蓄熱装置
【課題】蓄熱材の発核を制御することにより、効率良く蓄熱(蓄冷)を行う。
【解決手段】相変化に伴う潜熱を蓄える蓄熱材1を備えた蓄熱装置において、走行条件、走行状態、走行環境から蓄熱材1に入力される熱量と蓄熱材1から出力される熱量とを予測する手段と、前記蓄熱材の内部の温度を検出する温度センサ9A,9B,〜9Eに基づく温度検出手段と、その温度検出手段によって検出された温度に基づいて発核の実行・不実行を判断する判断手段と、前記蓄熱材1に固相の核を生じさせる発核を前記蓄熱材1内の複数箇所で個別に生じさせるように熱電素子4A,4B,〜4Pを動作させる発核手段と、前記発核手段によって発核を生じさせる箇所を選択する選択手段17とを備えている。
【解決手段】相変化に伴う潜熱を蓄える蓄熱材1を備えた蓄熱装置において、走行条件、走行状態、走行環境から蓄熱材1に入力される熱量と蓄熱材1から出力される熱量とを予測する手段と、前記蓄熱材の内部の温度を検出する温度センサ9A,9B,〜9Eに基づく温度検出手段と、その温度検出手段によって検出された温度に基づいて発核の実行・不実行を判断する判断手段と、前記蓄熱材1に固相の核を生じさせる発核を前記蓄熱材1内の複数箇所で個別に生じさせるように熱電素子4A,4B,〜4Pを動作させる発核手段と、前記発核手段によって発核を生じさせる箇所を選択する選択手段17とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、過冷却状態で外部からの刺激によって固相の核を生じて凝固を開始する蓄熱材を備えた蓄熱装置に関し、特に冷媒などの媒体の有する熱(もしくは冷熱)を一時的に蓄える蓄熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行などに伴って生じる余剰の熱やエネルギーを回収して蓄熱し、その熱エネルギーを暖気や冷房などに使用するように構成した蓄熱器が知られている。その一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された装置では、酢酸ナトリウム3水塩や硫酸ナトリウム10水塩などの過冷却度の大きい潜熱蓄熱材が熱媒体と熱交換可能に設けられるとともに、その潜熱蓄熱材の内部に熱電素子が配置されている。その潜熱蓄熱材が過冷却状態になっている場合に、熱電素子に電圧を印加することにより、潜熱蓄熱材が局部的に冷却され、その結果、発核が生じて凝固が開始され、それに伴う潜熱が放出されることにより、熱媒体を加熱するようになっている。
【0003】
また、特許文献2には、車両の走行時のうち高速走行時には長時間に亘り停車状態に移行しないとみなして、蒸発器の冷却温度を高くして凝縮水蓄冷量を減少させる通常冷房モードを作動させ、また低速走行時には頻繁に停車を余儀なくされる市街地走行であるとみなして、蒸発器の冷却温度を低くして凝縮水蓄冷量を増加させる蓄冷モードを作動させると共に、車両の現在位置、進行方向、速度等の走行状態の情報と信号機の位置等の信号機情報とに基づいて必要な蓄冷量を制御する車両用空調装置が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−281372号公報
【特許文献2】特開2002−356112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に記載されているように、蓄熱材を凝固させれば、潜熱として蓄冷量を多くすることができる。また、このような蓄熱材を使用すれば、冷熱の需要の変動に即した熱エネルギーを供給することができる。しかしながら、蓄熱材による蓄熱容量を増大させるべく相変化を生じさせる場合、前述した過冷却度の大きい蓄熱材を使用すると、過冷却状態のままにとどまって適時に凝固しない場合があり、その場合には蓄熱材に刺激を与えて凝固を開始させることになる。このような操作あるいは固相の発生が発核であって、従来、一例として、電気的な刺激や機械的刺激による発核が知られている。発核は、外部からの刺激によって固相を生じさせる操作であるから、そのための手段もしくは機構を動作させることになるので、エネルギーの消費を伴う。したがって、蓄熱のための熱量の供給が不安定な場合、発核させるために要するエネルギーが、発核に伴って増大する蓄熱量を上回る場合があるが、従来ではこのような事態に対応して効率良く蓄熱する技術がなく、新たな技術の開発が必要であった。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、蓄熱材に対する入熱あるいは蓄熱材からの放熱を考慮して発核させることにより、蓄熱効率を向上させることのできる蓄熱装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1の発明は、相変化を伴う潜熱を蓄える蓄熱材を備えた蓄熱装置において、前記蓄熱材に固相の核を生じさせる発核手段と、前記蓄熱材を発核させることにより増大する蓄熱量を算出する第一算出手段と、発核のために前記発核手段により消費される熱量を算出する第二算出手段と、前記第一算出手段で算出された蓄熱量と前記第二算出手段で算出された熱量との比較結果に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断する判断手段とを備えていることを特徴とする蓄熱装置である。
【0008】
請求項2の発明は、相変化を伴う潜熱を蓄える蓄熱材を備えた蓄熱装置において、前記蓄熱材に固相の核を生じさせる発核手段と、前記蓄熱材に入力される熱量を算出する第三算出手段と、算出した前記第三算出手段の算出結果に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断する判断手段とを備えていることを特徴とする蓄熱装置である。
【0009】
請求項3の発明は、相変化を伴う潜熱を蓄える蓄熱材を備えた蓄熱装置において、前記蓄熱材に固相の核を生じさせる発核手段と、前記蓄熱材に入力される熱量を予測する第一予測手段と、前記蓄熱材から出力される熱量を予測する第二予測手段と、前記第一予測手段で予測された熱量と前記第二予測手段で予測された熱量との差により前記蓄熱装置の蓄熱量を推定する推定手段と、前記推定手段の推定結果に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断する判断手段とを備えていることを特徴とする蓄熱装置である。
【0010】
請求項4の発明は、請求項2の発明において、前記第三算出手段は、走行状態を検出する走行状態検出手段または走行環境を検出する走行環境検出手段で得られた情報に基づいて入力される熱量を算出することを特徴とする蓄熱装置である。
【0011】
請求項5の発明は、請求項2または請求項4の発明において、前記判断手段は、前記第三算出手段による算出結果と蓄熱材の内部における推定された温度分布に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断する手段を含むことを特徴とする蓄熱装置である。
【0012】
請求項6の発明は、請求項3の発明において、前記第一予測手段は、前記走行状態検出手段または前記走行条件検出手段あるいは前記走行環境検出手段で得られた情報に基づいて入力される熱量を予測し、前記第二予測手段は、前記走行状態検出手段または前記走行条件検出手段あるいは前記走行環境検出手段で得られた情報に基づいて出力される熱量を予測することを特徴とする蓄熱装置である。
【0013】
請求項7の発明は、請求項3または6の発明において、前記判断手段は、前記推定手段による推定された蓄熱量と蓄熱材の内部における推定された温度分布に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断することを特徴とする蓄熱装置である。
【0014】
請求項8の発明は、請求項1から7のいずれかの発明において前記発核手段は熱電素子を用いる手段であることを特徴とする蓄熱装置である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、発核を生じさせることにより増大する蓄熱量が、発核を生じさせるために消費される熱量と比較して大きい場合は、蓄熱装置の蓄熱量がより増大するように発核を生じさせて、エンジンやモータ・ジェネレータなどの動力源から発生する熱量を有効に蓄えることができる。また、発核を生じさせることにより増大する蓄熱量が発核を生じさせることに消費される熱量と比較して小さい場合は、発核を生じさせる制御をしないことにより、発核の発生に用いられるエネルギー消費を防ぐことができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、蓄熱材に入力される熱量の算出結果に応じて発核を生じさせるので、不必要に発核させて熱量を失うことを防止または抑制し、蓄熱効率を向上させることができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、蓄熱材から出力される熱量の予測値よりも蓄熱材に入力される熱量の予測値が大きい場合は蓄熱量の増加が推定されるため、蓄熱装置の蓄熱量がより増大するように発核を生じさせて、エンジンやモータ・ジェネレータなどの動力源から発生する熱量を有効に蓄えることができる。また、蓄熱材から出力される熱量の予測値よりも蓄熱材に入力される熱量の予測値が小さい場合は蓄熱量の減少が推定されるため、発核を生じさせないことにより発核に用いられるエネルギー消費を防ぐことができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、アクセル開度、車速、変速比、ブレーキ等の走行状態と外気温等の走行環境に基づいて蓄熱材に入力される熱量を算出し、これに応じて発核を生じさせるので、不必要に発核させて熱量を失うことを防止または抑制し、蓄熱効率を向上させることができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、前記第三算出手段による算出結果と蓄熱材内部の温度分布に基づいて発核を生じさせた方が前記第三算出手段により算出される熱量を効率よく蓄熱できると判断した場合は、蓄熱材内部の温度分布から蓄熱量がより増大するように発核を生じさせることにより、エンジンやモータ・ジェネレータなどの動力源におけるエネルギーの効率が向上する。また、発核をさせない方がエネルギー効率が良いと判断した場合は、発核を生じさせないことにより発核の発生に用いられるエネルギー消費を防ぐことができる。
【0020】
