説明

蓄電デバイス

【課題】高いエネルギー密度と優れた充放電繰り返し特性とを有する蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】本発明の蓄電デバイスは、第1電極(正極20)、第2電極(負極21)及び非水電解質を備えている。第1電極は、キノン骨格を有する有機化合物を第1活物質として含む。第2電極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出しうる第2活物質を含み、第1電極と反対の極性を有する。非水電解質は、リチウムイオンと第1アニオンとの塩、及び有機カチオンと第1アニオン又は第2アニオンとの塩を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術の進歩に伴い、携帯電話、携帯型パーソナルコンピュータ、携帯情報端末(PDA、Personal Data Assistance)、携帯型ゲーム機などの携帯型電子機器が急速に普及している。それに伴い、携帯型電子機器の電源として、二次電池などの蓄電デバイスの需要が増大している。中でも、リチウムイオン二次電池は、高い起電力及びエネルギー密度を有し、小型化への対応が比較的容易なことから、携帯型電子機器の電源として広範囲に用いられている。
【0003】
携帯型電子機器の汎用化のため、携帯型電子機器に対しては、軽量化、小型化、多機能化などの性能向上が要求されている。携帯型電子機器の電源として用いられる電池に対しては、例えば、高エネルギー密度化が要望されている。電池の高エネルギー密度化には、エネルギー密度の高い電極活物質を用いる手法が有力である。従って、正極活物質及び負極活物質の両方に対して、エネルギー密度の高い新規な材料の研究開発が積極的に行われている。
【0004】
例えば、酸化還元反応を可逆的に起こすことが可能な有機化合物を電極活物質に利用することが検討されている。有機化合物の比重は1g/cm3程度であり、従来から電極活物質として用いられているコバルト酸リチウムなどの無機酸化物よりも軽量である。従って、電極活物質として有機化合物を用いることにより、重量エネルギー密度の高い蓄電デバイスが得られる。また、電極活物質として重金属を含まない有機化合物を使用すれば、希少金属資源の枯渇、資源価格の変動、重金属の漏出による環境汚染などのリスクを軽減することも可能である。
【0005】
具体的な試みとしては、非水電解質を含むコイン型二次電池において、9,10−フェナントレンキノンを正極活物質として用い、対イオンとしてリチウムイオンを用いることが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1の電池において、正極は、9,10−フェナントレンキノンとカーボンなどの導電剤とを含んでいる。正極の対極は金属リチウムからなる。電解質は、1mol/リットルの濃度で過塩素酸リチウムが溶解したプロピレンカーボネート溶液からなる。
【0006】
しかし、9,10−フェナントレンキノンは電解質(液状電解質)に溶解しやすい。その溶解性は、電解質の成分及び量、並びに電池の構成に大きく依存する。特許文献1には、正極活物質の電解質への溶解については記載されていないが、充放電サイクルに伴って放電容量が低下していることから、正極活物質の電解質への溶解は十分に抑制されていないと考えられる。9,10−フェナントレンキノンを電極活物質として実用化するためには、電解質への溶解を抑制することが不可欠である。
【0007】
フェナントレンキノン化合物の電解質への溶解を抑制する目的で、フェナントレンキノン骨格を主鎖上に有する高分子化合物を電極活物質に用いることが提案されている(特許文献2及び3参照)。特許文献2は、2,7位で9,10−フェナントレンキノンを重合させた高分子化合物を開示している。特許文献3は、フェニル基、チオフェン基などの芳香族化合物がリンカーとして9,10−フェナントレンキノンの2,7位又は3,6位と結合した高分子化合物を開示している。特許文献2及び3に開示された高分子化合物を電極活物質に用いることで、9,10−フェナントレンキノンの電気化学特性を損なうことなく電解質への溶解を抑制できる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭56−86466号公報
【特許文献2】特開2008−222559号公報
【特許文献3】国際公開第2009/118989号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、フェナントレンキノン化合物などのキノン化合物を電極活物質として使用した蓄電デバイスの実用化には、更なる繰り返し特性の改善が必要である。本発明の目的は、キノン骨格を有する有機化合物を電極活物質として用い、高いエネルギー密度と優れた充放電繰り返し特性とを有する蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、キノン化合物を活物質として用いた蓄電デバイスの研究過程で、キノン化合物の充放電反応機構について鋭意検討を行った。その結果、充放電に伴うキノン化合物の容量劣化メカニズムを解明した。具体的には、キノン骨格を含む分子構造と電解質の組成との組み合わせが蓄電デバイスの繰り返し特性に深く関係していることを見出した。こうした知見に基づいて、本発明者らは、以下の本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
キノン骨格を有する有機化合物を第1活物質として含む第1電極と、
リチウムイオンを吸蔵及び放出しうる第2活物質を含み、前記第1電極と反対の極性を有する第2電極と、
