説明

蓄電素子極板及びそれを使用した蓄電素子

【課題】活物質層を担持する集電体の延びを抑制することで積層状態の最適化が可能になる蓄電素子極板を提供する。
【解決手段】集電体に活物質を担持させてなる蓄電素子極板及びそれを使用した蓄電素子に関する。即ち、集電体の表面に形成した活物質層をプレスして製造してなる蓄電素子極板であって、前記活物質層を構成する活物質粒子は、粒径分布における最大頻度のピークが単一である単分散型でそのピーク値が10μm以下であり、かつ、最大粒径が70μm以下とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体に活物質を担持させてなる蓄電素子極板及びそれを使用した蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばリチウムイオン二次電池等の蓄電素子は、正極板、セパレータ及び負極板を渦巻き状に巻回して多層の積層状態として蓄電素子容器内に配置し、有機溶媒を含んだ非水電解液を充填して構成されている。正極及び負極の各極板は、銅又はアルミニウムの集電体箔に活物質粉末を層状に担持させて構成されている。例えば正極活物質としては、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)などに代表されるようなリチウムと遷移金属の複合酸化物の粉末が主として用いられている。正極活物質を集電体箔に層状に担持させるには、正極活物質粉末に重量比で数%〜数十%程度の炭素粉を混ぜ、さらにPVDF(ポリフッ化ビリニデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の結着剤を添加・混練してペースト状にし、ロール間を走行する帯状の集電体箔上に厚さ20μm〜150μm程度の厚さで塗布して乾燥させつつロールプレスによって加圧することで、活物質層を集電体箔に密着させると共に層厚の均一化と表面の平滑化を図る。
【0003】
一方、負極活物質としては、一般にカーボン粉末が主として使用され、正極板と同様に結着剤と共に混練してペースト状にし、集電体箔に所要の厚みとなるように塗布して、乾燥、ロールプレス工程を経て負極板が製造される。
正極板及び負極板のいずれにおいても、活物質の充填量は蓄電素子容量を決定する大きな因子であるから、活物質層における活物質粉末間の空隙率を下げて活物質の密度をできるだけ高めるために、各ロールプレス工程では例えば線圧で200〜1000kgf/cm程度の高い圧力が加えられている。
【0004】
ところで、活物質粉末は、サブミクロンオーダーの一次粒子が凝集した二次粒子により形成され、二次粒子の粒径はサブミクロンから数百μm程度にばらつき、必ずしも均一にはなっておらず、粒度分布は様々なものが提供されている。
【0005】
従来、活物質粉末の粒径や粒度分布は、例えば特許文献1に開示されているように、高密度充填特性や充放電特性に着目して選択されており、粒度分布のピークが分散する多分散型の粒度分布を有するものが好ましいと考えられていた。
【0006】
しかしながら、上記のような観点から粒度分布を選択した活物質粉末を使用した場合には、集電体箔の局部的な延びに起因する巻きズレが発生したり、電極板にシワや弛みが発生したりして、電極板の積層状態(巻回状態)の不良を招き、かえって蓄電素子性能の向上の妨げになることがあった。このような集電体箔の延びの発生は、帯状の集電体箔にその走行方向に沿って活物質層を塗布しない箔露出部を設ける場合には、一層やっかいな問題を引き起こすことがあった。活物質層を塗布した塗工部では、電極板の厚さが箔露出部に比べて厚くなるから、その部分の集電体箔により大きな圧力が作用して延びが顕著になるためである。このような電極板を巻回すると、延びの不均一性によっていわゆる巻きずれが発生し、巻回不良に至ることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−302504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多分散型の粒度分布を有する従来の活物質粒子を使用すると、粒子と集電体箔との接触部分の均一性が低い。この状態で、強い圧力を活物質層に加えると、活物質粒子から集電体箔の表面に対して垂直方向以外の方向にも力が作用するため、集電体箔が局部的に様々な方向に延びてしまい、結局、シワの原因になる。また、大きな径の粒子が含まれると、その粒子と集電体箔との接触面積は、粒径の小さな粒子に比べて小さくなるため、集電体箔に対して作用する圧力が大きくなり、集電体箔の延びの原因になるものと考えられる。
