説明

蓄電装置用電極及びその作製方法

【課題】充放電による劣化の少ない蓄電装置用電極及びその作製方法を提供する。または、容量が大きく、且つ耐久性の高い蓄電装置を提供する。
【解決手段】活物質が集電体上に設けられた蓄電装置の電極において、活物質の表面が{110}面の結晶を有する結晶性半導体膜で形成されている。なお、{110}面の結晶を有する結晶性半導体膜は、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素を含有する結晶性シリコン膜でもよい。または、{110}面の結晶を有する結晶性半導体膜は、シリコンを主成分とし、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素及びゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜でもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置用電極及びその作製方法に関する。また、当該蓄電装置用電極を有する蓄電装置に関する。
【0002】
なお、蓄電装置とは、蓄電機能を有する素子及び装置全般を指すものである。
【背景技術】
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオンキャパシタなど、蓄電装置の開発が行われている。
【0004】
上記蓄電装置用電極は、集電体の一表面に活物質を形成することにより作製される。活物質としては、例えば炭素又はシリコンなどのキャリアとなるイオンの吸脱着が可能な材料が用いられる。例えばシリコンは、炭素に比べ、理論容量が大きく、蓄電装置の大容量化という点において優れている。しかしながら、シリコンは、充電時においてリチウムと結合することにより体積が膨張する。一方、放電時においてリチウムが脱離し、体積が縮小する。これらの活物質の体積の膨張及び収縮により、負極の機械的損傷が生じてしまい、蓄電装置の充放電サイクル特性が悪化してしまう。このため、活物質の体積膨張による影響を緩和する技術がいくつか提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−134917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一態様では、充放電による劣化の少ない蓄電装置用電極及びその作製方法を提供することを課題とする。または、本発明の一態様では、容量が大きく、且つ耐久性の高い蓄電装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、活物質が集電体上に設けられた蓄電装置の電極において、活物質の表面となる領域が{110}面の結晶を有する結晶性半導体膜で形成されていることを要旨とする。なお、{110}面の結晶を有する結晶性半導体膜は、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素を含有する結晶性シリコン膜でもよい。または、{110}面の結晶を有する結晶性半導体膜は、シリコンを主成分とし、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素及びゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜でもよい。
【0008】
また、本発明の一態様は、活物質が集電体上に設けられた蓄電装置の負極において、活物質が積層構造であり、該積層構造は集電体に接して且つシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜と、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜に接し、且つ{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜との積層であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様は、活物質が集電体上に設けられた蓄電装置の電極において、活物質が積層構造であり、該積層構造は集電体に接して且つ{110}面の結晶を有し、シリコンを主成分とし金属元素及びゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜と、{110}面の結晶を有し且つ金属元素を含有する結晶性シリコン膜との積層であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様は、集電体上に形成されたシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜に金属元素を導入した後結晶化処理を行い、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜を活物質として形成する蓄電装置用電極の作製方法である。
【0011】
また、本発明の一態様は、集電体上に形成されたシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜上に、非晶質シリコン膜を形成した後、レーザ光を照射して結晶化処理を行い、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜を活物質の最上層に設ける蓄電装置用電極の作製方法である。
【0012】
また、本発明の一態様は、集電体上に形成されたシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜上に、非晶質シリコン膜を形成し、非晶質シリコン膜に金属元素を導入した後結晶化処理を行い、{110}面の結晶を有し且つ金属元素を含有する結晶性シリコン膜を活物質の最上層に設ける蓄電装置用電極の作製方法である。なお、{110}面の結晶を有し、シリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜、及び{110}面の結晶を有し且つ金属元素を含有する結晶性シリコン膜において、{110}面の配向率が高いことが好ましい。代表的には、{110}面の配向率は20%以上100%以下であることが好ましい。
【0013】
上記集電体は、負極集電体であり、代表的にはステンレス、銅、ニッケル、タングステン、またはモリブデンである。また、上記活物質は負極活物質である。また、上記金属元素は、シリコンと反応しシリサイドを形成する金属元素であり、代表的には、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル、または白金である。
【0014】
なお、(110)、(101)、(011)、さらには前記面それぞれの1が−1である面のように、等価な面をまとめて{110}面と表記している。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様により、充放電による劣化の少ない蓄電装置用電極を作製することができる。また、本発明の一態様により、容量が大きく、且つ耐久性の高い蓄電装置を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】蓄電装置の負極を説明するための断面図である。
【図2】蓄電装置の負極を説明するための図である。
【図3】蓄電装置の負極の作製方法を説明するための断面図である。
【図4】蓄電装置の負極の作製方法を説明するための断面図である。
【図5】蓄電装置の負極を説明するための断面図である。
【図6】蓄電装置の負極の作製方法を説明するための断面図である。
【図7】蓄電装置の負極の作製方法を説明するための断面図である。
【図8】蓄電装置の一形態を説明するための断面図である。
