説明

蓄電デバイス用セパレータ

【課題】本発明は、薄膜化が可能で、シャットダウン機能を有し、熱収縮防止性、機械的強度およびイオン伝導性がいずれも優れたセパレータを提供する。
【解決手段】本発明は、溶剤紡糸セルロースを含有する繊維層とポリオレフィン製多孔質膜層との積層体からなる蓄電デバイス用セパレータであって、溶剤紡糸セルロースを含有する繊維層の空隙部分の体積が、ポリオレフィン製多孔質膜層の樹脂部分の体積より少ない蓄電デバイス用セパレータである。本発明のセパレータは、繊維層の空隙部分の体積が、ポリオレフィン製多孔質膜層の樹脂部分の体積より少ないことにより、ポリオレフィン製多孔質膜層が、メルトダウン温度領域以上で溶融し、溶融した樹脂が、前記繊維層の空隙部分に吸収された後、繊維層の空隙部分が残らないため、ポリオレフィン製多孔質膜層のメルトダウン後に、繊維層の空隙による抵抗値の低下が起こらない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイス用セパレータ(以下、「セパレータ」という。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスは、一対の電極とセパレータとを備え、蓄電デバイス駆動用電解液が含浸されたものであり、産業用または民生用の種々の電気・電子機器に使用されている。
電気・電子機器の性能向上のためには、蓄電デバイスのより一層の高容量化、高機能化が不可欠であり、そのために、セパレータの改良が求められている。例えば、蓄電デバイスの高容量化に対応するために、充放電時の自己発熱もしくは異常充電時などの異常発熱に耐えうる耐熱性、機械的強度、寸法安定性を有するセパレータが求められている。また、蓄電デバイスの高機能化、特に、急速充放電特性および高出力特性を向上させるために、薄膜化され、かつ、均一性が向上したセパレータが強く要求されている。
【0003】
これらの要求を満たすことを目的として、例えば、特許文献1には、ポリオレフィンを延伸して作製される透気性が高い微多孔性フィルム(延伸膜)に針やレーザで貫通孔を形成して透気性をより一層高めたものをセパレータとして使用することが提案されている。しかしながら、このような微多孔樹脂フィルムは、それ単体で使用すると貫通孔があるが故に正極と負極とが短絡を起こしてしまう恐れがあった。また、シャットダウン温度以上のメルトダウン温度域において収縮しやすい性質を有しており、その結果、高温になった場合に電極同士が直接接触しやすくなる問題を有していた。また、薄膜のまま、熱収縮防止性、機械的強度を確保する方法として、セパレータの空隙率を低下させることが考えられるが、その場合、内部抵抗の上昇を伴い、イオン伝導性が低下するため、高機能化の要求を満たすことができない。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリフェニレンサリファイド等からなる透気性を有する基材とポリオレフィン製多孔質膜とを接着剤を介して積層し、シャットダウン性能と耐メルトダウン性能を有したセパレータが提案されている。しかしながら、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートを基材に使用した場合には、メルトダウン温度域において、基材そのものが溶融しやすい性質を有しており、また、ポリアミド、ポリフェニレンサリファイドを基材に使用した場合には、薄膜化の達成が困難となり、内部抵抗の上昇を伴い、イオン伝導性が低下するため、高機能化の要求を満たすことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第01/67536号パンフレット
【特許文献2】特開2007−48738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、薄膜化が可能で、シャットダウン機能を有し、熱収縮防止性、機械的強度およびイオン伝導性がいずれも優れたセパレータを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセパレータは、溶剤紡糸セルロースを含有する繊維層とポリオレフィン製多孔質膜層との積層体であり、溶剤紡糸セルロースを含有する繊維層の空隙部分の体積が、ポリオレフィン製多孔質膜層の樹脂部分の体積より少ないことを特徴とする。
また、前記繊維層に熱可塑性合成繊維A(以下、「繊維A」という。)を含有することが好ましい。
また、前記繊維層に耐熱性合成繊維B(以下、「繊維B」という。)を含有することが好ましい。
また、前記溶剤紡糸セルロースが、繊維径が1μm以下及び繊維長が3mm以下にフィブリル化されていることが好ましい。
【0008】
また、前記繊維Aが、ポリエステルまたはポリオレフィンであることが好ましい。
また、前記溶剤紡糸セルロースが70〜95質量%及び繊維Aが5〜30質量%の配合比率であることが好ましい。
また、前記繊維Aの繊維径が5μm以下及び繊維長が10mm以下であることが好ましい。
また、前記繊維Bが、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、半芳香族ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテル・エーテル・ケトン、ポリベンゾイミダゾール、ポリアセタールから選ばれた少なくとも1種からなることが好ましい。
【0009】
また、前記溶剤紡糸セルロースが5〜90質量%、繊維Aが5〜30質量%及び繊維Bが5〜90質量%の配合比率であることが好ましい。
また、前記繊維Bが、繊維径が1μm以下及び繊維長が10mm以下にフィブリル化されていることが好ましい。
また、前記繊維層の膜厚が30μm以下であることが好ましい。
また、前記繊維層の密度が0.2〜0.9g/cmであることが好ましい。
また、前記繊維層の透気度が100秒/100ml以下であることが好ましい。
