説明

蓄電装置の満充電容量推定方法及び蓄電システム。

【課題】電池の満充電容量を精度よく推定する。
【解決手段】本発明は、蓄電装置の満充電容量推定方法であり、充電前後のSOC差と充電中の充電電流積算値とに基づいて算出される満充電容量を充電毎に学習して学習満充電容量を算出するにあたり、前回算出された学習満充電容量に、充電後に取得される算出された満充電容量を反映して新たな学習満充電容量を算出する。そして、充電中の充電電流値及び充電後の蓄電装置の温度の少なくとも一方に基づいて、新たな学習満充電容量に反映される算出された満充電容量の反映量を変更する。学習満充電容量に反映される実測された満充電容量の反映量が、電流値に依存する電流積算値の精度誤差及び温度に依存するSOCの精度誤差の少なくとも一方の影響を考慮して調整されるので、満充電容量の学習精度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池等の満充電容量を推定(学習)する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
SOC(State of Charge)とは、電池の満充電容量に対する現在充電容量の割合を示すものである。満充電容量は、例えば、充電前後の二次電池の端子間電圧(OCV)から算出されるSOC差と、充電中の充電電流積算値とに基づいて算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−282375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電流積算値は、電流センサによって検出される充電電流を積算して算出することができるが、電流センサの検出値には、オフセット誤差やゲイン誤差、検出精度範囲に基づく桁落ち誤差などが含まれ、満充電容量の推定精度低下の要因となる。
【0005】
また、充電後の二次電池の端子間電圧(OCV)は、分極の影響により正確な値を把握することが難しく、電圧センサによって検出される充電後の電圧値に分極の影響による誤差が含まれてしまい、満充電容量の推定精度低下の要因となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願第1の発明である蓄電装置の満充電容量推定方法は、充電前後のSOC差と充電中の充電電流積算値とに基づいて算出される満充電容量を充電毎に学習して学習満充電容量を算出する。そして、前回算出された学習満充電容量に充電後に取得される算出された満充電容量を反映して新たな学習満充電容量を算出するとともに、充電中の充電電流値及び充電後の蓄電装置の温度の少なくとも一方に基づいて新たな学習満充電容量に反映される算出された満充電容量の反映量を変更する。
【0007】
本願第1の発明によれば、学習満充電容量に反映されるSOC差と充電電流積算値とから算出される満充電容量の反映量が、電流値に依存する電流積算値の精度誤差及び温度に依存するSOCの精度誤差の少なくとも一方の影響を考慮して調整されるので、満充電容量の学習精度を向上させることができる。
【0008】
充電電流値及び前記蓄電装置の温度の少なくとも一方に関連付けられ、新たな学習満充電容量に反映される算出された満充電容量の反映量を予め規定した学習パラメータの中から、充電中に充電電流値又は充電後の蓄電装置の温度に基づいて決定することができる。
【0009】
学習パラメータは、充電電流値が高いほど又は/及び蓄電装置の電池温度が高いほど、新たな学習満充電容量に反映される算出された満充電容量の割合が大きくなるように規定することができる。電流値に依存する電流積算値の精度誤差又は温度に依存するSOCの精度誤差の小さい環境下では、実測値に基づく満充電容量の影響が大きくして満充電容量の学習精度(推定精度)を向上させることができる。
【0010】
充電開始の際の蓄電装置の第1端子間電圧及び充電終了後の蓄電装置の第2端子間電圧それぞれに対応するSOCから充電前後のSOC差を算出するとともに、充電中の充電電流の積算値を算出して満充電容量を算出することができる。
【0011】