【図9】蓄電装置の応用の形態を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態の一例について、図面を用いて以下に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではないとする。なお、説明中に図面を参照するにあたり、同じものを指す符号は異なる図面間でも共通して用いる場合がある。また、同様のものを指す際には同じハッチパターンを使用し、特に符号を付さない場合がある。
【0018】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様である蓄電装置用電極及びその作製方法について説明する。
【0019】
本実施の形態の蓄電装置用電極の一形態について図1を用いて説明する。
【0020】
図1は、蓄電装置の電極(負極)の一形態であり、集電体103と、集電体103の一表面上に設けられた、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109で形成される活物質とを有する。なお、集電体103は基板101上に形成されている。結晶性半導体膜の{110}面は、電子後方散乱パターン(Electron BackScattering Pattern:EBSP)またはX線回折(X‐ray diffraction:XRD)で検出することができる。
【0021】
基板101は、ガラス、石英、アルミナ等のセラミックス、後の加熱処理に対する耐熱性を有するプラスチックを用いることができる。
【0022】
集電体103は、負極の集電体として用いることが可能な導電性を有し、且つ後の加熱処理に対する耐熱性を有する材料を適宜用いて形成する。負極の集電体として用いることが可能な導電性材料としては、ステンレス、銅、ニッケル、タングステン、モリブデン等があるが、これに限定されない。また、集電体103として、酸化物導電材料を用いることが可能であり、酸化物導電材料の代表例としては、酸化タングステンを含むインジウム酸化物、酸化タングステンを含むインジウム亜鉛酸化物、酸化チタンを含むインジウム酸化物、酸化チタンを含むインジウム錫酸化物、インジウム錫酸化物、インジウム亜鉛酸化物、または酸化シリコンを添加したインジウム錫酸化物等がある。なお、集電体103は箔状、板状、網状であってもよい。このような形状の場合、集電体103単独で形状保持できるため、基板101を用いる必要はない。
【0023】
{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109において、ゲルマニウムの濃度範囲は0.1原子%以上10原子%以下、さらには1原子%以上5原子%以下であることが好ましい。ゲルマニウムの濃度が0.1原子%より低い場合及び10原子%より高い場合は、{110}面の配向率が低減してしまう。また、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109において、{110}面の配向率が高いことが好ましく、代表的には、20%以上100%以下であることが好ましい。
【0024】
また、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109は、1×1019/cmを越える濃度の金属元素を含有するため、導電率が高い。
【0025】
さらに、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109において、添加するゲルマニウムの濃度を0.1原子%以上10原子%以下の濃度範囲とするだけでなく、膜中に含まれる酸素、窒素、炭素の元素の濃度を1×1019/cm未満、好ましくは酸素濃度を1×1018/cm未満、窒素及び炭素濃度は5×1018/cm未満にし、膜厚を20nm以上100nm以下の範囲とすることが好ましい。この結果、シリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109において、基板101表面と平行な方向の成長が支配的となり、{110}面の配向率を高めることが可能である。
【0026】
ここで、[100]方向、[111]方向、[110]方向それぞれから見た単結晶シリコンの平面的原子配列を図2に示す。図2(A)は、[100]から見た原子配列であり、(100)面に対応する。図2(B)は、[111]から見た原子配列であり、(111)面に対応する。図2(C)は、[110]から見た原子配列であり、(110)面に対応する。各図において、丸印でシリコン原子を表し、丸印をつなぐ直線で結合を表す。図2(A)では[100]、図2(B)では[111]、図2(C)では[110]、それぞれに垂直な原子網面において、同じ原子網面に存在するシリコン原子を同じハッチングを用いて示す。
【0027】
図2から、(100)面、(111)面と比較して、(110)面におけるシリコン原子間の空間が広い。このことから、{110}面の結晶を有し、且つ少なくともシリコンを主成分とする結晶性半導体膜を負極の活物質として用いることで、充電時に負極活物質へリチウムイオンが挿入し、リチウムーシリコン合金が形成され、体積が膨張しても、格子空間が広いため、体積膨張による負極の劣化を低減することが可能である。また、リチウムイオンの脱離量及び挿入量が増加し、放電容量を増大させることが可能である。
【0028】
さらに、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109は、1×1019/cmを越える濃度の金属元素を含有するため、導電率が高い。このため、活物質の酸化還元反応が促進され、放電容量を高めることができる。
【0029】
次に、図1に示す蓄電装置の電極(負極)の作製方法について、図3を用いて説明する。
【0030】
図3(A)に示すように、基板101上に集電体103を形成し、集電体103上にシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105を形成する。
【0031】
集電体103は、スパッタリング法、蒸着法、印刷法、インクジェット法、CVD法等を適宜用いることができる。
【0032】
シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105は、シリコンを主成分としゲルマニウムを0.1原子%以上、10原子%以下(好ましくは1原子%以上5原子%以下)の範囲で含有する。ゲルマニウムの含有量は、代表的な堆積性ガスとして用いられるSiHとGeHの混合比により調節することができる。また、非晶質半導体中に含まれる窒素及び炭素の濃度は5×1018/cm未満、酸素の濃度は1×1018/cm未満とし、非晶質半導体膜の結晶化の過程において悪影響が出ないようにする。
【0033】
シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105は、プラズマCVD法や減圧CVD法で形成することができる。また、ゲルマニウムを含むシリコンからなるターゲットを用いたスパッタリング法で形成することができる。プラズマCVD法や減圧CVD法で形成する場合、ゲルマニウムを0.1原子%以上、10原子%以下となるように、シリコンを含む堆積性ガスと、ゲルマニウムを含む堆積性ガスとをプラズマCVD装置の反応室内に導入し、グロー放電プラズマによりグロー放電分解して形成する。または、シリコンを含む堆積性ガスと、ゲルマニウムを含む堆積性ガスとのほかに、水素及び希ガスの一以上を混合してもよい。希ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン等がある。または、ゲルマニウムを0.1原子%以上、10原子%以下となるように、シリコンを含む堆積性ガス及び水素で希釈されたゲルマニウムを含む堆積性ガスをプラズマCVD装置の反応室内に導入し、グロー放電プラズマによりグロー放電分解して形成することができる。
【0034】
シリコンを含む堆積性ガスとしては、水素化シリコン、フッ化シリコン、または塩化シリコンがあり、代表的には、SiH、Si、SiF、SiCl、SiCl等がある。ゲルマニウムを含む堆積性ガスとしては、水素化ゲルマニウム、フッ化ゲルマニウム、または塩化ゲルマニウムがあり、代表的には、GeH、Ge、GeF、GeF、GeCl、GeCl等がある。