また、前記ポリオレフィン製多孔質膜層が、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレンであることが好ましい。
また、本発明のセパレータは、前記繊維層と前記ポリオレフィン製多孔質膜層とが接着剤を介して接着されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセパレータは、薄膜である上に、シャットダウン機能を有し、熱収縮防止性、機械的強度およびイオン伝導性に、非常に優れており、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタのような蓄電デバイスに好適に用いられる。
本発明のセパレータは、前記繊維層を積層することにより、熱収縮をより小さくでき、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレンからなるポリオレフィン製多孔質膜層を積層することにより、シャットダウン機能を発揮させることができる。
本発明のセパレータは、前記繊維層の空隙部分の体積が、ポリオレフィン製多孔質膜層の樹脂部分の体積より少ないことにより、ポリオレフィン製多孔質膜層が、メルトダウン温度領域以上で溶融し、溶融した樹脂が、前記繊維層の空隙部分に吸収された後、繊維層の空隙部分が残らないため、ポリオレフィン製多孔質膜層のメルトダウン後に、繊維層の空隙による抵抗値の低下が起こらない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、溶剤紡糸セルロースを含有する繊維層とポリオレフィン製多孔質膜層が、接着剤を介して積層されているため、シャットダウン機能を有し、熱収縮防止性、機械的強度およびイオン伝導性に、非常に優れたセパレータを提供することができ、該繊維層の空隙部分の体積を、該ポリオレフィン製多孔質膜層の樹脂部分の体積より少なくすることにより、ポリオレフィン製多孔質膜層が、メルトダウン温度領域以上で溶融し、溶融した樹脂が、前記繊維層の空隙部分に吸収された後、繊維層の空隙部分が残らないため、ポリオレフィン製多孔質膜層のメルトダウン後に、繊維層の空隙による抵抗値の低下が起こらないセパレータを提供することができる。該繊維層の空隙部分の体積が、該ポリオレフィン製多孔質膜層の樹脂部分の体積より大きくなると、ポリオレフィン製多孔質膜層が、メルトダウン温度領域以上で溶融し、溶融した樹脂が、前記繊維層の空隙部分に吸収された後、繊維層に空隙部分が残り、その空隙部分でイオン伝導が再開され、シャットダウン機能が阻害されてしまう。
【0012】
なお本発明において、シャットダウン機能とは、異常電流が流れて電池などが発熱した場合に、熱変形によってセパレータの空孔を閉塞し、電池内での電流の流れを遮断する特性を意味する。
メルトダウン温度とは、一般的には、シャットダウン特性が発現する温度よりも温度が上昇した場合にフィルムが溶融収縮し、フィルムに大きな穴などが形成されてしまう温度を意味する。しかしながら、本発明では、メルトダウン温度は、ポリオレフィン製多孔質膜層が溶融を始める温度を意味する。本発明の構成は2層構造である為、メルトダウン温度でポリオレフィン製多孔質膜層が溶融を始めても、繊維層の存在によって前述のような大きな穴が開くことはない。
【0013】
該繊維層は、繊維Aを含有していることが好ましい。繊維Bを含有していることがさらに好ましい。
【0014】
本発明において、溶剤紡糸セルロースを含有する繊維層の空隙部分の体積は、繊維層シートの長さL(cm)、繊維層シートの幅W(cm)、繊維層シートの厚さT1(cm)、繊維層シートの坪量M(g/cm)、繊維層シートの厚さT2(cm)、及び繊維の比重Dより下記式(1)により求めた値である。
空隙部分の体積(cm)=L×W×T1×[1−(M/T2)/D] (1)
また、ポリオレフィン製多孔質膜層の樹脂部分の体積は、多孔質膜の長さL(cm)、多孔質膜の幅W(cm)、多孔質膜の厚さT1(cm)、多孔質膜の坪量M(g/cm)、多孔質膜の厚さT2(cm)、及びポリオレフィンの比重Dより下記式(2)により求めた値である。
樹脂部分の体積(cm)=L×W×T1×[(M/T2)/D] (2)
【0015】
溶剤紡糸セルロースを含有する繊維層とポリオレフィン製多孔質膜層が、接着剤を介して積層されたセパレータは、電解液の含浸性が向上する。本発明においては、微細繊維にフィブリル化された溶剤紡糸セルロースを使用することが好ましく、フィブリル化された溶剤紡糸セルロースは、電解液の含浸性に優れ、又、繊維の絡み合いも十分であることから、熱収縮防止性、機械的強度にも優れたセパレータとなる。
【0016】
繊維Aは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、全芳香族ポリアリレート等のポリエステルもしくはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンから選ばれた繊維よりなるものが好ましく使用される。繊維Aの物性は任意で選択できるが、例えば融点が80〜150℃程度であることが好ましく、Na、K及びCl等のイオン性不純物濃度が0.01〜0.1ppm程度であることが好ましい。
繊維Aを含有する繊維層を使用することにより、機械的強度に優れたセパレータとなる。
【0017】
繊維Bは、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、半芳香族ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテル・エーテル・ケトン、ポリベンゾイミダゾール、ポリアセタールから選ばれた繊維が少なくとも1種であればよく、2種以上を使用してもよい。これらの材料は、駆動用電解液に用いる蓄電デバイス駆動用電解液に対して溶解せず、微細繊維にフィブリル化することができる。繊維Bの物性は任意で選択できるが、例えばガラス転移温度が200〜350℃程度であることが好ましく、Na、K及びCl等のイオン性不純物濃度が0.01〜0.1ppm程度であることが好ましい。