請求項6の発明によれば、蓄熱材から出力される熱量と蓄熱材に入力される熱量とがアクセル開度、エンジン回転数、車速、シフト、ブレーキ等の走行状態、渋滞情報などのインフラからの情報、三次元ナビゲーションシステム(道路勾配)等の走行環境、外気温等の走行条件に基づいて予測され、出力される熱量の予測結果と入力される熱量の予測結果から求められる蓄熱量の増減に基づいて発核させるか否かの制御を行う。入力される熱量の予測結果が出力される熱量の予測結果よりも大きい場合は、入力される熱量の予測結果と出力される熱量の予測結果との差に該当する熱量が蓄熱材に入力されると推定されるため、蓄熱材の蓄熱量をより増大させるように発核を生じさせる。一方、入力される熱量の予測結果が出力される熱量の予測結果よりも小さい場合は、入力される熱量の予測結果と出力される熱量の予測結果との差に該当する熱量が蓄熱材から出力されると推定されるため、発核を生じさせないことにより発核の発生に用いられるエネルギー消費を防ぐことができる。
【0021】
請求項7の発明によれば、推定された蓄熱量と蓄熱材内部における推定された温度分布に基づいて発核を生じさせた方が効率よく蓄熱できるか否かを判断し、その結果発核させるか否かを制御する。蓄熱材に入力される熱量の予測結果が蓄熱材から出力される熱量の予測結果よりも大きい場合は、入力される熱量の予測結果と出力される熱量の予測結果との差に該当する熱量が蓄熱材に入力されると推定されるため、蓄熱装置の蓄熱量をより増大させるように発核を生じさせる。一方、蓄熱材に入力される熱量の予測結果が蓄熱材から出力される熱量の予測結果よりも小さい場合には、入力される熱量の予測結果と出力される熱量の予測結果との差に該当する熱量が蓄熱材から出力されるため、発核を生じさせないことにより発核の発生に用いられるエネルギー消費を防ぐことができる。
【0022】
請求項8の発明によれば、熱電素子に電流を流すことにより蓄熱材と接触している熱電素子の面がペルティエ効果により冷却される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
つぎにこの発明をより具体的に説明する。この発明の蓄熱装置は、エネルギーを増大させる正の熱の蓄熱と、エネルギーを低下させる負の熱の蓄熱とのいずれも可能である。
【0024】
図1に示す例は、蓄熱材1に対して、熱搬入媒体としての冷媒2が冷熱を搬入し、かつ蓄熱材1の有する冷熱を、熱搬出媒体としてのブライン3が搬出するように構成した例である。その蓄熱材1は、水やエチルグリコール水溶液、塩化アンモニウム水溶液など融点が低く、融解熱が比較的大きい潜熱蓄熱材であって、所定の容器の内部に封入されている。その蓄熱材1の周囲には、蓄熱材1を取り囲んだ状態で複数の熱電素子(熱電モジュール)4A,4B,…4Pが、隙間なく、もしくは間隔をあけて並んで配置されている。これらの熱電素子4A,4B,…4Pは、蓄熱材1を局部的に冷却して発核させるためのものであり、蓄熱材1に接する面とこれとは反対側の外気に接する面とに接点を有し、これらの接点の間に電圧を印加することにより、蓄熱材1に接する接点で吸熱が生じるように構成されている。
【0025】
また、冷媒2を流通させる入熱用配管5と、ブライン3を流通させる出熱用配管6が、蓄熱材1の内部を貫通した状態で配置されている。これらの配管5,6は蓄熱材1の内部で所定の間隔をあけて配置され、かつこれらの配管5,6の間を蓄熱材1が満たしており、したがって各配管5,6の間、すなわち冷媒2とブライン3との間では蓄熱材1を介した熱伝達が生じるように構成されている。
【0026】
そして、各配管5,6の蓄熱材1に埋まっている部分では、冷媒2と蓄熱材1、ブライン3と蓄熱材1との熱交換が生じるので、これらの部分が熱交換部となっており、特に入熱用配管5はこの発明の熱搬入部となっており、また出熱用配管6はこの発明の熱搬出部となっている。さらに、図1に示す例では、ブライン3が下から上に向けて流れるように構成されており、したがって出熱用配管6の図1での下側の部分が入口部7Aとなり、上側の部分が出口部8Aとなっている。そして、蓄熱材1の内部の複数箇所には、温度センサ9A,9B,…9Eが配置され、それぞれの部分の温度を検出するようになっている。なお、配置位置は、例えば入熱用配管5の入口部7Bの近傍およびその出口部8Bの近傍、出熱用配管6の入口部7Aの近傍およびその出口部8Aの近傍、ならびに蓄熱材1の中央部である。
【0027】
なおここで、上記の冷媒2を循環させる冷凍サイクル10について簡単に説明すると、車両のエンジンなどの動力源(図示せず)によって駆動されるコンプレッサ11を備えており、その吐出側にコンデンサー12およびレシーバータンク13ならびに膨張弁14が順に接続されている。そして、その膨張弁14の吐出側に前述した入熱用配管5が接続され、さらにその入熱用配管5がコンプレッサ11の吸入側に接続されている。したがってこの発明の熱搬入部を構成している入熱用配管5が冷凍サイクル10のエバポレータとなっている。他方、前記出熱用配管6は、車室側熱交換器などの熱交換器15との間で循環路を形成するように構成され、その循環路の途中にポンプ16が介装されている。
【0028】
なお、図1におけるコンデンサー12は、大気中に熱を放散させる構造であってもよく、あるいはこれに代えて放出した熱を蓄える蓄熱材を用いた蓄熱器として構成しても良い。これにより、コンデンサー12を用いるときと同様に冷凍サイクル10内を循環させている冷媒を冷却させて、蓄熱材1に搬入熱を溜めることが可能である。また、図1に用いられている冷媒2の代わりにエンジンやATFーOILの冷却液を用いることにより、廃熱を溜めることができる。
【0029】
上記の熱電素子4A,4B,…4Pの制御を行うためのコントローラ(ECU)17が設けられている。このコントローラ17は、一例としてマイクロコンピュータを主体として構成されており、入力されたデータおよび予め記憶しているデータとプログラムとを利用して、動作させるべき熱電素子4A,4B,…4Pの選択およびオン・オフの制御を行うように構成されている。その制御のために入力されているデータは、各温度センサ9A,9B,…9Eで検出された温度、外気温度、冷媒2の流量、ブライン3の流量などである。
【0030】
蓄熱材1は、融点以上の温度の状態および過冷却の状態では液相をなしており、その状態では、凝固した後の固相に比較して比熱が大きく、したがって伝導可能な熱量が多い半面、その伝導速度が遅い。固相の状態では、これとは反対の特性を示す。この発明の制御装置は、蓄熱材1のこのような特性を利用して蓄熱を効率良く行うために、蓄熱材1の発核あるいは凝固を選択的に生じさせるように構成されている。
【0031】
蓄熱材1が過冷却の状態である時に蓄熱材1の外部から熱等の刺激を与えると、蓄熱材1は刺激を受けた近傍において凝固する。蓄熱材1に刺激を与える具体例としては、蓄熱材1の周囲に熱電素子4A,4B,…4Pを配設し、通電させることにより刺激が与えられるようにしたものが挙げられる。凝固された蓄熱材1は潜熱による蓄冷が行われるため、過冷却の状態と比べて蓄熱量が増大(増加)する。したがって、蓄熱材1は外部から刺激を与えることにより蓄熱量が増大(増加)する。
【0032】
図2はその制御の一例を説明するためのフローチャートである。先ず、蓄熱材の外側及び内側に設けられている温度センサ9A,9B,…9Eによる検出値は、ステップS21においてコントローラ17に読み込まれる。そして、前記検出値に基づいて、蓄熱材1の内部の温度分布が推定される(ステップS22)。前述した温度センサ9A,9B,…9Eは、限られた場所に配置されているため、蓄熱材1の全ての箇所の温度を知ることはできないが、前記各配管5,6の位置やこれらの配管5,6を含む全体としての構造が判っているので、温度センサ9A,9B,…9Eが配置されていない箇所の温度を実験データやシミュレーションなどに基づいて推定することができる。
【0033】
この温度分布の推定結果に基づいて過冷却部があるか否かが判断される(ステップS23)。蓄冷している過程で凝固点以上の箇所と凝固し始めた箇所とが併存すると、凝固し始めた箇所は、潜熱を放出するために凝固点の温度を維持する。これに対して凝固せずに過冷却の部分が併存すると、凝固点以上の部分と過冷却部との間では、温度が連続的に変化する状態になる。このように、凝固が始まっていて過冷却部が存在しない場合もしくは部分と、過冷却部が併存する部分とでは、温度が異なっているので、温度分布から過冷却部の有無を検出することができる。
【0034】
過冷却部が存在しないことが検出もしくは判断されてステップS23で否定的に判断された場合には、発核のための前提条件が成立していないので、特に制御を行うことなくこのルーチンを一旦終了する。これに対して過冷却部が存在することが検出もしくは判断されてステップS23で肯定的な判断が成立した場合には、発核させるべき位置すなわち発核させるべく動作させる熱電素子4A,4B,…4Pが選択される(ステップS24)。この熱電素子4A,4B,…4Pに電圧を掛けてそのペルティエ効果によって蓄熱材1を局部的に冷却する。したがって、上記の蓄熱装置においては、蓄熱材1に過冷却部が存在していることが検出もしくは判断された場合には、蓄熱材1に入力される冷熱量が、蓄熱材1から放出される冷熱量より多いことになり、このような状態をステップS23で判断している。そして、その判断結果に基づく局部的な発核操作を行うので、発核に消費する熱量(エネルギー量)が、発核に伴って増大(増加)する蓄熱量より少なく、その結果、効率良く蓄熱を行うことができる。言い換えれば、蓄熱量が増大(増加)する過冷却状態もしくは温度分布の状態で熱電素子が選択されて動作し、発核が行われる。
【0035】
蓄熱材1の他の例を示す概略を図3に示す。本実施例においては、蓄熱材の内部温度を測定する温度センサ9の他に、蓄熱器19の周辺部の温度を測定する温度センサ18が設けられている。熱電素子4A,4B,…4P、温度センサ9A,9B,…9Eについては、図1の例と同様に設けられているが、熱電素子4、温度センサ9として簡略化して表示する。また、他の構造は、図1と同一であるため、図3に図1と同様の符号を付して、その説明を省略する。
【0036】
図4は図3に示す蓄熱装置を対象とする制御例を説明するためのフローチャートである。ステップS41からステップS43は、前述したステップS21からステップS23までと同一であるため、説明を省略する。過冷却部が存在しないことが検出もしくは判断されたことによりステップS43で否定的に判断された場合には、発核のための前提条件が成立していないので、特に制御を行うことなくこのルーチンを一旦終了する。これに対して過冷却部が存在することが検出もしくは判断されてステップS43で肯定的な判断が成立した場合には、発核作用により増大(増加)する蓄熱量(以下、増加蓄熱量と記す)(β1)は、推定された温度分布から算出される(ステップS44)。すなわち、蓄熱材1内の過冷却部の量や凝固する量ならびにその潜熱などから増加蓄熱量を求めることができる。
【0037】