【0035】
次に、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105に、該非晶質半導体膜の結晶化を助長する金属元素を導入する。金属元素としては、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素の一種または複数種を用いる。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル、または白金がある。これら金属元素は、本明細書に記載する何れの発明においても非晶質半導体膜の結晶化を助長する金属元素として使用することができる。上記いずれの金属元素を用いても同質、同様の効果を得ることができるが、本実施の形態では、金属元素としてニッケルを用いる。
【0036】
シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105に、1×1019/cmを越える濃度の金属元素を導入することで、後の結晶化工程において、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜の結晶性を高めることができる。
【0037】
シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105に上記金属元素を導入する箇所は、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105の全面、またはシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105の膜面において適宣箇所(直線状、格子状、または点状)とすることができる。
【0038】
シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105に上記金属元素を導入する方法は、スパッタリング法、蒸着法、プラズマ処理法(プラズマCVD法を含む。)、吸着法、金属塩の溶液を塗布する方法、インクジェット法、印刷法などを適宜使用することができる。プラズマ処理法は、不活性ガスによるグロー放電雰囲気において、陰極からスパッタリングされる金属元素を利用する。また、金属塩の溶液を塗布する方法、印刷法、インクジェット法等は簡易であり、金属元素の濃度調整が容易である点で有用である。なお、上記金属元素の導入は、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105の基板101側に位置する面または基板101側とは反対の面のいずれの面からであっても良い。
【0039】
金属塩としては各種塩を用いることが可能であり、溶媒としては水、アルコール類、アルデヒド類、エーテル類その他の有機溶媒、または水とこれらの有機溶媒の混合物を用いることができる。また、それらの金属塩が完全に溶解した溶液とは限らず、金属塩の一部または全部が懸濁状態で存在する溶液であっても良い。
【0040】
金属塩の溶液を塗布する方法、印刷法、インクジェット法等を用いて、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105に金属元素を導入する場合、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105表面における金属塩の溶液のぬれ性を高めるために、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105の表面に、きわめて薄い酸化膜を形成することが好ましい。当該酸化膜はオゾン含有水溶液の暴露により形成することができる。
【0041】
本実施の形態では、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105の表面に、きわめて薄い酸化膜を形成した後、図3(B)に示すように、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105上に金属塩の溶液107を塗布する。
【0042】
次に、当該金属元素を利用してシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105の結晶化を行い、図3(C)に示すように、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109を形成することができる。結晶化処理は、加熱処理、レーザ光、紫外線、赤外線などの強光の照射によって行う。加熱処理のみでも、優先的に{110}面を有するシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜を形成することができるが、加熱処理と共に、レーザ光などの強光の照射により、結晶粒内に残存する結晶欠陥を修復し消滅させることができる。
【0043】
加熱処理は450℃以上750℃以下が好ましく、より好適には550〜600℃にて4〜24時間の加熱処理を行う。その後、レーザ光などの強光の照射を行う場合には、500〜550℃にて4〜8時間の熱処理を行う。以上の加熱処理は空気中や水素雰囲気中でも良いが、好適には窒素或いは不活性ガス雰囲気中にて行う。
【0044】
また、レーザ光の照射は、波長400nm以下のエキシマレーザーや、YAGまたはYVOレーザの第2高調波(波長532nm)〜第4高調波(波長266nm)を光源として用いて行う。これらのレーザ光は光学系にて線状またはスポット状に集光して走査させて照射する。レーザの代わりに、ハロゲンランプ、キセノンランプ、水銀ランプ、メタルハライドランプなどを光源として強光を照射してもよい。
【0045】
なお、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109に水素化処理を用いて0.01原子%以上1原子%以下の水素を含有させることにより、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109に残存する欠陥を効果的に低減させることができる。水素化処理は、水素を含む雰囲気中で350〜500℃の加熱処理により行うことができる。または、水素を含む雰囲気で発生させたプラズマを結晶性半導体膜に曝すことで水素化を行うことも可能である。また、フッ化シリコン、フッ化ゲルマニウムなどのフッ化物により堆積されたシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105は、0.001原子%以上1原子%以下のフッ素が膜中に残存するため、欠陥が当該フッ素により補償される。
【0046】
以上のような工程により、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜を形成することができる。
【0047】
ここで、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜が得られるメカニズムについて、説明する。
【0048】
はじめに、金属元素により促進されるアモルファスシリコン膜の結晶化について、説明する。
【0049】
400〜500℃の加熱処理により金属元素と非晶質シリコンのシリコンが反応してシリサイドが形成される。当該シリサイドが結晶核となり、その後の結晶成長に寄与する。例えば、代表的な金属元素としてニッケルを用いた場合、ニッケルシリサイド(以下、NiSiと記する)が形成される。ニッケル原子は、結晶シリコン中よりも非晶質シリコン中の固溶度の方が高いため、ニッケル原子は非晶質シリコン側に移動する。
【0050】
NiSiの構造はホタル石型構造であり、ダイヤモンド型構造のシリコン格子間にニッケル原子を配置した構造となっており、NiSiからニッケル原子が無くなるとシリコンの結晶構造が残る構造である。NiSiの構造はダイヤモンド型構造と類似しており、特に(111)面の構造が類似しているため、NiSiとダイヤモンド型構造のシリコンの界面は整列状態(すなわち、界面エネルギーの少ない状態)といえる。
【0051】