リチウムイオンと第1アニオンとの塩、及び有機カチオンと前記第1アニオン又は第2アニオンとの塩を含む非水電解質と、
を備えた、蓄電デバイスを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、キノン骨格を有する有機化合物を第1活物質として第1電極で使用し、対極としてリチウムイオンを吸蔵及び放出しうる第2活物質を第2電極で使用する。これにより、高いエネルギー密度を達成できる。また、リチウムイオンとアニオンとの塩、及び有機カチオンとアニオンとの塩を含む非水電解質を用いることにより、優れた繰り返し特性を達成できる。さらに、キノン骨格を有する有機化合物を第1活物質として使用することにより、重金属の使用量を減らすことができる又は重金属を使用せずに済む。これにより、希少金属資源の枯渇による資源価格の変動リスク及び重金属の漏洩などの環境リスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による蓄電デバイスの一実施形態であるコイン型電池を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、オルトキノン化合物を電極活物質として用いた場合の反応機構について、下記式(1A)及び(1B)に基づいて説明する。オルトキノン化合物とリチウムイオンとの酸化還元反応は、下記式(1A)及び(1B)に示す2段階反応である。
【0015】
【化1】

【0016】
オルトキノン化合物では、2つのケトン基が互いに隣接して存在し、パラキノン化合物に比べてケトン基の有するマイナスの電荷分布がやや非局在化する。このため、還元反応時に、ケトン基とリチウムイオンとで形成される結合の強さは、パラキノン化合物の共有結合的な非常に強固な結合の場合と比べて小さい。局在化した電荷分布を有するパラキノン化合物では、常に1つのケトン基と1つのリチウムイオンとが1対1で結合する。これに対して、オルトキノン化合物の場合、式(1A)に示す1段階目(1電子)の反応において、2つのケトン基と1つのリチウムイオンとが結合し、式(1B)に示す2段階目(2電子)の反応において、2つのケトン基にリチウムイオンが1つずつ結合する。
【0017】
すなわち、ケトン基とリチウムイオンとの結合は、マイナス電荷の局在化したケトン基とリチウムイオンとの1対1の結合ではなく、マイナス電荷の非局在化したケトン基2個と2つのリチウムイオンとの2対2の結合となる。その結果、ケトン基とリチウムイオンとの結合力が緩和される。このように、オルトキノン化合物では、パラキノン化合物と比較して、リチウムイオンとケトン基との結合力が緩和され、それにより反応可逆性が向上する。
【0018】
オルトキノン化合物を電極活物質に用いた二次電池の充放電試験を行うと、数サイクル程度では顕著な繰り返し特性の劣化は観察されない。しかし、電解液の組成、蓄電デバイスの構成などによっては、50サイクル程度以上の充放電反応を行なうと、繰り返し特性が劣化する場合がある。その劣化メカニズムを解析したところ、特に、2段階目の反応(1B)において充放電反応の可逆性が低下し、その結果、繰り返し特性が劣化する場合があることが判明した。
【0019】
本発明者らは、繰り返し特性の劣化メカニズムを以下のように推察している。上述したように、1段階目の反応(1A)では、負の極性を有するケトン基と正の電荷を有するリチウムイオンとが2対1で結合を形成する。これに対し、2段階目の反応(1B)では、負の極性を有するケトン基と正の電荷を有するリチウムイオンとが1対1で結合を形成し、1段階目の反応(1A)と比較して強いクーロン力で結合を形成すると考えられる。充放電を行うと、ケトン部位へのリチウムイオンの配位及びケトン部位からのリチウムイオンの脱離が可逆的に繰り返される。しかし、電解液の組成、蓄電デバイスの構成などによっては、充放電を繰り返すことによって徐々にリチウムイオンがケトン部位から外れにくくなる場合がある。その結果、ケトン部位に配位したリチウムイオンが蓄積し、充放電容量が低下する。この現象が顕著に起こる理由は、リチウムイオンのイオン半径が小さいこと、リチウムイオンの表面電荷密度が高いことによるもの推察される。すなわち、負の極性を有するケトン部位と正の電荷を有するカチオン(リチウムイオン)とのクーロン力が比較的強く形成されるためであると推察される。
【0020】
この結果から、ケトン部位とカチオンとのクーロン力を効果的に弱めることができる電解質を使用すれば、繰り返し特性の優れた蓄電デバイスを得ることができると考えられる。
【0021】
具体的な方法としては、リチウムイオンよりもイオン半径が大きく、リチウムイオンよりも表面電荷密度の小さい有機カチオンをリチウムイオンと併用することが挙げられる。リチウムイオンと有機カチオンとが電解質中に存在し、ケトン部位において2電子反応が起こるとき、ケトン部位へのリチウムイオンの配位及びケトン部位からのリチウムイオンの脱離に有機カチオンが関与する。すなわち、有機カチオンが存在すると、2個のリチウムイオンが配位及び脱離する場合と比較して、反応の可逆性が格段に向上する。
【0022】
上記効果を得るために、リチウムイオンと有機カチオンとの少なくとも2種類のカチオンが電解質に含まれていることが必要である。リチウムイオンと有機カチオンとの少なくとも2種類のカチオンが電解質に含まれていることによって、リチウムイオンを吸蔵及び放出しうる材料を活物質として用いたリチウムイオン電池を構成することが可能となる。2種類のカチオンを使用することによって、繰り返し特性に優れ、高容量及び高電圧の蓄電デバイスを得ることができる。
【0023】
