説明

蓄電池用極板分離供給方法及び機構

【課題】極板積層体から極板を分離し、別個に設けた水平ベルトコンベアに搬送供給するに当たり、極板の変形や損傷なく円滑、安定且つ高能率に分離供給することができる極板分離供給方法と極板分離供給機構を提供する。
【解決手段】(a)無端コンベア1aにより搬送される極板積層体2の前端に位置する極板Aを突き上げると共に突き上げられた該極板を、その左右の耳aを左右のすべり枠6に載架転移させて該極板積層体から分離すること、(b)該極板を、該すべり枠をすべり降りる過程で、その左右の耳を支受部材7に当接させる一方、該極板の下端を水平ベルトコンベア8に接触させること、(c)該水平ベルトコンベアの前方への移動に伴い該極板の下端を前方へ移動させ、該支受用部材を支点として該左右の耳を中心に該極板を寝かせる方向に回動傾斜させ乍ら、該すべり枠をすべり降ろし、該水平ベルトコンベア上に転移させ、次の工程へ搬送するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池用極板分離供給方法及び機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電池の製造工程において、正極板又は負極板の多数枚を無端コンベア上に斜めに立てかけた状態で搬送される極板積層体或いは搬送コンベアに夫々の極板の左右の耳を懸架搬送される極板積層体を、その前端に位置する極板を吸着装置により、該極板積層体の吸盤により吸着し、次いで、吸着された極板の吸着を解き別個に水平に設けた搬送コンベア上に落下させ、次の加工工程に送ることを順次行う極板分離供給方法及び機構は、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特公昭47-45768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし乍ら、上記従来の蓄電池用極板分離供給方法及び機構は、吸着装置を用いるので、製造設備コストが増大するばかりでなく、極板積層体から極板を一枚一枚分離するのに吸盤より吸着するため、肉薄の低剛性の極板はその吸着作用により変形したり、次いで、これを水平の搬送コンベア上へ落下させるので、損傷したり、所定の位置に正しく落下しないなどの不都合を伴い、安価で円滑、且つ安定した高能率の極板分離供給ができず、従って、また、蓄電池の製造における製造ロスを伴うなどの課題がある。
本発明は、かゝる課題を解消し、安価で、円滑且つ安定した高能率の極板分離供給方法及び機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、請求項1に記載の通り、(a)無端コンベアにより搬送される極板積層体の前端に位置する極板を突き上げると共に突き上げられた該極板を、その左右の耳を左右のすべり枠に載架転移させて該極板積層体から分離すること、(b)該極板を、該すべり枠をすべり降りる過程で、その左右の耳を支受部材に当接させる一方、該極板の下端を水平ベルトコンベアに接触させること、(c)該水平ベルトコンベアの前方への移動に伴い該極板の下端を前方へ移動させ、該支受用部材を支点として該左右の耳を中心に該極板を寝かせる方向に回動傾斜させ乍ら、該すべり枠をすべり降ろし、該水平ベルトコンベア上に転移させ、次の工程へ搬送するようにしたことを特徴とする。
本発明は、請求項2に記載の通り、搬送させる極板積層体の前端に位置する極板を突き上げる突き上げ具と、突き上げられた極板の左右の耳を載架する左右のすべり枠と、極板の左右の耳を受け止め、該耳を前方へ回動せしめる支受部材と、極板の下端を載置し前方へ移動せしめる水平ベルトコンベアとから成ることを特徴とする。
本発明は、請求項3に記載の通り、突き上げられた極板の左右の耳を突き出しその前方の左右の該すべり枠に載架移動せしめる分離補助具を具備することを特徴とする。
本発明は、請求項4に記載の通り、該すべり枠との間に極板の耳の高さ幅より狭い間隙を存し、且つ該すべり枠に平行して長手の耳制御部材を設けたことを特徴とする。
本発明は、請求項5に記載の通り、左右のチェーンコンベアにより載架し、間歇的に搬送される極板積層体の前端面と左右のすべり枠との間の下部に突き上げ具を介在させると共に該極板積層体を前かがみに傾斜させ、傾斜した該極板積層体の前端に位置する極板の左右の耳を左右の該すべり枠の上端に当接させた状態としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