本願第2の発明である蓄電システムは、充放電を行う蓄電装置と外部電源から供給される電力を蓄電装置に充電する充電器とを備えており、車両に搭載される。蓄電システムは、蓄電装置の電圧を検出する電圧センサと、蓄電装置の充放電電流又は充電器から蓄電装置に出力される充電電流を検出する電流センサと、蓄電装置の温度を検出する温度センサと、充電前後のSOC差と充電中の充電電流積算値とに基づいて満充電容量を算出し、充電毎に算出される満充電容量を学習して蓄電装置の学習満充電容量を算出するコントローラと、を含んでいる。コントローラは、前回算出された学習満充電容量に、充電後に取得される満充電容量を反映して新たな学習満充電容量を算出するとともに、充電中の充電電流値及び充電後の蓄電装置の温度の少なくとも一方に基づいて、新たな学習満充電容量に反映される算出された満充電容量の反映量を変更する。
【0012】
本願第3の発明である蓄電システムは、充放電を行う蓄電装置と外部電源から供給される電力を蓄電装置に充電する充電器とを備えており、車両に搭載される。蓄電システムは、電圧センサによって検出される充電開始の際の蓄電装置の第1端子間電圧及び充電終了後の蓄電装置の第2端子間電圧それぞれに対応するSOCを算出し、充電前後のSOC差を算出するとともに、電流センサによって検出される充電中の充電電流の積算値を算出する充電制御部と、充電前後のSOC差と充電中の充電電流積算値とに基づいて算出される満充電容量を充電毎に学習して学習満充電容量を算出するにあたり、前回算出された学習満充電容量に、充電後に取得される算出された満充電容量を反映して新たな学習満充電容量を算出する満充電容量演算部と、を有する。満充電容量演算部は、充電中の充電電流値及び温度センサによって検出される充電後の蓄電装置の温度の少なくとも一方に基づいて、新たな学習満充電容量に反映される算出された満充電容量の反映量を変更する。
【0013】
本願第2、3の発明によれば、学習満充電容量に反映されるSOC差と充電電流積算値とから算出される満充電容量の反映量が、電流値に依存する電流積算値の精度誤差及び温度に依存するSOCの精度誤差の少なくとも一方の影響を考慮して調整されるので、満充電容量の学習精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】電池システムの構成を示す図である。
【図2】充電時間とセンサ誤差との関係を示す図である。
【図3】充電後の経過時間とOCVとの関係を示す図である。
【図4】学習マップの一例を示す図である。
【図5】学習マップに応じた満充電容量学習値を表した図である。
【図6】外部電源から車両に搭載される電池システムを充電する充電動作を示すフローチャートである。
【図7】満充電容量学習値の演算処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0016】
(実施例1)
本発明の実施例1である電池システム(蓄電システムに相当する)について説明する。図1は、本実施例の電池システムの構成を示す図である。本実施例の電池システムは、車両に搭載することができる。車両としては、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。ハイブリッド自動車は、車両を走行させるための動力源として、後述する組電池に加えて、エンジン又は燃料電池を備えている。電気自動車は、車両の動力源として、組電池だけを備えている。
【0017】
組電池10は、直列に接続された複数の単電池11を有する。単電池11としては、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池といった二次電池を用いることができる。また、二次電池の代わりに、電気二重層キャパシタ(コンデンサ)を用いることができる。組電池10を構成する単電池11の数は、要求出力などに基づいて、適宜設定することができる。また、組電池10は、並列に接続された複数の単電池11を含んでいてもよい。
【0018】
組電池10は、接続ラインを介して昇圧コンバータ41に接続されている。組電池10の正極端子と昇圧コンバータ41との間にシステムメインリレー31が設けられ、組電池10の負極端子と昇圧コンバータ41との間にシステムメインリレー32が設けられている。システムメインリレー31,32は、コントローラ50からの制御信号を受けて、オン(接続状態)およびオフ(遮断状態)の間で切り替わる。