その後、蓄熱器19の周辺に設けられた温度センサ18により蓄熱器19の周辺温度が測定され、コントローラ17に読み込まれる(ステップS45)。ステップS41で読み込んだ温度とステップS45で読み込んだ周囲温度との温度差から熱電素子4を作動させる際に消費される熱量(エネルギー量)である熱電素子作動電力量(β2)が算出される。蓄熱材の温度(α1)と周囲温度(α2)との温度差が大きく、かつ周囲温度(α2)が高い場合には、蓄熱材1を発核させるためにより大きなエネルギーが必要となる。一方、蓄熱材の温度(α1)と周囲温度(α2)との温度差が小さい場合には、蓄熱材1を発核させるための熱量(エネルギー量)は少なくて良い。これについて実験データの蓄積に基づいて作成されたのが、図5に示す作動電力量算出マップであり、熱電素子作動電力量(β2)の算出は、前記作動電力量算出マップから求められる(ステップS46)。
【0038】
ステップS44において算出された増加蓄熱量(β1)とステップS46において算出された熱電素子作動電力量(β2)との関係から、エネルギー効率を表す図6の判定マップに基づいて発核作用の可否が判断される(ステップS47)。このステップS47の判断は、図6に記載してある判定マップに基づいて行うことができる。この判定マップは、横軸に熱電素子作動電力量(β2)を取り、縦軸に増加蓄熱量(β1)を取った二次元マップであって、図6に曲線で示す境界線Lによって、A領域とB領域とに区分されている。この境界線Lは、増加蓄熱量(β1)に対する熱電素子作動電力量(β2)の比が1となる線(図6では45度の線)に対して若干図6の上側に位置する曲線として設定された境界線である。増加蓄熱量(β1)が熱電素子作動電力量(β2)より幾分多くなる領域をB領域とし、増加蓄熱量(β1)が熱電素子作動電力量(β2)よりさらに多くなる領域をA領域としてある。図6の判定マップが曲線となっているのは、熱電素子作動電力量(β2)が増加すると蓄熱材の温度(α1)と周囲温度(α2)との温度差が大きい、もしくは、周囲温度(α2)が高いかで、熱電素子と蓄熱材とが接触する面の温度を蓄熱材を過冷却させる温度まで下げるために必要なエネルギー量が多くなり効率が悪くなることによるものである。したがって、上記のステップS44で算出された増加蓄熱量(β1)と上記のステップS46で算出された熱電素子作動電力量(β2)との関係が図6に基づいて判断される。したがって、ステップS47では、その時点の動作状況がA領域か否かの判断が行われ、否定的に判断された場合には熱電素子4を動作させることなく本制御ルーチンを一旦終了する。また、肯定的に判断された場合は、発核させるべき位置すなわち発核させるべく動作させる熱電素子4が選択される(ステップS48)。
【0039】
蓄熱装置の他の例を図7に概略的に示す。本実施例は、構造は図1と同一であるが、発核制御に用いられている情報としてアクセル開度、エンジン回転数、車速情報、変速比、ブレーキ情報等の走行状態と、外気温の走行環境が読み込まれている点で図1に示される例と異なっている。なお、熱電素子4A,4B,…4P、温度センサ9A,9B,…9Eについては、図1の例と同様に設けられているが、熱電素子4、温度センサ9として簡略化して表示する。また、他の構造は図1と同一であるため、図7に図1と同様の符号を付してその説明を省略する。
【0040】
図8は他の例における制御例を説明するためのフローチャートである。本実施例においては、アクセル開度、エンジン回転数、車速、変速比、ブレーキ等の走行状態が読み込まれ(ステップS81)、ついでエンジン負荷(要求トルク)量(γ1)が算出される(ステップS82)。その算出されたエンジン負荷(要求トルク)量(γ1)が判定基準負荷量(γ2)以下か否かが判定される(ステップS83)。エンジン負荷(要求トルク)量(γ1)が判定基準負荷量(γ2)よりも大きい場合には、エンジンやモータ・ジェネレータ等の動力源にかかる負荷が大きく、コンプレッサ11で発生できる熱量(エネルギー量)も少なくなるため、コンプレッサ11から冷媒2を通じて流入される熱量(エネルギー量)も少なくなる。このため、上記のエンジン負荷(要求トルク)量(γ1)が判定基準負荷量(γ2)よりも大きい場合は、発核作用を生じさせることなく上記の制御ルーチンを終了する。また、外気温が高い場合には、コンデンサー12からの放熱性が悪くなるため、不可避的に冷媒2を通じて流入される熱量が少なくなり、発核制御は行わない。
【0041】
エンジン負荷(要求トルク)量(γ1)が判定基準負荷量(γ2)以下であることにより、ステップS83で肯定的に判断された場合は、エンジンやモータ・ジェネレータ等の動力源の負荷が小さく、コンプレッサ11で発生できる熱量(エネルギー量)も多くなるため、コンプレッサ11から冷媒2を通じて蓄熱材1に流入する熱量が多くなる。したがって、発核作用を生じさせるか否かを検討するべくステップS84以降の制御ルーチンに進む。
【0042】
エンジン負荷(要求トルク)量(γ1)が判定基準負荷量(γ2)よりも小さい場合は、温度センサ等により測定された外気温とエンジン負荷(要求トルク)量(γ1)とに基づいてコンプレッサ11で発生され、冷媒2を通じて蓄熱材1に流入される熱量が熱生成量(γ3)として算出される(ステップS84)。ここで、コンプレッサ11に可変容量コンプレッサが用いられる場合は、エンジン回転数が高く、エンジン負荷が大きくなるに従い、コンプレッサ11の容量が減少される。これにより、熱生成で消費される駆動力が減少され、車両にかかる駆動力が増大される。したがって、可変容量コンプレッサの場合は、エンジン回転数が低く、エンジン負荷が小さい場合に熱生成量(γ3)が多くなる。また、コンプレッサ11において定容量コンプレッサが用いられる場合は、エンジン回転数に比例して熱生成量(γ3)が増大する。なお、外気温が高い場合はコンデンサー12からの放熱性が悪くなるので算出される熱生成量(γ3)が少なくなり、発核制御をしない。
【0043】
一方、温度センサ9の取り付け場所は、図1と同様に蓄熱材1の外側及び内側に設けられている。ステップS85,S86で記されている温度センサ9の読み込み、推定された内部の温度分布は、前述したステップS21,S22と同一であるため説明を省略する。ステップS87では、算出された熱生成量(γ3)と推定された温度分布とに基づいて発核制御の要否を判断している。温度分布の推定結果からは、蓄熱材1と冷媒2とブライン3との熱的特性が判断される。ここで、蓄熱材1の熱的特性には、蓄熱材1が凝固された状態を含む熱的特性と蓄熱材1が凝固されていない状態での熱的特性とが含まれる。発核を生じさせた方が熱生成した冷熱量(γ3)を効率よく蓄熱できると判断した場合は、蓄熱量、蓄熱速度を考慮して発核させるべき位置すなわち発核させるべく動作させる熱電素子4が選択される(ステップS88)。
【0044】
蓄熱装置の他の例を図10に概略的に示す。本実施例においては、構造上は図1と同一であるが、発核制御に用いられている情報が、走行状態を示す情報とインフラ情報と三次元ナビゲーションシステムに備えられている情報と走行環境情報とである点で異なっている。走行状態を示す情報には、アクセル開度とエンジン回転数と車速と変速比とブレーキとが含まれている。また、インフラ情報には、渋滞、信号、気象情報などの外部から受け取ることのできる情報が含まれる。さらに、三次元ナビゲーションシステムに備えられている情報には、道路勾配、踏切、カーブ情報などが含まれる。なお、熱電素子4A,4B,…4P、温度センサ9A,9B,…9Eについては、図1の例と同様に設けられているが、熱電素子4、温度センサ9として簡略化して表示する。また、他の構造は、図1と同一であるため、説明を省略する。
【0045】
図11は他の例における制御例を説明するためのフローチャートである。本実施例においては、アクセル開度、エンジン回転数、車速、変速比、ブレーキ等の走行状態、渋滞、信号、気象情報などのインフラからの情報、道路勾配、踏切、カーブの三次元ナビゲーション情報などからの走行条件、外気温の走行環境情報の走行環境等の情報がコントローラ17に読み込まれている(ステップS111)。ここで、三次元ナビゲーションの情報には目的地の場所、現在位置からの距離、高低差等が含まれている。また、アクセル開度、エンジン回転数、車速、変速比、ブレーキについては、運転手の操作を制御装置にフィードバックすることにより入力情報としての精度を向上することができる。
【0046】
三次元ナビゲーションの情報により読み込まれた目的地と現在位置との走行距離、高低差等から、エンジンやモータ・ジェネレータ等の動力源の負荷を予測(推測)し、コンプレッサ11により、将来、発生される成熱量(δ1)が予測される(ステップS112)。また、三次元ナビゲーションの情報により読み込まれた目的地と現在位置との走行距離、高低差等から、蓄熱材1に蓄熱された将来の消費熱量(δ2)が予測される(ステップS113)。そして、上記の将来、発生される成熱量(δ1)と将来の消費熱量(δ2)とから将来の蓄熱量(δ3)を推定することができる(ステップS114)。
【0047】
ステップS115において蓄熱材1の外側及び内側の温度を温度センサによりコントローラ17に読み込み、ステップS116において温度分布の推定が行われ、これらは前述したステップS21,S22と同一であるため説明を省略する。
【0048】
ステップS116において推定された内部の温度分布とステップS114において推定される将来の蓄熱量(δ3)とに基づいて発核制御の可否が判断される。具体的には、推定された内部の温度分布から蓄熱材1の過冷却部があるか否かが判断され、将来の蓄熱量(δ3)が過冷却状態の蓄熱材1の蓄熱量を超えないと判断した場合には、発核制御をすることなく本ルーチンを抜ける。一方、将来の蓄熱量(δ3)が過冷却状態の蓄熱材1の蓄熱量を超えると判断した場合には、発核させるべき位置すなわち発核させるべく動作させる熱電素子4A,4B,…4Pが選択される(ステップS118)。この熱電素子4A,4B,…4Pに電圧を掛けてそのペルティエ効果によって蓄熱材1を局部的に冷却する。
【0049】
本ルーチンにおける高低差(標高)に対する生成熱量累積(δ1)、消費熱量累積(δ2)、蓄熱量(δ3)、発核制御の有無を表すタイミングチャートを図12に記す。ここで、蓄熱量(δ3)は前記生成熱量累積(δ1)と前記消費熱量累積(δ2)との差を示している。また、図12に示すタイミングチャートは、高低差(標高)を要因とする生成熱量累積(δ1)、消費熱量累積(δ2)、蓄熱量(δ3)、発核制御の有無について示しており、他の走行状態、走行条件、走行環境の要因は考慮しないとする。高低差(標高)の情報は、三次元ナビゲーションから将来走行する予定の高低差がコントローラ17に読み込まれる。
【0050】
車両の走行により冷凍サイクル10からエネルギーが出力されているため、生成熱量累積(δ1)は時間の経過と共に増加する。また、消費熱量累積(δ2)は、冷房によって蓄熱材1から消費される熱量の累積を示し、冷房の設定温度、送風量、使用時間等に伴い増加する。なお、図12に示すタイミングチャートは、高低差(標高)を要因とする消費熱量累積(δ2)について示されているため、冷房の設定温度、送風量、使用時間等の変動は考慮していない。
【0051】
