に隣接して設置されている。貯槽30w、循環ポンプ28w、熱交換器24w及び熱吸収器34wの導管36wが配管によって互いに接続されており、貯槽30wが循環ポンプ28wの吸引側に接続され、循環ポンプ28wの吐出側が熱交換器24wを介して熱吸収器34wの導管36wの入側に接続され、熱吸収器34wの導管36wの出側が貯槽30wに接続されている。
【0032】
開閉弁40aが循環ポンプ28wの吐出側と熱交換器24wとの間の配管に配置され、開閉弁40b、40cが熱交換器24wと熱吸収器34wの導管36wの入側との間の配管に順番に配置され、開閉弁40dが熱吸収器34wの導管36wの出側と貯槽30wとの間の配管に配置されている。
配管が循環ポンプ28wの吐出側と開閉弁40aとの間から分岐して開閉弁40bと開閉弁40cとの間に接続されており、開閉弁40e、40fがこの分岐した配管に配置されている。別の配管が開閉弁40bと開閉弁40cとの間から分岐して開閉弁40dと貯槽30wとの間に接続されており、開閉弁40g、40iがこの分岐した配管に配置されている。
【0033】
貯槽30w内には熱媒体Tが貯留されている。
熱交換器24wは一次側を流れる熱媒体Tから二次側を流れる水に冷熱を伝達可能に構成されている。
配管が熱吸収器34wの導管36wの出側と開閉弁40dとの間から分岐して開閉弁38dと貯槽30hとの間に接続されており、開閉弁42aがこの分岐した配管に配置されている。別の配管が開閉弁38bと開閉弁38cとの間から分岐して熱吸収器34wの導管36wの入側と開閉弁40cとの間に接続されており、開閉弁42b、42cがこの分岐した配管に配置されている。
導管46aが水槽12内上部の空間13から蓄熱槽10内に接続されており、開閉弁44a、44bが導管46aに配置されている。導管46bが開閉弁44aと開閉弁44bの間の導管46aから分岐して真空ポンプ26に接続されており、開閉弁44cが導管46bに配置されている。
【0034】
次に、蓄熱装置1の作用について説明する。
蓄熱装置1は、温熱回収工程と温冷熱回収工程の2工程を連続的に繰り返すことで作動する。温熱回収工程とは蓄熱装置1から温熱を回収する工程であり、蓄熱材料Mからは水分子が離脱する。一方、温冷熱回収工程とは蓄熱装置1から温熱と冷熱の両方を回収する工程であり、蓄熱材料Mの結晶の層間には水分子が吸蔵される。すなわち、温熱回収工程と温冷熱回収工程の繰り返しからなる蓄熱装置1の作動サイクルは、蓄熱材料Mへの水分子の授受と相関している。
【0035】
蓄熱装置1の始動時の状態として温熱回収工程と温冷熱回収工程のどちらも選択可能であるが、蓄熱材料Mの主成分である二チタン酸カリウムは、一般的な条件で製造すると水分子を結晶の層間に吸蔵したK2Ti25-X・nH2O(ただし、0≦X≦1、n≒2.7)で生成するため、始動時の状態として温熱回収工程を行うのが適している。したがって、ここでは始動時の状態として温熱回収工程を行う場合について説明する。
【0036】
まず、開閉弁44a、44cを開き、開閉弁44bを閉じ、真空ポンプ26を駆動して水槽12内を減圧する。水槽12内が所定の真空度に達したら、開閉弁44aを閉じ、開閉弁44bを開き、蓄熱槽10内を減圧する。蓄熱槽10内が所定の真空度に達したら、開閉弁44b、44cを閉じ、真空ポンプ26を停止する。なお、この段階で、蓄熱槽10内の蓄熱材料Mが可能な限り水分子を結晶の層間に吸蔵し、K2Ti25-x・2.7H2O(ただし、0≦x≦1)となっていることが好ましい。
【0037】
