説明

蓄電デバイス電極用スラリー、蓄電デバイス電極および蓄電デバイス

【課題】結着性および粉落ち性に優れると共に、電気的特性に優れる蓄電デバイス用電極が作製可能な蓄電デバイス電極用スラリーを提供する。
【解決手段】本発明に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、(A)重合体粒子と、(B)活物質粒子と、(C)水と、を含有し、前記(A)重合体粒子の平均粒子径(Da)と前記(B)活物質粒子の平均粒子径(Db)との比(Da/Db)が20〜100の範囲にあり、かつ曳糸性が30〜80%の範囲にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス電極用スラリー、蓄電デバイス電極および該電極を備えた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の駆動用電源として高電圧、高エネルギー密度を有する蓄電デバイスが要求されている。特にリチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタは、高電圧、高エネルギー密度を有する蓄電デバイスとして期待されている。
【0003】
このような蓄電デバイスに使用される蓄電デバイス用電極は、重合体粒子と活物質粒子の混合物を集電体表面へ塗布・乾燥することで作製される。かかる重合体粒子に要求される特性としては、活物質粒子同士の結合および活物質粒子と集電体との接着能力(以下、単に「結着性」ともいう)や、電極を巻き取る工程での耐擦性、その後の裁断等で塗布された電極用組成物層(以下、単に「活物質層」ともいう)から活物質の微粉等が発生しない粉落ち耐性(以下、単に「粉落ち性」ともいう)等がある。これらの要求特性を電極が満足することで、電極の折り畳み方法や捲回半径等の設計が容易となり、蓄電デバイスの小型化を達成することができる。
【0004】
一般的に、活物質層を作製するために使用される重合体粒子は、非導電性であるために電子の移動を妨げる傾向がある。このため、重合体粒子の使用量を低減することは蓄電デバイスの電気的特性の向上の点では有効である。しかしながら、重合体粒子の使用量を少なくすると前述の結着性や粉落ち性が劣化して加工性が大幅に劣化して実用的ではない。このため、重合体粒子の使用量の低減には自ずと限界があり、電気的特性の向上とトレードオフの関係があった。
【0005】
結着性や粉落ち性と蓄電デバイスの電気的特性とを同時に向上させるべく、たとえば特開2003−100298号公報には、重合体粒子の粒子径をコントロールする技術が記載されている。特開平11−297313号公報には、電極バインダーとして使用する重合体粒子の平均粒子径と、活物質粒子の平均粒子径と、の比をコントロールすることで、結着性を向上させる技術が記載されている。また、特開2010−205722号公報や特開2010−3703号公報には、エポキシ基やヒドロキシル基を有する電極用バインダーを用いて、結着性や粉落ち性を向上させる技術が記載されている。
【0006】
ところで、近年環境等への配慮から、従来の有機媒体に代えて水系媒体を含有する電極用スラリー(以下、単に「水系スラリー」ともいう)の使用が検討され始めている。この水系スラリーを集電体の表面に塗布した後、高温の空気を乾燥機内で循環または吹き付けて水分を蒸発させることにより、集電体の表面に活物質層を形成させることができる。
【0007】
しかしながら、かかる水分が蒸発する際に、水系スラリー中に含まれる重合体成分が局在化して不動化するという問題があった。たとえば、集電体と活物質層との界面における重合体成分の量が相対的に少なくなるような場合には、集電体と活物質層との結着性が著しく低下することがあった。
【0008】
このような重合体成分の偏在を制御するために、たとえば特開平10−270013号公報では、集電体上に活物質層を多層塗工することによって、活物質層の集電体近傍における重合体成分の濃度を高くする技術が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−100298号公報
【特許文献2】特開平11−297313号公報
【特許文献3】特開2010−205722号公報
【特許文献4】特開2010−3703号公報
【特許文献5】特開平10−270013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した技術では、活物質層中における重合体成分の偏在を制御することにより結着性や粉落ち性を向上させることはできても、活物質層の集電体近傍における重合体成分の濃度が高いため、蓄電デバイスの電気的特性を十分に発揮させることはできなかった。
【0011】
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、前記課題を解決することで、結着性および粉落ち性に優れると共に、電気的特性に優れる蓄電デバイス用電極、該電極を作製するための電極用スラリー、該スラリーを作製するための電極用バインダー組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0013】
[適用例1]
本発明に係る蓄電デバイス用電極の一態様は、
集電体と、前記集電体の表面に形成された活物質層と、を備えた蓄電デバイス用電極であって、
前記活物質層は、重合体および活物質を少なくとも含み、
前記活物質層の重合体分布係数が0.6〜1.0であり、かつ、前記活物質層の密度が1.3〜1.8g/cmであることを特徴とする。
【0014】
[適用例2]
適用例1の蓄電デバイス用電極において、
前記活物質がシリコン系活物質を含有することができる。
【0015】
[適用例3]
適用例1または適応例2の蓄電デバイス用電極において、
前記活物質層が、
(A)重合体粒子と(B)活物質粒子と(C)水とを含有し、前記(A)重合体粒子の平均粒子径(Da)と前記(B)活物質粒子の平均粒子径(Db)との比(Db/Da)が20〜100の範囲にあり、かつ曳糸性が30〜80%の範囲にある電極用スラリーを、前記集電体の表面に塗布し、さらに乾燥させて形成された層であることができる。
【0016】
[適用例4]
適用例3の蓄電デバイス用電極において、
前記(A)重合体粒子が、0.01μm以上0.25μm未満の粒径区間に2〜60容積%および、0.25μm以上0.5μm以下の粒径区間に40〜98容積%存在する分布を有するものであることができる。
【0017】
[適用例5]
適用例3または適用例4の蓄電デバイス用電極において、
前記(B)活物質粒子の平均粒子径(Db)が1〜200μmであることができる。
【0018】
[適用例6]
本発明に係る電極用スラリーの一態様は、
適用例1または適用例2の蓄電デバイス用電極を作製するための電極用スラリーであって、(A)重合体粒子と、(B)活物質粒子と、(C)水と、を含有し、前記(A)重合体粒子の平均粒子径(Da)と前記(B)活物質粒子の平均粒子径(Db)との比(Db/Da)が20〜100の範囲にあり、かつ曳糸性が30〜80%の範囲にあることを特徴とする。
【0019】
[適用例7]
適用例6の電極用スラリーにおいて、
前記(A)重合体粒子が、0.01μm以上0.25μm未満の粒径区間に2〜60容積%および、0.25μm以上0.5μm以下の粒径区間に40〜98容積%存在する分布を有するものであることができる。
【0020】
[適用例8]
適用例6または適用例7の電極用スラリーにおいて、
前記(B)活物質粒子の平均粒子径(Db)が1〜200μmであることができる。
【0021】
[適用例9]
本発明に係る電極用バインダー組成物の一態様は、
適用例6の電極用スラリーを作製するための電極用バインダー組成物であって、(A)重合体粒子と液状媒体とを含有し、前記(A)重合体粒子が、0.01μm以上0.25μm未満の粒径区間に2〜60容積%および、0.25μm以上0.5μm以下の粒径区間に40〜98容積%存在する分布を有することを特徴とする。
【0022】
[適用例10]
適用例9の電極用バインダー組成物において、
前記液状媒体が80〜350℃の標準沸点を有するものであることができる。
【0023】
[適用例11]
本発明に係る蓄電デバイスの一態様は、
適用例1ないし適用例5のいずれか一例の蓄電デバイス用電極を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る蓄電デバイス用電極によれば、集電体および活物質層間の結着性が良好であり、粉落ち性に優れ、かつ電気的特性にも優れている。また、かかる蓄電デバイス用電極を備えた蓄電デバイスによれば、電気的特性の一つである充放電レート特性が良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施の形態に係る蓄電デバイス用電極を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される
各種の変型例も含む。
【0027】
1.蓄電デバイス用電極
図1は、本実施の形態に係る蓄電デバイス用電極を模式的に示す断面図である。図1に示すように、蓄電デバイス用電極100は、集電体10と、集電体10の表面に形成された活物質層20とを含む。
【0028】
集電体10の形状は特に制限されないが、通常、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが使用される。集電体10は、導電性材料からなるものであれば特に制限されない。リチウムイオン二次電池の場合、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等の金属箔が挙げられるが、正極にはアルミニウムを、負極には銅を用いることが好ましい。ニッケル水素二次電池の場合、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、網状金属繊維焼結体、金属メッキ樹脂板等が挙げられる。
【0029】