請求項1に係る発明によれば、搬送される該極板積層体の前端に位置する極板を突き上げると共にその左右の耳を該左右のすべり枠に懸架転移するようにしたので、該極板積層体からの極板の分離を、変形を生ずることなく円滑に順次行うことができる。次いで、懸架した極板が左右のすべり枠をすべり降りる過程で、その左右の耳を左右の該支受部材により受け止め、この状態でその下端を前方へ移動する水平ベルとコンベア上に接触せしめ前方へ移動させるようにしたので、極板は、該左右の耳を中心として回動し、傾斜状態で左右のすべり枠をすべり降り、該水平ベルトコンベア上に転移し、前方へ水平状態で搬送されることができ、何等損傷なく、円滑に安定した状態で次の加工工程に供給することができ、また、製造ロスなく安価で且つ高能率の極板分離供給作用を遂行することができる。
請求項2に係る発明によれば、上記の作用、効果をもたらす極板分離供給方法を遂行することが極板分離供給機構を提供することができる。
請求項3に係る発明によれば、該分離補助具により、突き上げられた極板の左右の耳を前方へ突き出すので、該極板が該左右のすべり枠へ懸架転移される分離作用を助成することができる。
請求項4によれば、該耳制御部材により、左右のすべり枠に懸架した極板の傾斜状態を確実に維持し乍らすべり降りることを保証する。
請求項5によれば、該極板積層体は、前かがみに傾斜し、その前傾斜した前端に位置する極板は、該突き上げ部材により突き上げられた瞬間に左右の耳は、該左右のすべり枠に懸架転移分離することができ、前記の分離補助具が不要となり、該極板分離機構を更に簡素化し、安価な機構をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の極板分離方法及び機構の好ましい実施例を添付図面に基づき説明する。
図1乃至図3において、符号1は左右に配設したチェーン1a,1aから成る無端チェーンコンベアを示す。その左右のチェーン1a,1aには、正極板の多数枚又は負極板の多数枚を、その各極板Aの水平側方に突出せしめた左右の耳a,aを介し懸架積層して成る極板積層体2を、所望の速度で前方へ搬送せしめる。1bは左右のチェーン1a,1aに夫々噛み合う前端側の左右のスプロケットホイールを示す。図示しない後端側に配設した左右のスプロケットホイールは、所望の同期手段により駆動され、左右のチェーン1a,1aを同時に駆動されるようにした。該極板Aは、蓄電池用電極として好ましい特に肉薄のものを示した。3は、左右のチェーン1,1の外側に沿い平行に配設した左右一対の耳案内板を示す。その夫々の耳案内板3,3の上端はL字状とし、夫々のチェーン1,1で懸架搬送される各極板Aは該耳案内板3,3の垂直板面3a,3aで左右の遥動を抑止して、安定且つ円滑に極板積層体2を搬送するようにした。
尚、搬送された極板積層体2の前端の極板Aは、後述するすべり枠6の垂直端面で移動が止められ、チェーン1a,1aが、止められた極板Aの耳aを擦り乍ら回動する。
【0007】
本発明によれば、該極板積層体2の前端に位置する極板Aの下部に対向して極板突き上げ具4を設けた。該突き上げ具4は、図示の例では、該極板積層体2の前端面に平行に幅方向に水平に所望長さ延びる棒状の回転体4aとその周面に突出せしめた突起4bとから成り、該極板積層体2の下端に近接して対応する位置に設け、該回転体4aが矢示方向に図示しない外部に接続する駆動モータにより、所定の速度で回転し、これに伴い、該突起4bが、該極板積層体2の前端に位置する極板Aの下端を突き上げるように作用せしめる。尚、該突起4bは、図示の例では、該回転体4の長さ方向に延びるリブ状の突起に形成したが、点状の突起を複数個所望の間隔を存してその長さ方向に配設したものでも良い。
また、図示しないが、突き上げ具として、上記形式の突き上げ具4に代え、該前端に位置する極板の下方に、ピストンシリンダー式に上下方向に伸縮自在の板状の突き上げ部材を設け、定期的に極板を突き上げるようにしても良い。
かくして、間歇的に搬送される極板積層体2の前端位置に来る極板Aを該突き上げ具4により一定の時間間隔で順次突き上げるようにした。
【0008】
更に、本発明によれば、該突き上げ具4により突き上げられた前端の極板Aを前方へ突き出し、該極板積層体2から積極的に分離するための分離補助具5を該極板積層体2の前端側の上方に設けた。