【0019】
昇圧コンバータ41は、組電池10の出力電圧を昇圧して、昇圧後の電力をインバータ42に出力する。また、昇圧コンバータ41は、インバータ42の出力電圧を降圧して、降圧後の電力を組電池10に出力する。昇圧コンバータ41は、例えば、チョッパ回路で構成することができる。昇圧コンバータ41は、コントローラ50からの制御信号を受けて動作する。
【0020】
インバータ42は、昇圧コンバータ41から出力された直流電力を交流電力に変換して、交流電力をモータ・ジェネレータ(MG)43に出力する。モータ・ジェネレータ43としては、例えば、三相交流モータを用いることができる。また、インバータ42は、モータ・ジェネレータ43から出力された交流電力を直流電力に変換して、直流電力を昇圧コンバータ42に出力する。
【0021】
モータ・ジェネレータ43は、インバータ42からの交流電力を受けて、車両を走行させるための運動エネルギを生成する。モータ・ジェネレータ43は、車輪と接続されており、モータ・ジェネレータ43によって生成された運動エネルギは、車輪に伝達される。車両を減速させたり、停止させたりするとき、モータ・ジェネレータ43は、車両の制動時に発生する運動エネルギを電気エネルギ(交流電力)に変換する。モータ・ジェネレータ43によって生成された交流電力は、インバータ42に出力される。これにより、回生電力を組電池10に蓄えることができる。
【0022】
本実施例の電池システムでは、組電池10から電力を受けて動作する負荷としてモータ・ジェネレータ43を用いることができる。また、昇圧コンバータ41を用いているが、昇圧コンバータ41を省略することもできる。すなわち、組電池10をインバータ42と接続することができる。
【0023】
電圧監視IC20は、組電池10を構成する直列に接続された各単電池11それぞれの電圧を検出する。電圧監視IC20はコントローラ50に接続され、検出結果をコントローラ50に出力する。
【0024】
電流センサ21は、充放電を行う組電池10の充放電電流を検出してコントローラ50に検出結果を出力する。また、電流センサ21は、充電器60を介して組電池10に流れる外部充電電流を検出し、コントローラ50に検出結果を出力する。本実施例の電流センサ21は、充電器60から組電池10に出力される外部充電電流の電流経路に設けられ、システムメインリレー31,32がオフ状態、すなわち、組電池10と負荷との接続が遮断された状態で、外部充電電流が組電池10に流れる電流経路に設けられる。
【0025】
温度センサ22は、組電池10の温度を検出する。温度センサ22は、コントローラ50に接続され、検出結果をコントローラ50に出力する。なお、温度センサ22は、電圧監視IC20に含まれるように構成することができ、例えば、組電池10の電圧及び温度を検出する監視ICとして構成できる。
【0026】
充電器60は、組電池10に接続される。充電器60は、外部電源70から供給された交流電力を直流電力に変換する不図示のAC/DCコンバータや、外部電源70又はAC/DCコンバータから出力される外部充電電流(直流電流)を昇圧して組電池10に出力するDC/DCコンバータ等を含むことができる。外部電源70は、車両の外部において、車両とは別に設けられた電源である。外部電源としては、例えば、商用電源を用いることができる。
【0027】
充電器60と組電池10の正極端子との間の電流経路上に、充電リレー61が設けられ、充電器60と組電池10の負極端子との間に電流経路上に、充電リレー62が設けられている。充電リレー61,62は、コントローラ50からの制御信号を受けて、オン(接続状態に相当する)およびオフ(遮断状態に相当する)の間で切り替わる。
【0028】
充電器60は、本実施例の電池システムを搭載する車両の側部に設けられるインレット63と接続される。インレット63には、外部電源70に連結する接続プラグ71を有する充電ケーブル72が接続される。
【0029】