【0018】
繊維Bを含有する繊維層を使用することにより、蓄電デバイス駆動用電解液、更には高温条件に対する耐久性が高くなり、長期間高温雰囲気下で使用し続けても劣化しにくく、熱収縮防止性に優れたセパレータとなる。又、フィブリル化した繊維Bを使用することによって、蓄電デバイス駆動用電解液の保持性や含浸性に優れ、更に、繊維の絡み合いも十分となることから、機械的強度にも優れたセパレータとなる。
【0019】
本発明において、フィブリル化された溶剤紡糸セルロースの繊維径は1μm以下、繊維長は3mm以下が好ましく、特に好ましくは繊維長が1mm以下である。繊維径が1μm超、繊維長が3mm超になると、繊維同士の絡み合いが弱くなり、機械的強度が弱くなる傾向にあり、且つ電解液の含浸性も十分に得られにくい。前記溶剤紡糸セルロースの物性は任意で選択できるが、例えばNa、K及びCl等のイオン性不純物濃度が0.01〜0.1ppm程度であることが好ましい。
【0020】
本発明において、繊維Aの繊維径は5μm以下、繊維長は10mm以下が好ましく、特に好ましくは繊維径が3μm以下、繊維長が7mm以下である。繊維径が5μm超、繊維長が10mm超になると、繊維にヨレが発生し、地合ムラが発生しやすくなる。
本発明において、フィブリル化された繊維Bの繊維径は1μm以下、繊維長は10mm以下が好ましく、特に好ましくは繊維長が1mm以下である。繊維径が1μm超、繊維長が10mm超になると、繊維同士の絡み合いが弱くなり、機械的強度が弱くなる傾向にある。
【0021】
本発明の繊維層に、溶剤紡糸セルロースと繊維Aとを含有させる場合は、次の配合比であることが好ましい。すなわち、溶剤紡糸セルロースが70〜95質量%及び繊維Aが5〜30質量%の範囲で混合されていることが好ましく、溶剤紡糸セルロースが70〜90質量%及び繊維Aが10〜30質量%の範囲で混合されていることがより好ましい。繊維Aが5質量%未満であると、セパレータがZ軸方向につぶれやすくなり、繊維Aが30質量%超になると、高温時に繊維が溶融し、セパレータの熱収縮防止性の低下がおこりやすい。
【0022】
本発明の繊維層に、溶剤紡糸セルロース、繊維A及び繊維Bを含有させる場合は、次の配合比であることが好ましい。すなわち、溶剤紡糸セルロースが5〜90質量%の範囲で混合されていることが好ましい。溶剤紡糸セルロースが5質量%未満であると、繊維同士の絡み合いが弱くなり、機械的強度が弱くなる傾向にあり、且つ蓄電デバイス駆動用電解液の含浸性も十分に得られない。溶剤紡糸セルロースが90質量%超になると、高温雰囲気条件下での蓄電デバイス駆動用電解液により耐久性の低下がおこりやすい。繊維Aは5〜30質量%の範囲で混合されていることが好ましい。繊維Aが5質量%未満であると、セパレータがZ軸方向につぶれやすくなり、繊維Aが30質量%超になると、高温時に繊維が溶融し、セパレータの熱収縮防止性の低下がおこりやすい。繊維Bは5〜90質量%の範囲で混合されていることが好ましい。繊維Bが5質量%未満であるとフィブリル化された微細繊維の量が足りず、セパレータの孔径を制御することができにくくなる。繊維Bが90質量%超になると、フィブリル化された微細繊維の量が多すぎてセパレータが緻密に成りすぎ、その結果内部抵抗の増大に繋がる。
溶剤紡糸セルロースが70〜90質量%、繊維Aが5〜30質量%、及び繊維Bが5〜30質量%の範囲で混合されていることがより好ましい。
【0023】
本発明において、繊維層の細孔径は、バブルポイント法による平均孔径が0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましい。平均孔径の上限は任意に選択できるが、一般には1.0μm以下程度である。平均孔径が0.1μmより小さいと、イオン伝導性が低下し、内部抵抗が高くなりやすい。また、繊維層の製造の際に水が抜けにくいため、製造しにくくなる。尚、バブルポイント法による孔径の測定は、西華産業社製のポロメーター(製品名:パームポロメーター、JIS K3832、ASTM F316−86)などを使用すればよい。
本発明のセパレータには、十分な引っ張り強度、圧縮強度があるが、更に高強度を得るために、繊維層にバインダー樹脂又はバインダー繊維を混合することも可能である。バインダー樹脂又はバインダー繊維としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、それらの誘導体等さまざまなものがあり、これらに限定されるものではない。
本発明の繊維層の厚さは、30μm以下であることが好ましい。繊維層の厚さが30μmを超えると、蓄電デバイスの薄型化がなりにくくなると同時に、一定のセル体積に入れられる電極材の量が少なくなり、容量が小さくなってしまうばかりでなく、抵抗が高くなり好ましくない。下限は任意に選択できるが、一般には5μm以上程度である。
【0024】
また、本発明の繊維層の密度は、0.20g/cm〜0.90g/cmであることが好ましい。0.25g/cm〜0.85g/cmであることがさらに好ましく、0.30g/cm〜0.80g/cmであることが特に好ましい。0.20g/cm未満であると、繊維層の空隙部分が過多となり、蓄電デバイス駆動用電解液の含浸量が多くなり、蓄電デバイスのコストアップに繋がる。一方、密度が0.90g/cmより大きいと、セパレータを構成する材料の詰まり方が過多となるために、イオン移動が阻害され抵抗が高くなりやすい。
本発明の繊維層の透気度は、100秒/100ml以下であることが好ましい。透気度が100秒/100ml以下であればイオン伝導性を好適に維持することができる。より好ましくは、透気度は50秒/100ml以下である。下限は任意に選択できるが、一般には0.1秒/100ml以上程度である。
