説明

蓄電デバイスの処理方法

【課題】組成式:HTi1225で表されるチタン酸化合物を電極活物質に用いた蓄電デバイスの電池特性を、特に、高温サイクル特性を改良する方法を提供する。
【解決手段】前記チタン酸化合物を負極活物質に用いた場合、この負極の電位が金属リチウムの電位に対し0.1〜1.3Vの範囲になるように初期充電した後、その充電状態で保持する。
前記チタン酸化合物を正極活物質に用いた場合は、この正極の電位が金属リチウムの電位に対し電位が0.1〜1.3Vの範囲になるように初期放電した後、その放電状態で保持する。
【効果】本発明で処理した上記の蓄電デバイスは、放電電位が高く、安全性に優れ、しかも高温サイクル特性も優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HTi1225で表されるチタン酸化合物を電極活物質に用いた蓄電デバイスにおいて、サイクル特性を、特に高温サイクル特性を改良することができる処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、サイクル特性に優れていることから、近年急速に普及している。リチウム二次電池の負極活物質には、従来、炭素材料が用いられていたが、充放電電位が高く、安全性に優れたチタン酸化合物が注目されており、例えば、HTi1225で表されるチタン酸化合物を用いた電極活物質(特許文献1)が知られている。ところが、前記チタン酸化合物は高温で電解液を分解させ易いため、高温サイクル特性に劣り、例えば、高温下で使用される二輪・四輪車用、発電用等の大型蓄電デバイスには使い難いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2008/111465号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記チタン酸化合物を用いた蓄電デバイスの電池特性を、特に高温サイクル特性を改良する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、前記チタン酸化合物を電極に用いた蓄電デバイスを作製した直後に、特定の方法で初期的な処理を施すと、この蓄電デバイスの電池特性を改良できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、(1)正極活物質を含む正極と、HTi1225で表されるチタン酸化合物を含む負極と、リチウムイオンを含む電解液とから少なくとも構成された蓄電デバイスを、前記負極の電位が金属リチウムの電位に対し0.1〜1.3Vの範囲になるように初期充電した後、その充電状態で保持する蓄電デバイスの処理方法である。あるいは、(2)HTi1225で表されるチタン酸化合物を含む正極と、リチウム又はその合金を含む負極と、リチウムイオンを含む電解液とから少なくとも構成された蓄電デバイスを、前記正極の電位が金属リチウムの電位に対し0.1〜1.3Vの範囲になるように初期放電した後、その放電状態で保持する蓄電デバイスの処理方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって処理された蓄電デバイスは、電池特性、特に高温サイクル特性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は実施例1、2及び比較例1(試料A、B、a)の高温サイクル特性である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、蓄電デバイスの処理方法であって、第一の発明は、正極活物質を含む正極と、HTi1225で表されるチタン酸化合物を含む負極と、リチウムイオンを含む電解液とから少なくとも構成された蓄電デバイスを、前記負極の電位が金属リチウムの電位に対し0.1〜1.3Vの範囲になるように初期充電した後、その充電状態で保持することを特徴とする。また、第二の発明は、HTi1225で表されるチタン酸化合物を含む正極と、リチウム又はその合金を含む負極と、リチウムイオンを含む電解液とから少なくとも構成された蓄電デバイスを、前記正極の電位が金属リチウムの電位に対し0.1〜1.3Vの範囲になるように初期放電した後、その放電状態で保持することを特徴とする。第一の発明では、前記範囲の電圧で初期充電することにより、第二の発明では、前記範囲の電圧で初期放電することで、おそらくは、前記チタン酸化合物を含む正極又は負極表面に、電解液成分に由来する安定な皮膜が形成されるものと考えられる。この皮膜の形成により、前記正・負極へのリチウムイオンの挿入脱離が阻害されることなく、前記正・負極が電解液と直接接触し難くなるので、電解液の分解が抑制されて、電池特性が向上すると推測される。特に、高温度下での電解液の分解抑制効果が高く、高温サイクル特性が改良されると考えられる。
【0010】
いずれの発明においても、初期充電後又は初期放電後の保持温度は40℃未満にするのが好ましく、常温下、即ち、20〜30℃の範囲とするのが更に好ましい。また、保持期間が少なくとも1週間であれば、所望の効果が得られ易いので好ましく、1ヶ月を超えて行なっても更なる効果が得られ難いので、1ヶ月以下とするのが好ましい。
【0011】
前記チタン酸化合物は、公知の方法、例えば、前記特許文献1記載の方法に従って調製できる。即ち、ナトリウム化合物と酸化チタンの混合物を空気中600℃以上の温度で焼成して、組成式:NaTiで表されるチタン酸ナトリウムを得た後、このチタン酸ナトリウムを酸性溶液を用いてプロトン交換して、組成式:HTiで表されるチタン酸化合物とし、得られたHTiを150℃以上280℃未満の範囲の温度で加熱脱水することで得られる。
【0012】
第一の発明では、正極、負極は、正極活物質又は前記チタン酸化合物に、導電剤、結着剤を加え、必要に応じて更に溶剤を加えて混合し、得られた混合物を集電体の表面に担持させて活物質層を形成することで得られる。正極活物質には、リチウム・マンガン複合酸化物、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル複合酸化物、リチウム・バナジン複合酸化物等のリチウム・遷移金属複合酸化物、リチウム・鉄・複合リン酸化合物等のオリビン型化合物等から選ばれる少なくとも1種のリチウム含有複合酸化物を用いるのが好ましい。
【0013】
第二の発明では、正極に前記チタン酸化合物を第一の発明と同様に、導電剤、結着剤
と、適宜溶剤を加えた混合物を、活物質層として集電体の表面に担持させる。
【0014】
第一及び第二の発明では、活物質層に含まれる前記チタン酸化合物、あるいは、これの対極に用いられる正極活物質や金属リチウム又はその合金は、活物質層100重量部に対し、40〜95重量部の範囲が好ましい。
【0015】