【0009】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、活物質層を担持する集電体の延びを抑制することで積層状態の最適化が可能になる蓄電素子極板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、集電体の表面に形成した活物質層をプレスして製造してなる蓄電素子極板であって、前記活物質層を構成する活物質粒子は、粒径分布における最大頻度のピークが単一である単分散型でそのピーク値が10μm以下であり、かつ、最大粒径が70μm以下とされているところに特徴を有する。
【0011】
本発明の活物質粉末は粒径が揃った単分散粒子であるから、集電体と活物質粒子との接触が均一になり、プレス工程で集電体の表面に対してほとんど垂直方向に圧力が作用する。このため、集電体に延びが発生するとしても均等な延びとなり、シワや弛みが発生しにくい。しかも、最大粒径が70μm以下という比較的細かい粒子の集まりとなっているから、粒径の大きな粒子を使用する場合に比べて、より小さな線圧で極板を圧縮することができるようになり、ひいては集電体の延びを抑制できる。
【0012】
特に本発明は、集電体に活物質層を塗布した塗工部と、活物質層を塗布していない非塗工部とが集電体の巻回方向に沿って形成されている場合に、集電体の延びが不均一に発生しやすいため特に効果的である。プレス工程としては、集電体に活物質粉末を含んだペーストを塗布した後にロールプレスする工程が適用できる。また、集電体がアルミニウム箔であり、活物質層がリチウム遷移金属複合酸化物の正極活物質により構成されている場合に、集電体が延びやすいために特に効果的である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、活物質層を担持する集電体の延びを抑制することで積層状態の最適化が可能になる蓄電素子極板及びそれを利用した蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】活物質粉末の粒径ピーク値と、巻回工程後の巻きズレ量との関係を示すグラフ。
【図2】本実施形態において粒径ピーク値が10μmである活物質粉末の粒径分布図。
【図3】活物質粉末の最大粒径と、同一線圧でのロールプレス工程後の蓄電素子電極の厚さとの関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の蓄電素子極板をリチウムイオン二次電池に適用した実施形態を図1ないし図3によって説明する。
【0016】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、電池極板以外は一般的な構造であり、正極用の電池極板と負極用の電池極板とをセパレータを挟んで長円筒形に巻回した発電要素を複数個密着して並べ並列接続したものである。これらの発電要素は、その両端面部に配置された集電接続体にそれぞれ正負の電池極板が接続固定されて並列接続されている。各集電接続体は、正極側はアルミニウム板、負極側は銅板からなり、発電要素を収容する電池容器の上端開口部に嵌め込まれた蓋板に設けた電極に連なる。電池容器内には非水電解液が充填されている。
【0017】
本実施形態で用いられる正極活物質はオリビン型リン酸鉄リチウムとした。これは一般式LiFe(1−x)MxPO4で表される化合物で、MはFe以外の遷移金属元素を表し、0≦x≦0.2である。
【0018】
このリン酸鉄リチウムの粒子を用いる場合、一次粒子が集合して球状二次粒子となったもので、その粒径分布における最大頻度のピークが単一である単分散型でそのピーク値(以下、「粒径ピーク値」ということがある)が10μm以下であり、かつ、最大粒径が70μm以下とされているものを使用している。ここで、最大粒径とは、粒径ピーク値よりも大きく、頻度が1%以下である最大の粒径をいう。
【0019】
本実施形態における活物質粉末の粒径分布については、レーザー回折・散乱法(具体例としては、島津製作所製、ナノ粒子径分布測定装置、型名:SALD−7100、測定範囲:10nm〜300μm)による粒度分布測定装置により測定したものをいう。また、現に非水電解質二次電池に使用されているオリビン型リン酸鉄リチウムの粒径分布については、電池を解体して正極板をとりだし、ジメチルカーボネート(DEC)で洗浄し、乾燥したのち、正極合剤層の表面を削り取ってN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に分散させ攪拌し、リン酸鉄リチウム粒子を沈殿させ、この沈殿物をとりだし、乾燥した後、上記のレーザー回折・散乱法によって、測定することができる。