次いで、開閉弁44a、44bを開き、蓄熱槽10内と水槽12内とを連通させ、電気抵抗加熱ヒータ32によって蓄熱材料Mを250℃まで加熱する。水分子が蓄熱材料Mから離脱して水蒸気Vとなり、水蒸気Vが蓄熱槽10内から水槽12内の空間13に流れる。空間13に流れた水蒸気Vが水槽12の内壁表面14上の溝16で毛管凝縮して水Wとなり、毛管凝縮した水Wが溝16を伝って水槽12の底部に流れ排除される。ただし、水槽12内に0.01テックス未満の繊維で作製された布を充填する場合は、水Wの一部または全部が溝16を伝わって水槽12の底部に流れる間に布に吸水され、水Wは溝16から素早く排除される。毛管凝縮する水蒸気Vから凝縮潜熱が温熱として水槽12内に放出され、放出された温熱が水槽12に密着する熱吸収器34wの導管36wに伝達される。
【0038】
水槽12内に放出された温熱を直ちに温水として取り出すときは、開閉弁38a、38b、42a、42b、42cを開き、開閉弁38c、38d、38e、38f、38g、38i、40c、40dを閉じ、熱媒体Tの第1の循環経路を形成する。第1の循環経路は、貯槽30hから、循環ポンプ28h、開閉弁38a、熱交換器24h、開閉弁38b、42b、42c、熱吸収器34wの導管36w、開閉弁42aを順番に通って、貯槽30hに戻る経路である。第1の循環経路を形成したら、循環ポンプ28hを駆動し、第1の循環経路で熱媒体Tを循環させる。
【0039】
温熱が水槽12内で毛管凝縮する水蒸気Vから熱吸収器34wの導管36wに伝達され、さらに導管36wから導管36wを流れる熱媒体Tに伝達される。温熱を伝達された熱媒体Tは昇温し、昇温した熱媒体Tが熱交換器24hの一次側に流れ、熱交換器24hの二次側の水が熱媒体Tから温熱を伝達されて温水となり、温熱が熱交換器24hから温水として取り出される。
蓄熱材料Mからの水分子の離脱が終了すると、凝縮潜熱を放出する水蒸気Vによって水槽12内で生じていた発熱が収束し、水槽12内の温度が徐々に低下する。水槽12の温度計によって水槽12内の温度低下を検出したら、開閉弁44a、44bを閉じ、循環ポンプ28hを停止する。
【0040】
水槽12内に放出された温熱を直ちに温水として取り出さず、温熱を必要時に温水として取り出すときは、開閉弁38e、38f、42a、42b、42cを開き、開閉弁38a、38b、38c、38d、38g、38i、40c、40dを閉じ、熱媒体Tの第2の循環経路を形成する。第2の循環経路は、貯槽30hから、循環ポンプ28h、開閉弁38e、38f、42b、42c、熱吸収器34wの導管36w、開閉弁42aを順番に通って、貯槽30hに戻る経路である。第2の循環経路を形成したら、循環ポンプ28hを駆動し、第2の循環経路で熱媒体Tを循環させる。
【0041】
温熱が水槽12内で毛管凝縮する水蒸気Vから熱吸収器34wの導管36wに伝達され、さらに導管36wから導管36wを流れる熱媒体Tに伝達されて、熱媒体Tが昇温する。第2の循環経路を循環する熱媒体Tは熱交換器24hを通らないので、熱媒体Tが温熱を蓄えて高温となったまま貯槽30hに貯まる。ただし、水槽12内で生じていた発熱が収束し、水槽12の温度低下を検出したら、開閉弁38a、38b、38c、38d、38e、38f、38g、38i、40c、40d、42a、42b、42cを閉じ、循環ポンプ28hを停止し、貯槽30hに熱媒体Tを貯める。
【0042】
貯槽30hの熱媒体Tに蓄えられた温熱を取り出すときは、開閉弁38a、38b、38g、38iを開き、開閉弁38c、38d、38e、38f、42a、42bを閉じて、熱媒体Tの第3の循環経路を形成する。第3の循環経路は、貯槽30hから、循環ポンプ28h、開閉弁38a、熱交換器24h、開閉弁38b、38g、38iを順番に通って、貯槽30hに戻る経路である。第3の循環経路を形成したら、循環ポンプ28hを駆動し、第3の循環経路で熱媒体Tを循環させる。
【0043】
温熱を蓄えている熱媒体Tが貯槽30hから熱交換器24hの一次側に流れ、熱交換器24hの二次側の水が熱媒体Tから温熱を伝達されて温水となり、温熱が熱交換器24hから温水として取り出される。