NiSiは特定の配向性を持たないが、非晶質半導体膜の厚さを20以上100nm以下とすると、主に基板表面に対し平行な方向に結晶成長する。この場合、NiSiと結晶シリコンの(111)面との界面における界面エネルギーが最も小さいので、結晶成長方向(すなわち、基板表面に対し平行な方向)と垂直な面は、(111)面が優先的に配向する。この結果、結晶質シリコン膜の表面と平行な面は(110)面となり、この面が優先的に配向する。なお、結晶成長方向が基板表面に対し平行な方向に、しかも柱状に成長する場合には、その柱状結晶を軸とした回転方向には自由度が存在するため、必ずしも(110)面が配向するとは限らないため、その他の面も析出すると考えられる。
【0052】
次に、金属元素により促進される、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜の結晶化について、説明する。結晶核であるNiSiが形成されるとき、原子間距離の違いによりシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜においては、NiSi中にゲルマニウムが殆ど固溶されないため、非晶質半導体膜中のゲルマニウムを周囲に排除しつつ結晶核であるNiSiが形成される。従って、ゲルマニウムは柱状結晶の外側に偏析する。NiSiから見ると、周囲の非晶質半導体のみに原子半径の大きいゲルマニウムが存在しているため、大きな歪み(引っ張り応力)が発生していることが予想される。この歪みエネルギーにより、結晶核の隣接間距離が長くなり、結晶核密度が低下する。すなわち、核生成の臨界半径を大きくする方向に働く。さらに、この歪み(引っ張り応力)は、NiSiによる核の結晶方位に制限を与え、特定の結晶面(具体的には、(110)面)の配向率を高める作用があると推測される。
【0053】
なお、この後、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109上に非晶質シリコン膜を形成し、加熱処理を行うことで、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109を種結晶として、非晶質シリコン膜を固相成長(固相エピタキシャル成長)させて、{110}面の結晶を有し、金属元素を含有する結晶性シリコン膜を形成することが可能であり、負極の活物質の厚さを厚くすることができる。
【0054】
または、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109上に、微結晶シリコン膜または結晶性シリコン膜の成膜条件を用いたプラズマCVD法で半導体膜を堆積すると、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109を種結晶として気相成長(気相エピタキシャル成長)させ、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜を形成することが可能であり、負極の活物質の厚さを厚くすることができる。微結晶シリコン膜または結晶性シリコン膜の成膜条件とは、シリコンを含む堆積性ガスに対する水素の希釈比を高くする条件であり、代表的にはシリコンを含む堆積性ガスの10倍以上200倍以下の流量の水素で希釈すればよい。
【0055】
以上の工程により、図1に示す蓄電装置の電極を作製することができる。
【0056】
次に、図3とは異なる蓄電装置の電極の作製方法について、図4を用いて説明する。
【0057】
図4(A)に示すように、基板101上に集電体103を形成する。
【0058】
次に、集電体103上に非晶質シリコン膜111を形成する。非晶質シリコン膜111は、プラズマCVD法や減圧CVD法で形成することができる。または、シリコンからなるターゲットを用いたスパッタリング法で形成することができる。
【0059】
非晶質シリコン膜111をプラズマCVD法や減圧CVD法で形成する場合、シリコンを含む堆積性ガスをプラズマCVD装置の反応室内に導入し、グロー放電プラズマによりグロー放電分解して形成する。または、シリコンを含む堆積性ガスのほかに、水素及び希ガスの一以上を混合してもよい。
【0060】
次に、非晶質シリコン膜111にゲルマニウムイオン113を添加する。ゲルマニウムイオンの添加方法としては、イオン注入法またはイオンドープ法を用いることができる。ゲルマニウムイオンはゲルマンを分解して得られるため、ゲルマンを分解したゲルマニウムイオンを非晶質シリコン膜111に添加する。ゲルマニウムを添加する量は0.1原子%以上10原子%以下とする。イオン注入法またはイオンドープ法では、加速電圧及びドーズ量を制御することにより、添加するゲルマニウムの量を正確に制御することができる。
【0061】
この結果、図4(B)に示すように、集電体103上にシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜115を作製することができる。
【0062】
次に、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜115に、該非晶質半導体膜の結晶化を助長する金属元素を導入する。本実施の形態では、図4(B)に示すように、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105上に金属塩の溶液107を塗布する。
【0063】
次に、当該金属元素を利用してシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜115の結晶化を行い、図4(C)に示すように、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109を形成することができる。
【0064】
なお、この後、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109上に非晶質シリコン膜を形成し、加熱処理を行うことで、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109を種結晶として、非晶質シリコン膜を固相成長(固相エピタキシャル成長)させて、{110}面の結晶を有し、金属元素を含有する結晶性シリコン膜を形成し、負極の活物質の厚さを厚くすることができる。
【0065】
または、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109上に、微結晶シリコン膜または結晶性シリコン膜の成膜条件を用いたプラズマCVD法で半導体膜を堆積すると、{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109を種結晶として気相成長(気相エピタキシャル成長)させ、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜を形成することが可能であり、負極の活物質の厚さを厚くすることができる。微結晶シリコン膜または結晶性シリコン膜の成膜条件とは、シリコンを含む堆積性ガスに対する水素の希釈比を高くする条件であり、代表的にはシリコンを含む堆積性ガスを10倍以上200倍以下の流量の水素で希釈すればよい。
【0066】
以上の工程により、図1に示す蓄電装置の電極を作製することができる。
【0067】
(実施の形態2)
本実施の形態の蓄電装置用電極の一形態について図5を用いて説明する。
【0068】
図5(A)は、蓄電装置の電極(負極)の一形態であり、集電体103と、集電体103の一表面上に設けられたシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜123と、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜123上に設けられた、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜125とを有する。ここでは、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜123及び{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜125が活物質として機能する。なお、集電体103は基板101上に形成されている。