図12におけるタイミングチャートにおいて、高低差(標高)の変動のない場合は、いわゆる平坦部を走行している。具体的には、図12における時刻t1までの状態があげられる。生成熱量累積(δ1)、消費熱量累積(δ2)は共に一定の割合で増加するため、生成熱量累積(δ1)、消費熱量累積(δ2)の差である蓄熱量(δ3)も一定の割合で増加する。
【0052】
また、高低差(標高)が時間の経過と共に低くなる場合は、いわゆる降坂路の走行に該当し、この場合は車両の位置エネルギーがコンプレッサ11により生成熱エネルギーに変換されているため、動力源から発生する熱エネルギーが増加し、走行に伴う生成熱量累積量が多くなり、発核制御をして蓄熱量(δ3)を増加させる。図12の例では、時刻t2から時刻t4の状態が該当する。この場合は、コンプレッサ11に使用できるエネルギーが増加し、生成熱量(δ1)の増加量が増大する。このとき、消費熱量(δ2)の増加量は高低差(標高)の変化にほとんど依存しないため、蓄熱量(δ3)の増加量は平坦部の走行時よりも増加する。
【0053】
また、高低差(標高)が時間の経過と共に高くなる場合は、いわゆる登坂路の走行に該当し、この場合は車両の運動エネルギーが位置エネルギーに変換されているため、走行に伴うエンジンやモータ・ジェネレータ等の動力源の消費エネルギーが増大するので、発核制御をしないで消費エネルギーを減少させる。図12の例では、時刻t5から時刻t6の状態があげられる。この場合は、コンプレッサ11に使用できるエネルギーが減少し、生成熱量(δ1)が減少する。ここで、消費熱量(δ2)の増加量は高低差(標高)の変化にほとんど依存しないため、蓄熱量(δ3)が減少する。
【0054】
図12においては、時刻t1以降において降坂路が続くため、蓄熱量(δ3)の増加量は平坦部の走行時よりも増加する。蓄熱量(δ3)が増大し、今後も増大することが推定される場合には、蓄熱材1について発核制御を行い、発核させるべき位置すなわち発核させるべく動作させる熱電素子4A,4B,…4Pが選択される。このとき時刻t2から時刻t4まで発核制御を行っているが、蓄熱量(δ3)は時刻t5まで増加すると推定されているため、時刻t4から時刻t5の間では蓄熱量(δ3)が増加しているにも関わらず発核制御を行っていないことになる。しかし、時刻t5以降では高低差(標高)が時間の経過と共に高くなる、いわゆる登坂路における走行になると予測され、これに伴い蓄熱量(δ3)が減少すると推定されるため、時刻t5以降の蓄熱量(δ3)を考慮して時刻t4から時刻t7まで発核制御を行わない。また、時刻t7から時刻t8の間についても同様に発核制御が行われる。時刻t10以降においては、時刻t12まで降坂路を走行し、その後平坦部を走行するが、発核制御は降坂路を走行時の時刻t11と平坦部を走行時の時刻t12との間に行われている。これは、進行方向に渋滞などが予測されたり、もしくは、市街地となり蓄熱量を増加できる区間がない場合は、事前に積極的に発核制御を行い蓄熱量(δ3)を増やし、将来に備えるためである。
【0055】
なお、発核作用を促すエネルギーを与えることについては、要は蓄熱材にエネルギーを伝えられれば良く、熱電素子による熱エネルギーに限らず、マイクロ波、物理的な衝撃を与えても良い。また、熱搬入媒体を通じて流入される熱量(エネルギー量)は冷凍サイクル10からの熱量(エネルギー量)に限らず、太陽電池、廃熱から得られる熱量(エネルギー量)であれば良い。
【0056】
なお、蓄熱材1に対して、熱搬入媒体としての冷媒2が正の熱である暖熱を搬入し、かつ蓄熱材1の有する暖熱を、熱搬出媒体としてのブライン3が搬出するように構成した場合においても、蓄熱材1が過冷却の状態である時に蓄熱材1の外部から刺激を与えると、蓄熱材1は凝固する。蓄熱材1にエネルギーを与える刺激手段としては、熱搬入媒体としての冷媒2が冷熱を搬入し、蓄熱材1の有する冷熱を、熱搬入媒体としてのブライン3が搬出するように構成した場合と同様である。蓄熱材1は凝固する際に潜熱を放出するため、過冷却の状態から相変化することにより放熱量が増大(増加)する。したがって、蓄熱材1は外部から刺激を与えることにより放熱量が増大(増加)する。
【0057】
また、蓄熱材1に対して、熱搬入媒体としての冷媒2が暖熱を搬入し、かつ蓄熱材1の有する暖熱を、熱搬出媒体としてのブライン3が搬出するように構成した場合は、蓄熱材1に入力される暖熱量が、蓄熱材1から放出される暖熱量より少ないことになり、このような状態を図2におけるステップS23で判断している。そして、その判断結果に基づく局部的な発核操作を行うので、発核に消費する熱量(エネルギー量)が、発核に伴って増大(増加)する放熱量より少なく、その結果、効率良く放熱を行うことができる。言い換えれば、放熱量が増大(増加)する過冷却状態もしくは温度分布の状態で熱電素子が選択されて動作し、発核が行われる。
【0058】
なお、蓄熱材1に対して、熱搬入媒体としての冷媒2が暖熱を搬入し、かつ蓄熱材1の有する暖熱を、熱搬出媒体としてのブライン3が搬出するように構成した場合において、過冷却部が存在することが検出もしくは判断されてステップS43で肯定的な判断が成立した場合には、発核作用により増大(増加)する放熱量(以下、増加放熱量と記す)は、推定された温度分布から算出される(ステップS44)。すなわち、増加放熱量は、蓄熱材1内の過冷却部の量や凝固する量ならびにその潜熱などから求められることができる。
【0059】
さらにまた、蓄熱材1に対して、熱搬入媒体としての冷媒2が暖熱を搬入し、かつ蓄熱材1の有する暖熱を、熱搬出媒体としてのブライン3が搬出するように構成した場合においては、図4におけるステップS44において算出された増加放熱量(β1)と図4におけるステップS46において算出された熱電素子作動電力量(β2)との関係から、エネルギー効率を表す図6の判定マップに基づいて発核作用の可否が判断される(ステップS47)。このステップS47の判断は、図6に記載してある判定マップに基づいて行うことができる。この判定マップは、熱搬入媒体としての冷媒2が冷熱を搬入し、かつ蓄熱材1の有する冷熱を、熱搬出媒体としてのブライン3が搬出するように構成した場合と同様に構成される。したがって、上記のステップS44で算出された増加放熱量と上記のステップS46で算出された熱電素子作動電力量(β2)との関係が図6に基づいて判断される。また、ステップS47では、その時点の動作状況がA領域か否かの判断が行われ、否定的に判断された場合には熱電素子4を動作させることなく本制御ルーチンを一旦終了する。また、肯定的に判断された場合は、発核させるべき位置すなわち発核させるべく動作させる熱電素子4が選択される(ステップS48)。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】この発明の蓄熱器の内部の一例を模式的に示す図である。
【図2】図1に示す蓄熱器において選択的に発核させる制御例を説明するためのフローチャートである。
【図3】この発明の他の一例を模式的に示す図である。
【図4】図3に示す発核作用による蓄熱量の増加と発核作用の際に生じる熱量の比較に基づいて発核を制御する制御例を説明するためのフローチャートである。
【図5】図4に示す制御例で使用する熱電素子作動電力量に関するマップを概略的に示す図である。
【図6】図4に示す制御例で使用する発核作用の可否を判定するマップを概略的に示す図である。
【図7】この発明の他の一例を模式的に示す図である。
【図8】図7に示すエンジン負荷量と外気温に伴う生成熱量に基づいて発核を制御する制御例を説明するためのフローチャートである。
【図9】図8に示す制御例で使用する生成熱量に関するマップを概略的に示す図である。
【図10】この発明の他の一例を模式的に示す図である。
【図11】図10に示す予測生成熱量と予測消費熱量に基づいて発核を制御する制御例を説明するためのフローチャートである。
【図12】図10に示す発核の制御タイミングを説明するためのタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0061】
1…蓄熱材、 2…冷媒、 3…ブライン、 4A,4B,〜4P…熱電素子、 5…入熱用配管、 6…出熱用配管、 7A,7B…入口部、 8A,8B…出口部、 9A,9B,…9E,18…温度センサ, 10…冷凍サイクル、 11…コンプレッサ、 12…コンデンサー、 13…レシーバータンク、 14…膨張弁、 15…熱交換器、 16…ポンプ、 17…コントローラ、 19…蓄熱器。
【技術分野】
【0001】
この発明は、過冷却状態で外部からの刺激によって固相の核を生じて凝固を開始する蓄熱材を備えた蓄熱装置に関し、特に冷媒などの媒体の有する熱(もしくは冷熱)を一時的に蓄える蓄熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行などに伴って生じる余剰の熱やエネルギーを回収して蓄熱し、その熱エネルギーを暖気や冷房などに使用するように構成した蓄熱器が知られている。その一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された装置では、酢酸ナトリウム3水塩や硫酸ナトリウム10水塩などの過冷却度の大きい潜熱蓄熱材が熱媒体と熱交換可能に設けられるとともに、その潜熱蓄熱材の内部に熱電素子が配置されている。その潜熱蓄熱材が過冷却状態になっている場合に、熱電素子に電圧を印加することにより、潜熱蓄熱材が局部的に冷却され、その結果、発核が生じて凝固が開始され、それに伴う潜熱が放出されることにより、熱媒体を加熱するようになっている。
【0003】
また、特許文献2には、車両の走行時のうち高速走行時には長時間に亘り停車状態に移行しないとみなして、蒸発器の冷却温度を高くして凝縮水蓄冷量を減少させる通常冷房モードを作動させ、また低速走行時には頻繁に停車を余儀なくされる市街地走行であるとみなして、蒸発器の冷却温度を低くして凝縮水蓄冷量を増加させる蓄冷モードを作動させると共に、車両の現在位置、進行方向、速度等の走行状態の情報と信号機の位置等の信号機情報とに基づいて必要な蓄冷量を制御する車両用空調装置が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−281372号公報
