説明

蓄電デバイス用電極材料、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイスおよび蓄電デバイス用電極材料の製造方法

【課題】カーボン粒子の表面に板状のシリコンが付着した複合材料に比べて充放電サイクル特性が更に向上した蓄電デバイス用電極材料を提供する。
【解決手段】本発明の蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極と負極との間に介在するイオン伝導媒体とを備えている。ここで、正極および負極のうち少なくとも一方は、活物質として炭素で被覆された層状ポリシランを含んでいる。こうした活物質は、層状ポリシランを合成し、その層状ポリシランの粉末を撹拌しながら乾式の皮膜形成法によってカーボンで被覆することにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系蓄電デバイス(例えばリチウムイオン電池や電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタなど)、それに用いられる電極材料および電極に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池の電極として、シリコンは室温において約3600mAh/gという高いエネルギー密度を有することが知られており、近年、リチウム二次電池の電極材料として注目されている。しかしながら、シリコンは、理論容量が高いものの、充放電過程での体積膨張率が非常に大きいという問題があった。体積膨張率が大きいと、充放電に伴う体積変化により、例えば、シリコン粒子の割れやシリコン粒子と導電助材の接触不良、ひいてはシリコン粒子と導電助材を含んだ材料から成る電極材料と集電体との接触不良が生じ、充放電サイクルが短くなる。また、同じ原因により、不可逆容量が著しく大きくなり、電池容量の低減を招くこともある。こうしたことから、シリコンを主体とする電極材料の改良について、いくつか報告されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、粒子径がナノサイズのシリコン粉末をポリ塩化ビニルと塩素化ポリエチレンの熱分解によりアモルファスカーボンで被覆した電極材料が開示されている。この電極材料を負極として用いたリチウム二次電池は、サイクルに伴う容量劣化が非常に小さかったと報告されている。また、非特許文献2には、高エネルギーのボールミルで粉砕したシリコンとスクロースとの混合物を熱分解することによってシリコンと不規則なカーボンとのナノコンポジット材料が開示されている。このナノコンポジット材料を負極として用いたリチウム二次電池も、サイクルに伴う容量劣化が小さかったと報告されている。
【0004】
一方、層状構造のシリコン電子材料として、組成式Si66で示される層状ポリシランやその誘導体についても種々報告されている(例えば特許文献1)。本発明者らは、層状ポリシランとスクロースとの混合物を熱分解したところ、カーボン粒子の表面に板状のシリコンが付着した複合材料が得られた(非特許文献3)。この複合材料を作用極とし、金属リチウムを対極とした2極式セルを作製したところ、サイクルに伴う容量劣化は通常の層状ポリシランと比べて小さく抑えることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−69301号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Power Sources, vol.189(2009), 761
【非特許文献2】Journal of The Electrochemical Society, vol.152(2005), A2211
【非特許文献3】Journal of Materials Chemistry, DOI:10.1039/C1JM10532A.(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、カーボン粒子の表面に板状のシリコンが付着した複合材料は、層状ポリシランに比べて充放電サイクル特性が向上しているものの、シリコンとカーボンとの複合材料において、充放電のサイクル特性が一層向上したものの開発が望まれている。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、カーボン粒子の表面に板状のシリコンが付着した複合材料に比べて充放電サイクル特性が更に向上した蓄電デバイス用電極材料を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、容器内で撹拌している層状ポリシランに乾式の物理蒸着法の一つであるPLD法(Pulsed Laser Deposition)によりカーボンを蒸着したところ、カーボンで被覆された層状ポリシランが得られることを見いだし、加えてその充放電サイクル特性が非常に優れていることも見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の蓄電デバイス用電極材料及び蓄電デバイス用電極は、カーボンで被覆された層状ポリシランを含むことを特徴とする。