次に、本発明の蓄電デバイスに好適に使用できる電極活物質について説明する。
【0024】
ケトン部位とリチウムイオンとのクーロン力を弱めることによって反応の可逆性を向上させる効果は、オルトキノン化合物に限らず、パラキノン化合物においても得ることができる。従って、本発明の蓄電デバイスの電極活物質としてパラキノン化合物を使用することも可能である。ただし、パラキノン化合物では、2つのケトン基が離れた状態で存在する。そのため、パラキノン化合物における1段階目の反応の電位(リチウム基準)は2〜3Vと高いが、2段階目の反応の電位は、約1.0V程度と低い。そのため、パラキノン化合物を使用した蓄電デバイスにおいて、電圧が大きく低下することから、2段階目の反応を使用することは用途によっては困難である。また、パラキノン化合物では、2つのケトン基が離れて存在し、電荷分布が局在化する。そのため、パラキノン化合物の反応の可逆性は、オルトキノン化合物の反応の可逆性に比べて低い。従って、キノン骨格を含む電極活物質としては、オルトキノン化合物が好適である。すなわち、キノン骨格を有する有機化合物において、キノン骨格はオルトキノン骨格であることが好ましい。
【0025】
本明細書において、オルトキノン化合物とは、分子内で互いに隣り合う2つの炭素によって形成された2つのケトン基を含むキノン化合物を意味する。オルトキノン化合物として、下記式(2)で表される化合物を使用できる。
【0026】
【化2】

【0027】
式(2)中、R1〜R8は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子などのハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルケニル基、アリール基又はアラルキル基を示す。R1〜R8で示される各基は、置換基として、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子及び珪素原子からなる群から選択される少なくとも1つの原子を含む基を有していてもよい。
【0028】
式(2)で表される化合物は、9,10−フェナントレンキノン又はその誘導体である。R1〜R8が充放電反応に大きな影響を与えない限りにおいて、9,10−フェナントレンキノンの基本骨格(9,10−フェナントレンキノン骨格)を分子内に含む有機化合物を電極活物質として好適に使用できる。また、式(2)で表される化合物は、重合体を構成していてもよい。この場合、R1〜R8のうち、任意の1つ又は2つは隣接する分子、例えば、隣接するキノン骨格又は適切なリンカーと結合を形成することができる。このように、キノン骨格を有する有機化合物としては、9,10−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン誘導体及び9,10−フェナントレンキノン骨格を主鎖又は側鎖に有する高分子化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを好適に使用できる。
【0029】
また、互いに隣接した3つのケトン基を分子内に有するオルトキノン化合物として、下記式(3)で表される化合物(いわゆるトリケトン化合物)を使用できる。
【0030】
【化3】

【0031】
式(3)中、R11〜R14は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4の炭化水素基を示す。ハロゲン原子としては、分子量の観点でフッ素が好ましい。複素環基としては、例えば、異種原子として硫黄を含む5員又は6員の複素環化合物の残基が挙げられる。式(3)で表される化合物も重合体を構成しうる。この場合、R11〜R14のうち、任意の1つ又は2つは隣接する分子、例えば、隣接するキノン骨格又は適切なリンカーと結合を形成することができる。
【0032】
また、4つのケトン基を分子内に有するオルトキノン化合物として、下記式(4)で表される化合物を使用できる。
【0033】
【化4】

【0034】
式(4)中、R21〜R26は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4の炭化水素基を示す。ハロゲン原子としては、分子量の観点でフッ素が好ましい。複素環基としては、例えば、異種原子として硫黄を含む5員又は6員の複素環化合物の残基が挙げられる。式(4)で表される化合物も重合体を構成しうる。
【0035】
式(4)で表される化合物は、4,5,9,10−ピレンテトラオン又はその誘導体である。R21〜R26が充放電反応に大きな影響を与えない限りにおいて、4,5,9,10−ピレンテトラオンの基本骨格(4,5,9,10−ピレンテトラオン骨格)を分子内に含む有機化合物を電極活物質として好適に使用できる。また、式(4)で表される化合物は、重合体を構成していてもよい。この場合、R21〜R26のうち、任意の1つ又は2つは隣接する分子、例えば、隣接するキノン骨格又は適切なリンカーと結合を形成することができる。このように、キノン骨格を有する有機化合物としては、4,5,9,10−ピレンテトラオン、4,5,9,10−ピレンテトラオン誘導体及び4,5,9,10−ピレンテトラオン骨格を主鎖又は側鎖に有する高分子化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを好適に使用できる。
【0036】
電極活物質としてのキノン化合物は、高分子化合物であることが好ましい。これにより、電極活物質の電解質への溶解を抑制することができる。
【0037】