以上が蓄熱装置1の温熱回収工程である。
温熱回収工程を終了後、温冷熱回収工程に移る。
【0044】
温熱回収工程が終了した段階で、蓄熱槽10内の蓄熱材料Mは水分子が離脱してほぼK2Ti25-X(ただし、0≦X≦1)となっている。
次に、全ての開閉弁が閉じられた状態から開閉弁44a、44bを開き、蓄熱槽10内と水槽12内とを連通させる。蓄熱材料MはほぼK2Ti25-X(ただし、0≦X≦1となっているので、水分子を結晶の層間に吸蔵し、K2Ti25-X・2.7H2O(ただし、0≦X≦1)が生成しようとする反応が開始する。蓄熱槽10内の水蒸気圧は一瞬低下するが、平衡状態を維持しようとするため水槽12内の水Wが気化して、空間13で水蒸気Vとなる。水Wが気化するときに蒸発潜熱を吸収し、その蒸発潜熱は冷熱として水槽12に密着する熱吸収器34wの導管36wに伝達される。
【0045】
水蒸気Vは水槽12内の空間13から蓄熱槽10内に流れ、蓄熱槽10内の蓄熱材料Mと接触する。ただし、水槽12内に0.01テックス未満の繊維で作製された布を充填する場合は、空間13も布で占められている。蓄熱材料Mが水分子を結晶の層間に吸蔵すると発熱し、蓄熱材料Mから蓄熱槽10内に温熱が放出され、放出された温熱が蓄熱槽10に密着する熱吸収器34hの導管36hに伝達される。
【0046】
水槽12内で放出された冷熱を直ちに冷水として取り出すとともに、蓄熱槽10内で放出された温熱を直ちに温水として取り出すときは、開閉弁40a、40b、40c、40dを開き、開閉弁40e、40f、40g、40i、42a、42cを閉じて、熱媒体Tの第4の循環経路を形成するとともに、開閉弁38a、38b、38c、38dを開き、開閉弁38e、38f、38g、38i、42bを閉じて、熱媒体Tの第5の循環経路を形成する。第4の循環経路は、貯槽30wから、循環ポンプ28w、開閉弁40a、熱交換器24w、開閉弁40b、40c、熱吸収器34wの導管36w、開閉弁40dを順番に通って、貯槽30wに戻る経路であり、第5の循環経路は、貯槽30hから、循環ポンプ28h、開閉弁38a、熱交換器24h、開閉弁38b、38c、熱吸収器34hの導管36h、開閉弁38dを順番に通って、貯槽30hに戻る経路である。第4の循環経路と第5の循環経路を形成したら、循環ポンプ28w、28hを駆動し、第4の循環経路と第5の循環経路で熱媒体Tをそれぞれ循環させる。
【0047】
冷熱が水槽12内で気化した水蒸気Vから熱吸収器34wの導管36wに伝達され、さらに導管36wから導管36wを流れる熱媒体Tに伝達される。冷熱を伝達された熱媒体Tは降温し、降温した熱媒体Tが熱交換器24wの一次側に流れ、熱交換器24wの二次側の水が熱媒体Tから冷熱を伝達されて冷水となり、冷熱が熱交換器24wから冷水として取り出される。
【0048】
また、温熱が蓄熱槽10内で発熱する蓄熱材料Mから熱吸収器34hの導管36hに伝達され、さらに導管36hから導管36hを流れる熱媒体Tに伝達される。温熱を伝達された熱媒体Tは昇温し、昇温した熱媒体Tが熱交換器24hの一次側に流れ、熱交換器24hの二次側の水が熱媒体Tから温熱を伝達されて温水となり、温熱が熱交換器24hから温水として取り出される。
蓄熱材料Mの結晶の層間への水分子の吸蔵が終了すると、蓄熱槽10内で蓄熱材料Mからの発熱が収束し、蓄熱槽10内の温度が徐々に低下する。蓄熱槽10の温度計によって蓄熱槽10内の温度低下を検出したら、開閉弁44a、44bを閉じ、循環ポンプ28w、28hを停止する。
【0049】
水槽12内で放出された冷熱を直ちに冷水として取り出さず、冷熱を必要時に冷水として取り出すときは、開閉弁40c、40d、40e、40fを開き、開閉弁40a、40b、40g、40i、42a、42cを閉じて、熱媒体Tの第6の循環経路を形成する。第6の循環経路は、貯槽30wから、循環ポンプ28w、開閉弁40e、40f、40c、熱吸収器34wの導管36w、開閉弁40dを順番に通って、貯槽30wに戻る経路である。第6の循環経路を形成したら、循環ポンプ28wを駆動し、第6の循環経路で熱媒体Tを循環させる。