また、本発明の蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極と負極との間に介在するイオン伝導媒体とを備え、正極及び負極の少なくとも一方が上述した蓄電デバイス用電極であるものである。更に、本発明の蓄電デバイス用電極材料の製造方法は、(1)層状ポリシランを合成する工程と、(2)その層状ポリシランの粉末を撹拌しながら乾式の皮膜形成法によってカーボンを被覆することにより上述した蓄電デバイス用電極材料を得る工程と、を含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の蓄電デバイス用電極材料、蓄電デバイス用電極及び蓄電デバイスによれば、層状ポリシランに比べて充放電のサイクル特性を一層向上させることができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推察される。すなわち、本発明の蓄電デバイス用電極材料は、カーボンによって導電性が付与されているため、非特許文献1,2と同様、充放電を繰り返したあとの容量維持率が高くなったと考えられる。加えて、層状ポリシランがカーボンで被覆されたことにより、ゲスト分子やイオン等の出入りによる体積変化が抑制され、本発明の蓄電デバイス用電極材料と共に用いられる導電助材との接触を良好に維持することができるため、カーボンの表面に板状のシリコンが付着した活物質に比べて、更に容量維持率が向上したと考えられる。また、本発明の蓄電デバイス用電極材料の製造方法によれば、上述した蓄電デバイス用電極材料を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一般的な層状ポリシランを表す模式図である。
【図2】カーボンで被覆した層状ポリシランを製造するための蒸着装置10の概略説明図である。
【図3】実施例1の活物質のXRDの測定結果を示すグラフである。
【図4】比較例1及び実施例1のSEM写真(1000倍)である。
【図5】比較例2及び実施例1のSEM写真(500倍)である。
【図6】比較例1及び実施例1のSEM写真(300000倍)である。
【図7】実施例1、比較例1及び比較例2の活物質を作用極に用いた2極式セルのサイクル特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の蓄電デバイス用電極材料(以下、活物質とも称する)は、カーボンで被覆された層状ポリシランを含むものである。
【0014】
本発明の蓄電デバイス用電極材料において、層状ポリシランは、図1に示すように、ケイ素原子で構成された六員環が複数連なった構造を基本骨格としたものであり、ケイ素原子は、六員環を構成するケイ素原子同士のSi−Si結合の他に水素原子とのSi−H結合を有している。この層状ポリシランは、線源にCuKαを用いてXRD回折を測定したとき、(001)に由来する2θ=14°付近のピーク、(100)に由来する2θ=27°付近のピーク、(110)に由来する2θ=47°付近のピークが現れる。なお、図1ではケイ素原子には水素が結合しているものとしたが、水素の全部又は一部が他の元素や置換基(例えばOH基)で置換されているものとしてもよい。
【0015】
本発明の蓄電デバイス用電極材料において、カーボンは、層状ポリシランを被覆している。層状ポリシランをカーボンで被覆する方法としては、例えば、撹拌している層状ポリシランの粉末を乾式の皮膜形成法によってカーボンで被覆することが挙げられる。ここで、乾式の皮膜形成法を採用したのは、湿式の皮膜形成法では層状ポリシランが分解するおそれがあるからである。乾式の皮膜形成法としては、物理的方法(PVD)を採用してよいし、化学的方法(CVD)を採用してもよい。PVDは、一般に、薄膜の原料として固体原料を用い、それを熱やプラズマのエネルギーで気化し、対象物上で薄膜化する方法であり、具体的には、PLD法、真空蒸着、分子線エピタキシー法(MBE)、イオンプレーティング法、スパッタリング法などが挙げられる。CVDは、一般に、薄膜の構成元素を含むガスを原料とし、化学反応を用いて薄膜を堆積する方法であり、具体的には、有機金属気相成長法(MOCVD)、RFプラズマCVD、ECRプラズマCVD、光CVD、レーザーCVDなどが挙げられる。
【0016】
本発明の蓄電デバイス用電極材料の製造方法は、(1)層状ポリシランを合成する工程と、(2)その層状ポリシランの粉末を撹拌しながら乾式の皮膜形成法によってカーボンで被覆することにより上述した蓄電デバイス用電極材料を得る工程と、を含むものである。
【0017】
・工程(1)