活物質層20は、集電体10の表面に後述する電極用スラリーを塗布して、さらに乾燥させて形成された層である。当該電極用スラリーは、(A)重合体粒子および(B)活物質粒子を含有するため、活物質層20には重合体および活物質が少なくとも含まれている。活物質層20の厚さは特に制限されないが、通常0.005〜5mm、好ましくは0.01〜2mmである。
【0030】
集電体10の表面に電極用スラリーを塗布する方法についても特に制限されない。たとえばドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、浸漬法、刷毛塗り法等の方法が挙げられる。塗布する電極用スラリーの量は、前述した活物質層の厚さとなるように適宜調整すればよい。
【0031】
塗布した電極用スラリーの乾燥方法についても特に制限されない。たとえば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線等の照射による乾燥法が挙げられる。乾燥速度は、通常は応力集中によって活物質層に亀裂が入ったり、活物質層が集電体から剥離しない程度の速度範囲の中で、できるだけ速く液状媒体が除去できるように調整する。
【0032】
さらに、乾燥後の集電体をプレスすることにより、蓄電デバイス用電極の密度を高めてもよい。プレス方法は、金型プレスやロールプレス等の方法が挙げられる。
【0033】
本実施の形態に係る蓄電デバイス用電極100においては、活物質層20の重合体分布係数が0.6〜1.0であることを特徴としており、0.7〜0.95であることが好ましく、0.75〜0.9であることがより好ましい。
【0034】
本発明において「重合体分布係数」とは、以下の測定方法から定義される係数である。すなわち、
(1)上述した方法により、集電体10の一方の面に活物質層20を形成させる。これを二つに分割して、同じ活物質層20を有する蓄電デバイス用電極100を二つ作製する。(2)あらかじめ準備しておいたアルミ板上に両面テープ(ニチバン株式会社製、品番「NW−25」)を貼り付け、さらに同両面テープの上にカプトンテープ(株式会社テラオカ製、品番「650S」)を粘着面が上になるようにして貼り付ける。
(3)(2)で用意したもののカプトンテープの粘着面上に、(1)で作製した電極の一つの活物質層側と貼り合わせ、ローラーで圧着させる。
(4)集電体10を上に向けて(3)で作製されたアルミ板を水平面に固定した後、集電体10を上方向にアルミ板との角度が90度となるように一定速度で引き上げ、集電体10と活物質層20との接着面から集電体10を剥離する。
(5)剥離した界面の両側、すなわち集電体10に残存した活物質層の表面から深さ1.5μm(1.5μm以下の厚さしか残存しなかった場合はその残存した全て)までの活物質層20および、粘着テープ側に残存した活物質層表面から深さ1.5μmまでの活物質層20を掻き取り、それを「測定試料A」とする。
(6)(1)で作製したもう一方の蓄電デバイス用電極100から活物質層20を全て掻き取り、それを「測定試料B」とする。
(7)測定試料Aおよび測定試料Bのそれぞれについて、高周波誘導加熱方式パイロライザーを有する熱分解ガスクロマトグラフィを用いて分析し、各試料の単位重量当たりの重合体成分の含有量(質量%)を算出する。得られた値を下記式(1)に代入することにより、重合体分布係数を算出する。
重合体分布係数=(測定試料Aの重合体含有量:質量%)/(測定試料Bの重合体含有量:質量%) ・・・・・(1)
【0035】
なお、上記式(1)によると、重合体分布係数が1であれば、活物質層20中の重合体成分が均一に分布していることを表す。また、重合体分布係数が1を超える値であれば、集電体10と活物質層20との剥離界面近傍に重合体成分が偏在しており、1未満の値であれば、集電体10と活物質層20との剥離界面近傍の重合体成分が疎になっていると解釈できる。
【0036】
したがって、活物質層の重合体分布係数が0.6〜1.0であると、重合体成分が集電体と活物質層との界面近傍に十分に存在するため、集電体と活物質層間の結着性が良好となり、粉落ち性に優れ、かつ電気的特性にも優れた蓄電デバイス用電極が得られる。活物質層の重合体分布係数が前記範囲未満であると、集電体と活物質層との界面にバインダーとして機能する重合体成分が少なくなるため、集電体と活物質層の密着性が低下する。また、このようなブリード(移行)が起こることにより、活物質層表面の平滑性が損なわれる傾向がある。一方、重合体分布係数が前記範囲を超えると、集電体と活物質層の界面に絶縁体であるバインダー成分が局在化することにより、電極の内部抵抗が上昇して電気的特性が損なわれる。
【0037】
また、本実施の形態に係る蓄電デバイス用電極100においては、活物質層20の密度が1.3〜1.8g/cmであることを特徴としており、1.4〜1.7g/cmであることが好ましく、1.5〜1.6g/cmであることがより好ましい。活物質層の密度が前記範囲にあると、集電体および活物質層間の結着性が良好となり、粉落ち性に優れ、かつ電気的特性にも優れた電極が得られる。活物質層の密度が前記範囲未満であると、活物質層中において重合体成分が十分にバインダーとして機能せず、活物質層が凝集剥離するなどして粉落ち性が低下する。活物質層の密度が前記範囲を超えると、活物質層中において重合体成分をバインダーとして活物質の接着が強固になりすぎるため、集電体の柔軟性に活物質層が追随することができない。その結果、集電体と活物質層の界面が剥離することがある。
【0038】
本発明において「活物質層の密度」とは、以下の測定方法から測定される値である。
すなわち、上述した方法により、集電体の一方の面に、面積C(cm)で厚さD(μm)の活物質層を形成させて蓄電デバイス用電極を作製する。集電体の質量がA(g)、作製された蓄電デバイス用電極の質量がB(g)である場合、活物質層の密度は下記式(2)により算出される。
活物質層の密度(g/cm
=(B(g)−A(g))/(C(cm)×D(μm)×10−4) ・・・・・(2)
【0039】
2.電極用スラリー
本実施の形態に係る電極用スラリーは、上述の蓄電デバイス用電極を作製するために使用されるものであり、より具体的には集電体の表面に塗布・乾燥させて活物質層を形成するための分散液である。
【0040】
本実施の形態に係る電極用スラリーは、(A)重合体粒子(以下、「(A)成分」ともいう)と、(B)活物質粒子(以下、「(B)成分」ともいう)と、(C)水(以下、「(C)成分」ともいう)と、を含有し、前記(A)重合体粒子の平均粒子径(Da)と前記(B)活物質粒子の平均粒子径(Db)との比(Db/Da)が20〜100の範囲にあり、曳糸性が30〜80%の範囲にあることを特徴とする。まず、本実施の形態に係る電極用スラリーの特徴について詳細に説明する。
【0041】
2.1.電極用スラリーの特徴
本実施の形態に係る電極用スラリーは、(A)重合体粒子の平均粒子径(Da)と(B)活物質粒子の平均粒子径(Db)との比(Db/Da)が20〜100の範囲にあることを特徴とし、それが25〜95の範囲にあることが好ましく、30〜90の範囲にあることがより好ましい。
【0042】
電極用スラリー中に分散媒体として(C)水が含まれている場合、集電体の表面に当該電極用スラリーを塗布して乾燥させる工程において、(A)成分および/または(B)成分が表面張力の作用を受けることにより塗膜の厚み方向に沿って移動すること(以下、「マイグレーション」ともいう)が確認されている。具体的には、(A)成分および/または(B)成分が、塗膜の集電体と接する面とは反対側、すなわち水が蒸発する気固界面側へと移動する傾向がある。
【0043】
その結果、(A)成分及び(B)成分の分布が塗膜の厚み方向で不均一となるため、電極特性が劣化したり、集電体と活物質層との密着性が損なわれるなどの問題が発生する。たとえば、バインダーとして作用する(A)成分が活物質層の気固界面側へとブリード(移行)して、集電体と活物質層との界面における(A)成分の量が相対的に少なくなる場合には、活物質層への電解液の浸透が阻害されることにより電気的特性が劣化すると共に、集電体と活物質層との結着性が低下して剥離が発生する傾向がある。さらに、このように(A)成分がブリードすることにより、活物質層表面の平滑性が損なわれる傾向がある。
【0044】
しかしながら、比(Db/Da)が前記範囲にあると、前述したような問題の発生を抑制することができ、良好な電気的特性と密着性とを両立させた電極の作製が可能となる。なお、比(Db/Da)が前記範囲未満では、(A)成分と(B)成分との平均粒子径の差が小さくなるため、(A)成分と(B)成分とが接触する面積が小さくなり粉落ち性が低下する傾向がある。一方、比(Db/Da)が前記範囲を超えると、(A)成分と(B)成分との平均粒子径の差が大きくなることにより、(A)成分の接着力が不十分となり集電体と活物質層との結着性が低下する傾向がある。
【0045】
また、本実施の形態で使用される電極用スラリーは、曳糸性が30〜80%であることを特徴とし、33〜79%であることが好ましく、35〜78%であることがより好ましい。曳糸性が前記範囲未満であると、電極用スラリーを集電体上へ塗工する際、レベリング性が不足するため、電極厚みの均一性が得られにくい。このような厚みが不均一な電極を使用すると、充放電反応の面内分布が発生するため、安定した電池性能の発現が困難となる。一方、曳糸性が前記範囲を超えると、電極用スラリーを集電体上に塗工する際、液ダレが起き易くなり、安定した品質の電極が得られにくい。曳糸性が前記範囲にあれば、これらの問題の発生を抑制することができ、良好な電気的特性と結着性とを両立させた電極の作製が可能となる。
【0046】
なお、本願発明における「曳糸性」は、以下のようにして測定することができる。
【0047】
まず、直径5.2mmの開口部を底部に有するザーンカップ(太佑機材株式会社製、ザーンビスコシティーカップNo.5)を準備する。このザーンカップの開口部を閉じた状態で、ザーンカップに電極用スラリーを40g流し込む。その後、開口部を開放すると、開口部から電極用スラリーが流れ出す。ここで、開口部を開放した時をT、電極用スラリーの曳糸が終了した時をT、電極用スラリーの流出が終了した時をTとした場合に、本願発明における「曳糸性」は下記式(3)から求めることができる。