特に、キノン骨格を含む反応部位と酸化還元反応に寄与しないリンカーとによって形成された高分子化合物を電極活物質として好適に使用できる。リンカーは、反応部位と反応部位との間に配置されうる。リンカーの存在により、複数の反応部位同士の電子的な反発による反応電子数の低下が抑制される。これにより、蓄電デバイスのエネルギー密度を高めることができる。
【0038】
電極活物質として用いられる高分子化合物の分子量は、例えば、重量平均分子量で500〜100000程度である。重量平均分子量が1500程度以上であれば、電解質への溶解を抑制する効果を十分に得ることができる。
【0039】
繰り返し単位の中に2つのケトン基が含まれたオルトキノン化合物としては、下記式(5)〜(8)で表される高分子化合物が挙げられる。式(5)〜(8)において、n、mは、それぞれ、繰り返し単位の数を表す整数である。式(8)において、記号*は、ある繰り返し単位と他の繰り返し単位との結合を表す。
【0040】
【化5】

【0041】
【化6】

【0042】
【化7】

【0043】
【化8】

【0044】
式(5)〜(8)に示すように、キノン骨格は、高分子化合物の主鎖を構成していてもよいし、高分子化合物の側鎖を構成していてもよい。
【0045】
繰り返し単位の中に4つのケトン基が含まれたテトラケトン化合物としては、下記式(9)で表される高分子化合物が挙げられる。n、mは、それぞれ、繰り返し単位の数を表す整数である。式(9)において、記号*は、ある繰り返し単位と他の繰り返し単位との結合を表す。
【0046】
【化9】

【0047】
キノン骨格を含む繰り返し単位と、キノン骨格を含まない繰り返し単位(リンカー)とを有する高分子化合物は、ブロック共重合体、交互共重合体及びランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0048】
キノン骨格を含む繰り返し単位を有する電極活物質の合成は、例えば、次のようにして行われる。まず、反応部位となるキノン化合物のケトン部位に保護基を導入する。保護基としては、トリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、tert−ブチルジメチルシリル(TBS又はTBDMS)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、tert−ブチルジフェニルシリル(TBDPS)などが挙げられる。さらに、保護基を導入した後のキノン化合物にボロン酸基を導入する。詳細には、リンカーと結合させる部位にボロン酸基を導入する。
【0049】
一方、リンカーとなる化合物にもヨウ素などのハロゲンを導入する。詳細には、キノン化合物と結合させる部位にハロゲンを導入する。そして、キノン化合物とリンカーとなる化合物とをパラジウム触媒の存在下でカップリングさせる。その後、保護基を脱離させる。これにより、キノン骨格を含む繰り返し単位を有する電極活物質が得られる。
【0050】
また、キノン骨格を含む繰り返し単位を有する電極活物質を合成する別の方法もある。まず、リンカーとなる化合物のパラ位をヨウ素で置換してヨウ化化合物を得る。次に、反応部位となるキノン化合物の一部をボロン酸基などで置換して有機ホウ素化合物を得る。ボロン酸基を有する有機ホウ素化合物は、反応部位となるキノン化合物であって、置換基としてヨウ素を有するキノン化合物にtert−ブチルリチウム、2−イソプロピル−4,4,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキソボランなどを反応させることにより得られる。
【0051】
さらに、ヨウ化化合物と有機ホウ素化合物とをクロスカップリングさせる。これにより、キノン骨格を含む繰り返し単位を有する電極活物質が得られる。クロスカップリングは、例えば、鈴木−宮浦クロスカップリングに従って、パラジウム触媒の存在下で実施される。
【0052】
合成工程数が少ないこと、合成が容易であること、合成物として高純度の化合物が得られることを考慮すれば、電極活物質を合成する方法としては後者の方法が望ましい。
【0053】
なお、合成反応は、アルゴン雰囲気などの不活性雰囲気又は非酸化性雰囲気中にて行われる。また、各工程で得られた目的物に対し、ろ過、遠心分離、抽出、クロマトグラフィー、濃縮、再結晶、洗浄などの一般的な単離操作又は精製操作を行うことにより、最終的に得られる反応混合物中から電極活物質を容易に単離できる。
【0054】
また、合成法によっては繰り返し数nが互いに異なる複数の重合体の混合物が得られることがある。このような混合物については、各繰り返し数の重合体の含有割合に応じて平均繰り返し数、すなわち、平均重合度が求められる。平均繰り返し数は、従来から知られている重合体の混合物と同様に、整数ではなく、小数になることがある。
【0055】
次に、本発明の蓄電デバイスの構造の一例を説明する。図1は、蓄電デバイスの一実施形態であるコイン型電池を示す模式的な断面図である。
【0056】
図1に示すように、コイン型電池10は、正極20(第1電極又は第2電極)、負極21(第2電極又は第1電極)、正極20と負極21との間に配置されたセパレータ14、及び非水電解質(典型的には、液状の非水電解質)を含む。電池10は、さらに、ケース11、封口板15及びガスケット18を備えている。正極20、負極21及びセパレータ14によって構成された電極群は、ケース11の中に収められている。ガスケット18及び封口板15でケース11が閉じられている。
【0057】
正極20及び負極21の一方に電極活物質としてのキノン化合物が含まれている。キノン化合物を正極20及び負極21の一方に用いる場合、他方には、蓄電デバイスの電極活物質として従来から使用されている材料を使用できる。