工程(1)では、層状ポリシランを合成する。層状ポリシランは、例えば、二ケイ化カルシウムを−30℃以下に冷却した濃塩酸と反応させることにより得ることができる。このとき、濃塩酸と二ケイ化カルシウムとのモル比(HCl/CaS2)は1〜1000が好ましく、10〜100がより好ましい。また、反応時間は1日〜10日が好ましく、3日〜7日がより好ましい。また、この反応は、Si−Si結合が光で酸化されてSi−O−Si結合に変化するため、暗室で行うことが好ましい。反応終了後に塩化カルシウムを濃塩酸水溶液により除去したあとアセトン洗浄することにより層状ポリシランを得ることができる。
【0018】
・工程(2)
工程(2)では、層状ポリシランの粉末を撹拌しながら乾式の皮膜形成法によってカーボンで被覆する。乾式の皮膜形成法の具体例は、既に述べたとおりである。乾式の皮膜形成法としてPLD法を採用する場合には、例えば、成膜室内に置かれたターゲット(ここでは炭素)上に、レーザパルス光を集光し、レーザー光のエネルギーによって励起されて飛び出すターゲット物質をターゲットに対向する位置に配置された層状ポリシランの粉末に堆積させて薄膜を形成する。このとき、層状ポリシランの粉末は撹拌されているため、ターゲット物質は層状ポリシランの粉末にまんべんなく堆積する。具体的な蒸着装置の構成の一例を図2に示す。図2の蒸着装置10は、横置きにされたコップ状で金属製の筒形容器12と、この筒形容器12の底面12aに貼り付けられたカーボン製のターゲット14と、筒形容器12の開口12bの近くに配置されたミラー16と、レーザパルス光を発射するレーザー源18とを備えている。レーザー源18から発射されたレーザ−パルス光は、ミラー16で反射してターゲット14に照射されるようになっている。この筒形容器12の内部に層状ポリシランの粉末(図示せず)を入れ、開口12bに石英ガラス板13をはめたあと、筒形容器12を軸回転させると、層状ポリシランの粉末は筒形容器12の内面が上向きに回転するのに伴って上方に移動し、その後自重によって落下する。これにより、層状ポリシランは撹拌される。このように層状ポリシランを撹拌しながら、レーザパルス光をターゲット14に向けて照射すると、ターゲット14からターゲット物質が励起されて飛び出して撹拌されている層状ポリシランの粉末に堆積する。
【0019】
本発明の蓄電デバイス用電極は、上述した本発明の蓄電デバイス用電極材料を備えたものである。この電極は、例えば、本発明の蓄電デバイス用電極材料と導電助材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にしたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。導電助材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電助材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電助材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。炭素材料、導電助材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン、クロロホルムなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。
【0020】
本発明の蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極と負極との間に介在するイオン伝導媒体と、を備えたものとすることができる。ここでは、正極または負極の少なくとも一方の電極に、本発明の蓄電デバイス用電極を用いることができる。
【0021】
以下では、本発明の蓄電デバイスがリチウム二次電池である場合に特に好ましい形態について説明する。本発明の蓄電デバイス用電極材料を正極に用いる場合には、負極には、例えば、リチウム金属を用いることができる。また、本発明の蓄電デバイス用電極を負極に用いる場合には、正極には、LiCoO2やLiNiO2等の層状岩塩構造を有する化合物、LiMn24等のスピネル型構造を有する化合物、LiFePO4等のポリアニオン化合物などを用いることができる。この蓄電デバイスにおいて、イオン伝導媒体は、支持塩を有機溶媒に溶かした非水電解液やイオン性液体、ゲル電解質、固体電解質などを用いることができる。このうち、非水電解液であることが好ましい。支持塩としては、例えば、LiPF6,LiClO4,LiAsF6,LiBF4,Li(CF3SO22N,Li(CF3SO3),LiN(C25SO2)などの公知の支持塩を用いることができる。支持塩の濃度としては、0.1〜2.0Mであることが好ましく、0.8〜1.2Mであることがより好ましい。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)など従来の二次電池やキャパシタに使われる有機溶媒が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、イオン性液体としては、特に限定されるものではないが、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PP13−TFSI)やN−メチル−N−プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(P13−TFSI)、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミドや1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどを用いることができる。