尚、本発明のセパレータにおける透気度は、ガーレ透気度測定器を用いて測定した値をいう。
【0025】
ポリオレフィン製多孔質膜層は、ポリオレフィン膜の内部に一方の表面から他方の表面に通じる連通孔を均一に多数有するものである。ポリオレフィン製多孔質膜層は電解液に溶解しない上に、多孔質であり、連通孔を有しているため、電解液の保持性があり、しかも、電解液中のイオンを円滑に移動させることができる。さらに、過充電による発熱や、電池が過熱した際に、連通孔が溶融し、孔が潰れるため、電気化学反応が暴走した際、シャットダウン機能を発揮し、電気化学反応の暴走を防ぐことができる。
【0026】
ポリオレフィン製多孔質膜層のポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリプロピレンなどが挙げられ、ポリエチレンとしては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどが挙げられ、ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン、ポリプロピレンブロック共重合体、ポリプロピレンランダム共重合体などが挙げられる。ポリオレフィンは、1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。一つの層に1種又は2種以上のポリオレフィンを含んでもよく、あるいは、複数の多孔質膜層を有する場合には、各多孔質膜層は互いに異なるポリオレフィンからなる層であってもよい。
これらの中でも、ポリオレフィンは、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレンが好ましい。ポリオレフィンがポリエチレンおよび/またはポリプロピレンである場合には、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスにおいて電気化学反応が暴走する温度領域(100〜160℃程度)で、多孔質膜層が溶融し、孔が潰れるため、電極間の絶縁性が高まり、電気化学反応を抑制できる。すなわち、シャットダウン機能を発揮する。さらに、電解液との濡れ性やシャットダウン性の点で、ポリエチレンがより好ましく、機械的強度の点で、高密度ポリエチレンが特に好ましい。
【0027】
ポリオレフィンがポリエチレンおよびポリプロピレンである場合、ポリオレフィン製多孔質膜層は、ポリエチレン多孔質膜層とポリプロピレン多孔質膜層とが積層された積層多孔質膜層であることが好ましい。
また、前記ポリオレフィンの物性は任意に選択できるが、例えば融点が120〜140℃程度であることが好ましい。
【0028】
ポリオレフィン製多孔質膜層の空隙率としては40〜80%であることが好ましく、50〜70%であることがより好ましい。空隙率が40%未満であると、イオン伝導性が低くなる傾向にあり、80%を超えると強度が低下し、また、収縮しやすくなる傾向にある。ここで、空隙率とは、坪量M(g/cm)、厚さT(μm)、密度D(g/cm)より下記式(3)により求めた値である。この空隙率は多孔質の程度を示す。
空隙率(%)=[1−(M/T)/D]×100 (3)
【0029】
ポリオレフィン製多孔質膜層の孔径としては、バブルポイント法による平均孔径が0.01〜1μmであることが好ましい。平均孔径が0.01μm未満であると電解液の含浸性が低下し、イオン伝導性が低くなる傾向にある。また、1μmより大きくなると、内部短絡を起こしやすくなる傾向にある。
【0030】
ポリオレフィン製多孔質膜層の厚さとしては蓄電デバイスの薄型化の観点からできるだけ薄い方が好ましく、具体的には5〜30μmであることが好ましく、10〜20μmであることがより好ましい。ポリオレフィン製多孔質膜層の厚さが5μm未満であると、機械的強度が低くなる傾向にあり、また、取り扱い性も低くなる。30μmより大きくすると蓄電デバイスの薄型化が困難になる。
【0031】
ポリオレフィン製多孔質膜層は、例えば、ポリオレフィンを溶融押し出しによりフィルム化した後、得られたフィルムを延伸し、フィルム内部に微小な亀裂を多数形成させることによって得られる。また、溶媒に溶出する微粒子等をポリオレフィンにあらかじめ添加しておき、溶融押し出しによりフィルム化した後、溶媒で微粒子を溶出させることによって得られる。
【0032】
以上説明したように、本発明のセパレータは、溶剤紡糸セルロースを含有する繊維層とポリオレフィン製多孔質膜層が積層されているため、シャットダウン機能を有し、熱収縮防止性、機械的強度およびイオン伝導性に、非常に優れているため、高温雰囲気下においても蓄電デバイス駆動用電解液に劣化しにくい。また、該繊維層の空隙部分の体積を、該ポリオレフィン製多孔質膜層の樹脂部分の体積より少なくすることにより、ポリオレフィン製多孔質膜層が、メルトダウン温度領域以上で溶融し、溶融した樹脂が、前記繊維層の空隙部分に吸収された後、繊維層の空隙部分が残らないため、ポリオレフィン製多孔質膜層のメルトダウン後に、繊維層の空隙による抵抗値の低下が起こらず、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ及び電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスに好適に使用することができる。なお、本発明のセパレータを用いて蓄電デバイスを作製する場合、正極、負極、電解液など蓄電デバイスを構成する材料は、従来周知のものなら如何なるものでも使用することができる。
次に、本発明のセパレータの製造方法について説明するが、これのみに限定されるものではなく、他の方法でも本発明のセパレータを製造することは可能である。
【0033】
先ず、繊維層の製造方法について説明する。