【0058】
正極20は、正極集電体12及び正極集電体12の上に形成された正極活物質層13とで構成されている。正極活物質層13はセパレータ14に接している。
【0059】
正極集電体12としては、アルミニウム、ステンレス鋼、アルミニウム合金などの金属材料で作られた多孔質又は無孔のシート又はフィルムを使用できる。シート又はフィルムとして、金属箔、メッシュなどが用いられる。抵抗値の低減、触媒効果の付与、正極活物質層13と正極集電体12とを化学的又は物理的に結合させることによる正極活物質層13と正極集電体12との結合強化のため、正極集電体12の表面にカーボンなどの炭素材料を塗布してもよい。
【0060】
正極活物質層13は、正極集電体12の少なくとも一方の表面に設けられている。正極活物質層13は、正極活物質を含み、必要に応じて、電子伝導補助剤、イオン伝導補助剤、結着剤などを含んでいてもよい。
【0061】
正極活物質層13は、正極集電体12の表面に正極合剤スラリーを塗布し、その後、塗膜を乾燥及び圧延することによって形成されうる。正極合剤スラリーは、正極活物質を含み、必要に応じて電子伝導補助剤、イオン伝導補助剤、結着剤、増粘剤などを有機溶媒に溶解又は分散させることにより調製できる。
【0062】
正極活物質(第1活物質)としてキノン化合物を用いる場合、負極活物質(第2活物質)には、例えば、リチウムイオンを吸蔵及び放出しうる材料が用いられる。リチウムイオンを吸蔵及び放出しうる材料としては、炭素、黒鉛化炭素(グラファイト)、非晶質炭素などの炭素材料;リチウム金属;リチウム含有複合窒化物、リチウム含有チタン酸化物などのリチウム化合物;Si;Si酸化物、Si合金などのSi化合物;Sn;Sn酸化物、Sn合金などのSn化合物などが挙げられる。負極活物質は、これらの材料の混合物であってもよい。
【0063】
電子伝導補助剤及びイオン伝導補助剤は、電極抵抗を低減するために用いられる。電子伝導補助剤としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラックなどの炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子化合物が挙げられる。イオン伝導補助剤としては、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸メチルなどのゲル電解質、ポリエチレンオキシドなどの固体電解質が挙げられる。
【0064】
結着剤は、例えば、電極を構成する材料の結着性を向上するために用いられる。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミドなどが挙げられる。
【0065】
負極21は、負極集電体17及び負極集電体17の上に形成された負極活物質層16で構成されている。負極活物質層16はセパレータ14に接している。
【0066】
負極集電体17としては、正極集電体12と同じ材料に加えて、銅、ニッケル、銅合金、ニッケル合金などの金属材料で作られた多孔質又は無孔のシート又はフィルムを使用できる。正極20と同じように、抵抗値の低減、触媒効果の付与、負極活物質層16と負極集電体17との結合強化のため、負極集電体17の表面に炭素材料を塗布してもよい。
【0067】
負極活物質層16は、負極集電体17の少なくとも一方の面に設けられている。負極活物質層16は、負極活物質を含み、必要に応じて、電子伝導補助剤、イオン伝導補助剤、結着剤などを含んでいてもよい。
【0068】
キノン化合物を負極活物質として用いる場合、正極活物質には、例えば、遷移金属酸化物、リチウム含有金属酸化物、遷移金属のケイ酸塩、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)に代表される遷移金属のリン酸塩などが用いられる。遷移金属酸化物としては、コバルトの酸化物、ニッケルの酸化物、マンガンの酸化物、五酸化バナジウム(V25)に代表されるバナジウムの酸化物、これらの金属を含む複合酸化物などが挙げられる。リチウム含有金属酸化物としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24などのリチウムと遷移金属とを含む複合酸化物が挙げられる。負極活物質層16の電子伝導補助剤、イオン伝導補助剤及び結着剤としては、正極活物質層13に含まれたものと同じ材料を使用できる。
【0069】
セパレータ14には、例えば、所定のイオン透過度、機械的強度、及び絶縁性を有する微多孔性のシート又はフィルムが用いられる。織布又は不織布をセパレータ14として用いることもできる。セパレータ14には、各種樹脂材料が用いられるが、耐久性、シャットダウン機能、及び電池10の安全性の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。なお、シャットダウン機能とは、電池の発熱量が大幅に増大した際に貫通孔が閉塞し、それによりイオンの透過が抑制され、電池反応を遮断する機能である。
【0070】
非水電解質は、正極20、負極21及びセパレータ14に含浸されている。非水電解質として、リチウムイオンと第1アニオンとの塩、及び有機カチオンと第1アニオン又は第2アニオンとの塩を含むものを使用できる。すなわち、電池10の非水電解質として、2種類の塩が使用されている。
【0071】