ゲル電解質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子類またはアミノ酸誘導体やソルビトール誘導体などの糖類に、支持塩を含む電解液を含ませてなるゲル電解質が挙げられる。固体電解質としては、無機固体電解質や有機固体電解質などが挙げられる。無機固体電解質としては、例えば、Liの窒化物、ハロゲン化物、酸素酸塩などがよく知られている。なかでも、Li4SiO4、Li4SiO4−LiI−LiOH、xLi3PO4−(1−x)Li4SiO4、Li2SiS3、Li3PO4−Li2S−SiS2、硫化リン化合物などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリホスファゼン、ポリエチレンスルフィド、ポリヘキサフルオロプロピレンなどやこれらの誘導体が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。この蓄電デバイスは、正極と負極との間にセパレータを有していてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐え得る組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【0022】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0023】
例えば、上述した実施形態においては、本発明の蓄電デバイス用電極として、導電助材、結着材および集電体を用いることを記載したが、これらの一部または全部を有していなくてもよい。例えば、集電体を用いず、本発明の蓄電デバイス用電極材料と導電助材と結着材とを混合して加圧成形したものとしてもよい。
【0024】
上述した実施形態においては、本発明の蓄電デバイスは、リチウム二次電池である場合に特に好ましい形態を記載したが、リチウム二次電池に限定されることなく、ナトリウム二次電池などのその他の二次電池のほか、電気二重層キャパシタ、電気化学キャパシタなど、各種蓄電デバイスなどとすることができる。
【実施例】
【0025】
以下には、本発明の蓄電デバイス用電極及び蓄電デバイスを具体的に作成した例を示す。
【0026】
(1)活物質の合成
[実施例1]
まず、層状ポリシラン(Si66)を以下のように合成した。この合成は、−30℃に冷却した濃塩酸100ml中へ二ケイ化カルシウム(CaSi2)3gを添加し、1週間、−30℃の暗室で静置した。この処理で、黒色の二ケイ化カルシウムは黄色へ変化した。この黄色固体をAr雰囲気下で加圧ろ過し、脱気塩酸(−30℃)で洗浄し、脱気HF(フッ化水素)水溶液(−30℃)で洗浄し、さらに脱気アセトン(−30℃)で洗浄し、110℃で一晩減圧乾燥して層状ポリシランを合成した。この層状ポリシランの合成の化学反応式を式(1)に示す。
3CaSi2+6HCl→Si66+3CaCl2 …(1)
【0027】
次に、図2に示す蒸着装置10を用いて層状ポリシランの粉末を撹拌しながらPLD法によってカーボンを蒸着することにより、層状ポリシランの粉末をカーボンで被覆した。具体的には、層状ポリシラン0.2gを筒形容器12に入れ、その筒形容器12を軸回転させながら、Nd−YAGレーザーからのレーザー光(エネルギーE:0.97J/shot、波長λ:〜532nm、パルス幅t:8〜10nsec)を、ターゲット14であるカーボンにφ6mmの条件で10分間集光照射することで、筒形容器12内で撹拌している層状ポリシランにカーボンを蒸着し、実施例1の活物質を得た。
【0028】
[比較例1]
上述した層状ポリシラン(カーボン未蒸着)をそのまま比較例1の活物質とした。
【0029】
[比較例2]
アルゴン雰囲気のグローブボックス中で、スクロースと上述した層状ポリシラン(カーボン未蒸着)とをスクロース/層状ポリシラン=2/1の重量比となるようにメノウ製乳鉢に入れ、クロロホルムを粉体が浸かる程度に加え、クロロホルムが自然蒸発するまで混練して粉体を得た。この粉体を高周波誘導加熱炉でアルゴンフロー下で700℃×4時間焼成を行い、比較例2の活物質を得た。この活物質は、非特許文献3で開示されているように、炭素粒子の表面に板状のシリコンが付着したものである。
【0030】
(2)XRD測定
実験例1の活物質について、XRD測定を行った。測定装置はリガク社製RINT−TTRを用いた。線源にはCuKα線を用い、電圧50kV、電流300mA、発散スリット(DS)0.5°、スキャッタースリット(SS)0.5°、受光スリット(RS)0.15mmとした。その結果を図3に示す。比較例1の活物質である層状ポリシランは、層状ポリシランの(001),(100),(110)に起因するピークがそれぞれ2θ=14°付近、27°付近、47°付近に現れることが知られているが、図3から明らかなように、実施例1の活物質もこれらの3つのピークが検出された。このことから、実施例1の活物質は、層状ポリシランの構造を維持していることがわかった。