コントローラ50は、組電池10の充放電制御を行う制御装置である。コントローラ50は、車両出力要求に基づいて負荷に組電池10の電力を出力する放電制御、車両が減速したり、停止したりする際の車両制動時における回生電力を組電池10に充電する充電制御を行う。本実施例のコントローラ50は、充電制御部51、満充電容量演算部52、及び記憶部53を含んで構成される。
【0030】
充電制御部51は、外部電源70から延設された接続プラグ71がインレット63に接続されたことを検出すると、充電器60を介した外部充電を開始する。充電器60は、充電制御部51から出力される制御信号に基づいて動作し、外部電源70から供給される電力を組電池10に充電する。充電制御部51による外部充電動作については後述する。
【0031】
満充電容量演算部52は、外部電源70を用いた電池システムへの外部充電の充電履歴に基づいて、組電池10の満充電容量推定値(以下、満充電容量学習値という)を算出する。外部充電の充電履歴は、外部充電が行われる度に記憶部53に記憶される。なお、充電制御部51、満充電容量演算部52、記憶部53は、コントローラ50とは別途の制御装置として構成することもでき、コントローラ50に対して外的に又は内的に設けることができる。
【0032】
ここで、本実施例の満充電容量推定方法について詳細に説明する。本実施例では、外部充電による充電器60を介した組電池10の外部充電時の測定値(実測値)を用いて満充電容量取得値を演算する。満充電容量取得値は、以下の式1のように算出することができる。
(式1)満充電容量取得値=100÷(終了SOC−初期SOC)×電流積算値
【0033】
初期SOCは、外部充電開始時に電圧監視IC20によって検出された組電池10の端子間電圧(OCV)に基づいて算出されるSOCである。同様に終了SOCは、外部充電終了後の電圧監視IC20によって検出された組電池10の端子間電圧(OCV)に基づいて算出されるSOCである。電流積算値は、電流センサ21によって検出された充電器60から組電池10に出力される充電電流値を充電開始から終了まで(充電中)積算して算出したものである。
【0034】
なお、組電池10のSOCは、組電池10のOCV(Open Circuit Voltage)から特定することができる。SOC及びOCVは対応関係にあるため、この対応関係を予め求めておけば、OCVからSOCを特定することができる。組電池10のOCVは、電圧センサ21によって検出された組電池10の電圧(CCV:Closed Circuit Voltage)から算出することができる。本実施例では負荷や充電器60に接続されていない充電前後の状態において組電池10の端子間電圧を電圧監視IC20によって検出し、電圧監視IC20によって検出された電圧値を、OCVとして用いている。
【0035】
満充電容量学習値は、満充電容量取得値と前回の外部充電に対して算出された前回満充電容量学習値とからを算出する。
(式2)学習値=前回学習値×(1−A)+満充電容量取得値×A
【0036】
式2から把握できるように、本実施例の満充電容量推定方法では、充電前後の組電池10のSOC差と充電中の電流積算値とに基づいて満充電容量取得値を算出し、充電毎に算出される満充電容量取得値を学習して満充電容量学習値を算出する。そして、今回(新たな)満充電容量学習値は、前回満充電容量学習値と充電後に取得される最新(今回)の満充電容量取得値とを所定の比率で反映して算出する。Aは、今回算出する満充電容量学習値に含まれる前回満充電容量学習値と満充電容量取得値との比率を決定する学習パラメータである。Aは、0〜1の範囲で、後述するように充電中の充電電流値及び電池温度に基づいて決定される。
【0037】
図2は、充電時間とセンサ誤差との関係を示す図である。電流センサ21によって検出される検出値には、オフセット誤差やゲイン誤差、検出精度範囲に基づく桁落ち誤差などが含まれる。このため、図2(a)に示すように、電流センサ21によって検出される充電中の検出値には一定のセンサ誤差が含まれるが、図2(b)に示すように充電時間が短いと電流積算値に含まれるセンサ誤差が少なくなる(t2<t1)。
【0038】