リチウムイオンと第1アニオンとの塩(リチウム塩)としては、6フッ化リン酸リチウム、4フッ化ホウ酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウムビス(パーフルオロエチレンスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホン酸、及びリチウムビスオキサレートボラートからなる群より選ばれる少なくとも1つを使用できる。中でも、リチウム塩の解離度を高めるために、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、及びリチウムビス(パーフルオロエチレンスルホニル)イミドからなる群より選ばれる少なくとも1つを好適に使用できる。
【0072】
有機カチオンと第2アニオンとの塩を以下に列挙する。有機カチオンとしては、鎖状又は環状の4級アンモニウムカチオンを好適に用いることができる。鎖状の4級アンモニウム塩としては、トリメチルブチルアンモニウムカチオン、トリメチルプロピルアンモニウムカチオン、トリエチルブチルアンモニウムカチオン、トリエチルプロピルアンモニウムカチオンなどが好適に用いられる。環状の4級アンモニウムカチオンとしては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムカチオンに代表されるイミダゾリウム系カチオン、1−メチル−1−プロピルピペリジニウムに代表されるピペリジニウム系カチオン、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムに代表されるピロリジニウム系カチオンが好適に用いられる。
【0073】
第2アニオンとしては、6フッ化リン酸イオン、4フッ化ホウ酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビスオキサレートボラートアニオン、イミド系アニオンなどが用いられる。イミド系アニオンとしては、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、ビス(パーフルオロエチレンスルホニル)イミドアニオンなどが挙げられる。中でも、有機カチオンと第2アニオンとの塩の解離度を高めるために、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、及びビス(パーフルオロエチレンスルホニル)イミドアニオンからなる群より選ばれる少なくとも1つが好適に用いられる。
【0074】
リチウム塩におけるアニオン(第1アニオン)は、有機カチオンとアニオン(第1アニオン又は第2アニオン)との塩におけるアニオンと同一であってもよいし、異なっていてもよい。すなわち、非水電解質に2種以上のアニオンが含まれていてもよい。リチウム塩と、有機カチオンとアニオンとの塩との相溶性の観点から、リチウム塩に含まれたアニオンと、有機カチオンとアニオンとの塩に含まれたアニオンとは同一であることが好ましい。なぜなら、異なるアニオンを有する塩同士では、その組み合わせによっては相溶性が低い場合がある、すなわち、それらの塩を溶媒に高濃度で溶解することが難しい場合があるためである。
【0075】
非水電解質におけるリチウムイオンの濃度と有機カチオンの濃度との比率は特に限定されない。例えば、1molの有機カチオンに対し、0.1〜5molの範囲の濃度でリチウムイオンが非水電解質に含まれていてもよい。好ましくは、1molの有機カチオンに対し、0.2〜0.5molの範囲でリチウムイオンが非水電解質に含まれていてもよい。なお、ここでいうイオン濃度は、電池の組立時の値である。すなわち、キノン化合物を正極活物質として用いた場合には、充電状態での値である。一方、キノン化合物を負極活物質として用いた場合には、放電状態での値である。電池の組立後、充放電により各イオンの濃度は変化することが推察される。キノン化合物を正極活物質として用いた場合、各イオンの濃度は、充電状態で電池の組立時と同じ状態に戻る。キノン化合物を負極活物質として用いた場合、各イオンの濃度は、放電状態で電池の組立時と同じ状態に戻る。
【0076】
非水電解質は、2種類の塩の他に溶媒を含んでいてもよい。ただし、溶媒を用いなくとも非水電解質を構成することができる。その場合、有機カチオンとアニオンとの塩が室温で液体状態であるイオン液体であることが望ましい。イオン液体は、溶液中に多量のイオンを溶解させることができる。また、イオン液体の耐熱温度及び引火点は非常に高いので、安全性に優れた電池を提供することができる。
【0077】
他方、非水電解質に溶媒が含まれている場合において、溶媒としては、リチウムイオン電池及び非水系電気二重層キャパシタに用いられる公知の有機溶媒を使用できる。具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリルなどが用いられる。これらの有機溶媒の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0078】
蓄電デバイスの他の例としては、キノン化合物を用いた電極と活性炭を含む対極とを備えたキャパシタが挙げられる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0080】
(実施例1)
正極活物質としてオルトキノン化合物を用い、負極活物質としてリチウム金属を用いたコイン型電池を以下の方法で作製した。
【0081】
(1)正極活物質の作製
下記式(10)に従い、3,6−ジブロモ−9,10−フェナントレンキノンとベンゼン−1,4−ジボロン酸とを鈴木−宮浦カップリング反応で反応させることにより、フェナントレンキノン重合体(物質名:ポリ[(9,10−フェナントレンキノン−3,6−ジイル)−co−1,4−フェニレン])を合成した。
【0082】
【化10】

【0083】