【0069】
シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜123に含まれるゲルマニウムの濃度範囲は0.1原子%以上10原子%以下であることが好ましい。また、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜125において、{110}面の配向率が高いことが好ましく、代表的には20%以上100%以下であることが好ましい。
【0070】
さらに、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜123は、添加するゲルマニウムの濃度を0.1原子%以上10原子%以下の濃度範囲で添加するだけでなく、膜中に含まれる酸素、窒素、炭素の元素の濃度を1×1019/cm未満、好ましくは酸素濃度を1×1018/cm未満、窒素及び炭素濃度は5×1018/cm未満にすることが好ましい。
【0071】
シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜123の厚さは、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜125に対して薄くなるように形成することが好ましい。代表的には、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜123の厚さは5nm以上30nm以下とし、その上に形成する{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜125の厚さは15nm以上70nm以下として形成する。シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜123は、シリコンに対して原子半径の大きなゲルマニウムを含有し、結晶核の生成密度を小さくすることができる。シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜123は、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜125の形成工程において、特定の結晶面の配向を高めるための種結晶として利用するため、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜125よりも薄く形成することが望ましい。
【0072】
負極の活物質として、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜123及び{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜125の積層を用いることで、充放電による負極の劣化を低減することが可能であると共に、放電容量を増大させることが可能である。
【0073】
次に、本実施の形態の蓄電装置用電極の他の形態について図5(B)を用いて説明する。
【0074】
図5(B)は、蓄電装置の電極(負極)の一形態であり、集電体103と、集電体103の一表面上に設けられた、{110}面の結晶を有し、シリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜131と、{110}面の結晶を有し、シリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜131上に設けられた、{110}面の結晶を有し且つ金属元素を含有する結晶性シリコン膜133とを有する。ここでは、{110}面の結晶を有し、シリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜131、及び{110}面の結晶を有し且つ金属元素を含有する結晶性シリコン膜133が活物質として機能する。なお、集電体103は基板101上に形成されている。{110}面の結晶を有し、シリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜131、及び{110}面の結晶を有し且つ金属元素を含有する結晶性シリコン膜133において、{110}面の配向率が高いことが好ましく、代表的には20%以上100%以下であることが好ましい。
【0075】
{110}面の結晶を有し、シリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜131は、実施の形態1に示す、{110}面の結晶を有し、シリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜109と同様の膜である。
【0076】
{110}面の結晶を有し且つ金属元素を含有する結晶性シリコン膜133は、さらに、1×1019/cmを越える濃度の金属元素を含有するため、導電率が高い。
【0077】
負極の活物質として、{110}面の結晶を有し、シリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜131、及び{110}面の結晶を有し且つ金属元素を含有する結晶性シリコン膜133の積層を用いることで、充放電による負極の劣化を低減することが可能であると共に、放電容量を増大させることが可能である。
【0078】
次に、図5(A)に示す蓄電装置の電極の作製方法について、図6を用いて説明する。
【0079】
図6(A)に示すように、基板101上に集電体103を形成する。集電体103は、実施の形態1に示す集電体103に示す材料を適宜用いて形成する。また、箔状、板状、網状等の集電体103を用いることができる。
【0080】
次に、集電体103上に、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105を形成する。次に、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105上に非晶質シリコン膜111を形成する。シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105の膜厚は、非晶質シリコン膜111の半分以下の膜厚とすることが好ましく、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105と非晶質シリコン膜111との積層膜の総膜厚を20nm以上100nm以下(好ましくは30nm以上60nm以下)とすることが望ましい。
【0081】
また、汚染を防ぐために大気に触れることなく、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105及び非晶質シリコン膜111を連続的に成膜することが好ましい。
【0082】
次に、図6(B)に示すように、非晶質シリコン膜111にレーザ光121を照射する。この結果、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105及び非晶質シリコン膜111を結晶化し、図6(C)に示すように、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜123及び{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜125を形成することができる。
【0083】