すなわち、充電電流量が少ないと充電に要する時間が長くなるので、電流積算値には多くのセンサ誤差値が含まれ、一方、充電電流量が多い場合、充電に要する時間が短くなり、電流積算値に含まれるセンサ誤差値が少なくなる。センサ誤差(精度誤差)値は、充電電流量に依存し、充電電流量が小さいと電流積算値に含まれるセンサ誤差値が大きくなり、充電電流量が大きいと電流積算値に含まれるセンサ誤差値が小さくなる。
【0039】
したがって、充電電流量が小さい場合は、学習パラメータAを小さく設定し、前回学習値を大きく反映して(満充電容量取得値の反映量を小さくして)今回満充電容量学習値を算出する。一方、充電電流量が大きい場合、学習パラメータを大きく設定し、前回学習値を小さく反映して(満充電容量取得値の反映量を大きくして)今回満充電容量学習値を算出する。このように実施例では、満充電容量取得値に含まれるセンサ誤差の影響が多い場合は、満充電容量取得値の反映量を小さくし、満充電容量取得値に含まれるセンサ誤差の影響が少ない場合、満充電容量取得値の反映量を大きくする。
【0040】
図3は、充電後の経過時間とOCVとの関係を示す図である。充電後の組電池10のOCVは、分極の影響により正確な値を把握することが難しい場合がある。図3に示すように、分極成分の影響は充電終了時間t3から徐々に解消されて組電池10のOCVに戻る。電池温度が高い場合は、時間経過とともに分極成分の影響が解消される度合いが大きく、点線で表すように充電終了時点から比較的短い時間t4の時点でOCVに戻る。一方、電池温度が低い場合は、一点鎖線で表すように時間経過とともに分極成分の影響が解消される度合いが小さく、なかなかOCVまで戻らずに電池温度が高い場合に比べてOCVに戻るまで長い時間を要する。
【0041】
分極の影響の解消は、電池温度に依存し、例えば、充電後の時間t4における組電池10のOCVは、電池温度が高い場合に比べて電池温度が低い場合は、OCVよりも高い電圧V1となり、電圧V1とOCVとの差分が検出誤差として含まれてしまうことになる。このように充電後のOCV(SOC)には、電池温度に依存した精度誤差が含まれる。
【0042】
したがって、充電後の電池温度が低い場合は、検出誤差が多く含まれるので、学習パラメータAを小さく設定し、前回満充電容量学習値を大きく反映して(満充電容量取得値の反映量を小さくして)今回満充電容量学習値を算出する。一方、電池温度が高い場合、検出誤差の影響が小さいので、学習パラメータを大きく設定し、前回学習値を小さく反映して(満充電容量取得値の反映量を大きくして)今回満充電容量学習値を算出する。このように実施例では、満充電容量取得値に電池温度の影響による検出誤差が多く含まれている場合は、満充電容量取得値の反映量を小さくし、満充電容量取得値に電池温度の影響による検出誤差あまり含まれていない場合は、満充電容量取得値の反映量を大きくする。
【0043】
図4は、本実施例の充電電流及び電池温度と、学習パラメータAとの関係を表す学習マップの一例である。図4に示すように、電池温度が高くほど又は充電電流が多いほど、学習パラメータAの値が大きくなり、電池温度が低いほど又は充電電流が少ないほど、学習パラメータAの値が小さくなるように設定される。図4に示した学習マップは、記憶部53に予め記憶されている。
【0044】
本実施例では、式2及び図4に示したように、センサ誤差及び/又は電池温度に基づく検出誤差が大きい環境下で取得された満充電容量取得値は、満充電容量学習値に反映する量を小さくし、外部充電時に実測された満充電容量取得値を満充電容量学習値に学習させるスピードを遅くする。一方、センサ誤差及び/又は電池温度に基づく検出誤差の影響が小さい環境下で取得された満充電容量取得値は、満充電容量学習値に反映する量を大きくし、外部充電時に実測された満充電容量取得値を満充電容量学習値に学習させるスピードを速くする。なお、図4の例では、充電電流値と電池温度に関連した学習マップを示しているが、充電電流値に関連した学習マップ及び電池温度に関連した学習マップをそれぞれ個別に作成し、一方の学習マップ又は両方の学習マップから学習パラメータAを決定(設定)するように構成してもよい。
【0045】
図5は、図4に示した学習マップに基づいて算出した満充電容量学習値を表した図である。縦軸が満充電容量学習値、横軸が充電回数である。
【0046】