具体的には、まず、3,6−ジブロモ−9,10−フェナントレンキノン(549mg,1.5mmol)とベンゼン−1,4−ジボロン酸(249mg,1.5mmol)とをジオキサン8.0mlに溶解した。得られた溶液にPd2(dba)3・CHCl3(47mg,0.045mmol)、トリス(o−トリル)ホスフィン28mg(0.090mmol)、炭酸カリウム621mg(4.5mmol)及び水1.0mlを加えた。得られた溶液をアルゴン雰囲気下、80℃で終夜加熱した。反応終了後、室温に戻してから反応液を濾過し、得られた固体を水と酢酸エチルで洗浄し、さらにクロロホルムで洗浄した。真空乾燥後、403mg(収率95%)のフェナントレンキノン重合体がエンジ色の固体として得られた。得られた重合体の重量平均分子量は5700、数平均分子量は2800であった。重量平均分子量から、平均重合度nを算出すると、およそ20であった。赤外吸収分光分析を行い、以下の結果を得た。IR(solid):1669,1594,1395,1312,1295,1235cm-1
【0084】
(2)正極の作製
フェナントレンキノン重合体を用いて、正極を作製した。まず、フェナントレンキノン重合体60mgをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)(和光純薬工業社製)900mgに溶解させた。次に、導電助剤であるアセチレンブラック160mg、結着剤であるポリフッ化ビニリデン40mg、NMP1.1gを溶液に加え、混合ペーストを調製した。次に、混合ペーストを厚さ20μmの正極集電体としてのアルミニウム箔上に塗布した。塗膜を温度80℃で1時間乾燥し、約85μmの電極シートを作製した。この電極シートを直径13.5mmの円盤状に打ち抜き、正極を得た。
【0085】
(3)蓄電デバイスの作製
上記で作製した正極を用いて、図1に示す構造を有するコイン型電池を作製した。まず、正極集電体がケースの内面に接するように、円盤状の正極をケースの中に配置した。次に、正極の上にセパレータとしての多孔質ポリエチレンシートを配置した。次に、非水電解質をケースの中に注入した。非水電解質としては、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドをN,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに溶解させたものを用いた。非水電解質中のリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドの濃度は、1mol/Lとなるように調整した。非水電解質中の有機カチオンに対するリチウムイオンの比率はおよそ0.25であった。
【0086】
その後、封口板の内面に、負極集電体及び負極活物質層をこの順番で圧着させた。負極活物質層として、厚さ300μmのシート状の金属リチウムを用いた。負極集電体として、厚さ100μmのステンレス箔を用いた。電極の厚みを調整する目的で、必要に応じて、皿型のばねを用いた。負極活物質層がセパレータに接するように、正極が配置されたケースと負極が配置された封口板とをケースの周縁部にガスケットを装着した状態で重ね合わせ、プレス機にてケースをかしめた。このようにして、厚さ1.6mm及び直径20mmのコイン型電池を作製した。
【0087】
(比較例1)
非水電解質のみ実施例1と異なり、その他の構成は全て実施例1と同じコイン型電池を作製した。比較例1では、非水電解質として1mol/Lの濃度で6フッ化リン酸リチウムをプロピレンカーボネートに溶解させたものを用いた。
【0088】
(比較例2)
非水電解質のみ実施例1と異なり、その他の構成は全て実施例1と同じコイン型電池を作製した。比較例2では、非水電解質として1mol/Lの濃度でリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドをプロピレンカーボネートに溶解させたものを用いた。
【0089】
(実施例2)
下記式(11)に従い、2−アミノ−4,5,9,10−ピレンテトラオンとポリメタクリル酸クロリドとを反応させることにより、テトラケトン重合体(物質名:ポリ[N−(ピレン−4,5,9,10−テトラオン−2−イル)メタクリル酸アミド−co−メタクリル酸メチル])を合成した。
【0090】
【化11】

【0091】
具体的には、まず、2−アミノ−ピレン−4,5,9,10−テトラオン(150mg,0.5mmol)、ポリメタクリル酸クロリド(100mg)、4,4’−ジメチルアミノピリジン(6mg,0.05mmol)を乾燥ピリジン(5ml)に加え、60℃で12時間撹拌した後、乾燥メタノール(0.5ml)を加えてさらに50℃で10時間撹拌した。その後、反応液を室温まで冷却し、反応液をメタノール(200ml)に注ぎ、得られた固体をろ別し、メタノールで洗浄後、減圧乾燥を行った。得られた粉末を適量のN−メチルピロリドンに分散させ、一晩撹拌した。その後、エタノールを貧溶媒に用い、再沈殿を行った。その結果、ポリ[N−(ピレン−4,5,9,10−テトラオン−2−イル)メタクリル酸アミド−co−メタクリル酸メチル](150mg,収率70%)をオレンジ色固体として得た。H NMR分析、赤外分光分析および元素分析を行い、以下の結果を得た。なお、ピレンテトラオンの導入率は、NMR換算で50%であった。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) ・ 0.6-3.0 (br), 3.56 (bs, OMe), 7.3-8.7 (br, aromatic).
IR (solid): (cm-1) 1682, 1431, 1273, 1188.