繊維径1μm以下及び繊維長3mm以下にフィブリル化された溶剤紡糸セルロースを水に分散する。本発明に用いる繊維は、非常に微細なために離解工程では均一に分散しにくいため、パルパーやアジテータのような分散装置や、超音波分散装置を用いることによって、良好な分散が可能である。また、この分散工程で使用する水は、イオン性不純物をできるだけ少なくするために、イオン交換水を用いた方が好ましい。叩解は、一般的な叩解機であるボールミル、ビーター、ランペルミル、PFIミル、SDR(シングルディスクリファイナー)、DDR(ダブルディスクリファイナー)、高圧ホモジナイザー、ホモミクサー、あるいはその他のリファイナー等を使用して叩解することができる。叩解の程度は任意であるが、例えば濾水度が0〜10ml程度であることが好ましい。
【0034】
上記で得られた繊維の分散体を、長網式、短網式、円網式、傾斜式などの湿式抄紙機を適用し、抄造する。連続したワイヤーメッシュ状の脱水パートで脱水する。湿式抄紙機の中で、2つのヘッドを有する傾斜ワイヤー抄紙機を用いると、2層以上の繊維層を重ね抄き合わせする場合、繊維層間の境界もできにくく、また、ピンホールのない均一な繊維層が得られる。重ね抄き合わせした後、多筒式やヤンキー式ドライヤー等の乾燥パートを通すことによって、本発明に使用され得る繊維層を得ることができる。
【0035】
次に、ポリオレフィン製多孔質膜層の片面上に接着剤溶液を塗布する。なお接着剤を使用するか、あるいはしないかは任意に選択できる。
接着剤溶液の塗布方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等による塗布またはキャスティング法等が挙げられる。塗布後、ポリオレフィン製多孔質膜層上に繊維層を重ね合わせた後、乾燥し、繊維層とポリオレフィン製多孔質膜層とを積層したセパレータを得る。また、接着剤溶液を塗布し、乾燥後、ロールラミネーターを使用して、繊維層とポリオレフィン製多孔質膜層とを積層したセパレータを得ることもできる。更に、接着剤溶液を繊維層に塗布後に、ポリオレフィン製多孔質膜層を該繊維層上に積層して、セパレータを得ることもできる。
この製造方法において、ポリオレフィン製多孔質膜層は支持体上に載置されていても構わない。ポリオレフィン製多孔質膜層が支持体上に載置されている場合には、乾燥後に、支持体を剥離する。
【0036】
支持体としては、例えば、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム、ガラス板等が挙げられる。また、支持体には離型処理、易接着処理等の表面処理が施されていてもよい。上記支持体の中でも、柔軟性を有する樹脂フィルムが好ましい。支持体が樹脂フィルムであれば、セパレータの表面を保護でき、また、樹脂フィルムにセパレータが積層されたままの状態で巻き取って保管や搬送することもできる。
【0037】
本発明において、接着剤は、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)などから選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0038】
接着剤の溶解は、水系溶剤、非水系溶剤の何れを用いてもよい。
非水系溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N−N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン、メチルアルコール、エチルアルコール、トルエンなどを使用できる。水系溶剤としては、水などを使用できる。
接着剤の濃度は任意に選択できるが、一般的には1〜30質量%程度が好ましく、1〜15質量%程度がより好ましい。接着剤層の厚さも任意であるが0.1〜2μm程度が好ましい。
【0039】
セパレータの厚さは、できるだけ薄いことが好ましい。具体的には、セパレータの厚さは30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましい。セパレータの厚さが30μmより厚いと、イオン移動が阻害されてインピーダンスが増大しやすくなる。セパレータの厚さの下限値は任意で選択できるが、一般的には10μm以上程度であることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明のセパレータを実施例によって説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
空隙率55%、厚さ16μm、長さ257mm、幅182mm、坪量0.000691g/cmの、フィルム形状の、樹脂部分の体積が0.34cmの高密度ポリエチレン製延伸多孔質膜層を用意した。なお、この高密度ポリエチレン製延伸多孔質膜層は、高密度ポリエチレン(比重:0.96)をTダイにより溶融押出した後、ポリエチレンフィルムを製造し、このフィルムを熱風循環オーブン中で通過加熱処理をし、次いで、ニップロール間で延伸させたものである。
この高密度ポリエチレン製延伸多孔質膜層上に、スプレーコート法を用いて、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)の3質量%アセトン溶液を塗布した。次いで、その塗布面上に、上記多孔質膜層と同形の、繊維径0.5μm、繊維長1mmにフィブリル化された溶剤紡糸セルロース(比重:1.6)からなる厚さ10μm、密度0.52g/cm、透気度8秒/100ml、空隙部分の体積が0.32cmの、シート状の繊維層を積層し、ヤンキードライヤーにより60℃で2分間乾燥して、本発明のセパレータを得た。なお、上記繊維層は、JIS P822に規定される標準型手抄き装置(湿式抄紙機)を用いて抄造したものである。
高密度ポリエチレン製延伸多孔質膜層の樹脂部分の体積は0.34cmであり、繊維層の空隙部分の体積である0.32cmより大きい。