【0050】
冷熱が水槽12内で気化する水Wから熱吸収器34wの導管36wに伝達され、さらに導管36wから導管36wを流れる熱媒体Tに伝達されて、熱媒体Tが降温する。第6の循環経路を循環する熱媒体Tは熱交換器24wを通らないので、熱媒体Tが冷熱を蓄えて低温となったまま貯槽30wに貯まる。
貯槽30wの熱媒体Tに蓄えられた冷熱を取り出すときは、開閉弁40a、40b、40g、40iを開き、開閉弁40c、40d、40e、40fを閉じて、熱媒体Tの第7の循環経路を形成する。第7の循環経路は、貯槽30wから、循環ポンプ28w、開閉弁40a、熱交換器24w、開閉弁40b、40g、40iを順番に通って、貯槽30wに戻る経路である。第7の循環経路を形成したら、循環ポンプ28wを駆動し、第7の循環経路で熱媒体Tを循環させる。
【0051】
冷熱を蓄えている熱媒体Tが貯槽30wから熱交換器24wの一次側に流れ、熱交換器24wの二次側の水が熱媒体Tから冷熱を伝達されて冷水となり、冷熱が熱交換器24wから冷水として取り出される。ただし、蓄熱槽10内でK2Ti25-X(ただし、0≦X≦1)からK2Ti25-X・2.7H2O(ただし、0≦X≦1)が生成する反応が収束することで水Wの気化が停止し、水槽12内の温度上昇を検出したら開閉弁40a、40b、40c、40d、40e、40f、40g、40iを閉じ、循環ポンプ28hを停止し、貯槽30wに熱媒体Tを貯める。
【0052】
蓄熱槽10内で放出された温熱を直ちに温水として取り出さず、温熱を必要時に温水として取り出すときは、開閉弁38c、38d、38e、38fを開き、開閉弁38a、38b、38g、38i、42a、42bを閉じて、熱媒体Tの第8の循環経路を形成する。第8の循環経路は、貯槽30hから、循環ポンプ28h、開閉弁38e、38f、38c、熱吸収器34hの導管36h、開閉弁38dを順番に通って、貯槽30hに戻る経路である。第8の循環経路を形成したら、循環ポンプ28hを駆動し、第8の循環経路で熱媒体Tを循環させる。
【0053】
温熱が蓄熱槽10内で発熱する蓄熱材料Mから熱吸収器34hの導管36hに伝達され、さらに導管36hから導管36hを流れる熱媒体Tに伝達されて、熱媒体Tが昇温する。第8の循環経路を循環する熱媒体Tは熱交換器24hを通らないので、熱媒体Tが温熱を蓄えて高温となったまま貯槽30hに貯まる。
貯槽30hの熱媒体Tに蓄えられた温熱を取り出すときは、前述の第3の循環経路を形成し、循環ポンプ28hを駆動し、第3の循環経路で熱媒体Tを循環させる。
【0054】
温熱を蓄えている熱媒体Tが貯槽30hから熱交換器24hの一次側に流れ、熱交換器24hの二次側の水が熱媒体Tから温熱を伝達されて温水となり、温熱が熱交換器24hから温水として取り出される。ただし、蓄熱槽10内でK2Ti25-X(ただし、0≦X≦1)からK2Ti25-X・2.7H2O(ただし、0≦X≦1)が生成する反応が収束することで蓄熱槽10内の温度低下を検出したら開閉弁38a、38b、38c、38d、38e、38f、38g、38i、40c、40d、42a、42b、42cを閉じ、循環ポンプ28hを停止し、貯槽30hに熱媒体Tを貯める。
【0055】
以上が蓄熱装置1の温冷熱回収工程である。蓄熱装置1は、この状態で温熱回収工程と温冷熱回収工程とからなる作動サイクルが完了するが、引き続き温熱回収または温冷熱回収を行う場合は、再び温熱回収工程を行う。
なお、蓄熱装置1の始動時の状態として温冷熱回収工程を行う場合は、最初に水槽12に蓄熱材料Mが結晶の層間に吸蔵する水量以上の水を入れておき、蓄熱槽10に入れる蓄熱材料MにはK2Ti25-X(ただし、0≦X≦1)を使用する。