【特許文献2】特開2002−356112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に記載されているように、蓄熱材を凝固させれば、潜熱として蓄冷量を多くすることができる。また、このような蓄熱材を使用すれば、冷熱の需要の変動に即した熱エネルギーを供給することができる。しかしながら、蓄熱材による蓄熱容量を増大させるべく相変化を生じさせる場合、前述した過冷却度の大きい蓄熱材を使用すると、過冷却状態のままにとどまって適時に凝固しない場合があり、その場合には蓄熱材に刺激を与えて凝固を開始させることになる。このような操作あるいは固相の発生が発核であって、従来、一例として、電気的な刺激や機械的刺激による発核が知られている。発核は、外部からの刺激によって固相を生じさせる操作であるから、そのための手段もしくは機構を動作させることになるので、エネルギーの消費を伴う。したがって、蓄熱のための熱量の供給が不安定な場合、発核させるために要するエネルギーが、発核に伴って増大する蓄熱量を上回る場合があるが、従来ではこのような事態に対応して効率良く蓄熱する技術がなく、新たな技術の開発が必要であった。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、蓄熱材に対する入熱あるいは蓄熱材からの放熱を考慮して発核させることにより、蓄熱効率を向上させることのできる蓄熱装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1の発明は、相変化を伴う潜熱を蓄える蓄熱材を備えた蓄熱装置において、前記蓄熱材に固相の核を生じさせる発核手段と、前記蓄熱材を発核させることにより増大する蓄熱量を算出する第一算出手段と、発核のために前記発核手段により消費される熱量を算出する第二算出手段と、前記第一算出手段で算出された蓄熱量と前記第二算出手段で算出された熱量との比較結果に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断する判断手段とを備えていることを特徴とする蓄熱装置である。
【0008】
請求項2の発明は、相変化を伴う潜熱を蓄える蓄熱材を備えた蓄熱装置において、前記蓄熱材に固相の核を生じさせる発核手段と、前記蓄熱材に入力される熱量を算出する第三算出手段と、算出した前記第三算出手段の算出結果に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断する判断手段とを備えていることを特徴とする蓄熱装置である。
【0009】
請求項3の発明は、相変化を伴う潜熱を蓄える蓄熱材を備えた蓄熱装置において、前記蓄熱材に固相の核を生じさせる発核手段と、前記蓄熱材に入力される熱量を予測する第一予測手段と、前記蓄熱材から出力される熱量を予測する第二予測手段と、前記第一予測手段で予測された熱量と前記第二予測手段で予測された熱量との差により前記蓄熱装置の蓄熱量を推定する推定手段と、前記推定手段の推定結果に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断する判断手段とを備えていることを特徴とする蓄熱装置である。
【0010】
請求項4の発明は、請求項2の発明において、前記第三算出手段は、走行状態を検出する走行状態検出手段または走行環境を検出する走行環境検出手段で得られた情報に基づいて入力される熱量を算出することを特徴とする蓄熱装置である。
【0011】
請求項5の発明は、請求項2または請求項4の発明において、前記判断手段は、前記第三算出手段による算出結果と蓄熱材の内部における推定された温度分布に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断する手段を含むことを特徴とする蓄熱装置である。
【0012】
請求項6の発明は、請求項3の発明において、前記第一予測手段は、前記走行状態検出手段または前記走行条件検出手段あるいは前記走行環境検出手段で得られた情報に基づいて入力される熱量を予測し、前記第二予測手段は、前記走行状態検出手段または前記走行条件検出手段あるいは前記走行環境検出手段で得られた情報に基づいて出力される熱量を予測することを特徴とする蓄熱装置である。
【0013】
請求項7の発明は、請求項3または6の発明において、前記判断手段は、前記推定手段による推定された蓄熱量と蓄熱材の内部における推定された温度分布に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断することを特徴とする蓄熱装置である。
【0014】
請求項8の発明は、請求項1から7のいずれかの発明において前記発核手段は熱電素子を用いる手段であることを特徴とする蓄熱装置である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、発核を生じさせることにより増大する蓄熱量が、発核を生じさせるために消費される熱量と比較して大きい場合は、蓄熱装置の蓄熱量がより増大するように発核を生じさせて、エンジンやモータ・ジェネレータなどの動力源から発生する熱量を有効に蓄えることができる。また、発核を生じさせることにより増大する蓄熱量が発核を生じさせることに消費される熱量と比較して小さい場合は、発核を生じさせる制御をしないことにより、発核の発生に用いられるエネルギー消費を防ぐことができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、蓄熱材に入力される熱量の算出結果に応じて発核を生じさせるので、不必要に発核させて熱量を失うことを防止または抑制し、蓄熱効率を向上させることができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、蓄熱材から出力される熱量の予測値よりも蓄熱材に入力される熱量の予測値が大きい場合は蓄熱量の増加が推定されるため、蓄熱装置の蓄熱量がより増大するように発核を生じさせて、エンジンやモータ・ジェネレータなどの動力源から発生する熱量を有効に蓄えることができる。また、蓄熱材から出力される熱量の予測値よりも蓄熱材に入力される熱量の予測値が小さい場合は蓄熱量の減少が推定されるため、発核を生じさせないことにより発核に用いられるエネルギー消費を防ぐことができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、アクセル開度、車速、変速比、ブレーキ等の走行状態と外気温等の走行環境に基づいて蓄熱材に入力される熱量を算出し、これに応じて発核を生じさせるので、不必要に発核させて熱量を失うことを防止または抑制し、蓄熱効率を向上させることができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、前記第三算出手段による算出結果と蓄熱材内部の温度分布に基づいて発核を生じさせた方が前記第三算出手段により算出される熱量を効率よく蓄熱できると判断した場合は、蓄熱材内部の温度分布から蓄熱量がより増大するように発核を生じさせることにより、エンジンやモータ・ジェネレータなどの動力源におけるエネルギーの効率が向上する。また、発核をさせない方がエネルギー効率が良いと判断した場合は、発核を生じさせないことにより発核の発生に用いられるエネルギー消費を防ぐことができる。
【0020】
請求項6の発明によれば、蓄熱材から出力される熱量と蓄熱材に入力される熱量とがアクセル開度、エンジン回転数、車速、シフト、ブレーキ等の走行状態、渋滞情報などのインフラからの情報、三次元ナビゲーションシステム(道路勾配)等の走行環境、外気温等の走行条件に基づいて予測され、出力される熱量の予測結果と入力される熱量の予測結果から求められる蓄熱量の増減に基づいて発核させるか否かの制御を行う。入力される熱量の予測結果が出力される熱量の予測結果よりも大きい場合は、入力される熱量の予測結果と出力される熱量の予測結果との差に該当する熱量が蓄熱材に入力されると推定されるため、蓄熱材の蓄熱量をより増大させるように発核を生じさせる。一方、入力される熱量の予測結果が出力される熱量の予測結果よりも小さい場合は、入力される熱量の予測結果と出力される熱量の予測結果との差に該当する熱量が蓄熱材から出力されると推定されるため、発核を生じさせないことにより発核の発生に用いられるエネルギー消費を防ぐことができる。
【0021】
請求項7の発明によれば、推定された蓄熱量と蓄熱材内部における推定された温度分布に基づいて発核を生じさせた方が効率よく蓄熱できるか否かを判断し、その結果発核させるか否かを制御する。蓄熱材に入力される熱量の予測結果が蓄熱材から出力される熱量の予測結果よりも大きい場合は、入力される熱量の予測結果と出力される熱量の予測結果との差に該当する熱量が蓄熱材に入力されると推定されるため、蓄熱装置の蓄熱量をより増大させるように発核を生じさせる。一方、蓄熱材に入力される熱量の予測結果が蓄熱材から出力される熱量の予測結果よりも小さい場合には、入力される熱量の予測結果と出力される熱量の予測結果との差に該当する熱量が蓄熱材から出力されるため、発核を生じさせないことにより発核の発生に用いられるエネルギー消費を防ぐことができる。
【0022】
請求項8の発明によれば、熱電素子に電流を流すことにより蓄熱材と接触している熱電素子の面がペルティエ効果により冷却される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
つぎにこの発明をより具体的に説明する。この発明の蓄熱装置は、エネルギーを増大させる正の熱の蓄熱と、エネルギーを低下させる負の熱の蓄熱とのいずれも可能である。
【0024】
図1に示す例は、蓄熱材1に対して、熱搬入媒体としての冷媒2が冷熱を搬入し、かつ蓄熱材1の有する冷熱を、熱搬出媒体としてのブライン3が搬出するように構成した例である。その蓄熱材1は、水やエチルグリコール水溶液、塩化アンモニウム水溶液など融点が低く、融解熱が比較的大きい潜熱蓄熱材であって、所定の容器の内部に封入されている。その蓄熱材1の周囲には、蓄熱材1を取り囲んだ状態で複数の熱電素子(熱電モジュール)4A,4B,…4Pが、隙間なく、もしくは間隔をあけて並んで配置されている。これらの熱電素子4A,4B,…4Pは、蓄熱材1を局部的に冷却して発核させるためのものであり、蓄熱材1に接する面とこれとは反対側の外気に接する面とに接点を有し、これらの接点の間に電圧を印加することにより、蓄熱材1に接する接点で吸熱が生じるように構成されている。
【0025】
また、冷媒2を流通させる入熱用配管5と、ブライン3を流通させる出熱用配管6が、蓄熱材1の内部を貫通した状態で配置されている。これらの配管5,6は蓄熱材1の内部で所定の間隔をあけて配置され、かつこれらの配管5,6の間を蓄熱材1が満たしており、したがって各配管5,6の間、すなわち冷媒2とブライン3との間では蓄熱材1を介した熱伝達が生じるように構成されている。
【0026】
そして、各配管5,6の蓄熱材1に埋まっている部分では、冷媒2と蓄熱材1、ブライン3と蓄熱材1との熱交換が生じるので、これらの部分が熱交換部となっており、特に入熱用配管5はこの発明の熱搬入部となっており、また出熱用配管6はこの発明の熱搬出部となっている。さらに、図1に示す例では、ブライン3が下から上に向けて流れるように構成されており、したがって出熱用配管6の図1での下側の部分が入口部7Aとなり、上側の部分が出口部8Aとなっている。そして、蓄熱材1の内部の複数箇所には、温度センサ9A,9B,…9Eが配置され、それぞれの部分の温度を検出するようになっている。なお、配置位置は、例えば入熱用配管5の入口部7Bの近傍およびその出口部8Bの近傍、出熱用配管6の入口部7Aの近傍およびその出口部8Aの近傍、ならびに蓄熱材1の中央部である。
【0027】