レーザ光の照射は、波長400nm以下のエキシマレーザーや、YAGレーザまたはYVOレーザの第2高調波(波長532nm)〜第4高調波(波長266nm)を光源として用いて行う。これらのレーザ光は光学系にて線状またはスポット状に集光して照射し、上記のように集光したレーザービームを基板の所定の領域に渡って走査させ処理を行う。また、図6(B)では、非晶質シリコン膜111の表面側からのみ照射した形態を示しているが、両面から照射してもよい。その他、レーザ光の代わりに、ハロゲンランプ、キセノンランプ、水銀ランプ、メタルハライドランプなどを光源とする強光を照射してもよい。また、レーザ光を非晶質シリコン膜111に照射した後、ハロゲンランプ、キセノンランプ、水銀ランプ、メタルハライドランプなどの強光を照射してもよい。
【0084】
なお、上記レーザ光の照射を行う前に、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105及び非晶質シリコン膜111が含有する水素を放出させておくことが好ましく、400〜500℃で1時間程度の熱処理を行い、含有する水素量を5atom%以下にしてからレーザ光を照射して結晶化させると、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜125表面の荒れを防ぐことができる。
【0085】
ここで、上記レーザ光の照射により、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜を形成することができるメカニズムについて、説明する。
【0086】
レーザ光を照射する非晶質シリコン膜が単層の場合、レーザ光の照射後の固相化過程において、溶融した液相シリコンの熱は集電体103に拡散するため、液相シリコンは集電体103との界面から冷却されて、固相化が進み結晶化する。従って、膜面に対して垂直方向に結晶成長が生じる。
【0087】
一方、レーザ光を照射するシリコン膜が、本実施の形態に示すように、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105上に形成される場合、ゲルマニウムの融点は937℃であり、シリコンの融点である1415℃より低いため、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105と非晶質シリコン膜111とでは、固相化が始まる温度が若干異なり、非晶質シリコン膜111のほうが高い温度で固相化が始まる。従って、非晶質シリコン膜111が一部固相化し始めても、しばらくの間シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105は溶融した液相である状態が続く。こうして結晶化した結晶性シリコン膜125は、基板上に形成された集電体103の影響を受けない。また、レーザ光の照射後の固相化過程において、溶融した液相シリコンは、溶融した液相状態のシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105との界面付近で過冷却になりやすいと考えられる。この結果、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜を形成することができる。
【0088】
なお、この後、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜125上に非晶質シリコン膜を形成し、加熱処理を行うことで、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜を種結晶として、非晶質シリコン膜を固相成長(固相エピタキシャル成長)させて、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜を形成することが可能であり、負極の活物質の厚さを厚くすることができる。
【0089】
または、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜125上に、微結晶シリコン膜または結晶性シリコン膜の成膜条件を用いたプラズマCVD法で半導体膜を堆積すると、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜125を種結晶として気相成長(気相エピタキシャル成長)させ、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜を形成することが可能であり、負極の活物質の厚さを厚くすることができる。微結晶シリコン膜または結晶性シリコン膜の成膜条件とは、シリコンを含む堆積性ガスに対する水素の希釈比を高くする条件であり、代表的にはシリコンを含む堆積性ガスを10倍以上200倍以下の流量の水素で希釈すればよい。
【0090】
次に、図5(B)に示す蓄電装置の電極の作製方法について、図7を用いて説明する。
【0091】
図7(A)に示すように、基板101上に集電体103を形成する。集電体103は、実施の形態1に示す集電体103と同様の作製方法を適宜用いて形成する。または、箔状、板状、網状等の集電体103を用いることができる。
【0092】
次に、集電体103上に、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105を形成する。次に、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105上に非晶質シリコン膜111を形成する。
【0093】
次に、図7(B)に示すように、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105及び非晶質シリコン膜111に、実施の形態1と同様に該非晶質半導体膜の結晶化を助長する金属元素を導入する。ここでは、非晶質シリコン膜111上に金属塩の溶液107を塗布する。
【0094】
次に、結晶化をするための加熱処理に先立って、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105及び非晶質シリコン膜111が含有する水素を放出させる脱水素化処理を行う。この処理は400〜500℃にて0.5〜5時間、代表的には500℃にて1時間の条件で脱水素化処理を行う。
【0095】
次に、実施の形態1と同様に結晶化処理を行うことで、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105及び非晶質シリコン膜111に金属元素が拡散し、結晶核が形成されると共に、当該結晶核を利用してシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105及び非晶質シリコン膜111の結晶化を行う。結晶化処理は加熱処理、レーザ光、紫外線、赤外線などの強光の照射によって行う。加熱処理のみでも{110}面に優先的に配向する結晶質シリコン膜を得ることができるが、好ましくは、加熱処理を行いその後レーザ光、紫外線、赤外線などの強光の照射を行う方法を適用する。加熱処理後のレーザ処理は、結晶粒内に残される結晶欠陥を修復し消滅させることができる。
【0096】
この結果、図7(C)に示すように、{110}面の結晶を有し、シリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜131及び{110}面の結晶を有し、金属元素を含有する結晶性シリコン膜133を形成することができる。
【0097】
シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105及び非晶質シリコン膜111に導入されたシリコンの結晶化を助長する元素としては、実施の形態1と同様に金属元素と非晶質シリコンのシリコンが反応してシリサイドが形成される元素を用いることができる。当該シリサイドが結晶核となり、その後の結晶成長に寄与する。
【0098】
また、非晶質半導体膜中におけるニッケルの拡散速度は、膜中にゲルマニウムが含まれる方が早いことが考えられる。このため、NiSiによる結晶の成長は、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105の方が早く結晶成長することが考えられる。
【0099】