なお、高密度ポリエチレン製延伸多孔質膜層の樹脂部分の体積は以下の式で求めた。
樹脂部分の体積(cm)=L×W×T1×[(M/T2)/D]=25.7×18.2×0.0016×[(0.000691/0.0016)/0.96]=0.34cm
繊維層の空隙部分の体積は以下の式で求めた。なお、坪量M(g/cm)は、密度(g/cm)と厚さ(cm)から求めることができる(坪量=密度×厚さ)。
空隙部分の体積(cm)=L×W×T1×[1−(M/T2)/D]=25.7×18.2×0.001×[1−(0.00052/0.001)/1.6]=0.32cm
【0042】
[実施例2]
多孔質膜層として、空隙率50%、厚さ16μm、長さ257mm、幅182mm、坪量0.000768g/cm、樹脂部分の体積が0.37cmの高密度ポリエチレン製延伸多孔質膜(比重:0.96)を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明のセパレータを得た。
なお、高密度ポリエチレン製延伸多孔質膜層の樹脂部分の体積は以下の式で求めた。
樹脂部分の体積(cm)=L×W×T1×[(M/T2)/D]=25.7×18.2×0.0016×[(0.000768/0.0016)/0.96]=0.37cm
【0043】
[実施例3]
多孔質膜層として、空隙率45%、厚さ16μm、長さ257mm、幅182mm、坪量0.000845g/cm、樹脂部分の体積が0.41cmの高密度ポリプロピレン製延伸多孔質膜(比重:0.96)を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明のセパレータを得た。
なお、高密度ポリプロピレン製延伸多孔質膜層の樹脂部分の体積は以下の式で求めた。
樹脂部分の体積(cm)=L×W×T1×[(M/T2)/D]=25.7×18.2×0.0016×[(0.000845/0.0016)/0.96]=0.41cm
【0044】
[実施例4]
繊維層として、繊維径0.5μm、繊維長1mmにフィブリル化された溶剤紡糸セルロース(比重:1.6)と、繊維径2.5μm、繊維長6mmのポリエチレンテレフタレート繊維(比重:1.4)が、各々80:20の質量比率で含まれる、前記2つの繊維からなる、厚さ10μm、密度0.50g/cm、透気度8秒/100ml、空隙部分の体積が0.32cmの繊維層を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明のセパレータを得た。
繊維層の空隙部分の体積は以下の式で求めた。
空隙部分の体積(cm)=L×W×T1×[1−(M/T2)/D]=25.7×18.2×0.001×[1−(0.0005/0.001)/(1.6×0.8+1.4×0.2)]=0.32cm
【0045】
[実施例5]
繊維層として、繊維径0.5μm、繊維長1mmにフィブリル化された溶剤紡糸セルロース(比重:1.6)と、繊維径2.5μm、繊維長6mmのポリエチレンテレフタレート繊維(比重:1.4)が、各々80:20の質量比率で含まれる、前記2つの繊維からなる、厚さ11μm、密度0.80g/cm、透気度28秒/100ml、空隙部分の体積が0.25cmの繊維層を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明のセパレータを得た。
繊維層の空隙部分の体積は以下の式で求めた。
空隙部分の体積(cm)=L×W×T1×[1−(M/T2)/D]=25.7×18.2×0.0011×[1−(0.00088/0.0011)/(1.6×0.8+1.4×0.2)]=0.25cm
【0046】
[実施例6]
繊維層として、繊維径0.5μm、繊維長1mmにフィブリル化された溶剤紡糸セルロース(比重:1.6)と、繊維径3μm、繊維長6mmのポリエチレン繊維(比重:0.94)が、各々80:20の質量比率で含まれる、前記2つの繊維からなる、厚さ10μm、密度0.49g/cm、透気度5秒/100ml、空隙部分の体積が0.31cmの繊維層を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明のセパレータを得た。
繊維層の空隙部分の体積は以下の式で求めた。
空隙部分の体積(cm)=L×W×T1×[1−(M/T2)/D]=25.7×18.2×0.001×[1−(0.00049/0.001)/(1.6×0.8+0.94×0.2)]=0.31cm
【0047】
[実施例7]
繊維層として、繊維径0.5μm、繊維長1mmにフィブリル化された溶剤紡糸セルロース(比重:1.6)と、繊維径2.5μm、繊維長6mmのポリエチレンテレフタレート繊維(比重:1.4)と、繊維径0.2μmで繊維長0.6mmにフィブリル化された全芳香族ポリアミド(比重:1.44)が、各々60:15:25の質量比率で含まれる、前記3つの繊維からなる、厚さ10μm、密度0.54g/cm、透気度8秒/100ml、空隙部分の体積が0.30cmの繊維層を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明のセパレータを得た。
繊維層の空隙部分の体積は以下の式で求めた。
空隙部分の体積(cm)=L×W×T1×[1−(M/T2)/D]=25.7×18.2×0.001×[1−(0.00054/0.001)/(1.6×0.6+1.4×0.15+1.44×0.25)]=0.30cm
【0048】
[実施例8]
繊維層として、繊維径0.5μm、繊維長1mmにフィブリル化された溶剤紡糸セルロース(比重:1.6)と、繊維径0.2μm、繊維長0.6mmにフィブリル化された全芳香族ポリアミド(比重:1.44)が、各々80:20の質量比率で含まれる、前記2つの繊維からなる、厚さ10μm、密度0.51g/cm、透気度6秒/100ml、空隙部分の体積が0.32cmの繊維層を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明のセパレータを得た。