【0056】
本実施の形態において、熱交換器24h、24wは、二次側を水が流れているが、熱交換器24h、24wをファンコイルとし、熱交換器24hによって温熱を温風として取り出し、熱交換器24wによって冷熱を冷風として取り出すことも可能である。
本実施の形態において、電気抵抗加熱ヒータ32が蓄熱槽10の蓄熱材料Mを加熱するが、廃熱や集光した太陽熱によって蓄熱材料Mを加熱することも可能である。ただし、夜間に蓄熱材料Mを加熱する場合は、安価な夜間電力を利用できる電気抵抗加熱ヒータ32を用いるのが適当である。
【0057】
本実施の形態において、熱吸収器34hの導管36hが蓄熱槽10に密着して螺旋状に配設されており、熱吸収器34wの導管36wが水槽12に密着して螺旋状に配設されているが、導管36h、36wは熱伝達に優れるように配設されていればよく、螺旋状の配設に限定されるものではない。例えば、蓄熱槽10の中に導管36hを引き込み、導管36hは水蒸気Vと大きな接触面積を確保できるように多数枚のプレートフィンに配設し、また水槽12の中に導管36wを引き込み、導管36wは水蒸気Vと大きな接触面積を確保できるように多数枚のプレートフィンに配設しても良い。この場合、蓄熱槽10と導管36hおよび水槽12と導管36wは同一体であるので、導管36hの表面やプレートフィンは蓄熱槽10の内壁、また導管36wの表面やプレートフィンは水槽12の内壁と見なすことができる。
【0058】
本実施の形態において、水槽12の内壁表面14上に、幅0.1〜2mmの上下方向に連続する溝16が形成されているが、代わりに、水槽12を図3(i)及び(ii)の変形例1に示す構成とすることも可能である。変形例1の水槽12内には、銅線又は耐腐食処理を表面に施したアルミニウム線で形成された網18が装着されており、網18が水槽12の内壁表面14に密着している。
【0059】
網18を形成する銅線又はアルミニウム線は熱伝導率が高いので、網18の網目上で水蒸気Vが毛管凝縮しやすく、網18から温熱又は冷熱を熱吸収器34wの導管36wに効率よく伝達できる。
水槽12を図4(i)及び(ii)の変形例2に示す構成とすることも可能である。変形例2の水槽12はアルミニウム製であり、水槽12の内壁表面14が電解エッチングされた後にアノード酸化処理されており、内壁表面14にはアルミナによって被覆された多数の細孔20が形成されている。
【0060】
水槽12を形成するアルミニウムは熱伝導率が高く、内壁表面14に多数の細孔20が形成されているので、水槽12の内壁表面14で水蒸気Vが毛管凝縮しやすく、内壁表面14から温熱又は冷熱を熱吸収器34wの導管36wに効率よく伝達できる。
開閉弁44a、44bを、ニードル式弁等の開度を調整可能な弁とすると、開閉弁44a、44bの開度を調整して、蓄熱槽10と水槽12との間を流れる水蒸気Vの流量を制御できる。水蒸気Vの流量を制御すると、水槽12内で毛管凝縮する水蒸気Vの量、水槽12内で気化する水Wの量、蓄熱槽10内で蓄熱材料Mの結晶の層間に吸蔵される水分子の量を制御でき、水槽12における単位時間当たりの冷熱及び温熱の放出量や蓄熱槽10における単位時間当たりの温熱の放出量を制御できる。したがって、効率よく目的とする温度の冷熱及び温熱を取り出すことができる。
【0061】
なお本実施のすべての形態において、水槽12内に0.01テックス未満の繊維で作製された布を水Wの全量を保水できる量以上充填すると、凝縮潜熱の回収効率が向上するだけでなく、水槽12を傾斜しても水Wが蓄熱槽10に流れ込むことがなくなるため蓄熱材料Mの主成分をなす二チタン酸カリウムの分解を防ぐことができる。