曳糸性(%)=((T−T)/(T−T))×100 ・・・・・(3)
【0048】
次いで、本実施の形態で使用される電極用スラリーに含まれる各成分について、それぞれ詳細に説明する。
【0049】
2.2.(A)重合体粒子
本実施の形態に係る電極用スラリーに含まれる(A)重合体粒子は、(B)活物質粒子を集電体に結着させるためのバインダーとして機能する成分である。
【0050】
(A)重合体粒子の平均粒子径(Da)は、0.05〜0.4μmの範囲にあることが好ましく、0.06〜0.39μmの範囲にあることがより好ましく、0.07〜0.38μmの範囲にあることが特に好ましい。(A)重合体粒子の平均粒子径(Da)が前記範囲にあると、(A)重合体粒子の(B)活物質粒子表面への吸着量のバランスが良好となり、マイグレーションの発生を抑制することができる。
【0051】
また、(A)重合体粒子は、下記の[1]および[2]の要件を満たしていることが好ましい。
[1]0.01μm以上0.25μm未満の粒径区間に重合体粒子が2〜60容積%、好ましくは3〜55容積%、より好ましくは4〜50容積%存在すること。
[2]0.25μm以上0.5μm以下の粒径区間に重合体粒子が40〜98容積%、好ましくは45〜97容積%、より好ましくは50〜96容積%存在すること。
【0052】
上記[1]および[2]の要件における重合体粒子の存在割合が前記範囲にあると、得られる活物質層と空気との界面に重合体粒子が偏在することを効果的に抑制することができるため、電解液の活物質層への浸透を促進させることができる。これにより、充放電特性等の電気的特性が良好になると共に、集電体と活物質層との結着性を向上させて剥離等を抑制できるため好ましい。さらに、上記[1]および[2]の要件における重合体粒子の存在割合が前記範囲にあると、粉落ち性を向上できる傾向がある。
【0053】
(A)重合体粒子の平均粒子径(Da)および粒度分布測定は、光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いることにより行われる。このような粒度分布測定装置としては、たとえば、コールターLS230、LS100、LS13 320(以上、コールター社製)や、FPAR−1000(大塚電子株式会社製)等が挙げられる。この粒度分布測定装置は、重合体粒子の一次粒子だけを評価対象とするものではなく、一次粒子が凝集して形成された二次粒子をも評価対象とする。したがって、この粒度分布測定装置によって得られた粒度分布は、電極用スラリー中に含まれる(A)重合体粒子の分散状態の指標とすることができる。
【0054】
なお、(A)重合体粒子の平均粒子径(Da)および粒度分布は、電極用スラリーを遠心分離して(B)活物質粒子を沈降させた後、その上澄み液を上記の方法で測定することにより得られる。
【0055】
(A)重合体粒子を構成する重合体としては、(B)活物質粒子を集電体に結着させるためのバインダーとして機能すれば特に限定されるものではないが、たとえば(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン等の公知の材料が挙げられる。
【0056】
なお、前記重合体は、好ましくは−80〜+50℃、より好ましくは−75〜+30℃、特に好ましくは−70〜+10℃のガラス転移温度(以下、「Tg」という)を有するゴム質重合体であることが好ましい。Tgが低すぎる重合体を用いると、電池容量の低下を招くことがあり、Tgが高すぎる重合体を用いると結着力が小さくなったり、電池特性の温度による変化が大きくなったりする可能性がある。
【0057】
(A)重合体粒子の製造方法は、特に限定されず、たとえば乳化重合、播種乳化重合、懸濁重合、播種懸濁重合、溶液析出重合等が挙げられる。重合体粒子を溶剤に溶解ないし膨潤させ、該溶媒と相溶しない媒体中で攪拌混合した後、脱溶剤する溶解分散法も可能である。また、これらにより得られた重合体粒子に対して化学修飾や電子線照射等の物理的変性を行ってもよい。
【0058】
(A)重合体粒子は、前記重合法のうち乳化重合や懸濁重合等を用いて、反応中に分散安定剤を重合系に別添加することにより1段階で合成することができる。上記[1]および[2]の要件を満たすような、0.01μm以上0.25μm未満の粒径区間に2〜60容積%および、0.25μm以上0.5μm以下の粒径区間に40〜98容積%存在する分布を有する重合体粒子が液状媒体中に分散された液状媒体分散液を1段階で合成する方法は、生産性向上の観点から好ましい。このような分散液は、上述した公知の合成方法により重合体粒子の粒度分布をコントロールすることにより作製することができる。
【0059】
また(A)重合体粒子は、上述のように1段階で合成された重合体粒子を含有する液状媒体分散液を使用するだけでなく、小粒径重合体粒子成分と大粒径重合体粒子成分とを前記重合法により別々に得て、それらを混合することにより2段階で得ることもできる。
【0060】
上記[1]および[2]の要件を満たすような(A)重合体粒子を得るための具体的方法としては、最頻粒径が0.01μm以上0.25μm未満である重合体粒子の液状媒体分散液(I)を重合体粒子換算で2〜60質量部と、最頻粒径が0.25μm以上0.5μm以下である重合体粒子の液状媒体分散液(II)を重合体粒子換算で40〜98質量部と、を混合する方法が挙げられる。但し、液状媒体分散液(I)と液状媒体分散液(II)とを混合した後の重合体粒子は、合計で100質量部である。ここで、「最頻粒径」とは、液状媒体分散液について光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて測定した粒度分布から求めた最も頻度の大きい区間の中央値のことをいう。
【0061】
前述の具体的方法において、最頻粒径が0.01μm以上0.25μm未満である重合体粒子の液状媒体分散液(I)が重合体粒子基準で60質量部より多くなると(最頻粒径が0.25μm以上0.5μm以下である重合体粒子の液状媒体分散液が重合体粒子基準で40質量部よりも少なくなることと同じ)と、電極用スラリーを集電体に塗布して乾燥させる際に、液状媒体の蒸発に伴いその表面張力の影響を受けて、相対的に小さな重合体粒子が空気界面方向へと移動(マイグレーション)する。その結果、重合体粒子が電極表面に偏在することになるため、電解液との電子の授受が阻害される傾向がある。一方、活物質層と集電体との界面では、重合体粒子の量が相対的に少なくなるため、活物質層と集電体との接着力が低下して結着性が損なわれる傾向がある。以上のように、電極用スラリーに含まれる重合体粒子のバランスが崩れると、電気的特性や、活物質層と集電体との結
着性が損なわれる傾向が見られる。
【0062】
(A)重合体粒子を得るための重合性不飽和単量体としては、たとえばアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−デシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、クロトン酸イソアミル、クロトン酸n−ヘキシル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、マレイン酸モノメチル等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル;1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ペンタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘプタジエン等の共役ジエン化合物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸;スチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有ビニル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル化合物;エチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル化合物等が挙げられる。これらは、単独もしくは二種以上混合して使用することができる。
【0063】
また、上記単量体を主とし、これに少量の架橋性単量体を加えて重合することにより、重合体粒子に架橋構造を付与することは、重合体粒子が分散溶媒や電解液に溶解しにくくなる点で好ましい。かかる架橋性単量体としては、ジビニルベンゼン等のジビニル化合物;ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸エチレングリコール等の多官能ジメタクリル酸エステル;トリメタクリル酸トリメチロールプロパン等の多官能トリメタクリル酸エステル;ジアクリル酸ポリエチレングリコール、ジアクリル酸1,3−ブチレングリコール等の多官能ジアクリル酸エステル;トリアクリル酸トリメチロールプロパン等の多官能トリアクリル酸エステル等が挙げられる。架橋性単量体は、重合性単量体全体に対して、通常0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜15質量%の割合で使用される。
【0064】
さらに上述した乳化重合や懸濁重合等によって得られる重合体粒子の液状媒体分散液には、アンモニア、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等)水酸化物、無機アンモニウム化合物(塩化アンモニウム等)、有機アミン化合物(エタノールアミン、ジエチルアミン等)等の水溶液を加えてpH調整することができる。なかでも、アンモニアまたはアルカリ金属水酸化物を用いて、pHを5〜13、好ましくは6〜12の範囲になるように調整すると、集電体と活物質層との結着性を向上できる点で好ましい。