繊維層の空隙部分の体積は以下の式で求めた。
空隙部分の体積(cm)=L×W×T1×[1−(M/T2)/D]=25.7×18.2×0.001×[1−(0.00051/0.001)/(1.6×0.8+1.44×0.2)]=0.32cm
【0049】
[実施例9]
繊維層として、繊維径0.5μm、繊維長1mmにフィブリル化された溶剤紡糸セルロース(比重:1.6)と、繊維径2.5μm、繊維長6mmのポリエチレンテレフタレート繊維(比重:1.4)と、繊維径0.8μm、繊維長1.5mmにフィブリル化されたポリフェニレンサルファイド(比重:1.8)が、各々60:15:25の質量比率で含まれる、前記3つの繊維からなる、厚さ10μm、密度0.54g/cm、透気度8秒/100ml、空隙部分の体積が0.31cmの繊維層を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明のセパレータを得た。
繊維層の空隙部分の体積は以下の式で求めた。
空隙部分の体積(cm)=L×W×T1×[1−(M/T2)/D]=25.7×18.2×0.001×[1−(0.00054/0.001)/(1.6×0.6+1.4×0.15+1.8×0.25)]=0.31cm
【0050】
[実施例10]
繊維層として、繊維径0.5μm、繊維長1mmにフィブリル化された溶剤紡糸セルロース(比重:1.6)と、繊維径2.5μm、繊維長6mmのポリエチレンテレフタレート繊維(比重:1.4)と、繊維径0.8μm、繊維長1.5mmにフィブリル化されたポリフェニレンサルファイド(比重:1.8)が、各々30:20:50の質量比率で含まれる、前記3つの繊維からなる、厚さ10μm、密度0.54g/cm、透気度19秒/100ml、空隙部分の体積が0.32cmの繊維層を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明のセパレータを得た。
繊維層の空隙部分の体積は以下の式で求めた。
空隙部分の体積(cm)=L×W×T1×[1−(M/T2)/D]=25.7×18.2×0.001×[1−(0.00054/0.001)/(1.6×0.3+1.4×0.2+1.8×0.5)]=0.32cm
【0051】
[実施例11]
接着剤溶液としてSBRのアセトン溶液の代わりにカルボキシルメチルセルロース水溶液を用いて110℃で2分間乾燥した以外は、実施例1と同様にして、本発明のセパレータを得た。なお、上記カルボキシルメチルセルロース水溶液の濃度は2質量%である。
【0052】
[比較例1]
空隙率55%、厚さ16μm、長さ257mm、幅182mm、坪量0.000691g/cm、樹脂部分の体積が0.34cmの高密度ポリエチレン製延伸多孔質膜層上に、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)の3質量%アセトン溶液を塗布した。次いで、その塗布面上に、上記多孔質膜層と同形の、繊維径0.5μm、繊維長1mmにフィブリル化された溶剤紡糸セルロース(比重:1.6)からなる厚さ10μm、密度0.31g/cm、透気度8秒/100ml、空隙部分の体積が0.38cmの繊維層を積層し、60℃で乾燥して、比較用のセパレータを得た。
高密度ポリエチレン製延伸多孔質膜層の樹脂部分の体積は0.34cmであり、繊維層の空隙部分の体積である0.38cmより小さい。
なお、高密度ポリエチレン製延伸多孔質膜層の樹脂部分の体積は、実施例1と同様にして求めた。繊維層の空隙部分の体積は以下の式で求めた。
空隙部分の体積(cm)=L×W×T1×[1−(M/T2)/D]=25.7×18.2×0.001×[1−(0.00031/0.001)/1.6]=0.38cm
【0053】
上記実施例1〜11および比較例1で得られたセパレータについて下記の特性を評価した。
【0054】
<耐熱寸法安定性(熱収縮防止性)>
実施例1〜11および比較例1のセパレータを、5cm×5cmに裁断した試験片を、縦10cm×横10cm×厚さ5mmのガラス板の間に挟み、それらを水平にしてアルミニウム製のバットに静置し、200℃で30分間加熱後の寸法変化率を求めた。
得られた結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から明らかなように本発明のセパレータは、ポリオレフィン製多孔質膜のメルトダウン温度領域でも寸法安定性に優れていた。比較例1のセパレータも、寸法安定性には優れていた。
【0057】
<シャットダウン特性>
実施例1〜11および比較例1のセパレータについて、正極、負極の電極を用いて簡易セルを作製して、30℃における、シャットダウン温度領域後の160℃に加熱後における、及びメルトダウン温度領域後の200℃に加熱後における、それぞれのインピーダンスを測定した。なお、簡易セルの作製においては、電極として電気二重層キャパシタ用の活性炭電極(宝泉株式会社製、製品名:電気二重層キャパシタ用活性炭電極)を用いた。また、電解液としてプロピレンカーボネートに、1mol/Lとなるようにテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(キシダ化学株式会社製)を溶解したものを用いた。
得られた結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2から明らかなように本発明のセパレータは、シャットダウン性能を有していた。
比較例1のセパレータは、ポリオレフィン製多孔質膜層が溶融するメルトダウン後(200℃加熱後)には、抵抗値が低下し、イオンの伝導が再開していた。よって比較例1のセパレータは、一般的な用途には問題なく使用できるものの、高機能を要求される場合には使用される事が好ましくない。
【0060】
<高温長期試験による放電容量の変化>