図5に示すように、実線で示す学習値は、学習パラメータA=0.8なので、満充電容量取得値(C0:◆)を満充電容量学習値に反映する量が大きく、組電池10の前回満充電容量学習値よりも満充電容量取得値に比重が置かれた学習値となっている。点線で示す学習値は、学習パラメータA=0.3なので、満充電容量取得値を満満充電容量学習値に反映する量が小さく、満充電容量取得値よりも組電池10の前回満充電容量学習値に比重が置かれた学習値となっている。なお、前回満充電容量学習値が算出されていない場合、すなわち、充電回数が一回目に算出される今回満充電容量学習値は、初期状態の満充電容量(初期値C)を前回満充電容量学習値として用いて算出される。
【0047】
本実施例では、充電電流量及び/又は電池温度に応じて、満充電容量学習値に反映される前回満充電容量学習値と満充電容量取得値の比率を決定し、センサ誤差及び/又は電池温度に基づく検出誤差が大きい環境下では、満充電容量取得値の割合を小さくして前回満充電容量学習値の割合を大きくすることで、センサ誤差及び/又は電池温度に基づく検出誤差の影響を小さくして満充電容量の推定値の精度を向上させるとともに、センサ誤差及び/又は電池温度に基づく検出誤差が小さい環境下では、実測された満充電容量取得値の割合を大きくして前回満充電容量学習値の割合を小さくすることで、実測された満充電容量取得値の影響が大きくして満充電容量の学習精度(推定精度)を向上させている。
【0048】
図6は、外部電源70から本実際例の電池システムを充電する外部充電動作を示すフローチャートである。外部充電動作は、充電制御部51によって遂行される。このとき、システムメインリレー31,32、充電リレー61,62はオフである。
【0049】
充電制御部51は、外部電源70から延設された接続プラグ71がインレット63に接続されたことを検出すると、充電リレー61,62をオフからオンに切り替えて充電器60と組電池10とを接続し、充電器60を介した外部充電を開始する(S101)。
【0050】
ステップS102において、充電制御部51は、電圧監視IC20を介して充電開始前の充電開始端子間電圧(開始OCV1)を取得し、開始OCV1を取得した後に、充電器60に制御信号を出力して充電器60を介して所定の充電電流で組電池10の充電を行う。
【0051】
充電器60は、充電制御部51からの制御信号に基づいて充電電流を制御する。例えば、充電制御部51は、予め決められた充電電流値に従って充電電流の電流値を充電器60に出力し、充電器60は、外部電源70から供給される電流を整調(AC/DC変換,昇圧等)し、組電池10に充電電流を出力する。
【0052】
充電制御部51は、充電時間に応じた許容充電電流を予め規定した充電電流マップを用いて、開始OCV1(SOC1)から所定の目標SOCに到達するまでの充電電流を制御することができる。
【0053】
充電制御部51は、充電時間を計測するとともに(S103)、電流センサ21によって検出される充電中の充電電流を積算して充電電流積算値を算出する(S104)。充電制御部51は、充電時間の経過とともに上昇する組電池10の電圧を電圧監視IC20を通じて監視し、所定の目標SOCに対応する電圧に達したか否かを判別する(S105)。目標SOCに達していない場合は、ステップS103に戻り、充電を継続する。
【0054】
ステップS105において、所定の目標SOCに対応する電圧に達したと判別された場合、充電制御部51は、充電制御を終了する。充電制御部51は、充電終了の制御信号を充電器60に出力するとともに、充電時間の計測、充電電流の積算処理を終了する。また、充電リレー61,62をオンからオフに切り替えて充電器60と組電池10とを接続を遮断する。
【0055】
ステップS106において、充電制御部51は、充電終了後の組電池10の端子間電圧(終了OCV2)を電圧監視IC20から取得する。なお、充電制御部51は、充電終了時点から予め決められた時間が経過した後に、充電終了後の組電池10の端子間電圧を検出することができる。
【0056】
ステップS107において、充電制御部51は、充電終了後の組電池10の電池温度を温度センサ22から取得する。電池温度の検出タイミングは、例えば、充電終了後の組電池10の端子間電圧を検出するタイミングとすることができる。
【0057】