【0020】
本実施形態では、上記のリン酸鉄リチウムを例えばアセチレンブラック等の導電剤及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の結着剤とともに混合し、N−メチル−2−ピロリドン等の溶剤に分散させてスラリー(ペースト)にし、これをアルミニウム又はアルミニウム合金製の集電体両面に塗布し、乾燥、ロールプレスして帯状の正極側の電池電極を作製できる。集電体には、上記活物質ペーストを塗布した塗工部と、活物質ペーストを塗布していない非塗工部とがロールプレス工程における集電体の走行方向に沿って形成してあり、その非塗工部を利用して集電体箔(電池電極)が外部の正極側の電池端子と集電接続体を介して接続される。
【0021】
一方、負極側の電池電極に用いられる活物質としては、リチウムイオンが挿入脱離するものであれば特に限定されないが、例えば球状、塊状、鱗片状の炭素材料の粉末を負極活物質の90%以上となる割合で含ませて用いるのが好ましい。球状炭素材料としては、例えば、メソフェーズピッチ小球体を焼成したもの、塊状炭素材料としては、例えば、コークスを焼成して粉砕したものを用いることができ、鱗片状炭素材料としては、鱗片状天然黒鉛または鱗片状人造黒鉛を用いるのが好ましい。いずれにしても、負極用の活物質としても、その粒径分布における最大頻度のピークが単一である単分散型でそのピーク値が10μm以下であり、かつ、最大粒径が70μm以下とされているものが好ましい。また、平均粒径としては、20〜35μmのものを用いるのが塗工性の面から好ましく、負極の活物質層の厚さは片面で20μm〜80μmとするのが好ましい。
【0022】
これらの負極用の活物質として、本実施形態では例えば平均粒径26μmの球状人造黒鉛粉末75重量部、平均粒径27μmの鱗片状人造黒鉛粉末15重量部、PVdF10重量部を混合して負極合剤を調整し、溶剤となるN−メチル−2−ピロリドンに分散させてスラリー(ペースト)にし、これを集電体としての厚さ15μmの銅箔両面に塗布し、乾燥させた後、一定圧力のロールプレス工程を経て負極側の電池電極を製造した。この電池電極においても、集電体箔には上記活物質層を塗布した塗工部と、活物質層を塗布していない非塗工部とがロールプレス工程における集電体の走行方向に沿って形成されており、その非塗工部を利用して集電体箔(電池電極)が外部の負極側の電池端子と集電接続体を介して接続される。
【0023】
これらの電池電極と例えば40μm厚さのポリプロピレン(PP)/ポリエチレン(PE)/ポリプロピレン(PP)積層セパレータを用いて長円筒形に巻回して発電要素を作製した(巻回工程)。発電要素は、ステンレス製の電池容器内に収容し、内部に電解液が充填された。電解液としては、周知のものが利用でき、この実施形態では例えばエチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/メチルエチルカーボネート(MEC)の体積比3:4:3の混合溶媒に、電解質としてLiPFを1mol/l溶解させた電解液を利用した。
【0024】
その他、電解液としては、例えば、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの低粘度の鎖状炭酸エステルと、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの高誘電率の環状炭酸エステル、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1−3ジオキソラン、メチルアセテート、メチルプロピオネート、ビニレンカーボネート、ジメチルホルムアミド、スルホランおよびこれらの混合溶媒を使用することができる。
【0025】