実施例1〜11及び比較例1のセパレータについて、正極、負極の電極を用いて電気二重層キャパシタを組み立てて、各々100個ずつ、捲回型セルを作製した。なお、捲回型セルの作製においては、電極として電気二重層キャパシタ用の活性炭電極(宝泉株式会社製、製品名:電気二重層キャパシタ用活性炭電極)を用いた。また、電解液としてプロピレンカーボネートに、1mol/Lとなるようにテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(キシダ化学株式会社製)を溶解したものを用いた。
作製された捲回型セルの放電容量について、初期、2000時間試験後、4000時間試験後にそれぞれLCRメーターで測定し、高温長期試験後の放電容量の変化(低下)を評価した。なお、試験条件は、80℃、2.5V印加で行った。
得られた結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
表3から明らかなように本発明のセパレータを用いた電気二重層キャパシタは、80℃、2.5V電圧印加試験後も十分な放電容量を維持していることが確認できた。
比較例1のセパレータも、放電容量に関しては、適切な放電容量を維持していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤紡糸セルロースを含有する繊維層とポリオレフィン製多孔質膜層との積層体からなる蓄電デバイス用セパレータであって、溶剤紡糸セルロースを含有する繊維層の空隙部分の体積が、ポリオレフィン製多孔質膜層の樹脂部分の体積より少ないことを特徴とする蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項2】
前記繊維層に熱可塑性合成繊維Aを含有することを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項3】
前記繊維層に耐熱性合成繊維Bを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項4】
前記溶剤紡糸セルロースが、繊維径が1μm以下及び繊維長が3mm以下にフィブリル化されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項5】
前記熱可塑性合成繊維Aが、ポリエステルまたはポリオレフィンであることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項6】
前記繊維層が、溶剤紡糸セルロースが70〜95質量%及び熱可塑性合成繊維Aが5〜30質量%の配合比率であることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項7】
前記熱可塑性合成繊維Aが、繊維径が5μm以下及び繊維長が10mm以下であることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項8】
前記耐熱性合成繊維Bが、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、半芳香族ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテル・エーテル・ケトン、ポリベンゾイミダゾール、ポリアセタールから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項3乃至7のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項9】
前記繊維層が、溶剤紡糸セルロースが5〜90質量%、熱可塑性合成繊維Aが5〜30質量%及び耐熱性合成繊維Bが5〜90質量%の配合比率であることを特徴とする請求項3乃至8のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項10】
前記耐熱性合成繊維Bが、繊維径が1μm以下及び繊維長が10mm以下にフィブリル化されていることを特徴とする請求項3乃至9のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項11】
前記繊維層の膜厚が30μm以下であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項12】
前記繊維層の密度が0.2〜0.9g/cmであることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項13】
前記繊維層の透気度が100秒/100ml以下であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項14】
前記ポリオレフィン製多孔質膜層が、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレンであることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項15】
前記繊維層とポリオレフィン製多孔質膜層とが接着剤を介して接着されていることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項16】
前記蓄電デバイスが、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタあるいは電気二重層キャパシタであることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。

【公開番号】特開2011−35373(P2011−35373A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120714(P2010−120714)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】