【0065】
以上のように、本実施の形態に係る電極用スラリーに使用する(A)重合体粒子は、乳化重合や懸濁重合等によって得られた重合体粒子の液状媒体分散液をそのまま重合体粒子として用いることができるが、これに限定されない。たとえば重合の際に使用する分散媒体が非水系液状媒体である場合、非水系液状媒体を水に分散媒置換して、水に重合体粒子を分散させて使用することもできる。重合体粒子が粉末粒子の場合には、これを分散媒に分散させて本実施の形態に係る電極用スラリーを調製してもよい。
【0066】
本実施の形態に係る電極用スラリーにおける(A)重合体粒子の含有量は、(B)活物質粒子100質量部に対して、正極では、通常0.3〜10質量部であり、0.5〜5質量部であることが好ましい。一方、負極では、通常0.2〜5質量部であり、0.5〜2.5質量部であることが好ましい。本実施の形態に係る電極用スラリーによれば、重合体粒子の含有量を従来の半分〜1/10程度の少ない量とした場合でも十分な結着力を得ることができるため、本発明に係る蓄電デバイス用電極を用いた蓄電デバイスは高い容量と
充電速度が得られる。
【0067】
2.3.(B)活物質粒子
本実施の形態に係る電極用スラリーに含まれる(B)活物質粒子を構成する材料は特に限定はなく、目的とする蓄電デバイスの種類により適宜最適な材料を選択することができる。たとえばリチウムイオン二次電池の場合、負極活物質および正極活物質のいずれも、通常のリチウムイオン二次電池の電極の製造に使用されるものを用いることができる。
【0068】
すなわち、負極活物質としては、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維等の炭素質材料;ポリアセン等の導電性高分子;A(但し、Aはアルカリ金属または遷移金属、Bはコバルト、ニッケル、アルミニウム、スズ、マンガン等の遷移金属から選択される少なくとも1種、Oは酸素原子を表し、X、YおよびZはそれぞれ1.10>X>0.05、4.00>Y>0.85、5.00>Z>1.5の範囲の数である。)で表される複合金属酸化物や、Siを含有する合金、Siを含有する複合化化合物、その他の金属酸化物等が例示される。
【0069】
特に、負極活物質としてシリコン(Si)を活物質として使用する場合、シリコンは5原子あたり最大22個のリチウムを吸蔵することができる(5Si+22Li→Li22Si)。この結果、シリコン理論容量は4200mAh/gにも達する。
【0070】
しかしながら、シリコンはリチウムを吸蔵する際に大きな体積変化を生じる。具体的には、黒鉛系負極活物質はリチウムを吸蔵することにより最大1.2倍程度に体積膨張するのに対して、シリコン系活物質はリチウムを吸蔵することにより最大4.4倍程度に体積膨張する。このためシリコン系活物質は膨張と収縮の繰り返しによって微粉化、集電体からの剥離や、活物質同士の乖離を引き起こし、活物質層内部の導電ネットワークが寸断される。従って短時間でサイクル特性が極端に劣化してしまう。
【0071】
しかしながら、本実施の形態に係る電極用スラリーに含まれる(B)活物質粒子としてシリコン系活物質を使用すると、上述の問題が発生することなく、良好な電気特性を示す蓄電デバイス用電極を作製することができる。これは、(A)重合体粒子がシリコン系活物質を強固に結着させることができると同時に、リチウムを吸蔵することによりシリコン系活物質が体積膨張しても(A)重合体粒子が伸び縮みしてシリコン系活物質を強固に結着させた状態を維持することができるためであると考えられる。さらに、水分散体において(A)重合体粒子がシリコン系活物質の周囲に凝集してシリコン系活物質の加水分解を抑制することで、活物質層を作製する際のシリコン系活物質の劣化を抑制することができると考えられる。なお、本発明において、シリコン系活物質とは、シリコン(Si)を主成分とする活物質のことをいい、より詳しくはシリコンの含有割合が90質量%以上の活物質のことをいう。
【0072】
(B)活物質粒子として炭素系活物質とシリコン系活物質とを併用する場合、シリコン系活物質の使用量は、十分な結着性を維持する観点から、(B)活物質粒子の全質量を100質量部としたときに4〜40質量部であること好ましく、5〜35質量部であることがより好ましく、5〜30質量部であることが特に好ましい。活物質粒子の全質量に対するシリコン系活物質の使用量が前記範囲であると、充放電に伴うシリコン系活物質の体積膨張に対して炭素系活物質の体積膨張が小さいため、このような活物質を含有する活物質層の充放電に伴う膨張と収縮を抑制することができ、活物質層と集電体の密着性をより向上させることができる。
【0073】
シリコン系活物質としては、特開2004−185810号公報に記載されているシリ
コン材料の他、下記式のようなシリコン一酸化物の不均化反応によって作られる、SiO(X=0〜2)で表記されるSi酸化物複合体(例えば特開2004−47404号公報、特開2005−259697号公報に記載されている材料など)を使用することができる。シリコン系活物質と併用する炭素系活物質としては、上述の炭素質材料を好ましく用いることができるが、それらの中でもグラファイトがより好ましい。
【0074】
正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出できる材料であれば、特に限定されることなく使用することができる。例えば、TiS、TiS、MoS、LiFeS等の硫化物、Cu、VO−P、MoO、V、V13、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiNi0.4Mn1.6、LiCo0.3Ni0.7、V、MnO等の遷移金属酸化物、LiCoPO、LiFePO、LiCoPOF、LiFePOF等のオリピン系酸化物、LiTi12、LiFe0.5Ti12、LiZn0.5Ti12等のスピネル構造を有するリチウムチタン酸化物、およびこれらの混合物等から作製されたものが例示される。さらに、ポリアセチレン、ポリp−フェニレン等の導電性高分子等の有機化合物を用いることもできる。
【0075】
また、ニッケル水素二次電池の場合においても、通常のニッケル水素二次電池で使用される活物質であればいずれも用いることができる。負極活物質としては、水素吸蔵合金を用いることができる。また、正極活物質としては、オキシ水酸化ニッケル、水酸化ニッケル等を用いることができる。
【0076】
(B)活物質粒子の平均粒子径(Db)は、前述した比(Db/Da)の値を満足するように選択されるが、通常1〜200μmの範囲であり、10〜100μmの範囲であることが好ましく、20〜50μmの範囲であることがより好ましい。
【0077】
ここで、(B)活物質粒子の平均粒子径(Db)とは、レーザー回折法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、累積度数が体積百分率で50%となる粒子径(D50)の値である。なお、このようなレーザー回折式粒度分布測定装置としては、たとえば、HORIBA LA−300シリーズ、HORIBA LA−920シリーズ(以上、株式会社堀場製作所製)等が挙げられる。この粒度分布測定装置は、活物質粒子の一次粒子だけを評価対象とするものではなく、一次粒子が凝集して形成された二次粒子をも評価対象とする。したがって、この粒度分布測定装置によって得られた平均粒子径(Db)は、電極用スラリー中に含まれる(B)活物質粒子の分散状態の指標とすることができる。
【0078】
なお、(B)活物質粒子の平均粒子径(Db)は、電極用スラリーを遠心分離して(B)活物質粒子を沈降させた後、その上澄み液を除去し、沈降した(B)活物質粒子を上記の方法により測定することにより得られる。
【0079】
2.4.(C)水
本実施の形態に係る電極用スラリーは、(C)水を含有する。(C)水を含有することにより電極用スラリーの安定性が良好となり、再現性良く電極を作製することが可能となる。また、電極用スラリーで一般的に使用されている高沸点溶剤(たとえば、N−メチルピロリドン等)と比較して乾燥速度が速く、乾燥時間の短縮によって生産性の向上やマイグレーション抑制が期待できる。
【0080】
2.5.その他の添加剤
本実施の形態に係る電極用スラリーには、前述した(A)ないし(C)成分以外にも、必要に応じて導電付与剤、非水系媒体、増粘剤等を添加してもよい。
【0081】
導電付与剤の具体例としては、リチウムイオン二次電池では、グラファイト、活性炭等のカーボンが用いられる。また、ニッケル水素二次電池では、正極では酸化コバルト、負極ではニッケル粉末、酸化コバルト、酸化チタン、カーボン等が用いられる。上記両電池において、カーボンとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレン類等が挙げられる。これらの中でも、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラックが好ましい。導電付与剤の使用量は、通常、(B)活物質粒子100質量部に対して1〜20質量部、好ましくは2〜10質量部である。
【0082】
本実施の形態に係る電極用スラリーには、その塗布性を改善する観点から、80〜350℃の標準沸点を有する非水系媒体を添加してもよい。非水系媒体の具体例としては、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;トルエン、キシレン、n−ドデカン、テトラリン等の炭化水素類;2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、ラウリルアルコール等のアルコール類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン類;酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類;o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン等のアミン類;N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類;γ−ブチロラクトン、δ−ブチロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド・スルホン類等が挙げられる。これらは単独もしくは二種以上の混合溶媒として使用することができる。これらの中でも、重合体粒子の安定性や、塗布する際の作業性の点で、N−メチルピロリドンが好ましい。