なおここで、上記の冷媒2を循環させる冷凍サイクル10について簡単に説明すると、車両のエンジンなどの動力源(図示せず)によって駆動されるコンプレッサ11を備えており、その吐出側にコンデンサー12およびレシーバータンク13ならびに膨張弁14が順に接続されている。そして、その膨張弁14の吐出側に前述した入熱用配管5が接続され、さらにその入熱用配管5がコンプレッサ11の吸入側に接続されている。したがってこの発明の熱搬入部を構成している入熱用配管5が冷凍サイクル10のエバポレータとなっている。他方、前記出熱用配管6は、車室側熱交換器などの熱交換器15との間で循環路を形成するように構成され、その循環路の途中にポンプ16が介装されている。
【0028】
なお、図1におけるコンデンサー12は、大気中に熱を放散させる構造であってもよく、あるいはこれに代えて放出した熱を蓄える蓄熱材を用いた蓄熱器として構成しても良い。これにより、コンデンサー12を用いるときと同様に冷凍サイクル10内を循環させている冷媒を冷却させて、蓄熱材1に搬入熱を溜めることが可能である。また、図1に用いられている冷媒2の代わりにエンジンやATFーOILの冷却液を用いることにより、廃熱を溜めることができる。
【0029】
上記の熱電素子4A,4B,…4Pの制御を行うためのコントローラ(ECU)17が設けられている。このコントローラ17は、一例としてマイクロコンピュータを主体として構成されており、入力されたデータおよび予め記憶しているデータとプログラムとを利用して、動作させるべき熱電素子4A,4B,…4Pの選択およびオン・オフの制御を行うように構成されている。その制御のために入力されているデータは、各温度センサ9A,9B,…9Eで検出された温度、外気温度、冷媒2の流量、ブライン3の流量などである。
【0030】
蓄熱材1は、融点以上の温度の状態および過冷却の状態では液相をなしており、その状態では、凝固した後の固相に比較して比熱が大きく、したがって伝導可能な熱量が多い半面、その伝導速度が遅い。固相の状態では、これとは反対の特性を示す。この発明の制御装置は、蓄熱材1のこのような特性を利用して蓄熱を効率良く行うために、蓄熱材1の発核あるいは凝固を選択的に生じさせるように構成されている。
【0031】
蓄熱材1が過冷却の状態である時に蓄熱材1の外部から熱等の刺激を与えると、蓄熱材1は刺激を受けた近傍において凝固する。蓄熱材1に刺激を与える具体例としては、蓄熱材1の周囲に熱電素子4A,4B,…4Pを配設し、通電させることにより刺激が与えられるようにしたものが挙げられる。凝固された蓄熱材1は潜熱による蓄冷が行われるため、過冷却の状態と比べて蓄熱量が増大(増加)する。したがって、蓄熱材1は外部から刺激を与えることにより蓄熱量が増大(増加)する。
【0032】
図2はその制御の一例を説明するためのフローチャートである。先ず、蓄熱材の外側及び内側に設けられている温度センサ9A,9B,…9Eによる検出値は、ステップS21においてコントローラ17に読み込まれる。そして、前記検出値に基づいて、蓄熱材1の内部の温度分布が推定される(ステップS22)。前述した温度センサ9A,9B,…9Eは、限られた場所に配置されているため、蓄熱材1の全ての箇所の温度を知ることはできないが、前記各配管5,6の位置やこれらの配管5,6を含む全体としての構造が判っているので、温度センサ9A,9B,…9Eが配置されていない箇所の温度を実験データやシミュレーションなどに基づいて推定することができる。
【0033】
この温度分布の推定結果に基づいて過冷却部があるか否かが判断される(ステップS23)。蓄冷している過程で凝固点以上の箇所と凝固し始めた箇所とが併存すると、凝固し始めた箇所は、潜熱を放出するために凝固点の温度を維持する。これに対して凝固せずに過冷却の部分が併存すると、凝固点以上の部分と過冷却部との間では、温度が連続的に変化する状態になる。このように、凝固が始まっていて過冷却部が存在しない場合もしくは部分と、過冷却部が併存する部分とでは、温度が異なっているので、温度分布から過冷却部の有無を検出することができる。
【0034】
過冷却部が存在しないことが検出もしくは判断されてステップS23で否定的に判断された場合には、発核のための前提条件が成立していないので、特に制御を行うことなくこのルーチンを一旦終了する。これに対して過冷却部が存在することが検出もしくは判断されてステップS23で肯定的な判断が成立した場合には、発核させるべき位置すなわち発核させるべく動作させる熱電素子4A,4B,…4Pが選択される(ステップS24)。この熱電素子4A,4B,…4Pに電圧を掛けてそのペルティエ効果によって蓄熱材1を局部的に冷却する。したがって、上記の蓄熱装置においては、蓄熱材1に過冷却部が存在していることが検出もしくは判断された場合には、蓄熱材1に入力される冷熱量が、蓄熱材1から放出される冷熱量より多いことになり、このような状態をステップS23で判断している。そして、その判断結果に基づく局部的な発核操作を行うので、発核に消費する熱量(エネルギー量)が、発核に伴って増大(増加)する蓄熱量より少なく、その結果、効率良く蓄熱を行うことができる。言い換えれば、蓄熱量が増大(増加)する過冷却状態もしくは温度分布の状態で熱電素子が選択されて動作し、発核が行われる。
【0035】
蓄熱材1の他の例を示す概略を図3に示す。本実施例においては、蓄熱材の内部温度を測定する温度センサ9の他に、蓄熱器19の周辺部の温度を測定する温度センサ18が設けられている。熱電素子4A,4B,…4P、温度センサ9A,9B,…9Eについては、図1の例と同様に設けられているが、熱電素子4、温度センサ9として簡略化して表示する。また、他の構造は、図1と同一であるため、図3に図1と同様の符号を付して、その説明を省略する。
【0036】
図4は図3に示す蓄熱装置を対象とする制御例を説明するためのフローチャートである。ステップS41からステップS43は、前述したステップS21からステップS23までと同一であるため、説明を省略する。過冷却部が存在しないことが検出もしくは判断されたことによりステップS43で否定的に判断された場合には、発核のための前提条件が成立していないので、特に制御を行うことなくこのルーチンを一旦終了する。これに対して過冷却部が存在することが検出もしくは判断されてステップS43で肯定的な判断が成立した場合には、発核作用により増大(増加)する蓄熱量(以下、増加蓄熱量と記す)(β1)は、推定された温度分布から算出される(ステップS44)。すなわち、蓄熱材1内の過冷却部の量や凝固する量ならびにその潜熱などから増加蓄熱量を求めることができる。
【0037】
その後、蓄熱器19の周辺に設けられた温度センサ18により蓄熱器19の周辺温度が測定され、コントローラ17に読み込まれる(ステップS45)。ステップS41で読み込んだ温度とステップS45で読み込んだ周囲温度との温度差から熱電素子4を作動させる際に消費される熱量(エネルギー量)である熱電素子作動電力量(β2)が算出される。蓄熱材の温度(α1)と周囲温度(α2)との温度差が大きく、かつ周囲温度(α2)が高い場合には、蓄熱材1を発核させるためにより大きなエネルギーが必要となる。一方、蓄熱材の温度(α1)と周囲温度(α2)との温度差が小さい場合には、蓄熱材1を発核させるための熱量(エネルギー量)は少なくて良い。これについて実験データの蓄積に基づいて作成されたのが、図5に示す作動電力量算出マップであり、熱電素子作動電力量(β2)の算出は、前記作動電力量算出マップから求められる(ステップS46)。
【0038】
ステップS44において算出された増加蓄熱量(β1)とステップS46において算出された熱電素子作動電力量(β2)との関係から、エネルギー効率を表す図6の判定マップに基づいて発核作用の可否が判断される(ステップS47)。このステップS47の判断は、図6に記載してある判定マップに基づいて行うことができる。この判定マップは、横軸に熱電素子作動電力量(β2)を取り、縦軸に増加蓄熱量(β1)を取った二次元マップであって、図6に曲線で示す境界線Lによって、A領域とB領域とに区分されている。この境界線Lは、増加蓄熱量(β1)に対する熱電素子作動電力量(β2)の比が1となる線(図6では45度の線)に対して若干図6の上側に位置する曲線として設定された境界線である。増加蓄熱量(β1)が熱電素子作動電力量(β2)より幾分多くなる領域をB領域とし、増加蓄熱量(β1)が熱電素子作動電力量(β2)よりさらに多くなる領域をA領域としてある。図6の判定マップが曲線となっているのは、熱電素子作動電力量(β2)が増加すると蓄熱材の温度(α1)と周囲温度(α2)との温度差が大きい、もしくは、周囲温度(α2)が高いかで、熱電素子と蓄熱材とが接触する面の温度を蓄熱材を過冷却させる温度まで下げるために必要なエネルギー量が多くなり効率が悪くなることによるものである。したがって、上記のステップS44で算出された増加蓄熱量(β1)と上記のステップS46で算出された熱電素子作動電力量(β2)との関係が図6に基づいて判断される。したがって、ステップS47では、その時点の動作状況がA領域か否かの判断が行われ、否定的に判断された場合には熱電素子4を動作させることなく本制御ルーチンを一旦終了する。また、肯定的に判断された場合は、発核させるべき位置すなわち発核させるべく動作させる熱電素子4が選択される(ステップS48)。
【0039】
蓄熱装置の他の例を図7に概略的に示す。本実施例は、構造は図1と同一であるが、発核制御に用いられている情報としてアクセル開度、エンジン回転数、車速情報、変速比、ブレーキ情報等の走行状態と、外気温の走行環境が読み込まれている点で図1に示される例と異なっている。なお、熱電素子4A,4B,…4P、温度センサ9A,9B,…9Eについては、図1の例と同様に設けられているが、熱電素子4、温度センサ9として簡略化して表示する。また、他の構造は図1と同一であるため、図7に図1と同様の符号を付してその説明を省略する。
【0040】
図8は他の例における制御例を説明するためのフローチャートである。本実施例においては、アクセル開度、エンジン回転数、車速、変速比、ブレーキ等の走行状態が読み込まれ(ステップS81)、ついでエンジン負荷(要求トルク)量(γ1)が算出される(ステップS82)。その算出されたエンジン負荷(要求トルク)量(γ1)が判定基準負荷量(γ2)以下か否かが判定される(ステップS83)。エンジン負荷(要求トルク)量(γ1)が判定基準負荷量(γ2)よりも大きい場合には、エンジンやモータ・ジェネレータ等の動力源にかかる負荷が大きく、コンプレッサ11で発生できる熱量(エネルギー量)も少なくなるため、コンプレッサ11から冷媒2を通じて流入される熱量(エネルギー量)も少なくなる。このため、上記のエンジン負荷(要求トルク)量(γ1)が判定基準負荷量(γ2)よりも大きい場合は、発核作用を生じさせることなく上記の制御ルーチンを終了する。また、外気温が高い場合には、コンデンサー12からの放熱性が悪くなるため、不可避的に冷媒2を通じて流入される熱量が少なくなり、発核制御は行わない。
【0041】