【0031】
(3)SEM観察
実施例1及び比較例1,2の活物質について、SEM観察を行った。図4は、倍率1000倍のSEM写真であり、(a)は比較例1の活物質(層状ポリシラン)、(b)は実施例1の活物質である。図5は、倍率500倍のSEM写真であり、(a)は比較例2の活物質、(b)は実施例1の活物質である。図4及び図5から、実施例1の活物質は、炭素粒子の表面に板状のシリコンが付着した比較例2の活物質とは異なり、層状ポリシランである比較例1の活物質と同様の構造であることが確認できた。また、図6は、倍率300000倍のSEM写真であり、(a)は比較例1の活物質(層状ポリシラン)、(b)は実施例1の活物質である。図6から、比較例1の層状ポリシランは導電性を有さないためそのSEM写真ではチャージアップして画像が白化したが、実施例1のカーボンで被覆された層状ポリシランは導電性を有するためSEM写真ではそのような白化は全く見られなかった。このことから、実施例1の活物質は導電性を有していることがわかる。なお、図4(a)以外のSEM写真については活物質をそのまま撮影したが、図4(a)のSEM写真についてはチャージアップ防止のため比較例1の活物質を導電化してから撮影した。
【0032】
(4)電池用電極としての性能評価
実施例1及び比較例1,2の活物質について、電池用電極としての性能評価を以下のように行った。まず、得られた活物質と、導電助材である導電性カーボンブラック(ライオン社製ECP)と、結着材である4フッ化エチレン樹脂(ダイキン社製F−104)とを、活物質/ECP/F104=70/25/5の重量比となるようにメノウ乳鉢に入れ、クロロホルムを粉体が浸かる程度に加え、クロロホルムが自然蒸発するまで混練して、これをフィルム化して電極合材とした。これを10mg分取して直径15mmのステンレス製メッシュに圧着し、電極を作製した。この電極を作用極とし、金属リチウムを対極とし、ポリエチレン製微多孔質膜をセパレータとし、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを3:7の体積比で混合した溶媒に1MとなるようにLiPF6を溶解したものを電解液として、日本トムセル製2極式セルを用いて評価セルを作製した。この評価セルを充放電装置(北斗電工社製HJR−1010SM8)にセットして充放電試験を行った。充放電試験は、0.7mAの定電流で下限電位0Vまで放電した後、0.7mAの定電流で上限電位1.0Vまで充電する定電流充放電を40℃で10回繰り返すことにより行った。そして、初回の充電容量に対するn回目の充電容量の割合を容量維持率として算出し、その結果を図7に示した。図7から明らかなように、比較例1のように層状ポリシランをそのまま活物質として用いた場合に比べて、比較例2のように炭素粒子の表面に板状のシリコンが付着した場合の方がサイクル数が増えても容量維持率は高くなった。また、実施例1のようにカーボンで被覆した層状ポリシランを活物質として用いた場合には、比較例2よりも更にサイクル特性が向上した。なお、充放電試験では、上述したように0Vまで放電したため、実施例1及び比較例1の活物質は共に層構造が崩壊したと考えられる。
【符号の説明】
【0033】
10 蒸着装置、12 筒形容器、12a 底面、12b 開口、13 石英ガラス板、14 ターゲット、16 ミラー、18 レーザー源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素で被覆された層状ポリシランを含む蓄電デバイス用電極材料。
【請求項2】
炭素で被覆された層状ポリシランを含む蓄電デバイス用電極。
【請求項3】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在するイオン伝導媒体とを備え、前記正極及び前記負極の少なくとも一方が請求項2に記載の蓄電デバイス用電極である、蓄電デバイス。
【請求項4】
(1)層状ポリシランを合成する工程と、
(2)前記層状ポリシランの粉末を撹拌しながら乾式の皮膜形成法によってカーボンで被覆することにより請求項1に記載の蓄電デバイス用電極材料を得る工程と、
を含む蓄電デバイス用電極材料の製造方法。
【請求項5】
前記乾式の皮膜形成法はPLD法である、請求項4に記載の蓄電デバイス用電極材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−37809(P2013−37809A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171048(P2011−171048)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】