【0083】
本実施の形態に係る電極用スラリーには、塗工性を改善する観点から、増粘剤を添加してもよい。増粘剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類、およびこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸等のポリカルボン酸類、およびこれらのアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール系(共)重合体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸およびフマル酸等の不飽和カルボン酸とビニルエステルとの共重合体の鹸化物;等の水溶性ポリマーが挙げられる。これらの中でも特に好ましい増粘剤としては、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩等である。
【0084】
本実施の形態に係る電極用スラリーが増粘剤を含有する場合、増粘剤の使用割合は、全重合体粒子質量(全固形分量)に対して、通常5〜200質量%、好ましくは10〜150質量%、より好ましくは20〜100質量%である。
【0085】
2.6.電極用スラリーの製造方法
本実施の形態に係る電極用スラリーは、(A)重合体粒子と、(B)活物質粒子と、(C)水と、必要に応じて用いられる添加剤とを混合することにより作製することができる。これらの混合には通常の手法を用いて混合攪拌することができ、たとえば、攪拌機、脱泡機、ビーズミル、高圧ホモジナイザー等を利用することができる。また、電極用スラリーの調製は、減圧下で行うことが好ましい。これにより、得られる電極層内に気泡が生じることを防止することができる。
【0086】
本実施の形態に係る電極用スラリーを調製するための混合撹拌には、スラリー中に活物質粒子の凝集体が残らない程度に撹拌し得る混合機と、必要にして十分な分散条件とを選択する必要がある。分散の程度は粒ゲージにより測定可能であるが、少なくとも100μ
mより大きい凝集物が無くなるように混合分散すべきである。混合機としては、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサー等が例示される。
【0087】
3.電極用バインダー組成物
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物(以下、単に「バインダー組成物」ともいう)は、上述の電極用スラリーを作製するために使用されるものであり、より具体的には活物質等を集電体に結着するためのバインダーとなる重合体粒子が液状媒体中に分散している状態で存在する分散液である。
【0088】
本実施の形態に係るバインダー組成物は、(A)重合体粒子と液状媒体とを含有し、前記(A)重合体粒子が、0.01μm以上0.25μm未満の粒径区間に2〜60容積%および、0.25μm以上0.5μm以下の粒径区間に40〜98容積%存在する分布を有することを特徴とする。以下、本実施の形態に係るバインダー組成物に含まれる成分について詳細に説明する。
【0089】
3.1.(A)重合体粒子
本実施の形態に係るバインダー組成物中に含まれる(A)重合体粒子は、下記の[1]および[2]の要件を少なくとも満たしている。
[1]0.01μm以上0.25μm未満の粒径区間に重合体粒子が2〜60容積%、好ましくは3〜55容積%、より好ましくは4〜50容積%存在すること。
[2]0.25μm以上0.5μm以下の粒径区間に重合体粒子が40〜98容積%、好ましくは45〜97容積%、より好ましくは50〜96容積%存在すること。
【0090】
上記[1]の要件における重合体粒子の存在割合が前記範囲より大きいと、得られる活物質層と空気界面にバインダーが偏在しやすくなり、活物質層への電解液の浸透が阻害されてしまうため、充放電特性等の電気的特性が劣化すると共に、集電体と活物質層の結着性が低下して剥離等が発生してしまうため好ましくない。逆に、前記範囲より小さいと、粉落ち性が低下する傾向がある。
【0091】
上記[2]の要件における重合体粒子の存在割合が前記範囲より大きいと、粉落ち性が低下する傾向がある。逆に、前記範囲より小さいと、得られる活物質層と空気界面にバインダーが偏在しやすくなり、活物質層への電解液の浸透が阻害されてしまうため、電気的特性が劣化すると共に、集電体と活物質層の結着性が低下して剥離等が発生してしまうため好ましくない。
【0092】
本願発明における(A)重合体粒子の粒度分布測定は、バインダー組成物を試料として、光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いることにより行われる。このような粒度分布測定装置としては、たとえば、コールターLS230、LS100、LS13 320(以上、コールター社製)や、FPAR−1000(大塚電子株式会社製)等が挙げられる。この粒度分布測定装置は、(A)重合体粒子の一次粒子だけを評価対象とするものではなく、一次粒子が凝集して形成された二次粒子をも評価対象とする。したがって、この粒度分布測定装置によって得られた粒度分布は、バインダー組成物中に含まれる(A)重合体粒子の分散状態の指標とすることができる。
【0093】
本実施の形態に係るバインダー組成物中に含まれる(A)重合体粒子を構成する重合体としては、特に限定されないが、たとえば(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン等の公知の材料が挙げられる。
【0094】
なお、前記重合体は、好ましくは−80〜+50℃、より好ましくは−75〜+30℃、特に好ましくは−70〜+10℃のガラス転移温度(以下、「Tg」という)を有するゴム質重合体であると望ましい。Tgが低すぎる重合体を用いると、電池容量の低下を招くことがあり、Tgが高すぎる重合体を用いると結着力が小さくなったり、電池特性の温度による変化が大きくなったりする可能性がある。
【0095】
3.2.液状媒体
本実施の形態に係るバインダー組成物中に含まれる液状媒体(分散媒)としては、水のほか、80〜350℃の標準沸点を有する非水系媒体が好ましい。このような非水系媒体としては、たとえば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;トルエン、キシレン、n−ドデカン、テトラリン等の炭化水素類;2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、ラウリルアルコール等のアルコール類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン類;酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類;o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン等のアミン類; N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類;γ−ブチロラクトン、δ−ブチロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド・スルホン類等が挙げられる。これらは単独もしくは二種以上の混合溶媒として使用することができる。これらの中でも、バインダー組成物の安定性や、塗布する際の作業性の点で、水、N−メチルピロリドンが好ましい。
【0096】
3.3.その他の添加剤
本実施の形態に係るバインダー組成物には、塗工性を改善する観点から、増粘剤を添加してもよい。増粘剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類、およびこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸等のポリカルボン酸類、およびこれらのアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール系(共)重合体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸およびフマル酸等の不飽和カルボン酸とビニルエステルとの共重合体の鹸化物;等の水溶性ポリマーが挙げられる。これらの中でも特に好ましい増粘剤としては、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩等である。
【0097】
本実施の形態に係るバインダー組成物が増粘剤を含有する場合、増粘剤の使用割合は、全重合体粒子質量(全固形分量)100質量部に対して、通常5〜200質量部、好ましくは10〜150質量部、より好ましくは20〜100質量部である。
【0098】
3.4.製造方法
本実施の形態に係るバインダー組成物は、0.01μm以上0.25μm未満の粒径区間に2〜60容積%および0.25μm以上0.5μm以下の粒径区間に40〜98容積%存在する分布を有することを特徴とする(A)重合体粒子と、液状媒体と、を含有する液状媒体分散液を用いて作製することができる。このような分散液は、液状媒体分散液を作製する際に、公知の合成方法により重合体粒子の粒度分布をコントロールすることにより作製することができる。
【0099】