図示の例では、該分離補助具5は、該極板積層体2の幅方向を横断し水平に所望長さに延びる回転軸5aと該回転軸5aの周面にその周方向に一定間隔を存し且つ長さ方向に延びるリブ状の突起5bを複数条、図示では4条配設して成るもので、図2及び図4に示す矢示方向に所望速度で回転させて、その各リブ5bにより、順次突き上げられた各極板Aを前方へ突き飛ばし、該極板Aを該極板積層体2から分離し、その前方の左右に配設したすべり枠6,6にその左右の耳a,aを懸架転移するようにした。該回転軸5aは、図示しない外部と接続する駆動装置より駆動せしめられる。
而して、該突き上げ具4により前端に来る極板Aの突き上げる作動と該分離補助具5によりその各突き上げられた極板Aのa,aを前方へ突き飛ばす作動とは、連動して行われるようにする。かくして、該突き上げ具4と該分離補助具5との連動作用により、例えば、1分間に150枚の運転が可能となる極板分離が高能率に行うことができる。これに対し、従来の真空装置を用いたものでは、その分離効率は1分間当たり120枚が最高であった。
【0009】
該左右の各すべり枠6は、図2に明示のように、例えば、三角形の板体で構成し、傾斜角度45°の傾斜端面をすべり面とした。その各すべり枠6の設置位置は、図示のように、その垂直方向の前端面は、該極板積層体2の前端の極板Aの全面に沿って近接せしめると共に、その傾斜端面の上端は、突き上げられた耳a,aの下端面より少許下方に位置せしめるようにすることが好ましい。尚、左右の各すべり枠6は、図示しないが、懸吊装置などの所望の保持部材でその位置に固定保持されるようにした。
左右の耳a,aが左右のすべり枠6,6の該傾斜面に懸架した極板Aは、その傾斜面をすべり降りるが、その途上で、図4に仮想線で示すように、該左右のすべり枠6,6の夫々の該傾斜面の上方に配設した左右の支受部材7,7で左右の耳a,aを受け止められるようにする一方、その極板Aの下端が左右のすべり枠6,6の下方で且つ左右のすべり枠6,6の間に位置して水平に設けたベルトコンベア8の上面に接触した状態が得られる。左右の各支受部材7は、図示の例では、垂直状態に懸架している耳aと平行に対面する垂直板で形成されているが、円弧状、その他、要するに、耳aを受け止めればどのような形状でもよく、また、材質も問わない。該水平ベルトコンベア8は、通常の無端ベルトコンベアから成り、矢示の方向に駆動する。8aは、該水平ベルトコンベア8の一端の被駆動ベルト車を示し、図示しない他端の駆動ベルト車は、駆動源に接続している。
【0010】
かくして、上記のように、極板Aがすべり枠6,6をすべり降りる過程で、その左右の耳a,aは対応する左右の支受部材7,7で支受されている一時停止状態となる一方、該ベルトコンベア8上に下端が接触した極板Aは、該ベルトコンベア8が矢示方向へ移動するに伴いその下端は前方へ移動するので、該極板Aは、全体として該支受部材7,7を支点としてその左右の耳a,aを中心に極板を寝かせる方向へ回動傾動することとなり、該極板Aは、図4に仮想線で示すように、該極板Aの耳a,aは該支持部材8,8を離れ、傾斜状態ですべり降り、遂には、該水平状態のベルトコンベア8上に全体が乗り移り、前方へ水平状態で次の加工工程に搬送される。
このように、本発明によれば、上記の方法で極板を極板積層体2から分離した後、すべり枠6,6を傾斜状態ですべり降り、別個に用意した該ベルトコンベアに転移させるので、円滑且つ高能率で安価な極板分離方法と機構をもたらし、従来の真空装置を用いた分離機構による課題を解消することができる。
図面で9は、該ベルトコンベア8の両側に沿い平行に配設した左右の案内板を示し、これにより、該ベルトコンベア8で搬送される極板Aが左右に位置ずれすることなく正しく前方へ案内するようにした。
【0011】
更に、本発明によれば、該左右の支受部材7,7の後方で且つ該左右のすべり枠6,6の上方に且つ該すべり枠6,6との間に極板Aの耳aの高さ幅より狭い間隙S,Sを存して平行に長手の耳制御部材10,10を左右に配設し、該耳制御部材10,10により、該極板Aの左右の耳a,aを傾斜状態に制御し乍ら極板Aが左右のすべり枠6,6をすべり降りる作用を確保することができるようにした。該長手の耳制御部材10は、図示のように、耳の横幅と少なくとも等しい広幅の帯状とすることが好ましい。
尚、図示の例では、左右の各該長手部材10,10は、夫々対応する前記の左右の各支受部材7,7と一体成形された部材で構成し、構成部材の数を少なく簡素化した。これら左右の成形部材は、所望の手段で、例えば、図示しないが、懸吊具などの支持具により、その所要位置に固設されるようにする。
【0012】
尚、図示の実施例に示す極板Aは、その中心に共通の一対の足b,bをもつ2面対称型の極板であるが、これを搬送する水平ベルトコンベア8は、中心に空間Gを存して左右に配設したものに構成し、該極板を次の加工工程に搬送し、裁断機でその足を切断する加工にその中心の空間Gを利用する。