導電剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等が挙げられる。バインダには、フッ素樹脂(ポリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等)、ビニル樹脂(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等)、セルロース樹脂(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等)、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)が挙げられ、中でもフッ素樹脂が好ましい。
【0016】
集電体には、銅、ニッケル等あるいはそれらの合金を用いることができる。また、集電体の形状は、メッシュ状、シート状等を用いることができる。
【0017】
前記電解液は、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiBF4等のリチウム塩を溶媒に溶解して調製する。溶媒には、カーボネート系溶媒(プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等)、エーテル系溶媒(1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等)及びそれらの混合溶媒が挙げられる。電解液中の前記電解質の濃度は、0.1〜10モル/リットルの範囲が好ましく、0.1〜5モル/リットルの範囲が更に好ましい。
【0018】
蓄電デバイスは、前記の正極と負極との間にセパレーターを挟み、電池ケースに収納し、リチウムイオンを含む電解液を充填した後、電池ケースを密封して作製できる。
【0019】
セパレーターには、ポリエチレン、ポリプロピレン及びそれらの共重合体等のポリオレフィンフィルムが好ましく、特に多孔性のポリオレフィンフィルムが好ましい。
【0020】
電池ケースは、ステンレス、アルミニウム等の金属製のものやラミネートフィルムを適宜選択する。また、蓄電デバイスの形態としては、ボタン型、コイン型、円筒型、角型、シート型、ラミネート型等のいずれでも良く、特に制限は受けない。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の実施例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。
【0022】
実施例1(第二の発明)
組成式:HTi1225で表されるチタン酸化合物と、導電剤としてのアセチレンブラック粉末、及び結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン樹脂を重量比で50:40:10で混合し、溶媒としてN‐メチル‐2‐ピロリドンを添加して、乳鉢で練り合わせ、ペーストを調製した。このペーストを銅箔上に塗布し、120℃の温度で10分乾燥した後、直径12mmの円形に打ち抜き、17MPaでプレスして正極を作製した。
【0023】
この正極を120℃の温度で4時間真空乾燥した後、露点−70℃以下のグローブボックス中で、密閉可能なコイン型セルに組み込んだ。コイン型セルには材質がステンレス製(SUS316)で外径20mm、高さ3.2mmのものを用いた。負極には厚み0.5mmの金属リチウムを直径12mmの円形に成形したものを用いた。非水電解液として1モル/リットルとなる濃度でLiPFを溶解したエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶液(体積比で1:2に混合)を用いた。
【0024】
正極はコイン型セルの下部缶に置き、その上にセパレーターとして多孔性ポリプロピレンフィルムを置き、その上から非水電解液を滴下した。さらにその上に負極と、厚み調整用の0.5mm厚スペーサー及びスプリング(いずれもSUS316製)をのせ、プロピレン製ガスケットのついた上部缶を被せて外周縁部をかしめて密封した。(試料a)。
【0025】
前記のコイン型セルを、25℃の温度下で、放電電流を0.2mAに設定して、定電流で、負正極の電位が金属リチウムの電位に対し0.7Vになるまで初期放電させた。その放電状態で25±5℃に設定した恒温室中で1週間保持して蓄電デバイスを処理した(試料A)。
【0026】
実施例2(第二の発明)
実施例1において、保持期間を2週間とした以外は実施例1と同様にして処理した(試料B)。
【0027】
比較例1
試料aを比較例1とした。
【0028】
評価:高温サイクル特性の評価
実施例1、2及び比較例1の蓄電デバイス(試料A、B、a)を、60℃の高温槽中で、充放電電流を0.2mA、カットオフ電位1.0V〜2.5V、で50サイクル充放電させた。2サイクル目と50サイクル目の放電容量をそれぞれの蓄電容量として、(50サイクル目の電気容量/2サイクル目の電気容量)×100を高温サイクル特性とした。結果を表1に示す。また、それぞれの容量維持率の推移を図1に示す。本発明が、高温サイクル特性に優れていることが判る。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明で処理した蓄電デバイスは、放電電位が高く、安全性に優れ、しかも高温サイクル特性も優れているので、携帯電話用、ノート型用パソコン等の小型蓄電デバイスばかりでなく、二輪・四輪車用、発電用等の大型蓄電デバイスとしても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、HTi1225で表されるチタン酸化合物を含む負極と、リチウムイオンを含む電解液とから少なくとも構成された蓄電デバイスを、前記負極の電位が金属リチウムの電位に対し0.1〜1.3Vの範囲になるように初期充電した後、その充電状態で保持する蓄電デバイスの処理方法。
【請求項2】
前記の充電状態での保持を40℃未満の温度下にて行なう請求項1記載の蓄電デバイスの処理方法。
【請求項3】
少なくとも1週間保持する請求項1記載の蓄電デバイスの処理方法。
【請求項4】
Ti1225で表されるチタン酸化合物を含む正極と、リチウム又はその合金を含む負極と、リチウムイオンを含む電解液とから少なくとも構成された蓄電デバイスを、前記正極の電位が金属リチウムの電位に対し0.1〜1.3Vの範囲になるように初期放電した後、その放電状態で保持する蓄電デバイスの処理方法。
【請求項5】
前記の放電状態での保持を40℃未満の温度下にて行なう請求項4記載の蓄電デバイスの処理方法。
【請求項6】
少なくとも1週間保持する請求項4記載の蓄電デバイスの処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−40294(P2011−40294A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187190(P2009−187190)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】