エンジン負荷(要求トルク)量(γ1)が判定基準負荷量(γ2)以下であることにより、ステップS83で肯定的に判断された場合は、エンジンやモータ・ジェネレータ等の動力源の負荷が小さく、コンプレッサ11で発生できる熱量(エネルギー量)も多くなるため、コンプレッサ11から冷媒2を通じて蓄熱材1に流入する熱量が多くなる。したがって、発核作用を生じさせるか否かを検討するべくステップS84以降の制御ルーチンに進む。
【0042】
エンジン負荷(要求トルク)量(γ1)が判定基準負荷量(γ2)よりも小さい場合は、温度センサ等により測定された外気温とエンジン負荷(要求トルク)量(γ1)とに基づいてコンプレッサ11で発生され、冷媒2を通じて蓄熱材1に流入される熱量が熱生成量(γ3)として算出される(ステップS84)。ここで、コンプレッサ11に可変容量コンプレッサが用いられる場合は、エンジン回転数が高く、エンジン負荷が大きくなるに従い、コンプレッサ11の容量が減少される。これにより、熱生成で消費される駆動力が減少され、車両にかかる駆動力が増大される。したがって、可変容量コンプレッサの場合は、エンジン回転数が低く、エンジン負荷が小さい場合に熱生成量(γ3)が多くなる。また、コンプレッサ11において定容量コンプレッサが用いられる場合は、エンジン回転数に比例して熱生成量(γ3)が増大する。なお、外気温が高い場合はコンデンサー12からの放熱性が悪くなるので算出される熱生成量(γ3)が少なくなり、発核制御をしない。
【0043】
一方、温度センサ9の取り付け場所は、図1と同様に蓄熱材1の外側及び内側に設けられている。ステップS85,S86で記されている温度センサ9の読み込み、推定された内部の温度分布は、前述したステップS21,S22と同一であるため説明を省略する。ステップS87では、算出された熱生成量(γ3)と推定された温度分布とに基づいて発核制御の要否を判断している。温度分布の推定結果からは、蓄熱材1と冷媒2とブライン3との熱的特性が判断される。ここで、蓄熱材1の熱的特性には、蓄熱材1が凝固された状態を含む熱的特性と蓄熱材1が凝固されていない状態での熱的特性とが含まれる。発核を生じさせた方が熱生成した冷熱量(γ3)を効率よく蓄熱できると判断した場合は、蓄熱量、蓄熱速度を考慮して発核させるべき位置すなわち発核させるべく動作させる熱電素子4が選択される(ステップS88)。
【0044】
蓄熱装置の他の例を図10に概略的に示す。本実施例においては、構造上は図1と同一であるが、発核制御に用いられている情報が、走行状態を示す情報とインフラ情報と三次元ナビゲーションシステムに備えられている情報と走行環境情報とである点で異なっている。走行状態を示す情報には、アクセル開度とエンジン回転数と車速と変速比とブレーキとが含まれている。また、インフラ情報には、渋滞、信号、気象情報などの外部から受け取ることのできる情報が含まれる。さらに、三次元ナビゲーションシステムに備えられている情報には、道路勾配、踏切、カーブ情報などが含まれる。なお、熱電素子4A,4B,…4P、温度センサ9A,9B,…9Eについては、図1の例と同様に設けられているが、熱電素子4、温度センサ9として簡略化して表示する。また、他の構造は、図1と同一であるため、説明を省略する。
【0045】
図11は他の例における制御例を説明するためのフローチャートである。本実施例においては、アクセル開度、エンジン回転数、車速、変速比、ブレーキ等の走行状態、渋滞、信号、気象情報などのインフラからの情報、道路勾配、踏切、カーブの三次元ナビゲーション情報などからの走行条件、外気温の走行環境情報の走行環境等の情報がコントローラ17に読み込まれている(ステップS111)。ここで、三次元ナビゲーションの情報には目的地の場所、現在位置からの距離、高低差等が含まれている。また、アクセル開度、エンジン回転数、車速、変速比、ブレーキについては、運転手の操作を制御装置にフィードバックすることにより入力情報としての精度を向上することができる。
【0046】
三次元ナビゲーションの情報により読み込まれた目的地と現在位置との走行距離、高低差等から、エンジンやモータ・ジェネレータ等の動力源の負荷を予測(推測)し、コンプレッサ11により、将来、発生される成熱量(δ1)が予測される(ステップS112)。また、三次元ナビゲーションの情報により読み込まれた目的地と現在位置との走行距離、高低差等から、蓄熱材1に蓄熱された将来の消費熱量(δ2)が予測される(ステップS113)。そして、上記の将来、発生される成熱量(δ1)と将来の消費熱量(δ2)とから将来の蓄熱量(δ3)を推定することができる(ステップS114)。
【0047】
ステップS115において蓄熱材1の外側及び内側の温度を温度センサによりコントローラ17に読み込み、ステップS116において温度分布の推定が行われ、これらは前述したステップS21,S22と同一であるため説明を省略する。
【0048】
ステップS116において推定された内部の温度分布とステップS114において推定される将来の蓄熱量(δ3)とに基づいて発核制御の可否が判断される。具体的には、推定された内部の温度分布から蓄熱材1の過冷却部があるか否かが判断され、将来の蓄熱量(δ3)が過冷却状態の蓄熱材1の蓄熱量を超えないと判断した場合には、発核制御をすることなく本ルーチンを抜ける。一方、将来の蓄熱量(δ3)が過冷却状態の蓄熱材1の蓄熱量を超えると判断した場合には、発核させるべき位置すなわち発核させるべく動作させる熱電素子4A,4B,…4Pが選択される(ステップS118)。この熱電素子4A,4B,…4Pに電圧を掛けてそのペルティエ効果によって蓄熱材1を局部的に冷却する。
【0049】
本ルーチンにおける高低差(標高)に対する生成熱量累積(δ1)、消費熱量累積(δ2)、蓄熱量(δ3)、発核制御の有無を表すタイミングチャートを図12に記す。ここで、蓄熱量(δ3)は前記生成熱量累積(δ1)と前記消費熱量累積(δ2)との差を示している。また、図12に示すタイミングチャートは、高低差(標高)を要因とする生成熱量累積(δ1)、消費熱量累積(δ2)、蓄熱量(δ3)、発核制御の有無について示しており、他の走行状態、走行条件、走行環境の要因は考慮しないとする。高低差(標高)の情報は、三次元ナビゲーションから将来走行する予定の高低差がコントローラ17に読み込まれる。
【0050】
車両の走行により冷凍サイクル10からエネルギーが出力されているため、生成熱量累積(δ1)は時間の経過と共に増加する。また、消費熱量累積(δ2)は、冷房によって蓄熱材1から消費される熱量の累積を示し、冷房の設定温度、送風量、使用時間等に伴い増加する。なお、図12に示すタイミングチャートは、高低差(標高)を要因とする消費熱量累積(δ2)について示されているため、冷房の設定温度、送風量、使用時間等の変動は考慮していない。
【0051】
図12におけるタイミングチャートにおいて、高低差(標高)の変動のない場合は、いわゆる平坦部を走行している。具体的には、図12における時刻t1までの状態があげられる。生成熱量累積(δ1)、消費熱量累積(δ2)は共に一定の割合で増加するため、生成熱量累積(δ1)、消費熱量累積(δ2)の差である蓄熱量(δ3)も一定の割合で増加する。
【0052】
また、高低差(標高)が時間の経過と共に低くなる場合は、いわゆる降坂路の走行に該当し、この場合は車両の位置エネルギーがコンプレッサ11により生成熱エネルギーに変換されているため、動力源から発生する熱エネルギーが増加し、走行に伴う生成熱量累積量が多くなり、発核制御をして蓄熱量(δ3)を増加させる。図12の例では、時刻t2から時刻t4の状態が該当する。この場合は、コンプレッサ11に使用できるエネルギーが増加し、生成熱量(δ1)の増加量が増大する。このとき、消費熱量(δ2)の増加量は高低差(標高)の変化にほとんど依存しないため、蓄熱量(δ3)の増加量は平坦部の走行時よりも増加する。
【0053】
また、高低差(標高)が時間の経過と共に高くなる場合は、いわゆる登坂路の走行に該当し、この場合は車両の運動エネルギーが位置エネルギーに変換されているため、走行に伴うエンジンやモータ・ジェネレータ等の動力源の消費エネルギーが増大するので、発核制御をしないで消費エネルギーを減少させる。図12の例では、時刻t5から時刻t6の状態があげられる。この場合は、コンプレッサ11に使用できるエネルギーが減少し、生成熱量(δ1)が減少する。ここで、消費熱量(δ2)の増加量は高低差(標高)の変化にほとんど依存しないため、蓄熱量(δ3)が減少する。
【0054】
図12においては、時刻t1以降において降坂路が続くため、蓄熱量(δ3)の増加量は平坦部の走行時よりも増加する。蓄熱量(δ3)が増大し、今後も増大することが推定される場合には、蓄熱材1について発核制御を行い、発核させるべき位置すなわち発核させるべく動作させる熱電素子4A,4B,…4Pが選択される。このとき時刻t2から時刻t4まで発核制御を行っているが、蓄熱量(δ3)は時刻t5まで増加すると推定されているため、時刻t4から時刻t5の間では蓄熱量(δ3)が増加しているにも関わらず発核制御を行っていないことになる。しかし、時刻t5以降では高低差(標高)が時間の経過と共に高くなる、いわゆる登坂路における走行になると予測され、これに伴い蓄熱量(δ3)が減少すると推定されるため、時刻t5以降の蓄熱量(δ3)を考慮して時刻t4から時刻t7まで発核制御を行わない。また、時刻t7から時刻t8の間についても同様に発核制御が行われる。時刻t10以降においては、時刻t12まで降坂路を走行し、その後平坦部を走行するが、発核制御は降坂路を走行時の時刻t11と平坦部を走行時の時刻t12との間に行われている。これは、進行方向に渋滞などが予測されたり、もしくは、市街地となり蓄熱量を増加できる区間がない場合は、事前に積極的に発核制御を行い蓄熱量(δ3)を増やし、将来に備えるためである。
【0055】
なお、発核作用を促すエネルギーを与えることについては、要は蓄熱材にエネルギーを伝えられれば良く、熱電素子による熱エネルギーに限らず、マイクロ波、物理的な衝撃を与えても良い。また、熱搬入媒体を通じて流入される熱量(エネルギー量)は冷凍サイクル10からの熱量(エネルギー量)に限らず、太陽電池、廃熱から得られる熱量(エネルギー量)であれば良い。
【0056】
なお、蓄熱材1に対して、熱搬入媒体としての冷媒2が正の熱である暖熱を搬入し、かつ蓄熱材1の有する暖熱を、熱搬出媒体としてのブライン3が搬出するように構成した場合においても、蓄熱材1が過冷却の状態である時に蓄熱材1の外部から刺激を与えると、蓄熱材1は凝固する。蓄熱材1にエネルギーを与える刺激手段としては、熱搬入媒体としての冷媒2が冷熱を搬入し、蓄熱材1の有する冷熱を、熱搬入媒体としてのブライン3が搬出するように構成した場合と同様である。蓄熱材1は凝固する際に潜熱を放出するため、過冷却の状態から相変化することにより放熱量が増大(増加)する。したがって、蓄熱材1は外部から刺激を与えることにより放熱量が増大(増加)する。
【0057】