さて、上記実施形態において、正極活物質の粒径分布における粒径ピーク値が、それぞれ2〜20μmである10種の正極活物質粉末を使用して正極用の電池電極を製造し、巻回工程後における巻きズレ量を測定した。なお、この実施形態において、巻きズレ量(mm)とは、正極用及び負極用の各電池極板間にセパレータが介在する形で巻き芯の上に長円筒状に巻回した周知の発電要素を構成し、その同一極性の電池極板における各巻回層毎の端縁部の最大ズレ量を実測した値をいう。この電池電極の集電体は、幅80mm、厚さ20μmのアルミニウム箔で、全体の幅寸法が80mm、未塗工部の幅寸法が10mmであった。集電体の両面に前述の正極活物質ペーストを塗布し、乾燥後ロールプレスしたものである。測定結果を図1に示す。粒径ピーク値を10μm以下とした電池電極では巻きズレが全く発生せず、10μmを越えて粒径ピーク値が大きくなるほど、巻きズレ量が増加することが確認された。なお、使用したいずれの正極活物質粉末も、粒径毎の出現頻度を示す粒径分布図において最大頻度のピークが単一である単分散型であり、その粒径ピーク値が7μmである実施例の活物質粉末の粒径分布図は図2に示すようであった。
【0026】
また、上記実施形態において、粒径ピーク値が10μm以下であって、最大粒径が10μm〜100μmである10種の正極活物質粉末を使用した10種類の活物質ペーストを集電体箔(アルミニウム箔)の両面に塗布し、乾燥後、それぞれ同一の線圧(例えば400kgf/cm)でロールプレスして10種類の電池電極を製造し、その厚さをそれぞれ測定した。その結果を図3に示す。最大粒径が80μm以上の活物質粒子を使用した電池電極では、その粒径が大きくなるほど電池電極の厚さが厚くなる。これは、正極活物質層を同一の厚さにプレスするためには、線圧をより高める必要があることを意味し、それは結局、集電体箔の延びにつながることを意味する。ここから、最大粒径は70μm以下であることが好ましいことが判明した。なお、最大粒径が20μm以下のものでは、シワや弛みも発生しておらず平滑な外観を呈していたが、最大粒径が20μmを越えたものでは、集電体箔の延びによってシワや弛みが発生していた。従って、最大粒径を20μm以下とすることが最も好ましいが、20μm〜70μmの範囲であっても、実用上、問題のない範囲に延びを抑えることができる。
【0027】
なお、上記実施形態では、オリビン型リン酸鉄リチウムを活物質とした電池電極の具体例を示したが、活物質粒子の粒度分布を問題とするものであるから、材料の種類は問わず、例えばコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどの他のリチウムと遷移金属の複合酸化物の活物質を使用してもよい。
【0028】
また、上記実施形態では、本発明の極板をリチウムイオン二次電池に適用した具体例を示したが、集電体の表面に活物質層をプレスして製造する極板に広く適用することができるのであり、そのような極板の応用例としては、各種の一次電池やキャパシタを例示することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体の表面に形成した活物質層をプレスして製造してなる蓄電素子の極板であって、前記活物質層を構成する活物質粒子は、粒径分布における最大頻度のピークが単一である単分散型でそのピーク値が10μm以下であり、かつ、最大粒径が70μm以下とされていることを特徴とする蓄電素子極板。
【請求項2】
前記集電体には前記活物質層を塗布した塗工部と、活物質層を塗布していない非塗工部とが前記集電体の巻回方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項1記載の蓄電素子極板。
【請求項3】
前記集電体はアルミニウム箔であり、前記活物質層はリチウム遷移金属複合酸化物を含んだ正極活物質により構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の蓄電素子極板。
【請求項4】
前記最大粒径が20μm以下である請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の蓄電素子極板。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の蓄電素子極板を有する蓄電素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−114867(P2013−114867A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259364(P2011−259364)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】