ステップS108において、充電制御部51は、今回の外部充電の充電履歴を生成して記憶部53に記憶する。充電履歴は、時系列順に外部充電の回数を連番で割り当て、各回数毎の充電履歴が記録される。充電履歴は、充電時間、充電電流積算値、開始OCV1、終了OCV2、充電終了時の電池温度を含む。
【0058】
充電制御部51は、充電履歴を生成して記憶部53に記憶した後、外部充電制御を終了する。なお、充電制御部51は、予め記憶部53に記憶されている充電が行われた旨を表す充電履歴フラグをONにする。充電履歴フラグは、後述する満充電容量推定値の算出処理を開始するトリガーとして用いられる。本実施例では、外部充電が行われる度に満充電容量推定値の算出処理を行うことができる。
【0059】
図7は、満充電容量学習値の演算処理のフローチャートである。満充電容量学習値の演算処理は、満充電容量演算部52によって遂行される。
【0060】
ステップS301において、満充電容量演算部52は、充電履歴フラグがONであるか否かを判別する。満充電容量演算部52は、充電履歴フラグがONである場合、満充電容量学習値の演算処理を開始する。
【0061】
ステップS302において、満充電容量演算部52は、記憶部53から充電履歴を取得する。満充電容量演算部52は、開始OCV1及び終了OCV2それぞれに対応する充電前後のSOC1,SOC2を算出するとともに、充電前後のSOC1及びSOC2の差分(SOC差)を算出する。
【0062】
ステップS303において、満充電容量演算部52は、ステップS302で算出した充電前後のSOC差と充電電流積算値を用いて、満充電容量取得値(C0)を算出する。満充電容量取得値は、上記式1で算出することができる。なお、充電電流積算値は、単位を[Ah]に変換することができる。満充電容量演算部52は、算出した満充電容量取得値を記憶部53に記憶する。
【0063】
続いて、満充電容量演算部52は、ステップS304において、充電時間及び充電電流積算値から、所定の単位時間当たりの平均充電電流値を算出する。
【0064】
ステップS305において、満充電容量演算部52は、今回の外部充電に関連する満充電容量学習値を算出するために、ステップS304で算出した平均充電電流値と電池温度とを用いて、図4に示した学習マップから学習パラメータを取得する。
【0065】
ステップS306において、満充電容量演算部52は、記憶部53に記憶されている前回満充電容量学習値を取得し、学習マップから取得した学習パラメータ及びステップS303で算出した満充電容量取得値を用い、上記式2に基づいて、今回満充電容量学習値を算出する。このとき、前回満充電容量学習値が記憶部53に記憶されていない(例えば、初期状態から初回の外部充電である)場合、満充電容量演算部52は、記憶部53に予め記憶されている初期状態の満充電容量(初期値)を用いて、今回満充電容量学習値を算出する。
【0066】
ステップS307において、満充電容量演算部52は、ステップS306で算出した今回満充電容量学習値を記憶部53に記憶するとともに、充電履歴フラグをONからOFFにし、満充電容量学習値の演算処理を終了する。
【0067】
このように本実施例の満充電容量推定方法は、満充電容量学習値に反映される実測された満充電容量の反映量を、充電電流値に依存する電流積算値の精度誤差及び電池温度に依存するSOCの精度誤差の少なくとも一方の影響を考慮して調整するので、満充電容量の学習精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0068】
10 組電池
11 単電池
20 電圧監視IC
21 電圧センサ
22 温度センサ
41 昇圧コンバータ
42 インバータ
43 モータ・ジェネレータ
50 コントローラ
51 充電制御部
52 満充電容量演算部
53 記憶部
60 充電器
70 外部電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置の満充電容量推定方法であって、
充電前後のSOC差と充電中の充電電流積算値とに基づいて算出される満充電容量を充電毎に学習して学習満充電容量を算出するにあたり、前回算出された学習満充電容量に、充電後に取得される前記算出された満充電容量を反映して新たな学習満充電容量を算出するステップを含み、