また、蓄熱材1に対して、熱搬入媒体としての冷媒2が暖熱を搬入し、かつ蓄熱材1の有する暖熱を、熱搬出媒体としてのブライン3が搬出するように構成した場合は、蓄熱材1に入力される暖熱量が、蓄熱材1から放出される暖熱量より少ないことになり、このような状態を図2におけるステップS23で判断している。そして、その判断結果に基づく局部的な発核操作を行うので、発核に消費する熱量(エネルギー量)が、発核に伴って増大(増加)する放熱量より少なく、その結果、効率良く放熱を行うことができる。言い換えれば、放熱量が増大(増加)する過冷却状態もしくは温度分布の状態で熱電素子が選択されて動作し、発核が行われる。
【0058】
なお、蓄熱材1に対して、熱搬入媒体としての冷媒2が暖熱を搬入し、かつ蓄熱材1の有する暖熱を、熱搬出媒体としてのブライン3が搬出するように構成した場合において、過冷却部が存在することが検出もしくは判断されてステップS43で肯定的な判断が成立した場合には、発核作用により増大(増加)する放熱量(以下、増加放熱量と記す)は、推定された温度分布から算出される(ステップS44)。すなわち、増加放熱量は、蓄熱材1内の過冷却部の量や凝固する量ならびにその潜熱などから求められることができる。
【0059】
さらにまた、蓄熱材1に対して、熱搬入媒体としての冷媒2が暖熱を搬入し、かつ蓄熱材1の有する暖熱を、熱搬出媒体としてのブライン3が搬出するように構成した場合においては、図4におけるステップS44において算出された増加放熱量(β1)と図4におけるステップS46において算出された熱電素子作動電力量(β2)との関係から、エネルギー効率を表す図6の判定マップに基づいて発核作用の可否が判断される(ステップS47)。このステップS47の判断は、図6に記載してある判定マップに基づいて行うことができる。この判定マップは、熱搬入媒体としての冷媒2が冷熱を搬入し、かつ蓄熱材1の有する冷熱を、熱搬出媒体としてのブライン3が搬出するように構成した場合と同様に構成される。したがって、上記のステップS44で算出された増加放熱量と上記のステップS46で算出された熱電素子作動電力量(β2)との関係が図6に基づいて判断される。また、ステップS47では、その時点の動作状況がA領域か否かの判断が行われ、否定的に判断された場合には熱電素子4を動作させることなく本制御ルーチンを一旦終了する。また、肯定的に判断された場合は、発核させるべき位置すなわち発核させるべく動作させる熱電素子4が選択される(ステップS48)。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】この発明の蓄熱器の内部の一例を模式的に示す図である。
【図2】図1に示す蓄熱器において選択的に発核させる制御例を説明するためのフローチャートである。
【図3】この発明の他の一例を模式的に示す図である。
【図4】図3に示す発核作用による蓄熱量の増加と発核作用の際に生じる熱量の比較に基づいて発核を制御する制御例を説明するためのフローチャートである。
【図5】図4に示す制御例で使用する熱電素子作動電力量に関するマップを概略的に示す図である。
【図6】図4に示す制御例で使用する発核作用の可否を判定するマップを概略的に示す図である。
【図7】この発明の他の一例を模式的に示す図である。
【図8】図7に示すエンジン負荷量と外気温に伴う生成熱量に基づいて発核を制御する制御例を説明するためのフローチャートである。
【図9】図8に示す制御例で使用する生成熱量に関するマップを概略的に示す図である。
【図10】この発明の他の一例を模式的に示す図である。
【図11】図10に示す予測生成熱量と予測消費熱量に基づいて発核を制御する制御例を説明するためのフローチャートである。
【図12】図10に示す発核の制御タイミングを説明するためのタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0061】
1…蓄熱材、 2…冷媒、 3…ブライン、 4A,4B,〜4P…熱電素子、 5…入熱用配管、 6…出熱用配管、 7A,7B…入口部、 8A,8B…出口部、 9A,9B,…9E,18…温度センサ, 10…冷凍サイクル、 11…コンプレッサ、 12…コンデンサー、 13…レシーバータンク、 14…膨張弁、 15…熱交換器、 16…ポンプ、 17…コントローラ、 19…蓄熱器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相変化を伴う潜熱を蓄える蓄熱材を備えた蓄熱装置において、
前記蓄熱材に固相の核を生じさせる発核手段と、
前記蓄熱材を発核させることにより増大する蓄熱量を算出する第一算出手段と、
発核のために前記発核手段により消費される熱量を算出する第二算出手段と、
前記第一算出手段で算出された蓄熱量と前記第二算出手段で算出された熱量との比較結果に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断する判断手段と
を備えていることを特徴とする蓄熱装置。
【請求項2】
相変化を伴う潜熱を蓄える蓄熱材を備えた蓄熱装置において、
前記蓄熱材に固相の核を生じさせる発核手段と、
前記蓄熱材に入力される熱量を算出する第三算出手段と、
算出した前記第三算出手段の算出結果に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断する判断手段と
を備えていることを特徴とする蓄熱装置。
【請求項3】
相変化を伴う潜熱を蓄える蓄熱材を備えた蓄熱装置において、
前記蓄熱材に固相の核を生じさせる発核手段と、
前記蓄熱材に入力される熱量を予測する第一予測手段と、
前記蓄熱材から出力される熱量を予測する第二予測手段と、
前記第一予測手段で予測された熱量と前記第二予測手段で予測された熱量との差により前記蓄熱装置の蓄熱量を推定する推定手段と、
前記推定手段の推定結果に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断する判断手段と
を備えていることを特徴とする蓄熱装置。
【請求項4】
前記第三算出手段は、走行状態を検出する走行状態検出手段または走行環境を検出する走行環境検出手段で得られた情報に基づいて入力される熱量を算出することを特徴とする請求項2に記載の蓄熱装置。
【請求項5】
前記判断手段は、前記第三算出手段による算出結果と蓄熱材の内部における推定された温度分布に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断する手段を含むことを特徴とする請求項2または4に記載の蓄熱装置。
【請求項6】
前記第一予測手段は、前記走行状態検出手段または前記走行条件検出手段あるいは前記走行環境検出手段で得られた情報に基づいて入力される熱量を予測し、
前記第二予測手段は、前記走行状態検出手段または前記走行条件検出手段あるいは前記走行環境検出手段で得られた情報に基づいて出力される熱量を予測することを特徴とする請求項3に記載の蓄熱装置。
【請求項7】
前記判断手段は、前記推定手段による推定された蓄熱量と蓄熱材の内部における推定された温度分布に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断することを特徴とする請求項3または6に記載の蓄熱装置。
【請求項8】
前記発核手段は、熱電素子を用いる手段であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の蓄熱装置。
【請求項1】
相変化を伴う潜熱を蓄える蓄熱材を備えた蓄熱装置において、
前記蓄熱材に固相の核を生じさせる発核手段と、
前記蓄熱材を発核させることにより増大する蓄熱量を算出する第一算出手段と、
発核のために前記発核手段により消費される熱量を算出する第二算出手段と、
前記第一算出手段で算出された蓄熱量と前記第二算出手段で算出された熱量との比較結果に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断する判断手段と
を備えていることを特徴とする蓄熱装置。
【請求項2】
相変化を伴う潜熱を蓄える蓄熱材を備えた蓄熱装置において、
前記蓄熱材に固相の核を生じさせる発核手段と、
前記蓄熱材に入力される熱量を算出する第三算出手段と、
算出した前記第三算出手段の算出結果に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断する判断手段と
を備えていることを特徴とする蓄熱装置。
【請求項3】
相変化を伴う潜熱を蓄える蓄熱材を備えた蓄熱装置において、
前記蓄熱材に固相の核を生じさせる発核手段と、
前記蓄熱材に入力される熱量を予測する第一予測手段と、
前記蓄熱材から出力される熱量を予測する第二予測手段と、
前記第一予測手段で予測された熱量と前記第二予測手段で予測された熱量との差により前記蓄熱装置の蓄熱量を推定する推定手段と、
前記推定手段の推定結果に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断する判断手段と
を備えていることを特徴とする蓄熱装置。
【請求項4】
前記第三算出手段は、走行状態を検出する走行状態検出手段または走行環境を検出する走行環境検出手段で得られた情報に基づいて入力される熱量を算出することを特徴とする請求項2に記載の蓄熱装置。
【請求項5】
前記判断手段は、前記第三算出手段による算出結果と蓄熱材の内部における推定された温度分布に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断する手段を含むことを特徴とする請求項2または4に記載の蓄熱装置。
【請求項6】
前記第一予測手段は、前記走行状態検出手段または前記走行条件検出手段あるいは前記走行環境検出手段で得られた情報に基づいて入力される熱量を予測し、
前記第二予測手段は、前記走行状態検出手段または前記走行条件検出手段あるいは前記走行環境検出手段で得られた情報に基づいて出力される熱量を予測することを特徴とする請求項3に記載の蓄熱装置。
【請求項7】
前記判断手段は、前記推定手段による推定された蓄熱量と蓄熱材の内部における推定された温度分布に基づいて前記発核手段による発核の実行・不実行を判断することを特徴とする請求項3または6に記載の蓄熱装置。
【請求項8】
前記発核手段は、熱電素子を用いる手段であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の蓄熱装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−333294(P2007−333294A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165193(P2006−165193)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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