本実施の形態に係るバインダー組成物は、上述のように重合体粒子の合成段階であらかじめ粒度分布をコントロールした重合体粒子を含有する液状媒体分散液を使用するだけでなく、異なる粒子径分布を示す2種類以上の液状媒体分散液を混合することによっても作製することができる。たとえば、最頻粒径が0.01μm以上、0.25μm未満である重合体粒子の液状媒体分散液(I)を重合体粒子換算で2〜60質量部と、最頻粒径が0
.25μm以上、0.5μm以下である重合体粒子の液状媒体分散液(II)を重合体粒子換算で40〜98質量部と、を混合することによって得られる。但し、分散液(I)と分散液(II)とを混合した後の重合体粒子は、合計で100質量部である。ここで「最頻粒径」とは、液状媒体分散液について光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて測定した粒度分布から求めた最も頻度の大きい区間の中央値のことをいう。
【0100】
最頻粒径が0.01μm以上、0.25μm未満である重合体粒子の液状媒体分散液(I)が重合体粒子基準で60質量部より多くなる(最頻粒径が0.25μm以上、0.5μm以下である重合体粒子の液状媒体分散液が重合体粒子基準で40質量部よりも少なくなることと同じ)と、バインダー組成物に活物質を混合して作製されたスラリーを集電体に塗布して乾燥させる際に、液状媒体の蒸発に伴いその表面張力の影響を受けて、相対的に小さな重合体粒子が空気界面方向へと移動してしまう。その結果、重合体粒子が電極表面に偏在することになるため、電解液との電子の授受が阻害される傾向がある。一方、活物質層と集電体との界面では、重合体粒子の量が相対的に少なくなるため、活物質層と集電体との接着力が低下して結着性が損なわれる傾向がある。以上のように、バインダー組成物に含まれる(A)重合体粒子のバランスが崩れると、電気特性や、活物質層と集電体との密着性が損なわれる傾向が見られる。
【0101】
前記重合体粒子の製造方法は、特に限定されず、たとえば乳化重合、播種乳化重合、懸濁重合、播種懸濁重合、溶液析出重合等が挙げられる。重合体粒子を溶剤に溶解ないし膨潤させ、該溶媒と相溶しない媒体中で攪拌混合した後、脱溶剤する溶解分散法も可能である。また、これらにより得られた重合体粒子に対して化学修飾や電子線照射等の物理的変性を行ってもよい。
【0102】
また、本実施の形態に係るバインダー組成物は、小粒径重合体粒子成分と大粒径重合体粒子成分とを前記重合法により別々に得て、それらを混合することによって2段階で得てもよいが、前記重合法のうち、乳化重合や懸濁重合等を用いて、反応中に分散安定剤を重合系に別添加することにより1段階で得ることもできる。
【0103】
上記重合体粒子を得るための重合性不飽和単量体としては、上記粒度分布上の条件を満たす重合体粒子を与えることのできる単量体であれば特に限定されない。かかる単量体の具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−デシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、クロトン酸イソアミル、クロトン酸n−ヘキシル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、マレイン酸モノメチル等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル;1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ペンタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘプタジエン等の共役ジエン化合物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸;スチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有ビニル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル化合物;エチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル化合物等が挙げられる。これらは、単独もしくは二種以上混合して使用することができる。
【0104】
また、上記単量体を主とし、これに少量の架橋性単量体を加えて重合することにより、バインダーとなる重合体に架橋構造を付与することは、重合体が分散溶媒や電解液に溶解しにくくなる点で好ましい。かかる架橋性単量体としては、ジビニルベンゼン等のジビニル化合物;ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸エチレングリコール等
の多官能ジメタクリル酸エステル;トリメタクリル酸トリメチロールプロパン等の多官能トリメタクリル酸エステル;ジアクリル酸ポリエチレングリコール、ジアクリル酸1,3−ブチレングリコール等の多官能ジアクリル酸エステル;トリアクリル酸トリメチロールプロパン等の多官能トリアクリル酸エステル等が挙げられる。架橋性単量体は、重合性単量体全体に対して、通常0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜15質量%の割合で使用される。
【0105】
さらに上述した乳化重合や懸濁重合等によって得られる重合体粒子の液状媒体分散液には、アンモニア、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等)水酸化物、無機アンモニウム化合物(塩化アンモニウム等)、有機アミン化合物(エタノールアミン、ジエチルアミン等)等の水溶液を加えてpH調整することができる。なかでも、アンモニアまたはアルカリ金属水酸化物を用いて、pHを5〜13、好ましくは6〜12の範囲になるように調整すると、集電体と活物質との結着性を向上できる点で好ましい。
【0106】
以上のように、本実施の形態に係るバインダー組成物は、乳化重合や懸濁重合等によって得られた重合体粒子の液状媒体分散液をそのままバインダー組成物として用いることができるが、これに限定されない。たとえば分散媒体が水である場合、水を非水系液状媒体に分散媒置換して、非水系液状媒体に重合体粒子を分散させた組成物とすることもできる。バインダーである重合体粒子が粉末粒子の場合には、これを分散媒に分散させて本実施の形態に係るバインダー組成物を調製してもよい。また、分散媒置換する場合は、水性分散液に非水系液状媒体を加えた後、分散媒中の水分を蒸留、限外濾過等により除去する。残存水分が5質量%以下、好ましくは0.5質量%以下になるまで除去して分散媒に用いると、優れた初期電池容量が得られる。なお、本実施の形態に係るバインダー組成物中の全重合体粒子の濃度、すなわち固形分濃度は、通常0.5〜80質量%、好ましくは1〜70質量%、より好ましくは1〜60質量%である。
【0107】
4.蓄電デバイス
本実施の形態に係る蓄電デバイスは、前述した蓄電デバイス用電極を備えたものであり、さらに電解液を含み、セパレータ等の部品を用いて、常法に従って製造されるものである。具体的な製造方法としては、たとえば、負極と正極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型などいずれであってもよい。
【0108】
電解液は、通常の蓄電デバイスに用いられるものであれば、液状でもゲル状でもよく、負極活物質、正極活物質の種類に応じて電池としての機能を発揮するものを選択すればよい。
【0109】
電解質としては、リチウムイオン二次電池では、従来から公知のリチウム塩がいずれも使用でき、LiClO、LiBF、LiPF、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、LiCFSO、LiCHSO、LiCSO、Li(CFSON、低級脂肪酸カルボン酸リチウム等が挙げられる。また、ニッケル水素二次電池では、たとえば従来公知の濃度が5モル/リットル以上の水酸化カリウム水溶液を使用することができる。
【0110】
この電解質を溶解させる溶媒は、特に制限されるものではない。具体例としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチル
ラクトン等のラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類が挙げられ、これらは単独もしくは二種以上の混合溶媒として使用することができる。
【0111】
5.実施例
以下、本発明を実施例に基いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0112】
5.1.重合体粒子分散液の合成および調製
5.1.1.重合体粒子分散液Aの合成
反応器に水100部と、ブタジエン42部、スチレン30部、アクリロニトリル8部、メタクリル酸メチル18部およびイタコン酸2部からなる単量体100部と、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン1部と、界面活性剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム1.5部と、開始剤として過硫酸カリウム0.4部と、炭酸ナトリウム0.3部とを仕込み、攪拌しながら70℃で8時間重合し、重合転化率96%で反応を終了した。続いて、この反応器に水10部と、ブタジエン14部と、スチレン15部およびメタクリル酸メチル6部からなる単量体類と、界面活性剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.1部と、開始剤として過硫酸カリウム0.2部と、炭酸ナトリウム0.1部とを添加して80℃にて8時間重合反応を継続した後、反応を終了させた。このときの重合転化率は98%であった。得られた重合体粒子分散液から未反応単量体を除去し、濃縮後10%水酸化ナトリウム水溶液および水を添加して、重合体粒子分散液の固形分濃度およびpHを調整し、固形分濃度41%、pH7.2の重合体粒子分散液Aを得た。
【0113】