元素分析:C 65.93, H 3.83, N 3.40
【0092】
テトラケトン重合体を電極活物質として用い、実施例1と同様の方法で正極及びそれを用いたコイン型電池を作製した。実施例1で使用した非水電解質を実施例2のコイン型電池の作製に使用した。
【0093】
(比較例3)
非水電解質のみ実施例2と異なり、その他の構成は全て実施例2と同じコイン型電池を作製した。比較例3では、非水電解質として、1mol/Lの濃度で6フッ化リン酸リチウムをプロピレンカーボネートに溶解させたものを用いた。
【0094】
(比較例4)
非水電解質のみ実施例2と異なり、その他の構成は全て実施例2と同じコイン型電池を作製した。比較例4では、非水電解質として、1mol/Lの濃度でリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドをプロピレンカーボネートに溶解させたものを用いた。
【0095】
[充放電試験]
実施例1〜2、比較例1〜2及び比較例3〜4のコイン型電池の充放電試験を以下の条件で行った。具体的には、コイン型電池の理論容量に対して、0.2Cレート(5時間率)となる電流値で充放電を行った。電圧の範囲は2.0V〜4.0Vに設定した。放電から先に開始し、充放電を50回繰り返した。充放電試験は、電池を45℃の恒温槽に入れて行った。放電と充電との間の休止時間及び充電と放電との間の休止時間は、それぞれ5分とした。コイン型電池の初回の放電容量から正極活物質1gあたりの放電容量(mAh/g)を算出した。初回の放電容量に対する50回目の放電容量の比率(容量維持率)を算出した。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1に示すように、実施例1、比較例1及び比較例2の電池は、いずれも、ほぼ同じ放電容量を示した。実施例1の電池は、比較例1及び比較例2の電池に比べて、高い容量維持率を示した。また、実施例2、比較例3及び比較例4の電池は、いずれも、ほぼ同じ放電容量を示した。実施例2の電池は、比較例3及び比較例4の電池に比べて、高い容量維持率を示した。
【0098】
比較例1と比較例2との相違点は、電解質のアニオンのみである。比較例1と比較例2が概ね同じ容量維持率を示していることから、アニオンの違いは繰り返し特性に影響を与えないと考えられる。他方、実施例1の電解質のアニオンは比較例2の電解質のアニオンは同一である。実施例1と比較例2との相違点は、電解質のカチオンのみである。この場合においては、繰り返し特性に顕著な違いが確認された。すなわち、実施例1の電池は、リチウムイオンと有機カチオン(4級アンモニウムイオン)との2種類のカチオンを含む。比較例2の電池は、リチウムイオンのみを含む。リチウムイオンと有機カチオンの2種類のカチオンを含んだ実施例1の電池は、優れた繰り返し特性を有していた。
【0099】
実施例1と実施例2との相違点は、正極活物質のみである。従って、実施例1、比較例1及び比較例2に関する上記の議論は、実施例2、比較例3及び比較例4にも適用されうる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の蓄電デバイスとしては、一次電池、二次電池、キャパシタ、電解コンデンサ、センサー、エレクトロクロミック素子などが挙げられる。
【0101】
本発明の蓄電デバイスは、輸送機器、電子機器などの電源;火力発電、風力発電、燃料電池発電などの発電設備と組み合わせて使用される電力平準化用の蓄電デバイス;一般家庭及び集合住宅用の非常用蓄電システム、深夜電力蓄電システムなどの電源;無停電電源などに好適に使用できる。
【0102】
本発明の蓄電デバイスは、特に、電子機器の電源として好適である。そのような電子機器には、携帯用電子機器、電動工具、掃除機、ロボットなどが含まれる。これらの中でも、携帯電話、モバイル機器、携帯情報端末(PDA)、ノート型パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ、ゲーム機に代表される携帯用電子機器の電源に本発明の蓄電デバイスを好適に使用できる。
【符号の説明】
【0103】
10 コイン型電池
11 ケース
12 正極集電体
13 正極活物質層
14 セパレータ
15 封口板
16 負極活物質層
17 負極集電体
18 ガスケット
20 正極
21 負極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノン骨格を有する有機化合物を第1活物質として含む第1電極と、
リチウムイオンを吸蔵及び放出しうる第2活物質を含み、前記第1電極と反対の極性を有する第2電極と、
リチウムイオンと第1アニオンとの塩、及び有機カチオンと前記第1アニオン又は第2アニオンとの塩を含む非水電解質と、
を備えた、蓄電デバイス。
【請求項2】
前記キノン骨格がオルトキノン骨格である、請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記有機カチオンが鎖状又は環状の4級アンモニウムカチオンである、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記有機カチオンと前記第1アニオン又は前記第2アニオンとの塩がイオン液体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
前記第1アニオンが、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、及びビス(パーフルオロエチレンスルホニル)イミドアニオンからなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項6】
前記第2アニオンが、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、及びビス(パーフルオロエチレンスルホニル)イミドアニオンからなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項7】
前記有機化合物が、9,10−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン誘導体及び9,10−フェナントレンキノン骨格を主鎖又は側鎖に有する高分子化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項8】
前記有機化合物が、4,5,9,10−ピレンテトラオン、4,5,9,10−ピレンテトラオン誘導体及び4,5,9,10−ピレンテトラオン骨格を主鎖又は側鎖に有する高分子化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2013−20760(P2013−20760A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151910(P2011−151910)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】