0.01テックス未満の繊維は、ポリエステルやナイロン等の有機素材で製造されている場合が多いが、水蒸気の熱で変形・変質せず、耐水性があれば金属等の無機素材で製造しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る蓄熱装置の構成図である。
【図2】水槽の説明図であり、(i)は水槽の構造図、(ii)は(i)のI−I線断面である。
【図3】変形例1に係る水槽の説明図であり、(i)は水槽の構造図、(ii)は(i)のII−II線断面である。
【図4】変形例2に係る水槽の説明図であり、(i)は水槽の構造図、(ii)は(i)のIII−III線断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 蓄熱装置
10 蓄熱槽
12 水槽
13 水槽内上部の空間
14 水槽の内壁表面
15 水槽の外壁表面
16 溝
18 網
20 細孔
24w、24h 熱交換器
26 真空ポンプ
28w、28h 循環ポンプ
30h、30w 貯槽
32 電気抵抗加熱ヒータ
34h、34w 熱吸収器
36h、36w 熱吸収器の導管
38a、38b、38c、38d、38e、38f、38g、38i 開閉弁
40a、40b、40c、40d、40e、40f、40g、40i 開閉弁
42a、42b、42c 開閉弁
44a、44b、44c 開閉弁
46a、46b 導管
M 蓄熱材料
W 水
V 水蒸気
T 熱媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式K2Ti25-x・nH2O(ただし、0≦x≦1、0≦n≦2.7)により表される二チタン酸カリウムを主成分とする蓄熱材料を収容し、加熱手段及び熱吸収手段を有する蓄熱槽と、
水を収容し、熱吸収手段を有する水槽と、
蓄熱槽と水槽を連結し、開閉弁を有する導管と、
蓄熱槽内と水槽内を減圧可能に構成された減圧手段とを有し、
蓄熱槽内及び水槽内を大気圧以下に減圧して密閉し、水槽内で水が蒸発する際の蒸発潜熱を冷熱として水槽の熱吸収手段により回収しつつ、開閉弁を開いて水蒸気を水槽から蓄熱槽に導き、蓄熱槽内で蓄熱材料が水分子を結晶の層間に吸蔵する際の水和熱を温熱として蓄熱槽の熱吸収手段により回収し、
水分子を結晶の層間に吸蔵した蓄熱材料を加熱手段によって加熱し、加熱された蓄熱材料から発生する水蒸気を水槽に導き、水槽内で水蒸気が凝縮する際の凝縮潜熱を温熱として水槽の熱吸収手段により回収し、
開閉弁を閉じて蓄熱槽での発熱又は吸熱と水槽での発熱又は吸熱を停止させることを特徴とする蓄熱装置。
【請求項2】
水槽の内壁が非平滑面を有することを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置。
【請求項3】
非平滑形状が、水槽の内壁表面に形成された上下方向の微細線状の溝であることを特徴とする請求項2記載の蓄熱装置。
【請求項4】
非平滑形状が、水槽の内壁表面に密着し、銅線又は耐腐食処理を表面に施したアルミニウム線で形成された網であることを特徴とする請求項2記載の蓄熱装置。
【請求項5】
水槽がアルミニウム製であり、水槽の内壁表面を電解エッチングした後にアノード酸化処理することで非平滑形状を形成することを特徴とする請求項2記載の蓄熱装置。
【請求項6】
水槽内に0.01テックス未満の繊維で作製された布を充填することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の蓄熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−153433(P2006−153433A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311954(P2005−311954)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)