5.1.2.重合体粒子分散液B〜Fの合成
一般に乳化重合法では、界面活性剤の使用量を増大させると重合体粒子の粒子径を小さくすることができ、逆に界面活性剤の使用量を減少させると重合体粒子の粒子径を大きくすることができる。この性質を利用して、上記「5.1.1.重合体粒子分散液Aの合成」において、界面活性剤の使用量を適宜増減させることによって、重合体粒子分散液B〜Fを調製した。
【0114】
5.1.3.重合体粒子分散液の最頻粒径の測定
得られた重合体粒子分散液A〜Fのそれぞれについて、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製、形式「FPAR−1000」)を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布から最頻粒径を求めた。なお、データは体積基準で計算した。その結果は、以下のようになった。ここで便宜上、最頻粒径が0.01μm以上0.25μm未満である重合体粒子分散液を「液状媒体分散液(I)」と、最頻粒径が0.25μm以上0.5μm以下である重合体粒子分散液を「液状媒体分散液(II)」と分類することにする(表1において同じ)。
<液状媒体分散液(I)>
・重合体粒子分散液A;最頻粒径0.15μm
・重合体粒子分散液E;最頻粒径0.20μm
・重合体粒子分散液F;最頻粒径0.08μm
<液状媒体分散液(II)>
・重合体粒子分散液B;最頻粒径0.37μm
・重合体粒子分散液C;最頻粒径0.40μm
・重合体粒子分散液D;最頻粒径0.26μm
【0115】
5.1.4.電極用バインダー組成物P1〜P9の調製
上記のようにして得られた重合体粒子分散液Aと重合体粒子分散液Bとを固形分質量比10:90の割合で混合して電極用バインダー組成物P1を得た。得られた電極用バインダー組成物P1について、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製、形式「FPAR−1000」)を用いて粒度分布を測定したところ、電極用バインダー組成物P1の平均粒子径(Da)は0.35μmであった。また、電極用バインダー組成物P1は、粒径が0.01μm以上0.25μm未満の重合体粒子を11容積%含有し、粒径が0.25μm以上0.5μm以下の重合体粒子を89容積%含有することが確認された。なお、データは体積基準で計算した。
【0116】
なお、表1に示す組成とした以外は、上記の電極用バインダー組成物P1と同様にして電極用バインダー組成物P2〜P9を作製し、それらの粒度分布を測定した。その測定結果を表1に併せて示す。
【0117】
【表1】

【0118】
5.2.電極用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に増粘剤(商品名「CMC2200」、ダイセル化学工業株式会社製
)1部(固形分換算)、負極活物質としてグラファイト100部(固形分換算)、水68部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行った。その後、上記の電極用バインダー組成物P1を1部(固形分換算)加え、さらに1時間攪拌しペーストを得た。得られたペーストに水を投入し、固形分を50%に調製した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに真空下において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより電極用スラリーS1を調製した。
【0119】
なお、表2において(A)重合体粒子の平均粒子径(Da)は、得られた電極用スラリーの一部を遠心分離して、その上澄み液を動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製、形式「FPAR−1000」)を用いて粒度分布を測定することにより求めた値である。
【0120】
また、表2において(B)活物質粒子として使用したグラファイトは、市販品のグラファイト(日立化成工業株式会社製、製品名「MAGD」)を適時めのう乳鉢で磨り潰し、粉砕時間を変化させて微粒化を行うことにより、表2に記載の平均粒子径(Db)が異なるグラファイトをそれぞれ得た。なお、表2に記載の(B)活物質粒子として使用したグラファイトの平均粒子径(Db)は、得られた電極用スラリーを遠心分離してグラファイトを沈降させて上澄み液を除去し、その沈降物をレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、HORIBA LA−300シリーズ)で測定することにより求めた値である。
【0121】
また、表3において(B)活物質粒子として使用したグラファイト及びシリコンの活物質混合粒子は、特開2004−185810号公報に準じて作製した。
【0122】
すなわち、シリコンインゴットをめのう乳鉢で磨り潰し、粉砕処理して得られた平均粒径10ミクロンのシリコン粉末(99.6%)と、市販品のグラファイト(日立化成工業株式会社製、製品名「MAGD」)を表3に記載した質量比で混合し、媒体撹拌ミル装置にて窒素中3時間粉砕した。その後、室温まで冷却し、酸化防止被膜処理を行なわずに空気中に取り出し、グラファイト及びシリコンの活物質混合粒子を得た。適時、粉砕時間を変化させて微粒化を行うことにより、表3に記載の平均粒子径(Db)が異なるグラファイト及びシリコンの活物質混合粒子をそれぞれ得た。なお、表3に記載の(B)活物質粒子として使用したグラファイト及びシリコンの活物質混合粒子の平均粒子径(Db)は、得られた電極用スラリーを遠心分離してグラファイト及びシリコンの活物質混合粒子を沈降させて上澄み液を除去し、その沈降物をレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、HORIBA LA−300シリーズ)で測定することにより求めた値である。
【0123】
また、作製した電極用スラリーの曳糸性は、以下のように測定した。
【0124】
まず、容器の底辺に直径5.2mmの開口部が存在するザーンカップ(太佑機材株式会社製、ザーンビスコシティーカップNo.5)を準備する。このザーンカップの開口部を閉じた状態で、電極用スラリーを40g流し込み、再度開口部を開放するとスラリーが流れ出す。開放した瞬間の時間をTとし、目視で電極用スラリーが曳糸し続けるまでの時間Tを測定する。さらに、曳糸しなくなってからも測定を継続し、電極用スラリーが流れ出なくなるまでの時間Tを測定する。測定したT、T、Tを用いて、下記式(3)により曳糸性を求める。
曳糸性(%)=((T−T)/(T−T))×100 ・・・・・(3)
【0125】
表2または表3に示す組成とした以外は、電極用スラリーS1と同様にして電極用スラ
リーS2〜S19を作製した。作製した電極用スラリーの特性を表2に併せて示す。
【0126】
5.3.蓄電デバイス用電極およびリチウムイオン二次電池の作製
5.3.1.蓄電デバイス用電極(負極)の作製
銅箔よりなる集電体の表面に、上記で調製した電極用スラリーS1を、乾燥後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥処理した。その後、該膜の密度が1.30g/cmとなる条件でロールプレス機(テスター産業株式会社製、ギャップ間調整式ロールプレス機「SA−601」)によりプレス加工することにより、実施例1の蓄電デバイス用電極(負極)を得た。
【0127】
また、表2または表3に記載した電極用スラリーを用いて、表2または表3に記載の活物質層の密度となるようにロールプレス機の圧縮条件を変更したこと以外は、実施例1の蓄電デバイス用負極と同様にして実施例2〜12および比較例1〜7の蓄電デバイス用負極を得た。得られた蓄電デバイス用負極における活物質層の重合体分布係数および密度を表2に併せて示す。
【0128】
なお、得られた蓄電デバイス用負極における活物質層の重合体分布係数を以下のようにして算出した。まず、得られた蓄電デバイス用負極を二つに分割した。次いで、あらかじめ準備しておいた70mm×150mmのアルミ板に、両面テープ(株式会社ニチバン製、品番「NW−25」)を120mm、さらに同両面テープの上にカプトンテープ(株式会社テラオカ製、品番「650S」)を粘着面が上になるようにして貼り付けた固定用ステージを作製した。この固定用ステージの上に、得られた蓄電デバイス用負極を20mm×100mmの大きさに切り出した試験片の活物質層側を貼り付け、ローラーで圧着させた。この試験片が固定された固定ステージを水平面に載置し、試験片を上方向に固定用ステージとの角度が90度となるように一定速度で引き上げ、接着面から集電体を剥離させた。その後、集電体側に残存した活物質層の表面から深さ1.5μmおよび粘着テープ側に残存した活物質層表面から深さ1.5μmまでの活物質層を掻き取り、これを測定試料Aとした。一方、分割しておいたもう一つの電極から活物質層を全て掻き取り、これを測定試料Bとした。測定試料Aおよび測定試料Bのそれぞれについて、高周波誘導加熱方式パイロライザーを有する熱分解ガスクロマトグラフィにて分析し、各試料の単位重量当たりの重合体成分の含有量(質量%)を算出した。得られた値を下記式(1)に代入することにより、重合体分布係数を算出した。
重合体分布係数=(測定試料Aの重合体含有量:質量%)/(測定試料Bの重合体含有量:質量%) ・・・・・(1)
【0129】
また、集電体の質量A(g)、作製された蓄電デバイス用電極の質量B(g)、集電体上の形成された活物質層の面積C(cm)、厚さD(μm)を測定し、下記式(2)により活物質層の密度(g/cm)を算出した。
活物質層の密度(g/cm
=(B(g)−A(g))/(C(cm)×D(μm)×10−4) ・・・・・(2)
【0130】