以上の考察より、加熱処理によって、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜105は結晶化され、{110}面の結晶を有し、シリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜131となる。また、上記結晶化に伴って非晶質シリコン膜111では、{110}面の結晶を有し、シリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜131を種結晶とし、エピタキシャル成長が生じ、{110}面の結晶を有し、金属元素を含有する結晶性シリコン膜133が形成される。
【0100】
なお、この後{110}面の結晶を有し、金属元素を含有する結晶性シリコン膜133上に非晶質シリコン膜を形成し、加熱処理を行うことで、{110}面の結晶を有し、金属元素を含有する結晶性シリコン膜133を種結晶として、非晶質シリコン膜を固相成長(固相エピタキシャル成長)させて、{110}面の結晶を有し、金属元素を含有する結晶性シリコン膜を形成することが可能であり、負極の活物質の厚さを厚くすることができる。
【0101】
または、{110}面の結晶を有し、金属元素を含有する結晶性シリコン膜133上に、微結晶シリコン膜または結晶性シリコン膜の成膜条件を用いたプラズマCVD法で半導体膜を堆積すると、{110}面の結晶を有し、金属元素を含有する結晶性シリコン膜133を種結晶として気相成長(気相エピタキシャル成長)させ、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜を形成することが可能であり、負極の活物質の厚さを厚くすることができる。微結晶シリコン膜または結晶性シリコン膜の成膜条件とは、シリコンを含む堆積性ガスに対する水素の希釈比を高くする条件であり、代表的にはシリコンを含む堆積性ガスの10倍以上200倍以下の流量の水素で希釈すればよい。
【0102】
以上の工程により、図5(B)に示す蓄電装置の電極を作製することができる。
【0103】
(実施の形態3)
本実施の形態では、蓄電装置の構造について、図8を用いて説明する。
【0104】
はじめに、蓄電装置として、二次電池の構造について、以下に説明する。
【0105】
二次電池において、正極活物質としてLiCoO等のリチウム含有金属酸化物を用いたリチウムイオン電池は、容量が高く、安全性が高い。ここでは、二次電池の代表例であるリチウムイオン電池の構造について、説明する。
【0106】
図8は、蓄電装置201の断面図である。
【0107】
図8に示す蓄電装置201は、保護部材203の内部に蓄電セル205を有する。また、蓄電セル205に接続する端子部207、209を有する。保護部材203は、エポキシ樹脂、フッ化樹脂等の有機樹脂を用いることができる。
【0108】
図8に示すように、蓄電セル205は、基板211上に形成された負極213と、正極215と、負極213及び正極215の間に設けられる電解質217とで構成される。負極213は負極集電体219及び負極活物質221で構成される。また、正極215は正極集電体223及び正極活物質225で構成される。
【0109】
負極集電体219は、保護部材203の開口部において端子部209と接続する。また、正極集電体223は、保護部材203の開口部において端子部207と接続する。
【0110】
なお、本実施の形態では、蓄電装置201として、基板211上に蓄電セル205が設けられた構造を示したが、適宜パウチされた薄型蓄電装置、ボタン型蓄電装置、円筒型、角型等様々な形状の蓄電装置を用いることができる。
【0111】
負極集電体219は、実施の形態1及び実施の形態2に示す集電体を用いることができる。
【0112】
負極活物質221は、実施の形態1及び実施の形態2に示す活物質を用いることができる。なお、負極活物質221にリチウムをプレドープしてもよい。リチウムのプレドープ方法としては、スパッタリング法により負極活物質221表面にリチウム膜を成膜することで、負極活物質221にリチウムをプレドープすることができる。または、負極活物質221の表面にリチウム箔を設けることで、負極活物質221にリチウムをプレドープすることができる。
【0113】
正極集電体223は、アルミニウム、ステンレス等を用いる。正極集電体223は、箔状、板状、網状等の形状を適宜用いることができる。
【0114】
正極活物質225は、LiFeO、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiFe(II)PO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO、V、Cr、MnO、その他の材料を用いることができる。
【0115】
ここでは、電解質217として、LiPO、LiPON、LiFe(III)PO等の固体電解質を用いる。
【0116】
なお、電解質217として液体電解質を用いる場合は、電解質217の溶質としては、リチウムイオンを移送可能で、且つリチウムイオンが安定に存在する材料を用いる。電解質の溶質の代表例としては、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、Li(CSON等のリチウム塩がある。電解質217の溶媒としては、リチウムイオンの移送が可能な材料を用いる。なお、電解質217の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましい。非プロトン性有機溶媒の代表例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γーブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等があり、これらの一つまたは複数を用いることができる。また、電解質217の溶媒としてゲル化される高分子材料を用いることで、漏液性を含めた安全性が高まると共に、蓄電装置201の薄型化及び軽量化が可能である。ゲル化される高分子材料の代表例としては、シリコンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、フッ素系ポリマー等がある。
【0117】
なお、電解質217として液体電解質を用いる場合、負極213及び正極215の間にセパレータを用いることが好ましい。
【0118】
セパレータは、絶縁性の多孔体を用いる。セパレータの代表例としては、セルロース(紙)、ポリエチレン、ポリプロピレン等がある。
【0119】
リチウムイオン電池は、メモリー効果が小さく、エネルギー密度が高く、容量が大きい。また、動作電圧が高い。これらのため、小型化及び軽量化が可能である。また、充放電の繰り返しによる劣化が少なく、長期間の使用が可能であり、コスト削減が可能である。
【0120】
次に、蓄電装置としては、キャパシタについて、説明する。キャパシタの代表例としては、二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等がある。
【0121】
キャパシタの場合は、図8に示す二次電池の正極活物質225において、リチウムイオン及び/またはアニオンを可逆的に吸蔵できる材料を用いればよい。正極活物質225の代表例としては、活性炭、導電性高分子、ポリアセン有機半導体(PAS)がある。
【0122】
リチウムイオンキャパシタは、充放電の効率が高く、急速充放電が可能であり、繰り返し利用による寿命も長い。表示パネルは、書き込み電圧が高く、また書込み後は電力を必要としないため、急速放電が可能なリチウムイオンキャパシタを用いることが好ましい。
【0123】
実施の形態1及び実施の形態2に示す負極を用いることで、充放電サイクル特性の悪化が低減された、耐久性の高い蓄電装置を作製することができる。
【0124】
(実施の形態4)
本実施の形態では、実施の形態3で説明した蓄電装置の応用形態について図9を用いて説明する。
【0125】