しかし乍ら、2面対称型の極板に代え、片側に耳をもつ通常の極板の場合には、その一方に耳を設けた極板とし、これらの積層体を本発明の分離供給機構にかけ、極板の分離供給を行った後、不要な片方の耳を切断するようにしても良い。
【0013】
図5は、本発明の極板分離供給機構の他の実施例を示す。
この実施例では、該チェーンコンベア1により載架し、搬送される極板積層体2の前端面と左右のすべり枠6,6の垂直端面との間の下部に突き上げ具4を介在させるに、極板積層体2の前端面の上端位置より後退した位置に介在させて該極板積層体2を前かがみに傾斜させ、傾斜した該極板積層体2の前端に位置する極板Aの左右の耳a,aを左右の該すべり枠6,6の垂直端面に当接させた状態とした蓄電池用極板分離機構に構成したものである。この状態から、極板積層体2の前端に位置する極板Aを突き上げ具4の突起4bにより突き上げるときは、斜め上方に突き上げられてすべり枠6,6の上端より上方に左右の耳a,aは突き上げられるから、該突き上げ具4の突き上げ作動毎に連動してチェーンコンベア1を間歇的に前進せしめることにより、該突き上げられた極板Aは前進し、仮想線で示すように、その左右の耳a,aは該すべり枠6,6に乗り移り、その傾斜面をすべり降りることとなる。かくして、前記の実施例に用いた分離補助具5の使用を省くことができ、機構の簡素化をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の蓄電池用極板分離供給方法を実施する蓄電池用極板分離供給機構の実施の1例の平面図。
【図2】図1示の極板分離供給機構の一部を截除した側面図。
【図3】上記極板分離供給機構の図2のA-A線裁断正面図。
【図4】上記極板分離機構の作動状態を示す側面図。
【図5】本発明の蓄電池用極板分離供給方法を実施する蓄電池用極板分離機構の他の実施例の側面図。
【符号の説明】
【0015】
1 無端チェーンコンベア
1a チェーン
2 極板積層体
A 極板
a 耳
4 突き上げ具
5 分離補助具
6 すべり枠
7 支受部材
8 水平ベルトコンベア
10 耳制御部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)無端コンベアにより搬送される極板積層体の前端に位置する極板を突き上げると共に突き上げられた該極板を、その左右の耳を左右のすべり枠に載架転移させて該極板積層体から分離すること、(b)該極板を、該すべり枠をすべり降りる過程で、その左右の耳を支受部材に当接させる一方、該極板の下端を水平ベルトコンベアに接触させること、(c)該水平ベルトコンベアの前方への移動に伴い該極板の下端を前方へ移動させ、該支受用部材を支点として該左右の耳を中心に該極板を寝かせる方向に回動傾斜させ乍ら、該すべり枠をすべり降ろし、該水平ベルトコンベア上に転移させ、次の工程へ搬送するようにしたことを特徴とする蓄電池用極板の分離供給方法。
【請求項2】
搬送させる極板積層体の前端に位置する極板を突き上げる突き上げ具と、突き上げられた極板の左右の耳を載架する左右のすべり枠と、極板の左右の耳を受け止め、該耳を前方へ回動せしめる支受部材と、極板の下端を載置し前方へ移動せしめる水平ベルトコンベアとから成ることを特徴とする蓄電池用極板分離供給機構。
【請求項3】
突き上げられた極板の左右の耳を突き出しその前方の左右の該すべり枠に載架移動せしめる分離補助具を具備することを特徴とする請求項2に記載の蓄電池用極板分離供給機構。
【請求項4】
該すべり枠との間に極板の耳の高さ幅より狭い間隙を存し、且つ該すべり枠に平行して長手の耳制御部材を設けたことを特徴とする蓄電池用極板分離供給機構。
【請求項5】
左右のチェーンコンベアにより載架し、間歇的に搬送される極板積層体の前端面と左右のすべり枠との間の下部に突き上げ具を介在させると共に該極板積層体を前かがみに傾斜させ、傾斜した該極板積層体の前端に位置する極板の左右の耳を左右の該すべり枠の上端に当接させた状態としたことを特徴とする請求項2に記載の蓄電池用極板分離供給機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−120357(P2009−120357A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297484(P2007−297484)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】