5.3.2.対電極(蓄電デバイス用正極)の作製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に電極用バインダー(株式会社クレハ製、商品名「KFポリマー#1120」)4.0部(固形分換算)、導電助剤(電気化学工業株式会社製、商品名「デンカブラック50%プレス品」)3.0部、正極活物質として粒径5μmのLiCoO(ハヤシ化成株式会社製)100部(固形分換算)、N−メチルピロリドン(NMP)36部を投入し、60rpmで2時間攪拌を行った。得られたペーストにNMPを投入し、固形分を65%に調製した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」
)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに真空下において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、電極用スラリーを調製した。アルミ箔よりなる集電体の表面に、調製した電極用スラリーを、乾燥後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥処理した。その後、該膜の密度が3.0g/cmとなるようにロールプレス機(テスター産業株式会社製、ギャップ間調整式ロールプレス機「SA−601」)によりプレス加工することにより、対電極(蓄電デバイス用正極)を得た。
【0131】
5.3.3.リチウムイオン二次電池の組立て
露点が−80℃以下となるようAr置換されたグローブボックス内で、2極式コインセル(宝泉株式会社製、商品名「HSフラットセル」)に、上記で作製した蓄電デバイス用負極を直径15.95mmに打ち抜き成型したものを載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(セルガード株式会社製、商品名「セルガード#2400」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した。その後、上記で作製した対電極(蓄電デバイス用正極)を直径16.16mmに打ち抜き成型したものを載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することによりリチウムイオン二次電池を組み立てた。なお、使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1の溶媒に、LiPFを1モル/リットルの濃度で溶解した溶液である。
【0132】
5.4.評価方法
(1)塗布性(平滑性)の評価
上記で作製した蓄電デバイス用負極より幅12cm×長さ12cmの試験片を切り出し、2cm×2cm寸法の36マスを、膜厚計(ミツトヨ製、DIGIMATIC MICROMETER IP65)で測定し、その膜厚の平均値に対する標準偏差の割合(平滑性)を算出した。
【0133】
なお、活物質層の標準偏差の値が2%を超える場合、電極用スラリーが均一に塗布されていないことを意味する。かかる場合、電極用スラリーを大面積に塗布して作製した電極では、集電体の表面に形成される活物質層の平滑性が損なわれる。そのため、電気的特性が電極面で一様とならず、特に大量生産した場合に安定した電気的特性を発現させることができない。一方、活物質層の標準偏差の値が2%以下である場合、電極用スラリーが均一に塗布されていることを意味する。かかる場合、電極用スラリーを大面積に塗布して作製した電極では、集電体の表面に形成される活物質層の平滑性が良好となる。そのため、電気的特性が電極面で一様となり、特に大量生産した場合に安定した電気的特性を発現させることができる。このような理由から、電極用スラリーの塗布性の評価基準を以下のように定めた。その結果を表2に併せて示す。
○:平滑性が2%以下であり良好。
×:平滑性が2%を超えて不良。
【0134】
(2)粉落ち性の評価
上記で作製した蓄電デバイス用負極より10cm×5cmのサンプルを5枚切り出し、それらを重ね合わせた。実験台の上に市販の上質紙を置き、その上に100メッシュのステンレスメッシュを置いた。そのメッシュ上で5枚重ねた電極試験片をハサミで長辺方向より1cm間隔で9回切断し、その際にステンレスメッシュを通過し上質紙上にこぼれ落ちた活物質粉末の状態を観察した。その観察結果によって以下のように評価した。その結果を表2に併せて示す。
○:全く粉落ちがない、あるいはごくわずかに粉落ちが観察される。良好。
×:多量の粉落ちが観察される。不良。
【0135】
(3)結着性の評価
上記で作製した蓄電デバイス用負極より10cm四方のサンプル5枚を切り出し、120℃の熱プレスで5分間圧縮し成型した。その蓄電デバイス用負極表面にナイフを用いて、活物質層から集電体に達する深さまでの切り込みを2mm間隔で縦横それぞれ6本入れて碁盤目状に25マスの切り込みを入れた。この切り込みを入れた部分の表面に粘着テープを貼り付けて直ちに引き剥がし、活物質層が銅箔より剥離したマス目の数をカウントした。1サンプル(片面)について1回実施して、計5サンプルの合計125マスの内、剥離したマス目の個数をカウントし、この個数により次のように評価した。その結果を表2に併せて示す。
○:脱落したマスが0個〜20個で良好。
×:脱落したマスが21個以上で不良。
【0136】
(4)充放電レート特性の評価
上記で作製したリチウムイオン二次電池を定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)として0.2Cでの充電容量を測定した。その後、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.7Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、0.2Cでの放電容量を測定した。0.2Cでの放電容量に対する3Cでの放電容量の割合(%)を計算し、放電レート特性(%)を算出した。
【0137】
次に、同じセルを定電流(3C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)として3Cでの充電容量を測定した。その後、定電流(3C)にて放電を開始し、電圧が2.7Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、3Cでの放電容量を測定した。0.2Cでの充電容量に対する3Cでの充電容量の割合(%)を計算し、充電レート特性(%)を算出した。
○:放電レート特性および充電レート特性が80%以上で良好。
×:放電レート特性または充電レート特性が80%未満で不良。
【0138】
【表2】

【0139】
【表3】

【0140】
5.5.評価結果
表2に示すように、実施例1〜12の蓄電デバイス用負極によれば、集電体および活物質層間の結着性が良好であり、粉落ち性に優れていた。また、実施例1〜12の蓄電デバイス用電極を備えたリチウムイオン二次電池は、電気的特性の一つである充放電レート特性が良好であった。
【0141】
一方、比較例1、4、5、6の蓄電デバイス用負極では、重合体分布係数がいずれも0.6未満であるため、前述した理由により活物質層表面の平滑性が不良となった。また、比較例1、4、5、6の蓄電デバイス用負極は、いずれも重合体分布係数が0.6未満であるため、集電体および活物質層間の結着性が不良となった。これらの蓄電デバイス用負極を備えるリチウムイオン二次電池では、充放電特性が不良となった。
【0142】
比較例2の蓄電デバイス用負極では、重合体分布係数が0.6〜1.0の範囲にあるものの、活物質層の密度が1.3g/cm未満であるため、粉落ち性が不良となった。
【0143】
比較例3、7の蓄電デバイス用電極では、重合体分布係数が0.6〜1.0の範囲にあるものの、活物質層の密度が1.8g/cmを超えているため、集電体および活物質層間の結着性が不良となった。
【0144】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0145】
10…集電体、20…活物質層、100…蓄電デバイス用電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合体粒子と、(B)活物質粒子と、(C)水と、を含有し、
前記(A)重合体粒子の平均粒子径(Da)と前記(B)活物質粒子の平均粒子径(Db)との比(Da/Db)が20〜100の範囲にあり、かつ曳糸性が30〜80%の範囲にある、蓄電デバイス電極用スラリー。
【請求項2】
前記(B)活物質粒子としてシリコン系活物質を含有する、請求項1に記載の蓄電デバイス電極用スラリー。
【請求項3】
前記(A)重合体粒子が、0.01μm以上0.25μm未満の粒径区間に2〜60容積%および、0.25μm以上0.5μm以下の粒径区間に40〜98容積%存在する分布を有する、請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイス電極用スラリー。
【請求項4】
前記(B)活物質粒子の平均粒子径(Db)が1〜200μmである、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の蓄電デバイス電極用スラリー。
【請求項5】
集電体と、前記集電体の表面上に請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス電極用スラリーが塗布および乾燥されて形成された層と、を備える蓄電デバイス電極。
【請求項6】
請求項5に記載の蓄電デバイス電極を備える蓄電デバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2013−12491(P2013−12491A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−196893(P2012−196893)
【出願日】平成24年9月7日(2012.9.7)
【分割の表示】特願2012−523136(P2012−523136)の分割
【原出願日】平成24年2月7日(2012.2.7)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】