実施の形態3で説明した蓄電装置は、デジタルカメラやビデオカメラ等のカメラ、携帯電話、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置等の電子機器に用いることができる。また、電気自動車、ハイブリッド自動車、鉄道用電気車両、作業車、カート、車椅子、自転車等の電気推進車両に用いることができる。ここでは、電気推進車両の代表例として車椅子を用いて説明する。
【0126】
図9は電動式の車椅子501の斜視図である。電動式の車椅子501は、使用者が座る座部503、座部503の後方に設けられた背もたれ505、座部503の前の下方に設けられたフットレスト507、座部503の左右に設けられたアームレスト509、背もたれ505の上部後方に設けられたハンドル511を有する。アームレスト509の一方には、車椅子の動作を制御するコントローラ513が設けられる。座部503の下方のフレーム515を介して、座部503前下方には一対の前輪517が設けられ、座部503の後下方には一対の後輪519が設けられる。後輪519は、モータ、ブレーキ、ギア等を有する駆動部521に接続される。座部503の下方には、バッテリー、電力制御部、制御手段等を有する制御部523が設けられる。制御部523は、コントローラ513及び駆動部521と接続しており、使用者によるコントローラ513の操作により、制御部523を介して駆動部521が駆動し、電動式の車椅子501の前進、後進、旋回等の動作及び速度を制御する。
【0127】
実施の形態3で説明した蓄電装置を制御部523のバッテリーに用いることができる。制御部523のバッテリーは、プラグイン技術による外部から電力供給により充電をすることができる。なお、電気推進車両が鉄道用電気車両の場合、架線や導電軌条からの電力供給により充電をすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体上に形成される活物質とを有し、
前記活物質の表面は、{110}面の結晶を有する結晶性半導体膜で形成されていることを特徴とする蓄電装置用電極。
【請求項2】
請求項1において、前記{110}面の結晶を有する結晶性半導体膜は、金属元素を含有する結晶性シリコン膜であることを特徴とする蓄電装置用電極。
【請求項3】
請求項1において、前記{110}面の結晶を有する結晶性半導体膜は、シリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜であることを特徴とする蓄電装置用電極。
【請求項4】
集電体と、
前記集電体上に形成される活物質とを有し、
前記活物質は、前記集電体に接するシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜と、
前記シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜に接する、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜とが積層されていることを特徴とする蓄電装置用電極。
【請求項5】
集電体と、
前記集電体上に形成される活物質とを有し、
前記活物質は、前記集電体に接する、{110}面の結晶を有し、シリコンを主成分とし金属元素及びゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜と、
前記{110}面の結晶を有し、シリコンを主成分とし金属元素及びゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜に接する、{110}面の結晶を有し且つ金属元素を有する結晶性シリコン膜とが積層されていることを特徴とする蓄電装置用電極。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5のいずれか一項において、前記金属元素は、シリコンと反応しシリサイドを形成する金属元素であることを特徴とする蓄電装置用電極。
【請求項7】
請求項6において、前記金属元素は、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル、または白金であることを特徴とする蓄電装置用電極。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項において、前記集電体は、ステンレス、銅、ニッケル、タングステン、またはモリブデンであることを特徴とする蓄電装置用電極の作製方法。
【請求項9】
集電体上にシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜を形成し、
前記シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜に金属元素を添加した後、加熱処理を行って、
{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜を形成することを特徴とする蓄電装置用電極の作製方法。
【請求項10】
集電体上に非晶質半導体膜を形成した後、前記非晶質半導体膜にゲルマニウムを添加して、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜を形成し、
前記シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜に金属元素を添加した後、加熱処理を行って、
{110}面の結晶を有し、且つシリコンを主成分としゲルマニウム及び金属元素を含有する結晶性半導体膜を形成することを特徴とする蓄電装置用電極の作製方法。
【請求項11】
基板上に集電体を形成し、
前記集電体上に、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜を形成し、
前記シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜上に非晶質シリコン膜を形成し、
前記シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜及び前記非晶質シリコン膜に金属元素を添加した後、加熱処理を行って、
{110}面の結晶を有し且つシリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜と、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜とを形成することを特徴とする蓄電装置用電極の作製方法。
【請求項12】
基板上に集電体を形成し、
前記集電体上に、シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜を形成し、
前記シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する非晶質半導体膜上に非晶質シリコン膜を形成した後、前記非晶質シリコン膜にレーザ光を照射して、
シリコンを主成分としゲルマニウムを含有する結晶性半導体膜と、{110}面の結晶を有する結晶性シリコン膜とを形成することを特徴とする蓄電装置用電極の作製方法。
【請求項13】
請求項9乃至請求項11のいずれか一項において、前記金属元素は、シリコンと反応しシリサイドを形成する金属元素であることを特徴とする蓄電装置用電極の作製方法。
【請求項14】
請求項13において、前記金属元素は、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル、または白金であることを特徴とする蓄電装置用電極の作製方法。
【請求項15】
請求項9乃至請求項14のいずれか一項において、前記集電体は、ステンレス、銅、ニッケル、タングステン、またはモリブデンであることを特徴とする蓄電装置用電極の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−238602(P2011−238602A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88835(P2011−88835)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】