前記新たな学習満充電容量を算出するステップは、充電中の充電電流値及び充電後の前記蓄電装置の温度の少なくとも一方に基づいて、前記新たな学習満充電容量に反映される前記算出された満充電容量の反映量を変更することを特徴とする蓄電装置の満充電容量推定方法。
【請求項2】
充電電流値及び前記蓄電装置の温度の少なくとも一方に関連付けられ、前記新たな学習満充電容量に反映される前記算出された満充電容量の反映量を予め規定した学習パラメータの中から、前記充電中に充電電流値又は充電後の前記蓄電装置の温度に基づいて決定するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の蓄電装置の満充電容量推定方法。
【請求項3】
前記学習パラメータは、充電電流値が高いほど又は/及び前記蓄電装置の電池温度が高いほど、前記新たな学習満充電容量に反映される前記算出された満充電容量の割合が大きくなるように規定されていることを特徴とする請求項2に記載の蓄電装置の満充電容量推定方法。
【請求項4】
充電開始の際の前記蓄電装置の第1端子間電圧を検出するステップと、
充電中の充電電流値を検出し、検出された充電電流値を積算して前記充電電流積算値を算出するステップと、
充電終了後の前記蓄電装置の第2端子間電圧を検出するステップと、
前記第1端子間電圧と前記第2端子間電圧それぞれに対するSOCを算出し、充電前後の前記SOC差を算出するステップと、
をさらに含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の蓄電装置の満充電容量推定方法。
【請求項5】
充放電を行う蓄電装置と、外部電源から供給される電力を前記蓄電装置に充電する充電器と、を備えた車両に搭載される蓄電システムであって、
前記蓄電装置の電圧を検出する電圧センサと、
前記蓄電装置の充放電電流又は前記充電器から前記蓄電装置に出力される充電電流を検出する電流センサと、
前記蓄電装置の温度を検出する温度センサと、
充電前後のSOC差と充電中の充電電流積算値とに基づいて算出される満充電容量を充電毎に学習して前記蓄電装置の学習満充電容量を算出するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前回算出された学習満充電容量に充電後に取得される前記算出された満充電容量を反映して新たな学習満充電容量を算出するとともに、充電中の充電電流値及び充電後の前記蓄電装置の温度の少なくとも一方に基づいて、前記新たな学習満充電容量に反映される前記算出された満充電容量の反映量を変更することを特徴とする蓄電システム。
【請求項6】
充放電を行う蓄電装置と、外部電源から供給される電力を前記蓄電装置に充電する充電器と、を備えた車両に搭載される蓄電システムであって、
電圧センサによって検出される充電開始の際の前記蓄電装置の第1端子間電圧及び充電終了後の前記蓄電装置の第2端子間電圧それぞれに対応するSOCを算出し、充電前後のSOC差を算出するとともに、電流センサによって検出される充電中の充電電流の積算値を算出する充電制御部と、
充電前後の前記SOC差と充電中の前記充電電流積算値とに基づいて算出される満充電容量を充電毎に学習して学習満充電容量を算出するにあたり、前回算出された学習満充電容量に、充電後に取得される前記算出された満充電容量を反映して新たな学習満充電容量を算出する満充電容量演算部と、を有し、
前記満充電容量演算部は、充電中の充電電流値及び温度センサによって検出される充電後の前記蓄電装置の温度の少なくとも一方に基づいて、前記新たな学習満充電容量に反映される前記算出された満充電容量の反映量を変更することを特徴とする蓄電システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−101072(P2013−101072A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245539(P2011−245539)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】